Nagoya City University Academic Repository
学 位 の 種 類
博士 (経済学)
報 告 番 号
甲第1707号
学 位 記 番 号 第66号
氏 名
神谷 宜泰
授 与 年 月 日
平成 31 年 3 月 25 日
学位論文の題名
事業継承を契機とした経営革新の理論的分析 : 中小企業特有の課題と組
織変革プロセスの視点から
論文審査担当者
主査: 出口 将人
副査: 河合 篤男, 余合 淳
事業承継を契機とした経営革新の理論的分析
-中小企業特有の課題と組織変革プロセスの視点から-
平成30年度 博士論文
提出日
平成30年 12 月 13 日
名古屋市立大学大学院経済学研究科
経営学専攻
主指導員 出口 将人 先生
副指導員 余合 淳 先生
学籍番号 143653
氏 名 神谷 宜泰
要 旨
1
1999 年の中小企業基本法の改正により、多様で活力ある中小企業こそが我が国経済の発
展と活力の源泉であるとされ、中小企業に対する政策目標は中小企業の自助努力を正面か
ら支援すること転換された。しかし、多くの中小企業が世代交代時期を迎える中、1999 年
から 2014 年の 15 年間で中小企業者の数は約 150 万社減少しており、小規模企業では事業
を承継した後継経営者の 9 割近くが経営革新に取り組んでいるとされている。事業承継と
経営革新の問題は、中小企業の重要性の高まりと事業者数の減少という矛盾する現状によ
って、近年瞬く間に人口に膾炙する状況になっている。
同族企業が多い中小企業では、
事業承継は現経営者の子息によって行われることが多く、
そうした後継経営者の中には、先代からの要請を受けて経営革新を目的に事業承継をする
者もいる。しかし、経営経験もなく、組織の新参者であり、事業の経験も知識も先に入社
した古参従業員に劣る後継経営者が、古参従業員から認められ、経営者としての手腕を発
揮するのは容易ではない。しかも、後継経営者による経営革新には組織変革が伴う場合が
多いとされている。
本稿の目的は、中小企業における事業承継を契機とした経営革新を、これまでの経営学
や中小企業論で蓄積されてきた知見を踏まえつつ、理論的な分析を試みることである。具
体的には、経営革新前後で新旧経営者の相互関係はどのように変遷するのか、中小企業の
持つ特徴が組織変革にいかなる影響を与え、そのプロセスはどのようにして進展するのか、
また、そのプロセスは大企業を対象とするこれまでの組織変革の議論によって説明可能な
のか、といった課題を経営学的な理論フレームによって説明する。
まず、事例の分析フレームワークとリサーチ・クエスチョンを得るために、中小企業の
特徴、組織変革プロセス及び変革者のリーダーシップ、並びに神谷(2018a)に基づいて中
小企業の事業承継と経営革新における議論をレビューした。その結果、事例を分析するフ
レームワークは、中小企業研究において主要な研究テーマとなって来た「先代の役割」、
「後
継経営者の能力形成プロセス」
、「世代間の関係性」、「資源的な制約」、「組織のマネジメン
ト」という 5 つテーマ(以下、中小企業特有の課題)と、組織変革プロセスを「解凍、移
行、再凍結」という 3 つの段階で説明する Lewin(1947)のモデルの 2 軸で構成するもの
とした。また、リサーチ・クエスチョンは、レビューから「中小企業特有の課題は組織変
革プロセスにどのような影響を与えるのか」、
「後継経営者はどのようにしてリーダーシッ
プを発揮するのか」
、「新旧経営者の相互関係はどのように変遷するのか」という 3 問を設
定した。
調査から得られた発見事項は、先代の役割の多面性と影響力の強さ、後継経営者の状況
的学習の必要性、組織内コンフリクトの解消の難しさ、既存資源による成功の蓄積と外部
情報の重要性であり、さらに、分析フレームにあてはめ、組織変革プロセスにおける中小
企業特有の課題の影響を整理した。その結果、中小企業特有の課題は、組織変革プロセス
に主要な以下の 5 つの影響を与えることが判った。第一に、先代の役割の変遷が変革プロ
セスの各段階の移行に影響を与えることである。第二に、後継経営者は状況的学習から必
要な知識や能力を得なければならず、後継経営者の学習の進展は変革プロセスの進度に影
響を与えるということである。第三に、後継経営者のリーダーシップは、経営革新の進展
と先代の在籍の有無によって変化するということである。第四に、変革プロセスは、スラ
ックを生み出しながら進展することである。最後に、後継経営者は、変革に伴う古参従業
員とのコンフリクトを容易に解消できず、変革プロセスの進行の阻害要因となるというこ
とである。
次に、発見事実を神谷(2018b)と比較しながら、3 つのリサーチ・クエスチョンを考察
した。最初の考察は、中小企業特有の 5 つの課題が組織変革プロセスに与える影響につい
てである。第一に、先代の役割が示す後継経営者との相互関係の変遷は、組織変革プロセ
スの段階と表裏一体をなし、先代は後継経営者に対する役割を変えることで、組織変革の
進捗を調整しているといえる。第二に、後継経営者の状況的学習は、変革プロセスの各段
階で途切れることなく続き、こうした学習方法による能力形成は、一方で組織変革を遅ら
せる可能性があるが、他方では変革を着実に進ませる要因となり得る。第三に後継経営者
のリーダーシップは、経営革新の進展と先代の在籍の有無によって民主型から強制型に変
化しており、後継経営者のリーダーシップの発露は、まさに先代に依存している。第四の
スラックを蓄積しながら進行する組織変革は、断続的均衡モデルで主張された経営者のト
ップダウンによる計画的なものではなく、資源的な制約によって外部情報や外部資源に依
存しながら実現される。最後に、後継経営者が組織内のコンフリクトを解消できないこと
は、後継経営者が変革者としてのリーダーシップを発揮することを妨げ、変革プロセスの
進展を遅らせる大きな要因とともに、一部の従業員の退社を促してしまう。これまでの考
察から、事例における組織変革プロセスの進展要因をまとめてみると、先代の役割の変遷、
後継経営者の状況的学習の進捗状況、具体的な革新の成功、古参従業員とのコンフリクト
の解消といった要因が挙げられる。
第二の考察は、後継経営者はどのようにしてリーダーシップを発揮するのかというもの
3
である。後継経営者は、入社当初からリーダーシップを発揮することはできなかった。中
小企業の経営者のリーダーシップという能力は、組織内の具体的な実務や経験を通して、
開発され、醸成されていくものであり、経営での実績を伴わなければリーダーシップは発
揮できない。また、後継経営者が入社した時点で先代が在職していたことも、大きな制約
になっていた。後継経営者が最初に発揮するリーダーシップは、従業員との協調や協働を
重視する民主型リーダーシップであり、先代の死去後に強制型リーダーシップに変わって
いった。それはかつて先代が発揮していたものであり、組織が永く共有してきた旧いパラ
ダイムを変更するために必要なものである。
最後の考察は、新旧経営者の相互関係はどのように変遷するのかである。後継経営者か
ら見た先代の役割は、組織変革プロセスの解凍段階の「変革の宣言者・育成者」から、移
行段階の「革新案の反対者・影の支援者」に、最終的には再凍結段階の「後見者」へと変
遷していた。特筆すべきは、先代の反対者の役割であり、先代の反対は組織的な発見・創
造の機会を与え、後継経営者を取り巻く推進派の凝集性を高めると共に、革新の進度を調
整して、その成功率を高めるのである。先代が革新案に反対する理由をまとめてみると、
①これまでの競争優位や成功体験による「ロック・イン効果」、②組織全体で共有する「強
固なパラダイム」、③ファミリービジネスとしての企業や事業の出自、伝統といった「長期
的コミットメント」
、④先代の年齢から生じる不確実性排除のための「短期偏重」といった
4 つの理由を挙げることが出来る。
本稿の理論的含意としては、第一に、組織の慣性が強く、経営革新を必要とするような
企業であっても、資源的な制約や後継経営者がリーダーシップを発揮できない場合には、
急進的な変革ではなく漸進的な変革から始まり得ることを示した点である。第二に、これ
まで多面的、
統合的に議論されて来なかった中小企業の事業承継を契機とした経営革新を、
中小企業の特有の課題と組織変革という視点から多層的に分析し、小規模組織ながら組織
変革メカニズムの要因を示すことが出来たことが挙げられる。第三の含意は、加護野(1991)
が主張した企業革新における第 4 のモデル-反対者の存在-について、具体的な事例によ
ってその役割を検証できたことである。第四に、中小企業における組織変革を説明する理
論フレームとして、Lave & Wenger(1991)による LPP 論を示すことが出来たこと、及びそ
の LPP 論の拡張を図るための具体的な事例を提示出来たことである。最後に言えるのは、
金井(2004)が主張した組織の中で人が経験するエモーションという変革型リーダーシッ
プに関する議論の欠落という点に関して、組織変革の渦中にある人々が経験する様々な感
情を具体的に描くことが出来たことである。
最後に、実践的含意とそこから得られる今後の研究テーマについて述べる。実践的含意
としては、第一に経営革新における先代の役割の重要性である。今後の研究においては、
先代の早期退出支援や、専門的知識を持つ同族外の後継経営者の採用といった点について
も議論される必要がある。第二に、後継経営者の状況的学習の必要性である。後継経営者
の学習期間を短縮するための標準化や形式知化、学習の複線化を可能にする後継経営者の
企業内の布置の在り方が研究されるべきであろう。第三の含意は、経営革新による組織の
脆弱化である。後継経営者の経営革新組織の運営方法や、古参従業員の処遇などの研究が
進むべきであると思われる。最後に述べるのは、後継経営者による急進的な革新や変革の
困難さである。後継経営者による分社や第 2 創業への支援策も、さらに研究されるべきで
ある。
【参考文献】
加護野忠男(1991)「企業革新のモデル」,『国民経済雑誌』,163(1), 41-55 頁.
金井壽宏(2004)『組織変革のビジョン』第 7 刷,光文社.
神谷宜泰(2018a)「中小企業後継経営者の承継と革新に関する理論的研究」『オイコノミ
カ』第 55 巻第 1 号(2018),15-37 頁.
― (2018b)「新参者による技術導入とその課題‐中小製造業における後継経営者主導の
技術革新-」『企業家研究』第 15 号(2018),1-23 頁.
Lave, J. & Wenger, E. (1991), Situated Learning: Legitimate Peripheral
Participation,Cambridge University Press.(佐伯胖訳(1993)『状況に埋め込まれ
た学習:正統的周辺参加‐』産業図書)
Lewin, Kurt.(1947)”Frontiers in Group Dynamics”, Human relations, Vol17, No.4,
pp.502-513
名 古屋市 立大 学学位授 与報告書
甲
報
告
番
号
※ 甲第66号
学 位 の 種 類
博 士(経 済学)
氏
名
神谷
宜泰
学位授与の要件
学位規則第4条 第1項 該 当者
授 与 年 月 日
平成31年3月25日
学 位 論 文 の
事 業 承継 を 契機 と した経 営 革 新 の 理 論 的 分 析題
名
一 中小企 業 特 有 の 問題 と組 織 変 革 プ ロセ ス の視 点 か ら一神 谷宜泰氏 の課程博士学位 請求論文 は、中小企業 におけ る事 業継承 と経営革新
と い う き わ め て 今 日的 か つ 重 要 な 問 題 に つ い て 、 リー ダ ー シ ッ プ 、組 織 変 革 に かんす る先 行研 究や 中小企業論で蓄積 された知見 をふ まえつつ 、中小企業特有の課
、新 旧経営者 の関係やそれぞれの役割 とい う観点 か ら、成功事例 を分析す るこ
とに よって、事業継承 を契機 とした経営革新が いか に して実現 され るのかを明 ら
か に し よ う と した も の で あ る。論 文 審 査 の
本論 文は、中小企業におけ る事業継承 を契機 とした事業革新 について、① 中小
企業 に特 有の難 しさ、②事業継 承 と経営革新 を並行 してお こな うこ との難 しさを
結 果 の 要 旨
指 摘 し た うえ で、 ③ イ ン タ ビ ュ ー デ ー タ を も と に した 独 自の 事 例 を 分 析 す る こ と で 、 そ れ を 実 現 す る た め に は 、④ 先 代 と 後 継 者 に は ア ン ビバ レ ン トな 行 動 が 求 め お よ び そ の られ る と い う こ と を 仮 説 的 に 示 し て い る と い う点 に お い て 、 き わ め て ユ ニ ー ク か つ 理 論 的 、 実 践 的 に も貢 献 度 の 高 い も の と な っ て い る。担 当 者 氏 名
神 谷宜泰氏 の課程博士学位請求論文 は、レフ ェ リー制度 のあ る学術誌 に掲載 さ
れた論文 を含 む、 当該分野の発展 に寄与 し うる独 自の研 究成 果であ り、博 士(経
営 学)の 学 位 に 相 当 す る 論 文 で あ る と 評 価 で き る 。 ,一論文審査担当者
河
合
篤
男
主査 出口
将
人 副
査
余
合
淳
河
合
篤男
最終試験担当者
主 査 出
口
将
人
副 査
氏
名
濯臨余
合
淳
学 位 論 文 審 査
く6γ
名
称
審 査 委 員 会
機 関 の 名 称
組 織 論 文 審 査 委 員3人(主 査1人 、 副 査2人)お よ び 組 織
名
称
経済学研究科教授会
判 定 の 方 法
判定 の方法
研 究科教授会 での無記名投票 に よる
(名古屋市立大学大学院経 済学研 究科)
受付番号甲第66号
論文審査 の結果 の要 旨及 び担 当者
報
告 番
号
甲第
号
※
氏
名
神谷
宜泰
最 終 試 験 担 当 者
主査
出
口
将
人
副査
河
合
篤
男
、,余
合
淳
、論文題名
事業継承 を契機 と した経営革新 の理論的分析
一中小企業特有の課題 と組 織変革プ ロセスの視 点か ら一
(論文審 査の結果の要 旨)
神谷宜泰氏の課程博士学位請 求論 文は、中小企業 にお ける事業継 承 と経営革新 とい うきわめて今 日
的かつ重要な問題 につ いて、 組織変革や リーダーシ ップにかんす る先行研 究や 中小企業論で蓄積 され
た知 見をふ まえつつ、 中小企業 特有の課題 、新旧 経 営者 の関係や それぞれ の役割 とい う観点か ら、成
功事例 を分析す るこ とによって、事業継承 を契機 とした経 営革新 がい かに して実現 され るのか を明 ら
かに しよ うとした もので ある。
本 論 文 の 構 成 は 以 下 の とお りで あ る 。 I は じ め に II 先 行 研 究 の レ ビ ュ ー III 事 例 IV発 見 事 実 と含 意 Vお わ り に 【付 属 資 料 】 質 問 票 本 研 究 に は、 レ フ ェ リー 制 度 の あ る学 術 誌 に 掲 載 され た 以 下 の 査 読 付 き の 論 考 が 含 ま れ て い る。 神 谷 宜 泰(2018)「 新 参 者 に よ る 技 術 導 入 とそ の 課 題― 中 小 製 造 業 に お け る 後 継 経 営 者 主 導 の 技 術 革 新― 」 『企 業 家 研 究 』 第15号,1-23頁.(II・III) 神 谷 宜 泰(2018)「 中 小 企 業 後 継 経 営 者 の 承 継 と革 新 に 関 す る 理 論 的 研 究 」 『オ イ コ ノ ミカ 』 第55巻 第1号,15-37頁.(II・III) 本 論 文 の 要 旨 は 以 下 の と お りで あ る。 本 論 文 の 目的 は 、 中 小 企 業 に お け る 事 業 継 承 を 契 機 と した 経 営 革 新 に つ い て 、 こ れ ま で の 経 営 学 や 中 小 企 業 論 で 蓄 積 さ れ て き た 知 見 を ふ ま え つ つ 、 理 論 的 に 分 析 す る こ と で あ る 。 よ り具 体 的 に は 、 経 営 革 新 の 前 後 で、 新 旧 経 営 者 の 関 係 は ど の よ うに 変 化 す る の か、 中 小 企 業 の 特 徴 が 組 織 変 革 に ど の よ うに 影 響 す る の か 、 そ の プ ロ セ ス が ど の よ う に 変 化 す る の か を 、 組 織 変 革 に っ い て の 理 論 的 フ レー ム ワー ク を 援 用 して 説 明 す る こ と で あ る と され る 。 本 論 文 で は、 事 例 分 析 の 方 法 に よ っ て 、 こ の 課 題 に ア プ ロ ー チ さ れ て い る。受付番号甲第66号
論 文 審 査 の 結 果 の 要 旨及 び 担 当者
「1は じめ に 」 で は1本 論 文 の 背 景 と して 、 中小 企 業 を取 りま く環 境 が 大 き く変化 す るな か で、 事 業 継 承 と経 営 革 新 が 中 小 企 業 に と っ て き わ め て 重 要 な 課 題 に な っ て い る こ と 、 と くに 同 族 経 営 の 中 小 企 業 で は 、 そ れ へ の 対 応 が 困 難 で あ る こ とが 指 摘 され る。 そ の うえ で 、 そ う した 重 要 性 や 難 し さ に もか か わ らず、 事 業 継 承 は も と よ り、 さ ら に そ れ を 経 営 革 新 と 関 連 づ け た 研 究 は わ ず か で あ り、ま た、 そ う した 研 究 も 事 例 の 紹 介 に と ど ま っ て お り、理 論 的 な 説 明 が な さ れ た も の で は な い と し、 そ れ を お こ な う こ とが 本 論 文 の 目的 で あ る と さ れ る 。 「II先 行 研 究 の レ ビ ュ ー 」 で は 、 主 に 中小 企 業 論 の枠 組 み の な か で な され て きた 中小 企 業 経 営 の 特 徴 と後 継 経 営 者 に よ るr営 革 新 に か ん す る 議 論 、 よ り大 き な 経 営 学 の 枠 組 み の な か で な され て き た 組 織 変 革 お よ び 変 革 者 の リー ダ ー シ ッ プ の 議 論 、そ して 中 小 企 業 の 事 業 継 承 と 経 営 革 新 につ い て の 議 論 に つ い て の レ ビ ュ ー に も とつ い て 、 本 論 文 の テ ー マ に た い す る 理 論 的 フ レー ム ワー ク と リサ ー チ ・ ク エ ス チ ョン が 導 出 され る。 具 体 的 に は 、 ま ず 中 小 企 業 の 定 義 を 確 認 した あ と、 先 行 研 究 か ら 、 そ の 経 営 に お け る 特 徴 と し て 、 ほ ぼ す べ て が 同 族 企 業 で あ る こ と、 所 有 経 営 者 に よ る 経 営 、 経 営 者 能 力 の 偏 り、 親 族 内 で 後 継 人 材 が 望 ま れ る こ とが 多 い こ と(小 林,1996;川 上2014;中 小 企 業 研 究 セ ン タ ー, 2002;植 杉,2013)、 そ して 、 そ の た め に 経 営 革 新 を お こ な お う とす る 後 継 経 営 者 に は 、 「資 産 」、 「経 営 」、「知 的 資 産 」 の3つ の 側 面 の 継 承 と革 新 が 同 時 に 要 求 され る と指 摘 され る(神 谷2018b) 。 さ ら に 組 織 の 特 徴 と して 、 経 営 自 身 が 管 理 ・執 行 機 能 だ け で は な く 、 現 場 で の 実 務 を こ な して い る こ と 、 組 織 構 造 が 未 成 熟 な 、 人 的 能 力 に 依 存 す る 属 人 的 な 組 織 で あ る こ と(中 小 企 業 研 究 所,1990)、 実 践 共 同 体 をつ う じて の 学 習 が 中 心 で あ る こ と(小 関,1999;神 谷,2018a)、 そ の た め 、 後 継 経 営 者 に よ る 技 術 導 入 に あ た っ て は、 先 代 主 導 の そ れ と は 異 な る3つ の 変 化(学 習 の 複 線 化、 古 参 者 の ア イ デ ンテ ィ テ ィ の 対 抗、 目指 す べ き 十 全 者 像 の 喪 失)が も た ら され る。 こ の よ うな 変 化 の た め に 、 後 継 者 に よ る 事 業 革 新 に お い て は 、 コ ン フ リ ク ト ・マ ネ ジ メ ン ト、 組 織 の 維 持 の た め に 、 先 代 と後 継 者、 古 参 従 業 員 と後 継 経 営 者 の 人 間 関 係 が 重 要 に な る と指 摘 され る(神 谷,2018a)。 組 織 変 革 や 変 革 のリ 一 ダ ー シ ップ の 議 論 か ら は 、 変 革 の フ ェ イ ズ に つ い て は さ ま ざ ま な プ ロ セ ス ・モ デ ル が 提 示 され て い る が、 そ れ らに お い て は 、 さ ま ざ ま な 阻 害 要 因 に つ い て の 議 論 が 不 足 し て い る こ と、 と く に 中 小 企 業 で は 、組 織 変 革 の 研 究 の 多 く が 対 象 と し て い る 大 企 業 とは 異 な る 阻 害 要 因 が 考 え られ る と して 、 中 小 企 業 の 経 営 革 新 の 分 析 に あ た っ て は 、 そ れ ら を 対 象 とす る こ と の 必 要 性 が 主 張 され る(大 月,2005;松田,2012; 清 水;2010)。 さ らに こ れ ら を ふ ま え つつ 、 中 小 企 業 の 事 業 継 承 と経 営 革 新 につ い て の 議 論 か ら、 こ れ を 分 析 す る た め の 視 点 と して 、(1)先 代 の 役 割 、(2)後 継 経 営 者 の 能 力 形 成 プ ロセ ス、(3)世 代 間 の 関 係 性 、(4)資 源 的 な 制 約、(5)組 織 の マ ネ ジ メ ン トの5つ が 導 出 され(神 谷,2018a)、 こ れ ら と オ ー ソ ド ッ ク ス な 組 織 変 革 の 解 凍― 移 行― 再 凍 結 の 三 段 階 モ デ ル(Lewin,1947)を 組 み あ わ せ た 分 析 の フ レー ム ワ ー ク と と も に 、 以 下 の3つ のRQが 提 示 さ れ る。(1)中 小 企 業 特 有 の 課 題 は 組 織 変 革 に どの よ う な 影 響 を 与 え る の か 。(2)後 継 経 営 者 は ど の よ うに して リー ダ ー シ ッ プ を発 揮 す る の か 。(3)新 旧経 営 者 の 相 互 関 係 は ど の よ う に 変 遷 す る の か 。 「III事 例 」 で は 、上 記 のRQに つ い て 分 析 、 考 察 す る た め の 題 材 と して 、 後 継 経 営 者(三 代 目〉 が 事 業 継 承 を 貴 に 経 営 革 新 を お こ な い 、 缶 詰 中 心 の 業 態 か ら 「チ ャ オ 」 の ブ ラ ン ドで 知 られ る ネ コ用 ペ ッ トフ ー ドの ト ッ プ 企 業 に 成 長 させ 、承 継 時(1995年)に70億 円 程 度 で あ っ た 年 商 を300億 円 以 上(2016年)に 増 加 させ た 「い な ば 食 品 」 の 事 例 が 記 述 され る。 ケ ー ス の 記 述 は 、 主 に 後 継 経 営 者 お よ び 古 参 従 業 員 へ の イ ン タ ビ ュ ー か ら え られ た 情 報 と公 表 資 料 お よ び 社 内 資 料 を も と に 、中 小 企 業特 有 の 課 題 へ の 対 応1組 織 変 革 の3つ の フ ェ イ ズ の 二 つ の 軸 に 、上 述 の5つ の 視 点 か ら な され て い る 。 「IV発 見 事 実 と含 意 」 で は 、 事 例 か ら え られ た 発 見 事 実 とそ の 含 意 が 述 べ られ る。 ま ず 調 査 か ら え られ た 発 見 事 実 と そ れ につ い て の 考 察 お よ び 含 意 は 以 下 の とお りで あ る。(1)先 代 の 役 割 の 変 化 と そ こ か ら 生 じ る後 継 経 営 者 と の 相 互 関 係 の 変 遷 は 組 織 変 革 プ ロ セ ス の 段 階 と表 裏 一 体 を な し、 先 代 は 後 継 経 営 者 に た い す る役 割 を 変 え る こ と で 組 織 変 革 の 進 捗 を 調 整 して い た 。 後 継 経 営 者 か ら み た 先 代 の 役 割 は 、 組 織 変 革 プ ロセ ス の 解 凍 段 階 の 「変 革 の 宣 言 者 ・育 成 者 」 か ら、 移 行 段 階 の 「革 新 案 の 反 対 者 ・影 の 支 援 者 」 に 、 最 終 的 に は 再 凍 結 段 階 の 「後 見 者 」 へ と変 遷 して い る。 先 代 の 反 対 者 の 役 割 は 組 織 的 な 発 見 ・創 造 の 機 会 を 与 え 、後 継 経 営 者 を 取 り ま く 推 進 派 の 凝 集 性 を 高 め る と と も に 、 革 新 の 進 度 を調 整 して 、 そ の 成 功 率 を 高 め る も の と考 え られ る。(2) 後 継 経 営 者 の 状 況 的 学 習 は 変 革 プ ロ セ ス の 各 段 階 で 途 切 れ る こ と な くつ づ い て い た 。 こ う した 学 習 方 法 に よ る 能 力 形 成 は 組 織 変 革 を 遅 らせ る 可 能 性 が あ る が 、 変 革 を 着 実 に 進 ま せ る要 因 と も な り う る と考 え られ る。 (3)世 代 間 の 関 係 性 に つ い て は、 後 継 経 営 者 の リー ダ ー シ ップ は 経 営 革 新 の 進 展 と先 代 の 在 籍 の 有 無 に よ っ て 民 主 型 か ら強 制 型 に 変 化 す る。 後 継 経 営 者 の リー ダ ー シ ッ プ の 発 露 は 先 代 に 依 存 して い る 。 後 継 経 営 者 は 、入 社 当 初 か ら リー ダ ー シ ッ プ を 発 揮 す る こ と は で き る わ け で は な く 、 これ につ い て は 後 継 経 営 者 が 入 社 した 時 点 で 先 代 が 在 職 して い た こ と も 大 き な 制 約 に な っ て い た 。 そ の た め 、 後 継 経 営 者 が 最 初 に 発 揮 す る り一 ダ ー シ ップ は 、従 業 員 と の 協 調 や 協 働 を 重 視 す る 民 主 型 リー ダ ー シ ッ プ で あ っ た が 、 先 代 の 死 去 後 に 強 制 型 リー ダ ー シ ッ プ に 変 わ っ て い っ た 。 そ れ は か つ て 先 代 が 発 揮 し て い た もの で あ り、組 織 が 永 く共 有 し て き た 旧 い パ ラ ダ イ ム を 変 更 す る た め に 必 要 な も の で あ る と考 え られ る 。(4)資 源 的 な 制 約 に か ん して は 、 変 革 に 必 要 な ス ラ ッ ク が 乏 し い 中 小 企 業 の 後 継 経 営 者 は 既 存 資 源 に よ っ て 具 体 的 な 成 功 を 重 ね て ス ラ ッ ク 蓄 積 し て い く と と も に 、外 部 情 報 や 外 部 資 源 に 依 存 し て 革 新 を 実 現 して い っ た 。 こ の こ と は 、 後 継 経 営 者 に よ る事 業 継 承 と経 営 革 新 に お い て、 状 況 的 学 習 を つ う じて の 既 存 の 知 識 の 学 習 と外 部 で の 新 しい 知 識 の 習 得 の 両 方 が 重 要 な 意 味 を も っ て い る こ と を 示 して い る と考 え られ る 。(5)組 織 の マ ネ ジ メ ン トに か ん して は 、 後 継 経 営 者 は 組 織 内 の コ ン フ リク トを 容 易 に 解 消 で き な か っ た 。 コ ン フ リ ク トが 抑 制 で き な い 状 態 は 、後 継 経 営 者 が 変 革 者 と して の リー ダ ー シ ッ プ を 発 揮 す る こ と を 妨 げ 、 変 革 プ ロセ ス の 進 展 を 遅 らせ る 大 き な 要 因 と な る が 、 後 継 経 営 者 は 革 新 を 速 や か に 断 行 す る 必 要 が あ っ た 。 これ ら に も とづ い て 、 中 小 企 業 の 後 継 経 営 者 に よ る事 業 継 承 と経 営 革 新 の 進 行 に は 、 先 代 の 役 割(の 変 遷)、 後 継 経 営 者 の 状 況 的 学 習 の 進 捗 状 況 、 具 体 的 な 革 新 の 成 功 、古 参 従 業 員 と の コ ン フ リ ク トの 解 消 とい っ た 要 因 が 大 き く か か わ っ て い る と主 張 され る。 さ ら に 本 論 文 の 理 論 的 含 意/貢 献 と し て 以 下 の5点 が 主 張 さ れ る 。(1)組 織 の 慣 性 が 強 く、 経 営 革 新 を 必 要 とす る よ う な 企 業 で あ っ て も 、資 源 的 な 制 約 が あ っ た り、 後 継 経 営 者 が リー ダ ー シ ップ を 発 揮 で き な い 場 合 に は、 急 進 的 な 変 革 で は な く漸 進 的 な 変 革 か ら は じ ま り う る こ と を 示 した 。(2) こ れ ま で 多 面 的 、統 合 的 に 議 論 され て 来 な か っ た 中 小 企 業 の 事 業 承 継 を 契 機 と した 経 営 革 新 を 、 中小 企 業 の 特 有 の 課 題 と組 織 変 革 と い う視 点 か ら多 層 的 に 分 析 し、小 規 模 組 織 に お け る組 織 変 革 メ カ ニ ズ ム の 要 因 を 示 した 。(3)企 業 革 新 に お け る第4の モ デ ル、 と りわ け そ こ で の 反 対 者 の 役 割 を 示 した 。 (4)中 小 企 業 に お け る組 織 変 革 に お い て は 、後 継 者 お よ び 従 業 員 の 実 践 的 共 同 体 を つ う じ て の 状 況 的 学 習 が 大 き な 意 味 を も っ て お り、 い わ ゆ るLPP論 が そ の プ ロ セ ス の 説 明 す る フ レー ム ワ ー ク に な る こ と を示 した 。(5)組 織 変 化 の 渦 中 に あ る 人 々 の エ モ ー シ ョ ン の を 描 き だ し、 そ の 重 要 性 を 指 摘 した 。 さ ら に 実 践 的 な 含 意/貢 献 と して 、(1)後 継 者 に よ る 経 営 革 新 に お け る 先 代 の 重 要 性 を 指 摘
「Vお
わ りに 」で は、 これ らの理 論 的 、実 践 的 な含 意/貢 献 をふ ま え て 、今 後 の研 究課 題 と して 、
①先代の早期退 出支援、②専 門的知識 を持 つ同族外 の後継経営者 の採 用、③後継 経営者の学習期間を
短縮す るための標 準化や形 式知化、③学習 の複線化 を可能 にす る後継経 営者 の企業内の布置 の在 り
方、④後継経 営者 の経営革新組織の運営方法 、④古参従業員 の処遇 、⑤ 後継経 営者 に よる分社や第2
創 業への支援策 について も議論や研 究がな され るべ きで ある とされ てい る。
本 論 文 の 評 価 本 論 文 は 以 下 の 点 に お い て 高 く評 価 で き る 。① 中 小 企 業 の 事 業 継 承 と そ れ を 契 機 と した 事 業 革 新 と い う今 日的 で 重 要 な テ ー マ を あ つ か っ た も の で あ る 。 ② イ ン タ ビ ュ ー ・デ ー タや 公 表 資 料 を も と に し た オ リ ジ ナ ル の ケ ー ス は 、 事 業 承 継 や 経 営 革 新 を テ ー マ とす る 研 究 者 や 実 務 家 に とっ てYき わ め て 興 味 深 く 、 資 料 的 価 値 が 高 い も の で あ る。 ③ 上 述 の テ ー マ に た い して 、 ケ ー ス 分 析 と い う適 切 な 方 法 で ア プ ロー チ し 、 先 代 経 営 者 の 影 響 や 行 動 、 後 継 経 営 者 の 学 習 や リー ダ ー シ ッ プ の あ り方 、 資 源 の 蓄 積 な ど に か ん す る 一 定 の 説 得 力 の あ る 理 論 的 、実 践 的 な 含 意 を 提 示 して お り、仮 説 発 見 型 の研 究 と して 、 当 該 分 野 の 発 展 に 資 す る も の と な っ て い る 。 以 上 の 内 容 を もつ 神 谷 宜 泰 氏 の 博 士 学 位 請 求 論 文 は1そ の 内 容 に レ フ ェ リー 制 度 の あ る 学 術 誌 に 掲 載 され た 査 読 付 き の 論 考 を ふ くむ も の で あ り 、 同 氏 の 経 営 理 論 に つ い て の 十 分 な 理 解 、 中 小 企 業 経 嶺 に か ん す る 豊 富 な 知 識 、 デ ー タ の 収 集 お よ び 分 析 に か ん す る 高 い 能 力 を 示 し て い る だ け で は な く、 当 該 分 野 の 発 展 に 有 益 な 意 義 を も つ 独 自の 新 しい 知 見 を含 ん で お り、 博 士(経 営 学)の 学 位 に 相 当 す る も の で あ る と評 価 で き る 。 主 な 参 考 文 献 植 杉 威 一 郎(2013)「 非 上 揚 企 業 に お け る 退 出 は 効 率 的 か:所 有 構 造 ・事 業 承 継 と の 関 係 」 経 済 研 究 』,64(4),303-319頁. 小 関 智 弘(1999)『 も の づ く り に 生 き る 』,岩 波 書 店. 大 月 博 司(2005)『 組 織 変 革 と パ ラ ドッ ク ス 改 訂 版 』 同 文 舘 出 版. 川 上 義 明(2014)「 中 小 企 業 研 究 へ の 経 営 学 的 ア プ ロ ー チ:特 殊 経 営 学 と して の 中 小 企 業 経 営 論 」, 『福 岡 大 学 商 学 論 叢 』,58(3),341-362頁. 小 林 靖 雄(1996)「 中 小 企 業 経 営 の 特 質 一大 企 業 と の 比 較 に お い て ・」, 小 林 靖 雄 ・瀧 澤 菊 太 郎 編 『中 小 企 業 と は 何 か 』,有 斐 閣,52-59頁. 清 水 一 「経 営 者 の 交 代 と企 業 経 営:経 営 者 の 若 返 り効 果 を 中 心 と して 」 『高 松 短 期 大 学 研 究 紀 要 』, 第52・53合 併 号,72-78頁. 中 小 企 業 研 究 所(1990)『 中 小 企 業 の 組 織 革 新 の 動 向 』 中 小 企 業 研 究 所 報,Vol.1061 中 小 企 業 研 究 セ ン タ ー(2002)『 中 小 企 業 に お け る 世 代 交 代 と 次 世 代 経 営 者 の 育 成 』 『調 査 研 究 報 告 』No.109. 松 田 陽 一(2012)「 組 織 変 革 に お け る 阻 害 に 関 す る 既 存 研 究 の 概 観(前)」 『岡 山 大 学 経 済 学 会 雑 誌 』44(3),23-47頁.Lave,J.& Wenger,E.(1991),Situated Learning : Legitimate Peripheral Participation, Cambridge University Press . (佐 伯胖 訳(1993)『 状 況 に 埋 め 込 ま れ た 学 習:正 統 的 周 辺 参 加-』 産 業 図 書)
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