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日本における「シビックプライド」の動向整理

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著者 牧瀬 稔

出版者 法政大学公共政策研究科『公共政策志林』編集委員

雑誌名 公共政策志林

巻 7

ページ 13‑26

発行年 2019‑03‑24

URL http://doi.org/10.15002/00021681

(2)

1.はじめに

1.1 本論文の目的

近年,地方自治体が注目しつつある概念に「シ ビックプライド」(Civic Pride)がある。特に,自 治体が取り組むシティプロモーションに関連して,

シビックプライドが取り上げられる傾向が強まって いる。

自治体がシビックプライドを注視しつつある一方 で,日本においてはシビックプライドに関する研究 は少ない。そこで,本論文の目的はシビックプライ

ドの動向を整理することである。

本論文はシビックプライドの動向を整理すること で,自治体が取り組むシビックプライドの情報提供 という意図もある。また,これからシビックプライ ドに取り組もうとしている自治体への問題提起とい う意味もある。

本論文の研究手法を言及する。本論文は,戸田市

(埼玉県)と株式会社読売広告社の共同研究に,筆 者がアドバイザーとして参加した経験が土台となっ ている2。また,筆者は,本論文で取り上げる戸田 市や春日部市(埼玉県),北上市(岩手県)をはじ

法政大学大学院公共政策研究科兼任講師 関東学院大学法学部地域創生学科准教授

日本における「シビックプライド」の動向整理

1

Study on trend analysis of ʻCivic prideʼ in Japan

牧 瀬   稔

要約

本論文は,地方自治体が注目しつつある「シビックプライド」(Civic Pride)を考察の対象としている。シビッ クプライドは「都市に対する市民の誇り」と定義される。そして,シビックプライドは「自分自身が関わって 地域を良くしていこうとする,当事者意識に基づく自負心」という意味がある。

自治体が注目しつつあるシビックプライドであるが,日本における歴史は浅い。そこで本論文は「現時点に おけるシビックプライドに関する動向を整理する」という意味を持っている。

本論文は,全部で6つの章から成立している。第1章で本論文の問題視覚を記している。第2章ではシビッ クプライドの動向を言及している。シビックプライドの定義に加え,首長や議会等が対象とするシビックプラ イドの経緯を言及している。第3章は自治体におけるシビックプライドの事例紹介である。筆者が関わりを 持っている戸田市,春日部市,北上市の取組みを簡単に紹介している。第4章は,自治体が指摘するシビック プライドの効果を記している。また,シビックプライドの測定方法も言及している。第5章はシビックプライ ドに類似する概念を考察している。ここは問題提起の意味がある。そして第6章では,自治体が取り組みシ ビックプライドの持続性を担保する視点を提案し,本論文を締めくくっている。

キーワード

シビックプライド,シティプロモーション,コミュニティ,市民参加,協働,ソーシャル・キャピタル

(3)

め多くの自治体にアドバイザーとして政策づくり

(シビックプライドを含む)に関わっている。これ らの経験が本論文の下地となっている。その意味で は,参与的観察の手法をとっていると言える。もち ろん,既存の文献なども参考として,本論文を作成 している。

1.2 先行研究

 多くの自治体は,シビックプライドを注目しつ つある。しかし,シビックプライドに関する先行 文献は少ない。CiNiiを活用して「シビックプライ ド」に関する文献を検索すると「72」しかない。 シビックプライドに関する文献がはじめて登場した のは2009年である。2009年は3文献あり,その後,

2010年が2 文献,2011年が4 文献,2012年に5 文 献と増えつつある。しかしながら,2013年と2014 年は共に3 文献であり,2015年は8 文献,2016年 は5文献となっている。2017年が13文献と拡大し,

2018年は26文献と大きく増加している

 シビックプライドを体系的にまとめているのは,

2008年に出版された,読売広告社都市生活研究局 著・伊藤香織他監修の『シビックプライド―都市の コミュニケーションをデザインする』である。同書 はシビックプライドの定義に加え,建築学から捉え た多数の事例が紹介されている。

そして同書の続編であり,2015年に出版された,

シビックプライド研究会編・伊藤香織他監修の『シ ビックプライド2【国内編】―都市と市民のかかわ りをデザインする』も,シビックプライドを体系的 にまとめている貴重な先行文献である。同書も,基 本的には建築学から捉えたシビックプライドの事例 紹介である。

シビックプライドに関する文献は少ない状態にあ る。そのため,現時点ではシビックプライドの理論 化はなされていない状況とも言える(現在,シビッ クプライドの理論構築を進めている段階と言える)。

後述するが,シビックプライドは「都市に対する 市民の誇り」という意味がある。しかし「都市に対 する市民の誇り」だけでは漠然としている。そこで シビックプライドの可視化の取り組みも始まってい

る。株式会社読売広告社は,住民の街への意識を測 る調査「シビックプライド調査」(シビックプライ ドランキング)を発表している(2018年7月17日発 表)。同調査は,シビックプライドを「愛着」「誇り」

「共感」「継続居住意向」「他者推奨意向」の5指標 から測定している。

一方で,三菱UFJリサーチ&コンサルティングが

「市民のプライド・ランキング」という名称で可視 化を試みている(2017年6月14日発表)。同調査は

「市民がプライドを持っているまちはどこか」を問 題意識のもと,街に対する愛着や誇り,住む,働く,

子育てする等々の様々な場面における「お勧め度合 い」について数値化している5

 そのほか様々な機関や研究者がシビックプライド に関して研究を進めている。しかし,日本において はシビックプライドの歴史が浅い。そのためシビッ クプライドに関する研究は,現時点においては発展 段階にあると言える。本論文は「現時点におけるシ ビックプライドに関するトピックスをまとめる」と いう意味もある。

2 シビックプライドの動向

2.1 シビックプライドの定義

筆者が地方自治体の現場に行くと,様々な思いを 持ってシビックプライドが使われている。一見する とシビックプライドの意味は多様なように思える が,定義は決まっている。それは「都市に対する市 民の誇り」である。日本の「郷土愛」といった言葉 と似ているが,単に地域に対する愛着を示すだけで はない。郷土愛とは「生まれ故郷に対する愛情」と いう意味がある。

郷土愛は「生まれ故郷」に限定されるが,シビッ クプライドはそうではない。生まれ故郷でなくて も,住んでいる都市に対する市民が誇りを持てば,

それはシビックプライドである。

シビックプライドの「シビック(市民の/都市 の)」には,権利と義務を持って活動する主体とし ての市民性という意味がある。つまりシビックプラ イドは「自分自身が関わって地域を良くしていこう

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とする,当事者意識に基づく自負心」が内包されて いる

近年,自治体はシビックプライドを注目してい る。しかし,実はその歴史は古い。シビックプライ ドという言葉は,イギリスの産業革命後に栄えた都 市において,既に使われていたそうだ。当時は20〜 30年の間に人口が2倍になるような急激な成長が 起きていた。多くの都市が勃興する中で,都市間競 争が激しくなり,市民自らのアイデンティとして,

シビックプライドという概念が大事にされるように なったと言われている

なお,情報提供の意味で言及しておくと,あまり 浸透していないが「地域プライド」という概念もあ る。地域プライドは,2005年に国土交通省と文部科 学省,文化庁が共同まとめた『地域プライド創発に よる地域づくりのあり方に関する調査』に記されて いる。同報告書で地域プライドを「数ある地域の歴 史的事象の中で,地域の人々によって受け継ぎ,守 り育てられてきた「地域固有の精神文化」」と定義 している。

2.2 日本におけるシビックプライドの経緯

既述したが「シビックプライド」という言葉は,

海外では古くから使われていた。日本において,シ

ビックプライドはどのような歴史をたどってきたの だろうか。特に,マスコミはシビックプライドをど のように捉えてきたのだろうか。図表1は,一年間 において,朝日,産経,毎日,読売の各新聞に「シ ビックプライド」という言葉(記事)が登場した推 移である。

図表1から理解できるとおり,2008年から使わ れ始めた歴史の浅い概念である。今日,自治体には

「シビックプライド」という言葉が浸透しつつある。

しかし,一般的には理解されない言葉である可能性 が強い。その意味では,現時点において,シビック プライドは市民権を得ていないと考えられる。ただ し,過去と比較すると,近年はシビックプライドの 記事が多くなりつつある。

 図表1 のとおり,2008年が5 回,2009年は6 回 の記事がある。これらの記事はすべて「今治シビッ クプライドセンター」(ICPC)の活動を伝えている。

組織名に「シビックプライド」がついているため,

記事として自動的にカウントされている。2007年 度に策定された今治市(愛媛県)の「みなと再生構 想」において,今治港を起点に中心市街地の活性化 に取り組む,市民・行政・民間企業などの協働組織 として「今治シビックプライドセンター」が設立さ れた。同センターは2015年には,愛媛県からNPO 図表1 主要4紙における1年間に「シビックプライド」の記事が登場した回数

注)1985年から2007年までは0記事である。対象とした新聞は、朝日新聞、産経新聞、毎日新聞、読売新聞 の4紙である。完全にすべての記事を把握できているわけではない。傾向をつかむという意味がある。

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法人としての認証を取得している。

 今治シビックプライドセンター関連以外で,シ ビックプライドに関する記事は2010年10月13日の 毎日新聞(地方版)がある。見出しは「しこく編集 学校:企業,地域の魅力発信へ ウェブや求人広告 学ぶ 高松で開講」となっている。

同記事は「企業や地域がその魅力を再認識し,発 信する力をつけるため,四国経済産業局が「しこく 編集学校」を高松市内で開講した。中小企業などか ら約90人が参加し,企業ウェブサイトや求人広告の ポイントを学んだ。同局によると,EU諸国では地 域活性化の原動力として「シビックプライド(住民 や働く人の都市への誇りや自負)」が提唱されてお り,それを根づかせ,四国ならではの産業や街づく りを支援するのが目的という」とある。この記事の 中で,「シビックプライド」が見受けられる。そし て2015年以降は,シビックプライドの記事が増加し つつある。

2.3 シティプロモーションとシビックプライド 近年では,自治体が取り組むシティプロモーショ ンに関連させてシビックプライドが使われる傾向が 強い。例えば,羽村市(東京都)の「羽村市シティ プロモーション基本方針」には「若い子育て世帯の 定住人口の増加につなげていくため,「ブランド化 の推進」「戦略的・継続的な情報発信」「シビックプ ライドの醸成」の3つを,各施策に取り入れ推進し ていく」と明記している。

 那須塩原市(栃木県)の「那須塩原市シティプロ モーション指針」にも,シビックプライドの言及が ある。同指針は「シティプロモーションを推進する ためには,「市民」が住んでいるまちに対して「誇り」

や「愛着」をもって「推奨」すること,自分もこの まちの一員であるという認識をもって地域活動など に参画する「シビックプライド」の醸成が重要であ ると考えます」と明記している。

そして,伊賀市(三重県)の「伊賀市シティプロ モーション指針」には,シビックプライドを醸成す ることにより,①定住・Uターン人口の増加,②参 画意識の向上,③市民による情報発信の増加,の効

果が期待されると指摘している。伊賀市におけるシ ティプロモーションは,「他の施策と連携しながら,

地域のイメージを高め,交流人口や定住人口の増加 を図り,シビックプライドを醸成していく取り組 み」と定義している。

廿日市市(広島県)の「廿日市市シティプロモー ション戦略提案書」も,シビックプライドに力を入 れている。同提案書には「市民や企業が市に愛着と 誇り,そして自負を抱けるまちづくり(シビックプ ライドの形成)に寄与するとともに,仕事(雇用・

起業),住環境,子育てなどの魅力的な環境づくり と,その情報を市内外に発信していくことで,人口 流出の抑制と,人口誘致の推進を図る」と明記して いる。

このようにシティプロモーションに関連して,シ ビックプライドを政策目標の一つに掲げるケースが 多い。筆者の調べた範囲では,町田市,沼津市,各 務原市,板橋区,白井市,吹田市,朝来市,和光市 は,シティプロモーションを手段として,シビック プライドの醸成を政策目標としている。なお,日光 市は「日光プライド」と称している。

2.4 首長とシビックプライド

首長がシビックプライドに言及する傾向も強まっ ている。阿部裕行・多摩市長(東京都)の2018年度 施政方針には「住み続けたいまち。子育てしたいま ち。老いを迎えても幸せを実感できるまち。いつま でも自分らしく,いきいきと暮らしていける多摩市 を全国に発信し,市民の皆さんの「まちを愛する心

=シビックプライド」を大切にしたまちづくりを進 めます」と,シビックプライドの重要性を強調して いる。特に阿部市長は,選挙公約にビックプライド の実現を掲げている

北橋健治・北九州市長は,2018年度の施政方針で

「子どもたちの学力・体力の向上はもとより,優れ た芸術や伝統文化などに直接触れる体験を通し,子 どもたちの豊かな感性や心の育ちを促し,シビック プライドの醸成を図る」と明言している。

また,篠田昭・新潟市長も2018年度の施政方針に おいて「『新潟暮らし創造運動』を展開し,シビッ

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クプライドの醸成につなげるとともに,人口の流出 抑制・流入促進にもつながる『選択される新潟』を 目指す」と述べている。

さらに,地方圏に位置する自治体も注視してい る。養父市(兵庫県)の広瀬栄市長もシビックプラ イドを注目する一人である。2018年施政方針では

「養父市において,まちづくりの基礎となった農業 を守ることは,地域の伝統を守り,地域への愛着と 誇り(シビックプライド)を守ることとなり,地域 の安らぎと安定感を醸し出すことにつながり,そし て,移住・定住,企業進出を促すこととなります」

と指摘している。

ここで紹介した自治体以外にも,施政方針に「シ ビックプライド」を取り上げる傾向が強くなってい る。施政方針とは,首長が議会でその年一年間の基 本方針や政策についての姿勢を示すために行われる 位置づけの重い演説である。そこで,これらの事例 から理解できることは,シビックプライドが自治体 政策の重要な柱になりつつある事実である。

2.5 議会とシビックプライド

首長が注目するのと同時に,議会からのシビック プライドに関する質問も増加しつつある。神奈川県 議会は「本県の誇りやあるいは県民の,最近シビッ クプライドというような言葉も出てきますけれど も,やはり県民の方々のプライドを高めるような,

そういった取組を是非積極的に行っていただくこと を要望させていただきます」と提起している(平成 27年産業労働常任委員会(2015年12月14日))。

兵庫県議会は「シビックプライドを醸成する手法 について,県として積極的に普及・推進していくと ともに,普及・推進に当たっては,人材や他地域で の取組状況の情報提供などによる市町支援を通じ,

県,市町が連携した取組につなげていくべきと考え ますが,ご所見をお伺いいたします」とある(第 335回定例会(2017年2月27日))。

図表2は都道府県議会におけるシビックプライド に関する質問などの推移である。少しずつである が,拡大している様子が理解できる。このようにシ ビックプライドに注目する傾向が強まりつつある。

今後もシビックプライドが自治体(議会を含む)に 浸透していくと考えられる。

3 自治体におけるシビックプライドの事例

本章ではシビックプライドに取り組む先進事例を 紹介する。特に戸田市は,読売広告社が実施したシ ビックプライドランキングでも上位に位置してい る。

3.1 戸田市のシビックプライド

 かつて戸田市は定住人口を増やすシティプロモー

図表2 都道府県議会における「シビックプライド」の議会質問の推移 

(回)

     出典)全国47都道府県議会議事録横断検索(http://chiholog.net/yonalog

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ションに力を入れていた(戸田市はシティセールス という言葉を使用している)。

近年,同市は市民の共感に力を入れつつある。

2016年度に「戸田市シティセールス戦略改訂版」

(2016年度〜2020年度)を策定している(以下では

「改訂版」と言う)。改訂版は,定住人口の獲得は進 めていくものの「インナープロモーションの更なる 強化」を強く掲げている。現在生活している市民に 対するプロモーションを展開している。

改訂版におけるインナープロモーションとは,

「自治体内部の職員に対するシティセールスの浸透 だけでなく,市民や事業者などの市内関係者にまち の魅力を訴え,結果として市民の誇り,愛着心の向 上につなげていく活動」と定義している。

改訂版を契機に,急に戸田市が従前実施していた

「競争」のシティプロモーションから,「共感」に進 んだわけではない。改訂版の数年前から,戸田市は 少しずつ競争から共感のシティセールスに変化しつ つある。2014年には,共感に向けた取り組みを具 体的に開始している。それは同年12月に開発された スマートフォンアプリケーション「tocoぷり」の存 在である。「tocoぷり」は,戸田市が一方的に開発 したアプリケーションではない。市民や市民活動団

体等の意見を把握しながら進めてきた。具体的には

「戸田市スマートフォン用アプリケーション検討市 民会議」を設立し,アプリケーションの導入に向け て開発段階から市民との意見交換を行っている。

アプリケーション名の「toco」の意味は「“toda

community」である。地域の情報共有だけでなく,

市民同士の心をつなぐツールとしての役割がある。

tocoぷり」には,「交流」「広聴」「広報」の大きく 3つの機能が搭載されている。アプリケーションに 投稿された情報によって地域の情報共有が進み,地 域の課題が人とのつながりによって解決する仕組み づくりが構築されている。

なお,戸田市は以前から地域コミュニティの醸成 に取り組んできた。例えば「自治基本条例フォーラ ム」や「地域通貨戸田オール運営委員会」をはじめ

「戸田橋花火大会」「親子ふれあい広場」など,地域 コミュニティの醸成の力を入れてきた。2002年に は「地域コミュニティ推進計画」を策定しているこ とからも,戸田市は早い時期から地域コミュニティ に価値を見出してきた。これはシビックプライドに 通じるものである。

戸田市の共感を目指したシティセールスは,客観 的な評価を得ている。戸田市は「共感」という評価

図表3 戸田市における人口流出率の推移

     出典)戸田市「住民基本台帳」

     注)住民基本台帳を活用し、1月1日を基準に「転出等/総人口」により算出している。

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において第1位である(株式会社読売広告社,2016 年10月26日発表)。さらに「誇り」と「人に勧めたい」

はともに第4位という結果であった。戸田市のイン ナープロモーションを中心としたシティセールスも 確実に前進していると指摘できる。

同時に,対外的評価に限らず,戸田市の人口流出 率も低下している(図表3)。特に,15歳から34 以外の転出超過だった5歳階層別人口,特に子ども や子育て世代が転出抑制へと動いている。対象とし ているターゲットの持続的な定住が実現し,かつ戸 田市全体としても,市民の転出率が低下しつつあ る。実際に住み続けたいとと考える市民が増加して いることを意味している。その背景には戸田市に対 する共感や誇りといった意識が市民の間で浸透して いると推測できる。ただし,近年人口流出が増えて いるのは,待機児童の問題が大きいと推察される。

3.2 春日部市のシビックプライド

春 日 部 市 は,2015年 か ら2017年 ま で の3 年 間,

市民のシビックプライドの醸成を目的とした「第1 次春日部市シティセールス戦略プラン」(以下,第 1次プラン)を実行してきた(春日部市は「シティ セールス」と称している)。同プランでは,市民が 考えた春日部市の8つの魅力(子育て,食育,藤,

川・水辺,音楽,麦わら帽子,凧,地場野菜等)を 磨き育てて発信することにより,市民に春日部市の 魅力を発見してもらうことが主な事業である。

過去3年間の取り組みにより,8つの魅力は市民 へ浸透し始めている。実際に,以前まで微減してい た市民の意識調査の「まちへの愛着・親しみ」と「定 住意向」の項目が,いずれも2%ほど上昇した。

 第1次プランのシティセールスは,春日部市に とってプラスとなる様々な要素を引き寄せ,まちが 良くなっていく,その可能性を高めるという認識で ある。シティセールスという考えは,従来の自治体 広報のあり方を改め,社会の中にあって,その存在 意義を生み出すために,周囲との関係構築を重視し た企業広報の考え方に通じる。

このような観点から,春日部市のシティセールス のキーワードは「シティ・コミュニケーション」に

集約される。シティ・コミュニケーションとは,企

業(Corporation)におけるコーポレート・コミュニ

ケーションの考え方と同様に,市(City)における

「市が,その他主体と行う双方向的相互理解活動」

を意味する。この言葉は春日部市の造語である。

まちの魅力を高めるための新しい事業を生み出す だけでなく,日頃,業務として取り組んでいること の中で,「わかりやすく伝えることができているか」

や「聴き手にとって良いタイミングで情報が届いて いるか」などを意識することにより,市民とのコ ミュニケーションをより深化(進化)しようとする 取り組みである。今日では,少しずつ職員全体の広 報意識が高まっている。

 シティ・コミュニケーションは,市民に対し「私 たちは(春日部市は)このような存在です」や「私 たちはこのようなことに取り組んでいます」,さら に「私たちの強み・魅力はこのようなところです」

を,積極的にわかりやすく情報発信することを主眼 としている。そうすることで,初めて市民はまちへ の共感や愛着を持ってもらうベースができてくる。

これはシビックプライドに通じる考えである。

第1次プランでは,シティ・コミュニケーション 力を「市民等周囲の人を巻き込む力」と定義した。

このシティ・コミュニケーション力を自治体組織や 職員レベルで身に付けていくことに取り組んでき た。その結果が,既述した「まちへの愛着・親しみ」

や「定住意向」における数値の改善である。

なお,現在の春日部市のシティセールスは「第2 次春日部市シティセールス戦略プラン」(以下,第 2次プラン)を展開している。第2次プランは,市 外へのアピールに重きを置いている。第2次プラン の詳細は,紙幅の都合上省略するが,その特長はカ スタマージャーニーマップを活用している点であ る。

参考としてカスタマージャーニーマップを紹介す る。それは,企業におけるマーケティングの一手法 である。顧客(カスタマー)が購買に至るまでの流 れを旅(ジャーニー)に例えて図式化している。顧 客がどのように商品やブランドと接点を持って認知 し,関心を持ち,購入意欲を喚起されて購買や登録

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などに至るのか,という道筋を旅として考え顧客の 行動や心理を時系列的に図式化している。他自治体 には見られない新しい取り組みである。

3.3 北上市のシビックプライド

2015年国勢調査によると,岩手県全体では3.8ポ イントの人口を減少させている。一方で,北上市は 0.4ポイントの人口増加である。同市の人口増加の 要因は様々あると推察される。その中で,同市が推 進しているシビックプライドを一つの基調としたシ ティプロモーションの効果もあると指摘できる。北 上市のシティプロモーションのキーワードは「まち 育て」である。まち育てにより醸成した愛着や誇り を魅力ある都市形成に繋げていくことを目指してい る。

また,北上市の都市像は「あじさい都市」を掲げ ている。その意味は,市内それぞれの地域コミュニ ティが独自の資源を活かしながら自立した地域とし て,紫陽花の花のように咲き誇ることを意図してい る。相互に連携することによって持続的に発展でき る都市の形をイメージした市の理想像としている。

それを具体化する3つの基本戦略の一つ「まち育て による地域の誇りの醸成」を位置づけている。この 活動もシビックプライドの醸成に影響している。

同市のシビックプライドとは「地域の『誇り』」

と捉えている。その誇りは,市民や北上市に関係す る人達が身近な地域資源を発見し,守り育て,発信 する活動(まち育て)を通じて醸成されるとしてい る。そして様々なまち育てを通じて醸成された市民 の地域への誇りが,新たなまちの価値を創出する活 動(まち育て活動への自主的・積極的な参画)を生 み出し,北上市の魅力を高める力になると考えてい る。

具体的な事例を紹介する。同市の更木地区にあ る「さらきの里ふれあいセンター」は,地元住民に よる農事組合法人が,米や桑などの地元農作物を活 かした商品を提供する交流拠点施設として運営され ている。これは祖先から受け継いできた身近な資源 を守り育てようとしている。この取組みが市内外の 共感を呼び,当地の風土を後世まで引き継いでいき

たいという地域への愛着と誇りを生み出す活動に繋 がっている。

これまで北上市は県内からは「企業誘致のまち」

として見られてきた。一方で,首都圏からは「自然 が豊かな地方都市」というイメージが強かった。北 上市に内在する様々な魅力を良質な都市のイメージ である都市ブランドに繋げていくことで,多様な主 体が関わるまち育ての実現を目指している。

2017年度にはシビックプライドを醸成するため の市民共通のコミュニケーションプロセスとして

「北上市都市ブランド推進行動計画」を策定した。

同計画を基軸に具体的な取組みを開始している。そ して,市内の各種団体や市民等で構成される「きた かみ都市ブランド推進市民会議」において,都市ブ ランドメッセージ「KitaComing!北上市」及びロ ゴマークを策定した(写真1)。

同メッセージは,北上市が歴史的に培ってきた

「ヨソモノを受け入れる文化」と「前に進み続ける 精神」を活かし,来訪者がもたらす多様な文化を受 け入れ,共に力を合わせて前に進み続ける北上市を 実現していくという意思が込められている。市民等 による総選挙を経て(メッセージ選挙には5,509票,

ロゴマーク総選挙には6,421票の投票があった)決

写真1 都市ブランドメッセージ     「KitaComing!北上市」 

出典)北上市

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定した。

これらのメッセージとロゴマークを市民と自治体 が旗印として一緒に活用しながら,一貫性のあるイ メージを市内外に浸透させていく予定である。そし て,メッセージの理念に共感した人達が「やっぱり 北上がいいね」や「北上に関わりたい」と,北上市 への愛着と誇りを持つことで,まち育ての原動力を 生み出していくことを推進している。

4 シビックプライドの効果と測定

4.1 シビックプライドの効果

 シビックプライドの効果について,既存の自治体 の事例から検討する。例えば,足利市(栃木県)の

「足利シティプロモーション基本方針」によると,

市民のシビックプライドの意識が高まれば,市外へ の転出も少なくなり,来訪者の中から定住を希望す る人も出てくると指摘している。なお,同市におけ るシビックプライドは「個人個人がまちに抱く誇り や愛着のこと」と定義している。そして「市民の一 人ひとりがまちを構成する一員であるという当事者 意識を持って,自発的にまちづくりに参加すること を大切にする考え方」と捉えている。

 習志野市(千葉県)の「習志野市シティセールス コンセプトBOOK」には「積極的な『住みやすい!』

をさらに増加していくために,『利便性+α』のα の要素が必要です。それが習志野ブランドであり,

シビックプライドです」と明記している。全体的に 定住人口の維持のためにはシビックプライドが重要 と言う趣旨でまとめられている。

 伊賀市(三重県)の「伊賀市シティプロモーショ ン指針」の中では,シビックプライドを「伊賀市民 であること,伊賀出身であることを誇りに思うこ と」と「伊賀がより良い地域になるために主体的に 関わる意思を持つこと」と定義している。そして同 指針では,シビックプライドの効果として,定住・

Uターン人口の増加,参画意識の向上,市民による 情報発信の増加と言及している。

 足利市や習志野市,伊賀市のように,多くの場合 は,シビックプライドはシティプロモーションの中

で語られる。

一方で,シティプロモーションとは別の観点から シビックプライドを取り上げる事例もある。神戸市

は「BE KOBE」という概念を提起している。神戸

市のホームページによると,「BE KOBE」は阪神・

淡路大震災から20年目の2015年に「人のために力を 尽くす」という想いを集めて生まれたメッセージと 明記している。

続いてホームページでは,「BE KOBE」は直訳す ると「神戸であれ」という意味になり,神戸市民一 人ひとりの「神戸への想い」を「BE KOBE」に重 ねて自由に解釈することで,市民であることを誇り に思う気持ちの合言葉として定着させることを目指 しているとのことである。そして「BE KOBE」の 活動は,市民が神戸に愛着を抱くことや,市民であ ることを誇りに思うシビックプライドの醸成を目指 している。

 そのほか少なくない自治体がシビックプライドの 効果に期待している。そこでシビックプライドを政 策の重要な柱に位置付けつつある。

ここで紹介した足利市や習志野市,伊賀市に加 え,既存の自治体の取り組みを観察すると,シビッ クプライドの効果として,定住の促進(転出抑制と 転入促進),市民の積極的なまちづくりへの参画,

市民の積極的な魅力発信等を挙げる傾向が強い。

4.2 シビックプライドの測定方法

自治体がシビックプライドの有無を測定する方法

(指標)は,大きく2つある。それは①居住意向調 査,②住民推奨度調査,である。これらを言及する。

① 居住意向調査

居住意向調査は,多くの自治体で実施されてい る。住民に対して「今後も市に住み続けたいか」や

「市に愛着をもっているか」などの設問の数値を集 計して算出する手法である。これらにより,住民が 住んでいる自治体に持つ愛着や誇りが明らかになる と言われている。シビックプライドを測定する指標 として,一般的に使用されている。

例えば,2014年に実施した戸田市の「戸田市市 民意識調査報告書」には,問18が「あなたは,戸田

(11)

市にこれからも住みたいと思いますか(○は1つ)」

という設問がある。この問は,住民の居住意向を確 認している。同調査の結果は「住み続ける」と「た ぶん住み続ける」を合わせると76.2%である。一方 で「たぶん移転する」と「移転する」を合わせると 9.6%である。ここで記した76.2%が高いか低いか は,他の自治体と比較や経年比較をしないと分から ない。

そこで時期がやや異なっていた申し訳ないが,参 考として他自治体の数値を紹介する。相模原市は

「あなたは,これからも相模原市に住みたいですか

(○は1つ)」という質問を住民に尋ねている(2015 年,「市政に関する世論調査」)。その結果は,「住み たいと思う」が72.5%となっている。八王子市(東 京都)には「あなたは,これからも八王子市に住み 続けたいと思いますか(○は1つだけ)」という設 問がある(2015年,「市政世論調査結果報告書」)。

その回答は,「ずっと住み続けたい」(42.9%)と「当 分は住み続けたい」(45.7%)を合わせた「住み続 けたい」は88.6%となっている。

一方で,尾張旭市(愛知県)は「尾張旭市まちづ くりアンケート」の問3は「あなたは,尾張旭市に

「愛着」 を感じますか」という設問である。愛着を

「感じている」の割合は64.3%であり,「感じていな い」は5.0%という結果である。よく指摘されるこ とは「居住意向や愛着の数字が高いほどシビックプ ライドが強い」である。

② 住民推奨調査(ネットプロモータースコア)

ネットプロモータースコア(Net Promoter Score) は,民間企業において使用される。例えば,「企業

(あるいは製品やサービス等)を友人や同僚に薦め る可能性はどのくらいありますか?0〜10点で評 価してください」という質問である。この設問に対 する回答をもとに,点数(推奨度合)を導き出す。

ネットプロモータースコアを高めることは,「顧 客ロイヤルティ」を強くすると言われている。顧客 ロイヤリティとは「継続的な商品の購入など,特定 の企業や製品・サービスに対して持つ高い忠誠心の こと」を意味する。顧客ロイヤリティはウィンザー 効果(口コミ)につながっていくとされる。口コミ

が新たな顧客を獲得することにつながる。その結 果,顧客ロイヤリティの向上が企業の成長につなが ると主張される10

民間企業のネットプロモータースコアを応用し て,シビックプライドを測ろうとしているのが川崎 市である。川崎市は,居住意向調査に加え,ネット プロモータースコアも活用している。居住意向調査 は,現在住んでいる市民の愛着と誇りを測る指標で ある。そして市民の市外への推奨度合を測る指標と して「ネットプロモータースコア」を活用している。

具体的には,川崎市への「居住」と「来訪」を友人・

知人に薦めるかについて回答を求め,その結果を集 計し得点化している。設問は「あなたは川崎市に住 むことを友人,知人に勧めたいですか」「あなたは 川崎市に買い物・遊びなどで訪れることを友人・知 人に勧めたいですか」などを用意している。

5 シビックプライドに類似する概念

筆者は,シビックプライドは新しい概念ではない と考えている。類似した概念は,自治体の現場にお いて,既に存在していた。それはコミュニティ論で あり,市民参加論・協働論であり,さらにはソー シャル・キャピタル論である。これらの諸概念を簡 単に紹介する。

5.1 コミュニティ論

 コミュニティの定義は多義的である。その中で,

アメリカの社会学者であるマッキーヴァーの定義を 紹介する。マッキーヴァーは,コミュニティを「一 定地域における共同生活の領域のことを指し,互い の間に共通の社会意識や共属感情がみられること が要件である」と定義している11。通常「コミュニ ティ」と言った場合は,マッキーヴァーの定義が紹 介されることが多い。

 1969年9月に,経済企画庁に設置された国民生 活審議会調査部会が『コミュニティ―生活の場にお ける人間性の回復―』という報告書を発表してい る。同報告書は,コミュニティを「生活の場におい て,市民としての自主性と責任を自覚した個人およ

(12)

び家庭を構成主体として,地域性と各種の共通目標 をもった,開放的でしかも構成員相互に信頼感のあ る集団」と定義している。1960年代から,コミュニ ティに関する議論が活発化しつつある。

倉田和四生氏は,過去多様なコミュニティが形成 されてきたと指摘している12。1960年代から1970年 代にかけては重要な地域課題は公害であった。その ため公害に対処したコミュニティが形成された。そ の後,高齢化や防災に対応したコミュニティがつく られてきたとしている。住民がその地域でかかえて いる課題を認識し,その解決に努めている地域共同 社会がコミュニティの形成につながるとしている。

倉田氏は「地域が課されている課題に応じて個別的 に形成される。課題が福祉であれば『福祉コミュニ ティ』となり防災が課題であれば『防災コミュニ ティ』となる」と言及している。

武蔵野市(東京都)は「武蔵野市コミュニティ条 例」(2001年制定)を制定している。同条例はコミュ ニティを3類型している。それは①地域コミュニ ティ:居住地域における日常生活の中での出会い,

多様な地域活動への参加等を通して形成される人と 人とのつながり。②目的別コミュニティ:福祉,環 境,教育,文化,スポーツ等に対する共通の関心に 支えられた活動によって形成される人と人とのつな がり。③電子コミュニティ:インターネットその他 高度情報通信ネットワークを通して,時間的及び場 所的に制約されることなく形成される人と人とのつ ながり,である。近年コミュニティと言った場合,

この3類型から検討されることが多くなっている。

 コミュニティのメリットも多く指摘されている。

例えば,コミュニティの強い地域は市民の地域活動 への参加が高まるという説明や,刑法犯認知件数が 低下すると言われている。またコミュニティの強い 地域ほど震災時の被害が少ないなども指摘されてい る。コミュニティのメリットは,シビックプライド で言われる特長と共通する部分がある。

5.2 市民参加論・協働論

シビックプライドに近い考えとして,筆者は市民 参加と協働も該当すると考えている。市民参加は多

くの定義がある。市民参加とは,「自治体の政策等 の企画立案,実施,評価等の過程において市民が市 政に関与すること」と定義する。具体的な取り組み として,ワークショップ,パブリックコメント,審 議会,市民説明会などがある。

協働は,荒木昭次郎氏が提起してから浸透してき た概念である13。荒木氏は,協働という概念は1977 年にアメリカのインディアナ大学のヴィンセント・

オストロムが,「地域住民と地方自治体職員が対等 の立場に立ち,共通の課題に互いが協力しあって取 り組む」ことの意味を表現するために,「協働(co-

production)」という造語をつくったことがはじまり

と言及している。なお「co」は「共に」という意味 があり,「production」は「つくる」という意味がある。

この「共につくる」が語源であると言われている。

荒木氏は協働の定義を「地域住民と地方自治体職 員とが,心を合わせ,力を合わせて,助け合って,

地域住民の福祉の向上に有用であると地方自治体政 府が住民の意思に基づいて判断した公共的性質をも つ財やサービスを生産し,供給してゆく活動体系で ある」としている。しかし「協働」という言葉の持 つ意味は多義的であるということは,荒木氏自身も 認めている。

 そして,市民参加と協働のメリットも,地域住民 の意識が高まる,ボランティア活動の活発化するこ とに加え,市民の意向を反映した事業の実施,自治 体の財政難の改善など多々ある。市民参加と協働の メリットの一部分はシビックプライドの特長と共通 している。

5.3 ソーシャル・キャピタル論

 アメリカの政治学者であるパットナムは,ソー シャル・キャピタル(Social Capital)を「人々の協 調行動を活発にすることによって,社会の効率性を 高めることのできる『信頼』『規範』『ネットワーク』

といった社会組織の特徴」と定義している14。 2003年に内閣府が発表した報告書『ソーシャル

・ キャピタル:豊かな人間関係と市民活動の好循環 を求めて』では,ソーシャル・キャピタルは失業率 の抑制や合計特殊出生率の向上に貢献する可能性が

(13)

高いと明記している。同報告書では,ソーシャル・

キャピタルが高い都道府県ほど,失業率が低く,合 計特殊出生率が高いという相関図が示されている。

また同報告書は,ソーシャル・キャピタルが強い 都道府県ほど,ボランティア活動が強くなる傾向が あるとも指摘している。ボランティア活動の活発化 が一理由となり,刑法犯認知件数の低いことにつな がっているとも言及している。

2005年には,内閣府経済社会総合研究所が『コ ミュニティ機能再生とソーシャル・キャピタルに関 する研究調査報告書』を発表している。同報告書で も,ソーシャル・キャピタルと市民活動は正の相関 関係にあると言及している。同報告書では,ソー シャル・キャピタルが豊かならば,市民活動への参 加が促進される可能性が高く,市民活動の活性化を 通じて,さらにソーシャル・キャピタルが醸成され る可能性も強いと指摘している。つまり,ソーシャ ル・キャピタルと市民活動は相互に関係しており,

相乗効果があると明記している。

ソーシャル・キャピタル論で言われるメリット は,今日シビックプライドで言われている特長と多

くの共通点がある。

5.4 シビックプライドと諸概念の相違

シビックプライドに類似した概念として,ソー シャル・キャピタル論は1990年代から2000年代に 議論の対象となっていた。遡ると,協働論は1980 年代から1990年代にトピックスとなり,市民参加 論は1970年代から1980年代に取り上げられること が多かった。そして1960年代から1970年代はコミュ ニティ論が議論の中心であった。

シビックプライドと諸概念は,基本的に目指す方 向は近いと考えている。その中で大きな違いは「学 問領域」(アプローチ方法)と考える(図表4)。

そして、シビックプライドと他の諸概念と大きく 違うのは「見える」ことにある。シビックプライド は建築学から登場している。その意味で,シビック プライドは実際に「見える」のである。それは街の 景観であったり,モニュメントという象徴であった り,何かしら「見える」のである。これがシビック プライドの特長と言える。一方で,コミュニティ

(論)からソーシャル・キャピタル(論)までは,

図表4 シビックプライドの類似概念

 注)「期待される成果」は、コミュニティ論や市民参加論などすべての論に共通するわけではない。

(14)

目に見ることができない。

シビックプライドは建築物として目で確認するこ とができる。シビックプライドを成立させる要素が 街のシンボルということが往々にしてある。シビッ クプライドは,現実的に見えるため,対象者の意識 が集約され「愛着」や「誇り」が醸成されていく可 能性が高まる。

6 おわりに

本論文を終えるにあたり,自治体がシビックプラ イドを継続的に高めていくための視点を言及する。

それは,シビックプライドの条例化,あるいは行政 計画化を提言したい。シビックプライドを高めてい くためには継続的な取り組みが求められる。この継 続性を担保するのが条例化であり行政計画化である

(条例と行政計画の双方があるのが望ましいが,ど ちらか一つでもよいと考える)。ちなみに,筆者の 調べた範囲では,現時点において(2018年12月31 日),シビックプライドの条例や行政計画はない。

読者は知っているだろうか。「セーフコミュニ ティ」という概念がある。セーフコミュニティは,

怪我や事故など日常生活の中で,人々の健康を阻害 する要因を「予防」することによって,安全なま ちづくりを進める取り組みである。世界保健機関

WHO)が認証している。厚木市は「厚木市セーフ コミュニティ推進条例」を制定した(全国初であ る)。同条例の存在がセーフコミュニティを推進す るのに大きな効力があったと言える。実際,厚木市 のセーフコミュニティは一定の目に見える明確な成 果がでている。条例化のハードルが高い場合は行政 計画化でもよいだろう15

最後になるが,筆者はシビックプライドに取り組 む自治体の担当者と意見交換すると,次の感想を持 つ。それは「シビックプライド(Civic Pride)をス パイラルアップさせていくことにより,シビックプ ライドが市民権(Citizen ship)の確立につながって いく」である。これを筆者は「CtoC」と称している。

筆者が関わった自治体の政策づくりに長く取り組ん だ体験から得られた経験値である。

一方で,シビックプライドがマジックワード化し ている傾向もあるように感じる。マジックワード

Magic Word)とは,直訳すれば「魔法の言葉」と

いう意味になる。あたかも魔法のように思うように 他人を動かすことができる不思議な言葉を意味す る。マジックワードは,多くの場合は意味や効果が 不明確である。そのため言葉を使用する者の考えに より,我田引水的に活用することができる。しばし ばマジックワードは具体的な中身を伴わないと批判 される。シビックプライドもマジックワード化しつ つあるため、この点は注意しなくてはいけない。

また,近年はシビックプライドがシティプロモー ションの中で語られる傾向が強い。しかし,筆者は シティプロモーションとシビックプライドは別次元 として扱うべきと捉えている。その理由は,シビッ クプライドは,市民参加や協働等の概念と親和性が あると考えるからである。その意味ではシティプロ モーションの中に入れるのではなく,「シビックプ ライド計画」という独自の行政計画を策定すること も一案だろう。

本論文は,現時点におけるシビックプライドを取 り巻く動向の整理という意味があった。本論文がシ ビックプライドを考えるための契機になれば幸いで ある16

 本論文は,「地方行政」(時事通信社)に筆者と株式会 社読売広告社の共著で連載した「シビックプライドの潮 流」(全回)を加筆・削除等の修正をしたものである。

 戸田市と株式会社読売広告社は「戸田市と株式会社 読売広告社の共同研究に関する協定書」を締結している

201825日)。同研究は,読売広告社が保有するシ ビックプライドに関する知見と,戸田市が保有する市民 アンケートデータほか各種調査データをかけあわせて,

「シビックプライド向上がもたらす効果」や「シビック プライド向上の手段・方法」の分析を実施している。同 協定書の第条には「シビックプライド分野での共同研 究により,社会に貢献し,地域社会の発展及び市民サー ビスの向上に寄与する」ことが目的と記されている。筆 者は,共同研究のアドバイザーとして参加している。

CiNiiは,論文,図書・雑誌や博士論文などの学術情

報で検索できるデータベース・サービスである。https://

ci.nii.ac.jp/)。検索した時期は20181230日である。72

文献が多いか少ないかは議論の余地があると思う。その

(15)

中で筆者は少ないと考えている。例えば,コンパクトシ ティに関する文献を検索すると「1326」ある。行政評価

に関する文献は「3560」である。シビックプライドの「72

文献は少ないほうに分類されると判断した。

72文献のうち11論文は筆者が関与したものである。

その意味では61論文となる。

 シビックプライドの老舗は,株式会社読売広告社 である。同社は2006年に「シビックプライド」(Civic

Pride)という言葉を商標登録している。商標法に違反す

ると(商標権を侵害すると),懲役10年以下,罰金1000

万円以下が課せられる(商標法第78条)。法人の場合な ら罰金億円以下の刑事罰が科せられる場合がある(同 法第82条)。そのため三菱UFJリサーチ&コンサルティン グは,シビックプライドという言葉を使用せず「市民の プライド」と称していると考えられる。

  読 売 広 告 社 都 市 生 活 研 究 局 著・ 伊 藤 香 織 他 監 修

2008)『シビックプライド―都市のコミュニケーション をデザインする』宣伝会議

 詳細は,脚注の文献を参照されたい。

 シティプロモーションに関しては,次の文献を参照 されたい。

牧瀬稔編著(2018『地域ブランドとシティプロモーショ ン』東京法令出版

 多摩市のシビックプライドに関する取り組みは,「た ま広報平成31日号(1342号)」に詳しい。同広 報は,次のURLで見ることができる(201910日ア クセス)。

http://www.city.tama.lg.jp/0000008158.html

10 シビックプライドを経営学の観点から考えると「顧 客ロイヤリティ」にも類似した概念と考えている。顧客 ロイヤリティとは,顧客があるブランドや商品,または サービスに対して感じる「信頼」や「愛着」のことを意 味する。顧客満足を超えた企業に対する信頼や愛着,高 い忠誠心である。この顧客ロイヤリティを確立した企業 は,持続的に発展していくと言われている。

11 マッキーヴァー(中久郎・松本通晴訳)1975『コミュ ニティ』ミネルヴァ書房

12 倉田和四生(1999)『防災福祉コミュニティ』ミネル ヴァ書房

13 荒木昭次郎(1990)『参加と協働』ぎょうせい

14 パットナム(河田潤一訳)(2001)『哲学する民主主 義―伝統と改革の市民的構造』NTT出版

15 本論文でも指摘したが,シビックプライドの特長は

「見える」ことである。その観点から考えると,街を代 表するモニュメントの製作なども,シビックプライドを 高めることにつながる。しかし,このモニュメントの製 作などは,自治体がすべきではないと考える。このよう な「見える」ものは,市民発意で,市民が中心になって 動いていくことに成功の方程式があると考える。

16 本論文に関心を持った読者は下記の文献を参照され たい。

 牧瀬稔・読売広告社ひとまちみらい研究センター編著

『シティプロモーションとシビックプライド事業の実践』

東京法令出版

 本論文を修正し,上記の文献におさめられている。そ の他シビックプライドに関する論考が多数おさめられて いる。

[参考文献]

荒木昭次郎(1990)『参加と協働』ぎょうせい

伊藤香織他監修・読売広告社都市生活研究局(2008)『シ

ビックプライド―都市のコミュニケーションをデザイン する』宣伝会議

伊藤香織他監修・シビックプライド研究会編(2015)『シ ビックプライド【国内編】―都市と市民のかかわりを デザインする』宣伝会議

伊藤香織(2017)「都市環境はいかにシビックプライドを 高めるか:今治市を事例とした実証分析」日本都市計画 学会『都市計画論文集52(3)』

倉田和四生(1999)『防災福祉コミュニティ』ミネルヴァ 書房

マッキーヴァー(中久郎・松本通晴訳)(1975)『コミュ

ニティ』ミネルヴァ書房

パットナム(河田潤一訳)(2001)『哲学する民主主義―

伝統と改革の市民的構造』NTT出版

牧瀬稔(2005)「地方自治体における環境協働の研究:環 境再生行動と住民の新たな協力関係」法政大学博士論文 牧瀬稔編(2018『地域ブランドとシティプロモーション』

東京法令出版

牧瀬稔・読売広告社(2018「シビックプライドの潮流」(全 回)時事通信社「地方行政」

参照

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