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がん分子標的薬および抗菌薬によるインフラマソーム活性制御機構の解明

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Academic year: 2021

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がん分子標的薬および抗菌薬によるインフラマソー

ム活性制御機構の解明

著者

工藤 勇気

学位授与機関

Tohoku University

学位授与番号

11301甲第19204号

URL

http://hdl.handle.net/10097/00129259

(2)

博士論文

(要約)

がん分子標的薬および抗菌薬による

インフラマソーム活性制御機構の解明

令和元年度

東北大学大学院薬学研究科

生命薬科学専攻

工藤 勇気

(3)

生体は、常に様々なストレスに暴露されており、細胞レベルで個々のストレスを精確に 感知し、適切な細胞応答を行うことで、生体の恒常性が維持されている。現代における医 療や科学技術の急速な発展は、健康の増進や生活の利便性向上に大きく貢献する一方、医 薬品の成分や環境汚染物質、食品添加物等、生体が適切に対処すべき新たなストレスを生 み出した。実際、これら「現代的ストレス」は疾患発症の要因となることが判明し、しば しば社会問題を引き起こしている。しかし、細胞が現代的ストレスを感知する機構や、そ の結果引き起こされる細胞応答についてはほとんど解析されていない。当研究室では、医 薬品への曝露を「薬剤ストレス」と捉え、そのストレス応答のメカニズム解析によって、 これまでほとんど解析されてこなかった「医薬品の使用により発生する副作用疾患」の分 子機序解明を目指している。医薬品の使用により発生する重篤な副作用は、激しい炎症を 伴うことが多いことから、本研究では、炎症誘導に必須の役割を果たしているインフラマ ソームと呼ばれるタンパク質複合体に着目し、医薬品による副作用発症におけるインフラ マソームの関与を検討した。以下、各医薬品に関する研究結果の概要を記す。 【第一章 がん分子標的薬ゲフィチニブの炎症誘導作用の解析】 ゲフィチニブは、上皮成長因子受容体 (EGFR)のチロシンキナーゼ活性に対する選択的な 阻害作用により、抗がん作用を示す分子標的治療薬の1つである。従来の抗がん剤とは異な り、がん細胞特異的な作用メカニズムを有する医薬品として治療効果と安全性の高さが期 待され、世界に先駆けて日本において承認された。現在は、日本を含む約90 カ国において、 EGFR 遺伝子変異陽性の手術不能または再発非小細胞肺癌に対して適応されている。しかし、 上市直後から副作用の報告が相次ぎ、結果的には1-10%未満という高頻度で重篤な間質性肺 炎を発症させることが判明している。間質性肺炎は、特定の医薬品やウイルス感染などによ って肺の免疫系が過剰活性化することで発症し、呼吸困難や呼吸不全といった肺機能の低 下を引き起こす。特に、免疫細胞の浸潤および活性化と、それに伴う炎症性サイトカイン量 の増加が病態形成に重要な役割を果たしていることが報告されている。しかし、ゲフィチニ ブによる間質性肺炎の発症を直接的に説明できる炎症誘導機序は未だ明らかにされていな い。そこで第一章では、生体における炎症の誘導に中心的な役割を果たしているマクロファ ージに着目し、ゲフィチニブによって引き起こされる細胞応答を評価した。 ヒトマクロファージ様細胞株 THP-1 を用いた解析から、ゲフィチニブは炎症性サイトカ インIL-1β の産生を誘導することが明らかとなった。IL-1β の産生は、NOD-like receptor 等 のパターン認識受容体 (PRR)分子を中心に形成される「インフラマソーム」と呼ばれるタン パク質複合体により制御されている。各種阻害剤やノックアウト細胞を用いた解析から、ゲ フィチニブは代表的なインフラマソームであるNLRP3 インフラマソームの形成を促進する ことで、IL-1β 産生を誘導することが明らかとなった。さらに詳細な解析を進めた結果、ゲ

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フィチニブはミトコンドリア由来の活性酸素種 (ROS)を誘導することで NLRP3 インフラマ ソームを活性化することが明らかとなった。 インフラマソームは、IL-1β 産生と同時に炎症促進性細胞死であるピロトーシスを引き起 こすことが知られている。解析の結果、ゲフィチニブは予想通りピロトーシスを誘導するこ とが判明した。ピロトーシスによって細胞膜の崩壊が起きた際、様々な細胞内容物が細胞外 へ放出されるが、特にHMGB-1 という核内タンパク質の放出が炎症反応において重要な役 割を果たしていることが知られている。興味深いことに、ゲフィチニブは既存のNLRP3 イ ンフラマソーム活性化刺激とは異なり、NLRP3 インフラマソーム非依存的に HMGB-1 の放 出を促進することが明らかとなった。詳細な分子機構の解析から、ゲフィチニブはROS 依 存的にDNA 損傷を引き起こし、核内ストレス応答分子 PARP1 を活性化することで HMGB-1 の細胞外放出を促進することが判明 した。 本研究により、ゲフィチニブによる炎 症誘導機構が分子レベルで初めて明ら かとなった。IL-1β、HMGB-1、およびピ ロトーシスはいずれも間質性肺炎発症 と深く関連していることから、ゲフィチ ニブによる重篤な副作用発症の直接的 要因となる可能性が高いと考えられる。 本研究成果は、ゲフィチニブによる副作 用リスクの軽減や、より安全な抗がん剤 の開発に貢献することが期待される。 【第二章 抗菌薬バンコマイシンによる免疫応答増強作用の解析】 バンコマイシンは、グリコペプチド系抗生物質の一種で、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌 (MRSA)に対して強い抗菌力を有しており、MRSA による腸炎や骨髄移植時の消化管内殺菌 に用いられる。作用機序としては、細菌細胞壁前駆体のペプチドグリカン鎖の架橋反応を阻 害することで、細胞壁の合成を強く抑制することが知られている。バンコマイシンは他の抗 MRSA 薬と比べて最も多くの適応症をもつため、MRSA 感染症治療における標準薬として 位置付けられている。その一方で、代表的な副作用として腎障害および難聴が報告されてい る。特に腎障害は、バンコマイシン投与患者の5-25%の患者に発症するとの報告もあり、臨 床上注意の必要な副作用である。バンコマイシンと共通して腎障害と難聴を症状とする疾 患として、CAPS が知られている。CAPS は、炎症性サイトカイン IL-1β の過剰産生により 全身に周期性の炎症を引き起こす慢性自己炎症性発熱性疾患であり、NLRP3 遺伝子の活性

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化型変異が発症要因である。したがって、バンコマイシンによる腎障害や難聴といった副作 用の発症にもIL-1β の過剰産生が関与する可能性が考えられる。しかし、これまでにバンコ マイシンとIL-1β 産生との関連性については、ほとんど明らかにされていない。そこで第二 章では、バンコマイシンが主要なIL-1β 産生細胞であるマクロファージに与える影響につい て解析を行った。 まず、代表的な炎症誘導シグナル伝達経路であるNF-κB 経路、MAP キナーゼ経路、およ びインターフェロン経路に対する影響について解析を行った結果、バンコマイシンはいず れの経路に対しても活性化作用を示さなかった。次に、IL-1β 産生に関わる PRR 分子である NOD-like receptor および AIM2-like receptor の遺伝子発現に対するバンコマイシンの影響を 解析した。その結果、バンコマイシン処置によるNLRP1、NLRP7、NLRP12、NLRC4、およ びAIM2 の mRNA レベルの有意な上昇が認められた。 本研究によって、バンコマイシンはマクロファージにおいてインフラマソームを形成す る複数のPRR 分子の遺伝子発現を誘導することが判明した。この結果、細胞内で多種多様 なインフラマソームが形成されやすい状況となり、IL-1β の産生が過剰になる可能性が考え られる。即ち、バンコマイシンはCAPS と同様に IL-1β の過剰産生を引き起こすことで腎障 害や難聴を発症させることが想定された。 【基礎となる原著論文】

“Antibiotic Vancomycin Promotes the Gene Expression of NOD-Like Receptor Families in Macrophages”

Yuki Kudoh, Takuya Noguchi, Chizuru Ishii, Kazuhiro Maeda, Akiko Nishidate, Yusuke Hirata, Atsushi Matsuzawa

BPB Reports, 1(1) 6-10, 2018.

参照

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