令和元年度 修士論文
深層学習を用いた
地震を伴う伝搬異常の検出
指導教員 本島 邦行 教授
群馬大学大学院理工学府 理工学専攻
電子情報・数理教育プログラム
修士 2 年 学籍番号 T181D031
塩野 優人
目次
1. 序論 ... 1 2. 電波観測システム ... 2 3. 解析データ処理及び伝搬異常データの特定 ... 4 3.1. 停波除去 ... 4 3.2. 移動平均 ... 5 3.3. 規格化 ... 5 3.2. 伝搬異常データの特定 ... 6 4. 伝搬異常分類深層学習 ... 8 4.1. 教師ラベルの付与 ... 8 4.2. 伝搬異常データの抽出 ... 9 4.3. 深層学習方法 ... 10 4.3.1. 再帰型ニューラルネットワーク ... 10 4.3.2. RNN への時系列データ入力 ... 11 4.3.3. 深層学習パラメータ ... 12 4.3.4. 損失関数と学習損失 ... 14 4.3.5. 深層学習の実行 ... 15 5. 地震を伴う伝搬異常の検出 ... 16 6. 地震データの条件設定 ... 19 7. 評価方法 ... 20 7.1. 適中率と予知率 ... 20 7.2. F 値 ... 21 7.3. 警報分率と確率利得 Gp ... 228. 解析結果 ... 23 8.1. NHK FM Tokyo(82.5MHz)での解析結果 ... 23 8.2. FM Tokyo(80.0MHz)での解析結果 ... 27 8.3. NHK FM Saitama(1)(85.1MHz)での解析結果 ... 31 8.4. NHK FM Chiba(80.7MHz)での解析結果 ... 35 8.5. 複数放送波の解析結果比較 ... 39 9. 結論 ... 41 10. 今後の課題 ... 42 謝辞 ... 43 参考文献 ... 44 研究業績 ... 45
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1. 序論
日本は世界有数の地震大国であり、2011 年に発生した東日本大震災や 2016 年に発生し た熊本地震などの大規模地震により多くの人命や建造物に甚大な被害を受けた。地震によ る被害を最小限に食い止めるためには事前の対策が必要不可欠であり、地震予測の実現は 極めて重要な課題である。地震予測は時間区分の違いから「長期的地震予測」と「短期的 地震予測」に分類される。「長期的地震予測」は数年あるいは数十年以内に地震が発生す る可能性を予測するものであり、地震発生時期の具体性に欠け、地震の被害軽減に繋がり にくいという欠点がある。一方、「短期的地震予測」では数日単位での予測となる為、地 震に対する危機管理意識が高まり事前の対策に対して有効かつ重要であると言える。 短期的地震予測として電磁気学的現象と地震発生の関連性について数多くの観測結果が 報告されている(1)。電磁気学的現象を間接的に観測した例として、VLF 帯と VHF 帯にお ける電波観測の報告が挙げられる。VLF 帯における報告では、VLF 帯の電磁波が電離層と 大地を反射しながら伝搬する性質から電離層下部の擾乱を捉え、地震との関連付けを行っ ている(2)(3)。一方、VHF 帯における報告では見通し外 VHF 帯放送波の電波伝搬を捉える 事で地震との関連付けを行っている(4)。また著者らは見通し内 VHF 帯放送波を観測し、 その受信電力から統計的処理に基づいて伝搬異常と地震の関連性について検証を行ってい る(5)(6)(7)。これまで行ってきた正規分布の 3σ区間を用いた伝搬異常検出法(3σ法)におい て、VHF 帯放送波の伝搬異常が検出された数日以内に地震発生が観測されるという事例が 多く確認された。しかしながら、3σ法による伝搬異常検出では伝搬異常検出後に地震の 発生が見られた“地震を伴う伝搬異常”の他に地震の発生が見られなかった“地震を伴わない 伝搬異常”も多く検出されている。 そこで本稿では、人工知能による深層学習を用いることにより“地震を伴う伝搬異常”と “地震を伴わない伝搬異常”の分類を行った。深層学習を行うための学習データである VHF 帯放送波データが時系列データであることから時系列連続データの学習に適した再帰型ニ ューラルネットワーク(RNN)を採用した。これにより、VHF 帯放送波の時系列変化傾向 から“地震を伴う伝搬異常”と“地震を伴わない伝搬異常”の特徴の違いを人工知能に学習さ せた。この深層学習の結果を用いることにより、“地震を伴う伝搬異常”と“地震を伴わない 伝搬異常”を分類し、地震を伴う可能性が高い伝搬異常の検出を行った。また、伝搬異常と 地震の関連性を示す評価方法に関して、過去に適中率と予知率、確率利得を用いた報告(8) がされている。したがって、深層学習を用いて検出した伝搬異常と地震に関連性について これらの評価値を適応し、両者の関連性についての評価及び考察を行った。2
2. 電波観測システム
本稿で扱う電波観測データは、各地の電波塔から送信される様々な VHF 帯放送波の一 部である。現在、群馬大学桐生キャンパス及び荒牧キャンパスの屋上に設置したアンテナ により VHF 帯放送波の受信電力を 24 時間体制で計測を行っている。群馬大学桐生キャン パスで観測している VHF 帯放送波の一覧表を以下の表 2.1.に示す。 表 2.1. 桐生キャンパスで観測している VHF 帯放送波 送信点 放送波(Frequency) 東京タワー FM Tokyo (80.0MHz) Inter FM 897 (89.7MHz) 東京スカイツリー Jwave (81.3MHz) NHK FM Tokyo (82.5MHz) 千葉県三山 Bay FM (78.0MHz) NHK FM Chiba (80.7MHz) 埼玉県平野原 NHK FM Saitama (1) (85.1MHz) TV Saitama (587MHz) 埼玉県美の山公園 NACK5 (2) (77.5MHz) NHK FM Saitama (2) (83.5MHz) 埼玉県飯盛峠 NACK5 (1) (79.5MHz) 長野県美ケ原 Nagano FM (79.7MHz) NHK FM Nagano (84.0MHz) 茨城県燕山 NHK FM Ibaraki (83.2MHz) また、VHF 帯放送波の受信電力を計測している観測システムについて、その概略図を以 下の図 2.1.に示す。3 図 2.1.に示すのように各地の電波塔から送信される VHF 帯放送波を桐生キャンパス屋 上に設置した VHF アンテナにより受信し、その電波の受信電力[dBm]をスペクトルアナ ライザによって計測している。計測した受信電力データは研究室内のサーバに蓄積される 他、本研究室ホームページ(9)へのアップロードを行っている。受信点である群馬大学桐生 キャンパスと送信点である主な電波塔の位置関係を以下の図 2.2.に示す。 図 2.1. 観測システムの概略図 図 2.2. VHF 帯放送波の送受信点
4
3. 解析データ処理及び伝搬異常データの特定
本稿では、2 章の表 2.1.に示した VHF 帯放送波の内、東京スカイツリーを送信点とする NHK FM Tokyo(82.5MHz)、東京タワーを送信点とする FM Tokyo(80.0MHz)、埼玉県 平野原を送信点とする NHK FM Saitama(1)(85.1MHz)、千葉県三山を送信点とする NHK FM Chiba(80.7MHz)の 4 つの放送波を用いた。また、受信点は群馬大学桐生キャ ンパスとしたことから送受信点の位置関係はどちらも見通し内であるため、本稿で解析対 象となる放送波は見通し内 VHF 帯放送波となる。 3 章では本稿で扱う放送波の性質を考慮し、見通し内 VHF 帯放送波の解析を行うための データ処理と伝搬異常を分類するための伝搬異常期間の特定について記述する。3.1. 停波除去
本稿で扱う見通し内 VHF 帯放送波は、送信局の不具合及び点検等の影響により放送波 の送信が一時的に休止することがある。その際、観測される受信電力は通常の受信電力に 比べて大きく低下する。このような観測波形を停波と呼んでいる。この停波を除去せず解 析を行った場合、伝搬異常判定や標準偏差値導出の際に適切な解析を行えない可能性があ る。そこで、停波の発生期間の観測データを除去し(図 3.1.参照)、解析を行っていく。 (a) 停波除去前 (b) 停波除去後 図 3.1. 停波除去前後の観測データ比較 (a) 停波除去前 (b) 停波除去後 図 3.1. 停波除去前後の観測データ比較5
3.2. 移動平均
本稿で扱う見通し内 VHF 帯放送波は、揺らぎの成分やノイズを含んでおり、短期間に 細かく変動している。このような変動を緩和し、長期的な変動を解析するために移動平均 を用いた。移動平均とは、任意に指定した一定区間をずらしながら平均値を計算すること で時系列データの平滑化を行う手法である。本解析では、平均値を計算する期間を 10 分 間と定め移動平均を行った(図 3.2.参照)。3.3. 規格化
本稿で扱う見通し内 VHF 帯放送波の受信電力は、昼夜でその分散値が異なる。そこ で、本稿で扱う観測データにおいて 1 日のデータを 5 分刻みに分割した後、各時間帯にお ける平均値及び標準偏差を算出し、式(3.1.)により規格化を行った。これにより、昼夜の異 なる分散性による受信電力への影響を取り除くことが可能となる。 (a) 移動平均前 (b) 移動平均後 図 3.2. 移動平均前後の観測データの比較6
𝐴
𝑛=
𝑎
𝑛− 𝜇
𝜎
(3.1.)
(n=1,2,…,総データ数)𝐴
𝑛:規格化後の n 番目の観測データ、𝑎
𝑛:規格化前の n 番目の観測データ𝜇
:5 分刻みで算出した平均値、𝜎
:5 分刻みで算出した標準偏差 ここで、例として図 3.3.に NHK FM Tokyo(82.5MHz)において 2012 年 4 月 23 日~ 2015 年 12 月 31 日の観測データを用いて算出した平均値及び標準偏差によって規格化を 行った観測データを示した。3.2. 伝搬異常データの特定
伝搬異常を分類する深層学習を行うために予め伝搬異常が発生した期間を特定しておく 必要がある。そこで本稿では、伝搬異常検出の従来法であるσ法を用いて伝搬異常期間の 特定を行った。σ法とは、正規分布における標準偏差σをもとに閾値となるσ値を指定 し、そのσ値区間を超える受信電力の変動が一定時間以上継続した場合を伝搬異常として 定義する検出手法である。以下の図 3.4.にσ法による伝搬異常判定の概要について示す。 なお、図 3.4.では例として閾値となるσ値は 3σ、伝搬異常と定義する為の継続時間(以 降、“伝搬異常継続条件”と呼ぶ)は 30 分とする。 図 3.3. 規格化を行った観測データ 図 3.4. σ 法による伝搬異常検出(閾値:3σ、伝搬異常継続条件:30 分)7
また、“地震を伴った伝搬異常”と“地震を伴わなかった伝搬異常”特徴の違いを学習する 深層学習を行うためにσ法よって検出した伝搬異常の中から地震発生を伴ったものを特定
する必要がある。そこで、関連付け時間長 tper[days]を用いる。関連付け時間長 tperとは伝
搬異常と地震を時間的に関連付けるためのパラメータである。σ法で検出した伝搬異常に おいて、その開始時刻から終了時刻に関連付け時間長 tperを加えた時刻以内に地震発生が 見られた場合、この伝搬異常を“地震を伴った伝搬異常”と定義する。関連付け時間長 tper による“地震を伴った伝搬異常”の定義を以下の図 3.5.に示す。なお、本稿では短期的地震 予測を目的としているため、𝑡per= 5[days]として解析を行った。 図 3.5. “地震を伴った伝搬異常”の定義
8
4. 伝搬異常分類深層学習
3 章で規格化を行ったデータ(以降、“規格化データ”と呼ぶ)と特定を行った地震を伴っ た伝搬異常期間とそれ以外の伝搬異常期間を用いて、“地震を伴う伝搬異常”と“地震を伴わ ない伝搬異常”の特徴の違いを学習する深層学習を行っていく。4 章では、その深層学習の 手順について記述する。4.1. 教師ラベルの付与
本稿では、2 つの異なる性質の伝搬異常を分類するために「分類型教師あり深層学習」 を行う。分類型教師あり深層学習では、入力する学習データに対してそのデータが分類さ れるグループを示す教師ラベルを付与し、このラベルを教師データとして深層学習を行っ ていく。そこで今回行う深層学習では、“地震を伴う伝搬異常”と“地震を伴わない伝搬異 常”を特徴の違いを学習するためにそれぞれの伝搬異常期間の規格化データに異なる教師ラ ベルを付与し、規格化データを学習データ、教師ラベルを教師データとした深層学習を行 っていく。 3 章で特定した地震を伴った伝搬異常期間を用いて、その期間に該当する規格化データ には教師ラベルとしてラベル”1”をそれ以外の期間の規格化データに対しては、伝搬異常の 有無に関わらず教師ラベルとしてラベル”0”の付与を行った。以下の図 4.1.に地震を伴った 伝搬異常期間付近の規格化データにおける教師ラベル付与、地震を伴わなかった伝搬異常 期間付近の規格化データにおける教師ラベル付与の概略図を示す。 (a) 地震を伴った伝搬異常付近の教師ラベル付与9
4.2. 伝搬異常データの抽出
本稿で行う深層学習は、“地震を伴う伝搬異常”と“地震を伴わない伝搬異常”を分類する ものであるため、解析対象となるのは伝搬異常を付近の規格化データのみである。そこ で、3 章で特定した伝搬異常を含む一定データ長(以降、“シーケンス長”と呼ぶ)の規格化 データの抽出を行う。この処理を地震を伴ったもの、伴わなかったもの関わらず深層学習 に用いる全ての伝搬異常に対して行う。以下の図 4.2.に伝搬異常データの抽出についての 概略図を示す。 (b) 地震を伴わなかった伝搬異常付近の教師ラベル付与 図 4.1. 教師ラベル付与の概略図 図 4.2. 伝搬異常データ抽出の概略図10
4.3. 深層学習方法
4.3.節では、4.1.節で付与したラベルと 4.2.節で抽出した伝搬異常データを用いて、伝搬 異常を分類する深層学習を行う。 4.3.1. 再帰型ニューラルネットワーク “地震を伴う伝搬異常”と“地震を伴わない伝搬異常”の特徴の違いを学習する深層学習を 行うにあたり、深層学習手法の一つである再帰型ニューラルネットワーク(RNN: Recurrent Neural Network)を採用した。ニューラルネットワークへの入力 x、出力 y、時 刻 t、前の時刻からの入力 h とした場合の通常のニューラルネットワーク(NN:Neural Network)及び RNN の概略図を図 4.3.に示す。 図 4.3.より、NN では入力 x のみから出力 y を求めているのに対して、RNN では入力 x に加えて前の時刻からの入力 h も用いて出力 y を求めていることが分かる。このように RNN は、時系列的に前となるデータからの特徴を利用して出力を求めていることから時 系列連続データを用いた深層学習に適している。本稿で用いる規格化データも時系列連続 データであることから、RNN を用いて深層学習を行うことが適切であると考えられる。 RNN を用いて伝搬異常の分類学習を行うことにより、“地震を伴う伝搬異常”と“地震を伴 わない伝搬異常”の時系列的変化の特徴から両者の特徴の違いを学習し、伝搬異常の分類を 行うことが可能となる。 図 4.3. NN、RNN の概略図11 4.3.2. RNN への時系列データ入力 RNN を用いた深層学習を行うためには、入力データを時系列順に RNN に入力していく 必要がある。そこで、4.2.節で抽出した伝搬異常期間を含むシーケンス長の規格化データ を並列に並べ、その1データ目から順番に最後のデータまでデータ順が等しいものをまと めて RNN に入力することによって時系列順のデータ入力を行った。つまり、各抽出デー タの 1 データ目をまとめたものが図 4.3.における入力 x1、各抽出データの t データ目をま とめたものが入力 xtとなる。RNN へのデータ入力の概略図を図 4.4.に示す。 図 4.4.の青枠で囲んだデータのまとまりを RNN への 1 回分の入力データとする。この ように入力データを小さいまとまりに分割して入力する学習手法をミニバッチ学習とい い、分割したデータのまとまりをミニバッチ、ミニバッチに含まれるデータ数をミニバッ チサイズという。従って、本稿においてはデータ抽出に用いた伝搬異常の数がミニバッチ サイズとなる。 図 4.4. RNN への時系列入力の概要
12 4.3.3. 深層学習パラメータ 人工知能で目的の深層学習を行うためには、その深層学習に応じて適切な学習パラメー タを選択する必要がある。学習パラメータの選定に関しては、未だ選定の目安となる理論 が確立されていないため、一つひとつのパラメータをについて適切な値を探索する必要が ある。さらに学習パラメータは、深層学習を計算時間にも影響するため、深層学習を行う 計算環境も考慮して選定を行う必要がある。本稿の深層学習において考慮した学習パラメ ータを以下にまとめた。 エポック数 エポック数とは、1 つのデータセットにおいて深層学習を繰り返した回数のことで ある。エポック数を大きくすればより複雑な深層学習を行うことが出来るが、計算コ スト(深層学習に必要となる計算時間や計算機性能)も増すため、実施する深層学習に よって適切な値を選択する必要がある。また、エポック数を増やしすぎると学習デー タに固執しすぎた汎用性のない学習となる過学習の原因となる可能性がある。 ※ 過学習・・・深層学習において一つのデータセットに対して学習を行い過ぎたことによ り、未知のデータに対する対応力を失った汎用性のない学習結果を作成して しまう問題。 中間層数 ニューラルネットワークの各層は、データの入力を行う入力層、データの出力を行 う出力層、実際に学習を行う中間層の 3 つに大別される。中間層数とは、その中間層 の数のことである。中間層数を増やすことにより、より複雑な特徴量を学習すること が可能となる。しかしながら、エポック数と同様に中間層数を増やしすぎると計算コ ストの増大や過学習の原因となるため、適切な値を選択する必要がある。 中間層ユニット数 中間層ユニット数とは、中間層におけるニューロン(ユニット)の数のことである。 中間層におけるニューロンが増加するという事は、深層学習を行うために用いること が出来る関数の数を増やすことに繋がるため、ニューラルネットワークの学習能力の 向上させることが出来る。しかしながら、エポック数、中間層数と同様に中間層ユニ ット数を増やしすぎると過学習や計算コストの増大に繋がるため、適切な値を選択す る必要がある。例として以下の図 4.5.に中間層数を 2 層、中間層ユニット数を 4 とし たニューラルネットワークを示す。
13 ミニバッチサイズ ミニバッチサイズとは、4.3.2.項で述べたようにミニバッチ学習を行うために入力デ ータの分割をした際の一つのデータのまとまり(ミニバッチ)に含まれるデータの数の ことである。ミニバッチ学習では、1 つのミニバッチについての深層学習が終わるご とにパラメータ更新を行うため、ミニバッチサイズを適切に設定することにより、効 率よく安定した深層学習を行うことが可能となる。 シーケンス長 シーケンス長とは、RNN へのデータ入力における時系列データの長さ(データ数)の ことである。RNN では、時系列的に前のデータからの変化傾向を考慮して深層学習 を行うため、シーケンス長を大きくすることによって、より過去のデータからの変化 傾向を考慮した深層学習を行うことが可能となる。 図 4.5. 中間層数と中間層ユニット数
14 4.3.4. 損失関数と学習損失 深層学習において、学習を進めていくためには学習が順調に進んでいるかを評価するた めの指標が必要となる。そこで、深層学習における損失関数及び学習損失について述べて いく。損失関数とは、出力と実際の値(教師データ)の値のずれの大きさを表す関数のこと である。深層学習では、よりよい学習モデルを作成するために損失関数を用いて、出力デ ータと教師データのずれである学習損失を求め、この値が最小となるように学習を進めて いく。本稿の深層学習では、損失関数として交差エントロピー誤差(cross entoropy error) を用いた。交差エントロピー誤差は、主に分類型深層学習に用いられ、以下の式(8.1.)で示 される。
E = − ∑ 𝑡
𝑘log 𝑦
𝑘 𝑘(8.1.)
E:学習損失、 k:分類カテゴリ 𝑡𝑘:実際のカテゴリを”0”か”1”で表す 𝑦𝑘:各カテゴリに分類される確率 式(8.1.)において例として、“地震を伴う伝搬異常”(カテゴリ 1)に分類される確率が 80% で、“地震を伴わない伝搬異常”(カテゴリ 2)に分類される確率が 20%であり、正解のカテ ゴリが“地震を伴う伝搬異常”(カテゴリ 1)と仮定する。この場合、交差エントロピー誤差 で算出される学習損失 E は、以下の式(8.2.)ように求めることが出来る。E = −(1 ∙ log 0.8 + 0 ∙ log 0.2) = − log 0.8
(8.2.)
本稿の深層学習では、以上のような方法で学習損失を算出し、この学習損失が最小となる ように学習を進めていくことにより、“地震を伴う伝搬異常”と“地震を伴わない伝搬異常”を 分類するための分類学習モデルの作成を行っていく。
15 4.3.5. 深層学習の実行 “地震を伴った伝搬異常”と“地震を伴わなかった伝搬異常”の特徴の違いを学習する深層 学習を行っていく。4.2.節で抽出した伝搬異常期間を含む一定期間長(シーケンス長)のデー タを 4.3.2.節で述べた時系列データ入力方法を用いて RNN に入力を行っていく。これによ り、RNN では学習データを伝搬異常データ、教師データを教師ラベルをとした深層学習 を行い、“地震を伴った伝搬異常”と“地震を伴わなかった伝搬異常”の時系列変化の特徴の 違いを学習する。本稿の深層学習の概略図を図 4.6.に示す。 以上の深層学習により、伝搬異常の分類を行うための学習結果を作成することができ る。次章では、この学習結果に対して深層学習には用いていない未知の伝搬異常の入力す ることにより、地震を伴う伝搬異常の検出を行っていく。 図 4.6. 深層学習の概略図
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5. 地震を伴う伝搬異常の検出
4 章で作成した深層学習結果を所持した RNN に対して、深層学習では用いていない人 工知能にとって未知の伝搬異常を入力し、実際に伝搬異常を分類し、“地震を伴う伝搬異 常”の検出を行っていく。本稿では以下の手順に従って伝搬異常の検出を行う。 手順(1). 深層学習で用いた期間とは異なる期間の VHF 帯放送波データを用いて、4.1 節、 4.2.節で行った教師ラベル付与、伝搬異常期間を含むシーケンス長データの抽出 を行う。 手順(2). 手順(1)で抽出したデータを 4 章において深層学習が完了した RNN に対して、時 系列順に入力する。 手順(3). 入力されたデータに対して人工知能がラベルの判定を行う。入力データが地震を 伴う伝搬異常のデータであると人工知能が判断すればラベル“1”、そうでなければ ラベル”0”を出力する。 手順(4). 出力データよりラベル”1”と判定されたデータが 1 分以上連続した場合、これを “伝搬異常”として検出する。 以下の図 5.1.に本稿における伝搬異常検出の概略図を示す。 図 5.1. 伝搬異常判定17 また、実際に学習済み RNN に対して入力を行った伝搬異常期間を含むシーケンス長デ ータとそれを入力することによって得られた出力ラベルの例を伝搬異常が検出されたも の、伝搬異常が検出されなかったものについてそれぞれ図 5.2.、図 5.3.に示す。なお、以 下の 2 つの図において(a)で示したものが RNN に対する入力データであり、伝搬異常期間 を含むシーケンス長の規格化データとなっている。(b)で示したものが RNN によって出力 されたラベルとなっており、入力された規格化データ一つひとつに対して”0”か”1”のラベ ルの判定が行われている。 (a) 入力データ (b) 出力ラベル 図 5.2. RNN による伝搬異常判定における入力データと出力ラベル (伝搬異常と検出された場合)
18 図 5.2.では、伝搬異常であるとして RNN に入力したシーケンス長データに対してその 伝搬異常期間のデータを RNN も出力ラベル”1”すなわち地震を伴う伝搬異常期間のデータ であると判断しており、そのラベル”1”の継続時間も 1 分以上あるため、本稿の伝搬異常検 出法において“伝搬異常が検出された”と言える。これに対して、図 5.3.ではシーケンス長 データにおいては伝搬異常期間のデータであっても RNN では、出力ラベル”0”が出力され ており“地震を伴う伝搬異常ではない”と判断されている。 (a) 入力データ (b) 出力データ 図 5.3. RNN による伝搬異常判定における入力データと出力ラベル (伝搬異常と検出されなかった場合)
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6. 地震データの条件設定
伝搬異常と地震の関連性について考える前に伝搬異常に関連する地震の条件について考 慮する必要がある。これを考慮する理由としては、日本全国で発生した全ての地震を解析 対象とすると、地震の発生数が多すぎるため定量的な解析が不可能となるためである。そ こで、見通し内 VHF 帯放送波に影響を与える地震は、伝搬路付近で発生し、なおかつ規 模が大きいものであると仮定し、解析対象地震の条件設定を行う。地震データに対して、 「マグニチュード M」、「伝搬路から震央までの距離 L」(図 6.1.)、「震源の深さ D」の 3 つ の条件を設け、この条件を満たしたもののみを解析対象地震とする。 図 6.1. 伝搬路から震央までの距離 L20
7. 評価方法
本稿では伝搬異常と地震の関連性を統計的に評価するために適中率(Hit rate)と予知率 (Prediction rate)及びこの 2 つの指標を統合する値として F 値(F-value)、警報分率(Alarm rate)、確率利得 Gp(Gain of probability)を用いる。本章では、以上の各評価値の詳細につ いて記述する。
7.1. 適中率と予知率
適中率とは「解析期間中の総警報時間に対する地震と関連した総警報時間の割合」で、 式(7.1.)で示される。適中率
=
地震と関連した総警報時間
解析期間中の総警報時間
(7.1.)
予知率とは「解析対象となる地震総数に対する伝搬異常を伴った地震数の割合」で、式 (7.2.)で示される。予知率
=
伝搬異常を伴った地震数
解析対象となる地震総数
(7.2.)
警報時間(Alarm time)とは伝搬異常の開始時刻から終了時刻に「関連付け期間長 tper
[days]」を加算した時刻までの時間長のことである。この警報時間内に地震が発生した場 合、伝搬異常が地震と関連したとみなす。以下の図 7.1.に警報時間の概略図を示す。
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7.2. F 値
F 値とは適中率と予知率を統合的に評価するための値であり、2 つの値の調和平均で表 される。F 値は、式(7.3.)で示される。F 値 =
2 ∙ 適中率 ∙ 予知率
適中率
+ 予知率
(7.3.)
ここで、F 値を評価値として用いる理由について述べていく。まず、適中率が 100%で あるが、予知率が極めて低い場合を仮定する(図 7.2.(a)参照)。この場合、適中率が 100% であるため、全ての警報期間内に地震が発生しているということとなる。しかしながら、 予知率が極めて低いため、発生した地震の大多数を予測できていないこととなる。このよ うな場合に地震予測を行っても地震の取り逃しが多いため地震予測の有用性は非常に低く なる。 これに対して予知率が 100%であるが、適中率が極めて低い場合を仮定する(図 7.2.(b) 参照)。この場合、予知率が 100%であるため、発生した地震全てを予測できることとな る。しかしながら、適中率が極めて低いため地震と関連のない警報時間が増加することと なる。このような場合に地震予測を行っても地震の発生を伴わない警報つまり誤報が多く 発生し、地震予測の信頼性が低くなる。 (a) 適中率が 100%であるが、予知率が低い場合 (b) 予知率が 100%であるが、適中率が低い場合 図 7.2. F 値を評価値とする理由22 以上のことから適中率、予知率のどちらか一方が高い値を示したとしても伝搬異常と地 震の関連性は低いという結果となる。このことから、両者を統合的に評価する値として F 値を評価値として採用する必要がある。
7.3. 警報分率と確率利得 Gp
警報分率とは「全解析期間に対する解析期間中の総警報時間」の割合で、式(7.4.)で示さ れる。警報分率
=
解析期間中の総警報時間
全解析期間
(7.4.)
ここで、警報分率と適中率、予知率の関係について述べる。警報分率は、解析期間内に 含まれる警報時間の割合であるため、警報分率が増加すれば、地震が警報時間内に発生す る確率が上がるため必然的に予知率は高くなる。しかしながら、警報分率が高くなりすぎ ると地震と関連の無い警報時間も増加するため適中率は低下する。仮に警報分率が 50%と なると 2 日に1回は 24 時間警報が出続けていることとなり、地震予測の信頼性が低下す る。以上のことから、警報分率は高くなりすぎないことが短期的地震予測においては望ま しいと言える。 確率利得 Gp とは「ランダムな予測による予知率と伝搬異常に基づく予知率の比」で、 式(7.5.)で示される。確率利得
Gp =
予知率
警報分率
(7.5.)
式(7.5.)で表されるように確率利得が 1 に近づくほど、その事象はランダムな事象と近 い確率で発生するとみなし、偶然起こる事象であると定義される。つまり本稿において、 確率利得が 1 に近い値であった場合は、伝搬異常と地震の併発は偶然起こった事象である とみなされる。逆に確率利得がn(1 より大きい値)であった場合は、伝搬異常と地震の併 発は偶然起こる事象のn倍の確率で起こる事象であるみなすことが出来る。23
8. 解析結果
本稿で解析対象とする見通し内 VHF 帯放送波において、3~5 章で記述した深層学習方 法及び伝搬異常検出方法を用いて伝搬異常と地震の関連性の解析を行った。また、本稿で は、NHK FM Tokyo、FM Tokyo、NHK FM Saitama(1)、NHK FM Chiba の 4 つの VHF
帯放送波を用いて解析を行った。解析の条件としては、σ法における「閾値」、「伝搬異常 継続時間[min]」を設定することにより学習及び検出における入力データとなる伝搬異常 期間を特定し、4.3.3.項で記述した「エポック数」をはじめとする深層学習パラメータを設 定することにより、伝搬異常の特徴の違いを学習する深層学習を行い、この学習結果を用 いて伝搬異常を検出する。また、解析対象とする地震に関しては、「マグニチュード M」、 「伝搬路から震央までの距離 L[km]」、「震源の深さ D[km]」を設定し、対象地震の絞込み を行う。その後、検出した伝搬異常と絞込みを行った地震に対して 7 章で記述した評価値 を用いて伝搬異常と地震発生の関連性について評価、考察を行う。
8.1. NHK FM Tokyo(82.5MHz)での解析結果
8.1.節では、見通し内 VHF 帯放送波である NHK FM Tokyo における伝搬異常と地震の 関連性解析についての考察を行う。本稿の解析で用いた解析条件を以下に列記する。 解析期間 ・深層学習:2012 年 4 月 23 日~2015 年 12 月 31 日 ・伝搬異常異常検出:2016 年 1 月 1 日~2017 年 12 月 31 日 放送波 ・NHK FM Tokyo(周波数:82.5MHz) 送受信点 ・送信点:東京スカイツリー(北緯 35 度 42 分 37 秒、東経 139 度 48 分 39 秒) ・受信点:群馬大学桐生キャンパス(北緯 36 度 25 分 26 秒、東経 139 度 20 分 58 秒) σ法伝搬異常検出条件 ・閾値:2.5σ ・伝搬異常継続時間:15[min] 深層学習パラメータ ・エポック数:5000 ・中間層数:4 層 ・中間層ユニット数:300 ・ミニバッチサイズ:260 ・シーケンス長:50024 地震パラメータ ・マグニチュード:M ≥ 4.0 ・伝搬路から震央までの距離:L ≤ 100[km] ・震源の深さ:D ≤ 50[km] 上記の条件のもと 3~4 章で記述した伝搬異常期間の特定と伝搬異常の特徴の違いを学 習する深層学習を行った。なお、先にも述べたが本稿では短期的地震予測を目的としてい
るため、tperの値は 5[days]を用いて解析を行った。以下の図 8.1.に NHK FM Tokyo のデ
ータを用いて行った深層学習における学習損失の推移を示す。 図 8.1.より、エポック数が進むごとに学習損失の値が低下していることが分かる。学習 損失の減少に乱れが多いものの、伝搬異常検出を行っていく上で十分な学習損失の減少が 確認できたため、この深層学習の学習結果を用いて伝搬異常検出を行っていく。 上記の深層学習における学習結果を用いて、伝搬異常の検出を行う。その後、検出した 伝搬異常と地震の関連性について各評価値を用いて評価を行った。本稿の伝搬異常検出法 (RNN method)の解析結果と従来法である 3σ法(閾値を 3σとしたσ法伝搬異常検出法)(3 σmethod)の解析結果の比較を表 8.1.に示す。 図 8.1. NHK FM Tokyo での学習損失の推移
25 表 8.1. RNN method と 3σmethod の解析結果比較 RNN method 3σmethod 放送波 NHK FM Tokyo(82.5MHz) 解析期間 2016 年 1 月 1 日~2017 年 12 月 31 日 総解析日数 720.689 [days] 関連付け時間長 5 [days] 総警報時間 2510.88 [hour] 6538.09 [hour] 地震と関連した 総警報時間 733.07 [hour] 1203.00 [hour] 地震総数 31 伝搬異常と関連した 地震総数 9 12 警報分率 0.145 0.378 適中率 0.292 0.184 予知率 0.290 0.387 F 値 0.29 0.25 確率利得 2.00 1.02 表 8.1.より、適中率、F 値、確率利得の3つの評価値において、本稿の伝搬異常検出手 法が従来法より高い値が得られていることが分かる。また、予知率に関しては、従来法に 比べて値が低下していることが見て取れる。これに関しては、従来法に比べて本稿の伝搬 異常検出法の警報分率が減少していることに起因していると考えられる。
26 また、本稿の伝搬異常検出による警報時間と地震発生時刻の時系列関係を 1 年ごと図 8.2.に示した。図 8.2.の青線は警報時間を表しており、値が“1”(左縦軸)で一定になってい る期間が警報時間内であることを表している。また、赤点は地震を表しており、縦軸方向 の値(右縦軸)がマグニチュードを示している。 図 8.2.より、本稿の伝搬異常検出方法による警報時間内に地震が発生している事例が複 数確認することができる。このことから、NHK FM Tokyo の解析において複数の“地震を 伴う伝搬異常”を検出できたと言える。 (a) 2016 年 1 月 1 日~2016 年 12 月 31 日 (b) 2017 年 1 月 1 日~2017 年 12 月 31 日 図 8.2. 警報時間と地震発生の時間関係(NHK FM Tokyo)
27
8.2. FM Tokyo(80.0MHz)での解析結果
8.2.節では、見通し内 VHF 帯放送波である FM Tokyo における伝搬異常と地震の関連性 解析についての考察を行う。本稿の解析で用いた解析条件を以下に列記する。 解析期間 ・深層学習:2012 年 4 月 23 日~2015 年 12 月 31 日 ・伝搬異常異常検出:2016 年 1 月 1 日~2017 年 12 月 31 日 放送波 ・FM Tokyo(周波数:80.0MHz) 送受信点 ・送信点:東京タワー (北緯 35 度 39 分 31 秒、東経 139 度 44 分 44 秒) ・受信点:群馬大学桐生キャンパス(北緯 36 度 25 分 26 秒、東経 139 度 20 分 58 秒) σ法伝搬異常検出条件 ・閾値:2.5σ ・伝搬異常継続時間:15[min] 深層学習パラメータ ・エポック数:5000 ・中間層数:4 層 ・中間層ユニット数:300 ・ミニバッチサイズ:216 ・シーケンス長:500 地震パラメータ ・マグニチュード:M ≥ 4.0 ・伝搬路から震央までの距離:L ≤ 100[km] ・震源の深さ:D ≤ 50[km] 上記の条件のもと 3~4 章で記述した伝搬異常期間の特定と伝搬異常の特徴の違いを学 習する深層学習を行った。以下の図 8.3.に FM Tokyo のデータを用いて行った深層学習に おける学習損失の推移を示す。28 図 8.3.より、FM Tokyo のデータを用いた深層学習においてもエポック数が増加するご とに学習損失が減少していることが見て取れる。また、減少の傾向としては図 8.1.の推移 と比べて乱れが大きいが、学習損失の値としては同程度まで減少しているため、伝搬異常 検出を行う上では問題無いと言える。 上記の深層学習における学習結果を用いて、伝搬異常の検出を行う。その後、検出した 伝搬異常と地震の関連性について各評価値を用いて評価を行った。本稿の伝搬異常検出法 (RNN method)の解析結果と従来法である 3σ法(3σmethod)の解析結果の比較を表 8.2. に示す。 図 8.3. FM Tokyo での学習損失の推移
29 表 8.2. RNN method と 3σmethod の解析結果比較 RNN method 3σmethod 放送波 FM Tokyo(80.0MHz) 解析期間 2016 年 1 月 1 日~2017 年 12 月 31 日 総解析日数 721.92 [days] 関連付け時間長 5 [days] 総警報時間 2415.25 [hour] 7476.87 [hour] 地震と関連した 総警報時間 606.58 [hour] 1475.53 [hour] 地震総数 27 伝搬異常と関連した 地震総数 7 16 警報分率 0.139 0.432 適中率 0.251 0.197 予知率 0.259 0.593 F 値 0.26 0.30 確率利得 1.86 1.37 表 8.2.より、適中率、確率利得の 2 つの評価値において本稿の伝搬異常検出手法が従来 法を超える値を得られていることが分かる。また、予知率、F 値の値の減少については NHK FM Tokyo における解析結果と同様に警報分率が従来法のほうが非常に高いことから 予知率が増加し、それに伴って F 値の値も増加したと考えられる。
30 ここで、FM Tokyo の解析結果でも本稿の伝搬異常検出による警報時間と地震発生時刻 の時系列関係について考察していく。以下の図 8.4.に警報時間と地震発生時刻の時系列関 係を示した。 図 8.4.より、NHK FM Tokyo における解析でも多くの警報時間内で地震の発生を確認す ることができる。このことから、FM Tokyo における解析においても複数の“地震を伴う伝 搬異常”を検出することができたと言える。 (a) 2016 年 1 月 1 日~2016 年 12 月 31 日 (b) 2017 年 1 月 1 日~2017 日 12 月 31 日 図 8.4. 警報時間と地震発生の時間関係(FM Tokyo)
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8.3. NHK FM Saitama(1)(85.1MHz)での解析結果
8.3.節では、見通し内 VHF 帯放送波である NHK FM Saitama(1)における伝搬異常と地 震の関連性解析についての考察を行う。本稿の解析で用いた解析条件を以下に列記する。 解析期間 ・深層学習:2012 年 4 月 23 日~2015 年 12 月 31 日 ・伝搬異常異常検出:2016 年 1 月 1 日~2017 年 12 月 31 日 放送波 ・NHK FM Saitama(1)(周波数:85.1MHz) 送受信点 ・送信点:埼玉県平野原 (北緯 35 度 51 分 09 秒、東経 139 度 36 分 54 秒) ・受信点:群馬大学桐生キャンパス(北緯 36 度 25 分 26 秒、東経 139 度 20 分 58 秒) σ法伝搬異常検出条件 ・閾値:2.5σ ・伝搬異常継続時間:15[min] 深層学習パラメータ ・エポック数:5000 ・中間層数:4 層 ・中間層ユニット数:300 ・ミニバッチサイズ:236 ・シーケンス長:500 地震パラメータ ・マグニチュード:M ≥ 4.0 ・伝搬路から震央までの距離:L ≤ 100[km] ・震源の深さ:D ≤ 50[km] 上記の条件のもと 3~4 章で記述した伝搬異常期間の特定と伝搬異常の特徴の違いを学 習する深層学習を行った。以下の図 8.5.に NHK FM Saitama(1)のデータを用いて行った深 層学習における学習損失の推移を示す。32 図 8.5.より、NHK FM Saitama(1)のデータを用いた解析においてもエポック数が増える ごとに学習損失の減少を確認することができた。また、学習損失の減少傾向としては学習 損失の値の乱れも少なく、概ね順調に深層学習を行うことができていると言える。 上記の深層学習における学習結果を用いて、伝搬異常の検出を行う。その後、検出した 伝搬異常と地震の関連性について各評価値を用いて評価を行った。本稿の伝搬異常検出法 (RNN method)の解析結果と従来法である 3σ法(3σmethod)の解析結果の比較を表 8.3. に示す。 図 8.5. NHK FM Saitama(1)での学習損失の推移
33 表 8.3. RNN method と 3σmethod の解析結果比較 RNN method 3σmethod 放送波 NHK FM Saitama(1)(85.1MHz) 解析期間 2016 年 1 月 1 日~2017 年 12 月 31 日 総解析日数 723.53 [days] 関連付け時間長 5 [days] 総警報時間 2109.94 [hour] 7658.00 [hour] 地震と関連した 総警報時間 622.27 [hour] 1403.72 [hour] 地震総数 25 伝搬異常と関連した 地震総数 6 13 警報分率 0.122 0.441 適中率 0.295 0.183 予知率 0.240 0.520 F 値 0.26 0.27 確率利得 1.98 1.18 表 8.3.より、適中率、確率利得の 2 つの評価値において、本稿の伝搬異常検出によって 従来法に比べて高い値が得られていることが分かる。また、F 値に関しては従来法とほぼ 同様の値が得られた。予知率に関しては、先に行った 2 つの放送波と同様の理由から値が 減少したと考えられる。
34 ここで、NHK FM Saitama(1)の解析結果でも本稿の伝搬異常検出による警報時間と地震 発生時刻の時系列関係について考察していく。以下の図 8.6.に警報時間と地震発生時刻の 時系列関係を示した。 図 8.6.より、NHK FM Saitama(1)での解析による警報時間内に地震が発生している事例 が複数確認することができる。このことからも本稿の伝搬異常検出法によって NHK FM Saitama(1)でも複数の“地震を伴う伝搬異常”を検出できたと言える。 (a) 2016 年 1 月 1 日~2017 年 12 月 31 日 (b) 2017 年 1 月 1 日~2017 年 12 月 31 日 図 8.6. 警報時間と地震発生の時間関係(NHK FM Saitama(1))
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8.4. NHK FM Chiba(80.7MHz)での解析結果
8.4.節では、見通し内 VHF 帯放送波である NHK FM Chiba における伝搬異常と地震の 関連性解析についての考察を行う。本稿の解析で用いた解析条件を以下に列記する。 解析期間 ・深層学習:2012 年 4 月 23 日~2015 年 12 月 31 日 ・伝搬異常異常検出:2016 年 1 月 1 日~2017 年 12 月 31 日 放送波 ・NHK FM Chiba(周波数:80.7MHz) 送受信点 ・送信点:千葉県三山 (北緯 35 度 41 分 50 秒、東経 140 度 02 分 47 秒) ・受信点:群馬大学桐生キャンパス(北緯 36 度 25 分 26 秒、東経 139 度 20 分 58 秒) σ法伝搬異常検出条件 ・閾値:2.5σ ・伝搬異常継続時間:15[min] 深層学習パラメータ ・エポック数:5000 ・中間層数:4 層 ・中間層ユニット数:200 ・ミニバッチサイズ:372 ・シーケンス長:500 地震パラメータ ・マグニチュード:M ≥ 4.0 ・伝搬路から震央までの距離:L ≤ 100[km] ・震源の深さ:D ≤ 50[km] 上記の条件のもと 3~4 章で記述した伝搬異常期間の特定と伝搬異常の特徴の違いを学 習する深層学習を行った。以下の図 8.7.に NHK FM Chiba のデータを用いて行った深層学 習における学習損失の推移を示す。36 図 8.7.より、NHK FM Chiba での解析においても学習損失の減少を確認することができ た。また、減少傾向としても減少幅の乱れも少なく、順調に深層学習が行えていることが 分かる。 上記の深層学習における学習結果を用いて、伝搬異常の検出を行う。その後、検出した 伝搬異常と地震の関連性について各評価値を用いて評価を行った。本稿の伝搬異常検出法 (RNN method)の解析結果と従来法である 3σ法(3σmethod)の解析結果の比較を表 8.4. に示す。 図 8.7. NHK FM Chiba での学習損失の推移
37 表 8.4. RNN method と 3σmethod の解析結果比較 RNN method 3σmethod 放送波 NHK FM Chiba(80.7MHz) 解析期間 2016 年 1 月 1 日~2017 年 12 月 31 日 総解析日数 722.87 [days] 関連付け時間長 5 [days] 総警報時間 10780.1 [hour] 7966.83 [hour] 地震と関連した 総警報時間 2844.60 [hour] 2092.04 [hour] 地震総数 39 伝搬異常と関連した 地震総数 26 20 警報分率 0.621 0.459 適中率 0.264 0.263 予知率 0.839 0.500 F 値 0.40 0.34 確率利得 1.35 1.09 表 8.4.より、適中率、予知率、F 値、確率利得の全ての評価値において本稿の伝搬異常 検出手法によって従来法に比べて高い値が得られていることが分かる。
38 ここで、NHK FM Chiba の解析結果でも本稿の伝搬異常検出による警報時間と地震発生 時刻の時系列関係について考察していく。以下の図 8.8.に警報時間と地震発生時刻の時系 列関係を示した。 図 8.8.より、NHK FM Chiba での解析結果によって検出された警報時間内に地震が発生 している事例が多く確認できる。このことから、NHK FM Chiba のデータを用いた解析に おいても複数の“地震を伴う伝搬異常”を検出できた。 しかしながら、表 8.4.から NHK FM Chiba における解析では、他の放送波での解析に比 べて、確率利得の値も低く、図 8.8.から検出されている警報時間も非常に多いことが分か る。このことに関しては次節で考察を行う。 (a) 2016 年 1 月 1 日~2016 年 12 月 31 日 (b) 2017 年 1 月 1 日~2017 年 12 月 31 日 図 8.8. 警報時間と地震発生の時間関係(NHK FM Chiba)
39
8.5. 複数放送波の解析結果比較
8.5.節では、これまでに行った 4 つの見通し内 VHF 帯放送波の解析結果の比較を行う。 8.1.節~8.4.節で記述した 4 つの放送波の解析結果における各評価値を以下の表 8.5.にまと めた。 表 8.5. 4 放送波の解析結果比較 放送波 NHK FM Tokyo FM Tokyo NHK FM Saitama(1) NHK FM Chiba 警報分率 0.145 0.139 0.122 0.621 適中率 0.292 0.251 0.295 0.264 予知率 0.290 0.259 0.240 0.839 F 値 0.29 0.26 0.26 0.40 確率利得 2.00 1.86 1.98 1.35表 8.5.より、NHK FM Tokyo、FM Tokyo、NHK FM Saitama(1)の 3 つの放送波におい ては全ての評価値で同程度の値が得られていることが分かる。このことから、深層学習を 行うことによって、1 つの放送波に限った限定的な“地震を伴う伝搬異常”と“地震の伴わな い伝搬異常”の特徴の違いではなく、複数の放送波において適用できる汎用性のある特徴の 違いを学習することができたと言える。 しかしながら、NHK FM Chiba での評価値は、確率利得の値が他の放送波と比較して低 い値となっており、警報分率は他の放送波の解析結果と比べると非常に高い値となってい る。この要因としては、電波伝搬路の距離の違いが考えられる。NHK FM Chiba の送信点 は千葉県の三山であり、他の 3 つの放送波と比較すると遠方に存在する。これにより、 NHK FM Chiba の観測データは他の放送波の観測データに比べて、揺らぎ成分やノイズが 多く含まれた乱れの多い観測データとなっている。以下に 4 つの放送波における電波伝搬 路の距離を示す。 NHK FM Tokyo : 89.5[km] FM Tokyo : 92[km] NHK FM Saitama(1) : 67[km] NHK FM Chiba : 102[km]
40 また、以下の図 8.9.(a)、(b)に 2012 年 4 月 23 日~2017 年 12 月 31 日の観測データから 導出した 1 日の 3σ区間の推移を NHK FM Tokyo と NHK FM Chiba それぞれ示す。 図 8.9.からも NHK FM Chiba の観測データの乱れが大きいことが分かる。このことから NHK FM Chiba の解析においては、観測データの乱れにより深層学習で伝搬異常の分類が 困難になっているため、他の放送波と比べて伝搬異常が多く検出され、その結果として警 報分率が他の放送波と比べて非常に高くなっていると考えられる。また、それに伴い予知 率の上昇や確率利得の減少が起こっていると考察できる。 (a) NHK FM Tokyo (b) NHK FM Chiba 図 8.9. 3σ 区間の比較
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9. 結論
本稿では人工知能による深層学習を用いることによって、“地震を伴う伝搬異常”の検出 を行った。その際、学習データとする VHF 帯放送波データが時系列連続データであるこ とから、深層学習の手法の一つである RNN を用いて深層学習を行い、その学習結果を用 いて伝搬異常の検出を行った。また、検出した伝搬異常と地震の関連性について適中率、 予知率、F 値、確率利得を用いて統計的評価を行った。その結果、解析を行った NHK FM Tokyo、FM Tokyo、NHK FM Saitama(1)、NHK FM Chiba の 4 つの放送波全てで、従来 法を超える確率利得の値を得ることができた。その中でも、NHK FM Tokyo、FMTokyo、NHK FM Saitama(1)の 3 つの放送波では、2.00 程度の確率利得が得られており、 ランダムな予測に比べて 2 倍程度の確率で“地震を伴う伝搬異常”を検出することができて いることが確認できた。このことから、本稿の深層学習を用いた伝搬異常検出手法によっ て、高い精度で“地震を伴う伝搬異常”の検出を行うことができたと言える。
さらに、解析した 4 放送波の内 NHK FM Tokyo、FM Tokyo、NHK FM Saitama(1)の3 つの放送波の解析結果において、非常に類似した評価結果を確認することができた。ゆえ に、本稿の深層学習によって学習した“地震を伴う伝搬異常”と“地震を伴わない伝搬異常” の特徴の違いは、1 つの放送波における限定的な特徴量ではなく、複数の放送波に適用可 能な汎用性のある特徴量であると考えられる。
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10. 今後の課題
今後の課題としては、VHF 帯放送波データの他に強風やラジオダクトなどの電波伝搬に 影響与える気象現象のデータを学習データとして加えることや少ない学習データ数でも高 い精度の深層学習を行うための学習手法の改良が挙げられる。本稿の深層学習には、VHF 帯放送波のデータしか用いておらず、学習に用いることができる伝搬異常数も少数である ため、精度の高い深層学習を行うためのデータ数としては不十分である。RNN には、複 数の時系列データの特徴を統合的に掴みデータを分類する学習方法も存在する。このこと から、VHF 帯放送波データと気象現象のデータを並列に RNN に入力することにより、よ り多くの特徴量を統合的に考慮した“地震を伴う伝搬異常”の検出が行えると考えられる。 また、本稿で深層学習に用いることができる伝搬異常データは、自然現象であるため人 為的にデータ数増やすことができない。そのため、学習データ数の不足は避けることがで きない。8.5.節で述べた NHK FM Chiba の解析結果の問題に関しても、学習データ数の不 足によって人工知能が伝搬異常とデータの乱れを区別できなかったことも原因の一つとし て考えられる。以上のことから、少ない学習データからでも高精度の深層学習を行うため の、学習手法の改良も必要であると考える。43
謝辞
本研究を進めるにあたり多くの助言、ご指導頂いた本島邦行教授、研究室の方々に厚く 御礼申し上げます。並びに、修士学位論文の主査を務めて頂いた山越芳樹教授及び副査を 務めていただいた弓仲康史准教授に厚く御礼申し上げます。 また、本研究で扱っている地震データは、気象庁から拝借していることを付記し、関係 者各位に心より感謝致します。44
参考文献
(1) 早川正士, “地震電磁気現象の計測技術と研究動向,” 信学論(B), vol. J89-B, no. 7, pp. 1036–1045, 2006.
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(3) Molchanov O. A., and M. Hayakawa, “Subionospheric VLF signal perturbations possibly related to earthquakes,” J. Geophys. Res., vol. 103, no. A8, pp. 17489–17504, 1998.
(4) Yonaiguchi N., Y. Ida, and M. Hayakawa, “On the statistical correlation of over-horizon VHF signals with meteorological radio ducting and seismicity,” J. Atmos. Solar-terr. Phys., vol. 69, pp. 661–674, 2007.
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(8) 谷川 廣祐, 羽賀望, 本島邦行, “見通し内 VHF 帯放送波の伝搬異常と地震及び地表面 平均風速の統計的関連性,” J. Atmos. Electr., vol. 37, no. 1, pp. 11–24, 2017.
(9) 本島研究室ホームページ, http://moto-lab.ei.st.gunma-u.ac.jp/ (10) 新納浩幸『Chainer による実践深層学習』オーム社, 2016 年
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研究業績
本研究において筆者が作成した学会用発表原稿を末尾に記載する。学会発表
(1) 塩野優人, 本島邦行, “人工知能を用いた地震を伴った電波伝搬異常の検出”, 千葉県千 葉市美浜区, 幕張メッセ国際会議場, 日本地球惑星連合 2018 年大会, 2018 年 5 月 22 日(2) Kuniyuki Motojima, Yuto Shiono and Yuya Ogura, "Detection of anomalous VHF radio wave propagation associated with earthquake by artificial intelligence,”
International Symposium on Earthquake Forecast / 5th International Workshop on Earthquake Preparation Process – Observation, Validation, Modeling, Forecasting - (ISEF-IWEP5), pp.94, Chiba, May 26, 2018.
(3) 塩野優人, 本島邦行, “深層学習を用いた地震を伴う電波伝搬異常の検出”, 東京都港区, 東海大学, 日本地震予知学会 第 6 回学術講演会, 2019 年 12 月 26 日