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アピアランスケアにおける職種別の意識差 -「アジアのがん患者に対する化粧支援についてのがん医療従事者意識調査」の分析を考察して-

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アピアランスケアにおける職種別の意識差

-「アジアのがん患者に対する化粧支援についての

がん医療従事者意識調査」の分析を考察して-

Differences in Awareness of Appearance Care by Occupation:

An analysis of an Attitude Survey of Oncology Health Care Professionals

Regarding Make up Support for Cancer Patients in Asia

堀田善宇

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HOTTA Zen-U

河原ノリエ

KAWAHARA Norie

1.はじめに

近年における、がんの治療法、通院治療環境の基盤整備、及び、有害事象の緩和技術の 進歩、並びに、入院の短期化などにより、全がんの 5 年生存率が上昇しただけでなく、就 労を継続しながら通院している患者は36.5万人と報告されている(厚生労働省健康局 2019) (2)。しかし、がんの治療が外見の変化を生じさせることから(Lacouture 2012)(3)、社会と 接触しながらの治療生活は、治療に伴う外見の変化を患者に強く意識させることを意味す る(国立がん研究センター 2016)(4)。治療に伴う身体的副作用の中でも外見に現れる副作 用、例えば、髪の脱毛、眉毛・睫毛の脱毛、乳房切除、体表の傷、二枚爪、爪割れなど外 見の変化を伴う症状の苦痛度が高いという報告もある(Nozawa et al. 2013)(5)。特に心理 社会的苦痛における研究では、外見変化が患者の身体的自己認識(ボディイメージ)や QOL を毀損し、自尊心や自己概念を脅かすことが知られている(Choi et al. 2014, Carpenter & Brockopp 1994, Munstedt et al. 1997)(6) (7) (8)

以上のように、外見変化に対するケアや支援の需要は高く、がん患者 638 名を対象にし た調査(野澤 2011)(9)では、患者の 97.4%が外見の変化とケアの情報は病院で与えられる べき、と認識していた。直接生命に関わらないという理由により、国内ではこれまで軽視 されがちであったが(一宮 et al. 2020)(10)、2012 年には、がん患者に対する外見関連の ケアを「アピアランスケア」、外見の個別具体的諸問題に対する医学的・技術的・心理社会 的支援を「アピアランス支援」と定義づけた上(国立がん研究センター 2016)(11)、アピア ランスケア及び支援におけるエビデンスの蓄積が推進されている。がん専門病院では、ア ピアランス支援センターが設置され、専門的なケアが期待されている(飯野 et al. 2019) (12)。外見を整えるケアとともに、外見の変化に伴う患者の心理社会的な側面を踏まえたケ アが重要となっている(飯野 et al. 2017)(13)。美容的処置を受けた乳がん患者は、精神 的苦痛を直接軽減するには至らなかったものの、ボディイメージの改善が見られ、自尊心 等の増幅への効果があり得るという報告もある(Quintard & Lakdja 2008)(14)。逆に、同

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社会デザイン学会 学会誌 2020 Vol.12 論文では、美容的処置を受けなかった比較群では、時間の経過とともに、無力感や絶望が 増加したとも報告されている。 飯野らは看護師にフォーカス・グループインタビューを実施した結果、アピアランスケ アを構成する要素の大カテゴリーとして、「外見変化のリスクを見越して備えるための情報 提供」「外見変化に対応した生活を送るためのセルフケア支援」「患者の意思に寄り添いそ の人らしい生活を支える外見ケア」「多職種連携による専門性を活かした外見ケア」の4 つ を見出した(飯野 et al. 2017)(15)。4 つ目の多職種連携には、「外見ケアが必要な患者の 情報を逃さない体制を構築する」及び「〈継続した外見ケアのために多職種・他部門と連携 する〉という要素が含まれる。飯野らががん診療連携拠点病院等の看護職 2025 名に実施し、 726名を分析した調査(飯野 et al. 2019)(16)によれば、アピアランス支援をすべき職種と して、分析対象回答者の 95.5%が看護師を挙げ、約 4 割が医師、薬剤師等も挙げ、多職種 連携への期待が示された。一宮らが地方都市のがん診療連携拠点病院に勤務するがん看護 経験を有する看護師 183 名を対象に行った調査(一宮 et al. 2020)(17)によれば、アピア ランスケアの実践状況(自由記述・重複回答有)は「多職種・チーム間での連携」の 72 名 が最も多かった(次いで、「精神的支援」の52 名と「情報提供」の51 名)。また、同論文は、 多職種との連携が強化されるような体制が有用であるとの認識を示した。アピアランスケ アにおける多職種連携の実施例は、福島県立医科大学(菅野 2019)(18)など、多くの報告例 がある。効果については、Ikeda らによる論文にて、学者、看護師、看護師長、美容師に よる多職種連携が、日常看護におけるアピアランスケア等介入の一体化を促進し、また、 患者のニーズに対する気づきを改善させる、と指摘されている(Ikeda et al. 2020)(19) しかしながら、これらのがん患者に対するアピアランスケアにおける多職種連携につい ての最新研究においても、職種別の意識差についての調査は行われていない。知識、立場、 経験などが異なる職種の人間が連携する以上、職種による意識差があるのは当然だと考え られるし、多職種連携をより緊密にしてアピアランスケアという介入の質を向上させるた めには、職種別の意識差を埋めるための研修などの手段が望ましいと思料されるが、意識 差について具体的なことは不明である。アピランスケア自体やアピアランスケアの効果に 対する意識だけでなく、外見変化の問題、外見変化による患者の苦痛、患者とのコミュニ ケーション、女性の健康問題、外見変化による苦痛の性別差、がん医療ケア自体のレベル、 がん医療ケアに対する文化的背景といったことに至るまでの包括的な意識を知るべきであ るが、未踏の領域である。職種による意識差があるのは当然だと考えられる、と前述した ものの、そもそも意識差の存在自体が検証されていない。 本論の目的は、その意識差、すなわち、職種によるアピアランスケアに対する意識差の 存在を明らかにすることである。そのため、国際対がん連合(UICC)の正式メンバーであ るアジアがんフォーラムが、2010 年の中国深圳市における UICC 世界癌会議において実施 した「アジアのがん患者に対する化粧支援についてのがん医療従事者意識調査」(20)「アジ ア化粧支援意識調査」)を用いた。回答者が同会議に来場したがん医療従事者という制約に よる、美容師などは含まれていない、職種ごとに回答者数は大きく異なる、回答者の国籍 や文化的背景が大きく異なる、といった限界、及び、アピアランスケアのうち(主に女性 がん患者への)化粧支援のみを対象としているという限界が指摘できるものの、多職種の 回答者がアピアランスケアに対する意識を示した調査として、目的を達成できるに十分な

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を明らかにするという本論の目的達成に、アピアランスケアの厳密な定義(職種、場所、 内容の範囲)は必要でないため、前述の国立がん研究センターの「がん患者に対する外見 関連のケア」という広義のみを採用する。現状、アピアランスケアの定義についてのコン センサスは存在しておらず、定義に先立って、現場で多種多様なアピアランスケアの運用 があるというのが実情である。

2.分析と考察

(1) 調査概要 「アジア化粧支援意識調査」は、2010 年8 月18 日~21 日、中華人民共和国深圳市にて開 催された UICC 世界癌会議において、同会議参加者から無作為抽出されたがん医療従事者 274 人を対象に実施された。質問によって回答者数は異なる。質問言語は、同会議の作業 言語であった英語である。 スクリーニングはなく、調査質問は分岐を含めて計 20 問あり、回答者属性については、 性別、年齢層、職業を訊いた。性別は、男性が 131 名(47.8%)、女性が 130 名(47.4%)、 不明が13 名(4.7%)であった。年齢層は、20 代が37 名(13.5%)、30 代が96 名(35.0%)、 40 代が76 名(27.7%)、50 代が39 名(14.2%)、60 代が10 名(3.6%)、70 代以上が4 名(1.5%)、 不明が 12 名(4.4%)であった。職業は医師が 153 名(55.8%)、研究者が 51 名(18.6%)、 会社員が 4 名(1.5%)、(医・看護・保健)学生が 5 名(1.8%)、看護師が 8 名(2.9%)、患 者代表が 5 名(1.8%)、ヘルス教育従事者が 10 名(3.6%)、その他が 9 名(3.3%)、不明が 29 名(10.6%)である。 同調査は、アピアランスケアないしアピアランス支援のうち、化粧支援に絞られている。 設問の英語原文で「makeup」となっている単語は、形成術を含む範囲であるが、化粧を指 すことを調査時に口頭説明しているため、広義の「メイクアップ」とせず、「化粧」と訳さ れている。 (2) 分析及び考察 職種の分析であるが、最初に、次の質問群を用いて、選択肢をパラメータ化した上で、 主成分分析を行った。KMO は.716、バートレットの球面性検定では、近似カイ 2 乗=310.669、 df=91、 p<.001 であった。スクリープロットと固有値を参考に四つの成分をバリマック回 転で抽出した。さらに、成分を四つ抽出した後、該当する回答者に対して、バートレット 法で、それぞれの成分につき得点を付与した(つまり、それぞれの回答者が四つの成分そ れぞれにおいてどの程度であるかを得点で示した)。 主成分分析に使用した質問群: 質問 1 「がん患者のための化粧支援を知っていますか?」 質問 3 「がん患者への化粧支援についてどう思いますか?」 質問 7 「このような(化粧)支援が(患者に)提供された場合、患者にとってプラスの

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社会デザイン学会 学会誌 2020 Vol.12 精神的効果がもたらされると思いますか?」 質問 8 「がん患者の外見変化についてどう思いますか?」 質問 9 「抗がん剤の副作用による外見変化についての不安や懸念を、患者から直接聞い たことがありますか?」 質問12「あなたの国では、女性の健康問題は大きく注目されていますか?」 質問13「患者とのコミュニケーションは、医療的治療と関係ない事柄についてでも重要 だと思いますか?」 質問14「(外見変化は)自尊心の喪失によって患者の病状に影響すると思いますか?」 質問15「化粧支援をするとしたら、あなたは訓練(補助)は必要ですか?」 質問16「国際的には、がん医療治療のレベルに大きな格差があると言われていますが、 これについてどう思いますか?」 質問18「がん医療ケアには文化的背景が大きく影響していると思いますか?」 質問20「女性のがん患者の方が男性のがん患者よりも外見を気にすると思いますか?」 四つの成分(グループ)の成分表から解釈された特徴は次の通りである。四成分別に、 得点が平均的に高い性別及び年齢層を導き、成分別に特徴的な性別及び年齢層も付加した。 図表 1 主成分と使用質問の対応票 性別や年齢層も合わせて解釈するに、グループ 1 は、消極的理解派であり、外見変化の 問題は認識し、化粧支援も必要だとはするものの、化粧支援の精神的効果に懐疑的であり、 医療的治療以外(外見含む)についての患者とのコミュニケーションも重視しない。化粧 支援を提供できるに越したことはないが、自分自身が関わることがなさそう、という態度 である。50 代以上の男性が多い。グループ 2 は、治療至上主義派であり、化粧支援につい ては知っているものの、外見変化は重視せず、化粧支援も必要ないとする。しかし、医療 的治療以外についての患者とのコミュニケーションや女性の健康問題は重視する。30代、 40 代が多く、患者に近い職種でいながら、化粧よりも治療を徹底的に優先する。グループ 3 は、自分想定賛成派であり、20 代女性が多く、化粧支援について知らなかったが、がん 罹患した場合に自身が必要になることを想起し、化粧支援を望む立場である。グループ 4 は、50 代以上の男性が多めで、グループ 1 と違って、こちらは、全面肯定派である。自分 自身が対象となることを想定せずとも、化粧支援という概念そのものを全面的に肯定して いる。また、このグループに特徴的なのは、がん医療治療のレベルにおける国際的な格差 グループ 1 2 3 4 がん患者のための化粧支援を知っていますか? 知っている 知っている 知らない 知っている がん患者への化粧支援についてどう思いますか? 必要 不要 必要 絶対必要 このような(化粧)支援が(患者に)提供された場合、患者にとってプラスの精神的効果がもたらされると思いますか? いいえ いいえ はい はい寄り がん患者の外見変化についてどう思いますか? 大事 大事ではない 大事 大事 抗がん剤の副作用による外見変化についての不安や懸念を、患者から直接聞いたことがありますか? ずっとない ずっとない はい はい/いつか あなたの国では、女性の健康問題は大きく注目されていますか? いいえ はい どちらとも はい 患者とのコミュニケーションは、医療的治療と関係ない事柄についてでも重要だと思いますか? 重要ではない 重要 わからない 重要 (外見変化は)自尊心の喪失によって患者の病状に影響すると思いますか? 思わない 思わない そう思う そう思う 化粧支援をするとしたら、あなたは訓練(補助)は必要ですか? 必要 不要寄り 不要 必要寄り 国際的には、がん医療治療のレベルに大きな格差があると言われていますが、これについてどう思いますか? 格差は悪化 格差は悪化 格差は悪化 格差は改善 がん医療ケアには文化的背景が大きく影響していると思いますか? 思わない わからない 思う 思う 女性のがん患者の方が男性のがん患者よりも外見を気にすると思いますか? 思わない あまり思わない思う やや思う 性別 男性 男女ともに 女性 男性多め 年齢層 50代以上 30代40代 20代 50代以上

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次に、それらのグループと職種を対応させるため、回答者のそれら四成分別の得点を職 種別に平均値を取り、ランキングを行った。 図表 2 各成分の職種別平均得点ランキング グループ 1 の消極的理解派は、研究者、医師、ヘルス教育従事者、患者代表の順で対応 する。外見変化や化粧支援についての知識は豊富にあるが、50 代以上の男性として、自ら が患者のケアに努める立場にないのが判る。主な関心は、がん治療による身体的回復であ り、化粧支援で外見も補正できればということである。グループ 2 の治療至上主義派は、 実は、圧倒的に看護師である。患者に近く、医療的治療以外についての患者とのコミュニ ケーションも女性の健康問題も重視する。ただし、2010 年という 10 年前の時代背景もあ って、がん患者の有害事象の緩和そのものに日々の労働時間を費やしていたため、外見変 化や化粧支援は看護業務の対象外という態度であったのがうかがわれる(これも本分析に おける限界の一つである)。この 10 年、がんの治療法や有害事象の緩和技術の進歩が手伝 って、日本やアジアで、アピアランスケアの概念が医療・看護の世界で急速に浸透し、実 施されはじめ、2020 年現在における看護師の意識は第 1 章で掲出した文献のものに変化し つつあることを追記しておきたい。20 代女性が多かった、グループ 3 の自分想定賛成派は、 会社員及び学生という、医療従事者の中では、一番医療現場や患者から離れている職種で あった。グループ 4 の全面肯定派は、ヘルス教育従事者及び会社員が多く、ヘルスケア事 業としてのアピアランスケアの重要性を認識し、また、がん医療の格差についてもヘルス ケアの市場拡大に伴って改善していると考え得ていることが推測できる。なお、グループ 2 において 1 位であった看護師は、他グループでは最下位であり、他職種との意識差が際 立っていると考えられる。 さらに、職種別の四成分の平均得点をもとに、階層クラスター分析(標準化、ワード法) で行った。 1 2 3 4 研究者 看護師 会社員 ヘルス教育従事者 医師 会社員 学生 会社員 ヘルス教育従事者 医師 その他 その他 患者代表 研究者 研究者 患者代表 その他 その他 医師 医師 学生 患者代表 ヘルス教育従事者 学生 会社員 学生 患者代表 研究者 看護師 ヘルス教育従事者 看護師 看護師

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社会デザイン学会 学会誌 2020 Vol.12 図表 3 化粧支援に対する意識をもとにした職種別階層クラスター 結果は、前述の考察通り、看護師が他職種と一線を画している。その下の階層では、学 生、その他、会社員が一つのクラスターをなし、医師、研究者、患者代表、ヘルス教育従 事者がもう一つのクラスターをなしたが、これは、端的に言えば、患者と接している時間 と頻度の差であろう。前者のクラスターにある学生と会社員はグループ 3 に多い。後者の クラスターにある医師、研究者、患者代表、ヘルス教育従事者は、グループ 1 に多い。こ のクラスターでは、ヘルス教育従事者が少し離れているが、同職種がグループ 1 だけでな く、グループ 4 にも多いことが影響しているのだろう。 このように、医療従事者の意識差は、職種によって大きな隔たりがあることが確認され、 特に、看護師の意識が他職種より最も乖離していた。

3.展望

冒頭で述べたように、本論文の目的は、職種によるアピアランスケアに対する意識差の 存在を明らかにすることであった。「アジア化粧支援意識調査」の分析により、化粧支援を 含む意識において、医療従事者における職種差が浮き彫りになり、その存在は確認できた と言えよう。特に、看護師は突出して、他職種との意識差が顕著である。加えて、職種に よる立場や、患者と接している時間と頻度の差といった要素も意識に影響していることが

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本分析の主な限界点は、前述した通り、アピアランスケアないしアピアランス支援のう ち、化粧支援しか取り上げられていない点、2010 年からの 10 年におけるアピアランスケ アの急速な普及により、看護師などの意識が現在のものと少し異なっている点、そして、 UICC 世界癌会議に来場した医療従事者を対象としたことによる、美容師といった医療従事 者以外の職種が含まれていない点、調査時のスクリーニングや割付がなかった点、回答者 の国籍や文化的背景が大きく異なる点が挙げられる。特に、この 10 年で、アピアランスケ アが罹患者の QOL 改善に必要との認識が定着したことは大きく、各職種のアピアランスケ アに対する意識の内容そのものは、「アジア化粧支援意識調査」の調査時点より変容してい よう。しかしながら、本論の目的であった、アピアランスケアに対する職種別の意識差が 存在するという事実自体は、間違いなく確認された。 アピアランスケアが効果的に行われるためには、前述の先行研究が示したように、多職 種連携が不可欠である。多職種連携が強化されるような体制は有用であり、多職種連携は、 日常看護におけるアピアランスケア等介入の一体化を促進し、また、患者のニーズに対す る気づきを改善させる。しかし、職種間の意識差は、連携がもたらすその一体化を阻害し 得る。がん及びアピアランスケアに対する事前知識ばかりか、医療的治療に対する同ケア の位置付け、同ケアの必要性、外見的補正以上の精神的支援に対する理解等の面における 不一致があれば、多職種連携が強化されるような体制は実現できないが、本論の分析では、 それらの不一致が明らかになった。この 10 年で、不一致の度合いも緩和していると考えら れるが、職種別意識差の存在と性質を理解し、解消の方途を見出さない限り、不一致は存 在し続け、多職種連携の効果を弱めるであろう。 今望まれるのは、これらの前述の限界点を越えた、アピアランスケアの現状を反映する 職種別意識調査であり、その分析結果により、アピアランスケアにおける多職種連携をよ り緊密に、より効果的にする知見やヒントが得られることである。より精緻なグループフ ォーカスインタビューなども必要であろう。 この 10 年、アジア及び日本におけるがんは急増しているが、がん医療の進歩は目覚ま しく生存期間も延びて、アジアにおいても、がんを患いながら、外来治療に通う患者も増 えてきている。新薬の登場や治療法の改善により、副作用のあらわれ方としては、身体的 苦痛を伴う副作用は大幅に減る一方、外見上の変化は、残るゆえに、患者の苦痛はより、 外見上の事柄に集中するようになってきている。治療成績の向上は、歓迎すべきことであ るが、その反面、患者が治療中も社会との接点を増やして、外見変化に伴う苦痛を増大さ せることに繋がっており、日常生活に大きな影を落としている。日本においては、指導者 研修プログラム作成研究がなされ、専門的な知識と手技を取得し患者に提供できる人材を 育てようとする動きがある。また他職種と協働して所属施設内でアピアランスケアを展開 できることにとどまらず、アピアランスケアの概念や基礎的知識について、他の医療職に 指導できるような仕組みづくりもはじまっている。 がん医療はマルチセクトラルな連携を必要としており、侵襲性の低いケアである美容 は、専門性を超えた医療人材間の連携のクロスポイントになりうるものである。職種とし ては専門的な知識と手技を取得し他職種と協働して、ケアに参加し、他の医療職をまきこ んで指導できる職種である。専門的な知識と手技については、アジア諸国への技術移転に

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社会デザイン学会 学会誌 2020 Vol.12 おいても比較的ハードルが低い領域であり、また、がんを社会課題として捉えるアプロー チのツールとしても極めて有効であり、この切り口のデータを集めていくことも、今後の 医療、ヘルスケア、美容等各産業の事業価値向上に繋がるであろう。 ■註 (1) 堀田善宇、河原ノリエは同程度の貢献をした共同第一著者である。 (2) 厚生労働省健康局, 特別集計:「がん患者・経験者の仕事と治療の両立支援の更なる推進につい て」 https://www.mhlw.go.jp/content/10901000/000559467.pdf, 2019。

(3) Lacouture, 2012, Dr. Lacouture’s skin care guide for people living with cancer, 247-55, Harborside

Press: New York.

(4) 国立がん研究センターがん患者の外見支援に関するガイドライン研究班編, 2016, 『がん患者に

対するアピアランスケアの手引き』金原出版。

(5) Nozawa, Shimizu, Kakimoto, et al., 2013, “Quantitative assessment of appearance changes and related

distress in cancer patients”, Psycho-Oncology, 22: 2140-7, Wiley-Blackwell: New Jersey.

(6) Choi, Kim, Chang, Kang, et al., 2014, “Impact of chemotherapy-induced alopecia distress on body image,

psychosocial well-being, and depression in breast cancer patients”, Psycho-Oncology, 23:1103-10, Wiley-Blackwell: New Jersey.

(7) Carpenter & Brockopp, 1994, “Evaluation of selfesteem of women with cancer receiving chemotherapy”,

Oncol Nurs Forum, 21:751-57, Oncology Nursing Society: Philadelphia.

(8) Munstedt, Manthey, Sachsse, Vahrson, 1997, “Changes in self-concept and body image during alopecia

induced cancer chemotherapy”, Supportive Care in Cancer, 5:139-43, Springer: Berlin/Heidelberg.

(9) 野澤桂子, 2011, 「がん患者の外見変化に対応したサポートプログラムの構築に関する研究」『平 成 21-23 年度文部科学省科学研究費補助金事業基盤研究 C 研究成果報告書』。 (10) 一宮由貴, 今井芳枝, 三木幸代, 山口美代子, 原田理央, 近藤育美, 濵本うたお, 板東孝枝, 2020, 「急性期病院に勤務する看護師のアピアランスに関する認識」『四国医誌』76 巻 3,4 号 143-152。 (11) 国立がん研究センターがん患者の外見支援に関するガイドライン研究班編, 前掲書。 (12) 飯野京子, 長岡波子, 野澤桂子, 綿貫成明, 嶋津多恵子, 藤間勝子, 清水弥生, 佐川美枝子, 森文子, 清水千佳子, 2019, 「がん治療を受ける患者に対する看護師のアピアランス支援の実態 と課題および研修への要望『日本緩和医療学会誌』14(2): 127–38。 (13) 飯野京子, 嶋津多恵子, 佐川美枝子, 綿貫成明, 市川智里, 栗原美穂, 上杉英生, 栗原陽子, 坂本はと恵, 稲村直子, 杉澤亜紀子, 宮田貴美子, 長岡波子, 2017, 「がん治療を受ける患者へ の外見変化に対するケア:がん専門病院の看護師へのフォーカス・グループインタビューから」 『日本緩和医療学会誌』12(3): 709–15。

(14) Quintard & Lakdja, 2008, “Assessing the effect of beauty treatments on psychological distress, body

image, and coping: a longitudinal study of patients undergoing surgical procedures for breast cancer”,

Psycho-Oncology, 17: 1032–38, Wiley-Blackwell: New Jersey.

(15) 飯野 et al., 2017, 前掲論文。 (16) 飯野 et al., 2019, 前掲論文。 (17) 一宮 et al., 前掲論文。

(18) 菅野久美, 「“アピアランスケア”実践活動報告 : 学術活動」『福島県立医科大学看護学部紀要』

(9)

Breast Cancer Patient into Routine Clinical Practice”, Open Journal of Nursing, 10: 308-319, Scientific Research Publishing, Hubei.

(20)「アジアのがん患者に対する化粧支援についてのがん医療従事者意識調査」は、2010 年8 月18 日 ~21 日、中華人民共和国深圳市に開催された UICC 世界癌会議において、同会議参加者から無作 為抽出された人間(学生や会社員を含め、全員が医療従事者)を対象に、一般社団法人アジアが んフォーラムが株式会社資生堂の協力を得て実施した。 ■参考文献 アジアがんフォーラム, 2010, 「アジアのがん患者に対する化粧支援についてのがん医療従事者意識 調査」調査票・データ。 飯野京子, 嶋津多恵子, 佐川美枝子, 綿貫成明, 市川智里, 栗原美穂, 上杉英生, 栗原陽子, 坂本 はと恵, 稲村直子, 杉澤亜紀子, 宮田貴美子, 長岡波子, 2017, 「がん治療を受ける患者への外 見変化に対するケア:がん専門病院の看護師へのフォーカス・グループインタビューから」『日 本緩和医療学会誌』12(3): 709–15。 飯野京子, 長岡波子, 野澤桂子, 綿貫成明, 嶋津多恵子, 藤間勝子, 清水弥生, 佐川美枝子, 森文 子, 清水千佳子, 2019, 「がん治療を受ける患者に対する看護師のアピアランス支援の実態と課 題および研修への要望『日本緩和医療学会誌』14(2): 127–38。 一宮由貴, 今井芳枝, 三木幸代, 山口美代子, 原田理央, 近藤育美, 濵本うたお, 板東孝枝, 2020, 「急性期病院に勤務する看護師のアピアランスに関する認識」『四国医誌』76 巻 3,4 号 143-152。 菅野久美, 「“アピアランスケア”実践活動報告 : 学術活動」『福島県立医科大学看護学部紀要』21: 31-34。 厚生労働省健康局, 特別集計:「がん患者・経験者の仕事と治療の両立支援の更なる推進について」 https://www.mhlw.go.jp/content/10901000/000559467.pdf, 2019。 国立がん研究センターがん患者の外見支援に関するガイドライン研究班編, 2016, 『がん患者に対す るアピアランスケアの手引き』金原出版。 野澤桂子, 2011, 「がん患者の外見変化に対応したサポートプログラムの構築に関する研究」『平成 21-23 年度文部科学省科学研究費補助金事業基盤研究 C 研究成果報告書』。

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(10)

社会デザイン学会 学会誌 2020 Vol.12 Nozawa, Shimizu, Kakimoto, et al., 2013, “Quantitative assessment of appearance changes and related

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