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教職大学院における教育実践の課題に関する一考察 : 北海道教育大学教職大学院での授業実践をもとに

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(1)Title. 教職大学院における教育実践の課題に関する一考察 : 北海道教育大学教 職大学院での授業実践をもとに. Author(s). 藤森, 宏明. Citation. 北海道教育大学大学院高度教職実践専攻研究紀要 : 教職大学院研究紀要 , 5: 1-14. Issue Date. 2015-03. URL. http://s-ir.sap.hokkyodai.ac.jp/dspace/handle/123456789/7657. Rights. Hokkaido University of Education.

(2) 北海道教育大学大学院高度教職実践専攻研究紀要 第5号. 教職大学院における教育実践の課題に関する一考察 北海道教育大学教職大学院での授業実践をもとに. 藤 森 宏 明*. 1 課題設定. 本稿の目的は、教職大学院の理念を教育実践という形で具現化する際、どのような課題が生じてい るかについて、筆者の行う授業実践をもとに整理することにある。 2008年度に教職大学院が設立されはや7年が経過した。教職大学院制度は、これまでの大学院での. 教員養成が研究に偏りすぎたとの反省から、「高度専門職業人養成」としての機能を重点に置き制度 化したものである。例えば(訓多士論文を課さない②実習を10単位以上課す③スタッフの4割以上を実 務家教員とする、などといった点は、これまでの修士課程の教育課程とは全く異なった点である。こ. のように、従来とは大きく異なる制度でのスタートだったため、各教職大学院は試行錯誤の連続であ り、ようやく軌道に乗り始めたところといってもよいだろう。. だが、教育改革のスピードは速い。設立からわずか4年後の2012年8月の中央教育審議会答申「教 職生活の全体を通じた教員の資質能力の総合的な向上方策について」では、「教職生活全体を通じて 学び続ける教員を継続的に支援するための一体的な改革」の提言がなされ、教職大学院の成果を認め、 その拡充を提案しつつも、教育課程および教員体制の見直しを提案した1。そして国立教員養成系大 学では、2013年12月に公表された「ミッションの再定義結果」に基づく体制の整備に追われることに なるが、2015年度から数年間の間に、これまでの25校からさらに20校の教職大学院の開設が計画され ることとなるのは、この提言の影響を受けているものと考えられる。 さて、北海道教育大学教職大学院(以下「本院」と略記)は開設以来、教育課程の改善を少しずつ. 行ってきた。そして2015年度入学者からのコース再編2を皮切りに、ここ数年の間に大きな改革を進 めることが予想される。だがここで確認すべき重要な点がある。それは、これまでの成果を反故にす るような改革は、非常に効率が悪いということである。本院には本院特有の成果と課題が存在する。. この点をふまえた改革が必要である。確かに本院の改善の方向性の根拠として、これまで学内各種委 員会から上がってきた提案や認証評価報告書などもあるが、学術的な視点での本院ならではの教育実 践の課題の整理も必要であが。. この意味において本紀要はその役割を果たしてきた。その中でも筆者はこれまで、本院の教職大学 院における学び(玉井・前田・藤森(2011))、修了研究(藤森(2012))、実習(藤森(2013))につい ては検討してきた。だが授業実践については、取り上げてこなかった。後述するが本院は、授業にお いて「2コマ連続の180分授業」「双方向遠隔授業システム」などといった、他の教職大学院とは明ら かに異なる特色を持っている。そしてこれまでも本院の授業実践に関する先行研究には、福井(2011) や水上・藤川(2014)があるものの、これは特に授業の「内容」に着目した研究であり、本院特有の. *1北海道教育大学教職大学院(大学院教育学研究科高度教職実践専攻)旭川.

(3) 藤 森 宏 明. 教育環境も考慮し行った研究ではない。そこで、本稿ではこのことも念頭に置きつつ筆者の授業実践 をもとに、どのような成果と課題が存在するかを明らかにしていく。. 本稿の構成は以下のとおりである。まず第2節で本院の教育課程と授業形態の概要を紹介し筆者の 担当授業の位置づけを明らかにするとともに、検討すべき点を示す。そして第3節で筆者の行ってい. る授業実践の概要(授業の体系、教育方法の概要)を示す。そして第4節で、実践の検討から、教職 大学院の理念を具現化する際の課題を明らかにしていく。. 2 北海道教育大学教職大学院における筆者の担当授業の位置づけと授業環境の特徴 本節では、教職大学院制度の掲げる理念を本院の授業に具現化する際の方向性について整理する(. (1)北海道教育大学教職大学院の教育課程からみた筆者の担当授業の位置づけ わが国における教員養成政策において、大学院での高度専門職業人養成のための抜本的な制度改革. は、教職大学院が初めてといってよいだろう。そのためか、中教審答申(2006)『今後の教員養成・ 免許制度の在り方について』(以下「2006年答申」と略記)では、教職大学院の開設に閲し、5つの 基本方針4を骨子として、教育課程の体系はもちろん、補足資料(カリキュラムイメージ)も加えつ つ教育方法の具体例まで提案されている。すなわち「理論と実践の融合を強く意識した新しい教育方 法を積極的に開発・導入すること」とした上で、事例研究・模擬授業・授業観察・分析、ロールプレ イング等の教育方法を例にあげていが。 本院の教育課程もこの答申をベースに作られている6。すなわち、他の教職大学院と同様、「共通科 目」「選択科目」「学校における実習」そして「共通演習(本院の場合は「マイオリジナルブック(MOB)」. により構成されている。「共通科目」は、①教育課程の編成・実施、②教科等の実践的指導方法、③ 生徒指導・教育相談④学級経営・学校経営、⑤学校数育と教員の在り方⑥特別支援教育の6領域で編. 成され、全部で12科目である7。これらをすべての院生が共通に1年次に履修する。これを土台として、 2年次でより専門的な知識・技能を学ぶため「選択科目」を履修すが。 そして、学校課題を中心に据えて、その解決を図るような試行的実践と検証を行わせる「学校にお ける実習」を現職・ストレートが別々に履修し、修了時には大学院で学んだことの集大成としての「共. 通演習」(マイオリジナルブック(MOB))を作成する。また、選択科目の中に選択必修「事例研究」 (ゼミ)を設定し、指導教員の研究室で少人数での発表と討論を軸にした各自の研究主題に深く根ざ. した論究の場を設けている9。 さて、本稿の関心は教職大学院における授業実践の課題だが、取り上げる授業実践は、筆者が主担 当で行っている共通科目「『生きる力』を育む学級・学年経営の実際と課題」(2単位)すなわち「学 級経営」に関する授業である。本院で、「授業」の形態で「学級経営」を中心に扱う科目は共通科目 ではこの科目のみである。また、「学級経営・学校経営分野」の研究者教員が主担当であるのも本院. の特徴である10。学級経営の授業は藤森(2014)でも述べたように、その課題の複雑性を踏まえると 総合的な観点で授業を進めることが望ましい。加えて、答申でも述べられているような教育方法をふ. まえつつ授業実践を行うことが求められている。このため、主担当の筆者は授業全体の設計とコーディ ネーター的な立ち位置で、(後述するように)札幌・釧路の副担当の教員と3名での協働体制で授業 を行っている。.

(4) 教職大学院における教育実践の課題に関する一考察 (2)教育環境の特徴. 次に、本院の授業における教育環境の特徴を紹介しよう。本院は、授業は全て現職とストレートマ スターの合同授業である。また研究者教員と実務家教員とのティーム・ティーチング(T,T,)という 点は他の教職大学院と同じである。だが以下の点で特徴を持つ。それは、①双方向遠隔授業システム. を用いた授業②平日の夜と土曜日の午後に開講の、2コマ連続の授業11③3名以上の教員によるT.T. 方式の授業④共通のサーバー(パーソナルポートフォリオシステム)を活用した授業という点である。 まず、これらの特徴を整理していく12。. (∋ 双方向遠隔授業システム. 本院の通常の授業は、札幌・旭川・釧路を双方向遠隔授業システムで結んで行っている。また、単. なる授業の配信ではなく、拠点以外とカメラ・マイクを用い交流授業を行っている。 図1は電子黒板及びモニターである。それぞれのサイズは電子黒板が縦84×横145(センチ)、そし てモニターが縦65×横116(センチ)である。電子黒板は、パワーポイントや実物投影機、ホワイトボー ドなど、資料映像を写すのに主に使用する。モニターは、情景カメラによる各拠点の院生たちの授業 風景を映すことが多い。そしてティーチングアシスタント(T.A.)の手動の操作でカメラワークを 調整する。音声は、複数のマイクを用い、拠点間にて意見交換等を行うとき使用する。. 1 −. 1. i聖監 ̄ ̄空.  ̄ ̄「. ′′′. 図1 電子黒板(右)とモニター(左). ② 2コマ連続(180分)の授業形式 次の特色として、2コマ連続の180分授業であることがあげられる。これは、授業の形態を講義・ 討論・学生の実践報告・模擬授業・ロールプレイングを組み合わせたものにするためである。そのた め、1年を4学期制とし、一つの授業を8週(1セメスター)で行う13。大学での授業開発に関する 先行研究は数多くあるが、180分を一区切りとするものはほとんど存在しない。そのため効果的な授 業を行うには授業者自身の授業全体の構想力・センスがより重要となってくる。. なお、実質上授業時間割は平日は18:00∼21:10、土曜は13:00∼16:10および18:00∼21:10と なっている。これは、道教委派遣ではない現職院生の通学を可能にするためであるが、実習期間中で. あっても授業を行うことがこの時間割によって可能となっている14。. ③ 3名以上のスタッフによる協働体制 授業は各拠点を受け持つ3名以上の教員による協働体制(T.T.)で実施される。当該授業を統括す る担当者が主担当者であり、主担当者以外の拠点での担当者が副担当者である。これにより、3拠点 全体での議論のほか、拠点ごとの議論と全体での討議を組み合わせた授業が可能になるとともに、多.

(5) 藤 森 宏 明. 様な学校種の事例を共有することが可能となる。 ④ 共有サーバー(パーソナルポートフォリオシステム). 本院では、院生全員にノートパソコンが貸与される。そして本院専用の共有サーバー(パーソナル ポートフォリオシステム)にアクセスできるようになっている。ここに授業や実習ごとにポートフォ リオを作成し、その院生に関わる教員スタッフ全員がそのポートフォリオを共有しながら教育に当た るという体制をとる。. また、各授業の資料については科目単位および授業日単位でフォルダを用意し、受講者全員は授業 ごとにそのフォルダを共有する。このことによって、電子ファイルでの資料の共有が可能になる。. (3)検討すべき点. 以上、本院の(1)教育課程(2)教育環境の概要をそれぞれ見てきた。これらの点をふまえると検討 すべき点は以下の2点となるだろう。第一には、「学級経営」という領域の特徴を踏まえつつどのよ うに授業を展開しているかという、教育内容に関する点である。以前筆者は、学級経営領域の教育は、. その研究蓄積が乏しいことから生じる授業の困難性、及びその克服の可能性は教職大学院にこそある ことを述べた(藤森2014)。これをどのように具現化しようとしているのか、その検討である。第二. には、このような教育内容を具現化させる際、教育環境および教育方法(特に本院の特徴ともいえる 双方向遠隔授業システム・180分授業、3名のT.T.体制、共有サーバーの活用など)には、どのよう な課題があるかという教育方法的な側面から見た課題である。. なお、これらの観点にはいずれも「現職とストレートの合同の授業」「多様な校種の受講生による 授業」という大概の教職大学院の教育課程に共通する条件が当然絡んでくる。このことを考慮に入れ 課題を検討することは、教職大学院全体の教育課程における課題の析出にもつながっていくという意 味で、研究的にも有意義な観点といえる。. 3 授業実践の概要 本節では、筆者の担当する共通科目「『生きる力』を育む学級・学年経営の実際と課題」の授業実 践の概要を教育内容および教育方法の視点から紹介する。. (1)担当者および受講者の概要. 平成26年度においては、本授業の担当者は主担当が教育行政学を専門とする研究者教員の筆者、副. 担当が実務家教員の斉藤英昭教授と地域学校経営を専門とする研究者教員の玉井康之教授の3名で あった。そしてこの科目は必修であるため、受講者は1年生全員(48名)であり、その内訳(拠点ご と、現職・ストレートの構成)は表1のとおりである。. 表1 共通科目「『生きる力』を育む学級・学年経営の実際と課題」の受講者数 属性. 人数. 現職. 23. (札幌9、旭川6、釧路8). 25. (札幌20、旭川5、釧路5). 48. (札幌29、旭川11、釧路13). ストレート 合計. キャンパスごとの内訳.

(6) 教職大学院における教育実践の課題に関する一考察. 48名という受講者数は、全国の教職大学院の授業の中でも多い部類に入る。そして、現職・ストレー. トの比は半々だが、拠点ごとにその傾向は異なる。札幌でストレートが多めなのが近年の特徴である。 また校種は小学・中学・高校・特殊・養護教諭など多種にわたる。. また、学部での学級経営に関する科目を履修していない者も多く、特にストレートは学級経営に関 する知識自体が非常に乏しい。一方で現職であっても、実践による経験と教育実践家が執筆した書籍 を読んでいる程度で、研究的な視点を持ち合わせている者は少ない。さらには、一年次の第1セメス ターという、大学院での2年間(8区分)の履修における最初の授業であり、大学院での学びにも、 本院特有の授業スタイルにも慣れていない。. (2)授業の全体構想について. このよう別犬況でどのような授業設計をすべきかが問題となる。つまり教職大学院の趣旨をふまえ ると「学級経営領域における、高度に専門的な能力を要する課題に対しての解決のあり方」が求めら れるが、これを(1)で示した条件をふまえつつどのように具現化していくかということである。 本院は授業名が具体的な名称であることが特徴であり15、授業名が授業の方向性に影響力を持つ。 また、筆者が教育行政学を専門としていることを多少のよりどころとして授業設計を行った。 まず、「生きる力」を全国レベルにおける教育政策の象徴ととらえた。そして、着任時からの院生. 指導の経験から、「学校経営の成果とは何か」という今日的な問いに迫る機会が本院の教育課程で疎 いことにも着目した。また、具体的な実践を検討すると、同じ題材でも、現職・ストレート間では到 達点に著しく差があることもまた自明となっていた。以上のことを念頭に置き、表2に示すような授 表2 授業の概要(シラバスより抜粋). 授業内容. 今日の学校経営では成果管理は必要不可欠であり、学校が掲げる教育目標は学級・学年経営によって具 現化される。 そのため学級・学年経営は学校組織の基本単位であるとともに、その役割のあり方が問われている。そ こで本授業では教育政策「生きる力」を出発点として学年・学級経営のあり方について検討し、課題の発 見やその具体的解決方法について考察していく。. 授業の目標. 学校内における学級・学年組織の役割・位置づけを理解し、「生きる力」という視点から学級・学年経 営のあるべき姿を検討し、実践力向上につながる素養を深めていく。 (1)a 学校全体における学級・学年経営の役割と課題を整理できる(ストレート)。 b 勤務校における学級・学年経営の役割と課題を整理し、改善の方策を立てることができる(現職). 到達目標. (2)a 教育政策としての「生きる力」と学級・学年経営の関連性を整理することができる(ストレート). b 教育政策としての「生きる力」を勤務校の教育活動に具現化し学級・学年経営の課題を整理でき る。(現職) 第1週 第2回 「生きる力」についての歴史的背景と今日的課題(藤森) 第2週 第4回 講義を踏まえたうえでの各キヤンパスでの演習・討論. 第3週 第6回 講義を踏まえたうえで各キヤンパスでの演習・討論 授業計画. 第4週 第8回 講義をふまえた上での各キヤンパスでの演習・討論. 第5週 第10回 講義を踏まえた上での各キヤンパスでの演習・討論 第6週. 第7週 第13・14回 学年・学級活動の事例分析(2) 第8週 第15回 総括(藤森). 成績評価 出席点,話し合いへの参加態度,レポート等から総合的に評価する。.

(7) 藤 森 宏 明. 業内容・授業目標・到達目標を設定した。. (3)授業計画の概要. 次に、授業計画の概要を表2をもとに紹介する。第1週は、この授業が教職大学院全体の一回目の 授業であるため前半はオリエンテーションを行った。そして、後半では、教育政策としての「生きる 力」について筆者が講義をし、課題を提示し、グループ単位で討論し課題を提出させた。これによっ て、受講者のレディネスを把握した。. 第2週は、第1週で提出されたグループ単位の資料から学校経営の内部(下部)組織としての学級 経営の何が課題かを整理するとともに、学級経営における失敗や成功とは何かを議論し、整理させた。 このことによって、学級経営・学年経営の実質的成果と計画上の成果の甑歯など、学級経営を行う上 での根本的な課題を発見させた。. 第3週では、教育政策上文部科学省と学校の中間に位置する北海道教育委員会としての教育課題と 学校経営(学年経営・学級経営を含む)の関係性について、道教委の関係者による講義を前半で行い 16、後半で、講義をふまえた課題を提示し、拠点ごとで議論をさせた。. 第4週と第5週の授業の前半は、再び道教委の関係者による授業を行った。内容は学級経営の実践 からどのような理論や課題を導いているのかについてである。なおこの授業を道教委の関係者によっ て行った理由は、教育現場の実践者こそ学級経営の今日的課題に一番近いと判断したからである。そ して授業の後半は、第4週・第5過とも討論の時間とした。第4週後半では、前半の授業をふまえた 課題をもとに討論を行った。第5週後半では、第6週以降の現職の院生の発表に備え、ストレート院 生に「学級経営案とは何か」について発表をさせ、スタッフはもちろんだが現職院生からの指導もさ せた。. 第6過と第7週は、現職院生に発表をさせた。内容は「学級経営の目標をどう具体化し実践したか」. の実践例、および評価などの紹介である。これを受講者たちで、多様な視点から検討した。なお、こ の2週に関しては、発表を検討する際の集団の規模が48名では大きすぎると判断し、札幌単独と、旭 川・釧路間と、二つに分けて行った。 最終週の第8週で、本授業の全体の流れから、本授業の目標を念頭に置きつつ総括を行った。そし て全体を見据えたレポート課題を出した。. なおこの授業の成績評価は、参加型の授業であることから授業中の参加態度や、発表の内容・振り 返り、そして最終レポートの出来をもとに到達目標に照らし合わせ、担当者3人で協議して総合的に 決定した。. 図2 講義形式の時の授業風景.

(8) 教職大学院における教育実践の課題に関する一考察. 図3 各拠点(札幌・旭川・釧路)での集団討論の様子(電子黒板映像より17). (4)特に留意した点について (∋ 一回あたりの授業の流れについて. 本院の授業は2コマ連続(180分)という特徴を持つが、これは多様な授業形態を想定しているた めであることは前述したとおりである。この授業では、基本的には第5週までは、180分を4つのユニッ トに分けて行った。すなわち、最初のユニットで講義を行い、次のユニットで各拠点での討論、そし. て、双方向遠隔授業システムによる拠点間の交流を行い、最後に授業全体の振り返りという流れであ る。なお、大人数での双方向遠隔授業システムの使用なので、長時間の講義は受講者の集中力が落ち やすいと考え、講義をする時間は45分を限度にした。また、自分の学びを振り返る「振り返りシート 作成の時間」は毎回20分程度用意し、パーソナルポートフォリオ(サーバー)に提出をさせた。. ② 「振り返りシート」について. ①でも述べたようにこの授業では、授業の最後に「振り返りシート」を受講者全員に書かせた。そ こでは概ね授業で何を学んだか、どのような部分が疑問に残ったか、さらに深めてみたい部分などを 500字以内、記名付きで書かせた。そして次回の授業で集計して、配布をした。このことにより、授 業がどのように個々人に伝わっているかを授業者が把握するとともに、院生一人一人が考えた視点が 受講者の数だけ広がると考えた。特に気になった振り返りについては授業の中で取り上げた。また、. 記名付きとしたのは、自分の意見に責任を持つという文化を醸成することや、拠点をまたいでの授業 なので、他拠点の受講者との交流がしやすくなるのではないかといった教育効果を考えたためであっ た。. ③ 討論や院生による発表時の留意点 教職大学院の授業である以上、本授業も集団討論や院生の発表等、院生同士の対話が授業時間の大 部分を占める。その際、マナーとして、「白黒のつく価値観(チェック項目が予め存在し、それに基. づき意見交換をする)ではなく「なぜ」という問いを中心にした、質問による課題の深化に留意して 指導をした。このことによって、院生が自己開示をしやすくなり課題の本質に迫れる意見を出せるの ではないかと考えた。これは、学級経営では「こうでなければならない」という普遍性が脆弱である ことや、すぐに白黒のつく問いや課題とならないよう筆者が工夫していることとも関係している。.

(9) 藤 森 宏 明. ④ パーソナル・ポートフォリオシステムの活用について. 本授業では一般的な授業と同様にプリントを配布するが、同時にプリントのファイルや配布しきれ ない参考資料を本授業用のフォルダにアップするようにした。この結果、院生においても電子データ での授業資料の管理が可能になり、その後の学びに生かしやすくなると考えた。 また、前述したように授業の最後に「振り返りシート」を書かせるが、提出先はパーソナル・ポー トフォリオシステムにある本授業用のフォルダとした。ここに提出された振り返りシートを集計し、 次回の授業で配布した。これにより受講者全体の毎回の授業の理解の程度を授業者・受講者で共有し、 さらには受講者個々人の学びの変容を確認することもロ」‘能になると考えた。. ⑤ 課題の出し方、最終レポートについて 本授業では課題の提示が毎回のようにあった。だが本授業が2年間の教育課程8区分の最初である こと、そして、受講者が多様であることを念頭に置くと、これからの教職大学院での学びに慣れるこ と、そして、どのレベルの院生にも効果的な課題の設定が重安となる。そこで、前者に関しては課題. 解決の思考回路の典型的なパターンをまず修得させることを試みた。例えば問題にはいくつかの原因 があり、それらの原因の克服に問題解決の方向性が見いだされるといったような思考パターンの修得 である。後者に関しては、禅問答とまではいかないものの、できるだけ抽象的な課題を提示した。こ れによりどのレベルの院生も取り組むことが可能と考えた。そして場合によっては現職・ストレート. 協働で取り組ませたり、別々に取り組ませることで、お互いの良さや問題点も考えさせるようにした。 また、現職とストレートの決定的な違いは実践経験である。そこで、最終レポート課題は実践をも とに省察を促す課題と、授業や参考文献を手がかりにした理論整理的な課題のいずれかを選択できる ようにした。そしてこれらの評価は、現職とストレートで別々の基準で行った。. 4 考 察 本節では筆者が行った授業実践をもとに、どのような成果と課題を持っているかを明らかにすると ともに教職大学院における授業実践の在り方について考察する。. (1)教育内容に関する課題. 教職大学院は専門職大学院であるため「その教育上の目的を達成するために専攻分野に応じ必要な. 授業科目を自ら開設し、体系的に教育課程を編成するもの」(専門職大学院設置基準第6条)でなけ ればならない。本授業もその体系の中の一部分である。そのため学級・学校経営領域における学級経 営領域の基本となる教育を行わなければならない。そこで、教育内容に関する課題で特に着目した点 は(∋本院の教育課程の体系を意識した内容②学級経営領域の基本といえる内容③現職とストレート、. 及び多様な学校種のどの受講者にも価値のある内容、という点である。 まず、(∋については、他の授業科目や実習との兼ね合いが問題となってくる。特にこの授業は学級 経営を中心とした授業で、学級経営の構成要素が生徒指導・教科教育等、すべてに関連してくるため、 争点等を一つに絞り、深い学びを追求しようとすると、他の授業と内容が重なりやすい。このことを どう捉えるかが問題となる。つまり、重要だからこそむしろ重なりを認めるのか。それとも、時間数. が限られているので重なりをなくす努力をするというバランスの問題である。また、ストレートは本 授業の終わり頃から「学校課題傭轍実習」が始まり、傭轍の観点に「学級経営領域」がある。この準.

(10) 教職大学院における教育実践の課題に関する一考察. 備教育として本授業を活用することも効果的である。このように、授業設計をする際は他の授業での 学びの中身をよく理解しておくことも必要である。この点は、これまでの大学院の教育課程に比べ体 系的であるため留意しやすい点である。 次に、②についてだが藤森(2014)では、教職大学院での学級経営領域の授業内容が、授業者の専 門領域(例:教育経営学、教育心理学、臨床教育学、実務家など)によって、多様な方向性を持つこ. とを紹介している。本授業は、どちらかというと教育経営学ベースの授業を行った。平たくいえば「学 級経営を学校経営の一部として効果的に行うための仕組みおよびその中の課題」に着目した授業であ る。しかし、学級経営の課題は総合的かつ臨床的であり、その原因の多くは経営的な側面よりもむし. ろ人と人との相互関係の側面から生じるものも多い。よってこの課題解決には、省察力も重要である。 その意味で本授業は物足りない。また、この授業だけでは、筆者の意図する「理論と実践の関係性」. について到達できないケースも少なくない。例えば、第4週・第5週の意図は「実践の中からの実践 者なりの理論化を図るプロセスの確認」である。だが、受講者の振り返りや課題レポート、そして全 8週の授業終了後に実施される「授業アンケート」を見ると、結果として顕在化した「理論」(むし. ろ実践者なりの法則というべきか)にばかり目がいっているものも散見された。これは、マニュアル を求めている姿の現れといえ、教職が高度に専門的であることを考えると不満の残る結果である。ま た、第6・7週の院生発表では、自分の中の固定化した教育観に縛られた尺度による善し悪しで検討 を行う受講生もいた。以上のような状況に陥る原因は理論と実践をどう捉えるかという意味でのもの の見方、考え方の知識の不足や、1年次の第1セメスターという本院での学びに慣れていないことか ら生じていると考えられる。. そこでこの点を補完するため、選択科目の学級経営の担当授業では「省察」に力点をおいている。 そして両方を受講することで筆者の伝えたい学級経営の基本がようやくカバーできる状況にある。こ の点をふまえると共通科目の本授業でももっと省察を意識した授業計画をたてるべきなのかもしれな い。だが省察にはある程度の実践経験が必要である。これが(彰の課題、つまり、省察型の授業では、. ストレートへの教育効果が薄くなってしまうという問題が生じる。そのため第3節で紹介したように、 抽象的な話題から、受講者(特に現職)の実践例を引き出し、それをもとに理論化のプロセスを学び、 基本的なかまえを得られないか、という内容を取り上げるようにしたのである。つまり、教師として の熟練度に関係なく、課題の発見や探求をできる教育内容の開発である。ただ、そこにはやはり限度. がある。どんな内容であっても自分自身の教師としての課題や、成長に結びつけられるような学び方 (学び上手となる方法)の指導も同時に必要だろう。こういった学びは本院の学びの基本ともいえ、. こういったその指導のあり方が重要となる。そこで、内容のみならず方法の検討も必要になってくる。. (2)教育方法に関する課題. 次に、教育方法に関する課題について考察していく。近年は大学教育のあり方そのものが重要な研 究になっているため、先行研究・先行実践として集団学習、ワークショップ、ICTの効果的な活用 など、枚挙にいとまがない。ただこれらの先行研究では想定されていない教職大学院特有の課題も存 在する。筆者が授業実践を通して特に感じたのは①現職・ストレートの効果的な教育方法のあり方② 双方向遠隔授業システムの長所・短所の活かし方③授業者の協働体制(T.T.)についてである。教職 大学院の学びとして(重X彰は制度上の共通の課題であり、②も大学間の協働授業として注目されはじめ ていることからも、これらの点について考察することは重要である。 まず(∋についてだが、これは特に集団討論の時の指導のあり方が問題となる。本授業では課題によっ.

(11) 藤 森 宏 明. て現職とストレートを時には合同で、時には分離させて討論を行わせた。合同で討論する利点は、ス トレートは具体的な多くの実践例を現職から聞けることであり、現職は現場を知らないストレートへ の説明力が育成されることなどがあげられる18。だが、ストレートの学びが消極的になったり、現職. の意見があたかも「正しい」とみなされがちになることもある。分離させるのはそのためである。こ のため科目によっては分離履修が望ましいとか、分離履修の教育課程を組んでいる他の教職大学院も. 存在する。本院では分離履修によるメリットよりも物理的なデメリットを重視し、柔軟に授業方法を 行うことで克服するように試みているが、教育課程全体を見通して、大きなデメリットがある場合は、 ストレート用の補習の導入等も考慮に入れる必要があるだろう19。. 次に本院の特徴ともいえる②だが、双方向遠隔授業システムはあくまで「一堂に会すことが難しい のでやむなく導入している」というのがスタッフ全体の共通理解である。例えば、モニターの解像度 はハイビジョンだが、表情を細かく見取ることは国難である。またT.A.のカメラワークや資料映像. の切り替え等の力量が授業の流れにも影響する。さらには、対面であれば受講者の集中力の状況も感 覚的に把握できるが、双方向遠隔授業システムでは、他拠点での状況を認識しづらい。そして何より も一番の問題は、交流したときに時折会話がかみ合わなくなることである。そのため、参加者全員の 双方向遠隔授業システム特有のコミュニケーションスキルの向上や慣れといったものが必要である。 第6過と第7週で札幌のみ分離して授業を行ったのはこのためでもある。 ただし、長所もいくつか存在する。釧路や旭川のように受講者が10名程度の場合、学校課題も環境. も全く異なる院生同士の交流は非常に新鮮であり、たとえ双方向遠隔授業システムでも、それなりの 意見を聞けることが重安と感じる場合もある。また、カメラ越しだと回線を切ってからの気持ちの切 り替えが早くできていいという意見もある。ほかには発表交流時のカメラ越しのホワイトボードは、 画像拡大もできるので、対面よりも集中して見ることができる場合もある。このように双方向遠隔授 業システムでは、通常の授業とは違った長所短所をよく理解することと、慣れといったものが必要で ある。 最後に(彰のT.T.に関しての問題だが、本院は双方向遠隔授業システムを使用するためどうしても. T.T.になる。他の教職大学院の先行実践・研究20をみると、長所として「実務家教員と研究者教員が それぞれの立場から意見を述べることによる、複眼的な視点から物事を捉える力量の形成の寄与」、 課題として「事前事後の打ち合わせの重要性」「多元的に学べない院生への橋渡し(ケア)」などをあ げている。本授業でもこれらの指摘は重なる部分が多い。ただ、本院の場合、同空間でのT.T.では ないので、特に拠点単位での集団討論では他拠点の教員は介入できない。そのため、複眼的な助言指 導が行えず前述のT.T.の長所が発揮できないことも生じている。このことを少しでも改善するには. 遠隔授業システムの性能向上はもちろんだが、予算と時間があれば授業の一回位は、拠点のスタッフ を入れ替えるような工夫も必要だろう。また、視点の広がりという教員による指導の長所を生かすた め本授業では道教委の持ち出し講義を取り入れているが、逆に短所として主担当者の意図から多少逸 れることもしばしば生じる。そのため、主担当者は絶えず授業全体の体系を理解しつつ調整する能力 が求められる。. (3)教職大学院の理念に対する授業実践での可能性と限界. 以上、教育内容と教育方法それぞれの視点から課題を見てきたが、最後にここまでの考察をふまえ つつ教職大学院の理念を具現化するという意味で授業実践はどういう役割を担っているかについて考 察する。. 10.

(12) 教職大学院における教育実践の課題に関する一考察. 教職大学院の導入はそれまでの大学院における授業実践を大きく変えることになった。だがこの点 については批判がある。例えば篠原(2014:49)では「『授業』は本来授業者の教育内容への考察枠 組みとそれに基づく方法の形成により主体的に展開されるものであり、一律な内容基準と形式により. 強制されるものではない」と主張している。これは授業の目的と方法が教職大学院の教育課程では逆 転しているということを指摘するものである。本院においてこの批判はある意味当てはまる部分もあ る。というのも180分の現職・ストレート合同の授業であることを念頭に置くと、集団討論のあり方 といった教育方法にまず目がいき、そこから現職・ストレート双方に適合する教育内容を考え、実践 している部分は否めないからである。確かにこのような授業方法になったため、総花的な広く浅い授 業に陥りかねない側面が生じている部分もある。しかし、近年学部の授業においても学生参加型の授 業がむしろ奨励されていること、そしてそこでの成果を教職大学院の教育課程にも織り込むというこ とはそれなりに意味があるのではないか。つまり、社会人基礎力としてのコンビテンシーの育成や院 生の主体的な学びはこれまでの大学院教育よりは効果的と考えられるからである。よって、こういっ た授業方法で失われてしまった部分は事例研究(ゼミ)や共通演習(MOB作成)の中で培っていく ことが望ましいだろう。教育課程の体系全体の中でのそれぞれのパーツの役割を考えていくことが重 要なのである。. では、そのように考えると、教職大学院の理念ともいえる「理論と実践の往還」や「実践的指導力 の養成」には授業はどのような貢献をしているといえるだろうか。最後にこの点について特に本授業 を振り返りつつ検討してみよう。. 本授業は、院生が目一杯思考を巡らせている時間が多い。そして担当者は自分の専門分野をもとに 理論的な視点からの指導や助言を行い、院生の主体的な思考活動を支えることが主である。こういっ た授業実践の積み重ねで培われている能力は、実際に実践してみたときに、それを自力で普遍化・相 対化・理論化するための思考回路と孝えている。このことをふまえると、授業実践の役割は大きい。 しかし本授業は、実際に受講生に実践を行わせるわけではない。そのため「理論知と実践知の往還」 は可能だが、究極的には理論と実践を往還しているとはいえない。また、どんなにすばらしい知を得. たとしてもそれを実践に活かすのはまた別問題である。その点では実践的指導力の育成に貢献してい るか否かは定かではない。それが検証できるのは実習や修了後の実践である。その意味で、授業実践 においての限界がある。. そうなると、今後の課題は、この養成していると考えている思考回路が実践的指導力を高めるため のものになっているかの検証である。この点については、さまざまな教職大学院で研究が行われてい る状況である21。だがこの研究には、授業と実習との関係性といったような教育課程の体系における. 丁寧な分析も重要だが、修了生の成長の姿の検証こそがもっとも重要である。すなわち現在行ってい る授業実践の是非の検証には、数年以上の時間を要するのである。. 5 まとめにかえて 本稿では教職大学院の理念が本院の教育課程においてどのように実践され、課題が存在しているか を筆者の授業実践をもとに整理してきた。当然だが、教職大学院の理念は、教育課程全体を通じて体. 系的な形で行われることによって具現化される。本稿ではその中でも授業実践においてどのような成 果と課題があるかを整理してきた。本稿で取り上げた授業は、その内容及び開講時間という事情から 「学び続ける教師としての基本的な学びのあり方」や、「課題発見のコツの入口に立たせる」のが現. 11.

(13) 藤 森 宏 明. 在は精一杯である。また、本院特有の授業形態におけるより効果的な授業方法についても改善の余地 はまだまだたくさんある。ただ、着任から5年、徐々に授業改善がなされていることだけは間違いな い。これは筆者自身を研究の遡上にあげ、「実践と理論の往還」を行っているからに他ならないが、 逆にいえば、ここまでの道のりに5年もかかっているともいえる。この意味で近年の改革は、少々急. ぎ足すぎるとも感じている。どんなにすばらしい提案も定着するのには時間がかかるのであり、拙速 な改革は現場を疲弊させるだけである。 このような状況ではあるが、与えられた条件の中での最善は尽くさなければならないのは当然のこ とである。幸い、本院はT.T.での授業が常態的になされてことや毎凶の振り返りシートの提出があ. るため、毎回の授業後、スタッフ同士による改善がふつうの大学の授業より頻繁にかつ丁寧に行われ ている。また、事例研究(ゼミ)や数々の実習等、双方向授業以外の場の活用により自拠点(旭川校). の院生との普段の関わりから彼らの課題をある程度は知ることができる。総合的な視点からの授業改 善を行うことができる環境なのである。. こうしてみると、我々教職大学院スタッフは「理論と実践の往還」「実践的指導力の育成」を教育 現場で具現化させることを支援するための指導や研究を日々行っているし、実際に実践もしていると いえる(はずである)。筆者自身が悪いお手本とならないよう、これからも研鎮を重ねていきたい。. く注〉 1 さらにこの提案の具体化として2013年10月に「大学院段階の教員養成の改革と充実等について(報告)」(教員 の資質能力向上に係る当面の改善方策の実施に向けた協力者会議)が発表された。 2 2015年度入学者からは、それまでの領域別のコースから、ストレートマスター対象の「教職基礎力高度化コース」、 現職教員対象の「教職実践力高度化コース」「学校改善力高度化コース」の3コースを設定し、教職経験に応じた 自己の課題の探究を重視するものになった。 3 この意味において、最も先進的な研究事例は愛知教育大学教職大学院による研究報告書(2014)である。この 研究は、国内の19の教職大学院の調査と海外調査、そして自校の院生アンケートをもとに、愛知教育大学教職大 学院のカリキュラム改善のための提案を行っている。各教職大学院のおかれている課題が多様であることを前提. とするならば、こういった主体的な調査をもとに各教職大学院が教育課程の改善をまず行い、その上で、制度上 の障壁が存在する場合、制度改革がなされるべきと筆者は考える。本院においては、ここまで大々的ではないも のの、カリキュラム委員会・FD委員会・自己評価委員会を中心に、徐々に改善の方略を探り始めてきたところで ある。本稿もこの意味において何かしらの貢献をすることも目的としている。 4 5つの基本方針とは、 ① 教職に求められる高度な専門性の育成への特化 ② 理論と実践の融合 ③ 確かな「指導力」と豊かな人間力の育成 ④ 養成された教員を受け入れる側との連携の重視 ⑤ 第三者評価などによる不断の検証・改善システムの確立 である。詳細は2006年答申を参照のこと。. 5 答申の補論として出されている「カリキュラムイメージ」は参考例として出されているものである。だが、教 職大学院設置に際しては「設置審」を意識してカリキュラムを作らなければならないため、本院もこのカリキュ ラムイメージの影響を大きく受けた教育課程になっている。これは本院に限らず全国的な傾向である。 6 本院のカリキュラムの体系の基本的な点に関しては、相野(2011)を参照のこと。現在の教育課程はこれより 多少の制度改革は行われているが、基本的骨子はここから大きく変わってはいない。. 7 本院の特徴として、2006年答申で挙げられている共通5領域に加え、特別支援教育を6つ目の領域として加え. 12.

(14) 教職大学院における教育実践の課題に関する一考察. ていることがあげられる。 8 ただし、教育委員会からの推薦による派遣の現職院生は選択科目(事例研究Ⅲ、Ⅳ以外)は1年次に履修する。 9 なお、これらの最低必要修得単位数だが、共通科目は22単位、実習が10単位、選択科目が事例研究6単位を含 める12単位以上、共通演習が2単位で、合計46単位以上となっている(共通科目と選択科目は一科目につき2単 位で構成されている。)。授業科目および各単位数の詳細については本院のHP(http://www2.hokkyodai.ac.jp/ daigakuin/kyosyokudaigakuin−tOp.htm12015年1月10日確認)を参照のこと。 10 教職大学院の中には「学級経営領域に関する授業」の主担当者の専門領域が本院とは異なり「生徒指導領域」. のところもある。また、研究者教員ではなく、実務家教員が主担当であるケースも見受けられる。これは学級経 営領域の研究状況と大いに関係がある。この点についての課題等の詳細は藤森(2014)を参照のこと。 11本院の場合、制度上「昼夜開講制」を取っているものの、平日の授業に関しては事実上夜のみ行われている。 12 以下の概要は『北海道教育大学大学院教育学研究科高度教職実践専攻(教職大学院)の設置の趣旨及び必要性 を記載した書類』(2007)を参考にした。 13 なお、次年度からは呼称を「セメスター」から「クオーター」に改めたが、本稿では「セメスター」という呼 称で統一して用いる。 14 他の教職大学院では、授業を昼間に行い、実習期間中は授業を開講しない教育課程や、週の中で実習の曜日、 授業の曜日と分けて、教育課程を組んでいるところもある。こういったことによる教育の効果と問題点について はもっと検証されるべきであろう。今後の課題としておく。 15 具体的な授業名は文部科学省の設置時の指導によりつけられたものである。このことにより教育課程全体の体 系を理解しつつ担当授業の目標をたてやすいという利点と、授業名が具体的すぎて時代遅れにならないかという 問題点の双方を抱えている。 16 本院では、「教育政策に関する講義」を道教委によって2単位、講義にして15回分行うことになっている。ただ、 この講義は独立した単位ではなく、原則として共通科目全体にちりばめて行うことになっている。本授業におい ては、15回のうちの3回が行われた。 17 大概はモニターに「院生の様子」、電子黒板に「資料映像」を映すが、各拠点での集団討論の際は、進捗の概況 をわかりやすくするため、電子黒板をモニター代わりに使用することもしばしばある。 18 このことは、教職大学院の特長として語られることが多く「大学院段階の教員養成の改革と充実等について」(報 告)(教員の資質能力向上に係る当面の改善方策の実施に向けた協力者会議)(2013)でも指摘されている。 19 2015年度からの新カリキュラムにおいては、選択科目においてコースごとに履修モデルを提示している。これは、 「ストレート向き」「現職向き」を意識したものである。 20 兵庫教育大学、鳴門教育大学、上越教育大学による文部科学省大学改革推進事業「専門職大学院等における高 度専門職業人養成教育推進プログラム」の『教職大学院の実習等のFDシステム共同開発』(平成20”21年度)の 第2WGの報告が特に示唆的である。 (URL:http://www.hyogo−u.aC.jp/pdp/wg/img/2wg_reSult.pdf(2015年1月10日確認)) 21本紀要の他の特集論文・報告や、注3で紹介した愛知教育大学の取り組みや毎年開催される日本教育大学協会 の研究大会等での発表はこれに該当するものである。. く文 献〉 藤森宏明,2012,「教職大学院における教育課程の在り方についての考察−とくに修了研究に着目して−」『北海道 教育大学大学院教育学研究科高度教職実践専攻 研究紀要』第2号,5−15. 2013,「教職大学院における実習の意義についての考察一北海道教育大学の事例をもとに−」『北海道教 育大学大学院教育学研究科高度教職実践専攻 研究紀要』第3号,19−34. 2014,「教職大学院制度がもたらした教育・研究に対するインパクトーとくに学級経営領域に着目して−」 『北海道教育大学大学院教育学研究科高度教職実践専攻 研究紀要』第4号,2737. 福井雅英,2011,「教師の生涯成長と教職大学院−一北海道教育大学教職大学院の現状と課題を踏まえて−」『北海道. 13.

(15) 藤 森 宏 明. 教育大学大学院教育学研究科高度教職実践専攻 研究紀要』創刊号,1−12. 北海道教育大学,2007,『北海道教育大学大学院教育学研究科高度教職実践専攻(教職大学院)の設置の趣旨及び必 要性を記載した書類』. (URL:https://www.hokkyodai.ac.jp/files/00000500/00000518/sechisyushisyorui%5Bl%5D.pdf,2015年1月10日確 認。) 相野彰秀,2011,「総合的な説明責任能力と個別課題を深める教職大学院のカリキュラム改善の特徴」『北海道教育 大学大学院教育学研究科高度教職実践専攻 研究紀要』創刊号,33−46. 国立大学法人・愛知教育大学大学院教育実践研究科教職実践専攻(教職大学院),2014,『教職大学院のカリキュラム・ 指導方法の改善に関する調査研究』(平成25年度文部科学省運営交付金特別経費「教員養成機能の充実プロジェク ト研究報告書」). 水上丈実・藤川聡,2014,「教職大学院における学びの現状と課題:旭川キャンパスの授業開発コースにおける事例 より」『北海道教育大学紀要.教育科学編』64(2),241−246. 文部科学省,2006,「今後の教員養成・免許制度の在り方について(中央教育審議会答申)」 2012,「教職生活の全体を通じた教員の資質能力の総合的な向上策について(中央教育審議会答申)」 篠原清昭,2014,「教職大学院制度のトリレンマ(三すくみ)一高度専門職養成の矛盾と葛藤一」『sYNAPSE』第40 号(12月号),ジアース教育新社,46−50. 玉井康之・前田輪音・藤森宏明,2011,「修了生対象の振り返りアンケートからとらえられる院生の学びの軌跡と成 長」『北海道教育大学大学院教育学研究科高度教職実践専攻 研究紀要』創刊号,83−87.. (正誤表)本文10頁32行目に以下の誤りが生じました。ご訂正ください。 誤:「視点の広がりという教員による」→正:「視点の広がりという複数の教員による」. 14.

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参照

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