インフレ過程に於ける財貨生産についての一考察
その他のタイトル Inflation and Speculative Investment
著者 安田 信一
雑誌名 關西大學經済論集
巻 2
号 4
ページ 57‑76
発行年 1953‑03‑31
URL http://hdl.handle.net/10112/15849
イン
フレ
過程
に於
ける
財貨
生産
につ
いて
の一
考察
︵安
田︶
貨幣がその時間的経過に於て流通するのは貨幣の購買力に対する信頼性にもとづく︒けれども貨幣の購買力︑従つ
と4
する
︒
貨幣はこの一見矛盾するが如き関聯の中に於て流通するのであ
る︒それ故に貨幣の本質を把握せんとするならばこの矛盾するが如き現象を明らかにするを要するであらう︒
インフレーションと去う場合その中には当然物価勝貴の意味が含まれてゐる0換言すれば貨幣の購買力は減少しつ
4あ
る
0然してこの場合経済の実体たる生産と消費︑並に両者間の関係もまた然らざる場合に比し非常に変化する︒
本稿は先づ第一にこの貨幣の購買力が減少過程にある︑インフレ下に於ける生産側面の変化にその対象を限定するこ
凡そィンフ>ーションと去ふも個女具体的なるインフレーションはそれk
\異なりたる特殊事情の下に於て生ず
る︒それ故にインフレーションが生産側面に如何なる影響を及ぽすかを考察するに際してもこれが吟味のためにはこ てその逆数たる物価は現実に於ては日ぷ変動する︒ ︐ ヽ
開
題
ィンフレ過程に於ける
財貨生産についての
安
一考 察
田
五七 信
一般的︑常識的に 一般的事実として去へば消費財生産よ の特殊事情それ自体が分析の対象とならねばならぬ°けれども本稿に於ては特定のインフレ下に於ける生産側面の変化をその対象とするものではなくして︑斯くの如き個々のインフレーションに於ける共通的なる現象として生産側面に如何なる変化が生ずるかを考察せんとするものである︒もとより厳密に去へば特定のインフレ下に於ては例外的なる現象として他の多くのインフレ下に於て生ずる現象と異なりたる場合もあるが︑奴に於ては一般的現象として何が
生産側面に於ける変化と去ふもその意味は可成り広く︑その中には種々のものが含まれ得る︒それ故に薮に於ては
その一部分である各積財貨の生産に於ける変化のみにこれを限定する︒
が︑周知の如くこれを種々なる見地より分ち得る︒けれども本稿の見地よりすればこれを単に資本財と消費財との両
者とすることによりてその目的を達成し得ると考へられるが故に︑財貨をこの両者にのみ分類し︑その生産に於ける
変化のみを考察する︒それではインフレ下に於ける資本財と消費財との生産について如何なる変化が生ずるのであら
うか︒それはもとより個々のインフレーションについては異なるであらうが︑
りも資本財生産が有利になる傾向にある︒このことは一体如何なる理由によるのか︒
インフレーシーヨンとは何か0その意味︑内容は各論者によりて異なり必ずしも明確ではないが︑
去へば貨幣側の原因にもとづく物価勝貴であると一云ひ得るであらう°然して封鎖体系の下にある経済社会を前提とす
るならばこれが具体的原因としては金利の下落と国家の赤字財政とを挙げ得る︒前者の場合それが投資の増加︑郎ち
資本財に対する需要の増加と結びつくが故に︑このインフレーションの当初に於ては資本財生産が増加するは当然で
ある
0また後者の場合に於てもこれによる支出の増加が資本財需要と関係する場合が少くない0斯くの如くにィンフ 生ずるかゞ問題である︒
イン
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財貨
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︵安
田︶
更らにこの場合に於ける財貨の分類である 五八
イン
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財貨
生産
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いて
の一
考察
︵安
田︶
も薮に於て考察せんとするは斯くの如き場合ではない︒
五九 なほこれに反する場合も考へ得る︒例へば国家がその支出増加を消費財に対する需要増加とする場合である︒
一般
的
レーションは一般的に去へば資本財生産が有利となる事情をその原因自体の中に含むと一云ひ得るであらう0けれども
ィンフレーションは右の如くに一般的に去へば資本財生産に有利なる事情をその原因自体の中に含む0けれどもこ
れに反する場合も考へ得る°然し乍ら薮に於ては斯くの如き第一次的原因それ自体を問題とするものではない︒蓋し
奴に於て問題とせんとするィンフレーションとはその第一次的段階でなくして第二次的段階である0換言すればィン
フレーションの第一次的結果として物価勝貴が生ずる︒この物価勝貴との関聯に於て資本財生産と消費財生産との関
係を考察せんとするものである︒もとよりこれに対してなほ次の如き疑問が提出せられるであらう0投資の増加乃至
それに等くべき事情を原因とするィンフレーションはその結果として生ずべき物価勝貴に際しても消費財生産よりも
資本財生産に有利なるが如き事情が作用して来るのではないかと0斯くの如き場合が生ずべきことは当然考えられる
周知の如くィンフレーション下に於て物価は謄貴すると一云ふも︑そのことは各財貨並に生産要素の価格が同一の割
合で勝貴することを意味するものではなく︑その割合が大なるものもあれば小なるものもあり︑またその謄貴率が同
一なりとするも時間的なる不一致があり︑その初期に於て謄貴するものもあれば︑これに遅れるものもある︒それ故
に各財貨︑生産婆素の絶対価格が謄貴するはもとよりであるが︑相対価格も変化する0然してこの場合具体的には如
何なる財貨︑生産要素の価格の騰貴率が大であり︑または小であるか0時間的なる関係に於てそれが初期に於て勝貴
するか︑またはこれに遅れるかは個々のインフレーションが如何なる事情の下に於て生じたかに依存するが︑
に云へば資本財価格の勝貴率は消費財価格のそれより大であり︑またその時間的なる関係に於ても前者が最初に勝貴
る ︒ し︑後者がこれに続く傾向にある従つてインフレーションによる相対価格の変化については消費財生産よりも資本0
財生産に有利に作用する場合が多いと考へられる°更らに加速度原理の作用も資本財生産をより有利ならしむる有力
なる理由である︒其他なほ種女の原因を挙げることを得るであらう0けれども薮に於てはインフレ下に於ける斯くの
如き相対価格の変動︑並に加速度原理等との関聯に於て資本財生産と消費財生産との関係を考察せんとするもので
はなくして︑インフ>下に於ける現実の諸価格の動向とは異なるが︑この諸価格がすべて同一割合にて勝貴︑帥ち相
対価格不変にして︑絶対価格のみ勝貴すると仮定するもなほ消費財生産よりも資本財生産により多くの剌戟を与える
ことを貨幣の特殊性との関係に於て論証せんとするものである0換言すればインフレ下に於ては種天なる原因が作用
して消費財生産よりも資本財生産をより有利ならしむるのであるが︑絶対価格の勝貴それ自体が貨幣の特殊性と関聯
してこのことの一因であることを明きらかにすると
4も
に︑
併せて貨幣の特殊性の一面を間明せんとするのであ
インフレ下に於ては物価は勝貴する︒即ち貨幣の購買力は減少過程にある°然るにも拘はらず悪性インフレの場合
を除けばなほ貨幣は時間的経過に於て流通する︒このことは貨幣が特殊な性質を有することを意味する0然してこの
貨幣の特殊性はこれを穂たなる見地より分析することを要するも︑本稿に於て仮定する如き相対価格不変にして︑絶
対価格のみ勝貴するインフレ下に於て資本財生産を消費財生産よりも有利にする事情と密接に関係する︒本稿はこの
見地より右の問題を考察せんとするのである︒
イン
フと
過程
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ける
財貨
生産
につ
いて
の
1考察︵安田︶
六〇
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考察
︵安
田︶
Ha
ns
en
)は
この
点に
つい
て
事情としては既でに完全雇傭であるとする︒それではこれに必要なる条件は何であるか︒ は一体如何なる状態を意味するのか︒
イ ン フ
> 過 程 に 於 け る 相 対 価 格 不 変 の 意 味
‑'‑ノ
ィンフレーションはその原因に応じてこれを種々に区別することを得るも大別して戦争インフレと景気変動による
( 1 )
景気インフレの両者とすることを得る0然して政に於て問題とするインフレとはこの後者を意味するはもとよりであ
るが︑物価革命を生ぜざる限りに於て後者をも含む︒またインフレーションはその進行状況に応じてこれを多くの段
階に分ち得るが︑薮に於て問題とするインフレーションとは前述せし如くにその第一段階ではなくして第二段階であ
る︒けれどもこの場合インフレの段階を如何に分類するか︑各段階の特質が何であるかを厳密に規定して述べたので
はな
い
0換言すれば薮に於てのインフレの第一段階とは第一次的原因にもとづく物価騰貴の段階を意味し︑第二段階
とはこの物価勝貴それ自体が原因となりて各種財貨の生産︑その相対価格︑絶対価格に種女なる作用を及ぽすべき段
階を去ふ0このことをその反面としての生産力側の事情によりするならば第二段階に於ては第一次的原因にもとづき
て既でに物価が勝貴せる段階なるが故に完全屈傭乃至それに接近してゐると解し得るであらう︒以下に於ては考察の
便宜上完全雇傭にあるとする0それではこの場合に於てその前提たる相対価格不変にして︑絶対価格のみ勝貴すると
現実に生ずるのではないが︑本稿に於けるが如くに相対価格不変にして︑絶対価格のみが勝貴すると仮定するがた
めには第一段階と第二段階との間に斯くの如き状態を生ずべき過渡的段階がなければならぬ︒
二︑
この場合生産力側の
ベント・ハンセン
( B.
( 1
)各企業の生産設備の一定︑
( 2
)各企業者︑各消費者は各財貨の価格が将来に於ても
とな
る︒
産高は
で ︑
Vo 現在の価格と同一であることを予想すること︑
( 3
)各企業者は現行利子率に於てその生産計画遂行のために必要なる
( 2 )
資金を容易に調達し得ること︑を条件とするときそれは次の如くにして生ずると説く︒
彼は問題を単純化するがために先づ第一に商品については一商品のみが︑また生産要素としては一生産要素︑具体
的には労働用役のみが存在すると仮定し︑この場合について考察するのであるが︑この場合に彼は前述の諸仮定に加
へて企業者が多数存在し︑その間に完全雇傭が行はれるものとする︒
w
右の仮定下に於てはその社会の実際生産高ほ労働用役の存在量によりて決定せられるべく︑且つそれはインフレ過
程にあり︑完全雇傭を前提とするが故に常にそれだけは生産せられる︒即ち労働用役の供結量を
Q i
とすれば実際生
Q,
1 1
C o n s t a n t
仮定の如く商品の価格並に賃銀が将来に於ても不変であると各経済主体が予想してゐるとするならばこの場合に於
て各企業者がその生産計画を樹立するに際し考慮するは商品価格と賃銀との比率のみである︒前者を
にて示せば︑各企業︑従つてその合計である一社会の生産計画高
Q o は や の 函 数 で あ る
︒ 郎 ち
Q︒
1 1 P
︵ 竺
p この社会に於ては総生産高は不変なるが故にその総実質所得高もまた不変である°然して│̲は資本家と労働者とw p の間のその分配割合を示し、且つ労働者の限界消費性向は企業者のそれよりも大なるを常とするが故に—ーが高いほw
イン
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の一
考察
︵安
田︶
ノ.
P︑後者を
ィンフレ過程に於ける財貨生産についての
1考察︵安田︶
`ー
︑
p ‑ 5
︐ ー し
A•---
( 百)p 0
B ,‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑
D,
゜ Q., o.:。o:戸
'
ノ
にその第一段階の末期を前提としてゐる︒それ故に各 数でもある︒けれども薮に於てはインフレの場合︑殊 ど︑換言すれば企業者の実質所得高が大なるほど総孵要は減少し︑逆に低いほど︑郁ち労働者の所得高が大なるほど総需要は増加する︒即ち総需要を
D O
にて示せば
Do =
( l )
( ̲ E
̲ )
w
P
︑ ^ ︒
もつとも厳密に一云へば需要は丘lのみの函数でなく総
実物所得︑従つてこの場合について去へば生産高の函
人止業の生産計画高の合計であるこの社会に於ける全生
産計画高は実際の生産可能高を超えねばならぬ︒それ
ではこの場合
5 ̲ ︑生産計画高︑需要高との間には如
何なる関係を生ずるのか0便宜上この三者間の関係が
次の如くであると仮定する︒
ある
︒
イン
フレ
過程
に於
ける
財貨
生産
につ
いて
の一
.考
察︵
安田
︶
右は商品と労働用役との価格比率が二
5)
にあるとき企業者全体の生産計画高は
Q o
需要高は
D O ︑労働の供給
総量は
Q t
なることを示してゐる0それ故にこの場合に於ける商品市場並に労働市場の超過需要高は各夕次の如くで
Do
ー
Ql
11
薔距
‑ n 溢斗が溝頭逼忠躙讃ー回滸濃併岡蚕
11
回泄巌譜潅蚕
Qo
ー
Ql
11
遥専玉熔云泌r
斗 が 譴 溜 讃 ー 国 穿 諮 素
11
回泄鮨哉漉蛋
はこの
Do
ー
Ql
と
Qo
ー
Ql
との関係によりて変動するのであるが︑それはAとBとの間に於て変動するに p
︶ w
とゞまる°蓋し一年が
A点にあるときは商品に対する超過需要
Do
ー
Ql
は零となるも︑労働用役のみが超過需要
にある︒それ故に商品価格は不変なるも賃銀率のみ騰貴すること4
なり
︑
K '
は下落する︒これに対してB点は下のw 限界をなす︒蓋し薮に於ては
Qo
ー
Ql
は零
なる
も︑
Do
ー
Ql
は正なるを以て賃銀率は不変ではあるが︑商品価格は
( 8 )
謄貴するが故である︒
^ンセンは右の状態を以て准均衡
(q ua si
, e g
J i
b ri
日 n )
と称する︒郁ち政に於てはKーはその変動が一定の範囲内に限w 定せられてゐるが故である0けれどもそれは完全なる均衡ではない°蓋しそれは一定の限定せられたる範囲に於てゞ
( 4 )
はあるがKーは変動するのみでなく︑商品価格と賃銀とは超過需要のため絶えず騰貴するが故である︒w
右は考察の便宜上一商品と一生産要素のみが存在する場合を仮定したのであるが︑斯くの如き関係は両者が存在す
る場合にのみ限定せられるのではなく︑多数の財貨︑生産要素が存在する場合に於てこの全財貨︑生産要素の間に同
様の関係があることを容易に推定し得るであらう0更らにまたこれらの財貨︑生産要素の価格相互が一定の範囲に於
てのみではなく︑その極限的なる場合として不変なる一定比率を維持して騰貴し得べき場合を考へることが出来るで
六四
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の一
考察
︵安
田︶
企業活動と計算貨幣
相対価格不変にして絶対価格のみ勝貴する状態が持続する場合に於て各企業者は如何に行動するのであるか︒この
ことの意味を明らかにするがためにはその前提として企業活動と計算単位としての貨幣との関係を考察しなければな
周知の如く今日の経済社会に於ては各企業はそれが悪性インフレの段階に非らざる限りその経済活動の犠牲と成果
らな
い︒
一 ︑
(3
)
( 4 ) ( 5 )
註
( 1 ) ( 2 )
六五
u5 )
あらう°相対価格不変にして絶対価格のみ勝貴する場合とは郎ち斯くの如き場合を意味する°然してこの場合に於て
は当然各企業の利潤率は同一でなければならぬ0換言すれば如何なる種類の財貨を生産するも各企業の有利性は同一
でなければならぬ︒以下に於ては斯くの如き状態が持続する場合各種財貨の生産に如何なる変化が生ずるかを考察す
るのであるがこれがためには既述の如く財貨を資本財と消費財との両者に大別する°換言すれば資本財価格と消費財
価格とは同一割合にて勝貴し︑且つ両部門に於ける利潤率は同一なりとする︒それではこの場合両者の生産に如何な
一 谷 藤 一 郎 変 動 期 の 金 融 理 論 昭 和 二 十 六 年
1一 頁
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( 3 )
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てゐないがこの場合当然前提とせられねばならならないど考へ筆者が附加したのである︒
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pp . 19 9‑ 20 3
る変化が生ずるであろうか︒
10
︒^1セントより生ぜざりし場合には如何゜
は罪即ち約九︒^
1
セント減少してゐるが︑
と称せられてゐる︒このことはその逆の過程郎ち物価下落の時期を問題とするならば直ちに明瞭となるであらう︒
例へば物価が二0︒^1セント下落せるのに貨幣損失が一0︒^1セントに過ぎざる場合はその実物財貨に対する支配力
ょg
郎ちII
^1セント以上増加せるにも拘はらず︑なほ且つ企業が一•
o・
^1
セント以上の損失を招来したる
( 1 )
ig )
ことは何人によりても否定せられ得ないであらう︒
査 奮
1義社会に於ける企業の目的を以て利澗の追求にあるとするも︑この場合に於ての意味するところの利潤とは
貨幣を以てその経済活動の犠牲と成果との計算単位とすることより明きらかな如くに貨幣利潤である︒それ故に企業
者はこの貨幣利潤の可能なる限りの極大を求めてその経済活動を営むのである︒ケインズはこの点について﹁われ
われは貯蓄を民間の投資家にゆだね︑彼がその貯蓄を主として貨幣的請求権に投ずるように奨めている︒また生産
活動推進の責任を事業家にゆだねている︒彼は主に貨幣の形で手に入ると期待してゐる利澗によって左右されてい
( 2 )
るのだ﹂と述べて企業の目的が貨幣利潤の追求にあることを明確にしてゐる︒それではこのことは企業の経済活動上 る°けれども物価が変化せし場合には如何゜ とを比較する基準として貨幣を使用する°換言すれば企業は貨幣を単位として経済活動の犠牲と成果とを計算するのである0従つてその結果として示される利潤も貨幣にて示されたる利澗郎ち貨幣利澗となる°然し乍らこのことにつ
いては当然疑問を生ぜざるを得ない︒帥ちこの経済活動の期間中に於て物価が不変であるならば貨幣利潤の発生は企
業者にとりてそれだけ実物財貨の支配力を増大したこと4なり︑実物的意味に於ても利澗が発生せることを意味す
例へば物価がこの期間に於て二
0' (1
セント勝貴したるも貨幣利潤が
貨幣の購買力柳ち実物財貨に対する支配力を基準とするならばそれ
なほ且つ一般的にはこの場合に於て一
o ・
^1セントの利潤が生じた
ィン
フレ
過程
に於
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生産
につ
いて
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︵安
田︶
六六
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過程
に於
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につ
いて
の一
考察
︵安
田︶
あるが︑なほ検討の余地があるのではなからうか︒ に於て具体的には一体如何なることを意味してゐるのであろうか︒
六七 企業に於ては右の如くにその経済活動の犠牲と成果とを測定する基準として貨幣が使用せられ︑貨幣利潤が追求の
対象となつてゐる︒このことは換言すれば企業者にとりては各財貨︑生産要素の相対価格のみではなく︑それらの絶
対価格も同様に重要性を有し︑前者に関する予想のみではなく︑後者に関する予想をも基礎としてその生産計画を樹
立することを意味する°然して前述せし如くに相対価格不変にして絶対価格のみが謄貴する状態を持続するならばこ
のことは当然企業者の財貨︑生産要素に関する絶対価格の予想にも影響せざるを得ない︒郎ち前述せる仮定の如き膀
来価格不変の予想を変更し︑企業者をしてその勝貴を期待せしむること4なり︑これがその経済活動に反映する︒
右に於て相対価格不変と一云ふことの中には利子率の不変をも含む0然るに絶対価格が勝貴し︑且つ企業者がこれを
予想するとするならばゥィクセル
( K .
Wi ck se ll )
が説く如くにこのことは企業者に生産拡張への剌戦を与えるであら
( 3 )
う︒この関聯に於て問題となるのはミルダル
( G.
My
rd
al
の見解である︒郡ちミルダルは彼の見解によればウイクセ)
ルがその均衡の第三条件としてゐる物価の安定を排除して均衡の樹立乃至維持のために重要なのは物価水準の不変と
去ふことではなくして︑それが変動するも差支えなく︑問題はその将来の価格に関する予想をも含む各財貨︑生産要
( 4 )
素︑資金の相対価格にあり︑これが一定の関係にあるか否かであるとしてゐる︒このミルダルの見解は一応正当では
凡そミルダルの立場に於ては均衡より出発する限り物価水準が如何に勝貴するも相対価格が不変である限りこれが
攪乱せられることはないと去ふ0この場合に於てこの相対価格不変と一云ふことの中には金利の不変をも含む°然して
企業者活動が財貨の生産︑販売に限定せられる限りに於てはこのミルダルの見解は正当である︒けれども企業者活動
いて考察すること4
する
︒
はそれが本来的ではあるが︑必ずしもこれに止まることはなく︑殊に物価勝貴に際してはこれが企業者によりて予想
せられる限り︑企業者としてはこれを利用して利潤を追求するがための活動即ち財貨に対する投機が行はれる0
ミル
ダルはこの点について十分なる考慮を払つてゐたであらうか︒
ミルダルは企業者の経済活動決定上に於て右によりても明きらかな如くに相対価格の重要性は否定してゐないが︑
(5 )
絶対価格が重要な役割を営むことを認めてゐるのである°然してこの立場よりするならば物価勝貴が予想せられる場
合に於てはこの物価謄貴率と金利並にそれに伴なふ諸費用との関係によりて財貨に対する投機が当然考慮せられなけ
ればならないであらう0然してこれが考慮せられるとするならばミルダルの説くが如くに相対価格不変にして絶対価
格のみが勝貴すると予想せられる場合均衡は攪乱せられることなしと去ひ得るか否か疑問であらう︒以下この点につ
前節に於て述べた如くに相対価格不変にして絶対価格のみ勝貴すると仮定し︑且つ各企業の収益率が同一なりtす
る︒この場合金利がこの収益率と同一なりとすればミルダルの立場に於ては経済は均衡にあると一云ひ得るであらうc
然し乍らこの場合重要なのはこの物価の勝貴率と金利並に投機に伴なふ諸費用との関係である︒郎ちこの場合各企
業者が経常的生産にのみ従事するときは均衡は攪乱せられることはないが︑物価の勝貴率︑厳密に去へば各企業者の
これに関する予想勝貴率と金利等との間に右の如き関係がある限り企業者としては財貨についての投機を行ふを有利
とすべく︑且つ利澗追求に関するその性格上これに従事すると考へられる︒奴に於て財貨についての投機とはその価
格勝貴を利用して利潤を獲得する目的を以て行ふところの財貨保有を意味する︒それ故にそれは一種の投資である︒
然してミルダルによれば貨幣的均衡の基本条件は彼が解するところのウイクセルの第二条件である投資と貯蓄の一致
イン
フと
過程
に於
ける
財貨
生産
につ
いて
の一
考察
︵安
田︶
六八
`
( 6 )
であるが︑この場合に於ては投資高が貯蓄高を超過すること4なり︑均衡は攪乱せられること4なる︒それでは何故
凡そ投資と一云ふもそれは国家投資を除外し︑企業者活動を中心として考察する場合に於てもそれは二の原因により
て生ずる︒郁ちその第一は予想収益率と金利との関係にして︑これによる投資を正常的投資と称し得るであらう︒こ
(7)~
れに対し第二の投資は投機的投資とも一云ひ得るものにして︑前述せしは︸jの投資である︒.然して物価の勝貴率が大な
る場合に於てはこの両穐の投資を考慮するとその場合に必要とせらるべき均衡利子率は従来の利子率と異なる︒即ち
利子率不変と一云ふ前提を変えねばならぬ0ミルダルがウイクセルの均衡の第三条件である物価安定を排除して物価が
如何に変動するも利子率の不変をも含む相対価格が不変である限り均衡が攪乱せられないと考へたのは彼が右の正常
的投資のみを考察し︑投機的投資を無視したことによるものと去ふも大過ないであらう︒
六九 相対価格不変にして絶対価格のみが勝貴し︑且つ各企業者がこれを予想するとするも︑そのすべての場合に於て投
機的投資が行はれるのではない︒それではそれは如何なる場合であるか0それは去ふまでもなく物価の予想謄貴率が
金利並に財貨保蔵に伴なふ予想費用を超ゆる場合でなければならぬ0例へば物価が一年間に二
0 ' ( ‑
セント勝貴する
と予想せられる場合に於ては金利を六パーセントとすれば保管費用は一四︒^1セント以下であることを要する°然し
てこの期間中に物価が︑従って前提によつて保管費用をも含む各財貨︑生産要素の絶対価格が同一率にて勝質すると
10 0
+ 200
す れ ば
︑ そ の 保 管 費 用 は 現 在 の 保 管 費 用 の 倍
︑ 郁 ち 一
・ 五 倍 と な る が 故 に
︑ 現 在 の 保 管 費 用 は 九
・ 三 乃 至
2 8
九•四バーセント以下である場合に於てのみこの投機的投資が可能となるのである。
本稿は前述せし如くに相対価格不変にして絶対価格のみ勝貴すると去ふ仮定の下に於て資本財生産と消費財生産と
イン
フレ
過程
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ける
財貨
生産
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いて
の一
考察
︵安
田︶
に斯くの如き結果が生じたのであるか︒
の関係を考察するを目的とするのである°然し乍らこれを更らに正確に規定するならば物価勝貴率大にして右の如き
授機的投資が行はれる場合のそれである0然してこの場合に於ては企業者がこの種投資のために必要なる資金を従来
の金利にて調逹し得ることを当然前提とせるも︑資本財の償却資金もその一部分となる°換言すれば資本財の償却よ
り生ずる資金は必ずしもそのま4従来の固定資本設備である償却資本財に再投資せられることはなく︑投機的見地よ
り再考慮せられ︑最も有利なりと考へられる財貨に投資せられるのである0従ってこの両者が異なる場合が当然存す
べく︑この場合には前者に対する需要の減少︑後者の増加となる︒それでは右の如き仮定の下に於てこの投機的投資
の対象となる財貨は何であるか︒
各財貨の価格の勝貴率がそれk\異なると各企業者によりて予想せられる場合に於てはその価格の予想勝貴率と保
管費用率との差の最も大なる財貨が投機的投資の対象とせられるであらう0けれども萩に於ては各財貨の相対価格を
不変とし︑絶対価格のみ騰貴する場合に於ける各企業者の予想である°然してこの場合各企業者が諸財貨の価格勝貴
率が従来の物価勝貴の場合と同様に将来に於ける諸財貨の価格勝貴の予想に際してそれらが同一割合で謄貴すると予
想すべき必然的理由はないが︑斯く仮定することは論理的にはなんら差支えなきが故に斯くの如き場合を考へること
にする︒それではこの仮定の下に於ては如何なる財貨が投機的投資の対象となるのか0それは一云ふまでもなく保管費
用率の最も小なる財貨であることを意味する0本稿に於ては既述せし如くに財貨を大別して資本財と消養財とするが
故に︑薮に於てはそれは具体的には資本財か消費財かと去ふこと4
なる
︒
資本財並に消費財と去ふももとよりその間に種々なる財貨があり︑これらの財貨はその性質を異にするが故にこれ や否やO 郁ちそれは資本財であるか消費財であるか︒またはその両者の有利性は同一なり
イン
フレ
過程
に於
ける
財貨
生産
につ
いて
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1考察︵安田︶
七〇
イン
フレ
過程
に於
ける
財貨
生産
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いて
の一
考察
.︵
安田
︶
七
に応じてその保管費用率も相違することが考へられる°然し乍ら一.般的に去へば第一に査本財は消費財に比し長期固
定的なる性質を有するが故に︑消費財に於けるが如くにこれが保管費用を特に要せざるを以て消費財に比すればその
保管費用率は著るしく小なるべきことが考へられる0殊に資本財の場合に於ては︑例へば生産設備等にありてはこれ
が建設期間は長期にわたるを以て積極的な意味に於ての保管費用を要せざるのみでなく︑これが零となるべき場合さ
ヘ予想せられるのである︒
第二に一定種類の消費財貨にありてはその需要が一定の時間的限定を有する場合が少くない0例へば趣味︑嗜好の
対象となる財貨はその典型であるが︑なほ其他の消費財貨にありてもその程度に相違はあるが斯くの如き性質を有す
る︒もつとも消費財の中にても経常的消費の対象となる財貨には比較的長期保蔵が可能なる財貨があるも︑この場合
に於ては品質の低下は避け得ず︑殊にそれが長期間にわたればわたるほど品質の累積的低下を招来するであらう0も
とよりこの場合に於て特別の費用を支出すればこれが可能なりと考へられるも︑これがための支出は決して軽視し得
ざるべく︑殊に斯くの如き保蔵が大規模に行はれるときはその保蔵設備の面にも制約があり︑これが限界に到達する
と考へられる
o ̲ これに対し資本財の場合にありては消費財の場合に於けると異なりそれは需要と直接に関係せざるを
以てその時間的制約を考慮する必要はなく︑またそれは本来的に長期︑固定的なる性質を有するが故にその品質低下
による価値の減損もない︒
右の如き理由により仮令資本財と消費財の価格が同一の割合にて謄貴すると各企業者が予想し︑且つこの予想騰貴
率が投機的投資を可能ならしむる程度に大なるときはその対象として資本財が消費財よりもより滴当し︑且つより多
<需要せられる︒
ウィクセル以後スウェーデンに於ては風天彼の累積的過程
(c um ul at iv e pr oc es s)
がリンダァル
(E . Li nd ah l)
︑ミ
ルダ
ル等によりて説かれる︒リンダァルによればその要旨は大体次の如くである︒
完全屈傭を前提とする︒この場合に消費財価格がなんらかの原因によって謄貴し︑且つこの価格が牌来も持続する
と予想せられる場合にはその結果として資本財の予想収益率が上昇するが故にその価格騰貴に導く0然して後者は資
本財に対する需要の増加となるが︑完全雇傭を前提とするが故に︑これに応じてその生産を増加するがためには必要
なる生産諸要素を消費財部門のそれに求めざるを得ない︒卸ち現存価格に於ての生産諸要素に対する超過需要となる
が故にその価格の勝貴となる°換言すれば賃銀等の価格勝貴となり︑人女の所得は増加すべく︑それは更らに消費財
( 8 )
に対する需要増加←その価格勝貴←資本財価格の勝貴となり︑これが累積的に進行する︒
右の累積的過程を通して問題となるのは資本財と消費財の何れがより多<生産せられるかと一kふことでぁるo
先づ
第一にその当初に於て消費財価格が勝貴するも完全雇傭を前提とするが故にこれに応じて生産を増加すること不可能
なるが故に︑それは必ずしも当該部門に於ける生産諸要素に対する需要の増加となることなく︑これに対する生産規
蕩拡大のために︑具体的にはその予想収益率増大のために安本財に対する需要の増加となるであらう0然してこのこ
とは生産諸要素の移動を通して資本財生産部門の拡張︑消費財部門の生産縮少となり︑それは生産諸要素に対する需
要の増加と消費財生産の縮少によりて消費財の価格を更らに騰貴に導く°けれどもこの場合に於て消費財生産が拡張
し得る限度は生産設備の関係より前段階に於て資本財部門に移動せる生産諸要素を再び移動せしめ得る程度なるが故
( 9 )
にそれは更らに生産規模の拡大を求めること4なり︑資本財に対する需要は増加する︒
前述せるが如くに累積的過程を通しても物価勝貴の段階に於ては資本財生産が消費財生産よりも有利となる°然し
イン
フレ
過程
に於
ける
財貨
生産
につ
いて
の
1考察︵安田︶
七
て斯くの如き累積的過程が作用することはこれを十分に認めるものである0けれども政に於て強調せんとすることは 斯くの如き累積的過程の作用と
4もに財貨の保有によりて直接的に価格差を求める投機的投資が行はれることにし
て︑且つこの投機的投資の対象としては消費財よりも資本財がより多く適当してゐると一云ふことにある0然して前述
のウイクセルの第三条件に関するミルダルの見解についての批判はこれより生じたのであった︒それでは何故に斯<
の如き投機的投資が行はれるのか0貨幣の特殊性との関聯に於てこれを次節に於て考察すること4
する
︒
註
( 1 ) ( 2 )
インフレ過程に於ける財貨生産についての
1考察︵安田︶
四
︑ イ ン フ レ 下 に 於 け る 財 貨 生 産 と 貨 幣 の 特 殊 性
七
こ の 点 に つ い て は 詳 細 は 拙 著 貨 幣 本 質 論 序 翫 第 二 章 第 二 節 昭 和 二 十 六 年 参 照
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原一ーー代平︑宮沢健一訳ケインズ革命昭和二十七年九頁に引用せられ︑且つそ
の引用文の訳は前記篠原︑宮沢両氏の訳本による︶︒
( 3 )
ク ヌ ー ト
・ ヴ キ ク セ ル 著 豊 崎 稔 訳 金 利 と 物 価 昭 和 十 二 年
1七0
ー 一 頁
( 4 )
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( 5 )
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訳 本 六 六 頁
( 6 )
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( 7 )
この用語につい
( 8 )
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( 9 )
この累積的過程については`︑ルダルに於ても説明があり︑この説明に際してはそれを参考とせじ点少くない
( G .
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2.
4‑ 28 ,
訳本二九ー詈一頁︶︒
インフ>下に於ける財貨生産について何故に右の如き特殊なる現象が生じたのであるか︒去ふまでもなくインフレ
それ自体が貨幣経済に特有なる現象にして貨幣が存せざる経済に於ては生じない︒それ故に前述の加き現象が生ずる