1 .はじめに
現在,埼玉県熊谷市内には地域子育て支援拠点は19か所設置されており,各拠点とも様々 な特徴がある。その中から利用者である子育て親子(家庭)は,自分のあった拠点を選び,
複数の支援拠点を利用している。各家庭,保護者により子育て支援拠点に求めている支援は 様々であり,その期待(ニーズ)と受けている支援には相違がある事も想像できる。
また,著者が所属する立正大学社会福祉学部子育て支援センター(以下ベアリスと記す)
は,大学という教育,研究機関内に設置されている。大学には地域に貢献できる人材を育成 する役割もあり,さらに大学に蓄積されてた知的資源を,社会地域に広く開放することが求 められている。また,ベアリスは立正大学熊谷校舎の特徴である自然豊かな環境にあり,さ らに乳幼児の発達の特性を踏まえ,一人一人が主体的にあそびを展開できるよう物的環境を 提供できるよう努めている(大澤歩「乳幼児期に経験してほしいあそびとコーナー設定―子 育て支援センターでの取り組みの一例として―」参照)。その一方,前述したように人材育成 のため,ベアリスでは多くの学生ボランティアを受け入れ,年間延べ1.100名を超える学生が 活動をしている。
そこで支援拠点およびベアリスへの期待と現状,さらにベアリスで活動する学生への印象 や期待を明らかにすることにより,保護者が求めている支援拠点の役割や形を探るきっかけ としたい。
2 .方 法
平成27年11月~平成28年 3 月,ベアリス利用者(複数回利用あり。回答数:30)を対象に,
期待している支援と受ける支援( 8 項目)に相違はあるか。さらに大学内にあることで,特 にベアリスの印象と期待する支援( 5 項目)に相違はあるかについて検討するため,質問紙
*立正大学社会福祉学部子育て支援センター
キーワード:子育て支援拠点,子育て支援の専門性,利用者のニーズ
子育て支援拠点への期待と現状
―大学内支援拠点利用者の声を中心に―
Expectations and curreat situation of the child care support base
―With a focus on voice of child care support base user
in RISSHO university―大澤 歩
*Ayumi Osawa
調査を実施した。統計処理においては,SPSS(ver.22)を用いて行った。また,ベアリスで 活動する学生への期待,さらにベアリスに対し気づいたことや期待について記述式質問紙調 査を実施した。
3 .倫理的配慮
本研究は,立正大学大学院社会福祉学研究科研究倫理指針に基づき,調査対象者の同意が 得られたうえで調査を行った。
4 .結 果
①基本属性 ・住居地
ベアリスの立地の関係上,近隣からの利用者の割合は比較的高い傾向にある。平成27年度の 利用家族の約26%は熊谷市外からの利用であり,今回の調査とほぼ変わりのない数値である。
居住地
・利用する子どもの人数と年齢
本研究の調査対象となった家庭が日頃ベアリスを利用する子どもの平均人数は1.10人であ る。また,平成27年度利用家族の平均は 1 家族当たり1.26人の利用児である。さらに調査対 象となった利用児年齢は,ベアリスの年間利用児の年齢分布よりも 0 歳児の割合が低く, 2 歳児の割合が高かった。
利用児の年齢 平成27年度 利用児の年齢
・初めて子育て支援拠点を利用するきっかけ(複数回答可)
その他の記述として,母子手帳交付時に知った方もおり,出産前から出産後に必要とされ る情報を得ている方もいた。その一方,通園してる保育園からの情報と挙げた方もおり,第
2 子以降の子育てで初めて利用する方もいることがわかる。
子育て支援拠点利用のきっかけ
・利用する子育て支援拠点を選ぶ際に重要視すること(複数回答可)
物的環境のほかに,スタッフとの相性といった人的環境,さらにその他の意見として,衛 生面や清潔感,居心地の良さなど保護者が安心して過ごせるか。といった点も重要視してい るといった記述がみられた。また,閉館時間など,各家庭や子どものペースに合わせた時間 内に利用できるか。といったことも重要視されていた。
子育て支援拠点を選ぶ際に重要視すること
②子育て支援拠点に期待する支援と受けている支援の差異
まず,普段利用している支援拠点に期待する支援と受けている支援の平均得点に差がある かどうかを,対応のあるサンプルの t 検定を用いて検討を行った(表 1 )。その結果,「親同 士が話せる場所」(t(29)=2.62, p<.05),「子育てに関する悩み相談」(t(29)=3.00,p<.01),
「親の仲間づくり」(t(29)=2.56, p<0.5),「子どもの仲間づくり」(t(29)=2.53 p<0.5),「親 のリフレッシュの場所」(t(29)=2.24 p<0.5)について期待と受けている支援に有意な差が 示された。
表 1 子育て支援拠点に期待する支援と受けている支援
期待 受けている
平均値 SD 平均値 SD
地域の子育て情報(df=28) 4.17 0.85 4.07 1.03 子どもが遊べる場所(df=29) 4.57 0.97 4.10 1.03 親同士が話せる場所(df=29) 4.40 0.62 4.03 0.72 * 子ども同士が触れ合える場所(df=29) 4.40 1.00 4.07 0.74 子育てに関する悩み相談(df=29) 4.03 0.72 3.67 0.80 **
親の仲間作り(df=29) 4.01 1.84 3.73 1.28 *
子どもの仲間づくり(df=29) 3.90 0.88 3.43 0.94 * 親のリフレッシュの場(df=29) 4.37 1.10 3.87 0.63 *
*p<.05 **p<.01
③ベアリスの印象と期待するもの
続いて,ベアリスの印象と期待する支援の平均得点に差があるのかを対応のあるサンプル のt検定を用いて検討をした(表 2 )。その結果,「大学教員(専門家)の話を聞く機会」
(t(29)=3.16, p<.01),「自然と触れ合う機会」(t(29)=3.50, p<.01)について,印象と期待に 有意な差が見られた。
表 2 ベアリスの印象と期待
期待 受けている
平均値 SD 平均値 SD 異年齢(学生など)の人と子どもが触れ合うことができる(df=29) 4.07 0.78 4.13 0.82 大学教員(専門家)の話を聞く機会がある(df=29) 3.80 0.89 3.13 1.28 **
自然と触れ合うことができる(df=29) 4.43 0.68 3.97 0.89 **
おもちゃ,絵本が充実している(df=29) 4.73 0.52 4.85 1.40
**p<.01
③ベアリスで活動している学生の印象や期待
学生についての記述に関しては,「「子どもに対していつも笑顔で接していただけけるので 安心感があります。」「フレッシュで子どもに対する優しい気遣いがありがたいです。」といっ た肯定的に受けている方が多い。また「,うちの子は基本他人に近づかない。でもここの学 生さんには初顔であっても遊んでもらって笑っていたのでホッ。」といった我が子の新しい姿 に気付くきっかけとなったり,「いつも優しく接してくれるのでありがたいです。子どもがう れしそうにしている姿を見られます。」といった安心感を持っていただいている記述も見られ た。一方,「緊張されているのか少し固い印象があるのでもう少しリラックスされてくれると いいなと思います。」といった記述も見られる。
④ベアリスへの要望
「赤ちゃんと一緒に受けられる講座(ベビマ以外のもので,子どもとの関わり方や,子育て
について)をやって欲しい。」といった子育て講座開催についての要望が出された。さらに
「もう少し外遊びができる場所があると季節を感じたり 2 ~ 3 歳くらいの子が遊びやすい」と いった環境面や「利用できる日と時間を長くして欲しい」「自由に来られる日を増やして欲し い。」という多様な利用者の生活スタイルに合わせた支援体制への要望が述べられていた。
5 .考 察
熊谷市内には多くの支援拠点が開設されているため,行こうと思えばいつでも足を運び,
支援を受けられ,さらに他の親子との交流も自然と行える環境にある。しかし,本調査の結 果を見ると,子どもが安全に活動できる場4 4 4 4 4 4 4 4 4 4 4 4 4(傍点筆者)は用意されているものの,その子ど もを取り巻く保護者への精神的支援の場4 4 4 4 4 4 4 4 4 4 4 4が十分に提供できていないことが伺える。どんな時 代も親になる準備や親になってからの応援者が必要であるが,現在,それらを祖父母や親戚,
隣近所に求めることは困難となってきている。さらに,血縁,地縁もない中,子育てを始め てすぐに子育て仲間を自らの力のみで作り出すことは困難であることは容易に想像できる。
現在,一緒に子育てをしていく仲間,気軽に子どものこと,自らの生活について話ができる 場を求めている保護者は多いものの,そのニーズを子育て支援拠点で満たすことができてい ないのであろう。こういった保護者の認識が,「新たに利用したり,利用日数を増やしたいと は思わない」とした子育て家庭が49.3%(熊谷市子ども・子育て支援事業計画(2015年))と 高くなった理由の 1 つであると考えることができるのではないだろうか。
また,保護者同士で情報や悩みを共有しているだけでは解決できないこともある。そんな ときに必要とされるのが専門家からの助言や,一歩離れた場所から見守ってくれる支援拠点 スタッフの情報ではないだろうか。本調査により,利用者は,子育てに対する専門的知識や 助言を求めていることが明らかとなった。ベアリスがあるからこそ身近になった「大学」が 持つ専門的知識を得られる環境を,今後どのような形で利用者に提供できるのか。それが課 題であると思われる。さらに,子育て支援拠点従事者は必ずしも保育士や教員など有資格者 である必要はなく,「子育て支援に関して意欲があり,子育てに関する知識・経験を有する 者」(地域子育て支援拠点実施要項)とされている。従って,子育て支援拠点の支援職者は常 に新しい情報や知識を学ぶことを怠らないことが必要である。目の前にいる利用者がどんな ニーズがあって利用しているのか,また,どんな課題があるのかについて利用者の様子を見 ながら距離の取り具合を調整できる力も必要である。子育て支援の現場では支援する4 4,され4 4 る4といった関係ではなく,連携していく関係性を築いていくこと,安心して人と人とのつな がりを持てるようにしていくことが重要であると考える。子育て支援拠点では保護者が持っ ている力を信じ,その力を引き出していくような支援職者の関わりが重要である。また,子 どもや子育てに関する知識や経験が少ない保護者に対し,自らのニーズに応じた勉強の場が 得られるようなプログラムを用意する必要がある。熊谷市には多くの支援拠点があるからこ そ,互いに支援方法を学びあいながら,それぞれの拠点の持つ資源を活用してのプログラム
を用意し,熊谷市全体の子育て支援の質を高めていくことができるのではなだろうか。
本調査では,ベアリスで活動する学生について利用者がどのように感じているのかも明ら かとなった。肯定的な意見の一方,学生が子どもと接する経験のなさから生まれる不安につ いて述べている記述も見られた。現在子育て中の保護者が子どもと接する機会が少なく,子 育て不安の一因となっていることは様々な研究により明らかになっているが,いずれ父,母 となる学生たちも少なからずその傾向はみられている。将来の子育てに関する予備体験とし て乳幼児を交流することは,育児不安や虐待の予防につながることが先行研究でも明らかと なっている。また,学生と乳幼児が出会い触れ合う機会を提供するための受け入れを子育て 支援拠点が推進していくことも求められている。これらの活動により,保護者が我が子の成 長の見通しを持てたり,学生に「子ども」「子育て」について知識を伝える機会が得られるこ とで,保護者自身が不安感を軽減し,自信を取り戻すきっかけになることが推測される。ベ アリスが開所される前と比べるとキャンパス内に子育て家族がいるため,学生は身近に子育 て家庭を見かけたり働きかける機会は多くなっているであろう。しかし現在,ベアリスで活 動する学生は固定化されており,ベアリスでのボランティア経験をもつ学生の割合は低い。
地域に貢献する人材を育成することはもちろん,将来の子育て家庭,保護者を育成する。と いった視点での役割もベアリスには期待されているのである。
立正大学内にベアリスが開設されてから約 6 年間,延べ22.000人を超える利用者が訪れ,
豊かな環境のもと他の子育て家族,スタッフ,学生と交流を重ねてきた。前述したように,
子育て支援の場では,互いに連携し,対等な立場での関わり合いが必要である。大学といっ た教育,研究機関では「教える」「教えられる」といった関係性が必要である場合もあるが,
子育て支援拠点では互いに学びあい成長しあえる「横並び」の関係でとらえていくことが必 要なのである。大学に蓄積された知的資源,人的資源が子育て家庭と「横並び」の関係の中 で互いに学び,成長しあえるよう,大学と支援拠点の連携をより一層高めていくことが今後 の課題である。
なお,本研究は,立正大学社会福祉学部20周年記念プロジェクト「地域子育て支援センター の現状と課題」の一環として実施したものである。
参考・引用文献
・熊谷市(2015) 熊谷市子ども・子育て事業計画
・大澤 歩(2016)「ノーバディズ・パーフェクトプログラムが母親に与える効果」
・塚本 美知子,薮中 征代(2015)『私たちの社会貢献の学びと実践―学生と地域をつなぐ 子育て支援―』萌文書林
謝 辞
本研究の趣旨を理解し,快く調査協力を頂きました保護者の皆様に厚く御礼を申し上げます。