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EVA支援ロボット実証実験REX-Jの知能化技術(<特集>宇宙に挑む人工知能技術)

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1.は じ め に

地球周回軌道上の巨大な有人実験施設である国際宇宙 ステーション(ISS:International Space Station)で は,宇宙環境を利用した実験・研究や観測,軌道上設備 を維持するための保守点検作業などを,限られた人数(常 時 6 名)の宇宙飛行士(クルー)で実施している.宇 宙船の外に出て行う船外作業(EVA:Extra-Vehicular Activity)は,デブリ衝突や減圧症発生の可能性がある 危険性が高い活動であり,作業時に着用する船外活動服 は体の可動範囲が制限されるため,船外活動におけるク ルーの作業性は地上および船内活動時と比べ著しく低下 する.また,地球の厚い大気や地球の磁界に守られた地 表とは異なり,高度 400 km の宇宙空間では,宇宙放射 線を十分に遮るものがないため,地表よりも多量の宇宙 放射線が降り注ぐ. 船内活動時では地上の約 100 倍,船外活動時ではさら にその約 30 倍もの被ばく線量があるとされており,ISS に長期滞在する宇宙飛行士にとっては,宇宙放射線によ る被ばくが大きな問題となる [有人 13]. これらの背景から,船外活動時におけるクルーの安全 性および作業性の向上に関する要求は高く,各国の宇宙 機関では,宇宙飛行士の作業支援を目的とした有人宇宙 活動支援ロボットの研究開発が進められている [Diftler 11, Swaim 94].宇宙航空研究開発機構(JAXA)では, 有人宇宙活動支援ロボットの実現に不可欠な移動機能に 対し,伸展式ロボットアームとテザーを用いて空間移動

EVA支援ロボット実証実験REX-Jの

知能化技術

AI Technologies of Robot Experiment on JEM(REX-J)

上田 敦史

宇宙航空研究開発機構研究開発本部

Atsushi Ueta Aerospace Research and Development Directorate, Japan Aerospace Exploration Agency. [email protected], http://robotics.jaxa.jp/

加藤 裕基

(同   上)

Hiroki Kato [email protected], http://robotics.jaxa.jp/

渡邊 恵佑

(同   上)

Keisuke Watanabe [email protected], http://robotics.jaxa.jp/

中西 洋喜

東京工業大学大学院理工学研究科機械宇宙システム専攻

Hiroki Nakanishi Dep. of Mechanical and Aerospace Engineering, Tokyo Institute of Technology. [email protected], http://www.3mech.titech.ac.jp/

西田 信一郎

鳥取大学大学院工学研究科機械宇宙工学専攻

Shin-Ichiro Nishida Dep. of Mechanical and Aerospace Engineering, Tottori University.

[email protected], http://akebia.jim.tottori-u.ac.jp/

小田 光茂

東京工業大学大学院理工学研究科機械宇宙システム専攻

Mitsushige Oda Dep. of Mechanical and Aerospace Engineering, Tokyo Institute of Technology. [email protected], http://www.3mech.titech.ac.jp/

Keywords:

astronaut support robot, EVA, tether-based locomotion, international space station. 「宇宙に挑む人工知能技術」

(2)

を実現する方式を提案し [Oda 09],本提案方式の宇宙 実証および宇宙環境における特性把握を目的とした実 験 REX-J(Robot Experiment on JEM)を ISS 日本実 験棟(JEM:Japanese Experiment Module)船外実験 プラットフォームで実施した.図 1 に示す実証実験機と して開発したロボットシステム [Oda 10] は 2012 年 7 月 21日に打ち上げられ,約 8 か月間にわたりさまざまな 実験を実施し,世界初となる伸展式ロボットアームとテ ザーを用いた空間移動の実証および本移動方式の基礎的 な特性データの取得に成功した [Oda 13]. 本実験では,すべての実験を地上からの遠隔操作で行 う計画としたため,ロボットシステムに高度な知能化・ 自動化技術を搭載していない.しかし,書換え可能なス トアドコマンドによる連続コマンド自動実行機能や,地 上運用システム上に構築したロボットモデルにより軌道 上にあるロボット状態を予測表示する機能など,「広義」 の知能化・自動化技術を部分的ではあるが用いている. 有人宇宙活動支援ロボットを実用化するためには,ク ルーの手を煩わせずに作業支援を行うための自律作業機 能,および危険事象を自動的に回避するなどの自律安全 機能などが要求され,それらの機能を実現するために知 能化・自動化技術が必要となる.ただし,ISS ではクルー の生命および ISS 本体に対して脅威となる危険事象を発 生させないため,厳しい安全管理要求が導入されており, 知能化・自動化技術を適用したロボットの制御システム が暴走・誤動作が危険事象を引き起こすことがないよう ISS特有の厳しい安全要求が課される [酒井 03].この安 全要求に適合させるための計算機・指令経路の冗長化, また適合性を検証するための試験・解析を実施するため, システム規模や検証コストが肥大化することになる. 本稿では,まず 2章でREX-Jのミッション概要,および 3章でミッションを実施するために開発した REX-J の システムと実装した知能化・自動化技術について紹介す る.続いて,4 章で ISS での実証実験の結果と,知能化・ 自動化技術を実際の運用で用いた結果について説明す る.そして,最後に実証実験の結果と有人宇宙活動支援 ロボットの実用化に際して必要となる知能化・自動化技 術を踏まえた今後の課題について述べる.

2.REX-J のミッション

有人宇宙活動支援ロボットには,軌道上の構造物上を 広範囲に移動する機能が必要となる.JAXA が提案する 「伸展式アームとテザーを利用した移動方式」は,伸展 式アームを用いてテザー(紐)を周囲の構造物に取り付 けて,テザーの長さを制御することで空間内を移動する ものである(図 2 は軌道上構造物組立への適用例).本 移動方式は,移動に要する機構が小型・軽量かつシンプ ルで,広範囲の移動が可能という利点を有しており,さ まざまな応用が期待できる.有人宇宙活動支援ロボット の実現に向けて,本移動方式を宇宙実証し宇宙環境にお ける特性を把握することが REX-J のミッションである. 本ミッションのために開発したロボットシステムは, ポート共有実験装置 MCE(Multi-mission Consolidated Equipment)に搭載された状態で,H-ⅡB ロケット, HTV「こうのとり」 3 号機で ISS に搬送され,宇宙飛行 士が操作する宇宙ステーションリモートマニピュレータ と「きぼう」ロボットアームにより,JEM 船外実験プラッ トフォームに取り付けられた(図 3).その後,伸展式 ロボットアームの動作特性,フックのハンドレールへの 取付け機能,テザー制御によるロボット移動機能などを 確認するためのさまざまな実験を実施し,地上の重力環 境下では得ることが難しい「超柔軟」なテザー移動型ロ ボットの基礎的な特性データを取得した.ミッション提 案から全実験完了までの経緯を表 1 に示す.

3. REX-J システム

REX-Jシステムは,ISS に打ち上げたロボットシス テムと,ロボットシステムを地上から遠隔操作するため の地上運用システムの二つのシステムで構成される.ロ ボットシステムは,ISS/JEM 船外実験プラットフォー 図 2 軌道上構造物組立を行うテザー移動ロボット(イメージ) 図 3 JEM 船外実験プラットフォーム (画像左下の箱状装置が REX-J 含む 五つのミッ ション機器を混載する MCE)(C)JAXA/NASA

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ムに取り付けられた MCE の内部に搭載される.地上運 用システムは,JAXA 筑波宇宙センターにある宇宙ス テーション運用棟のユーザ運用エリア(オペレーショ ンルーム)内に設置される.ロボットシステムと地上運 用システム間のデータ通信は,図 4 に示す通信経路で 行われる.静止軌道上にある NASA のデータ中継衛星 (TDRS:Tracking and Data Relay Satellite)群を介し た通信経路となっているため,地上運用システムとロ ボットシステム間の通信は安定して長く確保できる.以 降で,REX-J のロボットシステムと地上運用システムに ついて詳述する. 3・1 ロボットシステム ロボットシステムは,ロボット本体と,モニタ用カメ ラや実験用ハンドレールなどを設置したロボットベース 部で構成される(図 5).搭載・実験スペースが制限さ れているため,ロボットの機能を最小限にしながらも目 的とする実証・実験が可能な構成とした. ロボット本体は,上下段の二段構成とし,打上げ時の 振動環境に耐えるための本体ロック機構でロボットベー ス部(ベースプレート)に固定されているが,軌道上 ではロック機構を解除しロボット本体はベースプレート から浮遊した状態となる.本体上段部には,0 mm から 1 300 mmまで長さが可変な伸展式ロボットアーム,お よびアーム先端には 2 軸の手首機構,2 本指のロボット ハンド,二つの手先カメラを搭載し,本体内部にはアー ムの伸展長さを計測するためのカメラを搭載している. 本体下段部には,フック付きのテザーリール機構とモー タドライバなどを搭載している.ロボットベース部は, モニタ用カメラ,実験用ハンドレール,取付け点を固定 したテザーリール機構 二つと,ロボット制御ユニットな どを搭載している.軌道上では,本体下段に搭載したフッ ク付きテザーを伸展式ロボットアームとハンドを遠隔操 作してベース部固定のハンドレールに取り付けた後,3 本のテザー長を制御してロボット本体の面内における位 置・姿勢を一意に決めて移動することができる.表 2 に REX-Jの主要諸元を示す. 3・2 地上運用システム 地上運用システムは,コマンド処理に係る機能を実装 した計算機(GSE-1:Ground Support Equipment)と 図 4 ロボットシステムと地上運用システム間のデータ通信経路 図 5 REX-J ロボットシステム(CAD モデル) 年・月 ミッション経緯 2007年 2 月 JEM船外実験プラットフォーム 2 期利用 ミッション公募に REX-J を提案,ロボッ トシステムの概念設計に着手 2007年 12 月 JEM船外実験プラットフォームでの 2 期 利用ミッションに採択 2008年 11 月 システム要求審査,システム定義審査を 経て開発フェーズに移行 2009年 10 月 詳細設計審査を経てプロトフライトモデ ル(PFM)の組立を開始 2010年 11 月 PFM試験を完了しロボットシステムを上 位システム(MCE)に引渡し 2011年 10 月 REX-Jシステム(ロボットシステムと地 上運用システム)の開発を完了 2012年 7 月 ロボットシステムを H-ⅡB ロケットで打 ち上げ HTV で ISS へ搬送 2013年 5 月 計画した全実験(エクストラサクセス達 成)および追加した発展実験を完了 表 1 REX-J ミッション経緯 項目 仕様 サイズ 全体 1 150 mm × 700 mm × 365 mm (本体 460 mm × 300 mm × 250 mm) 質量 全体 83 kg(本体 27 kg) 消費電力 最大 62 W 自由度 (DoF) 合計 10 DoF(以下,各要素の自由度) ● 伸展式ロボットアーム:2 DoFロボットハンド:2 DoF 手首機構:2 DoF テザーリール機構:1 × 3 DoF 本体回転機構:1 DoF 表 2 搭載ロボットシステム諸元

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テレメトリ処理に係る機能を実装した計算機(GSE-2), カメラデータ処理に係る機能を実装した計算機(GSE-3) の三つの計算機で構成される.REX-J 地上運用システム と MCE 地上運用システム(MCE-GSE)はハブを介し て LAN で接続される. ISSでの実験運用は,運用手順書(ODF:Operations Data File)に沿って実施される.ODF には,実験目的 を達成するために必要なコマンド列,およびコマンド実 行後に期待される受信データ(テレメトリ)の値が記載 されている.REX-J の運用では,ODF と対応する運用 手順ファイルを GSE-1 で読み込み,実験状況に応じて 一つまたは複数のコマンドをまとめたコマンド列ファイ ルを生成し MCE-GSE に送信する.そして,MCE-GSE で ODF に記載されたコマンドとの整合性を確認し,コ マンドを一つずつ軌道上のロボットシステムに送信す る.その後,受信したテレメトリが期待値であることを 確認し,次の手順に移行する.GSE-2 では,軌道上ロボッ トから 1 Hz で送信されるテレメトリ(1 662 Byte のデー タ)を MCE-GSE を介して受信し,工学値変換しモニ タへのデータ表示,およびデータ保存を行う.GSE-3 で は,軌道上よりカメラ画像を約 15 fps のフレームレート で受信し,モニタへの画像表示およびデータ保存を行う. 3・3 知能化・自動化技術 ISSでの実験運用は,データ中継衛星群を用いること で通信時間を長く確保できる(全 53 日の REX-J の運用 時間における通信可能時間率は 71%であった).また, REX-Jは移動方式の実証および特性把握のための実証 実験データ取得を主な目的としたミッションである.そ のため,確実に実験を遂行しデータを取得(ミッション 達成)できるように,全実験を地上からの遠隔操作によ りロボットの状態を逐一確認しながら運用する計画とし た.しかし,書換え可能なマクロコマンドによる連続コ マンド自動実行機能や,地上運用システム上に構築し たロボットモデルにより軌道上ロボットの状態を予測シ ミュレートする機能など,「広義」の知能化・自動化技 術を部分的ではあるが用いている.以下で REX-J シス テムに搭載した知能化・自動化技術について概説する. § 1 マクロコマンド機能 REX-Jの運用は,地上から単コマンド(SMC:Serial Magnitude Command)を送信することで実施される. ロボットの基本動作であるアームの伸展・収納動作やハ ンド指の開閉動作などは,ドライバ起動コマンド,目標 位置・速度などのパラメータ設定コマンドといった複数 の SMC を送信して実行される.システムには,動作に 必要なコマンドを一つずつ送信して実行する機能に加え て,複数のコマンドを一度のコマンドで自動実行できる マクロ(ストアド)コマンド機能が実装されている.本 機能では,基本動作の実行に必要なコマンド群をマクロ コマンドとして搭載メモリに登録することで,動作量な どのパラメータの上書きと実行コマンドのみで基本動作 が実現できる.REX-J の実験では,1 セット最大 255 コ マンドを 16 セット分登録できるマクロコマンドを組み 合わせて,さまざまな動作を実施した.また,マクロコ マンドに演算命令・比較命令・条件分岐命令を含めるこ とで,取得したセンサ値および演算処理結果に応じた自 律的な動作を実現できる機能としている. § 2 ロボットモデルによる予測シミュレート機能 ISSでの実験運用は,通信距離の長さに加え,データ 中継衛星などの複数ノードで通信ネットワークが形成さ れているため各ノードでのデータ処理時間が積算された 通信遅延がある.また,ISS の運用規約上,コマンド送 信前にオペレータが逐一確認する必要がある.この通信 遅延と確認時間を含めると,REX-J 地上運用システム から送信したコマンドの応答を地上で確認するまでに約 20秒の時間遅れが発生する.この時間遅れがあるため, 動作中のロボットの状態に応じて動作量を微調整するこ とが困難なことはもちろん,停止指令をリアルタイムに 実行することもできない(動作を始めてから停止コマン ドが伝わるまでロボットは動作を継続する).このため, ロボットや機器が壁面に衝突し故障するリスクがある. そこで,コマンド送信前に,GSE-1 上に構築したロボッ トモデルを用いて,コマンド実行後のロボット状態を予 測シミュレートし,可視化したロボット状態および衝突 判定結果をオペレータに提示し,意図しないロボットの 動作を防ぐことができる機能を用いた.また,ロボット モデルと実機には誤差(モデル化誤差)があるが,テレ メトリをロボットモデルに逐次反映し更新することでモ デル化誤差の蓄積を防ぐ設計とした. なお,マクロコマンド機能や予測シミュレート機能な どを用いて軌道上のロボットを地上から半自動的に遠隔 制御する技術は 1997 年に打ち上げられた技術試験衛星 Ⅶ型(おりひめ,ひこぼし)で開発・検証されていたが [Oda 00],宇宙ステーションに搭載された機器を地上か らの指令により直接操作する場合には,送信するコマン ドを逐一確認する必要があり,技術試験衛星 Ⅶ型の半自 動の遠隔制御に係る技術は部分的にしか利用できなかっ 図 6 ロボットモデルによる予測シミュレーションの例

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た. § 3 その他の知能化・自動化機能 宇宙システムに必要とされる人工知能には以下三つの 方向がある [中須賀 06]. ● 宇宙システムに対する自律化・知能化のための AI ● 地上オペレータの意思決定支援のための AI ● 開発(計画・設計・製造・試験)支援のための AI 上記を広義に解釈すると,マクロコマンド機能が宇宙 システムに対する自律化・知能化のための AI,ロボッ トモデルによる予測シミュレート機能は地上オペレータ の意思決定支援のための AI に当てはまる.ロボットシ ステムには,ほかにも,各部品の電流値監視,ドライ バ・カメラの計算機との応答状況監視,ECC メモリ機 能(Error Check and Correct)を用いた 2 bit エラー監 視(1 bit エラーは自動訂正)などの異常監視機能があり, ロボットのステータスを監視し異常があれば異常処置 (該当部の電源遮断)と異常発生情報として地上系にテ レメトリとして通知することができる.また,地上運用 システムにはパラメータの誤設定を事前に防ぐためのコ マンド文法確認機能や,各状態データをリミットチェッ クで識別した異常データをシステム上に強調表示するこ とで,オペレータの状況理解・判断を支援する機能を有 している.

4. 国際宇宙ステーションでの実証実験

打上げ後の初期機能確認(チェックアウト)として, 電気系や各機構の基本機能・動作の健全性を確認した後, 伸展式ロボットアームとテザーを用いた移動方式の宇宙 実証および宇宙環境における特性把握を目的としたさま ざまな実験を実施した.本ミッションにおける主な実験 として,伸展式ロボットアームの機能実証および特性把 握のための実験と,テザー制御による移動方式の実証実 験における結果の概要を以降で示す. 4・1 伸展式ロボットアームの動作実証および特性把握 伸展式ロボットアームの微小重力下での動作実証(図 7)および動作特性を把握するために,アームおよび手 首動作時における振動特性,先端位置決め精度を計測し た.ロボット本体上段搭載カメラによりアーム先端部の 画像を取得し,アーム先端部に取り付けたマーカの座標 を画像処理で抽出することで,先端部の変位・ねじれを 計測した.最大 950 mm までの繰返し伸展・収縮動作に おいて,伸展軸方向の位置決め精度は± 0.2 mm,伸展 軸垂直面内の位置決め精度は,最大 9 mm の変位(図 8) および伸展軸回りに最大 15 deg のねじれ(図 9)を計 測した.また,アーム伸展状態から先端の手首を動作さ せた際の反動により発生する振動を計測し,アーム長が 小さいときは高剛性,大きいときは低剛性となることを 確認した [Hirano 14].これらの動作特性の把握に加え て,ハンドを用いたフック把持,ハンドレールへの取付け ・取外し作業,手先カメラによる MCE の外壁点検作業 などを実施したことで,作業に十分な剛性および先端位 置決め精度を伸展式アームがもつことを実証した [Ueta 13]. 4・2 テザー制御による移動方式の実証 伸展式ロボットアームを用いてテザーフックをベース プレート上の離れた位置にあるハンドレールに取付け・ 取外し実験を行い,伸展式アームによるテザーの取付け 機能を確認した(図 10).次に,テザー制御による本体 移動実験を実施した(図 11).テザー制御による本体移 動方式としては,ロボット本体を剛体としテザーが張っ た状態と仮定して構築した動力学モデルに対して,まず 目標位置における力とモーメントがつり合う姿勢を反復 図 7 伸展式ロボットアームの実験(上部:CG,下部:実画像) 図 9 アーム伸展動作時におけるアーム先端部姿勢の計測結果 図 8 アーム伸展動作時におけるアーム先端部変位の計測結果

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計算により導出する.次に,導出した姿勢におけるテザー 長を目標値として 3 本のテザーを協調制御させることで ロボット本体を移動させる.軌道上では,100 mm×40 mmの範囲内の目標 3 地点を 3 周させる繰返し移動実験 を実施し,平均 3.48 mm・標準偏差 2.63 mm の位置決 め精度となることを確認した(図 12).テザーの取付け 機能,およびテザー制御による本体移動を高い位置決め 精度で実現できたことから,テザーを用いたロボットの 空間移動手法が有効であるといえる. 4・3 実運用を通した知能化・自動化技術の考察 初期機能確認時以外は,基本動作用のコマンド列を登 録したマクロコマンドを組み合わせて実験を実施した. ISSの通信リソースを利用するため運用時間に制約があ る中で,本機能は実験時間の短縮に大きく寄与した.マ クロコマンドには,条件分岐コマンドなどを含めること で自律的な動作・作業を行う機能を実装していたが,上 述したとおりオペレータの判断に基づく遠隔操作により 全実験を実施した.ただし,過電流などの異常検知によ る電源遮断といった安全化に必要な判断機能は用いた. 本実験におけるロボットによる動作の大半は,移動・ 把持・操作といった接触,またその可能性があり,異常 時であってもリアルタイムに回避指令を実行することが 困難となる通信時間遅れがある.このため,コマンド送 信前にロボットの状態を予測することができる「ロボッ トモデルによる予測シミュレート機能」は効果的であっ た.また,基本的には搭載カメラの映像(限られた視野 角の映像)で状況を把握しながら実験を進めたが,ロボッ トモデルで任意視点からの映像を作成しオペレータに提 示することで,状況理解を高めて判断を支援することが できた.また,本実験ではロボットとの通信可能時間内 において GSE 上で素早くコマンドを書き換える機会が 少なからずあったが,コマンド文法確認機能により誤コ マンド送信を防ぐことができた.また,リミットチェッ クにより異常時には各状態量を強調表示させる機能も状 況理解・判断に役立っていた. 上記の機能は,ロボットシステムを遠隔操作する際の 基本的な機能である.しかし,実験時間の短縮およびオ ペレータによる状況判断の支援などに寄与したこれらの 知能化・自動化技術は,今回のミッション達成に大きく 貢献したといえる.

5.お わ り に

本稿は,有人支援を目的として ISS で実施した,伸展 式アームとテザーを用いた移動技術の実証実験「REX-J」 を,知能化技術・自動化技術の観点から解説した(結果 的には,REX-J ミッションの紹介がメインとなった). REX-Jでは,約 8 か月間にわたる軌道上での実験より, 世界初となる伸展式アームとテザーを用いた空間移動の 実証,および本移動方式に係る基礎的な特性データの取 得に成功した.本実験では,マクロコマンド機能やロボッ トモデルによる予測シミュレート機能などの「広義」の 知能化・自動化技術が,ミッション達成に大きく貢献し たと考えられる. 一方で,システム側での自動的な異常判断をあえて 行わない設定にして運用した実験が多かった.これは, 「フックの把持・操作」,「ロボット本体浮遊状態でのテ ザーとアームの協調制御」,「フックの取付け・取外し」 などのロボットにとっては複雑な作業を,運用チームの 判断により動作パラメータ・動作手順・動作時間を柔軟 に調整できるようにしたためである.このように運用者 側の自由度を高めたことが,「移動方式の実証」および「特 性データの取得」という本実験のミッションを達成でき た要因ともいえる.ただし,クルーまたは地上運用者が リアルタイムでロボットを常時監視することは困難であ 図 10 テザーフックの取付け実験(上部:CG,下部:実画像) 図 11 テザー制御による移動実験(上部:CG,下部:実画像) 図 12 繰返し移動実験による移動制御精度の評価結果

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るため,有人宇宙活動支援ロボットを実用化するために は,クルーの手を煩わさない程度の自律作業機能,危険 事象を自動回避または安全状態へ移行するなどの自律安 全機能が要求され,要求機能の実現には高度な知能化・ 自動化技術が必要になると考えられる. 有人宇宙活動支援ロボットだけでなく,今後の宇宙 ミッションに対する高度化・複雑化の要求により,宇宙 システムを知能化・自律化することが要求される.ただ し,ミッションの内容や,通信環境や要求される信頼性・ 開発コストといったミッションの制約状況を考慮し,シ ステムに要求される機能に自律化技術と遠隔操作技術を いかに配分して,実現性およびミッション達成確率の高 いシステムを実現することが重要になると考えられる. 当面,REX-J 型ロボットを実用化するために知能化技術・ 自動化技術を適用する際の課題としては,今回の軌道上 実験で得たロボットの特性データ・動作手順などの知見 をモデル化または定式化することがあげられる.

◇ 参 考 文 献 ◇

[Diftler 11] Diftler, M. A., Mehling, J. S., Abdallah, M. E., Rad-ford, N. A., Bridgwater, L. B., Sanders, A. M., Askew, R. S., Linn, D. M., Yamokoski, J. D., Permenter, F. A., Hargrave, B. K., Platt, R., Savely, R. T. and Ambrose, R. O.: Robonaut 2-The first humanoid robot in space, Proc. of Robotics and

Automation(ICRA),2011 IEEE Int. Conf. pp. 2178-2183(2011) [Hirano 14] Hirano, D., Kobayashi, A., Nagaoka, K., Abiko, S., Yoshida, K., Ueta, A., Watanabe, K., Kato, H., Nakanishi, H., Oda, M., Yoshii, M., Suzuki, S. and Nishida, S.: Modeling and analysis of tether-based mobile robot based on flight experiments, Proc. 2014 IEEE Aerospace Conference(2014) [中須賀 06] 中須賀真一:人工知能は宇宙開発・宇宙利用に貢献で

きるか?(特集「宇宙開発と AI」),人工知能学会誌,Vol. 21, No. 1, pp. 2-13(2006)

[Oda 00] Oda, M.: Experiences and lessons learned from the ETS-VII robot satellite, Proc. Robotics and Automation, 2000.

Proc. ICRA00, IEEE Int. Conference, Vol. 1, pp. 914-919(2000) [Oda 09] Oda, M., Sawada, H., M.Yoshii, Konoue, K., Kato, H.,

Suzuki, S., Hagiwara, Y. and Ueno, T.: Proposal of a tethered space walking robot-REX-J: Robot experiment on JEM-, Trans.

of the Japanese Society for Artificial Intelligence, Aerospace Technology Japan, Vol. 7, ists26, pp. Td_7-Td_12 (2009) [Oda 10] Oda, M., Yoshii, M., Kato, H., Suzuki, S., Hagiwara, Y.

and Ueno, T.: Development of a tether based space walking robot to be tested on ISS/KIBO, Trans. of the Japanese Society

for Artificial Intelligence, Aerospace Technology Japan, Vol. 8,

ists27, pp. To_4_19-To_4_24(2010)

[Oda 13] Oda, M., Ueta, A., Nishida, S., Kato, H., Nakanishi, H., Watanabe, K., Yoshii, M., Suzuki, S. and Yamazumi, M.: Mission results of the REX-J mission conducted on the japanese experiment module to realize the astronaut support robots, Proc. 64th Int. Astronautical Congress(2013) [酒井 03] 酒井純一,今井雪雄,吉田秀一:宇宙ステーション特有

の設計(4)フライトソフトウェア設計,日本航空宇宙学会誌, Vol. 51, No. 591, pp. 118-125(2003)

[Swaim 94] Swaim, P. L., Thompson, C. J. and Campbell, P. D.: The Charlotte(TM)intra-vehicular robot, Proc. Artificial

Intelligence, Robotics, and Automation for Space Symposium,

Vol. 1, pp. 157-162(1994)

[Ueta 13] Ueta, A., Nishida, S., Kato, H., Watanabe, K., Hoshi, A., Oda, M., Yoshii, M., Suzuki, S. and Nakanishi, H.: On-orbit experimental results of the REX-J extendable robotic

manipulator, Proc. 64th Int. Astronautical Congress(2013) [有人 13] 有人サポート委員会宇宙放射線被ばく管理分科会:国際 放射線防護委員会 2007 年勧告(ICRP Publication103)の「国 際宇宙ステーション搭乗宇宙飛行士放射線被ばく管理規程」へ の取入れに係る検討結果報告書,独立行政法人宇宙航空研究開 発機構(2013) 2014年 5 月 29 日 受理 渡邊 恵佑 2011年東京大学大学院情報理工学系研究科知能機 械情報学専攻博士課程修了.博士(情報理工学). 2012年より(独)宇宙航空研究開発機構研究開発 本部未踏技術研究センターロボティクス研究グルー プにおいて宇宙航空プロジェクト研究員.宇宙ロボ ティクスの研究に従事するほか,REX-J の運用に参 加.日本ロボット学会会員. 加藤 裕基

2005年 Carnegie Mellon University 修士課程修了. DARPA Grand Challengeに 参 加(2003 ~ 05). 2007年より(独)宇宙航空研究開発機構研究開発本 部ロボティクス研究グループ(現)に所属し,REX-J の開発などに従事.日本ロボット学会会員. 中西 洋喜 2003年東北大学大学院工学研究科航空宇宙工学専攻 修了.同年,東北大学助手.2010年論文により博士(工 学).同年,同助教.同年,(独)宇宙航空研究開発 機構常勤招聘研究員,2013 年より東京工業大学助教. 専門は宇宙ロボットの力学・制御.REX-J の開発・ 運用に従事する.日本機械学会,日本ロボット学会, 日本航空宇宙学会各会員. 小田 光茂 1977年宇宙開発事業団入社.人工衛星の姿勢制御 技術および,宇宙ロボットの研究開発に従事.衛星 搭載ロボットの地上からの遠隔制御技術を実証した ETS-Ⅶ計画を提案し,開発・実験を担当.伸展式 アームとテザーを用いて移動する宇宙ロボットを発 案し,2007 年に REX-J を提案.PI として REX-J の開発をリードした.2012 年 4 月より東京工業大 学大学院理工学研究科教授. 西田 信一郎 1980年京都大学大学院修士課程修了.博士(工学). 1980年 よ り,( 株 ) 東 芝 勤 務.JEMRMS,ETS-Ⅶなどの宇宙ロボットの開発を担当.2002 年より (独)航空宇宙技術研究所(後に改組により JAXA). 2013年 8 月より鳥取大学大学院工学研究科教授, 現在に至る.ロボットの計測・制御に関する研究を 行っている.日本機械学会,日本航空宇宙学会,日 本ロボット学会各会員. 上田 敦史 2009年東京大学大学院工学系研究科航空宇宙工学専 攻修士課程修了.2009 年より(独)宇宙航空研究開 発機構研究開発本部未踏技術研究センターロボティ クス研究グループにおいて開発員.REX-J の開発・ 運用,および有人支援ロボットの研究開発などに従 事.日本ロボット学会会員.

著 者 紹 介

図 1 REX-J ロボットシステム(プロトフライトモデル)
図 4 ロボットシステムと地上運用システム間のデータ通信経路 図 5 REX-J ロボットシステム(CAD モデル)年・月ミッション経緯2007年2月JEM船外実験プラットフォーム  2期利用ミッション公募にREX-Jを提案,ロボットシステムの概念設計に着手2007年12月JEM船外実験プラットフォームでの2期利用ミッションに採択2008年11月システム要求審査,システム定義審査を経て開発フェーズに移行2009年10月詳細設計審査を経てプロトフライトモデル(PFM)の組立を開始2010年11月PFM試験を完

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