Ⅰ はじめに
Ⅱ 米国発行体によりIFRSに準拠して作成される財務諸表の利用へ向けての ロードマップ(2008年11月)
Ⅲ コンバージェンスおよびグローバル会計基準を支持する委員会声明と ワーク・プラン(2010年2月)
Ⅳ ワーク・プランの展開
⑴ ワークプラン・プログレスレポート(2010年10月)
⑵ スタッフ・ペーパー:組み込み方法の研究(2011年5月)
(以上、前号・第46巻1号)
⑶ 組み込みに関する2つのスタッフ・ペーパー:「U.S.GAAPとIFRSとの 比較」・「実務におけるIFRSの分析」(2011年11月)
⑷ スタッフによる最終報告書(2012年7月)
Ⅳ むすび
(以上、本号・第46巻2号)
米国における IFRS の アドプションの動向(2)
榊 原 英 夫
⑶ 組み込みに関する2つのスタッフ・ペーパー(2011年11月)
SECスタッフは、2011年11月16日に、組み込みに関する2つのスタッフ・
ペーパー、①「U.S.GAAPとIFRSとの比較(文献[3])」(以下、「U.S.GAAPと の比較」と略称する)と②「実務におけるIFRSの分析(文献[4])」(以下、「IFRS の分析」と略称する)を公表した。「U.S.GAAPとの比較」は、IFRSとU.S.GAAP との差異を明らかにしている。また、「IFRSの分析」は、いくつかのグローバ ル企業によるIFRSの適用実態を明らかにしている。以下において、「U.S.GAAP との比較」と「IFRSの分析」について説明する。
1)U.S.GAAPとIFRSとの比較
「U.S.GAAPとの比較」([3],p.2)によれば、スタッフが比較アプローチを用い た目的は、米国発行体に対する財務情報システムにIFRSを組み込むために満 たさなければならない最低限の開発水準を確立するというより、IFRSの評価 をする状況を提供することにあると説明されている。また、スタッフは、次の 2つの理由により、比較の基準点として現行のU.S.GAAPを利用したと説明さ れている。
① U.S.GAAPは、現在米国発行体に適用されている一連の基準であり、投 資家がそれに基づいて米国発行体の財務諸表の分析を調整することが要 求される一連の基準である。
② IFRSの会計規定は、十分に高品質であると推定できるので、U.S.GAAPは、
IFRSが現在のU.S.GAAPと同一であるか、または類似の会計規定を有し
ている分野についてのスタッフによる検討を最小限にとどめることがで きる。
以下、この「U.S.GAAPとの比較」における(ⅰ)分析対象と(ⅱ)分析結 果を明らかにする。
(ⅰ)分析対象
「U.S.GAAPとの比較」([3],pp.2-3)によれば、スタッフは、U.S.GAAPの会計 規定をレビューし、それらの規定とそれに相当するIFRSの規定を比較するさ
いに、MoUにおけるFASBとIASBによる共同の基準設定プロジェクトか、両 審議会による他の取り組みのいずれかによる、継続的な共同の基準設定の取り 組みに属するU.S.GAAPの規定およびそれ相当するIFRSの規定をそのレビュー から除外している1)。 つまり、スタッフは、継続的な共同プロジェクトに 属するU.S.GAAPとIFRSの分野を除外したうえで、U.S.GAAP会計基準編纂 集(Accounting Standards Codification-以下、ASCと略称する)における残り のトピックに相当するIFRSの規定を分析している。また、分析対象とされる ASCトピックとIFRSは、一般的には、完成し、分析時における権威ある会計 ガイダンスの各体系に組み込まれた規定である。具体的には、2010年6月30 日までに完成したU.S.GAAPと2010年1月1日までに完成したIFRSが分析対 象とされている。
なお、「U.S.GAAPとの比較」([3],p.11)によれば、会計規定についての分析は、
ASCのトピック別のレベルでの内容に従って整理されている。ただし、上述 したようにMoUに属するASCトピックスは、除外されている。したがって、
この分析は、ASCのトピックス250(「会計方針の変更と誤謬の訂正」)からト ピックス855(「後発事象」)までの29のトピックスを対象としている。
下記の表([3],pp.11-50)は、SECスタッフがU.S.GAAP(29のASCトピック)
とIFRSを比較した要約表である。
表29のASCトピックスについてU.S.GAAPとIFRSを比較した要約表 (1)会計方針の変更および誤謬の訂正
IAS8とASC250はともに、会計方針の変更、誤謬の訂正および見積りの変更に
関する指針を規定している。2つの基準の差異には、①重要性の評価に関する指針
(IFRSの指針は、重要な脱漏の定義に限定されている)、②誤謬の訂正(U.S.GAAP は、誤謬を訂正するために過去に発行された過年度の財務諸表の訂正・再発行を 要求しているが、IFRSはそれを要求していない)、③実務上の例外規定(IFRSは、
一定の条件で、過年度の訂正を完全に遡及して訂正することに対する実務上の例 外を規定しているが、U.S.GAAPは、例外なく、重要な誤謬の数量化および再表示 を要求している)、④財政状態計算書の遡及表示(IFRSは、3年分の財政状態計算 書の遡及表示を規定しているが、U.S.GAAPには類似の要求はない)などに関連す る要求が含まれている。
(2)1株あたり利益
IAS 33とASC 260には、「1株あたり利益」の計算に関する全般的に類似の要求
事項が含まれている。2つの基準の差異には、①希薄化した「1株あたり利益」の ための累計期間株式数の計算、②複数の決済選択肢を有する商品、③転換可能商 品および2クラス法、④金庫株法適用上の税効果、⑤1株あたりキャッシュ・フロー の表示などに関連する要求事項が含まれている。
(3)中間財務報告
IAS34とASC270はともに、中間財務報告が(たとえば、規制機関によって)要
求される状況または企業が中間財務報告の実施を選択した状況に関する指針を規 定している。両基準とも、年度財務諸表を作成するさいに利用されるのと同一の 会計原則に基づくことを一般的に要求している。しかしながら、中間報告期間に 関する考え方に差異がある。IAS34は、中間報告期間を独立の期間と考える一方、
ASC270は、中間報告期間を年度の一部であると考えている。2つの基準の差異には、
①コストの配分、②誤謬の訂正のための重要性評価、③第4四半期の活動などに 関連する要求事項が含まれている。
(4)リスクと不確実性
IAS1およびASC275はともに、一定のリスクと不確実性に関する開示を規定し
ている。両規準における原則は、概ね類似しているけれども、ASC275は、IAS 1 において要求されていない一定の集中に関するエクスポージャー(たとえば、顧 客や供給資源に関する一定の集中による脆弱性)の開示を要求している。
(5)セグメント報告
IFRS8とASC280によるセグメント報告に関するほとんどの開示要求事項は、一
致している。しかしながら、U.S.GAAPは、明示的な指針を含んでいるが、IFRSは、
個別の指針を規定せずに、核となる開示原則を規定している。2つの基準の差異に は、①マトリックス形式の組織構造や②オペレイティング・セグメントの決定お よび統合などに関連する要求事項が含まれている。
(6)現金および現金同等物
IAS7とASC305によれば、現金同等物は同じように定義されている。しかしな
がら、IAS7は、ASC305と比較してより規範性の弱い方法によるいくつかの要求を 提示している。したがって、マネー・マーケット・ファンドなどのようなある種 の商品が、IFRSのもとでは現金同等物とみなされない場合がある。また、満期ま で3ヶ月を超えるある種の投資が、IFRSのもとでは現金同等物とみなされる場合 がある。
(7)その他の投資
IFRS 11、IAS28およびASC323は、持分法適用投資やジョイント・ベンチャーに 関する会計を扱っている。IFRSおよびU.S.GAAPによる持分法に関する全般的な 要求事項は類似している。しかしながら 、2つの基準の差異には、①持分法により 会計処理される投資の範囲、②報告期間の差異、③投資企業と投資先の会計方針 の差異、④重要な影響力の決定、⑤所有持分や影響力の増加、⑥重要な影響力の 喪失に係る会計処理、⑦投資先の追加的な損失の認識などに関連する要求事項が 含まれている。
(8)棚卸資産
IAS2 およびASC330によれば、棚卸資産は、当初認識時には取得原価により記
録され、当初認識後には、時価を参照して減損テストが実施される。2つの基準の 差異には、①容認可能な評価方法(たとえば、U.S.GAAPは後入先出法を容認して いるが、IFRSはそれを容認していない)、②減損の計算、③減損の戻し入れの認識、
④農業活動から生じる棚卸資産会計などに関連する要求事項が含まれている。
(9)その他の資産および繰延コスト
ASC340は、ASCの他のトッピクスで扱っていない一定の資産およびコスト(た
とえば、資産計上された広告費)に関する会計処理および報告を要求している。
IFRSには、これに相当する特定の基準はないが、類似の要求事項が一般的な基準 に含まれている。また、U.S.GAAPは、料金規制事業などの特定の分野における産 業別指針を規定している。
(10)無形資産
IAS38およびASC350によれば、取得した無形資産については当初資産化が要求
され、ほとんどの自己創設無形資産についてはその認識が禁止されている。2つの 基準の差異には、①のれんの配賦アプローチ(IFRSによれば、のれんは減損テス ト目的のために現金生成単位に配賦されるが、U.S.GAAPによれば、のれんは報告 単位に配賦される)②減損テスト(IAS36によれば、一段階減損テストが適用され、
U.S.GAAPによれば、二段階減損テストが適用される)などに関連する要求事項が
含まれている。
(11)有形固定資産
IAS16およびASC360によれば 、 有形固定資産は原価基準により当初資産計上さ
れ、その後減価償却される。また、減損の兆候がある場合、減損テストが実施される。
IAS16およびASC360の原則は、概ね一致している。2つの基準の差異には、①複
数の資産から構成されている資産についての減価償却、②有形固定資産の残存価 額の再評価、③再評価モデルの選択肢、③減損会計、④投資資産の会計などに関 連する要求事項が含まれている。
(12)負債
IAS39、ASC405およびIFRIC19はともに、負債の消滅に関して概ね一致した会
計指針を規定している。しかしながら 、ASC405は、負債の消滅に関する適用指針
(たとえば、実質デファーザンス取引)を含んでいるが、IAS 39は、それに相当す る適用指針を含んでいない。
(13)資産除去債務および環境債務
IFRSのもとで、資産除去債務および環境債務は、IAS37とIFRIC1における一般 的な原則に準拠して会計処理される。U.S.GAAPは、ASC410において資産除去債 務および環境債務に関する特定のモデルを規定している。資産除去債務に関する 基準の差異には、①認識、②当初および事後的測定、③開示などに関連する要求 が含まれている。また、環境債務に関する基準の差異には、環境債務の認識にお ける「可能性が高い(probable)」の定義に関連する要求事項が含まれている。
(14)撤退または処分コストに関する負債
IAS19、IAS37およびASC420が、撤退または処分(リストラクチャリング)コ
ストに関する負債の会計を取り扱っている。2つの基準の差異は、IAS19および
IAS37における範囲のほうが、ASC420より広範である点にある 。 また、その差異は、
IFRSが、リストラクチャリング計画全体に焦点を当てている一方で、U.S.GAAPが、
リストラクチャリング計画の各個別要素の評価に焦点を当てている点にある。
(15)コミットメント
IFRSおよびU.S.GAAPによれば 、 現存するアレンジメントによって生じる一定
の将来キャッシュ・フローについての理解を利用者に提供するために、一定のタ イプのコミットメントに関する開示要求事項が規定されている。IFRSのもとでは、
そのようなコミットメントに関する開示要求は、基礎にある取引を処理する基準 に含まれている。一方、U.S.GAAPの開示要求は、ASC440において規定されている。
また、U.S.GAAPには特定の業種別指針が存在する。
(16)偶発債務
IAS37お よ びASC450に よ れ ば 、 将 来 の 経 済 的 資 源 の 流 出 の 可 能 性 が 高 い
(probable)場合に、偶発損失を記録することが要求されている。しかしながら 、
「可能性が高い(probable)」という用語に関する定義が両基準の間で異なってい る。IAS37は、「可能性が高い」を「発生しない確率より発生する確率のほうが高 い」と定義している。その定義は、50%を超える発生確率を意味すると広く理解 されている。一方、ASC450は、「可能性が高い」を「将来事象が発生しそうである」
と定義している。その定義は、50%を幾分超える比率を意味すると一般的に理解 されている。また、IFRSは、U.S.GAAPのもとでは明示的な要求がない偶発債務に 関連する要求事項を含んでいる。
(17)保証
U.S.GAAPおよびIFRSはともに、契約の本質または義務を負う企業実体の本質
のいずれかに基づいて、保証に関する会計についての指針を規定している。2つの 基準の差異には、①当初の範囲評価(たとえば、一方の基準におけるデリバティ ブと他方の基準における保険契約)や②特定のカテゴリーの商品などに関連する 要求事項が含まれている。
(18)債務
IAS39およびASC470において 、 債務の会計に関して全般的に類似の要求が規定
されている。2つの基準の差異として、U.S.GAAPは、特定のアレンジメント(た とえば、参加型モーゲージ負債および製品ファイナンス)の認識、測定、開示に 関する指針を規定しているが、IFRSは、それに相当する指針を規定していない点 がある。また、2つの基準の差異には、①負債の条件変更および消滅、②現在の債 務のリファイナンス、③コベナンツ違反債務の分類などに関連する要求事項が含 まれている。
(19)従業員報酬 – 株式報酬を除く
IAS19、ASC710およびASC75によれば、様々な報酬についての取り決めに関す
る会計と報告要求事項が含まれており、そのような取り決めのコストを適切な期 間に配分することが意図されている。U.S.GAAPとIFRSの原則レベルでのこれら のタイプの取り決めについての目的は、全般的に類似しているが、①雇用後給付、
②退職給付、③表示および開示などに関する詳細な指針については差異がある。
(20)株式報酬
IFRS2とASC718は、株式に基づく類似の支払モデルを含んでいる。その支払モ
デルによれば、公正価値に基づく測定値を用いた株式による支払報酬のコストを 財務諸表に認識することが要求されている。2つの基準の差異には、①定義、②段 階的に権利確定する取り決め、③税効果に関する処理などに関連する要求事項が 含まれている。
(21)その他の費用
ASC720は、創立費および広告費などを含む特定のタイプのコストおよび費用の
会計および報告に関する指針を規定している。IFRSは、このトピックスに関する 指針を様々なレベルにおいて規定している。IAS38によれば、創立費および広告費 は、発生時に費用として計上される。しかしながら、ASC720によれば、広告費は、
発生時か広告の実施時のいずれかにおいて費用として計上することが容認されて いる。また、U.S.GAAPは、コストおよび費用に関する産業別指針を含んでいるが、
IFRSは、これに相当する指針を含んでいない。
(22)研究開発
IAS38は、一定の質的規準が満たされる場合、開発費の資産化を要求している。
その質的規準が満たされる前に発生する研究開発費は、発生時に費用化される。
ASC 730によれば、コンピユータソフトウエアーの開発に関連するコストを除いて、
研究開発費は、一般的に、発生時に費用化されることが要求されている。
(23)法人所得税
IAS12とASC740はともに、資産・負債アプローチを用いて法人所得税を会計処
理することを要求している。資産・負債アプローチによれば、財務会計または税 務上各期間に認識される事象についての現在および将来の税金に対する影響(す なわち繰延税金)を認識することが要求されている。IFRSおよびU.S.GAAPにお ける法人所得税会計に対するこのアプローチは、概ね類似している。しかしながら、
2つの基準の差異には、①不確実な税務ポジションの取り扱い、②繰延税金資産お よび関連する評価性引当金、③相殺および分類、④投資に関する財務報告上の計 上価額と税務上の基準価額の差異に対して認識される繰延税金資産、⑤開示など に関連する要求事項が含まれている。
(24)企業結合
IFRS3およびASC805における指針には、企業結合の会計に関して類似した要求
が含まれている。しかしながら、2つの基準の差異には、①偶発事象に関する認識 と測定、②非支配持分、③条件付対価、④共通支配下の取引などに関連する要求 事項が含まれている。
(25)外国通貨に関する事項とインフレーション
IAS21とASC830はともに、在外事業体の財務諸表を表示通貨に換算し、為替レー
トの変動効果をその他の包括利益として認識することを要求している。しかしなが ら、2つの基準の差異には、①換算に使用する為替レート、②累積換算差額および 減損、③多階層組織構造の事業体の換算、④在外事業体への純投資の一部となる 貨幣性資産などに関連する要求が含まれている。さらに、IAS21とASC830はともに、
超インフレーション経済下での取引に関する会計を規定している。しかしながら、
超インフレーション会計の適用に関する指針は、異なっている。U.S.GAAPによれ ば、在外事業体の機能通貨が超インフレーションの場合、在外事業体は機能通貨 として報告通貨を用いている。在外事業体の財務諸表は、報告通貨に再測定される。
IFRSによれば、在外事業体の機能通貨は、保持されるが、決算日にそれを測定単 位通貨に再表示することによって、最初に「指数化」されることが要求される。
(26)非貨幣性取引
ASC845は、特定のタイプの非貨幣性取引に関する指針を規定している。IFRS
は、非貨幣性取引に関する会計指針を扱っている一般的な指針を含んでいないが、
U.S.GAAPに全般的に類似した個別の指針がいくつかの規準において規定されてい
る(例えば、IAS18、IAS16、およびIFRIC18)。
(27)関連当事者に関する開示
IAS24とASC850ともに、関連当事者に関する類似の目的および要求を有してい
る。しかしながら、両基準において異なる特定の開示が要求されている。
(28)組織再編
ASC852は、破産から再生過程にある企業に適用されるフレッシュ・スタート報
告およびその他の企業組織の再編に関する指針を規定している。IFRSにはこれに 相当する指針が存在しない。
(29)後発事象
IAS10およびASC855は、決算日後に発生する事象の財務諸表への影響を考慮す
ることを要求している。後発事象およびそのような事象を評価すべき期間は、同 じように定義されている。IAS10によれば、後発事象は、決算日後で、財務諸表の 発行が承認される前までに発生する事象とされている。ASC855によれば、後発事 象は、決算日後で、財務諸表が発行される前までに発生する事象または取引とさ れている。
(ⅱ)分析結果
「U.S.GAAPとの比較」によれば、U.S.GAAPとIFRSについて、2つの基本 的差異(⒜IFRSは、すべての産業における取引を会計処理するための広範な 原則を含んでいる。個別的なガイダンスや一般的ガイダンスに対する明言され た例外は、限られている。⒝FASBとIASBの概念フレームワークの間に基本 的差異が存在している)が指摘されている。
⒜ IFRSは、すべての産業における取引を会計処理するための広範な原則を 含んでいる。個別的なガイダンスや一般的ガイダンスに対する明言され た例外は、限られている。
「U.S.GAAPとの比較」([3],p.9)において、IFRSは、U.S.GAAPによる詳細な 規定に対応する個別的なガイダンスを含んでいないことが指摘されている。し かしながら 、「U.S.GAAPとの比較」」([3],p.9)によれば、個別的なIFRSガイダ ンスの欠如は、IFRSのもとでのガイダンスの不完全性を示すものではないと の見解が次のように指摘されている。
特定のタイプの取引に個別的に対応する基準か、IASNo.1「財務諸表の表示」
のような一般的基準か、あるいはIFRS概念フレームワークのいずれかにおい て、IFRSは、認識、測定および(または)開示のための一般的原則をしばし ば含んでいる。これらの一般的原則により、特定の取引または活動は、U.S.GAAP と類似の方法またはU.S.GAAPと異なる方法で会計処理されることになる。し たがって、IFRSは、U.S.GAAPによる詳細な規定に対応する個別的なガイダン スを含んでいないといった差異を認識するのは、U.S.GAAPには本文(おそら く、適用のためにより限定的または個別的なガイダンスが規定されている)が 存在するが、IFRSには同様の個別的な規定が存在しないとの事実に基づいて いる。
また、「U.S.GAAPとの比較」([3],p.9)は、「本スタッフ・ペーパーにおいて 指摘した多くの差異は、U.S.GAAPにおいては存在するが、IFRSにおいては存
在しない、特定の産業または取引のための個別のガイダンスに関連している。」 と述べたうえで、U.S.GAAPにおいて「特定の産業別または取引別の個別のガ イダンス」が設定された背景とその長所・短所について、次のように説明して いる。
多くの場合、U.S.GAAPガイダンスは、特定のタイプの取引のためのガイダ ンスに対するニーズに起因して、多くの継承されてきた米国会計基準設定主体 の1つによって開発された。この個別のガイダンスは、認識または測定に関す る既存の一般的な原則について取引または産業別に適合した解釈を提供するた めに、または、一般的な原則に対する例外の乱用を防いだり、例外を提供する ために開発されてきた。U.S.GAAPにおける多数の項目別ガイダンスは、たと えば、特定の産業で活動しているすべての企業における適用上の一貫性には寄 与するが、すべての産業における比較可能性を常にもたらすとはかぎらないで あろう。歴史的な米国会計基準設定とは対照的に、IFRSは、1つの解釈機関 を有する単一の基準設定主体(IASBまたはその前身・IASC)によって、常に 開発されてきた。産業別および取引別のガイダンスが欠如している場合、IFRS による財務諸表の作成者は、すべての産業における広範な一貫性を促進するに 役立つであろうIFRSの一般的な原則に準拠する。
⒝ FASBとIASBの概念フレームワークの間に基本的差異が存在している。
「U.S.GAAPとの比較」([3],p.10)によれば、「FASBによる財務会計の概念ス テートメント」(「概念ステートメント」と略称する)と「IASBによる財務諸 表の作成および表示のフレームワーク」(「概念フレームワーク」と略称する)は、
その基礎的概念および適用上の概念の権威に関して差異があると説明されてい る。さらに、「U.S.GAAPとの比較」によれば、両審議会は、基準を開発する さいや既存の基準をレビューするさいに、しばしば、概念フレームワークによっ て指導されている。したがって、概念フレームワークにおける差異は、基準レ ベルで組み込まれる認識および測定のガイダンスにおける差異の一因となりう
ると説明されている2)。
「U.S.GAAPとの比較」([3],p.10)によれば、2つの概念フレームワークの間 に現在存在している基本的な差異の例として、①「権威のレベルにおける差異」
と②「資産および負債についての定義および認識における差異」があると説明 されている。
① 権威のレベルにおける差異
「U.S.GAAPとの比較」([3],p.10)によれば、IFRSのもとでは、概念フレーム ワークは、権威あるガイダンスである。取引や他の事象または条件に個別に適 用される基準または解釈がない場合、その概念フレームワークが適用される と説明されている3)。一方、U.S.GAAPのもとでは、概念ステートメントは、
ASCに含まれていない。したがって、概念ステートメントは、FASBの権威あ るガイダンスではないと説明されている。しかしながら 、「U.S.GAAPとの比較」
([3],pp.10-11)によれば、権威のレベルにおける差異は、取引についての会計
処理の比較可能性にそれほど影響を与えないとの見解が次のように指摘されて いる。
FASBおよびIASBのフレームワーク内における適用可能な概念がコンバー ジェンスされるとしても、権威のレベルにおける差異は、U.S.GAAPおよび IFRSのもとでの取引についての会計処理の比較可能性にそれほど影響を与え ないであろう。たとえば、両審議会は、報告実体(Reporting entity)についての 一般的概念に関する暫定的結論に到達した。つまり、その暫定的結論によれば、
報告実体を識別するために経済活動の境界を検討するであろう。報告実体は、
法的実体の経済活動の境界と一致するか、あるいは一致しない境界の識別をも たらすであろう。基準レベルでの権威あるガイダンスは、概念ステートメント からの報告実体の定義を参照しないので、あるいはその定義を組み入れないの で、最終的同意がコンバージェンスされるとしても、そのコンバージェンスは、
U.S.GAAPのもとの会計処理に影響を与えないであろう。逆に、IFRSの適用は、
明示的なガイダンスが特定の基準において存在しない状況(たとえば、共通支 配の取引)においては、かかるコンバージェンスによって影響を受ける。
② 資産および負債の定義および認識における差異
「U.S.GAAPとの比較」([3],p.11)によれば、『高い確率(probability)』という 概念が、FASBの概念ステートメントにおいては『資産および負債の定義』に 組み入れられ、IASBの概念フレームワークにおいては『資産および負債の認 識要件』に組み入れられているとの差異が次のように説明されている。
概念ステートメントは、「高い確率の(probable)」将来事象の観点から、資 産あるいは負債(資産に対する経済的便益および負債に対する経済的犠牲)を 定義している。ここで、「高い確率の」は、一般的用語法で定義されており、
入手可能な証拠に基づいて合理的に期待できることまたは確信できることを意 味する。IFRSは、資産あるいは負債の定義に「高い確率(probability)」とい う概念を含んでいない。IFRSは、「高い確率の」は、定義されていないけれども、
認識要件において高い発生確率が考慮されている。つまり、将来経済的便益が 企業実体に流入するであろう高い確率がある場合、資産が認識される。また、
現在の義務の決済から、その流出が生じるであろう高い確率がある場合、負債 が認識される。
さらに、「U.S.GAAPとの比較」([3],p.11)によれば、IFRSには、認識に先立っ て、企業がコストまたは価値を信頼しうる方法で測定できることを要請する追 加的認識規準があり、この差異は、現在のIFRSとU.S.GAAPの間の差異や両 審議会による将来の基準設定の差異の要因になるであろうと説明されている。
2)実務におけるIFRSの分析
「IFRSの分析」([4],p.4)によれば 、 その目的は、米国発行体に対する財務報 告システムにIFRSを組み込むか否かに関する、SECによる将来における決定 に役立つ情報を委員会に提供するために、実務におけるIFRSの適用に関する スタッフの所見を提示することによりワーク・プランの実施に寄与することで
あると説明されている。以下、「IFRSの分析」における(Ⅰ)分析対象と(Ⅱ)
分析結果を明らかにする。
(ⅰ)分析対象
「IFRSの分析」([4],pp.4-5)によれば 、 分析対象について次のように説明され ている4)。
① SEC登録企業と非登録企業の両方を含む183社について、FRSに準拠し て作成されている最新の年次連結財務諸表が分析されている。
② 対象企業は、「2009年フォーチュングローバル500(世界中の企業から毎 年収益順にランキングしたトップ500社)」に基づき選定されている。
③ 対象企業は、22ヵ国に拠点を置く企業であり、36の産業から選定されて いる。
「IFRSの分析」([4],p.11)によれば 、 スタッフによる所見が、サンプル企業の 財務諸表について分野別(会計原則、財務諸表の表示、資産の会計、負債の会 計、株主持分の会計、収益の会計、費用の会計、広範な取引の会計、いくつか の産業に固有の問題についての会計)に提示されている。
(ⅱ)分析結果
「IFRSの分析」([4],pp.2-3)によれば、企業の財務諸表は、一般的には、IFRS に準拠しているように思われるとの所見が提示されている。しかしながら、こ の所見は、スタッフの分析より提起された次の2つの問題点に照らして検討す べきであるとされている 。
第一に、すべての分野間において、サンプルにおける財務諸表の透明性およ び明瞭性を高めるべきである 。 たとえば、いくつかの企業は、いくつかの分野 における会計政策に関するデスクロージャーを提供していない。また、多くの 企業は、財務諸表についての投資家の理解を支援するために、会計政策に関 するデスクロージャーにおける十分な詳細性または明瞭性を提供していないよ うに思われる。それには、企業が財務諸表において認識される金額にきわめ
て大きな影響を与える分野が含まれる。いくつかの企業は、また、適用可能な IFRSにおける用語と首尾一貫しない用語を用いていた。さらに、いくつかの 企業は、その特殊な規定がしばしば不明瞭であるローカルなガイダンスに頼っ ている。結果として、いくつかのデスクロージャーは、企業取引の本質やこれら の取引が財務諸表に反映される方法についての理解に対する問題点を提示した。
第二に、IFRSの適用における多様性は、国および産業間にわたる財務諸表 の比較可能性に対する問題点を提示した。この多様性は、様々な要因に起因す る。ある場合には、多様性は、IFRSによって認められている明示的なオプショ ンによるか、いくつかの分野におけるIFRSガイダンスの欠如によるかのいず れかにより、基準それ自体によって引き出されているように思われた。他の場 合には、多様性は、IFRSに準拠していないように思われることから生じていた。
基準それ自体によって引き出される多様性は、IFRSによってすでに認められ ている容認可能な代替的方法の範囲を狭める、ローカルな基準設定主体または 規制当局からのガイダンスや追加的ガイダンスまたは解釈により、しばしば、
緩和された。この多様性は、また、いくつかの企業がIFRS財務諸表に自国の 以前の実務を踏襲する傾向により、緩和された。国ごとのガイダンスおよび踏 襲する傾向は、国内の比較可能性を促進するであろうが、それらは、グローバ ルなレベルにおける比較可能性を減じるであろう。
⑷ スタッフによる最終報告書(2012年7月)
SECは、2012年7月3日に、米国発行体に対する財務報告システムにIFRS を組み込むためのワーク・プランに関するスタッフによる最終報告書(文献[5])
を公表した。この最終報告書は、ワーク・プランにおける検討課題として確認 された6つの重要な分野に関する「スタッフの分析による発見事項」と「スタッ フの所見」を要約するために作成された報告書である。
この最終報告書([5]、Intoro.Note)によれば、次の2つの論点が強調されて いる。
① 現時点での最終報告書の発行は、SECが、米国発行体に対する財務報告 システムにIFRSを組み込むべきか否か、また、IFRSを組み込むとしたら、
どのような組み込み方法によるべきかに関する何らかの政策的な意思決 定をしたことを意味しない。
② 最終報告書は、建設的なものであり、重要な貢献を果たしているが、ワー ク・プランは、IFRSへの移行が、一般的には米国証券市場の、具体的に は米国投資家の最適な利益になるか否かという根本的な質問に答えよう としなかった。米国企業に対する財務報告システムへのIFRSの組み込み に関するSECによる何らかの意思決定がなされる前に、この予備的な政 策的問題についての追加的な分析や検討が必要である。
要するに 、 このスタッフによる最終報告書は、SECに対して、米国企業に 対する財務報告システムへのIFRSの組み込みに関するいかなる意思決定も提 示していない。
以下において、ワーク・プランにおける検討課題として確認された6つの重 要な分野に関する、①「スタッフの分析による発見事項」と②「スタッフの所 見」を概説する。
1)スタッフの分析による発見事項
最終報告書([5],pp.4-6)によれば、スタッフの分析による重要な発見事項が、
7つの項目(①IFRSの開発、②解釈プロセス、③IASBによる各国基準設定 主体の利用、④グローバルな適用および施行、⑤IASBのガバナンス、⑥資金 調達の現状、⑦投資家の理解)に区分され、以下のように要約されている。
① IFRSの開発
IASBは、設立当初から、包括的な1組の会計基準を開発するうえで、大き く進展してきた。この進展には、収益の認識会計およびリース会計を含む、コ ンバージェンス・プロジェクトに関連する基準を改善するための、FASBと協 力したIASBによる最近の取り組みも含まれる。IASBによって発行された基準
(IFRS)は、グローバルな財務報告のコミュニティにおいて高品質な基準であ ると一般的に認識されている。しかしながら、未開発な分野(たとえば、採掘 事業会計、保険事業会計および料金規制事業会計)が依然として存在している。
U.S.GAAPにも、指針について継続的に開発する必要性がある分野(たとえば、
プッシュ・ダウン会計および政府補助金)がある。しかし、米国の利害関係者 によれば、IFRSにおける未開発分野(gap)は、U.S.GAAPより大きいと認識 されている。
② 解釈プロセス
基準設定主体の重要な役割の1つは、その基準を適切に維持することに あ る。 国 際 財 務 報 告 基 準 解 釈 指 針 委 員 会(International Financial Reporting Interpretations Committee-以下、IFRSICと略称する)は、IASBによる解釈機 関である。IFRSICの権限は、現行IFRSの状況下で生じる広範な会計問題を適 時にレビューし、これらの問題に関する権威ある指針を提供することである。
しかしながら、スタッフによる国内外のアウトリーチによれば、IFRSICは、
適時に、これまで以上にこれらの問題に取り組むべきであることが指摘されて いる。IASBのガバナンス機関であるIFRS財団は、この問題に取り組むさいに 役立つであろう変更を最近実施した。しかし、この変更は最近なされたにすぎ ず、それらの変更が効果的なものになるか否かは、現時点では不明である。
③ IASBによる各国基準設定主体の利用
多くの法域に組み込まれるかもしれない会計基準を開発するためには、IASB は、各国内における多くの異なる報告制度および規制制度の複雑な事情を理 解する必要がある。この難題は、最善の状況下においても,その解決が困難で ある。IASBは、各国の基準設定主体と個別のプロジェクトに関して相互に協 力し合う一連の手続きを有している。さらに、各国の基準設定主体の多くが、
IASBのメンバーと会計問題や現在のIASBプロジェクトについて議論するため に、定期的に会合している。しかしながら、IASBは、各国の基準設定主体と
のより一層強い連携を検討すべきである。各国の基準設定主体は、かれらが専 門とする個別のプロジェクトを支援できるし、自国の投資家に対する個別のプ ロジェクトについてのアウトリーチを実施できるし、実務上の多様性を狭める 必要性のある分野あるいは解釈指針を発行する必要性のある分野を識別できる し、基準実施後のレビューを支援できる。
④ グローバルな適用および施行
単一セットの高品質でグローバルに認められた会計基準について認識される ベネフィットの1つは、投資家が、いずれの企業についての財務諸表も解釈す ることが可能となり、その財務的成果を理解することが可能となり、他の企業 の成果と比較することが可能となる点にある。しかしながら、単一セットの会 計基準についての多くの重要なベネフィットを引き出すためには、これらの基 準が一貫性のある基礎に基づいて適用され、施行されることが重要である。ス タッフは、適用上の一貫性を評価するために、IFRSに準拠して作成された財 務諸表のレビューを実施した。スタッフのレビューの結果は、その期待と一致 していた。つまり、その結果によれば、レビューされた財務諸表は一般的に IFRSに準拠しているように思われるが、IFRSのグローバルな適用は、多様性 を狭めるために活用されるであろうことが確認された。IFRSが、それを適用 する見通しの諸国に組み込まれつつあるので、IFRSを米国発行体に対する財 務報告システムに組み込むとすれば、スタッフが別の法域における規制機関と より一層協働的に作業することが強調されるであろう。協働のレベルを高める ことは、規制機関が適用と施行に関する見解を共有し、グローバルな一貫性を 強化するうえで重要である。スタッフによれば、SECを含む財務報告のコミュ ニティは、IFRSの一貫した適用と施行に建設的な影響を与えることができる と考えられている。
⑤ IASBのガバナンス
スタッフの評価によれば、IFRS財団のガバナンス構造の全体像は、IASBの
監督を行うと同時に、IASBの独立性を認識し、維持する合理的なバランスを 保持しているように思われる。IASBは、グローバル組織によくみられるよう に、単一の資本市場に焦点を合わせた基準設定を検討する権限を持っていない。
IASBは、米国投資家と米国資本市場のニーズを検討することに係っているの で、スタッフによれば、特に米国資本市場を考慮し、保護するためのメカニズ ム(たとえば、FASBが引き続きIFRSを承認するメカニズム)を設置する必 要があるだろうと考えられている。
⑥ 資金調達の現状
IFRS財団の進展は、広範な基礎に基づく、強制力のある、オープン・エン ド型の、国別資金調達メカニズムを開発した点にある。しかしながら、IFRS 財団は、民間の非営利組織であり、結局のところ資金調達を要求する法的資格 を有していない。さらに、IFRS財団によれば、IFRSは、世界中で100ヵ国以 上において相当程度利用されていると指摘されているが、IFRS財団は、現在、
30ヵ国に満たない国における営利企業、非営利企業および政府から資金を調 達している。IFRS財団評議員会は、現在、米国に割り当てられるIASB予算の 資金を獲得できていない。この不足分は、U.S.GAAPとIFRSのコンバージェ ンス・プロジェクトに関するFASBの労力などのような、米国の資金源により IASBに対して拠出されるサービスによって、理屈上、幾分かは相殺されている。
財務会計基金(FAF)は、米国の資金源からの資金調達の問題に関する議論へ の参加を約束している。上記の所見にもかかわらず、資金調達アプローチにつ いてのスタッフのもっとも大きな関心は、IASBに対して資金を提供している 大手会計事務所との継続的な連携にある。
⑦ 投資家の理解
スタッフは、投資家から彼らが基準設定プロセスに参加する方法に関する有 用な情報を受け取った。スタッフの所見によれば、このアウトリーチの過程に おいて、会計問題や会計基準における変更に関する投資家の教育は、画一的な
ものではないとされている。スタッフによれば、投資家は、会計基準の最近の 変更を理解するために、発行体、大手会計事務所および出版物に一般的に頼る 傾向があると理解されている。IFRSを組み込むか否かに関するSECによる最 終的決定がどうであるかにかかわらず、スタッフは、会計基準の開発および利 用に関連する投資家の任務や教育がどのように改善されるかを検討するであろ う。
2)スタッフの所見
最終報告書によれば、ワーク・プランにおける検討課題として識別された6 つの分野(①米国内報告システムのためのIFRSの充分な開発および適用、② 投資家のベネフィットのための基準設定の独立性、③IFRSに関する投資家の 理解および教育、④規制環境、⑤発行体に対する影響、⑥人的資源の準備状況)
に関するスタッフの所見が、以下のように提示されている。
(ⅰ)米国内報告システムのためのIFRSの充分な開発および適用
スタッフ([5],p.7)は、3つの分野((a)IFRSの包括性,(b)法域内および法域 間におけるIFRS財務諸表の比較可能性,(c)IFRSの監査可能性および施行可能 性)の評価に基づいて、以下のように「米国内報告システムのためのIFRSの 充分な開発および適用」に関する所見を提示している。
⒜IFRSの包括性
スタッフ([5],pp.12-18)は、4つの観点(①両審議会のMoUおよびその他 の共同プロジェクト、②類似の目的を有している基準か、実質的にコンバージェ ンスされている基準か、または、その両方を満たしている基準、③基本的差異、
④産業別指針)からの「IFRSの包括性」の評価に基づいて、以下のように「米 国内報告システムのためのIFRSの充分な開発および適用」に関する所見を提 示している。
① 両審議会のMoUおよびその他の共同プロジェクト
両審議会は、多くの主要な共同プロジェクトに関して大きな進展を達成した
けれども、既存のU.S.GAAPとIFRSとの差異の程度は、SECがスタッフにワー ク・プランに着手するよう命じた2010年時点でスタッフにより期待されてい たそれより大きい。このことは、スタッフがIFRSの組み込みについての検討 を放棄すべきであるとの結論を導くことにはならない。組み込みについての検 討の放棄は支持しないけれども、2011年5月のスタッフ・ペーパー(組み込 み方法の研究)に対して、SECによる何らかの意思決定がなされるに先だっ て、MoUを完成すべきであると意見表明したコメンテーターがいた。より完 全にコンバージェンスされた基準が存在しない場合、差異が残る範囲において 検討すべき固有の問題が存在するか否かに関して、あるいは、組み込みに対す る何らかの大きな障害が存在するか否かに関して十分な検討をすべきであると スタッフは考えている。
② 類似の目的を有している基準か、実質的にコンバージェンスされている 基準か、または、その両方を満たしている基準
U.S.GAAPとの比較に関するスタッフ・ペーパーにおいて、U.S.GAAPと
IFRSにおける基準が類似の目的を有しているか、実質的にコンバージェンス されているか、あるいはその両方を満たしている多くの分野がスタッフによっ て指摘されている。これらのいくつかの基準は、MoU関連プロジェクトに関 する両審議会の取り組みの成果として、コンバージェンスされている。スタッ フによれば、U.S.GAAPとIFRSの本文の間の類似性にも拘わらず、両基準の 適用によって、同一の金額あるいは財務諸表ディスクロージャーが投資家に対 して報告されることは含意されていない。むしろ、スタッフは、U.S.GAAPの もとで報告される情報に本質的に類似している報告金額およびディスクロー ジャーをもたらす、U.S.GAAPから類似のIFRSの規定への変更を期待するで あろう。
③ 基本的差異
スタッフは、U.S.GAAPとの比較に関するスタッフ・ペーパーにおいて、
U.S.GAAPとIFRSの間に多くの基本的な差異が存在することを指摘している。
これらの差異の存在には、さまざまな理由がある。第一に、両審議会が、基準 を開発するさいに、異なる目的を有しているケースがある。このようなケース は、両審議会が投資家に取引の経済実態を伝える最善の方法について異なる結 論に到達したとの理由か、あるいは基準設定の目的が一般的に異なる時代にお いて基準が開発されたという理由のいずれかから生じる。第二に、市場または 規制構造に反応して、それぞれの審議会により基準が設定される場合、基準に 差異が生じるケースがある。第三に、米国において開発された反乱用保護の結 果が、差異をもたすケースがある。最後に、基準の目的は、同じように思われ るけれども、基礎にある指針が多様であり、本質的により基本的な差異をもた らすようなケースがある 。 いくつかのより重要な分野(減損、非貨幣性負債、
いくつかの資産の測定、棚卸資産、研究開発、法人所得税、有形固定資産)が 基本的差異のある分野としてスタッフにより指摘されている。これらの差異の 解消は、いくつかのケース(たとえば、後入先出法の除去または何らかの変更)
において困難であろう。5年から7年の期間においてこれらの差異を解消する ためのSECまたは他の機関によるいかなる試みも困難であることがわかるで あろう。
④ 産業別指針
U.S.GAAPは、その発展段階にわたり、米国における企業、報告、規制環境
のニーズに個別に対応した、成熟した一連の基準である 。 対照的に、IASBは、
歴史的に、産業別の指針を発行してきていない。IASBは、むしろ、発行体が 一般的に適用可能な(つまり、全産業に中立的な)原則を利用することを選ん でいる。
権威あるU.S.GAAPは、異なる目的に役立つ様々な基準設定主体の蓄積され
た取り組みにより、歴史的に開発された。いくつかの基準設定主体により発行 された会計指針は、産業別の問題に取り組むことが意図されていた。特に、よ
り一般的な指針の適切な適用が、不明確である状況あるいはいくつかの産業に おける企業活動にとってあまり目的適合性のない情報をもたらすように思われ る状況に対して産業別の問題に取り組むことが意図されていた。FASBは、創 設以来、ASCにおける権威あるU.S.GAAPの単一の源を有してきたが、そう であるにもかかわらず、ASCは、多くの産業問題に対する個別的な指針を含 む、前述の歴史的基準から編纂された。対照的に、IFRSは、一般的にすべて の産業における企業に適用される原則の開発に焦点を当ててきた、比較的少数 の基準設定主体により開発されてきた。U.S.GAAPは、特定の産業(公益事業、
石油およびガス事業、投資会社など)に対する産業別指針を規定しているが、
IFRSは産業別指針を規定していない。
以上述べた4つの観点からの「⒜IFRSの包括性」の評価に基づく「米国内 報告システムのためのIFRSの充分な開発および適用」に関する所見は、次の ように要約できる。
1. MoUおよび他の共同プロジェクトにおいて差異の存在する特定項目につ
いて、コンバージェンスを達成するようにさらに検討すべきである。
2. U.S.GAAPのもとで報告される情報に本質的に類似している金額および
ディスクロージャーをもたらす、U.S.GAAPから類似のIFRSの規定への 変更が重要である。
3. いくつかの重要な分野において、U.S.GAAPとIFRSの間に多くの基本的
差異が存在する。
4. IFRSは、特定の産業に対する産業別指針を規定していない。
⒝法域内および法域間におけるIFRSによる財務諸表の比較可能性
スタッフ([5],pp.24-25)は、2つの観点(①スタッフによる実務における IFRSの分析および②公式な解釈プロセス)からの「法域内および法域間にお けるIFRSによる財務諸表の比較可能性」の評価に基づいて、以下のように「米 国内報告システムのためのIFRSの充分な開発および適用」に関する所見を提
示している。
① スタッフによる実務におけるIFRSの分析
IASBのメンバーおよびスタッフにより、適用指針の数量および基準の規定 の数量を制限する要求が、たびたび、指摘されてきた。これらの目的によって、
余り規範的でない(しばしば、原則主義と呼ばれる)基準を保持することとそ のような基準が適用される方法を評価するさいに予測される多様性の大きさと の間に対立が生じる。繰り返しになるが、このことは、この余り規範的でない 基準だけに基づいて、IFRSが米国における組み込みに適さないことを必ずし も意味しない。しかしながら、スタッフは、余り規範的でない基準を設定する とのIASBの目的により、米国においてそのような基準を組み込むことに対す る影響を慎重に検討した。この検討内容には、FASB、SECまたはその他の機 関が、米国の資本市場内でファイリングする企業間における多様性を最小化す るための解釈指針を提供することが望ましいか否かまたは必要であるか否かを 含んでいる。
② 公式な解釈プロセス
IFRS解釈指針委員会(IFRSIC)は、IASBがIFRSのフレームワーク内におけ る財務報告問題を適時に識別し、議論し、解決することを通して、財務報告を 改善するうえでIASBを支援している。IFRSICの業務は、適切な会計処理に関 する合意に到達し、IFRSの権威ある解釈を提供することにある。スタッフは、
適用指針を発行するIFRSICアプローチに対する改善がなされうることを指摘 したフィードバックを受け取った。かかる改善により、IFRSに準拠して作成 された財務諸表の比較可能性がさらに促進され、これらの財務諸表の監査およ び規制における一貫性が改善されるであろう。特に、スタッフ・ペーパー(2011 年5月)に対するコメンテーターによれば、IFRSICは、IFRSの適用における 実務上の多様性を減少させ、比較可能性を高めるために、基準設定においてよ り活動的になる必要があると指摘されていた。
以上述べた2つの観点からの「⒝法域内および法域間におけるIFRSによる 財務諸表の比較可能性」の評価に基づく「米国内報告システムのためのIFRS の充分な開発および適用」に関する所見は、次のように要約できる。
1. 余り規範的でない基準を設定するとのIASBの目的により、米国におい
てそのような基準を組み込むことに対する影響(多様性の増加による比 較可能性の低下)について慎重に検討する必要がある。
2. IFRS解釈指針委員会は、IFRSの適用における実務上の多様性を減少させ、
比較可能性を高めるために、基準設定においてより活動的になる必要が ある。
⒞IFRSの監査可能性および施行可能性
スタッフ([5],pp.27-33)は、4つの観点(①原則対細則、②監査事務所の 構造の比較可能性への影響、③施行と法令遵守、④国際的な規制機関およびそ の他の規制機関)からの「IFRSの監査可能性および施行可能性(Enforceability)」 についての評価に基づいて、以下のように「米国内報告システムのための IFRSの充分な開発および適用」に関する所見を提示している。
① 原則対細則
スタッフの所見によれば、原則主義と細則主義との差異は、必ずしも明確な ものではない。U.S.GAAPは、より細則主義的であり、IFRSはより原則主義的 であると多くの人により考えられているけれども、スタッフは、両方の基準と も、2つのアプローチを結合したものであると認識している 。 実際、FASBは、
最近、適用上より大きな判断を要求する目的指向的な基準を発行する傾向があ る。目的指向的な基準は、包括的な指針を形成するために追加的な詳説により 捕捉される、基礎的目的を提供する。
② 監査事務所の構造の比較可能性への影響
大規模な会計組織は、独立した会員会計事務所のネットワークとして構成さ れているので、会員監査事務所は、たとえば、会員監査事務所間の自主的な協
働や合意形成を通して、IFRSの解釈上の問題に関する見解を開発する。トップ・
ダウン意思決定の欠如により、会員監査事務所がいくつかの取引に関して事務 所自体の結論に到達できる一方で、同じネットワーク内の別の会員監査事務所 が異なる結論に到達する可能性がある。このアプローチは、一般的にU.S.GAAP の適用に関連して、大規模な米国の会計事務所の間でこれまで使用されてきた と理解されているアプローチとは異なる。そのアプローチによれば、会計事務 所の国内の技術的な会計グループによるU.S.GAAPに関する結論は、一貫して 適用される。
③ 施行と法令遵守
スタッフの調査研究によれば、会計基準が財務諸表の比較可能性に影響を与 える唯一の要素ではないことが強調されている。法域の施行構造のようなその 他の要素が比較可能性に大きな影響を与える可能性がある。アウトリーチを通 して、世界中の施行構造は、法域ごとに大きく異なるであることがスタッフに より確認された。たとえば、いくつかの法域は、政府による証券規制機関を有 している。別の法域は、政府機関を有している。さらに、別の法域は、政府の 規制機関に説明責任を負う取引所または政府により監督されている独立的監視 機関によって規制されている。規制機関の構造が、有効な施行メカニズムに影 響を与える可能性がある。
④ 国際規制機関およびその他の規制機関
スタッフは、IFRSによる財務諸表のより一貫した施行に貢献するであろう メカニズムとして証券監督者国際機構(IOSCO)と地域機関を認めた。IOSCO は、メンバー間での協働的取り組みや情報の共有を通して、投資家を保護す る共通の役割を達成しようとする証券規制機関のグローバルな機関である。
IOSCOに加えて、IFRSによる財務諸表の一貫した施行を促進するために地域
機関が存在していることがスタッフにより認識されている。もっとも代表的な 地域機関が、欧州証券市場監督局(ESMA)である 。ESMAは、EU加盟国の各
国の証券規制機関の間の協働と一貫性を促進するために設計されたEU地域の 機関である。アジア太平洋地域においては、会計基準設定主体が2009年にア ジア太平洋地域会計基準設定主体グループ(AOSSG)を設立した。
以上述べた4つの観点からの「⒞IFRSの監査可能性および施行可能性」の 評価に基づく「米国内報告システムのためのIFRSの充分な開発および適用」
に関するスタッフによる所見は、次のように要約できる。
1. 原則主義と細則主義との差異は、必ずしも明確なものではない。
2. 大規模な会計組織は、独立した会員会計事務所のネットワークとして構 成されているので、会員監査事務所がIFRSの解釈上の問題に関する独自 の見解を開発する可能性がある。
3. 世界中の施行構造は,国・地域ごとに異なっており、このことが財務諸
表の比較可能性に影響を与える。
4. IOSCOのような国際規制機関やESMAなどの地域規制機関がIFRSによ る財務諸表のより一貫した施行に貢献するであろう 。
(ⅱ)投資家のベネフィットのための基準設定の独立性
スタッフ([5],pp.35-39・pp.48-49)は、4つの分野(①IFRS財団の監督、
②IFRS財団とIASBの構成、③IFRS財団の資金調達、④IASBの基準設定プ ロセス)の評価に基づいて、以下のように「投資家のベネフィットのための基 準設定プロセスの独立性」に関する所見を提示している。
① IFRS財団の監督
IFRS財団戦略レビューおよびモニタリング・ボード・ガバナンスレビュー の結果として、IFRS財団およびモニタリング・ボードは、IASBに対する現 行の3層ガバナンス構造は、適切なものであり、維持されるべきであると結 論づけた。3層ガバナンス構造のもとでは、IASBはIFRS財団により監督さ れ、IFRS財団はモニタリング・ボードにより監督される。スタッフによれば、
IFRS財団のガバナンス構造についての全体設計は、IASBの監督をすると同時
に、その独立性を認識し、支持する合理的なバランスを達成していると一般的 に認識されている。IASBは典型的なグローバルな組織であるので、IASBは、
単一の資本市場に焦点を当てた基準の設定を検討する権限を有していない。
IASBは、米国投資家および米国資本市場のニーズを考慮することに係わって いるので、スタッフによれば 、 特に、米国資本市場を考慮し、保護するメカニ ズム(たとえば、IFRS基準の承認に係わるFASBを維持する)を設置するこ とが必要であると考えられている 。
② IFRS財団とIASBの構成
スタッフによれば、IFRS財団戦略レビューの結果として、IFRS財団評議員 会は、IASBのデユー・プロセスの監督のためのフレームワークを明確化すべ きであると決定した。評議員会のデユー・プロセス監督委員会(DPOC)は、
基準設定プロセスを通して定期的に、また、基準が完成する直前に、デユー・
プロセスの遵守をレビューし、検討すべきであると考えられている 。 さらに、
スタッフによれば、IFRS財団評議員会は、IFRSの実施後レビューに関する報 告構造の変更を検討すべきであると考えられている。つまり、IFRSの実施後 のレビューに関するスタッフ作業として、IASBではなく、評議員会に直接報 告すべきであると考えられている 。
③ IFRS財団の資金調達
資金調達に関して言えば、IASB設立以来、米国からの資金源が、一貫して、
ドル換算した総額で、IASBに対する最大の拠出者であった。さらに、米国は、
MoUのもとでのIASBとFASBによる共同基準設定の取り組みを支えるための 多大な資源を拠出した。しかしながら、IFRS財団評議員会は、最近、米国の 資金調達源に対して設定した資金調達目標を獲得することに成功してきていな い。2011年5月のスタッフ・ペーパーに対するFAFのコメントレターにおいて、
FAFは、IFRS財団の事業予算のうちの米国の負担部分を資金調達する適切な 方法を見つけ出すこと重要性を指摘した。さらに、FAFは、IASBの年度事業
費用のうちの米国の応分の占有率に対する適切な資金調達メカニズムを開発す る取り組みに対して支持を与えることを提案した。上記の所見にもかかわらず、
資金調達アプローチについてのスタッフのもっとも重要な関心は、IASBに対 して資金を提供する大規模会計事務所に対する継続的な依存にある 。
④ IASBの基準設定プロセス
スタッフによれば 、IASBは、基準設定の協議事項および個別のプロジェク トに関して投資家からフィードバックを得るための取り組みにおいて、長年に わたり改善を果たしてきたと考えられている。IASBの公開書類に関する投資 家または投資家グループからの公式なコメントレターが比較的少数であったの で、IASBがこれらの利害関係者に影響を与える別の方法を発見することが重 要である。したがって、IASBは、そうする取り組みをしなければならないよ うに思われる 。IASBプロジェクトのモニタリングを通して、スタッフの指摘 によれば、IASBスタッフが別のメカニズムを用いる場合(たとえば、IASB公 開書類に関するフィードバックを取り込むために投資家に対して直接アウト リーチする場合)、IASBスタッフは、しばしば、公開コメントレターの要約と 同様、投資家に対するアウトリーチの結果についての要約を提供する。
以上述べた、4つの分野の評価に基づく「投資家のベネフィットのための基 準設定プロセスの独立性」に関する所見は、次のように要約できる。
1. 米国資本市場を考慮し、保護するメカニズム(たとえば、IFRS基準の承 認に係わるFASBを維持する)を設置することが必要である 。
2. IFRSの実施後のレビューに関するスタッフの作業として、IASBではなく、
評議員会に直接報告すべきである。
3. IFRS財団の事業予算のうちの米国の負担部分を資金調達する適切な方法
を見つけ出すことが重要である。
4. IASBは、投資家または投資家グループから、公開書類に関するフィード
バックを取り込むための方法を発見することが重要である。