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JAIST Repository: 幹細胞技術の標準化 : 技術分類と検討フレームワークの提案

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https://dspace.jaist.ac.jp/ Title 幹細胞技術の標準化 : 技術分類と検討フレームワーク の提案 Author(s) 仙石, 慎太郎; 隅蔵, 康一; 沖, 俊彦 Citation 年次学術大会講演要旨集, 25: 272-275 Issue Date 2010-10-09

Type Conference Paper Text version publisher

URL http://hdl.handle.net/10119/9294

Rights

本著作物は研究・技術計画学会の許可のもとに掲載す るものです。This material is posted here with permission of the Japan Society for Science Policy and Research Management.

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1H06

幹細胞技術の標準化:技術分類と検討フレームワークの提案

○仙石慎太郎(京都大学),隅蔵康一(政策研究大学院大学),沖俊彦(東京大学) 今日、いわゆる万能細胞などの幹細胞技術の標準化努力が、細胞の解析方法やプロトコルの統一などを 通じて世界的に進められている [1,2]。しかしながら、現行の取り組みでは、標準化の範囲が狭くとら えられ過ぎている懸念がある。本稿では、社会科学の知見に基づいて標準化の概念とその定義を再確認 するとともに、科学技術経営の観点から、包括的なフレームワークを提案することを目的とする。 1. 標準化にむけた世界動向 1.1. 国際的枠組み 幹細胞の標準化の取り組みとしては、International Stem Cell Forum (ISCF)の2つのイニシアティブが 顕 著 で あ る 。 ひ と つ は International Stem Cell Initiative (ISCI)で、幹細胞研究の基盤整備、特に胚 性幹細胞(ES 細胞)の信頼できる基礎研究と臨床 応用を念頭に、ES 細胞株として満たすべき特徴や 基 準 に つ い て 検 討 し て き た 。 も う ひ と つ は International Stem Cell Banking Initiative (ICSBI)で、 ES 細胞株のバンキング機能を備え、ES 細胞株の 質的標準における minimum standard の設定、世界 の異なる機関で作出される細胞株のデータを比 較するための基準の策定、ES 細胞株や他のマテリ アルを国際的に transfer するための体制やガイド ラインの構築を行ってきた。 実用化段階では、世界最大の標準化機関である International Organization for Standardization (ISO) にも動きがみられる。現在、ISO-TC150(外科用 インプラント)に SC7(再生医療機器)という組 織が 2007 年に創設されており、再生医療に関す る製品・サービスの規格設定を模索している。 1.2. 英国の取り組み 英国が標準化に向けたフォーラム形成に注力し ている。生物製剤の標準化を担う国立機関である National Institute for Biological Standards and Control (NIBSC) の 中 に UK Stem Cell Bank (UKSCB)が設立された1。UKSCB は幹細胞の品質 管理技術の開発や臨床向けの応用研究に向けた 試験の実施、また特に ES 細胞株についてはその 無償供与を通じて、高い国際的プレゼンスを発揮 している。 1 http://www.ukstemcellbank.org.uk 創薬支援技術のアプリケーションでは、具体的 な取り組みがみられる。その一例が、2007 年 10 月 に 発 足 し た SC4SM (Stem Cells for Safer Medicines)である2。SC4SM は、幹細胞を使った 新薬候補物質の毒性試験技術の開発を目的とし た 官民 コンソ ーシ アムで ある 。民間 から は英 GlaxoSmithKline (GSK) 社、英 AstraZeneca 社、ス イス Hoffman-la-Roche 社の欧州大手製薬 3 社 が、 政府関係機関からは英国保健省(DH)、イノベー ション・大学・技能省(DIUS)、スコットランド 政府、医学研究評議会(MRC)、バイオテクノロ ジー・生物科学研究評議会(BBSRC)が参加して いる。 1.3. 米国の取り組み

米国は、American Society for Testing and Materials (ASTM;米国材料試験協会)のカテゴリーF04 (医療及び外科材料並びに機器)中の分科会で検 討が行われているが、むしろ大学や産業界が標準 化を主導している。 ヒ ト ES 細 胞 株 を 世 界 で 初 め て 樹 立 し た Thomson が在籍するウィスコンシン大学が運営母 体である Wisconsin International Stem Cell Bank で は、非営利研究機関の WiCell を通じて、ヒト ES 細胞を世界的に広く配布している3。現在は、Geron 社が、この ES 細胞「H9」株を用いて、脊髄損傷 患者の治療を目的とした臨床試験を計画中であ り、医薬食品局(FDA)も臨床開発を認可した。 仮に臨床開発が滞りなく進み、医療応用となった 暁には、ここで用いられた細胞株や、FDA による 審査内容や許認可基準が、標準形成の指針となる 可能性がある。 このほかにも、ハーバード大学幹細胞研究所は 2 http://www.sc4sm.org 3 http://www.wicell.org

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英 GSK と共同で、がん幹細胞の研究や心筋再生 等を対象とした、創薬基盤技術の開発や疾患メカ ニズムの研究を実施している。米ファイザーは、 2008 年に英ケンブリッジ大学と連携して再生医 療の研究拠点を立ち上げた。ヒト ES 細胞の分化 制御技術、自家培養細胞治療のビジネスモデル立 案などの4つの主要領域を設定し、研究を進めて いる。 1.4. 日本の取り組み 日本の取り組みは世界的にも特異であり、ヒト ES 細胞ではなく、ヒト誘導多能性幹細胞(iPS 細胞) を中心とした標準化が先行している。この背景に は、ヒト ES 細胞研究に対する過剰な規制が敷か れ続けたこと [3]、2007 年と 2008 年のマウス及び ヒト iPS 細胞のセンセーショナルな発見により、 期待感が国内で著しく高まったこと等がある。文 部科学省は「iPS 細胞等研究ネットワーク」を創 設し、同省内の iPS 細胞研究に関する事業に参画 している機関の間で、研究情報やマテリアルを効 率的に共有するための体制を構築中である4 2. 課題と標準化の戦略フレームワークの必要性 このように標準化の取り組みは随所にみられる が、いくつかの課題がある。 課題のひとつは、ヒト ES 細胞やヒト iPS 細胞 など、現時点で存在する多能性幹細胞種、しかも 特定の幹細胞種に限定される傾向がある点であ る。臨床現場の目的は効果的な治療であり、これ を可能にするための技術機会は、必ずしも多能性 幹細胞に限られるわけではない。したがって、標 準化のフレームワークにおいては、組織幹細胞や 死亡胎児由来幹細胞等のより臨床応用に近い幹 細胞種も含む包括性が求められる。加えて、再生 医療実現までの長いスパンを考えれば、現行のヒ ト ES 細胞やヒト iPS 細胞の欠点を克服した、全 く新しいパラダイム転換の可能性も予見してお かなければならない5 もう一つの課題は、標準化の検討対象が、極め て狭い範囲に設定されている点である。これまで の取り組みにほとんどは、糖鎖解析、エピゲノム 解析、ゲノム解析、mRNA・タンパク発現解析を ベースにした、細胞株のキャラクタリゼーション のための評価手法といった、水平な互換性標準6 設定が中心だった。しかしながら、標準化の概念 4 http://www.ips-network.mext.go.jp 5 事実我々は、10 年前のヒト ES 細胞株の樹立成功時に、 ヒト iPS 細胞株の樹立を予測できていない。 6

Lateral compatibility standard

には、質的標準7、垂直な互換性標準8も含まれる [4]。質的標準としては、例えば最終製品・サービ スの質的な要件を定める規格が、垂直な互換性標 準としては、例えば異なる細胞種や細胞株から同 一の分化細胞を再現的に誘導する技術といった、 基本技術と周辺技術を結合するためのプロセス 技術が該当する。 また、標準化のアプローチとしては、de facto (デファクト)標準及び de jure(デジュリ)標準 9の分類が一般的である[5]。これに加えて、最近 ではコンセンサス標準10が注目されている[6]。 標準化のフレームワークを考案するにあたっ ては、多様な技術機会や応用範囲を網羅し、標準 化の対象やアプローチを考慮する必要がある。そ こで我々は、表1に示すマトリクスを標準化の検 討フレームワーク案として提案したい。 3. 主要な論点 3.1. 何を国際標準とするのか 国際標準化の当面の対象としては、その原義上、 製品コンポーネントとしての幹細胞株、最低品質 確保のための評価指標やプロシージャ等が該当 すると考えられる。デファクト基準は市場取引の 結果形成されるものであり、デジュリ基準は最 終・製品サービスと各国の規制環境に依存するの で、より長期的な施策となろう。 ただ、半導体分野等と異なり、基本技術である 細胞株は、唯一の標準規格に収束する必要は必ず しもない。むしろ、目的や用途に応じて、複数の 標準株が並立して存在するのが理想的と考えら れる。なぜならば、細胞株に求められる質的標準 が、最終製品・サービスに対する質的基準の影響 を受けるからである11 3.2. 何が知財化の対象となるのか 知財化とは、その対象となる技術について特許権 7 Quality standard 8

Vertical compatibility standard 9 デファクト標準とは、市場取引プロセスを経てドミナン ト・デザインを獲得したものが得られる、事実上の標準で ある。デジュリ標準は、市場で最も利用されていたり、質 的に優れている仕様が規格案として提出されて決定する 標準と解される。 10 国際的フォーラム等や業界団体等のグループの合意に 基づいて設定される標準と解される。 11 例えば、再生医療用途では安全性が最重要項目となる が、医薬基盤技術用途では(人体に適用しないため)全く 重要にはならない。また、臨床用途であればGood Manufacturing Practice (GMP)基準で作出される必要が あるが、基礎研究用途であれば必ずしもその必要はない。

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を取得すること(成立した特許のクレームの中に 記載されることとなる)、或いは、その対象とな る技術が特許権の権利範囲に含まれるものとな ることのいずれかである、とここでは定義する。 その場合、知財化の対象は、細胞株といった標準 化戦略マトリクス上の特定の要素に限局するの ではなく、質的標準や2つの互換性標準を確保す るために必要な、周辺技術が知財形成のポテンシ ャルとなるだろう。 ヒト iPS 細胞の特許は現在日米欧で成立してい るが、複数の作出方法が提案されており,作出方 法は導入因子と導入手段により規定される傾向 がある12。幹細胞の維持培養技術と分化制御技術 の多くは用途特許であり,既存特許の請求の範囲 外の異手法や抜本的な技術革新により代替され うる。細胞改変技術13は再生医療における安全性 の担保の点で比較的強い知財を形成する可能性 があるが、現時点において標準となりうる技術は 存在しない。このような状況では、国際的なコン センサスの形成にはより多くの時間が必要だろ う。一方、周辺技術は、多様な幹細胞腫(ES 細胞、 異なる作成手法の iPS 細胞、体性幹細胞等を含 む。)を対象とすることができる。ただその場合、 標準化戦略との連動が不可欠である14 3.3. 何がブラックボックス化の対象となるか ブラックボックス化とは、重要な内部機構を非開 示とすることで技術上の差別化を図る方法論で ある。一般論としては、その対象は、最終製品・ サービスのアーキテクチャと製造ノウハウ、最高 品質を達成するための技術、標準化戦略の検討に 不可欠となる基礎データなど、狭い領域でのデフ ァクト標準を獲得するうえで有用な技術・知識が 該当する15 例えば、細胞の品質評価にかかわるある評価指 標が、デジュリ標準やフォーラム標準の形成の過 程で除外されたとしても、その指標や評価のため のノウハウが競合よりも高い品質の達成に貢献 12 田中 (2008) 「iPS 細胞の科学、技術、イノベーション」, 日本知財学会誌 5(1) 13 例えば、ES 細胞の染色体への組み換え遺伝子導入技術、 遺伝子導入による疾患モデル系の開発など(Sakurai K., et al, Nucleic Acid Res. 2010 38(7):e96; doi:10.1093)

14 例えば、分化誘導の自動化のための機器開発の場合、 特定の幹細胞種のみでは市場が限定されてしまい、あらゆ る細胞種に対する汎用性がないと製品価値を最大化でき ない(垂直互換性)。また、安全性評価のための評価系や 評価技術は、あらゆる細胞腫に対して適用可能な単一基準 でなければ、規制として機能しない(水平互換性)。 15 本論に関しては、新宅純二郎・江藤学編著,「コンセン サス標準戦略」,日本経済新聞出版社(2008)等が詳しい。 し、かつそれが市場のニーズを満たすものである ならば、競争力のある有用な技術となる。また、 特に多能性幹細胞に関しては、現在産業界が模索 しているのは、大量調製を容易にするための技術 群である[Dr. S. Minger, GE Healthcare, 私信]。この ようなマニュファクチュアリングに依拠したい わゆる「下流技術(downstream technology)」は、一 貫したイノベーションを達成するためには不可 欠な革新であり、今後益々注目されるだろう。 4. 標準化プロセスの提案 以上の考察に基づき、幹細胞技術の標準化は、ま ず(i) 特定の製品・サービスが市場に受け入れら れる個別化(individualization)、次いで(ii) この製 品・サービスのコアとなる要素技術が標準として 確立される標準化(standardization)という2段階 でなされると、我々は考える(図 1) [7]。その理 由は、医薬品・医療産業は国や地域ごとにルール が定められる規制産業である点にある。医薬・医 療製品・サービスが流通するためには、各国の規 制当局が予め定める基準をクリアし、許認可を得 なければならない。許認可の要件とは、GMP で定 められる製造基準、有効性・安全性基準などがあ るが、これら要件のすべてが、その製品・サービ ス分野における質的標準に相当するからである。 個別化プロセスにおいては、イノベーションに 向けた製品・サービスがいくつか顕在化してきて いる。具体的には、ヒト ES/iPS 細胞由来心筋細胞 や神経細胞を用いた創薬基盤技術(毒性・安全性 試験系や標的探索のアッセイ系など)、組織幹細 胞を用いた自家再生医療(重度熱傷患者に対する 皮膚移植など)は、既に製品・サービスとして販 売されている。加えて、他の再生医療のアプリケ ーション(ES 細胞を用いた脊髄損傷の治療など)、 個の医療(personalized medicine)のための基盤技 術、ハイブリッド医療機器等(人工膵臓など)の 可能性も有望視されている [8]。これら製品・サ ービスは、各々異なる質的標準を形成する。 標準化プロセスは、個別化プロセスの後に生じ ると考える。これら製品・サービスが首尾よく許 認可され、市場において占有的なポジションを得 た暁には、本ビジネスのために最適化された幹細 胞株、有効性・安全性の保障技術等などのコア技 術が、元来の製品・サービスの拡販に伴いスピル オーバーすると考えられる。 ちなみに、日本では iPS 細胞の標準化が熱心に 検討されているが、「次世代 iPS 細胞」の出現16 可能性を想定すれば、細胞株の質的標準や互換性 16 例えば、Muse 細胞等が 2010 年に発表されている。

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標準を制定するには時期尚早と思われる。現在は、 多能性幹細胞に関しては、ヒト ES 細胞を中心に 評価項目の設定が進められているが、規格の制定 にあたっては、これらが用いられる製品・サービ スのアプリケーションをより理解する必要があ るだろう。現時点では、特定の細胞種に特化する ことがない、水平・垂直互換性の確保が図られる べきである。具体的には、異なる幹細胞種間の同 一・相違性の効率的な検査の手段、特定の多能性 幹細胞株において確立された技術の他細胞種へ の横展開などが挙げられる。 今後の展望としては、デジュリ標準の形成では、 他の医薬品・医療機器分野と同様、規制監督機関 の間の許認可・審査基準に関するハーモナイゼー ションが肝要となる。コンセンサス標準の形成で は、原義上、海外主要国の標準化推進主体、ユー ザとなる業界・企業との連携を密にする必要があ る。デファクト標準の形成では、世界最高品質の 達成を目指した、際限無きチャレンジが粛々と進 められるべきと考える。 参考文献

[1] The International Stem Cell Initiative (2007) Nature Biotech. 25, 803-816

[2] Loring, J. F., Rao, M. S. (2006) Stem Cells 24 (1): 145-150

[3] Kawakami, M., Sipp, D., Kato, K. (2010) Regulatory Impacts on Stem Cell Research in Japan, Cell Stem Cell 6 (5): 415-418

[4] Teece, D. J. (1986) Res. Policy 15(6): 285-305 [5] Swann G. M. P. (2000) The Economics of

Standardization: Final Report for Standards and Technical Regulations Directorate, University of Manchester, Manchester, UK

[6] Weiss, M. and Cargill, C. (1992) J. Am. Soc. Info. Sci. 43 (8): 559-565

[7] Sengoku, S., Sumikura K., Oki, T. (2010) Proceeding of The XXII ISPIM Conference [8] 横山周史, 仙石慎太郎, 産学官連携ジャーナ ル 2010 年 10 月号(印刷中) De facto 標準 コンセンサス標準 De jure 標準 質的標準 最終製品・サービス 特性(アーキテクチャ) 製品・サービスの主要コン ポーネント(幹細胞株等) 規制(GMP, 安全性等) ガイドライン(治験等) 互換性標準 (垂直) 十分な要求品質確保のプ ロセス技術 必要な要求品質確保のプ ロセス技術 規制・ガイドライン対応の プロセス技術 互換性標準 (水平) 十分な要求品質確保の評 価技術 必要な要求品質確保の評 価技術 規制・ガイドライン対応の 評価技術 表1 幹細胞技術の標準化フレームワーク案 図 1 標準化の推進プロセス案

参照

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