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教職志望学生のメンタルヘルスに関する研究 ―教育実習事前におけるサポートの検討―

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教職志望学生のメンタルヘルスに関する研究

―教育実習事前におけるサポートの検討―

岩 瀧 大 樹・山 﨑 洋 史

群馬大学教育実践研究 別刷

第32号 249∼258頁 2015

群馬大学教育学部 附属学校教育臨床総合センター

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教職志望学生のメンタルヘルスに関する研究

―教育実習事前におけるサポートの検討―

岩 瀧 大 樹

1)

・山 﨑 洋 史

2)

1)群馬大学教育学部附属学校教育臨床総合センター 2)昭和女子大学大学院

A

Study

of

Mental

Health

for

Undergraduate

Student

Teachers

:

Discuss

the

Support

in

Pre-service

about

Teaching

Practice

Daiju

IWATAKI

1)

,

Hirofumi

YAMAZAKI

2)

1)Center for Cooperative Research and Development on School Education Faculty of Education, Gunma University

2)Showa Women's University Graduate School

キーワード:教職志望学生,教育実習,メンタルヘルス,予防的介入

Keyword : Undergraduate Student Teachers, Teaching Practice, Mental Health, Preventive Intervention

(2014年10月31日受理) 〔問題と目的〕  文部科学省(2012)は,平成21年度の教員免許状の 授与件数(幼稚園・小学校・中学校・高等学校・特別 支援学校・養護教諭・栄養教諭・特別支援学校自立教 科等の専修免許状・一種免許状・二種免許状)が合計 202,562件であることを報告している。同様に,平成24 年度の授与件数も208,237件であることが報告されて いる(文部科学省,2014)。大幅な変動もなく,ここか ら毎年20万件以上の教員免許状が授与されているこ とが読み取れる。また,免許状取得者全体のうち,教 員養成大学・学部出身者の割合が12.6%,一般大学・ 学部出身者の割合が48.2%,短期大学・指定教員養成 機関が32.4%であることが示されており,このことか ら,近年では教員養成大学のみならず,多くの大学で 多くの学生が教員免許状を取得しているといえる。  さて,教員免許状取得に関しては,教育職員免許法 施行規則第6条の規定により教育実習が不可欠なもの となる。そのため,複数の免許状取得者の存在も自明 のことではあるが,多くの学校で教育実習を受け入れ, かつ多くの学生が教育実習を行っていることがうかが える。この教育実習に関しては,様々な先行研究がな されており,今栄・清水(1994)では,約4割の教職 志望動機が低い学生にとっては志望動機を高める機会 であること,教職への認知をポジティブなものに変容 させることなどが報告されており,教育実習の肯定的 な影響について論じられている。また,今林ら(2004) においては,「効果的に教えることに関する課題に必要 な行動を成功裡に行う能力の自己評価」である「教師 効力感」に着眼し,教育実習がそれを高める貴重な体 験となっていることを明らかにしている。一方,教育 実習に関してはポジティブな提言のみならず,その逆 も十分にある可能性も論じられている。林(2012)で は,学生の実習に関するストレス研究の多さを指摘し, 実習生本人にとっても,実習先や子どもたちにとって も検討すべき課題であることを提言している。実際, 群馬大学教育実践研究 第32号 249∼258頁 2015

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教育実習をストレスの観点から分析している先行研究 では,教育実習自体がストレスフルであること,他の 実習生との関係も大きな影響を与えること,ソーシャ ルサポートの必要性などが指摘されている(古屋ら 1994,1997など)。さらに,教育実習前後の教職志望 度に関しては,児玉(2012)の先行研究のレビューに より,一貫した知見は得られていないことが示されて いる。教育実習前後での様々な心理的要因に関しては, 単純な検討では説明できない部分が大であることが予 想される。  また,多くの課題もあげられる。青木(1990)や文 部科学省(2006)な ど が 指摘 す る ペ ー パ ー テ ィ ー チャーの問題もあり,教育実習協力校などの混乱も想 像に難くない。加えて,多様な文脈や理由もあろうが 教育実習をやむなくリタイアしてしまう学生の発生も 報告されている(新潟大学教育人間科学部附属教育実 践総合センター教育実習研究会,2004など)。教育実習 生のメンタルヘルスの問題も十分に考えられる。宮下 ら(2009)では,教職志望学生のメンタルヘルスは他 の学生よりも比較的維持されている点を指摘するが, 上記のように教育実習をリタイアしてしまうなどの学 生が増加する可能性も予想され,適宜検討が必要な事 柄であるといえよう。  しかし教育実習には,教職活動を継続していくうえ での非常に有意義な経験となる(川村,2013),自身の 希望する職に就くためのみならず,職業意識を高め, 職業的スキルを向上させる(高村,2001)などのポジ ティブな影響があるとともに,日本女子大学現代女性 キャリア研究所(2013)によるアンケート調査では, 教職に就くか否かに関わらず,教育実習を意義のある 経験であったととらえる回答者も報告されている。さ らに,長岡ら(2001)は,教育実習生は,実習を通じ て自己理解を深め,自己のキャリア構築に向けた情報 収集や立案などに積極的になるといった,進路選択に 関する自己効力を高めていることを論じている。これ らの観点からも,教育実習は免許状取得とともに,学 生にとってキャリア構築における大きなアンカーポイ ントであることが予想される。以上のことから,教育 実習を円滑に進めたり,充実させたりすべく,学生へ のサポートの検討は重要だといえよう。  さて,教育実習に臨む学生は,多くの者が青年期に 該当するため,サポートを検討する際には,その心性 を理解しておくことは不可欠となる。心理的・精神的 な自立や,アイデンティティの獲得に向けた課題もも ちろんであるが,西山・笹野(2004)は,対人恐怖な どの適応障害の出現や精神疾患の好発期であることを 主張する。つまり,学生はアンカーポイントたる教育 実習を経験することだけではなく,発達の観点からも メンタルヘルスへのサポートが必要となる段階にある と判断できる。精神疾患をはじめとする,精神保健上 の問題に関しては,近年コミュニティ心理学の観点よ り「問題の重篤化の予防」や「個々の対応能力への支 援」などの重要性が主張されている。これらは,1次 的あるいは2次的な介入とされ,中川ら(2006)では, 学生の学業の円滑な遂行を支援するうえでも重要な課 題であることを主張している。教育実習も十分に「学 業」に含まれる要素であり,支援は不可欠であると考 えられる。  学生のメンタルヘルスへのアセスメントとしては, 学生相談の領域で広く利用されている「学生精神的健 康 調 査(University Personality Inventory;以 下 UPI)」が代表的なものである。利用の目的には様々な 背景があげられるが,新入生に実施し,健康診断や学 生相談室とのコンタクトにつなげていくことが多い (窪内ら,1994)。さらに坂口(2009)の研究におい ては,ここ近年(2000年度以降)の新入生に実施した UPIより,吐き気や胸痛,頭痛,考えがまとまらない, などの症状を訴える学生が漸増していることを指摘さ れている。そのため,本研究で教育実習直前に学生の メンタルヘルスを把握すべく,UPIを実施することは, 不適応問題を抱えるリスクのある学生への早期介入を 可能とするものといえる。  また,サポートを必要とする学生を把握する一方で, そのサポーターたる「援助者」に関する検討も不可欠 なものとなる。学生のソーシャルサポートとしては, 「友人」や「家族」,「大学教員」などの可能性があげ られようが,福岡(2007)は,特に家族や友人からの サポートが,環境移行期にある学生のメンタルヘルス の維持に効果をもたらすことを示している。しかし, 槇野(2009)においては,メンタルヘルス上の問題を 抱えた学生の多くは友人や家族に相談をしているもの の,活用を希求しているサポーターとして,所属専攻 の教員や上級生などをあげていることが示されてい る。これらのことから,サポーターにより,期待され

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る効果は異なる点もあるが,友人とともに,教育実習 の事前指導や日常の研究指導に関わる「大学教員」も 有効な援助者であるといえよう。また,原田・宮脇 (2013)の研究では,職場という身近な場でのライン ケア(上司などからの支援)によるメンタルヘルスへ のサポートの重要性が提言されている。つまり,身近 な上司や指導者からのサポートも看過できない,効果 的な要素であると判断できる。  以上のことから本稿では,教育実習を控えた学生を 対象として,メンタルヘルスの状況および問題を抱え た際のサポーターの活用に関して調査する。様々なサ ポーターの存在を上記でも述べたが,家族からの精神 的自立などの学生の発達段階なども踏まえ,今回は「親 しい友人」と身近な「大学教員」をとりあげる。この ことから,早期介入が必要な学生を把握するとともに, 2つのサポーターの関わり方について検討していく。 〔方法〕 1.目的  教育実習事前における教職志望学生の心身の健康と ともに,周囲のサポーターへの援助要請の実態を把握 することで,教育実習中における不適応問題などへの 予防的介入の可能性を検討する。 2.調査方法 ① 調査対象者  関東地区の国立大学に在籍し,教育実習を4か月後 に控えた20∼24歳の学生224名(男子102名,女子122 名。3年生220名,その他4名)より有効回答が得られ た。 ② 調査時期  2012年5月∼6月 ③ 調査方法  質問紙法による一斉方式を採用した。教育実習事前 指導の一部を利用し,調査の目的や意義および情報処 理・管理,プライバシーの保護等に関わる説明を十分 に実施し,同意の得られた対象者から回答を求めた。 回答に関しては,調査者(第一筆者)が質問項目を読 み上げ,それに回答・記入を行うスタイルとした。約 15分。 ④ 調査内容 1)フェイスシート(性別・年齢・学年) 2)UPI学生精神的健康調査  全国大学保健管理協会(1966)が作成したUPIの全 60項目を微修正して使用することとした。これらは, 「精神身体的訴え」の16項目,「うつ傾向」の20項目, 「対人面での不安」の10項目,「強迫傾向および被害関 係念慮」の10項目と,陽性項目や虚構項目と呼ばれる 「いつも体の調子が良い」・「いつも活動的である」・「気 分が明るい」・「よく他人に好かれる」の4項目で構成 されている(本稿では「陽性項目」として取り上げる)。 回答は2件法で求め,各々の質問項目に該当する場合 には〇印をつけて1点,該当しない場合には印をつ けて0点で合計得点を算出していく。統計処理は陽性 項目を除いた56項目を対象とする。ゆえに,UPI得点の レンジは0∼56点であり,得点が高いほど心身の不適 応に対する自覚症状があるとされている。この合計得 点が「自覚症状の訴え」である。なお,「食欲がない」・ 「自分の過去や家庭は不幸である」・「不眠がちであ る」・「死にたくなる」の4項目は「Key項目」と呼ばれ, これらにチェックがなされている調査対象者には,適 宜必要な介入が行われている。  なお,本調査においては,上記に加え,菊池(1988) などを参考に,向社会的行動・感情統制のスキル・ア サーションスキル・傾聴スキルなどで構成した「コミュ ニケーションスキル」の10項目を下位尺度として加筆 設定した。さらに「今までに健康上,精神衛生上のこ とで問題を感じたことがありますか」・「今までに精神 衛生上,心の問題などで相談や治療をしたことがあり ますか」の2項目,および自由記述として「その他, 困っていること,気になっていること,相談をしたい ことはありますか」・「今すぐに相談をしたいことはあ りますか」の2つを加えた。 3)援助要請スキル尺度  「親しい友人」および「大学教員」という2つのサポー ターとの関わり方については,岩瀧・山崎(2008)の 「中学生の教師への援助要請スキル尺度(「援助者探 索」・「ノンバーバル」・「適切な言語的はたらきかけ」 の3因子21項目)」をもとに,援助者を「親しい友人」 と「大学の指導教員」の場合を設定し,ワーディング を大学生用に変更し使用した。本研究では各因子より 負荷量の高い3項目(各々9項目)を用いるとともに, 教職志望学生のメンタルヘルスに関する研究 251

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「適切な言語的はたらきかけ」に関しては項目を吟味 し,「適切な言語的かかわり」とした。なお,回答は「1. あてはまらない∼4.あてはまる」の4件法で求めた。 〔結果と考察〕 1.UPI得点および下位尺度得点  「自覚症状の訴え」および「陽性項目」,「Key項目」, 下位尺度得点の平均値と標準偏差を算出した。なお, UPIの各々の得点に関しては,吉武(1995)などを始 めとし,近年の前垣・滋野(2011)においても,女子 に精神的訴えの多いことが指摘されている。そのため, 本研究においても,先行研究に倣い,性別による検討 を実施することとした。Table.1に以上の結果を示す。 ① 「自覚症状の訴え」・「陽性項目」・「Key項目」  まず,調査対象者全体に関し考察する。「自覚症状の 訴え」については,濱田ら(1994)などの一連の研究 では8.6点から11.1点であることを示しているが,上 記も含め,9∼16点の範囲でのばらつきを指摘する先 行研究が散見される。ゆえに,本研究における「自覚 症状の訴え」の結果より,調査対象者は概ねのメンタ ルヘルスを維持しており,多くが適応状態にあると判 断した。また,「陽性項目」に関しては,西山・笹野 (2004)では,平均値が1.55,中井ら(2007)では0.67 であることが示されている。喜田・高木(2001)は「陽 性項目」が減少傾向にあることを指摘しているが, 2012年に実施した本研究での平均値は1.54であり,西 山・笹野(2004)と同様の結果が得られた。この「陽 性項目」に関しては,別名が「虚構項目」であること から,ライスケールの役割を果たすと同時に,活動的 な面も示すこと,高得点は共感性や合理性などと正の 関係,低得点は依存性などと負の関係にあることが指 摘されている(吉武,1996)。そのため,今回の調査対 象者に関しては,適度な活動性を維持していることが 推察された。また,「Key項目」に関しては,本研究で は女子の方が有意に得点の高いことが示されたが,宮 下ら(2009)などの先行研究では,男子の得点が高い ことが示されており,本研究とは異なる見解が得られ た。また,前述の宮下ら(2009)では,特に不眠に関 する項目は男子の方が高いことが指摘されている。そ こで,本研究においても改めて4つの項目について性 差の検討を実施したが,いずれの項目に関しても有意 差は確認されなかった。値は0.74∼1.76の範囲であっ た。なお,本研究では「食欲がない」・「自分の過去や 家庭は不幸である」に関してはそれぞれ9名,「不眠が ちである」に関しては42名,「死にたくなる」に関して は12名がチェックをしていた。ただ,この項目に関し ては,本来緊急な面接の提案を必要とする対象者を把 握するものであるため,性差の結果以上にサポートの 提供を呼びかけるきっかけとした。 ② 下位尺度得点  従来のUPIで示されている4つの下位尺度について は,前述のように吉武(1995)などは「精神身体的訴 え」に関して,女子の得点が有意に高いことを明らか にしている。本研究でも同様の見解が得られているが, 泉水ら(2012)は,この下位尺度に関しては,大学1 年生の得点で性差は確認されないが,学年が上がるに つれ,男子の得点は減少し,女子の得点は上昇するこ とを論じている。本研究の調査対象者は3年生であっ たため,泉水ら(2012)の先行研究をある程度支持す るものになったといえよう。武蔵ら(2012)は,女子 の精神的健康が良好でない背景として,大学生活以外 Table. 1 UPI得点および下位尺度得点の平均値・標準偏差と性差に関する検定結果 UPI 全体(n=224) 男子(n=102) 女子(n=122) 値 自覚症状の訴え 10.63(9.02) 9.75(8.50) 11.38(9.40) 1.34 陽性項目 1.54(1.31) 1.50(1.34) 1.58(1.30) 0.40 Key項目 0.32(0.65) 0.21(0.51) 0.42(0.73) 2.36* 男子<女子 下位尺度 精神身体的訴え 2.25(2.17) 1.78(1.66) 2.64(2.45) 3.01** 男子<女子 うつ傾向 4.53(4.19) 4.27(4.16) 4.74(4.23) 0.82 対人面での不安 2.37(2.40) 2.10(2.36) 2.59(2.42) 1.52 強迫傾向・被害関係念慮 1.47(1.89) 1.53(1.87) 1.42(1.91) 0.44 コミュニケーションスキル 5.54(2.38) 5.15(2.47) 5.87(2.26) 2.27* 男子<女子 **<.01,*<.05

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の要因が影響している可能性を述べている。しかし, UPI得点の性差に関しては,先行研究の下位尺度の結 果を概観しても,不安定な部分が散見されており,決 定的な要因として位置付けるのにはやや困難であるよ うに見受けられる。この点に関しては,上記の①と同 様に学生へのサポートを呼びかけるきっかけとするほ かに,調査対象者である学生個人のプロフィールや パーソナリティ,周囲のサポーターによるアセスメン トなどを総合的に判断し,メンタルヘルスの維持や回 復に資する介入を検討していくことが求められよう。 なお,オリジナルとなる「コミュニケーションスキル」 に関しても,男子よりも女子の方が有意に得点の高い ことが示された。このことから,女子は男子よりも「精 神身体的な訴え」などの心身の不調を自覚したり,訴 えたりしながらも,適切に自己主張をしたり,感情を 統制したりしていると推察される。そこで,各項目の 性差を精査すべく検討したところ,「初めて出会った人 とは仲良くしようとする」および「仲間が落ち込んで いたら励まそうとする」の2項目で男子<女子が明ら かになった。前者に関しては,(222)=3.52,<.01, 後者に関しては,(222)=2.32,<.05であった。 このことから,女子は男子よりも新たな人間関係の構 築や開始に意識を高くもっていること,自らソーシャ ルサポートとなり他者を援助しようとしていると読み 取れる。 2.援助要請スキル ① 援助要請スキルの記述統計  友人,大学教員の場合で各々探索的因子分析(主因 子法・プロマックス回転)を実施したところ,先行研 究 と 同様 の 因子構造 が 得 ら れ た。各因子 の α係数 は,.87∼.90であったため,使用に十分ととらえた。ま た,全体の記述統計を求めるとともに,各サポーター による違いがあるかを把握すべく,性別による比較も 実施した(Table.2)。その結果,教員への援助要請に関 してはいずれの因子,総得点においても性差は確認さ れなかったが,友人への援助要請に関しては,「ノン バーバル(援助要請を行う際の効果的な非言語コミュ ニケーションスキル)」以外の因子,総得点において, 男子<女子であることが明らかにされた。援助要請に おける性差に関しては,先行研究を概観しても様々な 知見があるが,牧野(2012)の研究においては,女子 は周囲の同性に配慮しつつ生活をしていること,大学 生活において次第に状況を読むなどのコミュニケー ションスキルを高めている可能性を指摘している。本 研究では,援助要請を行う対象の性別や被験者との関 係性を厳密にせず,「親しい友人」としたため,この点 については今後の検討要因とする必要があろうが,「援 助要請スキル」もコミュニケーションスキルの範囲に 含まれるゆえ,女子は「援助要請スキル」を生活の中 などで習得・活用していることが予想される。 ② UPIとの関連  友人および教員への援助要請スキル総得点(以下援 助要請スキル得点)とUPIとの相関係数を算出した。そ の結果,援助を求める対象に関わらず,それぞれへの 援助要請スキル得点は,「自覚症状の訴え」,「うつ傾 向」・「対人面での不安」と負の弱い相関,「コミュニケー ションスキル」と正の弱い相関が有意であることが示 された。そこで,調査対象者を各々の援助要請スキル 得点の平均値で高低2群に分け,合計4群に分類した 教職志望学生のメンタルヘルスに関する研究 253 Table. 2 友人・教員への援助要請スキル下位尺度得点の平均値・標準偏差と性差に関する検定結果 援助要請スキル 全体(n=224) 男子(n=102) 女子(n=122) 値 友人への援助要請 援助者探索 3.29(0.65) 3.18(0.66) 3.37(0.63) 2.18* 男子<女子 ノンバーバル 2.55(0.71) 2.52(0.69) 2.58(0.72) 0.62 適切な言語的かかわり 2.89(0.60) 2.80(0.62) 2.97(0.58) 2.06* 男子<女子 総得点 2.91(0.51) 2.83(0.50) 2.97(0.52) 2.03* 男子<女子 教員への援助要請 援助者探索 2.43(0.78) 2.40(0.78) 2.46(0.79) 0.53 ノンバーバル 2.13(0.76) 2.14(0.66) 2.12(0.83) 0.15 適切な言語的かかわり 2.62(0.73) 2.53(0.74) 2.70(0.72) 1.66 総得点 2.40(0.62) 2.36(0.65) 2.43(0.66) 0.77 *<.05

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(友人への援助要請スキル得点の高低教員への援助 要請スキル得点の高低)。なお,友人への援助要請スキ ル得点に関しては,性差が確認されているため,それ ぞれの性別の得点をもとに,分類を行った。その結果, 「友人・教員への援助要請スキル得点がともに低い群 (以下①LL群)」が66名(男子35名,女子31名),「友 人への援助要請スキル得点が低く,教員への援助要請 スキル得点が高い群(以下②LH群)」が46名(男子23 名,女子23名),「友人への援助要請スキル得点が高く, 教員への援助要請スキル得点が低い群(以下③HL群)」 が43名(男子17名,女子26名),「友人・教員への援助 要請スキル得点がともに高い群(以下④HH群)が69名 (男子27名,女子42名)であった。引き続き,4群を もとに,UPI得点および下位尺度得点の比較を実施し た。結果を以下に示す(Table.3)。  「自覚症状の訴え」および「うつ傾向」,「対人面での 不安」に関しては,①LL群と,友人への援助要請スキ ル得点の高い③HL群,④HH群との間で有意差が確認 された。このことから,自覚症状やうつ,不安に関し ては,友人への援助要請スキルがその問題を緩和させ る可能性が推察される。メンタルヘルスの維持などに 関しては,和田(1992)では,友人からのサポートの 効果が検証されている。そのため,実習に臨む学生に とっては,自らのソーシャルサポートを適切に知覚し ていくことが重要になってくるだろう。つまり,周囲 のソーシャルサポート,特に自分と対等な立場にある 「友人」に対し,援助要請ができない場合には,精神 身体的な不調を訴えやすくなるとともに,気分の落ち 込みや他者との関係に不適応の状態を示すことが増え てくると予想される。  「うつ傾向」の項目には,「いらいらしやすい」,「お こりっぽい」などの感情に関わる問題を表す内容が含 まれている。このことから,特に友人への援助要請が できる学生は,適切な友人を探し,声をかけ,話を聴 いてもらうなどによってメンタルヘルスを維持しよう としていることがうかがえる。友人に援助要請を行う ことで,適度なカタルシス効果を得ていると考えられ よう。また,この項目には「考えがまとまらない」や 「やる気がでてこない」などの内容も含まれている。 そのため,友人への援助要請が可能な学生は,精神的 健康を保つべく,友人から励ましを得たり,考えの整 理を手伝ってもらったりしている様子がうかがえる。 特に「対人面での不安」に関しては,②LH群と④HH群 の間においても,有意な差が明らかになっている。こ の2群の大きな違いは,大学教員への援助要請はでき るが,友人への援助要請スキルが高いか低いかである。 「対人面での不安」は,「他人に悪くとられやすい」, 「気をまわしすぎる」,「つきあいが嫌いである」など の人間関係における内容を示す項目から構成されてい る。つまり,これらの人間関係で発生が予想される問 題などに関しては,身近な友人への援助要請がメンタ ルヘルスの低下を防ぐ可能性が高いといえよう。多く の先行研究では,ソーシャルサポートをストレス状況 下にある自尊心や情緒の傷を癒そうとする「情緒的サ ポート」やストレスの解決に必要な資源を提供するな どの「情報的サポート」ととらえる浦(1992)の論を 取り入れている。中でも「情緒的サポート」に関して は,西分・児玉(2014)により,学生は友人からの「励 Table. 3 援助要請スキル4群によるUPI得点分散分析結果 UPI ①LL群 (友人L・教員L) ②LH群 (友人L・教員H) ③HL群 (友人H・教員L) ④HH群 (友人H・教員H) F値 多重比較 (5%水準) n=66 n=46 n=43 n=69         自覚症状の訴え 13.98 9.81 11.04 9.44 8.97 8.40 7.77 7.10 6.17*** ③④<① 陽性項目 1.22 1.23 1.56 1.28 1.51 1.32 1.92 1.35 3.26* ①<④ Key項目 0.48 0.80 0.27 0.66 0.36 0.66 0.20 0.44 2.16 下位尺度 精神身体的訴え 2.72 2.50 2.20 2.02 2.26 2.34 1.70 1.63 2.55 うつ傾向 6.07 4.54 4.76 4.16 3.80 4.11 3.16 3.34 6.23*** ③④<① 対人面での不安 3.31 2.72 2.65 2.47 1.73 1.97 1.63 1.90 7.28*** ③④<①,④<② 強迫傾向・被害関係念慮 1.86 2.14 1.52 2.12 1.17 1.49 1.22 1.66 1.70 コミュニケーションスキル 4.89 2.50 5.47 1.92 5.24 2.27 6.52 2.31 6.16*** ①③<④ ***<.001,*<.05

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まし」や「理解」などを,大学教員からのものよりも 高く知覚していることが明らかにされている。この点 に関し,本研究は先行研究と同様の知見を得られたと 判断できる。  では,大学教員への援助要請スキルは学生にとって, どのようにとらえられているのだろうか。橘川・小林 (2013)は,「上級生」と「大学教員」の2つのサポー ターによる実習生へのストレス軽減効果について検討 し,「上級生」の場合には失敗経験や関連情報を伝える こと,「大学教員」の場合には助言として情報を与える ことが,有効であるという知見を述べている。しかし, 大学新入生を対象とした塩澤(2008)の研究では,抑 うつ傾向に関しては,友人・大学教員などのサポーター から「情報的サポート」のみならず,「情緒的サポート」 も必要とされることを論じている。また塩澤(2008) は,サポートの時系列的変動性に焦点を当て,大学教 員からのサポートは変動しやすく,サポートに対する 期待も変動しやすいことを指摘している。本研究では, 大学教員を「ゼミの指導教員」などに設定して調査を 行ったが,調査時期は学生と指導教員との関わりがま だ少なかったり,ゼミに所属してからの日が浅かった りなどの文脈により,サポート期待量が不明であった ことなどから,「大学教員」への援助要請を抑制する要 因となった可能性があげられる。時系列的な要因およ び援助要請を行う対象への期待なども踏まえて,今後 の検討材料としていきたい。  なお,「陽性項目」に関しては,①LL群と④HH群に のみ有意差が確認された。これは,友人にも,大学教 員にも援助要請スキルを活用できる学生の得点が高い ことを示す。スクリーニングにおいては除外されるこ との多いこの項目群は,本来は尺度の信頼性検証を目 的として設定されているが,諸論の展開があるものの, 前述のように本研究では「適度な活動性」としてとら えるのが妥当だろう。岩瀧・山崎(2007)は,援助要 請スキルの高い者は,学校生活適応度も高いことを明 らかにしている。つまり,様々なソーシャルサポート に対し,適切に援助要請スキルを活用できる学生は, 大学生活においても適応度が高いことが推察される。 ゆえに,本研究の結果では,活動的・積極的な態度を 示すものと理解するのが適切だと再確認された。  一方,「コミュニケーションスキル」に関しても,「陽 性項目」と同様の結果が得られたが,③HL群と④HH群 の間にも有意差が確認された。この項目群に関しては, 新たな人間関係を構築したり,関係を深めたりする項 目が含まれている。「大学教員」に関しては,本研究に おいては学生との関係がまだ十分に深まっていない可 能性をあげたが,この両群の差は大学教員への援助要 請スキルの高低である。このことから,本研究の段階 で大学教員への援助要請を活用できる学生は,人間関 係の構築などに関しても高いスキルを有していること が予想される。また,困っている友人に対し,共感を もって接したり,励ましたりする内容も含まれている。 ゆえに,様々なサポーターに対し,援助要請スキルを 活用できる者は,他者を支えたり,援助したりしよう とするスキルも有していることが推察される。この点 に関しては,互恵規範や返礼行動などの関連を視野に 含めた検討も考えられる。  なお,「Key項目」や「強迫傾向・被害関係念慮」に おいては,4群の差は確認されなかった。そのため, これらのメンタルヘルスの問題に関しては,本人の援 助要請スキル活用以上に,周囲のサポーターが気づき, 早期介入をしていくことが不可欠だといえよう。場合 によっては,大学教員のみならず,友人である学生や 大学職員なども,精神疾患などに関する基礎的な知識 を踏まえ,日常生活などで懸念される学生の早期発見 に向けた取り組みを進める必要があるだろう。 〔総合考察〕 1.各々の学生へのサポート  UPIの本来の目的は,心身の健康に問題を抱える学 生のスクリーニングととらえられている。ゆえに,今 回の調査においても,精神的・身体的に不適応の状態 と考えられる調査対象者に対し,面談の提案を呼びか けていった。多くの場合,「自覚症状の訴え」が30∼35 点以上の者や,「Key項目」にチェックをした者が対象 とされるが,今回の調査では,30点以上を示した14名 (男子5名,女子9名)および,「Key項目」のチェッ クや自由記述などから判断した5名(男子1名,女子 4名)を対象としていった。レスポンスがあったのは, 5割程度,面談を行ったのは3割程度ではあったが, 教育実習を迎える前に,キャリアに関わる問題を明確 化したり,教育実習へのモチベーションを整理したり するなど,大学教員からのサポートを提供することで, 教職志望学生のメンタルヘルスに関する研究 255

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円滑に教育実習に取り組むことができた。このプロセ スより,本研究では事前の学生を対象としたメンタル ヘルスチェックを取り入れることで,ある程度の実習 中における不適応などの予防成果が得られたと判断し ている。実習前の予防的介入として,UPIをはじめとす るアセスメントツールをスクリーニングテストとして 導入する意義は十分にあると判断できる。 2.学生全体へのサポート  本研究においては,友人への援助要請スキル得点が 高い者は,低い者と比較し,「うつ傾向」や「対人面で の不安」が低いことが明らかにされた。このことから, 学生にとって,「情緒的サポート」が得られやすい人間 関係を構築していくことは,大きな意義があるものと 判断できる。大学機関におけるキャリア教育では,経 済産業省(2006)の提案する「社会人基礎力」の習得 に期待が寄せられているが,この中には「チームワー ク」として,自分と周囲の人々との関係性の理解は重 要な要素として示されている。そのため,大学などで, 学生の「社会人基礎力」の育成やキャリア教育と連動 させ,周囲の学生と適切な人間関係が構築できるよう な支援を,講義や教育実習事前指導等において,積極 的に導入していく必要があろう。佐藤ら(2014)では, 友人とのコミュニケーションの少ない学生は,疲労度 やうつ度が高く,ネガティブな対処行動をとる傾向の あることを示している。アクティブラーニングを意識 し,日々の講義・指導などにグループディスカッショ ンやグループエクササイズなどを取り入れ,学生のコ ミュニケーション能力の育成を目指していきたい。  また,教員への援助要請スキルも看過できない要因 であり,「大学教員」も教育実習に臨む学生にとっては, 重要なソーシャルサポートであるのは,改めて記す必 要はないだろう。「情報的サポート」としての役割が先 行研究などから多く読み取れるが,「大学教員」から得 られる情報や助言などに関して,インフォメーション をしたり,紹介をしたりするなどの取り組みも検討さ れるべきである。学生(教育実習生)が,「大学教員」 もソーシャルサポートであることを適宜確認できれ ば,メンタルヘルスを低下させる以前に必要なサポー トが得られると予想される。教育実習事前指導などに おける工夫が求められよう。また,「教師期待効果」な どのように,指導者の適切な関わりが教育実習におい て有効に機能することも十分予想できる。学生と指導 教員などとのコミュニケーションの構築も軽視できな い要因である。 3.まとめ  UPIの得点が低く,精神的健康を保持・維持している ことが読み取れる学生に関しては,友人への援助要請 スキルが高いこと,そして,友人への援助要請スキル のみならず,大学教員への援助要請スキルも高いこと が示された。このことから,教育実習に臨む学生のメ ンタルヘルスに関しては,特定のサポーターへの援助 要請に偏るのではなく,周囲のサポーターを適宜活用 していくことが有効であると推知される。  友人への援助要請に関しては,援助要請ができる関 係の構築を支援していくことに加え,三島ら(2011) が提言するような教育実習における「居場所感」など も重要な要素であるため,具体的な支援の方向性を探 索していくことも不可欠となろう。ピア・ラーニング などの手法の導入も検討していきたい。一方,大学教 員も身近で有効なサポーターであることが示唆され た。ソーシャルサポートとしての位置づけのインフォ メーション,プロモーションなどとともに,日頃の指 導やキャリア教育などにおける「社会人基礎力」の育 成などとリンクさせ,学生のコミュニケーションスキ ルを高めるような取り組みが積極的に導入されること が期待される。 〔引用文献〕 青木幸子 1990 教育実習に関する調査研究(Ⅱ) 東京家政大 学研究紀要,30-1,23-40. 古屋健・坂田成輝・音山若穂・所澤潤 1994 教育実習生のスト レスに関する基礎亭研究 群馬大学教育実践研究,11,227-240. 古屋健・坂田成輝・音山若穂 1997 心理的ストレス・モデルに 基づくストレッサーの分析:理論的意義と教育実習ストレッ サーの実証的検討 群馬大学教育学部紀要人文・社会科学編, 46,461-479. 濱田庸子・鹿取淳子・荒木乳根子・佐藤いづみ・加藤恵・福田智 子 1994 精神保健上のケアが必要だった学生と大学生精神 衛生用チェックリスト(UPI)の特徴―UPIの健康診断への利 用,第2報― 聖徳大学研究紀要短期大学部,27Ⅱ,85-91. 原田小夜・宮脇宏司 2013 介護施設職員の抑うつ・ストレス反 応と関連要因の検討 聖泉看護学研究,2,9-17.

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参照

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