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心理的に不安定な友人からの自殺の脅しに悩む学生への介入の方法について― アタッチメント理論からの考察 ―

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(1)Title. 心理的に不安定な友人からの自殺の脅しに悩む学生への介入の方法につ いて― アタッチメント理論からの考察 ―. Author(s). 三上, 謙一. Citation. 学校臨床心理学研究 : 北海道教育大学大学院教育学研究科学校臨床心理 学専攻研究紀要, 第15号: 3-10. Issue Date. 2018-03-14. URL. http://s-ir.sap.hokkyodai.ac.jp/dspace/handle/123456789/9813. Rights. Hokkaido University of Education.

(2) 心理的に不安定な友人からの自殺の脅しに悩む 学生への介入の方法について ― アタッチメント理論からの考察 ― 三 上 謙 一*. How to intervene with students suffering threat of suicide from their psychologically unstable friends -a consideration from the viewpoint of the attachment theory-. 要 約 本論文の目的は,心理的に不安定な友人からの自殺の脅しに悩む周囲の学生たちへの介入の方法につ いて,一つの典型的な事例に基づいて考察することである. 「心理的に不安定」という表現はかなり幅 広い病態水準を含み得るものであるが,その共通した特徴は様々な形で周囲の学生を巻き込むという点 にある.このような「友人についての相談」は学生相談固有の現象と言えるかもしれない.介入は以下 の4つの手順で行われる.①周囲の学生が感じている感情を受け止め,理解する.②その感情の種類に 応じて,より適切な関わりができるように心理教育を行う.③緊急事態への対応を話し合う.④必要が あれば,周囲の学生自身の傷つきに対するフォローをする.このような介入によって悪循環を断ち切る と,徐々に事態は収束していくことになる.心理的に不安定な友人はその後,他の人間関係で再び同じ 問題を繰り返す場合もあれば,医療機関の受診へつながる場合もあれば,比較的安定して過ごす場合も ある.以上のメカニズムについてアタッチメント理論の視点から考察した.. 1.問題と目的. ほど多くはないであろうことを考えると, 「友人 についての相談」は学生相談特有の現象と見なせ. 学生相談では来談者自身についての相談だけで. るかもしれない.. なく,他者,特に恋人も含んだ友人についての相. とりわけ,心理的に不安定な友人についての相. 談を受けることが多い.青年期の人格形成におい. 談は重要である.この「心理的に不安定」という. て同性や異性との親密な関係が重要であることを. 表現は,診断のついていない比較的健康度の高い. 考えると,友人関係に関する相談は学生相談の重. 学生からパーソナリティ障害や発達障害,そして. 要な援助課題の一つである (岩田,2010) .さらに, 精神病圏の学生まで,かなり幅広い病態水準を含 友人の問題について相談するためだけに,料金を. み得るものである.しかし,その共通した特徴は,. 払って医療機関などへ行くことは現実的にはそれ. ネットへの書き込みから始まり,自傷部位の写真. *. Kenichi MIKAMI:北海道教育大学 保健管理センター 准教授. キーワード:自殺の脅し,危機介入,アタッチメント理論. 3.

(3) 学校臨床心理学研究 第15号(2017年度). を送り付けてきたり,さらには自殺のほのめかし, は①に相当すると思われる.ただし,「学生相談 あるいは自殺するという脅しなどを通じて,様々. ハンドブック」では,本人の話を傾聴した上で思. な形で周囲の学生を巻き込むという点にある.. いとどまることを約束してもらったり,保護者へ. このような場合,心理的に不安定な友人本人が. 連絡したり,医療機関への受診を促すなど,自傷. 来談することは経験上まれである.仮に来談して. や自殺の当事者が来談することを主に想定して書. も定期的な面接には定着しにくいことが多い.ま. かれていると思われる.これに対して,本論文は,. た,本論文で紹介する事例のように,不安定な友. 自傷や自殺の危機にある「当事者が来談しない場. 人が,カウンセラーが勤務する大学の学生ではな. 合」の介入の仕方について取り上げるという点で,. い場合,そもそも学生相談では対応できない.し. 従来の学生相談における危機対応の範囲を拡大あ. かし,何もせずにいると,耐え切れなくなった周. るいは補完する意義があると思われる.. 囲の学生から否定的フィードバックが起こり,最. 筆者は上のような相談を何度も受けているうち. 悪の場合,不安定な友人が自殺する危険性も否定. に,来談する人数が何人であっても,事態を収束. できない.そのため,学生相談のカウンセラーは, させるためには一定の介入の方法あるいは手順が 心理的に不安定な友人に巻き込まれて困っている. あると経験的に学ぶようになった.本論文の目的. 周囲の学生たちに何らかの介入をする必要が出て. は,心理的に不安定な友人への対応に困っている. くることが多い.. 周囲の学生たちへの介入の方法についてその具体. 何らかの形で巻き込まれて困っている周囲の学. 的手順と背景にあるメカニズムについて,一つの. 生は一人で来る場合もあるし,二人三人と連れ. 典型的な事例に基づいてアタッチメント理論の視. 立って相談に来ることもある.あるいは所属ゼミ. 点から考察することである.. の指導教員を伴って来る場合もある.というのも,. 2.事例の概要. 一対一の関係で問題が生じている場合もあるが, ゼミやサークルや寮において集団が一人の不安定 な学生の言動に悩まされていることも多いからで. 以下の事例の記述はプライバシー保護の観点か. ある.. ら,若干の修正を加えてある.Aさんは20代の女. 相談に来る学生の多くは親切で世話好きであり, 性で大学2年生であった.来談の主訴は大学での 初めは心理的に不安定な友人の悩みを真剣に聴き, 人間関係と修学上の問題であった.Aさんの家族 その友人をなんとか助けようと努力する.しかし, は父,母,本人の3人家族であった.両親はAさ 徐々に相手が依存的になり,要求がエスカレート. んのことを小学校の頃は活発な子どもであったと. して,困り果てて来談するという経過が多い.そ. 述べているそうだが,本人自身はあまり覚えてい. のストレスのために,相談を受けていた周囲の学. ないとのことである.中学でいじめを経験してか. 生自身が不眠がちになったり,自傷を始めること. らは高校,大学と人と距離を取るようになり,コ. すらもある.. ミュニケーションに苦手意識を抱いている.以上. つまり,これらは受容や共感だけでは十分では. のような問題について話し合っていた面接の経過. ない, 「危機対応」が必要な事態であると考えら. で,Aさんは昔からの知り合いである学外の友人. れる(高石,2010).学生相談カウンセラーが遭. Bさんとの関係について語るようになった.. 遇する頻度が高い危機対応の例として「学生相談. Bさんはうつ状態らしく,Aさんは彼女とのつ. ハンドブック」 (2010)には, ①「学生本人に自傷・. きあい方に悩んでいた.AさんはBさんの相談に. 自殺の恐れがある場合」 ,②「学生本人の精神病. 乗る一方で,自分がBさんを批判したために,B. 理や心身の障害などによる危機」 ,③「学生が犯. さんのうつを悪化させてしまったのではと感じて. 罪や事件・事故の加害者・被害者 (目撃者を含む). いた.そしてBさんから「会いたい」と言われて. になったとき,またはなるかもしれないとき」 ,. いるが,Bさんには会いたくないこと,また最近. が挙げられている(高石,2010, p. 84) .. ではBさんが「死にたい」とまで言い始めたため,. この3つの例のうち,本論文が取り上げる現象. Aさんはどうしてよいのかわからないとのことで 4.

(4) 心理的に不安定な友人からの自殺の脅しに悩む学生への介入の方法について. あった.Bさんはその後,双極性障害と診断され. せずに中立的に対応できる学生も多くいる.この. たが,あまり通院していないらしかった.Aさん. ような中立的に対応できる学生には特に介入が必. は自分が何かすればBさんも現状を変えるために. 要ないことがほとんどである.. 動いてくれるのではと考えていた. ⑵ 相談を受けた周囲の学生が取る典型的な反. そのようなAさんに対してThは,Bさんに通. 応とその結果. 院を強制することはできないこと,愛情を持って 離れるという考え方もあること,また自殺の脅し. 次に,以上のような感情を体験した周囲の学生. があった場合,すぐに保護者に知らせること,な. が,どのような反応を取りやすいのか,また,そ. どを伝えていった.これに対してAさんは,昔か. の結果「心理的に不安定な友人」はどうなるのか,. ら不安定な友達をひきつけやすかったものの,相. を見てみたい.まず,Aさんは当初はBさんの悩. 手が負担になると距離を取ってしまうことが多. みを一生懸命聞いて,Bさんを励ましたりなだめ. かったと語った.このような介入を続けていく中. ようとしていた.しかし,その結果Bさんは段々. でAさんは次第に落ち着きを取り戻し,Bさんの. Aさんに対して依存するようになった.そうする. 言動に振り回されなくなっていった.それからし. と,Aさんの中では「なぜBさんはもっと自分で. ばらくして,AさんがBさんの実家に連絡した際. 積極的に動いて問題を解決しようとしないのか」. に,AさんはBさんの親と話す機会があった.そ. という怒りが強まってきた.また,どのように対. こでAさんは,Bさんが「死にたい」と言ってい. 応してもBさんが変わらないので,無力感も徐々. るので怖いこと,Bさんの様子を見てほしいこと. に強まってきたようである.その結果,Aさんは. を伝えると,Bさんの親は驚き,Bさんは特に問. ついついやや批判的なことを言ってしまい,罪悪. 題なく暮らしているとのことであった.また,そ. 感を感じるようになった.また,Bさんの方は. の後AさんはBさん本人に対しても話す機会を持. 「やっぱり理解してもらえない」という気持ちが. つことができた.そこでAさんは,今学業で忙し. 強くなったようであり,ついには「死にたい」と. く,Bさんの相談に乗れる状態でないことを伝え. いう訴えが出現し,Aさんは追い詰められること. ると,Bさんもわかってくれたとのことであった.. になった.. その後の面接では,Bさんとの問題が再び語られ. このように周囲の学生が取りがちな,励ました. ることはなくなった.. りなだめたりする一方で,強く叱責するという両 極端な反応は,基本的にはどちらも自らの感情へ. 3.考 察. の防衛であると考えられる.まず,自殺をほのめ かされる,あるいは自殺すると脅されたと感じた. ⑴ 相談を受けた周囲の学生が体験する感情. 場合,たいていの人は不安を感じるものである.. Aさんのように,心理的に不安定な友人から相. しかし,なだめる学生は,相手の不安や絶望を聴. 談された周囲の学生の多くは,特に「死にたい」. く代わりに,自らの不安を相手に投影して,相手. と繰り返し言われるようになった場合,様々な感. を一生懸命なだめることを通して自らをなだめよ. 情を掻き立てられる.その中には以下のような感. うとしていると考えられる.逆に叱責する学生は. 情が多いと思われる.. 自らの不安に対する反動形成として,相手に対し. ・ 「何とかして助けてあげたい」という思いや. て強い態度で威圧的に接することで,不安を鎮め ようとしていると考えられる.これらの例は, 「自. りや同情. ・「死んでしまうかもしれない」という不安.. 殺の相談をされる」という不安を掻き立てる体験. ・「私のせいかも」という罪悪感.. に対して誰もが取り得る反応である.. ・「どうしていいのかわからない」 という無力感. しかし,それに加えて,相談を受ける側の学生 ・「甘えるな」などの怒り.. 自身が昔から抱えてきた対人関係上の未解決の問. また,不安・無力感・罪悪感を感じてから後に. 題,つまりアタッチメントに関連する問題がこの. 怒りへと移行することも多い.しかし,特に動揺. 事態に関わっていることも少なくない.例えば, 5.

(5) 学校臨床心理学研究 第15号(2017年度). りができるように心理教育を行う.. 「甘えるな」と怒る学生は自らの依存心に対して 葛藤的である場合が多いように思われる.回避的. ③ 緊急事態への対応を話し合う.. なアタッチメント方略を用いる学生は「他人に頼. ④ 必要があれば,周囲の学生自身の傷つきに 対するフォローをする.. るのは良くない」と考え,何でも自分一人で問題 解決することが自立であると考える傾向にある.. 以下,介入の各段階について順に考察してみた. そのような「自立志向」の学生は,他者から依存. い.. されると,自分自身が依存的な気持ちを抑制して. ① 周囲の学生が感じている感情を受け止め,理 解する. いるために,他者の依存を受け止めてなだめるこ とができず,怒りを持って反応することになりが. まずは周囲の学生が体験している感情を語って. ちである.. もらい,十分に傾聴することが重要である.その. さらに,またAさんのように友人の相談の「聴. 過程で,周囲の学生がどのような感情を体験して. き手」になりやすい学生は,自らが抑圧してきた. いるのかを理解し,その感情に応じた介入の仕方. 依存心を他者に投影して,他者の世話をすること. を考える必要がある.. を通して自らの依存心を満足させるタイプが多い. Aさんの場合,最初は‘同情’から相談を受け Crittenden & Landini(2011)はこれを「強迫的. ていたが,「Bさんは自分で何もしていない」と. 世話(A3)」方略と呼んでいる.しかし,この方. いう‘怒り’が後に生じた.さらに自分が批判し. 略を適用すると,相手の依存心をさらに深めるこ. たために,Bさんのうつが悪化したという‘罪悪. とになり,結果的に自分では手に負えない事態に. 感’を感じるようになり,最後には死ぬかもしれ. なることが多い.ちなみに,このような「世話役. ないという‘不安’やどうしていいのかわからな. 学生」の中には,恋人からデートDVを受けた経. いという‘無力感’を感じるようになった.. 験を持つ者も少なからず見られ,世話役学生は. このように一人の学生が様々な感情を体験する. 色々な場面で対人関係上のトラブルに巻き込まれ. ことがあり得るのであり,それらの感情を丁寧に. やすいと思われる.. 聴いていくことが第一である.そのような傾聴な. 多くの青年期の学生はまだ発達途上であり,こ. しに,以下の心理教育をいきなり頭ごなしに押し. のような様々な未解決の葛藤を抱えて生きている. 付けることは信頼関係を損なうことになりかねな. ことを考えると,上記のような反応を取ること自. い.. 体は必ずしも病的なことではない.しかし,こう. ② 感情の種類に応じて,より適切な関わりがで きるように心理教育を行う. した反応が相手の訴えをさらに強化してしまうと いう悪循環に陥ると,最悪の場合,心理的に不安. しかし,事態を収束するためには傾聴だけでは. 定な友人が自殺をしてしまう危険性もある.その. 不十分であり,次に感情の種類に応じて心理教育. 意味で,自殺の脅しに悩む周囲の学生を効果的に. を行うことが必要であると筆者は考えている.例. 援助する介入方法を考えることは,大学生の自殺. えば,怒りを感じている者には心の病に関する心. 予防の一環としても重要な意味があると筆者は考. 理教育を行い,心理的に不安定な学生の言動は「甘. えている.. え」などではないことを伝える.例えば,水島 (2009)はうつ病への心理教育の一環として,発. ⑶ 介入の目的と手順. 熱などのインフルエンザの症状を自分ではコント. 介入の最も重要な目的は,心理的に不安定な友. ロールできないのと同様に,気分の落ち込みなど. 人と周囲の学生との間で生じている悪循環を断ち. の心の病の症状も自分ではコントロールできない. 切ることである.筆者は悪循環を断ち切るために. ものであるということを患者やその家族に伝えて. 必要な介入を以下のような手順で考えている.. いる.怒りを感じている学生に対してこのような 心理教育を筆者が行う際には, 「死にたくなる気. ① 周囲の学生が感じている感情を受け止め,. 持ちは本人にもコントロールできない事態である. 理解する.. こと」を理解してもらうようにしている.. ② その感情の種類に応じて,より適切な関わ 6.

(6) 心理的に不安定な友人からの自殺の脅しに悩む学生への介入の方法について. たとえ,診断がついていないために特定の障害. 実際,先に述べたように,巻き込む側だけでな. についての心理教育をしにくい場合であっても,. く,巻き込まれる側にも何らかの心理的問題を抱. 「本人は何らかの理由で自分の中の辛い感情に振. えていることが多い.適切な介入によって境界を. り回されていて,今のところは,自分で自分をコ. 設けることは,心理的に不安定な友人の破壊的行. ントロールするのが難しい状態だと思う」と伝え. 動を収束させるだけでなく,それに巻き込まれて. ることで,やはり本人の力ではどうしようもない. いた周囲の学生のアイデンティティ形成を促すこ. 事態であることを理解してもらえるようにしてい. とにつながる可能性もあるということである.. る.. 実際,事例では,境界を設けたことによってBさ. それでも納得せずに怒りが収まらない学生がい. んが落ち着いただけでなく,Aさん自身も落ち着. た場合は,「本当に自殺してしまう可能性もある. き,昔から不安定な友達をひきつけやすかったこ. ので,挑発だけは絶対にしないように」と伝えて. とを自覚し,自身の問題を考えるきっかけとなっ. おく. このようにすることで,最悪の事態に至. た.. らないようにしておくことを心がけている.. ③ 緊急事態への対応を話し合う. また,不安や罪悪感が強い学生の多くは,他者. さらに,自殺の危険性が高いと思われる場合は,. の感情に対して責任を感じ過ぎる傾向がある.な. 緊急事態への対応を話し合っておくことが重要で. ぜなら「強迫的世話」などのAタイプ(回避型). ある.自殺をほのめかした後に本人と連絡がとれ. のアタッチメント方略を用いる者は基本的に「他. なくなるなどの緊急事態が生じた時に,どこに連. 者の視点」から考える傾向が強いからである. 絡するのか(保護者,大学教職員,警察・救急な. (Crittenden & Landini, 2011) . そ こ で, 「死に. ど)を確認する.「いざという時にどうすればい. たい」などの悩みを解決する責任があるのは第一. いか」がはっきりするだけで,周囲の学生の不安. に本人であり,次にその保護者,そして通院して. は軽減し,そうすると不安定な友人への関わりも. いる場合は主治医であり,周囲の学生には責任が. より適切なものへと変化し,事態が徐々に収束し. ないことを伝える.これで安心する学生もいるが, ていくことが多い. 中には「それは冷たい対応なのでは」と罪悪感を. ②と③を通じて特に重要なことは, 「今話し合っ. 表明する学生もいる. その場合, 必要に応じて, 「愛. たことを本当に実行できる?」と学生に必ず確認. 情を持って離れることも大切である」ことや「相. することである.それに対して学生が答えにくそ. 手を変えられなくても, 自分の対応は変えられる」. うな場合,筆者は「君らの方が状況に詳しいのだ. こと,また「専門家でなければ対処できないこと. から,もし‘そんなことするのは無理だ’と思う. もある」などと伝えることによって,適切な距離. ことがあったら今教えて.別の方法を考えるから」. 感を保つことが,結果として双方のためになるこ. と伝えるようにしている.そうすると,こちらが. とを伝えている.. 先ほど提案したことをそのまま実行するのは実は. 最終的には,こうした一連の心理教育的介入に. 難しいと教えてくれることもある.つまり,この. よって悪循環を断ち切ることを目指す.特に不安. ような介入の仕方には一定の手順があるものの,. や罪悪感を感じやすい学生に対してこのような介. 同時に,状況に応じて介入をオーダーメードする. 入をすることには, 彼らに 「適切な境界を設ける」. ことが常に重要であると筆者は考えている.. 機 能 が あ る と 思 わ れ る.Mayson & Kreger. 実際,このような取り決めをしておいたおかげ. (1998)は「境界がしっかりしていない人は,ア. で,周囲の学生が学生課へと緊急の電話をして,. イデンティティの確立も不十分であることが多い. 大学から保護者へ,保護者から警察へと連絡が行. のです.境界がしっかりしていない人,あるいは. き,最終的に学生を未然に保護するという事態に. それが全くない人は,自分自身の考えや感情と他. 至ったこともある.この流れがスムーズに進行す. 人のそれとを区別することができません.自分自. るためには,やはり学生がいざという時にどこに. 身の問題や責任と,他人のそれとの間で混乱して. 連絡すればいいのかを具体的に理解していること. しまうのです」 (翻訳版pp. 150-151)と述べている. が鍵となる. 7.

(7) 学校臨床心理学研究 第15号(2017年度). に他者を巻き込むことで自己の否定的情動を調整. ④ 必要があれば,周囲の学生自身の傷つきに対. しようとする.このような観点から考えると,例. するフォローをする 多くの場合は問題が終息すれば,周囲の学生は. えば大切な人から見捨てられるという恐怖が高. 来談しなくなる.しかし,中には巻き込まれたこ. まった場合,もはやそれを自分一人では処理しき. とをきっかけに自身の過去の親子関係の問題や対. れず,周囲に「死んでやる!」と訴えて,狼狽し. 人関係での傷つきなどを相談しにくる場合もある. た周囲から救済行動を引き出すことで,見捨てら その場合,必要に応じて周囲の学生の個人面接を. れる恐怖へ何とか対処しようとしていると考えら. 継続することもある.. れる. しかし,上に述べたように周囲の対応は,最初. ⑷ アタッチメント理論からの考察. は優しくなだめていたものの,次第に重荷になっ. この介入の目的は「心理的に不安定な友人」自. てくると批判をするようになるなど, (養育者が. 身を安定させることではなく,その周囲の学生を. かつてしてきたのと同じように)矛盾したり一貫. 安定させることによって,混乱を収束させること. 性のない対応になりがちである.このような対応. である.では,その後「心理的に不安定な友人」. をされると,Cタイプ方略を用いる者は「他者の. はどうなるのだろうか? 筆者の経験の範囲内で. 応答を引き出すには否定的情動を誇張しなければ. は,他に依存する相手を見つけて同じようなこと. ならない」,「周囲の応答が一貫せず,予測不能な. を繰り返している場合も見られる.その場合,周. ので,ひたすら自己の否定的情動を誇張するしか. 囲の学生がそれを気にしているようであれば, 「そ. ない」と考え,自殺の脅しはさらにエスカレート. の友人が自分の問題に向き合うかどうかはその友. することになると思われる.. 人が決めること」と伝え,改めて境界を確認する. もしこのようなCタイプ方略を用いている本人. ようにしている.. が来談した場合,必要とされる援助は,本人を依. また,多くはないが,中には最終的に医療機関. 存させ過ぎないように注意しつつ,その否定的情. に友人が受診するケースもある.さらに,その後. 動を言葉で周囲にコミュニケーションできるよう. の人生で意外なほど安定して過ごしているケース. に介入することである(三上,2017) .しかし,. もある.よく見ると,そのような学生は友人関係. 本論文で論じてきたように,たとえ本人が来談し. では不安定でも,実習先では高い評価を得るなど, なくても,周囲に効果的に介入することによって 「対人関係の文脈によって異なる自己」を見せて. 事態を収束させることは決して不可能ではない.. いたようである.つまり,周囲の対応によって学. Cタイプ方略を用いる個人が求めているのは,予. 生の状態は大きく変動する可能性が高いことが示. 測可能で一貫性のある環境である.したがって,. 唆される.言い換えると,悪循環が生じている時, これまで論じてきたような介入を通じて,巻き込 周囲の学生は心理的に不安定な友人の行動を維持. まれていた周囲の者の不安が和らぎ,一枚岩に. する「共犯者」 (Wachtel, 1997)になっていると. なって対応できるようになることは, 「不安定な. 考えられる.. 友人」から見ると,周囲が徐々に一貫性を持って. これをアタッチメント理論の観点から考えると, 予測可能な形で応答してくれるように見えるよう まず自殺の脅しを中心とする訴えは,アタッチメ. になるということである.言い換えると,介入前. ントのCタイプ(アンビヴァレント型)方略を用. の周囲の学生たちはアタッチメントのCタイプ方. いているものと見なせる.Cタイプ方略を用いる. 略を「確証」あるいは強化してしまうような関わ. 個人は,養育者の応答に一貫性がない,つまり予. りをしていたが,介入後は「反証」する関わりを. 測不能であるため,否定的情動を誇張するという. 提供できるようになったと見なすことができる. 方 略 を 発 達 さ せ る の で あ る(Crittenden &. (三上,2009;三上,2013).そのような環境を. Lanidini, 2011) .Aタイプ方略を用いる個人は自. 周囲への介入を通じて作ると,結果としてCタイ. 分の中の否定的情動を抑制するが,Cタイプ方略. プ方略を用いる必要がなくなり,事態が収束して. は自身の否定的情動に圧倒されているために,常. くるのであると思われる. 8.

(8) 心理的に不安定な友人からの自殺の脅しに悩む学生への介入の方法について. 生相談学会編 学生相談ハンドブック,学苑社,. このように考えると,自殺の脅しをするという. 77-80.. 一見病的な行動は,もちろん本人の特性や障害が 関与しているにしても,周囲の対応とセットに. Mayson, P. T. & Kreger, R. (1998) Stop Walking. なって生じている現象と見ることができる.そし. on Eggshells: Taking your life back when. てそのように理解して初めて有効な介入ができる. someone you care about has borderline. と言える.その結果,たとえ本人が最後まで来談. personality disorder, Oakland: New Harbinger. しない場合であっても,心理的に不安的な友人の. Publication.(メイソン・クリーガー(2003)境. 成長が徐々に促進されていくということもあるの. 界性人格障害=BPD:はれものにさわるよう. かもしれない.. な毎日をすごしている方々へ.星和書店.) 三上謙一(2009)安全基地を確立するためのセラ. ⑸ まとめ. ピストの機能について:アルコール依存症の父. 本論文は,心理的に不安定な友人への対応に悩. 親をもつ女子大学生への愛着理論によるアプ ローチ,心理臨床学研究,27,591-602.. む学生への介入の仕方について考察した.学生相 談において出会う学生たちは,試行錯誤しながら. 三上謙一(2013)愛着理論から見た心理療法の行. アイデンティティを形成していく青年期の課題に. き詰まりとその回復過程:逆転移としてのセラ. 直面している.形成途上のアイデンティティは周. ピストの眠気の意味,心理臨床学研究,31, 33-48.. 囲との関係によって様々な形で揺れ動くと考えら れる.その揺れが極端な場合,自殺の危険性が出. 三上謙一(2017)アタッチメント理論とこころの. てくる場合もある.そのような学生たちを援助す. 臨床 近藤直司・田中康雄・本田秀夫編 ここ. るためには,そうした揺れ動きが周囲との相互作. ろの医学入門:医療・保健・福祉・心理専門職. 用からどのように生じているのかを見極め,悪循. をめざす人のために 中央法規 261-269.. 環を断ち切るように介入することが重要である.. 水島広子(2009)対人関係療法で治すうつ病.創 元社.. そのような介入は不安定な学生が自殺に至るとい. 日 本 学 生 相 談 学 会50周 年 記 念 誌 編 集 委 員 会 編. う最悪の事態を防ぐという意味では自殺予防の一. (2010)学生相談ハンドブック,学苑社.. 環であるとみなすことができる.さらに,不安定. 高石恭子(2010)危機対応の必要な相談.日本学. な学生自身や,巻き込まれていた周囲の学生のア. 生相談学会編 学生相談ハンドブック,学苑社,. イデンティティ発達を促進することにつながる可. 83-85.. 能性もあると思われる.. Wachtel, P. L. (1997) Psychoanalysis, Behavior. 謝 辞. Therapy, and the Relational World, Washington, DC: American Psychological Association.( 杉. 本論文は日本学生相談学会第33回大会で発表し. 原保史訳(2002)心理療法の統合を求めて:精. た内容に加筆修正したものである.学会発表と論. 神分析・行動療法・家族療法,金剛出版.). 文執筆を許可してくださったAさんに深謝いたし ます.. 文 献 Crittenden, P. M. & Landini, A. (2011) Assessing Adult Attachment: A Dynamic-Maturational Approach to Discourse Analysis. New York: W. W. Norton & Company. 岩田淳子(2010)対人関係に関する相談.日本学 9.

(9) 学校臨床心理学研究 第15号(2017年度). SUMMARY How to intervene with students suffering threat of suicide from their psychologically unstable friends -a consideration from the viewpoint of the attachment theory-. Kenichi MIKAMI (Associate Professor, Health Administration Center, Hokkaido University of Education) The aim of this article is to discuss how to intervene with students suffering threat of suicide from their psychologically unstable friends based on a typical case. The expression, ‘psychologically unstable,’ could include fairly wide pathological levels but the common feature is that they often involve students around them in many ways. This ‘consultation about friends’ might be a unique phenomenon in university counselling. The intervention has the following 4 procedures; (1) accepting and understanding the feelings that those involved students experience, (2) providing psychological education according to the types of the feelings so they could relate more appropriately. (3) discussing how to deal with an emergency event, and (4) providing individual counselling if necessary. When the intervention interrupts vicious circle, the situation will gradually converge gradually. Some of these psychologically unstable students might repeat the same problem in other different relationships while others might get a medical treatment and lead a relatively stable life. These mechanisms are considered from the viewpoint of the attachment theory.. Key words : threat of suicide, crisis intervention, attachment theory. 10.

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