Title
沖縄県における合同会社の活用∼米国フロリダ州のLLC
法制を手がかりに∼
Author(s)
伊達, 竜太郎
Citation
沖縄大学法経学部紀要 = Okinawa University JOURNAL
OF LAW & ECONOMICS(14): 13-25
Issue Date
2010-11-30
URL
http://hdl.handle.net/20.500.12001/9572
沖縄大学法経学部紀要第14号 【論文】
沖縄県における合同会社の活用 米国フロリダ州のLLC法制を手がかりに∼
ThePromotionofmorewidespreaduseofLLCinOkinawa:
ACluetotheLLCActintheFloridaState キーワード:商法(会社法)、合同会社、沖純県における経済政策 伊 達 竜 太 郎 瀬 RyutaroDATE 一 . は じ め に 第162回通常国会で、会社法制の現代化に伴う「会社法案」とその整備法が、平成17年6月29日 の参議院本会議で成立し、同年7月26日に公布された。本改疋は、明治32年の商法制定以来、初め て会社法の体系の組替がなされ、条文数が979条にも及んでおり、内容も画期的なものに仕上がっ ている。このようなおよそ100年に1度の会社法大改正の目的は、平成9年以降ほぼ毎年行われて いた商法改正作業のJ流れを引き継ぎ、企業社会の活性化、すなわち、長年続いていた日本経済社会 を覆う閉塞感の打破にあった。そこで、会社法においては、事前規制から事後規制へという当時の 世界的潮流に従い、規制緩和と私的自治の範囲の拡大という実質的な内容の改正に伴い、起業家に よる会社設立を促進し、日本経済の新陳代謝を押し進め、ひいては、わが国の国際経済の競争力を 高めたい等という観点からの改正が行われた!。 それでは、このような会社法の抜本改正が行われた後、沖抑県の会社設立の状況において、どの ような影響が及んでいるのであろうか。ここで、会社法改正が行われた後の状況、すなわち、平成 17年9月から平成20年8月までの沖縄県における会社設立の状況製を概観しておく。平成20年8月 までの1年間(平成19∼20年度)の沖純県内における新設会社数は412件で、平成18∼19年度に比 べ15‘0%減少し、平成17∼18年度(554件)の4分の3程度の水準になっている。特に、建設会社 の新規設立が2年前の3分の1に減っており、このような新設会社の減少については、昨今の景気 低迷等が影響していると予想される。沖純県においても、世界規模で未曽有の金融危機の余波から 連鎖的な経済状態の悪化が懸念され、今後の会社設立数の増減は予測がつきにくい状況になってい る。 他方、株式会社で1000万円等としていた最低資本金制度が、平成17年の会社法改正において廃止 された影響により、いわゆる「1円起業jが恒久化されたことを受け、資本金100万円未満の小口 資本金の起業が、平成19∼20年度は160件と2年前の2.5倍に急増した。その中でも、介護、農業・ バイオ関連、有価証券管理等の「時代のニーズを踏まえた新サービス」の起業が増えている。 また、沖縄県内で名門ホテルの一つである那鰯市泉崎の沖縄ハーバービューホテルの運営会社で あるIHG・ANA-ホテルズグループジヤパン(東京)は、同ホテルの名称を平成19年12月10日に沖細県における合同会社の活用 「沖純ハーバービューホテルクラウンプラザ」に変更し、新たなブランド名で営業を開始した割。 同社は、全日本空輸(ANA)と、英国系のインターコンチネンタル・ホテルズ・グループ(IHG) が、平成18年12月に共同で設立した合同会社を活用した合弁会社である。フランチャイズを含めて 全国で41ホテルを運営しており、平成19年3月にホテルの共同ブランド化について発表していた。 同社は、沖縄県内で運営を受託する残り2つのホテル、石垣全Iヨ空ホテル&リゾート(石垣市)と 万座ビーチホテル&リゾート(恩納村)も運営している。 ここで注目されるのが、平成17年の会社法改正における目玉の一つとして、わが国に新たに導入 され.た合同会社(日本版LLC)の活用である。合同会社とは、①私法上の権利義務の主体となる 法人格を有し、②外部関係で出黄者全員が有限責任を確保し、③内部関係で広く定款自治が認めら れる柔軟な民法上の組合型の会社形態のことである。合│司会社の事業体としては、ベンチャー・ビ ジネス、合弁事業、戦略的な組織再編等を含めて、様々な状況における活用を想定している。実際 にも、沖縄ハーバービューホテルクラウンプラザは、共同で設立した合弁会社として、合同会社の 形態を活用している。 そもそも、わが国の合l剛会社は、米国のLLCをモデルとして、会社法改正において新たに導入 された制度である。その米国におけるLLCの設立地としては、個人的に、フロリダ州に注目して いる。なぜなら、第一に、米国でのLLCの設立地として、近年、フロリダ州が主導的な地位を猫 得していることが挙げられる。第二に、フロリダ州は、米国の中でも南部に位置するリゾート地と して、観光客、移住者および退職者の集まる地域として認識されている名高い地域であり、沖縄県 と類似した側面を見出せるからである。フロリダ州は、このようなリゾート地であることを背景に して、米国のLLCの中でも特有の法制度を有している。そこで、フロリダ州のLLC法制と市場の 動向は、沖縄県における法制度の整備と市場の動向という観点からも参考になると思われる。 本稿においては、沖縄県における企業設立の促進という観点から、合l司会社のさらなる活用を提 案するものである。このような柔軟な機関柵造等を有する合同会社の新規設立が沖縄県で増大する ことにより、沖縄県における法人税収入や登録免許税収入の増大、ひいては、新規雇用者数の増大 等も見込まれると思われる。 以下では、まず、米国における会社設立市場の議論を取り上げ、その後、LLCの設立地として 近年注目されるフロリダ州の法制度を取り上げて議論を展│淵していく。そして、日本における会社 形態を概観した後、その中でも、合同会社の制度を重点的に検討し、フロリダ州のLLCの個別論 点として注目される、一・人会社および法人格否認の法理について、わが国ではどのように解釈され るか考察していく。 二.米国法の議論 1.会社設立市場 米国においては、州ごとに法制度が異なっていることから、会社を設立しようとする者は、自ら の意思で、会社のガバナンス等で自らに有利な特定の州法を選択して、会社を設立することが容易 にできる。このことを背景に、特定の州は、法制度等を会社の経営陣に有利な条件に設定すること で、会社設立を促進する場合がある。そこで、会社設立市場の役割に関しては、州間競争のRace tothetopとRacetothebottomの議論がよく知られている。まず初めに、Gary教授によって、
沖縄大学法経学部紀要第14号 特定の州会社法は株主の犠牲によって経徴陣に利する法制度であるから、Racetothebottomを 導くという主張が提起された4・この見解に対して、特定の州会社法は全ての会社の利害関係者に 利益を与えるから、Racetothetop息を導くと反論され、現在も対立が継続している。この対立 する議論の是非はともかく、このような状況下において、公開会社の設立市場に関しては、東部の 小さな州であるデラウェア州が支配的地位を猿得している。現に、デラウェア州の人口は米国の人 口のわずか0.3%以下蝋にもかかわらず、米国の公開会社の50%以上とフオーチュン誌のランキング 上位500社の60%以上はデラウェア州で設立されている?。このことから、デラウェア州では、会 社の設立市場において多くの利益を享受している状況である。その中でも、特に、デラウェア州に おける実質的な登録免許税収入の大部分は、数少ない公開会社から生み出されている蔵。また、デ ラウェア州の裁判所では、多くの公開会社に関わる訴訟を取り扱っている,。さらに、デラウェア 州を設立地として選択する理由としては、法の柔軟性、予測可能性、許容性、対応の早い立法環境 および専門的で効率性の高いビジネス中心の裁判制度等が挙げられる10 2.LLC(LimitedLiabilityCompany)の設立市場とフロリダ州の法制度'1 しかし、デラウェア州は公開会社の設立市場で支配的地位を維持しているにもかかわらず、非公 開会社の設立市場においては支配的地位を猫得している訳ではない12・米国における非公開会社の 設立では、全ての社員が有限責任であり、会社の内部関係において柔軟な組合的規律が適用される 特徴を有するLLC卿が広く活用されている。また、LLCの制定法は、望ましくない強行規定を排除 することによって、効率的な法制度に進化してきている14。このようなLLCの設立に関しては、デ ラウェア州ではなく、フロリダ州が主導的な地位を猫得している。2005年のデータでは、フロリダ 州において全米トップの123,437社のLLCが設立されているが、デラウェア州は2番手の87.360社 の設立に留まる賎.そもそも、フロリダ州は、米国の中でも南部に位慨するリゾート地として、観 光客、移住者および退職者の集まる地域として認識されている名高い地域である。このことを背景 に、LLCの設立に関するフロリダ州の成功は、投寅を惹き付ける成功の副産物とも想定され、観 光業等によって促進されていると考えられる。具体的な成功要因としては、例えば、フロリダ州の 大規模な退職者の居住地域が生み出した活発な不動産業や観光業によるビジネスの促進、会社の倒 産から債権者を保謹する法制度等が挙げられる。これらの点に加えて、フ.ロリダ州法は、税金の優 遇措置、諸費用の減額、不勤産業や財産保謹の必要性を満たす法制度等を含み、様々な方法で利点 を享受できることにより、LLCが多く活用されている状況にある。 そして、フロリダ州は、特に非公開会社の設立促進という観点から、LLCの利用可能性を増大 させるために、1998年と2002年に重要な法改正を行った。これらの法改正において、まず、フロリ ダ州議会は、一人の社員のみが存在するLLC、すなわち、一人会社としてのLLCの設立および存 続が可能であることを明確化するための法改正を行った嘘。したがって、具体的には、この法改正 により、会社の設立時から、一人で会社を設立することができ、また、社員が一名になったとして も、法定の解散事由とされないことが明確になり、ILCの設立が促進されたとも評価できる'7。 また、このような法改正に加えて、法人格否認の法理の基雛を明確化するために、判例で確立し た株式会社における法人格否認の法理の基準をLLCの局面でも適用できるように、法改正を行う ことで明文化したI胤・法人格否認の法理とは、特定の事案に限って会社の法人格の独立性を否認し、
沖範県における合同会社の活用 会社とその背後にある社員を同一・祝する法理のことである.損害を被った償権者等については、こ の法理により保護が図られる場合がある。このような法改正や市場の動向等の結果として、1996年 から2005年までの10年間の統計によると、フロリダ州でのLLCの設立は、62%も増加している状 況である° 以上のような推移に伴い、フロリダ州は、非公開会社、特にLLCの設立市場における州間競争 で支配的な地位を獲得している。また、フロリダ州においては、新規の会社設立を数多く獲得して いることに加えて、他の法域で設立された法人のフロリダ州への再設立促進により投資を引き寄せ ることで、フロリダ州におけるLLCの会社形態の魅力を商めることにもつながりうる。なぜなら、 フロリダ州でさらに会社設立が促進される場合、魅力的な法制度や市場がさらなる進化を遂げるこ とによって、フロリダ州で既に会社を設立した利害関係者が、より多くの利益を享受することも期 待されるからである。 三.日本法の議論と沖縄県における合同会社の活用 1.序論 昨今の金融危機以降、沖細県においても、厳しい経済状況に直面しており、現状を打破するため にも、経済活性化策を独自に産みだす新たなモデル椛築の必要性があると思われる。国内競争ばか りではなく、法制度や市場の国際間競争に巻き込まれつつある日本において、米国のLLCの設立 市場において支配的地位を猶得しているフロリダ州の取り組みが、類似した地理的条件や環境等を 有している沖蔚牒の経済政策としても、参考になるものと思われる。このような観点から、以下で は、わが国の会社法上、どのような会社形態が認められているかについて概観したあと、本稿で重 点を置く合同会社(日本版LLC)の制度を概説する。さらに、フロリダ州においてLLCの設立を 促進した要因として挙げられうる、一人会社および法人格否認の法理の議論が、わが国の合同会社 においては、どのような展開を見せているか検討していく。 2.会社形態 法人とは、自然人以外の者であって、権利能力の主体となる法人格を認められた者である(会社 法3条)。法人格のある会社の利点としては、剛体自身の名において権利を有し義務を負うことが 認められることによって、権利義務関係の処理が簡明になり、I調体としての統一的活動が容易にな る点が挙げられる。また、会社の場合、法定の要件を満たせば当然に設立を認め、法人格が付与さ れるという、いわゆる準則主義が採用されている。 会社法で規定されている法人格のある会社は、①株式会社、②合名会社、③合資会社、④合同会 社の全部で4秘類ある(会社法2条1号):!'・この中でも、合名会社、合資会社および合同会社は、 定款自治が広く認jめられる組合的な形態である点で共通しているため、持分会社として一括りに規 定されている(会社法575条1項)。会社法で規定されている4種類の会社は、法的に社員の会社債 権者に対する責任のあり方の差異によって分類される。簡潔に整理すると、①株式会社は、全ての 社員が有限責任しか負担しない会社(会社法104条)、②合名会社は、社員が全て無限責任社員であ る持分会社、③合資会社は、社員が無限責任社員と有限責任社員からなる持分会社、④合同会社は、 社員が全て有限責任社員からなる持分会社である(会社法576条2項3項4項)。
沖縄大学法経学部紀要第14号 まず、ここでいう社員とは、会社の出資者のことであり、例えば、株式会社では株主のことであ る。そして、ここでいう責任とは、出資義務のことであり、有限責任の下では、社員の義務は会社 に対する出資義務に限定され、一定額を限度でしか責任を負わず、しかも社員は追加出資を強制さ れない。そこで、会社債権者は、社員個人に対して、会社憤務の未弁済分の支払いを求めることが できず、会社財産が会社債椛者にとって重要な債権回収の拠り所となる。他方で、無限責任の下で は、会社自体の債務ではあるが、会社財産からの弁済が困難となった場合、社員が個人として、第 三者である会社償権者に対して無限に責任を負う可能性がある。 よって、合名会社および合資会社に存在する無限責任社員から、会社債椛者は直接弁済を受ける ことができ、無限資任社員に弁済資力があれば、会社財産確保の要諦は少ないといえる。他方で、 株式会社および合同会社においては、間接有限責任が原則(会社法104条.580条2項)であるため、 会社債権者は有限責任社員から一定限度の弁済を受けるのみであり、会社財産確保の要請があり、 償権者保護策が特別に規定されている。 また、株式会社においては、小規模な会社を念頭に侭いている会社も存在しているが、大規模な 会社は、基本的にこの株式会社の枠組みの中で想定されている。他方で、合名会社、合資会社およ び合同会社の持分会社は、基本的にいずれも小規模な会社であることを想定している.つまり、持 分会社は、大規模な株式会社のように、多くの利害関係者が存在し、株主による株式譲渡自由の原 則が考慮され、所有と経営が分離している会社形態ではなく、少人数の者が集まって設立する会社 を前提に、所有と経営の一致を原則とし、社員による持分譲渡が制限されている会社形態である。 3.合同会社(日本版LLC) 平成17年の会社法改正前商法の時代においては、私法上の法人格が認められ、全ての社員が間接 有限責任であり、会社の内部関係において柔軟な組合的規律が適用される組織形態は存在しなかっ た。すなわち、会社法改正前の会社類型において、株式会社および有限会社においては、内部関係 について契約法の規律を前提とした組合的規律が適用されず、合名会社および合資会社においては、 全ての社員の間接有限責任が確保されていなかった。また、民法上の組合においては、私法上の法 人格が認められず、組合員は有限責任ではなく、継続的な事業遂行にはあまり適していない。この ように、わが国では、私法上の法人格が認められ、出資者全員の間接有限責任および内部関係の組
合的規律という全ての要素を兼ね備えた組織形態は存在しなかったが、米国では、このような特徴
を有するLLCが広く活用されていた。 このような現状に鑑み、わが国においても、米国のLLCに類似した組織形態に関する制度創設 への要望が相次いでいた。そこで、平成17年の会社法改正において、米国のLLCを参考にして、 ①私法上の椛利義務の主体となる法人格を有し、②外部関係で出資者全員が間接有限責任熱を確保 し、③内部関係で広く定款自治が認められる柔軟な民法上の組合型‘&の会社形態として、合同会社 (日本版LLC)を新たに導入することになった。特に、③会社の内部関係、すなわち、会社と、社 員、取締役および役員間のような内部関係に関しては、民法上の組合と同様の規律がなされ、原則 として、定款変更等の会社の重要事項は、社員全員の一致で決定が行われ、各社員が自ら会社の業 務執行にあたる。また、合同会社の事業体は、ベンチャー・ビジネス、合弁事業、戦略的な組織再 編等を含めて、様々な状況における活用を想定している雛。沖純県における合同会社の活用 合同会社は、実務的観点からも、潜在的に高い利用価値があることを想定して、わが国において 新たに導入された。会社法改正において、株式会社が、有限会社を取り込んだ形で規律が柔軟化さ れたとしてもなお、合同会社には独自の商い利用価値があるものと思われる。合同会社と株式会社 の共通点としては、いずれもその全ての社員または株主が間接有限責任であるために、会社侭権者 保謹を図るために会社財産を確保するという観点等から、ほぼ同様の規制が設けられていることで ある(会社法625条-634条)。 他方で、株式会社と合同会社とは、以下のような点で大きく異なっている郷bまず、会社の内部 関係の規律について、株式会社においては、強行規定として、企業の実質的所有者である株主の意 思決定機関である株主総会を設簡する必要がある(会社法295条)。また、株式会社においては、業 務執行者として、取締役を置かなければならない(会社法326条1項)瓢。すなわち、取締役会非設 置会社のような小規模な株式会社においても、株主総会と取締役は絶対的必要機関であることによ り、最低限の所有と経営の分離が図られているといえる。その他にも、株式会社では、株主として の資格に基づく法律関係について、基本的に、強行規定として株主平等原則が適用される(会社法 109条1項)。 これに対して、合同会社の内部関係については、組合と同様に、契約自由の原則が考慮され、広 く定款自治に委ねられていることにより、当事者間で利害関係者の利益を保護するための方策を決 定することができる。すなわち、合同会社は、機関設計や社員の権利内容等については強行規定が ほとんど存在せず、株式会社よりも機関設計等がさらに柔軟化した組織形態であるという点に大き な特徴がある。例えば、合同会社では、株主総会等の絶対的必要機関がなく、業務執行の方法とし て、取締役の設腫も必要ではなく、原則として、出資者である社員が業務執行を行い、代表椛限を 有することで、所有と経営の分離は図られていない(会社法590条.599条)。その他にも、合同会 社においては、①株式会社における取締役の取り扱い(会社法331条1項1号)と異なり、法人も 業務執行社員となることが認められている(会社法598条)、②負債総額200億円以上となっても、 会計監査人の設置が強制されず、内部統制システム構築の必要性はない、③決算書類の公告義務も 課されていない等の特徴がある。 次に、社員の持分識渡に関する規律について、株式会社、特に、大規模な株式会社においては、 社員である株主の個性は問題とされず、株主による投下資本の回収手段として、株式譲渡自由の原 則が採用されている(会社法127条)。これに対して、合同会社においては、社員相互間の信頼関係 が重視されていることから、持分の譲渡については、原則として他の社員の全員の承諾が要求され ている(会社法585条)。なお、この要件は、定款に別段の定めがない場合のものであるから、定款 で異なる要件を設定することもできる(会社法585条4項)。また、社員が会社を相手に持分を譲渡 することは許容されない(会社法587条1項)。ただし、合同会社における社員の投下資本回収を保 証するために、やむを得ない事由があるときは、その出資の穂類を問わず、会社から直接持分の払 戻しを受けることができる退社制度が規定されている(会社法606条.611条)。 そして、前述したように、合同会社においては、他の持分会社の社員と異なり、全社員が間接有 限責任を負うにすぎないので、会社債権者の保謹を図ることが重要な問題となる.そのため、会社 法においては、①会社の財産状況が適切に開示されるこど馬、②会社財産が適切に確保されること勤 等によって、会社債権者の保渡を図ることとしている。
沖 縄 大 学 法 経 学 部 紀 要 第 1 4 号 なお、わが国の合同会社が、米国のLLCと異なる点があることにも注意を要する蕊。米国のLLC においては、1988年以後、組合的規律が前提となっているために、全椛成員が有限責任でありなが ら、課税主体とならない企業形態として認められている。つまり、会社構成員に直接課税され、法 人としては課税されない、いわゆる二重課税されないパス・スルー税制が認められている。しかし、 わが国の合同会社には、このようなパス・スルー税制が認められず、法人にも納税義務が課される。 日本の経済界は、米国のLLCと同様に、わが国の法人格のある合同会社が、税制上課税主体とな らない会社形態として認められることを望んだが、このことは問題が少なくないと考えられたため に実現しなかった顔。 4.一人会社 米国のフロリダ州においては、非公開会社の設立促進という観点から、LLCの利用可能性を増 大させるための法改正を行った。この法改正の中でも、特に、一人の社員のみで布のLLCの設立お よび存続を明確化するための法改砿が行われた°そこで、比較法的観点からすると、わが国の合同 会社において、一人の社員のみでの設立および存続も可能であろうかということが問題となる。 平成2年の商法改正において、従来は法定解散事由とされていた一人株式会社が認められた勢。 ただし、平成17年の会社法改正前商法の時代においても、合名会社の社員が一人となることは、依 然として、法定の解散事由とされていた(改正前商法94条4号)。しかし、会社法改正によって、 持分会社においても、会社の設立時から、一人で会社を設立することができ、また、ある社員が他
の社員の持分を全て買い取って、一人が会社の社員となった場合等においても、会社は直ちに解散
する訳ではなく、一人持分会社も存続することができることとなった(会社法641条4号)。なぜな ら、持分会社においては、社員の個性が重視されるが、社員の加入や持分の譲渡により、社員が複 数となりうること等においては、株式会社と変わるところがないからである馴'。そして、持分会社 の中でも、特に、合同会社においては、株式会社と│司様に、社員の全てが有限資任であることから、 有限責任社員のみで椛成される一人会社へのニーズがある11。そこで、会社法では、持分会社の社 員が一人となることを法定解散事由とはならず、一人持分会社の設立および存続を許容している掴。 このように、わが国の会社法においても、米国のフロリダ州のLLC法制と同様に、合同会社にお ける一人会社という柔軟な法制度を有している状況にある。 5.法人格否認の法理 米国のフロリダ州では、LLCの利用可能性を増大させるために、法人格否認の法理の基準を明 確化するという観点から、判例で確立した株式会社における法人格否認の法理の基準をLLCの局 面で適用できるように、法改正を行うことで明文化した。そこで、比較法的観点からすると、わが 国の合同会社において、法人格否認の法理がどのように取り扱われるかということが問題となる。 まず、合同会社制度を悪用する目的での合同会社の設立等に対しては、会社法では、どのような 考慮がなされているのであろうか。このような状況としては、出資者が債権者からの追及を逃れる 等の法人格を濫用する目的で合同会社を設立する場合、合同会社の会社債椛者の利益を害するよう なリスクの高い事業を闇雲に行う無謀な経営者が存在する場合等が想定される。会社法において、 合同会社の制度の悪用により損害を被った第三者は、業務を執行する有限責任社員に対して、その沖縄県における合同会社の活用 職務を行うについて悪意または重過失があったときは、損害賠償責任の追及をすることができる (会社法597条)。また、債椛者からの追及を免れるために合同会社を設立した場合、すなわち、社 員が債権者を害することを知って合同会社を設立した場合等において、社員の俄椛者は、合同会社 の設立取消しを調求することができる(会社法832条)。 さらに、会社は法人であり、その橘成員である社員と別個の法人格を有することから、有限責任 の下では、会社の債務につき社員が責任を負わないことが建前である。しかし、法的義務および責 任を回避しようとする脱法的な会社形態の利用があり、法人格の濫用にあたる場合、または、一人 会社のように社員と会社との関係が密接であり、法人格が全くの形骸にすぎない場合等においては、 例外的に法人格否認の法理の適用がある耐'・法人緒否認の法理の効果としては、特定の事案に限っ て会社の法人格の独立性を否認し、会社とその背後にある社員を同一視することで、損害を被った 儲権者等は、会社からではなく、直接的に社員から億桁回収等を行い、償権者保護が図られること になる恥。このように解することで、法人制度の目的に照らすと、法人格の付与が社会的必要性か ら立法政策に基づくものであり、法人格の独立性を形式的に貫くことが正義・衡平の理念に反し社 会の期待に反する場合等においては、法人格を否定する方が妥当な解決を図りうる。しかし、この 法理は、既存の法理では妥当な結論が出ない場合につき、事案の解決を図るための最後の手段であ るので、当該法理の認定にあたっては、慎重な検討を要する。 そして、本稿の観点から重要なことは、会社法改正によって、合同会社においても株式会社と同 様に、法人格の濫用等に当たる場合は、損害を被った償権者等については、法人格否認の法理によ り保護が図られうることが認められている点である;鍋。このように、わが国の合同会社においても、 米国フロリダ州のLLCのように、法人格否認の法理が適用されるという柔軟な法制度を享受しう
る状況にある。このことにより、沖縄県における合同会社の活用という観点からすると、沖縄県に
おける企業設立を促進し、将来的に企業活動の規模が拡大するような場合には、新規雇用者数の増 大をも見込めることが期待される。 なお、法人格否認の法理は、主に、アメリカの判例理論に由来する法理である。わが国における 法人格否認の法理の実体法上の根拠条文としては、①権利濫用禁止(民法1条3項)の類推解釈に 求める見解と、②会社の法人性の規定(会社法3条)の解釈に求める見解とがある。ただし、この 法理そのものを規定した明文がないことから、根拠条文につき争いがあり、現行法上は、判例の解 釈論の枠組みの中で機能しているといえる。そこで、.立法論としては、米国のフロリダ州のように, 判例で確立した株式会社における法人格否認の法理の基準を合同会社の局面で適用できることを明 確化するために、法改正において明文化することも視野に入れるべきという見解もありえよう。 四 . 結 び 本稿においては、沖縄県における企業設立の促進という観点から、さらなる合同会社(日本版 LLCの活用を提案した。LLCの事業体は、ベンチャー・ビジネス、合弁事業、戦略的な組織再 編等を含めて、様々な状況における活用を想定しており、実際にも、本稿で取り上げた沖縄ハーパー ビューホテルクラウンプラザにおいては、共同で設立した合弁事業の運営主体として、合同会社を 活用している。 また、米国のフロリダ州においてLLCが多く活用されている要因の中でも、特に、会社法の観沖縄大学法経学部紀要第14号 点からは、①一人会社のLLCの設立および存続が可能であることを明確化するための法改正を行っ たこと、②判例で確立した株式会社における法人格否認の法理の基準をLLCの局面で適用できる ように、法改正において明文化したことを指摘した。これらの法制度が整備されたことによっても、 フロリダ州におけるLLCの設立が促進されたと評価できるように思われる.さらに、このような 法改正に加えて、フロリダ州においては、活発な不動産市場や観光業によるビジネスの促進等を通 じて、税金の優遇措侭、諸費用の減額、不動産業や財産保護の必要性を満たす法制度を構築してお り、様々な方法で投資を惹き付ける状況にある。 沖純県においても、南国のリゾート地として、より一層、観光客、移住者および退職者の集まる 地域として認識されるために、利害関係者保溌を促進する法整備、輔極的な行政の対応、起業家の 会社設立による活発な市場の創造等、全てをパッケージとして総合的に取り組むべき課題である。 その中でも、私見としては、沖縄県における合同会社の活用は、1つのピースとして検討に値する ものと思われる。会社法の解釈論的な観点からすると、日本法の下でも、フロリダ州のLLC法制 のように、①一人会社の合同会社の設立および存続が可能であること、②判例で確立した株式会社 における法人格否認の法理の基準を合同会社の局面で適用が可能であることから、沖縄県における フロリダ州との類似性も考慮に入れて、積極的に合同会社の活用を検討すべきであろう。沖綱県に おいては、自立経済の確立という観点からも、様々な経済政策が模索されているが、さらに、この ような経済活性化策を独自に生み出す新たなモデル栂築の議論も有益であると思われる。 沖縄大学法経学部非常勤講師。筑波大学大学院博士課程在学。前イリノイ大学客員研究員。
筑波大学では、徳本穣教授の指導を受けている。イリノイ大学では、LarryE.Ribstein教授
の指導を受けた。両教授の大変有益な御指導に対しまして、厚く御礼を申し上げます。なお、 本稿は、沖細大学における遠隔識義(沖縄と法:特殊講義XⅥ)の資料に、加筆修正を行った ものである。また、本稿は、「平成22年度公益信託宇流麻学術研究助成基金(研究事業)」 による研究成果の一部である。 会社法の意義や特徴等に関しては、祇頭窓治郎「新会社法制定の意義」ジュリ1295号(2005年) 2頁、岩原紳作「新会社法の意義と問題点」商事1775号(2006年)4頁、山下友信「新会社法 の意義」法教304号(2006年)4頁、大杉謙一「会社法の誕生と波紋j法時80巻11号(2008年) 4頁等を参照。 琉球新報・平成21年3月6日朝刊4頁を参照。 琉球新報・平成19年8月2日朝刊9頁および12月11日朝刊11頁を参照。 WilliamL.Gary,FederalismandCorporateLaw:ReflectionsUponDelaware,83Yale L.J.663(1974).Gary教授以外に、Racetothebottomの議論を展開する論者の文献とし て、LucianAryeBebchuk,FederalismandtheCorporation:TheDesirableL加itson StateCompetitioninCorporateLaw,105Harv.L・Rev.1435(1992);MelvinAron Eisenberg,TheStructureofCorporationLaw,89Colum.L.Rev.1461(1989)等を参照。 Racetothetopの議論を展開する論者の文献としてvRobertaRomano,LawasaProduct: SomePiecesoftheIncorporationPuzzle,1J.L.Econ.&Org.225(1985):DanielR. * 1234
5沖細県における合同会社の活用 Fischel,The"RacetotheBottom"Revisited:ReflectionsonRecentDevelopmentsin Delaware'sCorporationLaw,76Nw.U.L,Rev,913(1982);RalphK.Winter,Jr., StateLaw,ShareholderProtection,andtheTheoryoftheCorporation,6J・Legal Stud.251(1977)等を参照。 6PopulationDivision,U.S・CensusBureau:AnnualEstimatesoftheResidentPopulation fortheUnitedStates,Regions,andStatesandfoi、PuertoRico:April1,2000toJuly 1,2009(2009),http://www.census.gov/popest/states/NST-ann-est.htmlを参照。 7StateofDelawareDivisionofCorporations,http://www.state.de.us/corp/aboutagency. shtmlを参照。 8MarcelKahan&EhudKamar,PriceDiscriminationintheMarketforCorporateLaw. 86CornellL.Rev.1205.1224-25(2001)を参照。 91d.at1227-28. 10KentGreenfield,DemocracyandtheDominanceofDelawareinCorporateLaw,67 Law&Contcmp.Probs.135,137-38(2004)を参照。デラウェア州の裁判制度に関する国 内文献としては、徳本穣「会社の紛争処理におけるデラウェア州衡平法裁判所の特質(1)会社 法の効率性を高めるための紛争処理の仕組」専法90巻(2004年)73頁参照。 11ここでの議論は、Ribstein教授の諸論稿に示唆を得る部分が大きい。特に、ErinA.O'Hara &LarryE.Ribstein,CorporationsandtheMarketforLaw,2008U.Ill,L.Rev,661 (2008)(ErinA.O'Hara&L血、yE.Ribstein,TheLawMarket(OxfordUniv・Press, 2009)の第6章にほぼ相当)を参照。 12Kahan&Kamar,supra8,at1227. 13米国では、1977年、ワイオミング州が制定法でLLCを創設したことに伴い、1988年、米国歳 入庁が、法人税制上、組合としての構成員課税の取扱いを認めたことにより、急速に全米に広 がった。LLCの企業形態に関する詳細は、日本法の議論の中で説明していく。 14LaiTyE,Ribstein,StatutoryFormsforCloselyHeldFirms:TheoriesandEvidence fromLLCs,73Wash.U、L、Q.369(1995). 15Into1Ass'nofCommei'cialAdm'rs,AnnualReportofJurisdictions39-48(2005),avail-ableathttp://www.iaca,org/downloads/AnnualReports/2006_lACA_AR・pdfを参照。た だし、大規模なLLCについては、フロリダ州ではなく、デラウェア州に設立される傾向にあ る。なぜなら、公開会社に代表される大規模な株式会社のように、特に、大規模なLLCにつ いては、小規模なLLCよりも訴訟に巻き込まれる可能性も高いことから、デラウェア州にお ける質の高い法制度や毅判所を念頭に侭いて、デラウェア州でLLCを設立することによって、 多くの利益を享受しえるからである.この点に関しては、BruceH・Kobayashi&LarryE. Ribstein,JurisdictionalCompetitionforLimitedLiabilityCompanies(Univ.111.Law& Econ.ResearchPaperNo.LE09-017,2009),availableathttp://ssrn・com/abstract= 1431989を参照。 16FloridaAssetProtectionBlog,http://floridaassetprotection.blogs.com/alperlaw(2005 年1月1旧)を参照。
沖縄大学法経学部紀要第14号 17ただし、本来、LLCは、複数の社員を有するパートナーシップを参考に創設されたにも関わ らず、現在は、債務者保溌手段として、一人社員のLLCが許容されて広く用いられているた めに、適切な状況ではないと指摘する見解もある。この点に関しては、LarryE.Ribstein, TheRiseoftheUncorporation(OxfordUniv.Press,2010),at186;LarryE・Ribstein, TheLoneliestNumber:TheUnincorporatedLimitedLiabilitySoleProprietorship,1J. AssetProtection46(1996)参照。 18Fla.Stat.§608.701を参照。なお、ここで識論している一人会社および法人格否認の法理の 詳細に関しても、日本法の議論の中で説明していく。
19平成17年の会社法改正前は、有限会社を設立することも可能であった。しかし、会社法改正後《
は、①有限会社制度が廃止される、②株式会社と有限会社は、会社法で規定する新しい株式会 社に統合される、③既存の有限会社は、従来の形態および名称のまま存続できるが、改正後は、 新たに有限会社を設立することができなくなる、④既存の有限会社が、株式会社に移行するこ とは可能であることになった。この他の法人形態としては、少人数・特定事業で社会:貢献を主 として行い、地方自治体の認可が設立条件である特定非営利活動法人(NPO:NonProfit Organization)等もあるが、これらの法人形態は、会社法で規定されている訳ではない。 また、上述した会社形態は、法人格のある企業であるが、他方で、主に税制上のニーズから、 法人格のない企業形態を利用する場合もある。これまで利用されてきた法人格のない企業形態 としては、民法上の組合や匿名組合等が挙げられる。これらの企業形態に加えて、平成10年に は、共同投資やベンチャー・キャピタル・ファンド等で利用するための手段として、投資事業 有限責任組合が認められた。そして、平成17年には、共同営利事業を営む企業形態として、有 限責任事業組合(日本版LLP[LimitedLiabilityPartnership])の制度が創設された。 20会社法576条4項・578条.604条3項(出資全額払込主義および間接有限責任)参照. 21会社法585条(社員の持分譲渡)・590条1項(社員の業務執行権限)・604条2項(社員の加 入)・637条(定款変更)等参照。 22会社法改正後における合同会社の利用実績に言及する論稿としては、関口智弘=西垣建剛「合 I司会社や有限責任事業組合の実務上の利用例と問題点」法時80巻11号(2008年)18頁を参照。 23株式会社と合I司会社の比較に関する識論としては、相潔哲ほか編著『一問一答新・会社法 〔改訂版〕』(商事法務、2009年)175頁以下、大杉謙一「合同会社」法教304号(2006年)86頁 以下、宍戸善一「合同会社形態創設の意義と利用』『会社法の争点』(有斐閣、2009年)186頁 等を参照。 24全ての株式会社において、株主総会と取締役は絶対的必要機関であるが、会社法改正における 磯関設計の規律の柔軟化により、取締役会、会計参与、監査役、監査役会、会計監斑人、委員 会のような機関は、任意設澱機関となっている(会社法326条2項)。 25例えば、合同会社は、貸借対照表や損益計算書等を作成しなければならず(会社法617条.618 条)、合同会社の償権者は、その計算書類について、閲覧または謄写の誌求することができる (会社法625条)。 26例えば、社員の出資について全額払込制度を採用する(会社法578条)、社員の出資の目的は、 金銭その他の財産のみに限る(会社法576条1項6号)、利益の配当等について、株式会社と同沖純県における合同会社の活用 様に、利益額を限度とした財源規制を課している(会社法628条)。 27ここで取り上げるパス・スルー税制の他にも、わが匡Iの合同会社と米国のLLCとが異なる点 として、わが国の合同会社では、業務執行者が社員でなければならないこと、労務出資が認め られないことが挙げられる。 28税務当局が合同会社におけるパス・スルー税制を認めなかったことから、この税制を活用でき る有限責任事業組合(日本版LLP)の制度が別途導入された。有限責任事業組合においては、 法人格がないことから、組合員に直接課税され、組合員の責任は出資額に限定される。有限責 任事業組合に関する議論としては、例えば、宍戸善…「LLP」法教303号(2005年)2頁、篠 原倫太郎「有限責任事業組合契約に関する法律の概要」商事1735号(2005年)6頁、日下部聡 「有限責任事業組合契約に関する法律」ジュリ1299号(2005年)114頁等を参照。 29−人会社をめぐる判例としては、最判昭和45年8月20日民集24巻9号1305頁、最判昭和46年6 月24日民集25巻4号596頁等を参照。 30相澱哲=郡谷大輔「持分会社」商事1748号(2005年)14頁参照。一人持分会社になったとして も、例えば持分を譲渡すれば、将来的に社員が複数存在しうるので、一人持分会社も潜在的 に社団性があることになる。会社の社I刑性に関する議論としては、江頭憲治郎『株式会社法 〔第3版〕』(有斐閣、2009年)24頁以下、江頭窓治郎「会社の社団性と法人性』『会社法の争点』 (有斐閣、2009年)8頁等を参照。 31なお、会社法改正によって、無限責任社員のみで椛成される一人合名会社も認められている。 さらに、無限責任社員と有限責任社員が各々一人以上必要なことから、社員数が二人以上必要 とされる合資会社においては、無限責任社員が一人となった場合に、合同会社への穂類変更が 認められている。 32もつとも、社員という構成員とは別に、営利目的の企業活動を行うため、法人という権利・義 務の主体を作ることは、榊成員が複数である場合にメリットがより大きいであろう。 33わが国の最高裁判所で初めて法人格否認の法理を認めた判例としては、最判昭和44年2月27日 民集23巻2号511頁を参照。わが国の判例理論によれば、法人格否認の法理の類型としては、 ①法人格が濫用される場合、または、②法人格が形骸化している場合が挙げられる。①法人格 の濫用の事例としては、倒産または破産の危機にある会社が、事業用資産に対する強制執行を 免れ、または財産を隠匿するために、新会社を設立する場合、競業避止義務を負う者がそれを 免れるために自己の支配する会社に競業を行わせる場合、法人格の利用による償権者詐悪のあ る場合等が挙げられる。この点に関しては、最判昭和48年10月26日民集27巻9号1240頁等を参 照。 また、②法人格の形骸化の事例としては、会社財産と社員の個人財産とが混I司していること、 取引相手が会社とその経営者等を混同していること、株主総会や取締役会の不開催、株券の違 法な不発行等、会社法上の強行法的な規定を遵守していないこと、会社の自己資本が過小であ ること等、法人形式を無視した事傭が積み攻なることで、法人格の形骸化といえるとしている。 この点に関しては、東京高判昭和53年8月9日判時904号65頁等を参照。 34ただし、法人格の濫用および形骸化のいずれの場合においても、会社の存在を全面的に否定す るわけではない。そして、事案ごとに法人格を否定するという解釈が、この法理の要件および
沖細大学法経学部紀要第14号 効果を明確にしてきたとまでは言い切れないであろう。なお、本稿で取り上げた実体法上の効 果の他にも、既判力・執行力等のような手続法上の効果に関する議論もあるが、本稿において は、この点を検討するものではない。 35相溌ほか・前掲注(23)179頁参照。 【脚注に挙げた以外の参湾文献】 ○相深哲=葉玉匡美=郡谷大輔編著『論点解説新・会社法千間の道標』(商事法務、2006年) ○伊藤靖史=大杉謙一=田中亘=松井秀征『会社法』(有斐閣、2009年) ○伊藤雄司「独立の方法」法教345号(2009年)80頁 ○江頭憲治郎『会社法人格否認の法理』(東京大学出版会、1980年) ○江頭憲治郎「『会社法制の現代化に関する要綱案』の解説(8.完)」商事1729号(2005年)4頁 ○大杉謙一「LLC制度の導入」企会56巻2号(2004年)62頁 ○神田秀樹『会社法〔第12版〕』(弘文堂、2010年) ○後藤元「法人格否認の法理」『会社法の争点』(有斐閣、2009年)10M ○宍戸善一「持分会社」ジユリ1295号(2005年)110頁 ○志谷匡史『起業家のための会社法入門』(中央経済社、2006年) ○龍田節『会社法大要』(有斐閣、2007年) ○中村芳夫=武井一浩監修『速報新・会社法一「会社法制の現代化」要綱の解説と実務対応』 (清文社、2005年) ○日下部聡=石井芳明監修・経済産業省産業組織課編『日本版ILC−新しい会社のかたち』(金融 財政事情研究会、2004年) ○前田府『会社法入門〔第12版〕』(有斐閣、2009年) ○松田修一『ベンチャー企業〔第3版〕』(日本経済新聞社、2005年) ○森本滋「判批」『会社法判例百選』(有斐閣、2006年)10頁 ○弥永真生『リーガルマインド会社法〔第12版〕』(有斐閣、2009年)