高 教師から大学教員へ
実践と研究の結びつきを目指して
川島 智幸
1 群馬県前橋市昭和町3-39-22 群馬大学大学院保 学研究科看護学講座 はじめに 私が群馬大学大学院保 学研究科に着任してから, 2年 が経過しました. 以前私はマレーシアとインドネシアにあ る学習塾で 2年間, その後栃木県内の 立高 で 25年間, 中学生や高 生に英語を教えていました. 前職と比べると 今の職場環境や仕事内容は大きく異なりますが, 私はその 両方を体験できたことに感謝しています. 私は最初から大 学教員を目指していた訳ではありません. 高 の教員に なって 8年目に, 宇都宮大学大学院に学ぶ機会を与えられ ました. その時偶然参加した国際応用言語学会の大会で, 研究としての言語教育の奥深さと可能性に触れ, 実践と研 究の両方に勤しむことができる大学教員になることを え るようになりました. とはいえ, クラス担任や部活動顧問 として慌ただしい毎日を送るうちに, そうした思いも徐々 に薄らいでいきました. そんな時, オーストラリア政府と 全国英語教育連合会から奨学金をもらい, 通信教育でオー ストラリアの大学院の修士課程に学ぶ機会が巡ってきまし た. 結局その後博士課程と合わせると, 私は 10年以上高 教師と大学院生という二足の草鞋を履く生活を送りまし た. 私は 25年の在職期間中に 4つの高 に勤務しましたが, その間私には生徒に伝えたいある思いがありました. それ は, 日本や外国の文化にもっと興味を持ち, 堂々と英語が える人間になってほしいという思いです. 日本は英語が 出来なくても生活に困りません. このため, 高 生にとっ て目の前の試験以外に英語を学ぶ目的を見つけることは簡 単ではありません. しかし教師には, 英語の向こう側に広 がる無限の可能性を生徒に知らせ, 将来役立つ道具として の英語という意識を植え付ける役割があると, 私は えま す. 高 生の思い描く世界は狭く, 英語=アメリカ・イギ リスの言葉」と片付ける傾向があります.彼らは,アメリカ 人やイギリス人の何倍も多くの人が世界で英語を ってい る状況を想像できません. そうした状況を目の当たりにし た私は, 生徒にアメリカやイギリス以外の地域に暮らす 人々にも興味を持たせ, 彼らが う自己表現の道具として の英語を意識させようと えました. いわゆる非母語話者 の存在をより身近に感じることで, 彼らの自信も高まると えたからです. 併せて文化への興味を高め, 異なる え 方を持つ者が思いを伝え合う道具として英語があること を, 生徒に意識させようとしました. また私は, 生徒が 4技 能の中で最も伸ばしたいと えていながら, 実際には最も 自信の持てない話す力に注目し, 英語を話す自信を高める 指導に重点を置くようになりました. その後高 での実践 を続けながら大学院で学ぶこととなった私は, 授業中の教 師の働きかけにより生徒の英語を話す自信や興味, 態度に 生じる質的・量的変化を研究テーマに選びました. そして この研究の方向性は今も変わっていません. ―235― 文献情報 投稿履歴: 受付 平成29年6月1日 採択 平成29年6月15日 論文別刷請求先: 川島智幸 〒371-8514 群馬県前橋市昭和町3-39-22 群馬大学大学院保 学研究科看護学講座 電話:027-220-8921 E-mail: tkawashima@gunma-u.ac.jp流 れ
2017;67:235∼236これまでの主な研究 非母語話者英語が英語を話す自信や態度に与える影響 非母語話者の話す英語を聞かせる実験授業を実施し, 質 問紙を用いて外国語 用不安や自信の変化を調べた. その 結果, 非母語話者英語を聞かせることで学習者の英語を話 す自信が高まることが確認された. 非母語話者英語の明瞭性 非母語話者を対象とした 32の明瞭性に関する先行研究 を, 話し手と聞き手が非母語話者か母語話者かにより 3つ の場合に けて比較し, 話す速度と慣れが英語の明瞭性に 及ぼす影響を調べた. その結果, 話す速度と慣れが英語の 明瞭性に及ぼす影響に関して一貫した結果は見られず, 十 に統一がされていない研究要因が原因の一つとして え られた. 非母語話者英語を授業で扱うことに対する英語教師の態度 アンケート調査を通して, 学習者を非母語話者英語に触 れさせることに対する教師の態度を調べた. 教師の出生 (日本人, 母語話者) と所属 (中学, 高 , 大学) により 析 し, ネイティブの英語教師よりも日本人教師の方が, また 中学教師より大学教員の方が, 非母語話者英語に触れさせ ることに否定的なことが かった. 高 生が教室で聞く英語話者の国別 析 高等学 用英語検定教科書を発行する全ての出版社に, 3回アンケート調査を行い, 教科書指導用 CD の吹込み者 の出身国別人数を調べた. また自治体国際化協会が英語指 導助手として誘致する外国人青年の国別人数を調査した. そしてこれらの人数の推移について, 学習指導要領の改訂 の影響などと併せて 察を加えた. 高 生の自文化に対する意識―英語での名前の言い方調査 を通して 日中韓 3カ国の高 生が, 話し手の国籍 (アメリカ人/ 同胞) や立場 (教師/生徒) の異なる状況で, 英語で名乗る 際の苗字と名前の順番を調査した. その結果, 3カ国とも半 数以上の者がアメリカ人高 生と話す際は名前を先にする が, 同時に中国人は姓名の順番を維持する傾向が強いこと, さらに日本人は状況に関わらず名前を先に言う傾向が強い という結果が出た. 中学 英語教科書の会話 析―発信型の英語の視点から 発信型の英語が中学 英語教科書にどのように具体化さ れているかを調べるために, 採択数の多い 4種類の中学 英語教科書について, 本文の会話を 析した. 発話者 (日本 人, 日本人以外の非母語話者, 母語話者) 毎に, 会話の量と 機能を比較した. 1種を除く 3種類の教科書において, 日本 人発話者が量的にも質的にも英語母語話者を上回っている ことが明らかになった. 今後に向けて 堂々と英語を話す身近なロールモデルの存在は, 英語学 習者の自信を高めるのに大いに役立つとされています. そ の意味で, 私が大学で臆することなく英語を うたくさん の同僚に出会ったことは新鮮な驚きであると同時に, そう した教員を身近に見ることができる学生は恵まれていると 感じました. 今後私はこうした身近なロールモデルをもっ と教育に役立てる方法を探りながら, 英語が える日本人 の育成に役立つ実践と研究を続けて行こうと えていま す. 実証に基づく実践と, 実践に役立つ研究を目指して. 高 教師から大学教員へ ―236―