〈論説〉所有権留保における担保としての機能と限界に関する一考察
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(2) 所有権留保における担保としての機能と限界に関する一考察. 抗要件は観念できないと理解されていたと思われる4)。ところが,最判平成22 年6月4日民集64巻4号1 107頁5) は(以下,「平成22年最判」という。 ),自動 車の売買代金の立替払いをした信販会社が,当該自動車につき留保した所有権 を別除権として行使するためには,再生手続開始時点で所有者としての登録が 必要であると判断した。また,東京地判平成2 2年9月8日判タ1350号246頁,金 判1368号58頁(以下,「平成22年東京地判」という。 )6) は,平成22年最判をさ らに進めた形で,所有権留保の法律構成を論じ,動産の所有権留保につき,民 事再生手続において売主が留保所有権を行使するためには,対抗要件としての 引渡しが必要であるとした。平成22年東京地判の控訴審判決(東京高判平成23 年6月7日判例誌未登載)は,売主の控訴を棄却し,これに対する売主の上告 及び上告受理申立てに対し,最高裁は,上告棄却・上告不受理の決定を下した (最一小判平成24年2月2日判例誌未登載)7)。これらの判決は,所有権留保の 対抗要件に関する従前の理解とは異なるようにみえる。平成2 2年最判の事案 は,信販会社,すなわち,売主ではない第三者による所有権留保(以下では, このような所有権留保を「第三者所有権留保」という。 )であり,売主が所有 権を留保する所有権留保(以下では,このような所有権留保を「売主所有権留 4)たとえば,安永・前掲注1)4 3 4頁,河上正二「非典型担保(その6)」法セミ681号99頁以下 (2011),松岡久和「物権法講義41[第38回]所有権留保」法セミ712号81,82頁(2014年)等。 5)本判決の解説として,山田真紀・法曹時報65巻10号147頁以下がある。また,本判決の評釈等は 多いが,小山泰史・判例セレクト2 010[Ⅰ]16頁,印藤弘二・金法1 928号80頁,佐藤鉄男・民商1 43 巻4・5号489頁,小林明彦・金法1 910号11頁,野村秀敏・金判1 353号13頁,小林久起・別冊判タ 32号284頁,田頭章一・私法判例リマークス43号134頁,山本和彦・金判1361号68頁,上江洲純子・ ジュリ1420号175頁,直井義典・香川法学3 1巻1・2号1 32頁以下,和田勝行・民商法雑誌1 70巻1 号120頁,杉本和士・法学研究86巻10号90頁等がある。また,後述の平成22年東京地判と平成22年 最判の両方を検討対象とするものとして,田高寛貴「所有権留保の対抗要件に関する一考察」清水 元ほか編『財産法の新動向(平井一雄先生喜寿記念)』(信山社,2012年)235頁以下がある。 6)本判決の評釈等として,印藤弘二・金法1932号4頁,野村剛司・速報判例解説10号189頁,田村 耕一・みんけん656号2頁以下(以上,20 11年),下村信江・法律時報84巻12号84頁(2012年)があ る。 7)これらの判決については,遠藤元一「動産担保の『見える化』はどこまで本格化するのか」NBL 980号1頁(2012年),同「所有権留保はどこまで活用できるのか―東京高判平成23・6・7判例誌 未登載の紹介と分析」NBL 998号40頁以下(2013年)(以下,遠藤②として引用)を参照. ― ― 124.
(3) 法科大学院論集 第11号. 保」という。)とは異なる側面を有すると言える8)。しかし,平成22年東京地 判は,売主所有権留保の事案において,平成22年最判と同様に,民事再生手続 において所有権留保を主張するためには,対抗要件が必要であると解した9)。 平成22年最判も平成22年地判も民事再生における所有権留保が問題とされた事 例であるが,これらの判決によって,所有権留保には対抗要件は必要ないとす る民法における一般的な理解が変更されたと言えるのだろうか。所有権留保が 担保として機能する場合は,買主が代金の支払いを怠るときであるが,そのと きに公示が要求されて所有権留保の実行ができなくなるのでは,担保として機 能することが最も期待される場面でその機能を果たさないことになりかねな い。そこで,本稿では,主として,近時の判例・裁判例を検討し,所有権留保 の担保的機能とその限界につき検討してみたい。. 二 所有権留保の法的構成と公示 1 判例の状況10) 判例は,所有権的構成に親和的であるといわれており,①最判昭和49年7月 18日民集28巻5号743頁は,買主の一般債権者が目的物を差し押さえた場合,売. 8)第三者所有権留保と売主所有権留保の差異に着目するものとして,石口修「留保所有権の譲渡と 譲受人の法的地位―最(二小)判平成22年6月4日の再検討・日独比較法の観点から―」千葉大学 法学論集2 8巻1=2号3 9頁以下(2 013年),関武志「民事再生手続におけるクレジット会社の法的 地位(上) (下)―最判平22・6・4民集六四巻四号一一〇七頁の事件を素材にして」判時2173号3 頁以下,2 174号3頁以下(2 013年),鈴木尊明「所有権留保特約の解釈とその実行―民事再生手続 における別除権行使が問題となった近時の判決を素材にして―」早稲田方学会雑誌64巻2号441頁以 下(2014年)がある。また,いわゆるオートローンについては,田高寛貴「多当事者間契約による 自動車の所有権留保―最二小判平22・6・4の評価と射程―」金法1950号48頁以下(2012年)に詳 しい。 9)ただし,平成22年最判が「対抗要件」を必要としたものであるかは議論の余地があり,権利資格 保護要件であるとする見解もみられる。 10)所有権留保に関する裁判例を整理したものとして,加藤新太郎編『判例 Check 債権・動産担保 の効力』(新日本法規出版,2001年)434頁以下等がある。. ― ― 125.
(4) 所有権留保における担保としての機能と限界に関する一考察. 主(あるいは売主から目的物を買受けた第三者)は,所有権に基づいて第三者 異議の訴を提起し,その執行の排除を求めることができるとし11),また,②最 判昭和42年4月27日判時492号55頁は,買主から目的物を買い受けた者が所有 権を取得するには,即時取得によるとする。 既登録の自動車については即時取得(民法192条)が認められないことを前 提に,③最判昭和5 0年2月2 8日民集2 9巻2号1 93頁12)は,自動車のディーラー XがサブディーラーAに所有権留保特約付きで売却した自動車がユーザーYに 転売され,Yは代金を完済したが,AがXへの代金の完済を怠った場合に,X のYに対する,留保された所有権に基づく自動車の引渡請求は,権利の濫用と して許されないとする。 また,近時の最高裁判決として,④最判平成21年3月10日民集63巻3号385 13). 頁. がある。④判決は,購入代金を立替払した者が立替金債務の担保として所. 有権を留保した売買の目的動産(車両)が第三者の土地上に放置されている場 合に,留保所有権者の目的動産の撤去義務が問題となった事案であり,本件立 替払契約では,留保所有権者は,買主が本件立替金債務について期限の利益を 喪失しない限り,目的動産を占有,使用する権原を有しないが,買主が期限の 利益を喪失して残債務全額の弁済期が経過したときは,買主から目的動産の引 渡しを受け,これを売却してその代金を残債務の弁済に充当することができる とされていることから,次のように判示する。「留保所有権者は,残債務弁済期 が到来するまでは,当該動産が第三者の土地上に存在して第三者の土地所有権 の行使を妨害しているとしても,特段の事情がない限り,当該動産の撤去義務 や不法行為責任を負うことはないが,残債務弁済期が経過した後は,留保所有 11)本判決の解説として,東條敬・最高裁判所判例解説民事篇昭和49年度75頁以下がある。 12)本判決の解説として,田尾桃二・最高裁判所判例解説民事篇昭和50年度82頁以下がある。 13)本判決の解説として,柴田義明・法曹時報64巻8号87頁以下がある。また,本判決の評釈等とし て,藤澤治奈・NBL 909号9頁,遠藤元一・金判1 325号2頁(以上,2009年)片山直也・金法1 905 号37頁,安永正昭・金法1890号12頁,占部洋之・民商142巻6号553頁,石田剛・速報判例解説7号 91頁(以上,2010年),渡邊博己・NBL 947号54頁以下(2011年)等がある。. ― ― 126.
(5) 法科大学院論集 第11号. 権が担保権の性質を有するからといって上記撤去義務や不法行為責任を免れる ことはないと解するのが相当である。なぜなら,上記のような留保所有権者が 有する留保所有権は,原則として,残債務弁済期が到来するまでは,当該動産 の交換価値を把握するにとどまるが,残債務弁済期の経過後は,当該動産を占 有し,処分することができる権能を有するものと解されるからである」。 ④判決は,残債務の弁済期到来の前後で所有権留保の法律関係を区別して論 じるが,この判断枠組みについては,所有権移転型担保である譲渡担保,特に, 不動産譲渡担保に関する判例法理14) の影響を受けていることが指摘されてい る15)。. 2 学説の状況 平成22年最判及び平成22年東京地判によると,倒産手続においては,所 有権留保に対抗要件が必要となるが,従前,民法学における議論では,所有権 留保には物権変動はなく対抗要件は観念できないとする見解が一般的であった と思われる。そこで,所有権留保の法的構成及び公示について,従前の民法学 説を確認する16)。 所有権留保の法的構成については,譲渡担保と同様に,所有権的構成と 担保権的構成の二つの見解に大きく分けられる。もっとも,今日においては, 所有権留保が担保目的で利用されることを否定する見解はないため,担保目的 14)最判昭和62年2月12日民集41巻1号67頁。特に,強い影響を及ぼしていると考えられる最判平成 18年10月20日民集60巻8号3098頁は,被担保債権の弁済期後,譲渡担保権者は,目的不動産を処分 する権能を取得するため,設定者は,譲渡担保権者の差押債権者に対しても,差押え後の受戻権行 使による目的不動産の所有権の回復を主張することができないと判示し,弁済期到来後の法律関係 と弁済期到来前の法律関係とは異なることを示している。 15)たとえば,片山・前掲注13)38,39頁,安永・前掲注13)号17頁,小山泰史「譲渡担保等におけ る『被担保債権の弁済期の先後』ルールの帰趨―所有権留保等への拡張を素材として―」立命館法 学327・328号318頁以下(2009年)等を参照。 16)柚木馨=高木多喜男編『新版注釈民法物権』(有斐閣,1998年)914頁〈安永正昭〉は,担保 権であるとの意味を強調すると,特約による所有権留保の設定の公示を問題にする余地があるとす る。また,学説の概要については,田村精一『所有権留保の法理』(信山社,2012年)以下を参照。. ― ― 127.
(6) 所有権留保における担保としての機能と限界に関する一考察. で制限された所有権が売主,買主のいずれに帰属すると考えるかの違いである といって大過ないだろう。 また,法的構成によって法的解決が演繹的に定まるものではないという指摘 がなされている17)。 所有権的構成 古くは,目的物の所有権は完全に売主に属するとする説もみられたが,近時 は,債権担保の趣旨を意識して,買主にも物権的な権利の帰属を認める見解が 多い。すなわち,債権者(=売主)に目的物の所有権が帰属するが,それは担 保目的に制限され,かつ,債務者(=買主)に物権的な権利(物権的期待権) が帰属すると考えることになる18)。 この立場では,物権変動がないので,売主の留保所有権は対抗要件具備の必 要がないことになる。むしろ,買主の物権的期待権は対抗要件具備の必要があ ることになるが,目的物件の引渡により具備されたと考えればよいとされる 19) (もっとも,実際には公示機能がないに等しい。) 。. 担保権的構成 この構成に立つものとして,担保の実質に着目し,売買契約(代金一部支払 と目的物の引渡)によって目的物の所有権は買主に移転し,所有権留保特約(留 保所有権の設定契約)によって,売主は一種の担保物権である留保所有権を取 得するという見解がある20)。 17)山野目・前掲注3)379頁,松岡・前掲注4)80頁。 18)道垣内弘人『担保物権法(第3版)』 (有斐閣,2008年)361頁,平野裕之『担保物権法〔第2版〕』 (信山社,2009年)326,327頁,内田貴『民法Ⅲ[第3版]』(東京大学出版会,2005)557頁,. 橋. 眞『担保物権法[第2版]』(成文堂,2010年)316頁等。 また,松田佳久「所有権留保における物権的期待権概念の必要性(3・完)」創価法学42巻 3号47頁以下,43巻1号7 5頁以下,43巻2号233頁以下(2013年)は,物権的期待権の機能につい て検討する。 19)道垣内・前掲注18)362頁。 20)高木多喜男『担保物権法〔第4版〕』(有斐閣,2005年)379,380頁,近江幸治『民法講義Ⅲ 担 保物権〔第2版補訂〕 』 (成文堂,2007年)324頁,松井宏興『担保物権法(補訂版)』 (成文堂,2008 年)226頁等。. ― ― 128.
(7) 法科大学院論集 第11号. これらの見解では,一種の担保権が設定されることになるので,担保権とし ての対抗要件を考えることが可能となるが,対抗要件具備を占有改定によると する説21),あるいは,公示方法なくして対抗力を有する担保権とする説があ る22)。 また,売買目的物の所有権は買主に帰属し,売主には,売買代金債権を被担 保債権とする抵当権が帰属するとする説があり,この説では,公示なくして第 三者に対抗できるとされる23)。さらに,近時は,買主が売主のために売買目的 物上に譲渡担保権を設定したものと考える見解も主張されている24)。. 3 平成22年東京地判の概要 平成22年東京地判は,民事再生手続における所有権留保が問題となった事案 であるが,第三者所有権留保ではなく,売主所有権留保の事例であり,所有権 留保に関する学説が念頭に置いてきた類型であったといえる。そこで,平成22 年東京地判については,少し詳しく検討してみることとする。 【事案の概要】 X(原告)とY1(被告)は,Y1 がXから家庭用雑貨等の商品(動産)を買 い受けることについての基本契約(「売買商品の所有権は,売買代金の支払があ るまでXに留保されるものとする」という所有権留保特約がある)を締結した。 Xは,平成21年9月1日から同年10月31日にかけて,Y1 に対し,商品を売却 し,Y1 は,Y2(被告)にこれらの商品の一部を転売していた。Y1(及びY2) は,平成21年12月1日に民事再生手続開始決定を受けたことから,Xは,所有 権に基づき,Y1 及びY2 に対して,当該商品の引渡等を求めた。 21)高木・前掲注20)381頁,松井・前掲注20)227頁。 22)近江・前掲注20)324頁。 23)米倉明『所有権留保の実証的研究』(商事法務研究会,1977年)300頁以下。 24)加賀山茂『債権担保法講義』 (日本評論社,2011年)555頁。石田穣『民法大系担保物権法』 (信 山社,2010年)766頁は,「返還義務を伴って売主に所有権が移転される場合」は「売主のために譲 渡担保権を設定することに外ならない」とする。. ― ― 129.
(8) 所有権留保における担保としての機能と限界に関する一考察. 【判旨】 〈請求棄却〉 ①XとY1 の商品売買においては,Xが毎月末までに納品した商品の売買代 金を,まとめて翌月末に支払うこととされており,当該売買代金の支払がある まで,納品された商品の所有権がXに留保される旨のいわゆる所有権留保特約 が締結されている。本件基本契約においては,XとY1 間の売買においては, XがY1 に商品を納入した後,売買代金の支払を受けるまでの間にY1 による商 品の処分を制限する定めはなく,Y1 は,Xから仕入れた商品を,代金の支払の 有無にかかわらず,Y2 や他の取引先に転売していた。そして,Y1 はY2 の仕 入部門としての役割を主に担っており,仕入れた商品を転売することが当然に 予定されており,Xもこれを認識していたと認められるから,Y1 による上記 のような商品の売却は,Xも許容するところであったものと推認される。 ②XとY1 間の売買においては,個別に商品を売買する際に,売買の対象で ある商品についての物的支配権をY1 に移転することが予定されており,その 上で,Y1 から約定どおりに代金の支払がなされない場合等に,Xが,Y1 との 売買契約を解除し,売却した商品の引渡しを受けることにより,実質的に売買 代金債権を担保することが想定されていたものと認められる。したがって,上 記所有権留保特約は,Xの下に商品の完全な所有権をとどめる趣旨ではなく, Y1 に所有権を移転した上で,Xが,売却した商品について担保権を取得する 趣旨のものであると解するのが相当である。 ③Xが本件商品について有する権利は,所有権ではなく,担保権の実質を有 するものであるから,同権利は,Yらについて開始された再生手続との関係に おいて,別除権(民事再生法53条)として扱われるべきであると解される。再 生手続が開始した場合において再生債務者の財産について特定の担保権を有す る者が別除権を行使するためには,個別の権利行使が禁止される一般債権者と 再生手続によらないで別除権を行使することができる債権者の衡平を図るなど ― ― 130.
(9) 法科大学院論集 第11号. の趣旨から,原則として再生手続開始の時点で当該特定の担保権につき登記, 登録等の対抗要件を具備している必要があると解される(民事再生法4 5条参 照)。したがって,Xが本件商品について有する権利(「留保所有権」)につい ても,再生債務者であるYらに対してこれを主張するためには,対抗要件の具 備を要する。 ④「本件における所有権留保は,商品についての所有権をY1 に移転した上 で,Xが,Y1 から担保権を取得したものと解するのが相当であって,Y1 によ るXのための担保権の設定という物権変動を観念し得るから,本件においてX が有する担保権(留保所有権)について,対抗要件の具備において,他の担保 権と異なると解することはできない。」 ⑤「本件商品は動産であるから,本件商品についてのXの留保所有権の対抗 要件は,引渡しであると解される(民法1 78条)ところ,本件商品は,すべて Y1 に引き渡されているから,Xが対抗要件を具備していたと認めることはで きない。」. 「本件商品については,Xは,占有改定の方法によって占有を取得し,対抗要 件を具備する余地もあると考えられるが,本件基本契約においては,Y1 が,X から納品を受けた本件商品を,代金支払の有無に関わらずY2 や他の取引先に 転売し引き渡すことが予定され,Xもこれを許容していたことや,Yらの下に ある在庫商品について,Xから仕入れた本件商品が,他の仕入先から仕入れた 商品と分別して保管されておらず,他の仕入先から仕入れた商品と判別するこ とができない状況であったこと…などからすれば,本件商品の売却に際し,占 有改定がされたと認めることはできない。」 以上によれば,Xは,Yらに対し,本件商品の所有権に基づいてその引渡し を請求することはできず,また,本件商品についての留保所有権を,別除権と してYらに対して主張し,その実行として引渡しを請求することもできない。 ― ― 131.
(10) 所有権留保における担保としての機能と限界に関する一考察. 4 倒産手続における所有権留保の取扱い25) 平成22年最判及び平成22年東京地判は,民事再生手続において所有権留 保の公示が問題となった事例である。そこで,倒産手続における所有権留保の 処遇を簡単に確認しておくことにする。 破産・再生手続においては,所有権留保を別除権として扱うとするのが通説 であり26),実務上も定着しているとされている。 平成22年最判は,「X(信販会社)が,本件立替金等債権を担保するために, 販売会社から本件自動車の所有権の移転を受け,これを留保することを合意し たものと解するのが相当であり,Xが別除権として行使し得るのは,本件立替 金等債権を担保するために留保された上記所有権であると解すべきである」と した。そして,「再生手続が開始した場合において再生債務者の財産について 特定の担保権を有する者の別除権の行使が認められるためには,個別の権利行 使が禁止される一般債権者と再生手続によらないで別除権を行使することがで きる債権者との衡平を図るなどの趣旨から,原則として再生手続開始の時点で 当該特定の担保権につき登記,登録等を具備している必要があるのであって (民事再生法45条参照),本件自動車につき,再生手続開始の時点でXを所有者 とする登録がされていない限り,販売会社を所有者とする登録がされていて も,Xが,本件立替金等債権を担保するために本件三者契約に基づき留保した 所有権を別除権として行使することは許されない」と判示する。 平成22年最判は,所有権留保が別除権として扱われる旨を一般論として述べ たわけではないが,これを前提としていると思われる27)。また,平成22年最判 25)所有権留保特約付売買について,双方未履行双務契約性が認められるかという問題もあるが(破 産法53条,民事再生法49条),本稿では扱わない。この問題も含め,倒産手続における所有権留保に 関しては,印藤弘二「所有権留保と倒産手続」金法1951号62頁以下(2 012年)に詳しい。 26)伊藤眞『破産法・民事再生法[第2版]』(有斐閣,2009年)346頁,山本克己編『破産法・民事 再生法概論』(商事法務,2013年)190頁〈佐藤鉄男〉,藤本利一=野村剛司『基礎トレーニング倒 産法』(日本評論社,2014年)172頁〈赫高規〉等。 27)山田・前掲注5)161頁,小林・前掲注5)285頁参照。. ― ― 132.
(11) 法科大学院論集 第11号. の事案では,売主以外の第三者(信販会社)が所有権を留保しているが,平成 22年東京地判は,売主の売買代金債権を担保するために,売主によって所有権 が留保された事案である。 動産の所有権留保が再生手続において別除権として行使される場合に, 対抗要件を具備することが必要とされるのか。 民事再生法45条は,再生手続開始前に生じた登記,登録原因に基づき再生手 続開始後にされた登記,登録は,再生手続の関係において,その効力を主張で きない旨を定める。したがって,登記・登録を対抗要件とする担保権について は,手続開始前に登記・登録の具備が必要であるが,登記・登録を対抗要件と しない担保権についても,同様に考え,動産の質権や譲渡担保権については, 引渡しが対抗要件となるので,再生手続開始時に引渡しが未了の場合には,別 除権として扱われないとする見解が存した28)。 平成22年最判の事案では,所有権留保の目的物は既登録自動車であったが, 平成22年最判は, 「再生手続開始の時点で当該特定の担保権につき登記,登録等 を具備している必要がある」と判示している。そこで,かかる「登記,登録等」 に,動産に関する引渡し(民法178条)が含まれるとの見解が示されていた29)。 そして,平成22年東京地判は,すでに見たとおり, 「再生手続開始の時点で当該 特定の担保権につき登記,登録等の対抗要件を具備している必要がある」とし, 引渡しが必要であるとしたものである。. 28)福永有利監修『詳解民事再生法〔第2版〕』(民事法研究会,2009年)310頁。 29)印藤・前掲注5)85頁。また,山本・前掲注5)71頁は,平成22年最判の判旨の実質論から他の 対抗要件の場合を除外する必然性はないと思われるとする。. ― ― 133.
(12) 所有権留保における担保としての機能と限界に関する一考察. 三 フランス法における所有権留保 担保として留保された所有権(De la propri t retenue. titre de garantie). フランスでは,今日では,所有権留保は,フランス民法典において,担保と して規定されるに至っている。そこで,所有権留保を担保として扱う場合の一 例として,フランス法における所有権留保の概要を確認してみたい。 フランスでは,1980年5月12日の法律335号によって,買主が破産した場合 に,所有権留保条項に基づく売主の取戻しが認められるようになり30),1985年 1月25日の法律も1980年5月12日の法律と同様の規律を認めた。フランスの判 例は,所有権留保の担保としての性質を認めていたが31),2006年に行われた担 保法改正により,所有権留保は担保としてフランス民法典に規定された(フラ 32) ンス民法典2367~2372条) 。. 30)1980年5月12日の法律に関しては,山野目章夫「フランス破産法制における所有権留保売買の処 遇」判タ507号193頁以下(1 983年),滝沢聿代「フランス法における所有権留保条項」山口俊夫編 『東西法文化の比較と交流』4 75頁以下(有斐閣,1 983年),道垣内弘人『買主の倒産における動産 売主の保護』(有斐閣,1997年)71頁以下等を参照。 31)Cass.com.15 mars 1988, Bull. civ. IV, no 106. 本判決を含むフランスの所有権留保に関する判例 及び学説の動向については,原恵美「所有権留保の代位行使」松川正毅=金山直樹=横山美夏=森 山浩江=香川崇編『判例にみるフランス民法の軌跡』(法律文化社,2012年)317頁以下も参照。 32)フランス担保法改正後の所有権留保に関しては,次の文献を参照している(本文中の条文訳も下 記の邦語文献を参照させて頂いている)。山野目章夫=平野裕之=片山直也「フランス担保法改正の 概要」ジュリ1335号3 2頁以下(2007年),平野裕之「特集フランス担保法2006年改正(改正経緯お よび不動産担保以外の主要改正事項) 」日仏法学25号9頁以下(2009年),平野裕之=片山直也「フ ランス担保法改正オルドナンス(担保に関する2 006年3月23日のオルドナンス2006346号)による 民法典等の改正及びその報告書」慶應法学8号163頁以下(2007年),「フランス担保法改正予備草 案」慶應法学9号203頁以下(2008年),松田・前掲注18)43巻2号236頁以下。また,以下の各注 で,注記するほかに,主として,次の仏語文献を参照している。注記の煩瑣を避けるため,詳細な 注を伏していない場合があることをお断りしておきたい。Ayn s L. et Crocq P., Les s ret s, La publicit fonci re, Defr nois, 8e d., 2014, Cabrillac M., Mouly Ch., Cabrillac S. et P tel Ph., Droit des s ret s, Litec, 9e d., 2010, Legeais D., S ret s et garanties du cr dit, LGDJ, 8e d., 2011, Jorbard-Bachellier M.-N., Bourassin M. et Br mond V., Droit des s ret s, Sirey, 4e d., 2013, Simler Ph. et Delebecque Ph., Les s ret s-La publicit fonciaire, Pr cis Dalloz,5e d.,2009,. ― ― 134.
(13) 法科大学院論集 第11号. フランス民法2367条1項は, 「財産の所有権は,契約による所有権移転の効果 をその対価を構成する債務の完済にかからしめる所有権留保条項の効果によ り,担保として保持することができる」として,所有権留保が担保としての性 質を有することを明文化している。本条項により,所有権留保条項が所有権移 転の対価を担保するものであることが明らかにされており,これら以外の債権 が被担保債権に含まれないことが明らかであると解されている33)。 なお,所有権留保が可能であるのは,売買契約に限定されず,請負契約にお いても可能であるとされている34)。 35) また,所有権留保は,被担保債権に附従する(2367条2項) 。そこで,フ. ランス民法1692条により,所有権留保は,被担保債権である代金債権とともに 移転すると考えられる36)。. 所有権留保の成立・公示 所有権留保の目的物は,財(bien)であり,動産も不動産も含まれる(フラ ンス民法2367条)。 所有権の留保は,書面によって合意される(フランス民法2368条)。しかし, だからといって,所有権留保が要式契約となったわけではないと考えられてい るようである。その理由としては,改正予備草案2 381条においては,書面に よって合意されなければ所有権留保が無効となることが提案されていたが,改 Michel Farge, Les S ret s, PUG, 2 007, Voinot D, Rep.com, 2008, Crocq P, La r serve de propri t , JCP 2006, suppl. no 20, Jean-Jacques Ansault, La propri t. r serv e. titre de. garantie, in“L’encyclop die Lamy Droit des s ret s” ,2 012. 33)Legeais, op.cit., no 7 4 4, Jobard-Bachellier, Bourassin et Br mond, op.cit., no 1699, note 4は,こ の 点 が ド イ ツ 法 と 異 な る こ と を 指 摘 す る。ま た,Christophe JUILLET, Les accessoires de la cr ance, Defr nois, 2 009, no 453も参照。 34)ただし,以下の記述では,便宜上,債権者を「売主」としている。 35)フランス民法2367条2項は, 「このようにして留保された所有権は,それが弁済を担保した債権の 従たるもの(accessoire)である」と定める。 36)フランス民法1692条は, 「債権の売却又は譲渡は,保証人(caution) ,先取特権及び抵当権のよう に,債権に付随するもの(les accessoirs)を含む」と規定する。. ― ― 135.
(14) 所有権留保における担保としての機能と限界に関する一考察. 正後の民法2368条は,書面によらない場合を無効とする規定ではないこと,ま た,動産質(gage)や債権質(nantissement)では,書面は契約の有効要件で あることとの対比が挙げられている37)。 フランス商法典 L.62416条2項は,所有権留保条項が,目的物の引渡より前 に,書面で合意されていることが必要であるとするが,これは,フランス倒産 手続において,取戻訴権(revendication)の行使が認められるための要件であ るとされている38)。 なお,フランス担保法改正予備草案では,所有権留保の公示制度の導入が提 案されていたが,改正後のフランス民法には,所有権留保の公示に関する規定 は存しない。そこで,所有権留保条項を第三者に対抗するために,いかなる公 示も課せられていないということになる。. 所有権留保の効力 所有権留保の目的である財産(bien)の所有権は,債権者である売主に帰属 していると考えられている。期日に代金が完済されない場合には,売主は所有 者として,財産の返還を請求することができるので,所有権留保は,債権者(売 主)にとって実効性のある担保であると考えられている。すなわち,所有権留 保条項の有効性は,所有権留保条項が,期日に支払がなされなかった場合に, 財産(bien)の返還を請求することを債権者に可能にすることに存する(フラ 37)Jean-Jacques Ansault, op.cit., no 29455. なお,フランス担保法改正後における動産質(債権質) 制度については,拙稿「フランスにおける動産質(3・完)」近畿大学法科大学院論集9号9 9頁以 下(2013年)において,紹介したことがある。 38)フランス倒産法については,小梁吉章『フランス倒産法』(信山社,2005年)同「フランス倒産 規則」広島法学30巻1号2 28頁以下,2号172頁以下(2006年),同「2008年フランス債務整理法改 正の意義」広島法学33巻2号286頁以下(2009年)に詳しい。1996年の倒産法改正により,倒産手 続が開始すると所有権留保条項は効力を失うこととされていたのが,再度,取戻訴権が認められた ことになる。 1980年の倒産法改正で,留保売主の取戻権が認められたが,一種の公示を要求していた。この点 につき,山野目・前掲注30)204頁参照。. ― ― 136.
(15) 法科大学院論集 第11号. ンス民法2371条1項)。そして,取り戻された財産の価値は,弁済として,担保 されている債権の未払金に充当され(同条2項),財産の価値が請求可能な債務 の金額を超える場合には,債権者は超過額に相当する金額を債務者に返還しな ければならない(同条3項)。 原則的に,取戻訴権は,財産が,現物で存在していることを前提としてい 39). る. 。しかし,種類財産(bien fongible)についての所有権留保は,支払われ. るべき債権が存在している限り,債務者ないしその計算で保持されている同じ 種類で同じ品質の財産(biens)について行うことができる(フランス民法2 369 条)。種類物が売却され,買主の財産において特定できなくなっても,同じ種類 で同じ品質の財産に対して,所有権留保が認められることになる。 また,所有権留保がされた動産の別の財産(biens)への附合(incorporation) は,その物が損害を生じることなく分離可能であるならば,債権者の権利を妨 げることはない(フランス民法2370条)。これは,判例が認めていたことを明文 化したものであると言われている40)。 所 有 権 留 保 条 項 の 受 益 者 で あ る 債 権 者(売 主)の 保 護 は,物 的 代 位 (subrogation r elle)によって保護される。フランス民法2 372条は,所有権は, 転売先に対する債務者の債権又は財産に替わる保険金に及ぶと定める。これ も,すでに破棄院によって認められていた結論を明文化したものであるとされ ている41)。 39)フランス商法典 L.62416条は,所有権留保条項付きで販売された財産が,手続開始の時に, 現 物 と し て 存 在 し て い る な ら ば,取 り 戻 す こ と が で き る 旨 を 定 め る。そ れ ゆ え,財 の 変 容 (transformation)は,取戻訴権を不可能にする(しかし,判例は,現物での存在の必要性を,自 由に,解釈しているとされ,ワインに変容した葡萄の場合があげられる。Cass.com., 11 juill. 2 006, no 0513. 103, Bull.civ. IV, no 181)。反対に,動産の,他の動産あるいは不動産への添付が,必ずし も,取戻訴権を妨げるとは限らず、フランス民法2370条は, 「所有権留保がなされた動産の他の財へ の附合は,これらの財が損害を生じることなく分離可能であるときには,債権者の権利を妨げるこ とはない」と定める。 40)Albiges et Dumont-Lefrand, op.cit., no 684. 41)Jobard-Bachellier, Bourrasin et Br mond, op.cit., no 1235.. ― ― 137.
(16) 所有権留保における担保としての機能と限界に関する一考察. 買 主 は,引 き 渡 さ れ た 財 産 の 所 有 者 で は な く,容 仮 占 有 者(d tenteur pr caire)の地位にあり,所有権留保の目的である財産を転売することはできな いことになる。しかし,転売予定の商品を対象とする所有権留保では,かかる 結論では不都合ということになるが,転売代金債権に対して権利を行使できる とすることによって(フランス民法2372条),債権者(売主)の保護が図られ ている。 他方,売主は常に保護されるわけではなく,売主が所有者であるといっても, 取戻訴権は,他の債権者が目的である財産に留置権を行使する場合には,認め られないことになる42)。また,所有権留保条項の公示が存在しないことから, 目的物が有体動産である場合に,第三取得者や動産質権者が善意で権利を取得 43) したときには,売主は,取戻訴権を行使できなくなる(フランス民法2276条)。. 倒産手続における所有権留保の処遇44) 債務者(買主)に倒産手続が開始した場合にも,所有権留保条項の効力が認 められている。債務者(買主)が倒産手続開始の対象となっているときには, 取戻訴権は,開始決定から3ケ月以内に行使されなければならない(フランス 商 法 典 L.6249 条) 。こ の 請 求 か ら 1 ケ 月 以 内 に 手 続 機 関(organes de la proc dure)が拒否した場合には,債権者は,この拒否から1ケ月以内に,受 命裁判官に,取戻訴権を提訴しなければならない(商法典 R.6241 3条)。債権 者に課せられる,かかる3ケ月の期間,次いで,1ケ月の期間の不遵守は,倒 産手続に対して,その所有権を対抗することができなくなるということによっ 42)Jobard-Bachellier, Bourassin et Br mond, op.cit., no 1236. 43)フランス民法2 276条は,わが国の即時取得(192条)に相当する規定である。フランスの判例は, フランス民法2 276条が質権者にも適用されることを前提に,2276条の適用の範囲において,動産質 権者を優先させる。これらの判例法理については,西澤佐和子「質権の即時取得」松川正毅ほか編 『判例にみるフランス民法の軌跡』 (法律文化社,2012年)301頁以下に紹介がある。 44)フランスの倒産手続における担保権の処遇については,ピエール・クロック(下村信江訳) 「フ ランス倒産手続における担保の処遇」近畿大学法科大学院論集1 0号161頁以下(2014年)も参照。. ― ― 138.
(17) 法科大学院論集 第11号. て制裁される45)。取戻訴権は,解除請求訴権(action resolutoire)あるいは解 除条項の予めの行使を必要としない46)。 取戻訴権は,手続開始の時に,現物として存在する,所有権留保条項付きで 売却された財産を対象とする(フランス商法 L.62416条2項)。フランス商法 典 L.62416条3項は,種類物に対する取戻訴権の行使を認めている47)。 所有権留保の目的物が転売されていた場合には,取戻訴権は,代金が支払わ れず,債務者と買主の間で,決済もされず(ni r gl en valeur) ,あるいは, 相殺もされていないときには,その代金を対象とする(フランス商法 L.6 2418 条)。また,取戻訴権は,財産に代わる損害保険金に及ぶ(フランス商法 L.6 24 18条) 。すなわち,これらの場合には,物的代位の機能によって,売主は保護 されることになる。. 四 所有権留保の効力 1 対抗要件具備の必要性 平成22年東京地判は, 「本件における所有権留保は,商品についての所有 権をY1 に移転した上で,Xが,Y1 から担保権を取得したものと解するのが相 当であって,Y1 によるXのための担保権の設定という物権変動を観念し得る から,本件においてXが有する担保権(留保所有権)について,対抗要件の具 備において,他の担保権と異なると解することはできない」とし,「本件商品 は動産であるから,本件商品についてのXの留保所有権の対抗要件は,引渡し であると解される(民法178条)」と判示し,本判決の事案では,「本件商品に ついては,Xは,占有改定の方法によって占有を取得し,対抗要件を具備する. 45)Ayn s et Crocq, op.cit., no 802. 46)Ayn s et Crocq, op.cit., no 802. なお,解除の要否につき,原・前掲注31)323頁以下を参照。 47)1994年6月10日の法律による倒産手続法の改正以来である。. ― ― 139.
(18) 所有権留保における担保としての機能と限界に関する一考察. 余地もあると考えられる」としている。 所有権留保には第三者対抗要件が必要であると解する場合には,動産の所有 権留保については,譲渡担保と同様に,占有改定(民法183条)によって対抗 要件を具備すると考えることができよう。 動産譲渡担保の対抗要件は,占有改定で足りるとするのが判例であり, 設定者が引き続き目的動産を占有している場合には,占有改定による引渡しが なされたものとみることができる(大判大正5年7月12日民録22輯1507頁,最 判昭和30年6月2日民集9巻7号855頁)。また,占有改定は,流動集合動産譲 渡担保の対抗要件としても認められている(最判昭和62年11月10日民集41巻8 号1559頁) 。しかし,改めて言うまでもなく,占有改定の公示としての機能は十 分ではない。 平成22年東京地判の事案では,基本契約中に占有改定に関する条項がなく, さらに,売主の売却した商品の特定性が問題とされ,結果的に,占有改定が否 定された。それでも,仮に基本契約中に占有改定に関する条項があれば,売主 は,所有権留保の対抗要件を具備しているとして,別除権を行使することが認 められることになるのかは一個の問題となりうる48)(この場合でも,目的動産 が他の商品等との判別不能な状態ではないことが要求されることになろう49))。. 2 所有権留保の効力と限界 平成22年東京地判は,買主の売主に対する担保権設定という物権変動を観念 しうるとするが,所有権留保が担保目的であるからといって,売買契約時に, 売主から買主へと完全に所有権が移転し,買主から売主への担保権設定がなさ れたと考えるべきことになるのだろうか。. 48)遠藤②・前掲注7)46頁は,転売目的で商品の流通を前提とする取引の場合に,占有改定の合意 が否定される可能性があることを指摘する。 49)印藤・前掲注5)5頁は,買主に分別保管義務等を課すことも必要とする。. ― ― 140.
(19) 法科大学院論集 第11号. 「個別の権利行使が禁止される一般債権者と再生手続によらないで別除権を 行使することができる債権者との衡平を図るなどの趣旨から,原則として再生 手続開始の時点で当該特定の担保権につき登記,登録等を具備している必要が ある」との平成22年最判の判示を重視すれば,平成22年東京地判の結論も理解 できる。この場合には,所有権留保特約付売買の実質は,譲渡担保と解するこ とになろう。所有権留保には,物権変動がなく対抗要件は問題とならないとの 考えを倒産手続においても貫徹すると,倒産手続において,公示の存在しない 担保権に基づく別除権行使を認めることになるが,このことは,平成22年最判 のいう「債権者との衡平を図るなどの趣旨」に反することになろう。 そこで,倒産手続においては,担保権者には,別除権として権利を行使する ために,何らかの形式が必要であると考えることは可能であると考えられる。 動産の所有権留保の対抗要件として引渡しを考えるならば,占有改定によるこ とになる。平成22年東京地判(及びその控訴審判決)は,本件は転売を予定さ れた取引であること,他社からの仕入れ商品と判別しがたいことを理由に占有 改定を否定する。しかし,流動集合動産譲渡担保の対抗要件として占有改定が 認められていることを考慮すると,転売予定を理由に,占有改定による対抗要 件具備を否定することには疑問が生じる。平成22年東京地判の事案では,問題 は,本件商品が他の商品と区別されていないために目的物を特定できないこと だったのではなかろうか。また,平成22年東京地判(及びその控訴審判決)に よると,本件契約においては占有改定の合意がなかったとされているが,所有 権留保特約の解釈として,売主・買主間で,占有改定の合意があると解するこ とは可能であるようにも思われる。 ところで,平成22年最判及び平成22年東京地判は,いずれも民事再生手続に おける所有権留保が問題となった事例である。したがって,これらの判決が, 直ちに,民法における所有権留保の理解に大きな影響を与えるかについては, さらなる検討が必要であろう。特に,平成2 2年最判は,最高裁判決であるが, ― ― 141.
(20) 所有権留保における担保としての機能と限界に関する一考察. 第三者所有権留保の事案である。第三者所有権留保は,譲渡担保に近い担保で あると考えられる50)ことから,譲渡担保と同様に対抗要件具備が必要となると 解する余地があるように思われる51)。近時は,担保としての実質を考慮して, 所有権留保を譲渡担保であると解する見解もみられるが,所有権留保の被担保 債権が代金債権であると考えると,売買目的物と被担保債権の間には,譲渡担 保には見られないこともある牽連性が存在することも否定できないだろう 。 所有権留保といっても,売主留保型と第三者留保型の二つの類型が存在するこ とが意識されるようになっており,他方,目的動産の種類や転売予定の動産で あるかなど,所有権留保が用いられる取引形態も様々であると考えられる52)。 また,フランス法では,担保として明文で規定しながら,公示方法はない所有 権留保条項について,書面という形式を要求することによって,倒産手続にお いても一定の効力が認められている53)。公示が存在しないために,第三者の善 意取得によって,第三者に対して所有権留保の主張が出来なくなるといった, 担保として弱い側面もあるが,そのような担保を有する債権者にどのような保 護を与えるかがここでの問題であるとも考えられる。そうであれば,倒産手続 における留保所有権者の権利行使の問題は,倒産法における所有権留保の扱い を検討するものであるといえようが,その場面での結論が民法における所有権 留保に関する理論を左右するともいいがたいのではないだろうか。それはとも かく,上述のとおり,所有権留保の対抗要件を占有改定であると解したとして も,実際には公示機能がないに等しい点を重視すれば,結局のところ,売主の 50)安永・前掲注1)432頁。 51)和田・前掲注5)135頁は,平成22年最判の論理を所有権留保一般に及ぼすことは相当でないと する。 52)実務では,継続的な売買取引において,売買目的物に譲渡担保を設定し,譲渡担保の目的となら ない商品については,所有権留保の対象となる旨を合意することもあるとのことである。このよう な場合には,売主は,売却した商品のすべてについて担保権を取得していることになる。 53)この場合の書面は,倒産手続において所有権留保を主張するための要件であって,フランス民法 上の対抗要件とは考えられていないが,売主,すなわち,所有者に所有権が帰属することを証明す ることは可能であろう。. ― ― 142.
(21) 法科大学院論集 第11号. 権利行使には限界があることを認めざるを得なくなるようにも思われる。. 五 結 語. 本稿では,近時の民事再生手続における所有権留保に関する判決によって, 民法においても,所有権留保に物権変動が認められると解することになるの か,という問題につき,若干の検討を試みた。動産の所有権留保には様々な目 的物が考えられ,また,留保売主と買主,あるいは第三者の利益状況も一律に は論じられないと思われることから,民事再生手続における公示の必要性が倒 産手続以外の場面にも一般化されることには疑義が残る。譲渡担保とは異な り,所有権留保では,目的物と被担保債権との牽連性が認められるなど所有権 留保には譲渡担保には認められない特徴がある。そこで,これらの特性を考慮 して判断することが必要と思われる。本稿では十分な分析をなしえなかった が,残された問題については,今後の検討課題としたい。. *本稿は,2012年度全国銀行学術研究振興財団の助成を受けた研究成果の一部である。. ― ― 143.
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