奈良教育大学学術リポジトリNEAR
校長のリーダーシップ・イメージに対する校長自身 および教員の意識 ―同一校事例分析をふまえて―
著者 八尾坂 修
雑誌名 奈良教育大学紀要. 人文・社会科学
巻 43
号 1
ページ 95‑106
発行年 1994‑11‑25
その他のタイトル A Study of the Leadership Image of Principal in Japan
URL http://hdl.handle.net/10105/483
校長のリーダーシップ・イメージに対する
校長自身および教員の意識
【 同一校事例分析をふまえて一
人尾坂 修
(奈良教育大学学校経営学教室)
(平成6年4月28日受理)
1.本研究の意図 一先行研究レビューを通して−
(1)問題提起
今日校長のリーダーシップのあり方が学校改善、学校効果を図るために、さらには学校組織に おける個々の教師の行動に影響を与える重要な戦略要因として看過し得ないことは、各種審議会 の答申等においても指摘されているところである。また、学校が直面する様々な教育問題・課題 に対処し得る策として、校内研修・研究会の充実、教職員間の連携、教職員と児童・生徒との一 体感の昂揚等によって学校組織を革新していくことも肝要となろう。
この点、校長のリーダーシップとしての様々な働きかけ・行動が学校組織における教職員、ひ いては児童・生徒の革新的な行動に何らかの効果、あるいは規制をもたらし得る重要な組織関連 要因であると予測される。
ところで、校長のリーダーシップに直接焦点をあてた調査研究はわが国ではこれまでそれほど なされていないり)。しかも日本におけるいずれの研究も概してリーダーシップ研究にあっての金 字塔であるPM理論(2 、あるいは「配慮」と「構造づくり」といった二次元に依拠した標準化さ れた質問碧3〕が広く共有されてきた感がある。
この点、米国における校長のリーダーシップに関する研究を「校長のリーダーシップと学校風 土」および「校長のリーダーシップと教職員のモラール」等に関する研究の視点から、1980年以 降1991年までの博士論文を調べてみただけでも、前者の組織風土との関連の研究は41点、後者の モラールとの関連について15点の研究が存在するのも事実である。
例えば、校長のリーダーシップと組織風土に関する研究に着目すると、次に挙げる2つの研究 は、調査村象、調査方法、調査結果において特異的である。ロジャーズ(DianaR.H.Rogers)の 研究(1981)L4−は、小学校における男性校長と女性校長のリーダーシップと組織風土の関連につい て、教師側による意識の差異が見られるかどうかを研究している。測定用具としてストッグディ ル(R.H.Stogdill)らが組織のトップレベルのリーダーシップを明らかにするため開発した「.)−
ダー行動記述質問用紙12次元様式」(LBDQXII)と、ハルビンとクロフト(A.W.Halpinand D.B.Croft)の開発した「組織風土記述質問紙」(OCDQFormIV)が使用された。調査結果では、
男性校長と女性校長に見られる差異は次の点である。(ヨリーダーシップ行動においては、次元1
(代表;representation)、次元4(説得力;persuasiveness)、次元12(上方指向;superior orientation)について差異がみられる。いずれの次元においても、女性校長の方が男性校長より
も高い数倍を示している。②組織風土においては、次元3(団体精神;esprit)、次元4(親密
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さ;intimaey)、次元5(逆スケール項目の冷淡さ;aloofness)、次元8(配慮;consideration)
において女性校長と男性校長の学校に差異が見られる。いずれの次元も女性校長の学校の方が高 い数値を示している。(彰特に、女性校長とその学校について、女子教員が男子教員よりもリーダー 行動における次元1(代表)、次元4(説得力)、次元5(組織づくり;initiationofstructure)、
組織風土における次元3(団体精神)、次元7(推進力;thrust)等について、より高く自覚し ていることを明らかにしている。
次に、ジーナ(R.C.Ze。nah)の研究(1986年)15 は、アラバマ州における「効果的学校」と「非 効果的学校」(生徒の州学力テストの成績を基準)において校長の教授的リーダーシップ行動に 有意な差異がみられるかを分析している。「効果的学校」において、(∋肯定的な学習風土を促進 する校長の学習指導経営の行動の存在、(参生徒の経済的・社会的生活水準(ランチ・サービスの 無償、または減額の度合)、③校長の研修の度合(校長の資格や免許■学位等)等が決定的要因 であることを明らかにしている。この研究では、「効果的学校」を左右するものとして校長のリー ダーシップ行動、生徒の経済状況とともに、校長の上位免許状取線6 をあげているが、免許資格 と資質向上の関連性7七っいての手がかりを与えていよう。
そこで、本稿では、これまでの先行研究の検討から見出される研究視点を念頭に置きつつ、以 下の2つの点に焦点を絞り、考察する。①同一校における校長自身・教員からみた校長のリーダー シップ・イメージと学校革新風土。②校長のリーダーシップ行動に関わる校長の理念と教員の要 望(自由記述からの分析)。
(2)質問項目の作成・分析視点
校長のリーダーシップ・イメージを測る項目として、ボルマン(LeeG.Bolman)らが開発し た学校指導者・企業経営者層対象のリーダーシップ・イメージ調査項目を、日本の学校事情に適 応しつつ作成した。この質問項目は4つの次元である、「人間性重視」(下位2次元、支援的、参
加的)、「目標達成」(分析的、組織的)、「対処的活動」(強力的、機敏的)、「自己象徴」(鼓舞的、
カリスマ的)から構成される(各次元8項目、計32項目)(8−。
これまでのリーダーシップ行動のアプローチにおいて、PM理論の2次元は対内的、動機的行 動に視点が優先され、代表者として対外的活動を行うといった次元や集団の中で革新的、主導的 な行動をとるといった次元がややもすると無視されてきた。そこで本研究ではこれまでの2次元 の固定的枠組みからリーダーシップ行動に新たな次元を加え、4つの次元構成の質問項目を作成
し、学校指導者の行動を広範な視角から意味ある形で把握しようと試みるものである。
次に、学校革新風土を構成する質問項目として、経験的に次の6項目を選定した。特に構成項 目として教員のみならず、「児童・生徒」、「児童・生徒と教員の関わり」にも着目したのが特徴 である。
①新たな教育課程・制度上の対応への積極的な取り組み。②校内研修会・研究会の盛況。③授 業・指導方法等の改善に向けての熱心な取り組み。④児童・生徒の学習への取り組みの熱心さ。
⑤教職員の助け合う雰囲気。⑥児童・生徒と教職員の一体感。
さらに、調査結果分析の際に、因子分析を用いて、日本の教員・校長が抱いている、校長のリー
ダーシップ・イメージの次元を明確にした。
表1 校長のリーダーシップ・イメージ
質問項目1〜32の因子分析の結果(小・中学校教員N=413名)
回転後の因子負荷量(バリマックス法)
因子 項
目(主 旨)Fl(POLI F2(HUM F3(STRU F4(SYM 名 No. TICAL) ANRESO.) CTURAL) BOLIC)
27.教職員間の協力体制を円滑に推進 0.751 −0.206 0.125 0.165
6 0.693 −0.035 0.243 0.014
対
処 0.654 −0.196 0.215 0.122
的
活 0.583 0.104 0.115 0.143
動
Ⅰ 6.教職員間の信頼と協力関係を築く努力をする −0.265 0.726 0.211 0.043 人 18.個人的悩みに耳を傾け、支援的に対応する −0.224 0.652 0.132 0.212
間 22.教職員のアイデアや意見を聞き受容的態度を取る 0.145 0.643 0.045 0.128
性 28.献身的態度や教育への熱意を教職員へ培う 0.067 0.632 0.321 0.129 重 2.教職員へできるかぎりの援助や配慮をする −0.113 0.576 0.255 0.276
視 26.優れた教職員を積極的に認め、生かすようにする 0.213 0.518 0.187 0.221 21.教職員の役割分担と責任を自覚するように促す 0.176 0.087 0.613 −0.249
Ⅲ
日 0.321 −0.178 0.584 0.156
標 25.学校運営の細部にわたり、注意を払っている 0.223 0.063 0.534 0.034 達
成 0.328 −0.267 0.501 0.178
16.古い伝統や考えにとらわれず、創造的に行動する 0.361 −0.129 0.217 0.613
Ⅳ 0.289 −0.378 0.117 0.598
自 0.246 0.069 0.127 0.524
己 象 徴
1.学校運′削二明確、論理的見解を示す 0.384 −0.213 0.368 0.270
そ 0.246 0.251 0.073 0.149
5,職務運営上の時間厳守を重視している 0.432 −0.255 0.290 0.344 の
10,地域社会や父母との人間関係や要望に配慮する 0.307 0.230 0.192 0.185 他
20.校長先生は、会議等で自分の考えを明確に示す 0.194 0.336 0.268 0.074
国子負荷 9,167 5.246 4.103 3.541
寄与率 21.45 17.35 15.28 14.25
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2.校長のリーダーシップと学校 革新風土に関する同一校にお
ける校長と教員の意識
校長のリーダーシップと学校革新風土につ いて、束京都の中学校1校(A校とする)、
小学校4校(B〜E校とする)を対象として 同一校における校長と他の教職員の意識の差
異を分析した佃。因子分析の結果、抽出され
た4つの次元(対処的活動、人間性重視、目 標達成、自己象徴)における、男性教員、女 性教員、校長の3者の各平均点倍を各学校別 に分析したが、特にA中学校とB/ト学校では、
各次元における校長に対する評定結果におい て最低値と最高値を示しており、他校と違っ た顕著な差異が見られた(表1、2参照、
c−E校は省略)tl00。なにゆえにA中学校とB
表2 校長のリーダーシップ・イメージに 対する評定
A中学校の平均値(教職員14名中、10名回答)
Ⅰ対処的 Ⅱ人間性 Ⅲ目標 Ⅳ自己 学校革新 活動 重視 達成 象徴 風土
男性教員
(N=6)
女性教員
(N=)
校長(男)
B小学校の平均値(教職員16名中、14名回答)
Ⅰ対処的 Ⅱ人間性 m目標 Ⅳ自己 学校革新 活動 重視 達成 象徴 風土 男性教員
(N=6)
女性教員
(N=8)
校長(男)
小学校ではそれぞれ最低値、最高値を示すこ とになったか、その背景を探る手がかりとして、特にA、Bの各学校の事例分析に焦点を当てる
ことにする。分析視点として、第1に、自己評定、他者評定の結果、顕出される校長のリーダー シップと学校革新風土に関する特徴について、第2に、各校の属性、校長の属性について、第3
に、 自由記述から見られる校長のリーダーシップのあり方にかかわる校長と教員双方の意見の比 較、考察を行う。
(り A中学校の特徴(教員14名中10名回答、男子6名、女子4名)
第1にA中学校ではB−E小学校よりも4つのリーダーシ ップ次元、及び学校革新風土におけ る平均値が校長、男子教員、女子教員のいずれの意識においても低い傾向が見られるという点で
ある。第2に女子教員は、校長のリーダーシップ・イメージについて極端に低い評定を下してい る。第3に、校長のリーダーシップ・イメージが低いと学校革新風土も弱まる傾向が見られる。
ここで、A中学校の属性を見ると、学校創立38年、学級総数は3学年全体で6〜11学級である。
次に校長の属性を見ると、男性、年齢55−59歳、教育経験35年以上(校長職3年、教頭職3年含 む、指導主事経験なし)である。また、現在のA中学校での校長としての勤務年数は3年目で あることがらA中学校の校長は次の点を箇条書きに記している。いずれの項目も4つのリーダー シップ行動次元を包含しているようにも見てとれる。
1.校長の人間的魅力。2.校長の人生観(哲学)。3.校長の教育という仕事に対する使 命感・情熱。4.校長自身の研修や人間的向上に対する意欲や姿勢。5.校長の実行力。
(A校長の自由記述より)
しかしながら教員側から見た校長に望むリーダーシップの自由記述を見ると(10名中5名記述)、
特に次の2名の教員の意見は校長に対する痛烈な非難とも読み取れる。また、校長自身が記した リーダーシップに関する理念と相反する意見となっているのである。この教員側の記述からA 中学校長のリーダーシップの評価が低い要因を知ることができる。すなわち、特に人間性重視の 次元における「配慮」、「信頼蓄積」、「人材育成」、自己象徴次元における「革新的試み」といっ た側面が欠落しているとも看取できる。
1.まず、教職員の年齢、性別、役割などで差別するべきでない。2.若い教員が相談に行っ た時、事前に連絡をしておいてもらわなければ困るとか、自分に対して意見されたら生意気 だなどと言うのは情けない!ましてや、どなって机を叩き威嚇するなど言語道断である。3.
常に変化を恐れ、何か問題があっても、解決法を講ずることなしに悪化することばかり心配 し、何も手をうとうとせず、ただただ、生徒の卒業又は自分が無事退職することばかりを望 んでいる。そのようなことなかれ主義は校長にあるまじき思想である。4.学校の中で人の 意見を聞き入れず、校外で反対の意見が主流になれば平気でもともとその考えであったなど と発言するのは、実に信用できない。5.校内では意見が合わず、好かれなくても、せめて 対外的にはある程度認められる存在であってほしい。また、生徒にくらいは好かれてほしい。
(A中学校勤務4年目、女子教員30歳代)
1.学校全体、生徒の雰囲気は的確に把握してほしい。また、教職員が自由に仕事に打ち込 める雰囲気づくりをしてほしい。2.全校朝礼の時など、毎回メモを見て話しているが、明
らかに、生徒・教員からバカにされるような言動は控えてほしい。3.あまり神経質になら ず、立場ばかり気にせず、必要な時に、必要なことをズバリ言う存在であってほしい。
(A中学校勤務1年未満、男子教員20歳代)
(2)B小学校の特徴(教職員16名中14名回答、内訳は男子6人、女子8人)
第1に、B′ト学校では、A中学校の場合と反対の傾向を示している。すなわち4つのリーダー シップ次元、及び学校革新風土における平均値が、男性教員、校長、女子教員のいずれの意識に おいても、A中学校、C〜E小学校の平均値よりも高い。
第2に、校長自身の自己評定よりも男子教員による他者評定の方が平均値が高い傾向を示して いる。この点、一般に、この調査における質問項目のように、ワーディングが管理者行動の肯定 的な表現になっている場合に、管理者の自己評定が他者評定より上回ることはよく観察される事 実である。すなわち、他の学校ではいずれも校長>男子教員>女子教員の順に平均値が低くなっ ていたのである。B/ト学校のように、特に男子教員から高いリーダーシップ・イメージを受けて いる要因を探ることも今後の研究課題である。
第3に、校長のリーダーシップ・イメージが高いと、学校の革新風土が高まる傾向が見られる 点である。このB/ト学校は、他の4つのどこよりも顕著である。
B/ト学校の属性を見ると、創立12年、学級総数6〜11学級である。校長の属性を見ると男性、
年齢51〜54歳、教育経験30〜35年(校長職2年、指導主事10年、教頭経験なし)である。また、
現在のB/ト学校での校長としての勤務年数が2年目であることから、B/ト学校が校長として最
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初の体験である。また、学校は比較的創立が新しいといえる。
校長自身が「リーダーシップ」を発揮する場合、どのようなことを重視しているかの自由記述 において、特に、新たな課題に対し、校長としてのイニシアティブを発揮することにより実行に 移そうとする 革新的指向 が見出される。B/ト学校の校長は次のように記している。
「不易と流行」変えてはならないものと、変えなくてはならないものを喚起している。新し い課題に対し、情報を提供し、村処できるように示唆している。(新しい時代に対応できる
教育の推進の重視)
これに対し、教職員側から見た校長に望むリーダーシップについて記述した者は14名中2名(い ずれも女子教員)にすぎない。しかも2名の記述を見ると、「公平性」、「現状の把握」、「個性的 な指導力」、「教職員の個性を生かす」といったキーワードが目立っているものの、極端に、校長 に対する批評めいた記述は見られなかった。
この点、リーダーシップ・イメージの高い校長は、教職員側の自由記述においても 生の声
(要望)が少ない傾向があるのであろうか。
3.校長のリーダーシップ発揮に関わる校長の理念と教員の要望
(1)校長に見られるリーダーシップ行動の理念
校長自身がリーダーシップを発揮する場合、どのようなことを重視しているか自由に記述して もらった。お願いした記入のスペースはB5の半ページ程度である。分析対象とした千葉市・束 京都3区の87名の公立小・中学校校良川の内、66名が何らかのビジョンを記述してくれた。校長 による記述形式はほとんどが箇条書きであるのが特徴である。
分析の視点を次の2つの角度からとらえた。①自由記述において各校長は先述した4つの次元 のうち、およそいくつかの次元を使っているか、②同様に、各校長はどの次元を使う傾向がみら れるか。分析者の主観を多少ともなうと言えようが、特徴的な点を摘録すると、まず、校長がい
くつかの次元を使っているかにおいては、以下の通りである。
a)校長は1つの次元を一番多く使う傾向が見られる(31人、47%)。しかもこの1つの次元 のなかでとくに人間性重視の次元を特に使っている(16人、52%)。次いで目標達成次元(8人)、
自己象徴次元(4人)、対処的活動(3人)の結果となっている。
b)2つの次元を使う人が続いて多く(28人、42%)、次いで3つの次元(7人)であり、自 由記述の中に4つの次元を校長のリーダーシップ行動の理念として使う校長はだれもいなかった。
次に、校長はどの次元を使う傾向が見られるかについては、各校長が使う各次元の集計結果か らまとめてみると、以下の点が指摘できる。
a)校長のリーダーシップ行動理念においては人間性重視が圧倒的である(74%)。続いて目 標達成次元(48%)、自己象徴(24%)、対処的活動次元は最も少ない(17%)。
b)校長の自己象徴次元における行動を考える際に、校長が記した言葉は 率先垂範 である。
次に、校長がリーダーシップを発揮する際に重視した記述例の中で典型的な例をいくつかのパ
ターンに分類しつつ示してみよう。
(i)「人間性重視」の次元に重きを置いていると考えられる記述例:
1.一人ひとりの立場で考える。2.よく相手の発言に耳を傾ける。3.よい場面をみるよ うに心がける。4.信頼関係をつくるように努力する。5.話やすい雰囲気と人間関係をつ くるように心がける。6.公平に対応する。7.一人ひとりの考えを尊重するようにする。
8.一人ひとりの主体性を考える。 (小学校校長、男性、校長職3年目、教頭職6年)
(ii)「人間性重視」と「対処的活動」の2つの次元に重きを置いていると考えられる記述例:
1.リーダーシップを発揮できる基盤一人間関係・信頼関係一に留意している。2.決断を 速くかつ適切に下すことによってリーダーシップがとれる(効果ある)ようにしている。
(中学校校長、男性、校長職2年日、教頭職4年)
(iii)「人間性重視」と「自己象徴」の2つの次元に重きを置いていると考えられる記述例:
1.先生方は生徒を守って下さい。私は、先生方を守ります。2.連絡、報告、相談があり、
計画的に行われた事故については、校長が責任を取る。3.生徒をわが子と思って、どう指 導したらよいか常日頃心掛けること。4.溢れる愛情と厳しい躾けで意義ある学校生活を。
5.父兄には目先の高校入試のことより、長生きのできる生徒を育てたい。(土曜日は、弁 当持参で教職員全員部活動参加)心豊かな生徒がやがて社会に歓迎される人となる。以上の
ように教師として教育信条を持ち、自ら実践しているつもりです。
(中学校校長、男性、校長職4年目、教頭職2年目)
(2)教師側が望む校長のリーダーシップ行動
教員自身が、普段感じている「校長」に望む「リーダーシップ」とはどのようなものであるか、
自由に記述してもらった。記入のスペースは校長調査と同じである。調査対象となった教員は、
1992年8月千葉市の238名の公立の小・中学校教員であり、そのなかで93名が何らかの意見を述 べてくれた。93名の教員の意見として、校長に望むリーダーシップは、一言で言えば、「教職員 の立場をより理解し、重視することを基盤としたリーダーシップ」である。すなわち、あくまで も教員に焦点を当てた要望となっている。個々の記述から校長に望むリーダーシップの主要な キーワードを拾いあげると次の諸点である。
(∋教職員の関心事への支援的働きかけ、(参学校効果・改善に向けての献身、(卦配慮、④信頼蓄積、
⑤公平性、(む意思決定における参画、(∋模範等である。これらのキーワードは主に、人間性重視 の次元に属していることがわかる。先述した校長自身の意識においても人間性重視次元を多く 使っており、同様の傾向であることがわかる。ただし、教員側の万が一層、人間性重視に重きを 置いている。
それでは、教員側が校長に要望するリーダーシップ行動の記述例を先のキーワードの分類に別
して取り上げることにしよう。
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(i)多面的視点から「信頼感」を望む記述例:
校務における指導力と共に、個人としての人間性、また豊かな経験の持ち主としての包容力 等、多面的に信頼できる人物。そんなところから、自然にリーダーシップが生まれるのでは ないかと思います。リーダーシップは、強いるものでなく、受ける側が信頼感をもつものだ と思います。(蛇足)とかく、飲酒をしないと、親近感がわからないとか、宴会をしないと 同職としてのわだかまりがとれないとかいう教員社会(もしかしたら他の職業にもあるかと おもわれます)の因習が、早く拭いとれないかと望むものです。個性の尊重、学習の選択等 をこどもに教えながら、一番「群れ」の中から脱却できないのは、教師自身なのかもしれま せん。そんなことを管理職の方にも分かっていただければと思います。
(中学校教諭、男性、教職経験15〜20年、40歳代)
(ii)教職員への支援・配慮等、を学校に望む記述例:
1.自校の校長先生は、人づきあいがあまり好きでないようです。何か因っても、話しづら いので、校長先生に相談しようとは思いません。頼りにできるような人柄がまずリーダーシッ プをとれる人かどうかの基本になるのではないかと思います。2.私たちと子どもたちの関 係も同じだと思うのですが、管理しすぎたり、押しつけの意見だけだったりすると、意欲が なくなります。私たちを信用して暖かい目で、見守ってほしいと思います。3.現場から、
はなれすぎず、校長先生を見て、教育の現場を学べるような学校での姿を常に見せてほしい と思います。 (′ト学校数諭、女性、教職経験2年目、20歳代)
(iii)民主的な意思決定、励ましを望む記述例:
・学校内で起きた事故や事件に対し、担任だけを責めることなく大きく受け止めて、全員で 解決して行こうという雰囲気を作りあげてくださる方が望ましいと思います。
・各月の職員会議の際、校内であった善かったことや、直してほしい所を話し、ほめてくだ さったり、悪かった所は、どうしたら良いか全員の意見を聞いてくださったりして職員を1 つにまとめてくださる方が望まれる。(前校の校長先生がそうでした。若い方が多かったので)
(小学校教諭、女性、教職経験15〜20年、30歳代)
(iv)公平性のある職場環境を特に望む記述例:
教職員が働きやすい環境を作り出すことが第一である。一生懸命かげで働く者を見落とし、
教育環境等だけがはなばなしく飾りたてている者をほめるようでは誰もついてこないと思う。
また、自分が過去に行った授業環境等の実践をすぐに自慢し、それを強引に実践させるよう では困る。見ていなくてもしっかりと、全職員の行動をみていて、何かと心配事があっても、
校長先生に相談すれば大丈夫と信頼されているような人が望ましいと思う。
(小学校教諭、女性、教職経験15〜20年、30歳代)
(Ⅴ)学校間題解決への献身を特に望む記述例:
外面の体裁ばかり良くしないで、校内の諸問題にもっと耳を傾け相談にのって欲しい。具体 的には、学校内の教職員の配置で、問題があっても「学年内で解決せよ」と任せっきりにし ている。授業中、生徒が特定教師に反抗、無視している状況があっても気づいていながら、
その特定教師に対する対応が甘い。学年職員で話し合っても解決せず、市の教育委員会に苦 情がいって、ようやく重い腰をあげようとしている(まだあげていないが‥・)。外への 出張ばかり多いためだろうが、もっと校内の問題を真剣に受け止めてもらいたい。
(中学校教諭、男性、教職経験10〜15年、30歳代)
(vi)日本の教職員をめぐる状況(定年制・60歳、女子教員の増加等)について校長に対する要 望の記述例:
定年をその年度末にひかえている校長先生との出会いがここ数年続いている。新任校長の
「リーダーシップを持って」という気力と比較して「何とか平穏に」という気持ちがいつも
感じられて悲しく思う。失敗や配慮に欠けても、意欲に満ちた校長先生と出会いたい(自分 も年を重ね、若い教師からそう思われないよう、いつも気にしている。)
(小学校教諭、女性、教職経験20年以上、40歳代)
小学校勤務であるため特に感じていることだが、男子教員が非常に少ない職場である。その 少ない男子教職員で学校を動かす(運営)することを考えないでいただきたい。「女子職員 の適材適所」を望む。いままでは、男子職員が先頭に立っていてよかったのだろうが、そろ そろ、女子職員の活用を上手にできるリーダーが学校運営に望まれるのではないかと考える。
(小学校教諭、女性、教職経験15〜20年、30歳代)
4.結論と今後の課題
(1)調査結果からみられる結論
同一校ごとの分析における事例研究の結果として、以下の傾向が見られる。第1に、校長のリー ダーシップ・イメージが最も低い学校では、学校の革新風土も一番低い傾向が見られる。これは 校長側、教員側の意識の双方においてみられる特徴である。第2に、校長のリーダーシップ・イ
メージが最も低い学校では、特に女子教員が校長のリーダーシップ・イメージについて極端に低 い評価を下している。この点、自由記述からみても、女子教員が校長に対して「配慮」、「信頼蓄 積」、「人材育成」、「革新的試み」といった側面を特に、切望している事実からも首肯できるので ある。第3に、校長のリーダーシップ・イメージが一 番高い学校では学校の革新風土も一番高い 傾向がみられる。これは、特に、教員側の意識にみられ、男子教員のみならず女子教員について
も同様で、他校に比べ高い評価を下している。第4に、校長のリーダーシップ・イメージについ
ての評定は、概して、校長自身が一番高く、続いて男子教員、女子教員の順となっている。どの
104 八尾坂 修
5つの学校においても、女子教員は校長、男子教員よりも校長のリーダーシップ・ イメージにつ
いて低い評定を下しているのが特徴的である11】 。
次に、自由記述の分析からみられる特徴として次の点が挙げられる。1つは、校長自身4つの
リーダーシ ップ次元のなかで、人間性重視の次元を校長のリーダーシップ行動の理念として一番 重きを置いている点である。続いて、目標達成次元、自己象徴次元、対処的活動次元となってい
る。2つは、教員が校長に望むリーダーシップは、教員側に視点をあてた要望であり、教職員の 立場をよく理解し、重視してほしいといった記述が多くみられる。広義の人間性重視の次元の下
位次元として「支持」、「献身」、「信頼蓄積」、「配慮」、「公平性」、「参画」等といった側面を校長 に望んでいるのである。教員例の意識の方が校長自身の意識よりも一層、人間性重視に重きをお
いていると考えられる。
調査結果をふまえて、校長のリーダーシップ行動のあり方について考えると、より重視される べき次元は、人間性重視の次元であるという点である。このことは、PM理論あるいはHi−Hi型 の命題であるタスク指向と人間指向の両次元の加算的効果ではなく、むしろ両次元の交互作用効 果への示唆を与えてくれるといえる。すなわち、まず、重要なのは人間性重視の次元であり、こ の次元の高低によって、特に目標達成次元、自己象徴次元、村処的行動次元といった校長のリー ダーシ ップ行動、及び学校革新風土に対して教職員が感じる意味合いも異なっているのではない かと考えられる。このことは、観点を変えると、人間性重視の効果が、学校の革新風土や教職員 の苦情の度合いをモデレートすると推察できるのである。
(2)今後の研究課題