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言語接触が語彙・文法構造に与える影響に関する言語類型論的研究:日・韓・越語の対照

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(1)

言語接触が語彙・文法構造に与える影響に関する言

語類型論的研究:日・韓・越語の対照

著者

堀江 薫

(2)

言語接触が語嚢・文法構造に与える影響に関する

言語類型論的研究′:日・韓・越語の対照

(課題番号15520242)

平成15年度∼平成17年度科学研究費補助金

基盤研究(C)研究成果報告書

平成18年5月

研究代表者堀江薫(東北大学高等教育開発推進センター)

教筑

研究分担者村上雄太郎(茨城大学工学部)

(3)

はしがき

研究組織 ′ 研究代表者 堀江薫 (東北大学・高等教育開発推進センター・教授70181526) 研究分担者 村上雄太郎 (茨城大学・工学部・助教授50239505) 交付決定額(配分額) 平成15年度 1, 300, 000円 平成16年度 1, 200, 000円 平成17年度    900, 000円 2003年∼2005年の研究活動(特に本研究課題に関連の深いもの) Ⅰ.  編著 佐藤滋・盟注墓・中村渉2004 『対照言語学の新展開』ひつじ書房 II. 論文(*は本報告書に掲載したもの) *(1) 堀江薫2005a. 「日本語と韓国語の文法化の対照」 『日本語の研究』 1.3:931106. (2) 堀江薫2005b. 「認知論における類型化」 『言語』 34.8 : 32-39.

(3) Horie Kaoru, and Emi Kondo. 2004. "Subjectincation and Synchronic Variation: Two Negation Forms in KanSai Dialect of Japanese." Achard. Michael,and Suzanne Kemmer (eds.), LaDgUage, Cultwe aDd胞d.

Stanford: CSLI Publications, 445・459.

(4) パルデシ・プラシャント・堀江薫2005. 「非意図的な出来事の認知類型論」南雅 彦(編) 『日本語学と日本語教育ⅠⅤ』くろしお出版111-123. (5) パルデシ・プラシャント・李清梅・堀江薫2005 「受動構文とその機能領域の拡 張における言語間の類似と相違」 『日本認知言語学会論文集』第5肴51-60. (6) ナロック・ハイコ、堀江薫2005 「話し言葉における可能表現一認知的・談話的・ 教育的観点からの考察-」 『言語学と日本語教育ⅠⅤ』 (編)南雅彦.くろしお出版, 99-110. (7) 金廷現・堀江薫2005. 「韓国語における名詞化構文の文終結用法:名詞と動 詞の連続性の観点から」 『第6回日本認知言語学会大会論文集』 , 62・65.

(8) Tuneyoshi Ishihara, KaoruHorie, and Prashant Pardeshi (In press) "What Does Korean -Double Causative- Reveal about Causation and Korean?" ⅥlnCe,

(4)

(9) 村上雄太郎2004a 「日・越両言語における多機能化の特徴について:トコロ+格 助詞の接続助詞化と 一一moi, da一一の連詞化の場合」佐藤滋・堀江薫・中村渉『対照言 語学の新展開』ひつじ書房、 511-532. *(10)村上雄太郎2004b 「ベトナム語における関連づけ一日本語との対照を試みて-」 神戸市外国語大学外国学研究所編『アジァ言語論叢5号』(外国学研究58), 45・57 (ll)村上雄太郎(印刷中) 「方向を示す移動動詞の文法化-ベトナム語の「来る」動詞の 場合-」神戸市外国語大学外国学研究所編『アジア言語論叢6号』 (外国学研究64) *(12)堀江薫・村上雄太郎(印刷中) 「謬着型言語と孤立型言語における他動性表示形式 の文法化一日韓・中越語の対比を通じて-」 『角田太作教授還暦記念論文集』くろし - お出版 ⅠⅠⅠ. 研究発表(招請を含む)

(1) Horie, Kaoru. "Cognitive foundations of typological form・meaning mapping:

Complementation phenomena revisited."第4回日本認知言語学会シンポジウム

『 Cognitive Typology, or what Cognitive Linguistics can contribute to

LinguisticTypologyandviceversa.』 (企画:堀江薫) , 2003年9月(明治学院大 学) (2) 堀江 薫、ナロック・-イコ 「言語類型論の観点から見たモダリティー日韓語・ 英独語の対照に基づいて-」関西言語学会第28回大会シンポジウム「モダリティ」、 2003年10月(神戸市立外国語大学) (3) 堀江薫・村上雄太郎「東アジア言語・東南アジア言語の多機能化の共通性と相違点」 フランス語談話会ワークショップ「文法化をめぐって」 ,京都会館, 2003年11 月8日 (4) 村上雄太郎「ベトナム語の文法化一日本語や中国語との対照」,東北大学, 2004年 1月19日

(5) Horie, Kaoru. "Nominalization in Japanese: Grammaticalization, Cognition. and Typology." The 3rd lnternatJional Symposium on New Reflections on

Grammaticalization (NRG・3), Santiago de ComlnStela,. Spain, July 17, 2005

(6) 堀江薫「日韓語の名詞と動詞の連続性 一文法カテゴリーのfluidityの観点から -」第4回日韓対照研究会,東京大学,2005年11月15日 (7) 村上雄太郎「移動動詞の越・中対照研究:直示方向のカテゴリー化と「着く」の文 法化を中心に」,日本言語学会 第131回大会, 2005年11月20日,広島大学, 共同発表 (8) 村上雄太郎「ベトナム語の直示移動動詞:その用法と文法化」,東京大学21世紀 COE 「心とことば-進化認知科学的展開」ワークショップ:移動事象の概念化と その類型,東京大学, 2005年12月3日

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研究成果 目次 く日本語・韓国語〉 1.堀江薫2005. 「日本語と韓国語の文法化の対照」 『日本語の研究』 1.3: 93-106. くベトナム語〉 2.村上雄太郎2004b 「ベトナム語における関連づけ一日本語との対照を試みて-」神戸 市外国語大学外国学研究所編『アジア言語論叢5号』 (外国学研究58) 45-57 く日・韓・中・越語〉 3.堀江薫・村上雄太郎(印刷中) 「豚着型言語と孤立型言語における他動性表示形式の文 法化一日韓・中越語の対比を通じて-」 『角田太作教授還暦記念論文集』くろしお出版

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日本語と韓国語の文法化の対照‥言語類型論の観点から 堀江 薫 キーワード.・言語類型論、形式名詞、アスペ'9ト形式、活用形、文法化の経路

要旨

本稿は、言語類型論の観点から、日本語と韓国語の文法化の対照を行う。具体的には 「名詞の文法化」 「アスペクトの文法化」 「活用形の文法化」とい一う三つのケーススタ ディを通じて、両言語の文法化に見られる共通性と相違点を明らかにすることを目的と する⊂・両言語の文法構造の類似性を反映して、文法化に関しても表面的には多くの共通 性が認められる反面、詳細に観察すると、両言語の間には、文法化パターンの生産性(紘 張の度合い)や具体的な文法化の経路の詳細に関して興味深い相違点が観察された。今 後は、適時的観点はもとより、談話に繰り返し現れる言語形式、構文が次第に固定化し、 一定の文法的意味を表すようになる動的・共時的現象としての文法化の側面にも着目し、 両言語の文法化の対照研究が生産的に行われることが期待される。. 1.  はじめに 近年、日本語の研究においても「語桑的意味を有する語(内容語)が文法的な意味を 表す形式に変化する通時的プロセス」を表す「文法化(grammaticalizatioll) 」という概 念が定着してきており、他言語の文法化の理論的、実証的研究の成果が日本語の史的研 究にも取り入れられつつあるo文法化という概念、用語そのものは一般言語学から来た ものであるが、日本語の研究においても「形式化」という概念、用語が、文法化と類似 した意味で用いられてきたG形式化という概念は、三上章によると「或る単語が慣用の 結果、 -方的な用法に固定して原義からもそれ、時には、品詞くずれも引起す、という ような場合にその単語は形式化したというo 」 (三上1972:194)と定義されている,形式 化は、文法化とまったく等価の概念ではない。しかし、三上のいう「品詞くずれ」は文 法化のプロセスで生じるとされている「脱範時化(decategorizatioll)」という概念と同義で あると考えられ、 2つの概念の間には共通性も多い(Horie1997、堀江2002a,b) o 「文法化」という用語自体は国語学の分野では最近まであまり用いられていなかった と考えられるが、例えば『国語学大辞典(国語学会編、 1980年、東京堂書店) 』の「名 詞」の項(高橋太郎氏執筆)に、以下に記すように「文法化」という用語が用いられて いることは注目に値する〔・ 「連体的なかざりなしでは成立せず、実質的な意味を失って、 カテゴリー的な意味が前面に現れているような墓堕4宣上た名詞を形式名詞と呼ぶ。.この

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名づけは、実質性の喪失という消極面からのものだが、喪失と同時に別の要素を得て串 且しそれを積極面から検討する必要が軽量oたとえば、 「山の三上旦話す」 「げたの三 上三(-げたのことが原因で;堀江注)なぐる」 「兄のところであそぶ」などは、具体 名詞にそれぞれ抽象名詞、空間名詞相当,n役割を演じさせる働きをしているし、 「∼し た上皇」 「∼したところ-」などは、接続助詞-のみちを歩んでいろ⊂】 (p・860;二重下 線は堀江) 」上記の記述(特に二重下線の部分)は、まさに近年研究が進展している文 法化の概念に合致するものである。 「文法化」という用語自体は同辞典の索引にもなく、 日本語の研究において広く用いられるようになったのは近年と考えられるが、上述の三 上の「形式化」宣関する観察も含め、国語学の研究の中に、近年の文法化研究に通じる 問題意識が存在したことは間違いないように思われる(高橋氏の場合、この間題意識は 高橋(1994)に受け継がれているように見受けられる) 。 上述の例にもあったように、日本語においては「ところ」 「こと」 「とき」などの名 詞が、語桑的な意味の希薄化に伴って、単独あるいは後続する格助詞とともに接続(助) 詞化するという「品詞くずれ(脱範時化) 」を起こすことが知られている(レ-バンク -1983、堀江2001) 。動詞に関しても、三上が指摘しているように、 「陳述度」が低い 連用形などの活用形が接続詞などの品詞(例「したがって」 )に機能変化する品詞くず れの現象が見られる(堀江2002a) o これらの品詞くずれ(脱範噴化)の現象は、日本 語の場合、機能変化以外に、形態素境界の再分析(例:[ところ】【が】>[ところが】) 、縮 節(例: 「てしまう」 > 「ちゃう」 )といった形を取って現れる。 形態類型論的に同じ謬着語であり、文法全般に日本語と著しい類似性を見せる韓国語 は、文法化の点でも表面的には日本語と共通性が多いD しかし、一方で日本語とは異な る文法化の特徴も見られる。本稿では、世界の言語の普遍性と変異の両面を捉えようと する言語類型論の観点から、 「名詞」 「アスペクト形式」 「動詞の活用形」という三つの 文法形式を手がかりとして日本語と韓国語の文法化の特徴を対照していきたいと考える0 本論文の構成は以下のとおりである。 2節では、日韓語の文法化研究の現状を概観する⊂・ 3節では、上述の三つの文法形式を対象として両言語の文法化の対照を行う, 4節では 結論と展望を述べるGなお、以下では-ングルの表記にイエール方式のローマ字表記を 用いるD 2.  日韓語の文法化研究の現状

文法化の研究は、1980年代から9()年代にかけてP. Hopper, E. Traugott, B・ Heine,J・ Bybee

らの研究によって大きく進展した。.これらの研究のうち、特に影響力の大きかったもの としては、先駆的研究であるLehman11(1982, 1995)やHei11eetal. (1991)、概説書である HopperandTraugott(1993,2002 ;翻訳版(2003)がある)、テンス・アスペクト・モダリ

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ティ形式の文法化に見られる意味変化の普遍性を類型論的な観点から探求したBybeeet al.(1994)、類型論的に異なる様々な言語の文法化のケーススタディに基づいた理論的、 実証的研究を集めた論文集TraugottandHei11e(1991)などがあげられるo近年も、 Heille and Kutel′a (2002)、 Heine and Kuteva(2005)などの文法化に関わる重要な研究が出版され

ている(文法化に関連した意味変化の研究としてTraugottandDasher2002も参照) o文 法化関連の国際学会としては、 1999年にNew Reflections oll Grammaticalizati。n C。11ference

OVRG)という学会が設立され、現在まで99年、2002年の2回開催され、それぞれWischer

alldDiewald(2002)、 Fisclleretal. (2004)という論文集として出版されているo 本年(2005

午) 7月には、第3回目のNRGがスペインで開催されることになっている(詳細はhttp: //wwwL.usc.es/ia303/G',amma3/ NRG3.htmを参照されたい) 0 日韓語の文法化の研究は、上記のような文法化の研究に触発される形で1980年代後半 ごろから行われるようになってきたo その中で、日本語に関しては、文法化の研究は国 語学の知見を取り込む形で展開されてきたo 例えば、文法化の唯一方向性 (unidirectionality)の仮説に日本語のデータに基づき反例を提示したMatsumoto (1988)の 研究は、湯沢幸吉郎らの国語史の研究を参照している(Ohori2001も参照) o ただ、国 語学者の側には「文法化」という概念を積極的に用いることにはまだ慎重さが見受けら れる。文法化に相当する日本語の歴史変化に言及している近年の研究(例:山口1996、 Na汀Og1999、藤田2000、坪井2001)にも「文法化」という用語は見受けられない。文 法化の概念を日本語の歴史変化に適用した研究としてまとまったものとしては Ohori(1998)の英文論文集が最初のものであり、日本語で書かれた文法化の研究書として は日野(2001)があるが、後者は分析が表面的であることや国語学の研究成果を十分に取 り入れていない点などの問題点があることを以前に書評で指摘した(堀江2002b) 。今 後は日本語の史的研究に文法化の概念が有効な形で取り入れられていくことが期待され る(ナロック(採録済)などを参照) 0 文法化は、一方で「談話に繰り返し現れる言語形式、構文が次第に固定化し、一定の 文法的意味を表すようになる動的現象」という共時的側面を含んだ談話現象として捉え ることも可能であり(堀江2004) 、このような観点から日本語の文法化において観察さ れる語用論的変化に着目した研究も多く見られたo 動詞「おく、しまう」の文法化に伴 う語用論的機能の拡張を論じたOno(1992)、談話標識として用いられる形式名詞「わけ」 の文法化を論じたSuzuki(1998)、文法化に伴う主観化(subjectification)を日本語の接続表 現を対象として論じた小野寺(1996)、 Onodera(2004)、日本語の引用形式の文法化を論じ たSuzuki (1999)、 KitallO (2001)などの研究である。. 韓国語に関しては、補文化辞の文法化に関するRansonl(1988)の研究の中で、韓国語の 形式名詞kes (日本語の「もの」 「こと」に対応)の文法化に言及しているのが比較的 初期の研究であり、その後、日本語と同様、文法化において観察される語用論的機能の

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拡張に着目した研究S. 0. Sohn(1996)や、韓国語の動詞の文法化を機能的観点から包括 的に扱ったRhee(1997, 2003),H.M. Solln(To appear)の研究などがあるが、日本語に比べ るとまだ文法化という観点からの研究は全体的に少ないという印象は否めない。これは 一つには日本語に比べて古い時代の(特にハングル制定以前の古代韓国語の)文献資料 が限られているという事情も関係しているものと思われる(金2003) ,次節では、三つ のケーススタディに基づいて日本語と韓国語の文法化の対照を行う。 3.  日韓語の文法化の対照 日韓両語の文法化の対照研究は残念ながらまだ多くない。その中でCSLIから定期的 に出版されているJapanese/KoreanLinguisticsという学会論文集(現在まで12巻までが 刊行、本年は15回目の学会が米国で開催される)には、日本語の「てしまう」と韓国語 の「-a/epelita」に共通して見られるアスペクト用法と主観的意味の拡張の経路を論じた

strauss and Solln (1998)など両言語の文法化の対照研究がいくつか掲載されている亡・筆者

も、これまでに上記の論文集を中心として日韓語の文法化に関するいくつかの論文を発

表してきた(Horie 1998a,Horie alld Sassa2000,堀江2001,Wako, Sato, alldHorie 2002) o

以下では、名詞、動詞という内容語から接続(助)詞、談話標識、アスペクト形式と いった文法形式-の文法化に関する日韓語の対照のケーススタディを提示し、日韓語の 文法化のパターンに関する相違が、両言語の文法体系とどのように関連しているかを考 察する。具体的には、 3,1節で「名詞の文法化」 、 3.2節で「アスペクト形式の文法化」 、 3.3節で「活用形の文法化」を論じるoなお、今回提示する日韓語の文法化に関わる例 文は現代語のものであり、個々の具体的な変化の生じた前後の通時的資料の詳細な分析 は別稿に譲る。 3.1  名詞の文法化 1節で言及したように、日本語の文法記述においては「形式名詞」というカテゴリー が伝統的に認められてきた。.形式名詞は、内容語(この場合名詞)から文法形式-の変 化という文法化のプロセスを体現している品詞である。.日本語の形式名詞には、例えば 以下のようなものがあるo (1) もの、こと、ところ、わけ、はず 形式名詞に相当する、きわめて一般的な意味を持つ名詞は、例えば日本語の「もの」 に相当する英語のthing、タイ語のkh。〇gのように、多くの言語に存在する。,しかし、そ れらの名詞が名詞的な特徴(名詞性)を喪失してどの程度広範囲に文法的な機能を担う ようになるかは言語によってかなり異なるo 例えば、 HeilleandKuteva(2002: 295-296,

(10)

239-240、日本語訳は堀江、以下も同じ)によると、日本語の「もの」 「ところ」に相当

するthing、 placeという意味を持つ名詞から文法形式が派生される経路としてはそれぞ れ(2)(a)-(C)、 (3)(a)-(C)の三つの経路が観察されている((2a, b)の過程に関してはHorie

1998b, Yap, Matthews, and Horie 2004を参照) ,

(2) (a) thing >補分化辞 (b)thing>不定代名詞 (C)仙ing>属格標識 (3) (a)place> 「原因・理由」 (b)place> 「∼の代わりに」 (C) place >所格標識 日本語の形式名詞は、 (4)に示すように多様な文法化の経路を辿って名詞としての特 徴を喪失する。このうち(4)(a)のように(2)(a)に対応した経路もあるが、単独または後続 する格助詞とともに「品詞くずれ」を起こし「接続(助)詞」 「終助詞」となる経路(4b, C,d,e)などは必ずしも多くの言語で報告されていないo (4) (a)【孝詞] > [補文化辞] (例: ∼ことを知った/∼ところを見たo) 仲)【名詞] > 【接続助詞] (例:店に行ってみたとこう、休みだった。,) (C)[名詞] > 【終助詞】 (例:煙草は吸わないこと/もん/わけ。 ) (d)「名詞】+【格助詞] > [接続助詞、接続詞] (例: ∼且里を/且里で/五里の/ところが/ところを/ところで∼、 とHが/とHで∼) (e)[名詞]+[格助詞] > 【終助詞] (例:せっかく行ってくれたお里を。 ) (f)[名詞 +踵語] > [アスペクト・モダリティ形式】 (例: ∼五里だ/三上だ/三上がある(ない) /土三_亘だ/遁王だ/出だ。.) 日本語と文法的な特徴が著しく類似していると言われる韓国語の場合は上記のような 文法化の経路は観察されるのであろうかo韓国語にも日本語と同様、 「依存名詞(また は不完全名詞) 」と呼ばれる(5)のような一群の名詞がある。.

(5) kes( 「こと、もの、の」に対応)、 il( 「こと」に対応)、 tey( 「ところ」に対応),

cek ( 「こと」に対応) 、 cham ( 「ところ」に対応)

(6) (a)【名詞] > [補文化辞】

例:短星-ul alassta/poassta (∼三上を知った/∼里を見た。,)

(b)【名詞] > [接続助詞]

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例:nun塾(<現在連体形語尾nun.依存名詞tey;順接、逆接を

含め文脈により様々な接続的な意味を担う)

caknyen kyewul-un chwu-wess-nullk O111ay-nun ettelnunclyO?

昨年 冬-は 寒い一過去-NUNT字Y 今年-は どうでしょう 「昨年の冬は寒かった三生む、今年はどうでしょうか。」

(C)搾詞】 > [終結語尾(終助詞) ]

例: tampay phiwu-ci mal一垣・

煙草 吸う-否定:連体 「煙草を吸わない三とD」 (d)[名詞]+[格助詞】 > 摩続助詞、接続詞] (韓国語ではあまり生産的でない) (e)[名詞]+[格助詞] > 囲結語尾(終助詞) ] 例:辿(∼すればよかったのに) (<生壁Iul (依存名詞+対格助詞)

ne_to kathi ka-トkel.

おまえ_も  一緒に 行く-未来連体-kel 「お前も一緒に行けばよかった旦追。」

(i)[名詞 +[述語] > [アスペクト・モダリティ形式] 例: 〈⊆並/辻)-iissta/-epsta (経験(∼三上-が-ある/ない))

垣-ita (推量(∼だろう) ・当為(∼すること(の)だ) )

tampay an phiwunun k鎚-ita・

煙草 否定 吸う:連体一依存名詞-コピュラ 「 (ここでは)煙草を吸わない里だ。 」 並星型-ita (∼する/している/した)ところだ) 両言語とも「形式名詞」に相当する、一般的な意味を表す名詞が補文化辞(4a,6a)、接 続助詞(4b,6b) 、終助詞(終結語尾) (4e,6e) 、アスペクトモダリティ形式(4f,6f) など様々な文法形式に転じる現象が観察されるという全体的な類似性が見られる託だ し詳細に観察すると両言語の間には相違点も見られるo 日本語の場合、 「もの」 「ところ」といった特定の名詞が文法化して複数の構文にお いて用いられているのが観察されるoまた、レ-バンク- (1983)で様々な中間的な用 例の分析に基づいて詳述されているように、日本語の場合、これらの名詞が「ものを」 「もので」 「ところが」 「ところを」 「ところで」といったように後続する格助詞と一 語化し、名詞はそれ自体の名詞的特徴を、格助詞は格標示機能をそれぞれに喪失すると いう「品詞くずれ(脱範時化) 」の現象が観察されるo これに対して、韓国語の場合、一般的な意味を表す名詞が後続する格助詞と一一語化し、 品詞くずれを引き起こす現象は、依存名詞と対格助詞が結びついて「∼のに「,∼ものをD」

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という意味を表す終助詞的な終結語尾-と転じたkel以外あまり見られない。このよう な名詞の品詞くずれの現象に関する両言語の相違は、品詞間の境界(例:名詞と副詞的 要素)に関して日本語の方がより連続的であるということを示唆している(詳細な議論 はHorieandSassa2000、堀江2001を参照) : 3.2 アスペクト形式の文法化 テンス・アスペクトを表す文法形式が文法化する経路には、 Bybeeetal.(1994)の類型 論的研究からも明らかなように(7)にあげるようないくつかの言語普遍的な共通性が観 察されるo (7)(a)'存在する/持つ'>結果相>完了相(パーフェクト) >完結相/単純過去 (b)'終える'>完成相>完了相>完結相/単純過去 (C)`来る'>完了相> 完結相/単純過去 日本語のテンス・アスペクト形式に関しては、すでにHorie(1997)で指摘したように (7)(a)に関しては「ている」 「てある」等のアスペクト形式、また過去テンスを表す「た」 (てあり>たり>た)の文法化の経路が合致し、 (b)に関してはアスペクト形式「てしまう」 の文法化の経路が(テンス形式には転じていないが)合致している、など言語普遍的な 文法化の傾向との一致点が多いo 韓国語のテンス・アスペクト形式は、 (a)に関しては、完結した状態、結果相を表す 「-eis-/-eisi- (連結語尾+存在(動)詞)」が、結果相、完了相を表す「-eys-/-eysi-」を 経由して、最終的に完了相、過去テンスを表す「-ess-」となった文法化の経路が合致し ている。また、 (b)に関しては、日本語の「しまう」と類似した意味を持つ動詞pelitaが 「-a/epelita」という日本語の「てしまう」と非常に類似したアスペクト的、語用論的な

意味の拡張を見せている(Strauss and Sohn 1998)o

このような類似性の反面、日本語と韓国語は、現代語のアスペクト形式の分化パターン に関しては顕著な相違点も見られる。日本語のアスペクト形式のうち「ている」は、い わゆる「進行相」と「完了相」の両方のアスペクト的意味を表す。これに対して韓国語 は、前者は迂言的なアスペクト形式である-koisstaまたは単純現在形で表すのに対して、 後者は、単純過去形-ess-または、迂言的アスペクト形式である-e issta (一部の自動詞と のみ使用可能)で表すというように、日本語よりも複雑な分化を見せている。 このような両言語の相違を踏まえた上で、文法化の観点から非常に興味深いのは、現代 韓国語の「進行相」を表す迂言的アスペクト構文である-ko isstaが「完了相」的な用法 を獲得しつつある現象であるo詳細はWako, Sato, andHorie(2003)に譲るが、この用法は 現在のところ、 (8)の例にあるようなcek-ta (書き記す)、 ssu-ta (書く)、 °en-hata (伝え る)、 mal-hata (言う、伝える)、 selmyeng-llata (説明する)等の「伝達動詞」、または(9)

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の例にあるようなilu-ta (着く、至る)、 ta1-hata (達する)等の「到達動詞」といった意

味的なクラスの動詞と-ko isstaが共起するときに見られるD また、このような用法は新

聞の社説などのジャンルの文章において特に顕著に観察される。.

(8) kathun kwunin cl"ulsin-ulo anlitllici pwucangkwan-kwa twul-to epsnun

同じ 軍人  出身-としてテ-ミテ-ジ副長官-と    二人-も 無い sa1-1-n khollin phawel kwukn"ucangkwan-un plmanglok-eyse ku-ey 関係である コリン パウエル国務長官-は    備忘録-で   彼一に

tayha-n chesinsang-ul ilehkey cek-ko iss-ta・

対する  第一印象-を このように  書き記す-KOISS一断定

「同じ軍人出身の、ア-ミテ-ジ副長官と無二の関係であるコリン・パウエル国務長 官は、備忘録で彼に対する第一印象をこのように記している。.」

(9) wulinala-uy hyutayphon kaipcaswu一mun cinantal ma1-10

我が国-の  携帯電話  加入者数-は  先月   末-で

2,500man-myeng-ul tolpha, kaiplyul-i 54%-ey ilu-ko iss-tal

2,500万一名-を  突破 加入率-が 54%一に 至る-KOISS一断定 「我が国の携帯電話加入者数は先月末で2500万人を突破、加入率は54%に 至っている。」 _k。isstaの「完了相」用法は、 「'存在する'>進行相>完了相」という、これまで の文法化の研究においてあまり観察されていない文法化の経路の事例を提供するもので あるo また、前述のように日本語のアスペクト形式に比べるとより複雑な分化を見せて いる韓国語のアスペクト体系の中に日本語の「ている」のように「進行相」と「完了相」 を兼ねる形式が定着するかどうかも興味深い問題である。 3.3 動詞の活用形の文法化 1節で三上(1972)の「形式化」の概念と文法化の概念の類似性を指摘したが、三上は、 形式化という概念に関して「途中の段階で半ば形式化している単語もあるわけである。 各活用形について形式化の起こる程度を調べてみても、陳述度がわかるD一般に、陳述 度の低い活用形ほど形式化しやすい。. 」 (p.194)と述べ、形式化に段階性(gradience) を認めている。三上によると、現代日本語の活用形は、形式化のしやすさにより、 (10) のように順序付けられる(p.1941195の記述一部修正して作成) D (10)   中止連用形 > 仮定形 > 命令形 > 終止形 最も形式化しやすい÷-二二--=二二-二二--二二二二二-二二-す最も形式化しにくい 三上がそれぞれの活用形の形式化の例としてあげている文法形式には(ll)のようなもの がある(例は同上p.194-197より) 。.

ll

(14)

(ll) (a)中止連用形 (副詞)決して、却って (接続詞)従って (複合格助詞)於いて、以て (b)仮定形 ′ (接続詞)例え(れ)ば、言わば (C)命令形 (接続(助)詞)とは言え(副詞)何しろ、どうせ、ともあれ (d)終止形 (終助詞)かしら (< どうなるか、知らない) 言藷類型論において「副詞的な従属関係をマークすることを主要な機能とする非定形 動詞」 (Haspelmath 1995‥ 3,訳は堀江)と定義される「副動詞(con、′erb)」という文法カテゴ リーがあり、 (12)のような文法化の経路を辿ることが知られている(同上37-45)o (12) (a)副動詞 >側置詞 (b)副動詞 > 従属接続詞 (C)副動詞 > 充当態(applicative)のマーカー (12)(a)の経路は(13)に示すように英語において多く見られるほか、ドイツ語、ロシア語、 トルコ語などでも観察されている(同上38、例文(13)も) 0

(13) ( 「時」の前置詞) during,pending, ago, past

( 「例外」の前置詞) barring, exceptillg, excluding

( 「話題/軌勘の前置詞) Concerning, considering, regarding, respectillg

また、 (12)(a)の経路を経て側置詞になった副動詞の中には、 (14)に示すように、 (12)(b)

の従属接続詞用法を獲得しているものが見られる(同上p.39) 0

(14) (a) Considering [11er age], Slle has made excellent progress in her studies. (前置詞)

(b) CollSiderinB lthat she is rather young], she llaS made excellellt Progress in her studies. (従属接続詞) 日本語の場合、副動詞は、いわゆる「連用形」 、 「て形」 、 「仮定形」 、 「ず形」等 に相当する。陳述度の低い活用形(中止連用形、仮定形など)が形式化しやすいという 三上の観察は(12)に示すように類型論的にも裏付けられているo 日本語の副動詞の文 法化の経路としては、 (lュa,b)の経路に関して、 (15a)の「後置詞」相当の形式(高橋1994 に詳述、 Matsumoto1998も参照)や、 (15b)の「接続助詞」相当の形式のように非常に生 産的な文法化のパターンを示しているo (15) (a) (格助詞相当のもの) ∼にあたって、 ∼において、 ∼について、 ∼につき、 ∼につれて、 ∼にとって、 ∼にむかって、 ∼によって、 ∼に際して、 ∼に対し て、 ∼に関して、 ∼として、 ∼とともに、 ∼をめぐって、 ∼をもって

12

(15)

(話題、観点を述べるもの) ∼と(∼から)いうと、 ∼と(∼から)いえば、 ∼とくれば、 ∼となると、 ∼となれば、 ∼にかかったら、 ∼を(∼から、 ∼で) みると、 ∼によると、 ∼にしたがえば、 ∼から(∼に)すると、 ∼をのぞけば (b) (接続助詞相当のもの) ∼ (する)にあたって、 ∼ (する)にかかわりなく (かかわらず)、∼ (する)に際して、 ∼ (する)に先立って、 ∼ (する)にし たがって、∼(する)にしても、∼(するの)に対して、∼ (する)とあって、 ∼ (する)といえば これらの形式の中には、 (14a,b)と平行的に、 (16)のように、名詞と節の両方を取る ことができるものが多く含まれている。 (16) (a)【閉会]にあたって、一言ご挨拶申し上げますo (b)[本日の会を終了する]にあたって、一言ご挨拶申し上げます(, 韓国語の副動詞に相当する形式にはどのようなものがあるだろうかo韓国語の場合、 「副詞的な従属関係をマークすることを主要な機能とする非定形動詞」という類型論的 な定義を採用すると、 (17)に示すような形式が同定できる(韓国語の「連用形」相当 形式の分析としては塚本2004を参照) 。 (17) (Ⅰ) (動詞語幹(i)最後の母音が陰母音+e(se)/(ii)陽母音+a(se)/(iii)動詞「する」 haye(hayse))、 (ⅠⅠ)動詞語幹十ko (17)のうち、 (Ⅰ)は後続の動作・状態に時間的または因果的に先行する動作・状態 を表す形式で、 (ⅠⅠ)は複数の動作、状態を対等に列挙する際に用いられる形式であるo (I) 、 (ⅠⅠ)はそれぞれ「完了接続形」 「並列接続形語尾」 (金・梅田1989)と呼ばれ ることがある。. 「副詞的な従属関係」をマークするという点では、 (ⅠⅠ)は意味的には より等位的な接続関係を表すが、統語的には主節の動詞に依存した非定形動詞であるた め、ここでは(II)も考察の対象に含めるo (17)にあげた副動詞から派生した文法形式と しては、 (18)にあげるようなものがある(Martin1992,Sohn1999を参照) 。, (18) (a) (格助詞相当のもの) -eykwanhaye/hayse( 「∼に関して」 ) -eytayhaye仙a)′≦e ( 「∼に対して」 ) -ら)′panhaye爪ayse ( 「∼に反して」 ) -ultl10ngha)76/hayse ( 「∼を通じて」 )

pwuthe (奪格「∼から、より」に相当) (<pwuth (付けるトe) hako (共格「∼と」に相当) (< ha(する)-ko)

poko (「∼(人)に(告げる等)」 ) (くpo(見る)-ko)

kaciko (共格「∼とともに」 (< kaci (持つ) -ko) )

(b) (副詞相当のもの)

(16)

mace ( 「∼さえも」) ( < macll (終える) -a) (C) (動詞接辞、文末接辞相当のもの) -keyss- (「意思.未来・推量」) (< -keyhay-ess- ((使役)させる-過去) -ulkey (「意図」) (< -ulkesi-e(未来連体形-依存名詞-コピュラーe) -canha (「(相手-の)確認」) (< -cianihay?(名詞化辞一否定-する)) 韓国語においても、日本語と同様、副動詞に相当する動詞活用形から様々な機能語を 派生していることが分かる。.このうち(18a)の格助詞相当の形式の中には「-eykwan haye/hayse」 ( 「∼に関して」 )のように、日本語の対応する形式とほぼ同一の構成のもの から「poko ( 「∼ (人)に) 」 (<po(見る)-ko)のように、同様の文法化の経路が 日本語では想定しにくいものも含まれている(po-taの拡張に関してはH.M.Sohn(To appear)を参照) 。また、 (18C)の動詞接辞、文末接辞が副動詞から派生させる文法化の経 路は、ここではごく一部の例をあげたが、日本語よりも韓国語の方が生産的であるよう であるo逆隼、 (15b)のように、接続助詞的な形式を副動詞(特に「て形」 )から派生す る文法化の経路は、韓国語よりも日本語の方が生産的であるようである。, 本節の対照から、両言語が、勝者語的な特徴を生かして、副動詞に相当する、三上の 言うところの「陳述度」の低い動詞活用形から多様な文法形式を派生していることが伺 える。 4.おわりに 本稿では、言語類型論的な観点から、 「名詞」 「アスペクト形式」 「動詞の活用形」と いう三つの形式に関して日韓語の文法化のパターンを対照してきた。その結果、両言語 の文法的な類似性を反映して、いずれの形式の文法化に関しても、全体的な共通点と同 時に、文法化パターンの生産性(拡張の度合い)や具体的な文法化の経路の詳細に関し て興味深い相違点が観察された。. 日韓語の文法化の対照研究はまだ非常に少なく、特に古代語に関して韓国語の文献資 料が限られているなど、 「語嚢的意味を有する語(内容語)が文法的な意味を表す形式 に変化する通時的プロセス」としての文法化の観点からは、両言語の対照研究には必ず しも好条件が揃っているとはいえない。. しかし、 2節で述べたような「談話に繰り返し現れる言語形式、構文が次第に固定化 し、一定の文法的意味を表すようになる動的現象」という共時的側面を含んだ談話現象 として文法化を捉える観点からは、日韓語の対照研究は大きな可能性を有していると考 える。具体的には、近代語の文献資料、現代語の文献資料および話し言葉(特に会話) のデータ、方言の資料、さらにインターネットの言語資料なども積極的に活用して、現 在まだ完全に終息していない進行中の文法化現象や、語桑項目が次第に慣用化して、特

14

(17)

定の形態・統語的環境や限られたジャンルで文法的意味を獲得しつつある現象(例:3.2 節で論じた韓国語の-koisstaのアスペクト的意味)の対照研究を行っていくことが、両 言語の文法の対照という観点にとどまらず、文法化の理論的研究-のアジア言語からの フィードバックという観点からも非常に有益であると考える。′ ′ 謝辞 本稿の執筆段階で、ナロック・ハイコ氏(東北大)から全般的な記述に関して非常に有 益なコメントをいただき、編集委員会から形式に関して有益なコメントをいただきまし たo また韓国語に関して若生正和氏(大阪教育大) 、平香織氏(沖縄国際大) 、東北大 学大学院生金廷現氏、森聡美氏に貴重な助言をいただきましたD ここに記し感謝申し上 げますo 参考文献 小野寺典子1996 「動詞から接続表現- :日本語におけるgrammaticalizationと subjectificationの一事例」 『柴田武先生喜寿記念論文集 言語学林1995-1996』 三省堂, 457-74. 金東昭2003 『韓国語変遷史』 (栗田英二訳)明石書店 金東俊、梅田博之1989 『スタンダードハングル講座4 作文』大修館書店 高橋太郎1994 『動詞の研究 一動詞の動詞らしさの発展と消失-』むぎ書房 塚本秀樹2004 「文法体系における動詞連用形の位置づけ:日本語と韓国語の対照 研究」佐藤滋・堀江薫・中村渉(宿) 『対照言語学の新展開』ひつじ書房,297-317. 坪井美樹2001 『日本語活用体系の変遷』笠間書院 ナロック・ハイコ(採録済) 「日本語の文法化の形態論的側面」 『日本語の研究』第1 巻3号 日野資成2001 『形式語の研究文法化の理論と応用』九州大学出版会 藤田保幸2000 『国語引用構文の研究』和泉書院 堀江 薫.2001 「勝者語における文法化の特徴に関する認知言語学的考察:日本 語と韓国語を対象に」山梨正明他(編) 『認知言語学論集』ひつじ書房,89-131. 堀江 象2002a.「類型論から見た動詞の文法的特徴と機能変化」『言語』31巻11号,32-39. 堀江 薫.2002b. 「書評:日野資成著 『形式語の研究一文法化の理論と応用-』」 『国語 学』 53巻4号,124-131. 堀江 薫2004. 「談話と認知」中村芳久編『認知文法論II』大修館書店,247-278. 三上章1972 『現代語法序説』くろしお出版 山口尭二1996 『日本語接続法史論』ひつじ書房

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(21)

ベトナム語における関連づけ

-日本語との対照を試みて-村上雄太郎(レ一・バン・クー) ′

1.はじめに

ベトナム語では、ある文と文などを関連づける文末詞として、よくthきゃdayという形式が使わ れる。これらの形式は、談話の中で、文と文、または文とそれが使われる状況との関連を明示す るものである。いわば、事柄の背景にある事情を「前景化」して、事柄の構成要素についての情 報を求めたり、またはその構成要素を特定化するものである.従って、文章をある一つのまとま りを持ったものとして統括するのに重要な役割を果たしている形式だと思われる。日本語に訳 せば、次の例が示すように、 thさは「∼のですか」 (または、その縮小形である「の? 」)という表現 が、 d毎は「∼のです」という表現が得られるo

(1)_Ai mua bao the^'?

誰買う 新聞

(誰が新聞を買ったのですか。 ) _T6i mua `垂1 私 買う (私が買ったのです。 ) しかし、関連づけに使われる「のです/のですか」は、いかなる場合でも、 dayとth6対応する わけではないようだ。 本稿では、先ず2節でthさとd畠yの用法の特徴を観察して、その間の相違を明らかにした上で、 3節では、同じく関連づけに使われる「のです」の用法と対照させながら、ベトナム語のこれらの 形式の特徴を考察し、 4節では、文法化の観点から両言語の間の相違点の原因を探ってみた いと思う。 5節がまとめである。 先ず、th6とd畠yとはどのように違うか見てみよう0

2.関連づけに使われるthさとd益y

同じく文と文、また文と状況とを関連づけるのに用いられるけれども、th6, dayともに疑問文に 用いられるが、両方の間に、次のような違いが認められる。確かに、 (2)の文も(3)の文も日本語 に訳せば、 「どこに行くの? 」という表現が得られるoしかし、 dayの使われるのは、 「今」という時 点に、 「そこ」という場所で行われている活動に限る1。従って、但)∼(8)のような場合には、 d孟y

19

(22)

は適当ではない。 (2)Anl1di 励J tha'? 君行く どこ (どこに行くの? ) (3)Anhdi戯J毎ノ? (どこに行くの? )

(4)Ham-qua, aZ' cho n6 muon tiさn (the'/×day)? 2

昨日  誰 -させる 彼借りる 金 (昨日、誰が彼にお金を貸したの? )

(5)Ham-quaanl,cho ai moon tiさn (the''/×diy)?

昨日  君-させる誰 借りる金 (昨日、君は誰にお金を貸したの? )

(6)Ham-quaanltCho n6 mron gHthe''/×day)?

昨日  君-させる彼 借りる何 (昨日、君は彼に何を貸したの? )

(7)Anhcho n6 mu叩 tiさn ba0-8716 (thC'/×day)?

君 -させる 彼借りる 金 いっ (君はいっ彼にお金を貸したの? )

(8)Anh lan-sao (tha'/ × day)?

君 どうする (どうしたの? ) 逆に、他の文末詞との組み合わせに関しては、敬意を表わす冬を除いて、 dayのみが聞き相 手に、何らかの形で、訴えたり働きかけたりすることを表わす文末詞u(予想外の事柄に対する 確認を表わす形式) , ma(説得や釈明の意味を表わす形式) , chd(相手の意見を否定したり、あ る事柄を再確認したりする形式)と併用することが出来る。例えば、

(9) Tan con d孟 Vさ 毎ノ u・ ? (CH)

タム子/あなた -た 帰る  確認を表す語 (タム、帰った迦? )        (読)

(10)_0-hay・l Sao cac-Ong pha nha t6i?

驚きを表す語なぜあなた方 壊す家 私

A!Thay may thuech血g-taopha di d8 1am nl'a-tay dj)) md. (TN) ああさんお前 雇う俺達 壊す-Tいくるため作るレンガ家  釈明を表す語

(23)

しまあ!どうして私の家を壊すのですか?

ああ!お前の父さんがレンガ家を作るので俺達をや雇って壊させている左だ。 ) (続)

(ll)_Jムcnay me-∽n may an cam phai-kh6ng ?

さっき 親子  お前食べる 糠 -じゃないか ′

Gai guong cubi cai: ガイ強いて 笑う 言い返す _An chさ あ, chit. (NG) 食べる 善ざい   反駁を表す語 しさっき、おまえと母さんは糠の粥を食べたんだろう? ガイは作り笑いをして言い返した: 善ざいを食べた盟主o ) 次に、関連づけに使われる「のだ」とそのベトナム語の対応表現を見てみよう。

3.関連づけに使われる「のだ」とそのベトナム語における対応表現

「のだ」の用法については、これまで多くの研究が行なわれてきた。例えば、三上(1953) 、寺 村(1984) 、田野村(1990) 、国広(1992) 、野田(1997)などである。その本質については、例えば、 田野村(1990:5)は次のように述べているo ある事柄αを受けて、 αとはこういうことだ、 αの内実はこういうことだ、 αの背後にある事情 はこういうことだ、といった気持ちで命題βを提出する、これが「 βのダ」という形の表現の基本 的な機能であると言ってよい。 また、 「のだ」による関連づけという用法については、庵他(2000:270-277)は、以下の(12)∼ (15)の例を挙げながら、 4つに分類している。 (12)昨日は学校を休みました頭が痛かっftk三宜。 (理由や解釈を表わす「のだ」 ) (13)今日、私は大学を卒業しました明日からは学生ではない左だo (言い換えの「のだ」 ) (14)日曜で会社は休みのはずだが、吉田君は電話に出ない。洋子さんとデートを しているのかもしれなし_)o (モダリティ表現を伴なう「のだ」 (「のだ+モダリティ表現J) ) (15)どうしてこの時計を買ったのですか。 (疑問文に使われる「のだ」 (前提を表わす「のだ」 ) )

(24)

(12)∼(15)をベトナム語に訳せば、それぞれ(16)∼(19)のような表現が得られる。

(16)Ham-quat6i da nghi hoc, m bi dau dau.

昨日  私-た 休む勉強 原因を表す語 被る痛い頭

(1 7) Ham-nay, t6i d豆t6t-nghiep dai-hoc. Cb-nghl∼a-la bit-dau th・ ngay一mai, t6i kh6ng-can-la

今日  私-た卒業する大学 意味する始まる より明日  私 -でなくなる hoc-sinh nBa.

学生 もう

(18) Chd-nhat, C6ng-tynghi viec. Th占-ma anh-Yoshida lai kh6ng ra

日曜日 会社 休む仕事-それなのに 吉田さん 意外を表す語-しない出る

-nh如 dien-thod. (払鮎一必  anh-tadang c6-hen vdi c6-Y6ko (day). 受ける電話  かもしれない彼  最中デートする と洋子さん

(19)T由一saoanl1 mua Cai dang-h6 nay th∂ ?

なぜ あなた 買う 個体名詞 時計  この このうち、 (15)の「のですか」と(14)の「のかもしれない」はそれぞれth6とdayに対応すると言 えるが、 (12)の説明や解釈を表わす「のだ」と、 (13)の言い換えの「のだ」はth6にもdayにも対 応するとは言えない。そして、厳密に言えば、 (14)の「のかもしれない」はcd thさla... dayと訳 せないわけではないが、ここにdayを使うことによって、聞き相手に対する話し手の主張が強 調されるという意味合いが生じることになる。 また、 <それ/そこ/そちら-そちらに居る人:聞き相手-聞き相手-の働きかけ>という 意味の拡張で、毎ノは、相手に言い聞かせたり、念を押したりするのに使われる「のですよ」に 近いと考えられる。例えば、 (20)-(お茶を一口飲んで)あら、おいですね。 -この前、浄水機を買ったのですよ。 (日)

(Ham-trudct6i mdi mua may-lOC-nudc 毎).)

この前  私-たばかりだ 買う 浄水器

(21)VleC一房-mA kh6C.Thay ban chongubi-ta d㊥ノ. (TN)

-することはない泣く 父さん/私売る に 人 (どうして泣くのだ?父さんは人に売った些遮送。 ) (続) 4.文法化の観点から見る「のだ」とth6, d怠y このように、同じく文と文、または文と状況との関連づけと言っても、説明や解釈を表わしたり、 言い換えたりする場合においては、日本語では、 「のだ」を使うことが出来るのに対し、ベトナ ム語では、一般に、 th岳もdiyも使うことが出来ない。

22

(25)

これには、それぞれの形式の由来に原因があると即〕れる○というのは、 「の(だ) 」とthg, day の名詞性に差があるということに起因すると考えられるのである。 三上章(1972‥235)が指摘しているように、 「のだ」の中の「の」が「完全に名詞くずれしている」も のである。そして、文法化という観点から見れば、この名詞くずれ、つまり名詞性喪失のプロセ スは、 「のが/のを」、それから「のに/ので」を経て進行しており、 「のだ」の中の「だ」も、次の 例が示すように、 「のが/のを」の中の「が/を」という格助詞の接続助詞兼務化の段階、それか ら「のに/ので」の中の「に/で」の接続助詞化の段階を経て、いわば「述定化」したものだと言 えるだろう3。 (22)と(23)では「今までは暴風雨を警戒していればよかった」ということと、 「ベトナ ムはこれまで「部分撤退を段階的に続け、 5-10年の間にはカンボジアの問題は消失する」と していた」ということが、それぞれ「近年、静穏な目にも災害が起こる」一という事柄と、 「撤退時期を 繰り上げた」という事柄の背後にある事情であり、それぞれ「のが」と「のを」によって、 「前景化」 されたものだと考えられる。 文法的には、確かに、 「のだ」の構文では、 「∼するのだ」が文の述語であるのに対し、 「のが /のを」や「ので/のに」の構文では、 「∼するのが/のを/ので/のに」は(主)文の状況修 飾語として働く成分である。しかし、話し手の表現姿勢という観点から見れば、 「のだ」構文の (20)の中で、 「お茶がおいしい」事の背後に、 「この前、浄水器を買った」という事情があると捉 ぇ、 「のです」によって、この事情を明示するのと同様に、 (22)と(23)においても、 「近年、静穏 な目にも災害が起こる」事と、 「撤退時期を繰り上げた」事の背後に、それぞれ「今までは暴風雨 を警戒していればよかった」という事情と「これまで「部分撤退を段階的に続け、 5- 10年の間に はカンボジアの問題は消失する」としていた」という事情があると捉え、 「のが」や「のを」によって、 この事情を明示すると言える。つまり、表現的には、 (20)の「のです」も、それぞれに前按する動 詞句を「前景化」するという点で、 (22)の「のが」と(23)の「のを」とつながっているものだと言え る。 「のが/のを」構文と「のだ」構文に共通するのは、ある事柄を理解するにあたって、それを単 独で捉えるというより、それを別の事態と関連させて捉えるべきだ、そうすることによって、その 事柄の注目すべきある側面が見えてくるのだという表現機能であろう。ここが、 「のが/のを」と 「のだ」によって、話し手が狙う表現効果だと言えよう。 (22)今までの気象学は『あらしの気象学』だったが、ほかに近年は『翻急の気象 学』が必要になってきたという話がある。今までは暴風雨を警戒していればよ かった空泣き、近年、静穏な日にも災害が起こる. (朝日新聞「天声人語」 1972-ll) (23)また、ベトナム軍の撤退問題については、ベトナムはこれまで「部分撤退を段 階的に続け、 5-10年の間にはカンボジアの問題は消失する」としていた 聖堂、撤遡寺期を繰り上げた。しかし、共同声明では、 (後略) (朝日新聞、 1985-8)

23

(26)

「の(だ) 」の、このように極度な名詞性喪失、つまり語嚢性の希薄化に対して、 thgとdayの場合 には、文末詞として使われるようになっても、それぞれ指示代(名)詞としての性格、つまり語嚢 性が割合に濃厚に残っているようだoつまり、基本的な機能としては、 「のだ」は判定するもので あるのに対し、 thさとdayはそれぞれ(帝方)照応するものと指示するものである。 上述したように、 dayの場合は、その意味の拡張は、次のように表示できるだろうo くそれ/そこ/そちら-そちらに居る人:聞き相手-聞き相手-の働きかけ> それに対し、 thさの場合は、次のように表示できるだろう。 <先の発話や行動の照応-先の発話や行動に関与した要素についての補充説明を求める 前提> 具体的には、 thさは、次の例が示すように、元々はnl1uth6(そのように/そのような)の短縮し た形であるDただし、注目すべきは、この短縮の現象は、 (主)文の述語動詞の後にしか起こり 得なく、連体句として使われる場合は御宿しないということであるo

(24)Anll dhg ndi †nhu-th占/thg).

あなたしないで言うそのように

(そんなに言わないで! )

(25) Mi血r表土thich c6 met tic dS (nhtr thC'/×thg). (cc)

(あんなスピードが俺は大好きさ。 ) (木) 文末詞として、関連づけに使われるようになる場合では、上で述べたように、th6は、 「のです か」に対応するものである。つまり、疑問文にしか使われないのである。ただ、疑問文と言っても、 「のですか」とthさとの対応関係は、 (26)のように、事態に関与した「どこ/いっ/なぜ/誰/何」 などについての補足説明を求める場合には、成立するけれども、 (28)のような、選択疑問文の 場合には、 「のですか」に対応するのは、 th抱、うよりもhay sao (th妙、うべきであろう4。この 点に関しては、前掲の(1)、 (2)と(4)∼(8)の各例も参照されたい。 (26) _これ、おみやげです。

(Day, qua cho anh day.) ここ お土産のため あなた ここ

ありがとうございます。どこ-行ったんですか。

(27)

喜び等を表す語有難い なんとあなた行くどこ 帰る

(27)Sao vさ mu6n the'', con? (CH) なぜ帰る遅い   子/あなた

(どうしてこんなに遅かった92?-) (続)

(28) _=れ、富士山で撮った写真ですo

(Day la anh chupntli PhかSr・) これである写真 摂る 山 富士

富士山に登ったんですか。

(血h leo ndiPhd-Sr rbi hqy-sao  (the')?)

あなた登る     -た 特定を求める語

×AnhleondiPhd Srr6i lhC?

また、 thさの文法化の構文的な条件環境と言えば、下の例が示すように、 th岳が直接な疑問 文に使われることだと考えられる.というのは、 n6ith6は「そんなことを言う」を意味するが、 (29b) のような間接な疑問文などの場合と違って、 (29a)のような直接な疑問文では、 ju n6i thi?は 「誰がそんなことを言いましたか? 」というより「誰が喋ったのですか? 」というように解釈されるの が普通だからである。 (29)a.Pannay)ai n6i tha'? さきほど 誰言う そのように (さきほど、誰が喋った里笠む? ) b.Ad丁 C6 biet ai ndi th∂   kh6ng ?

あなた有る 知る 誰言うそのように無い

(誰がそんなことを言ったか知っていますか。 )

C.Ai n6i the^   se bi phat.

誰言うそのように仮忍未来を表す語被る 罰

(そんなことを言った者は罰せられることになる。 ) 一方、 dayは、次の例が示すように、元々は「それ/それ/そちら」を意味する形式で、この意 味は、文末詞として名詞句の後ろに使われる場合にはまだ認めることが出来るo (32)の中のday と(31)と(30)のそれとは連続したものだと考えられる。つまり、上述したように、 (30)ー(31)→(32) の順で、 dayの意味は次のように拡張されていると言えるのである。

(28)

<それ/そこ/そちら-そちらに居る人:聞き相手-聞き相手-の働きかけ>

(30)D毎, la  mi cda n6. そこ である 家 の 彼 _ (そこは彼の家だ。 ) (3 1) D@' 1a bbc-Vi,  C61Phai-kh6ng? そこ である ヴィおじさんじゃないか (そこにいるのはヴィおじさんじゃない? ) (32)BAG-Vl  毎ノ u ? (CH) ヴィおじさん   確認を表す語 (ヴィおじさんじゃない? ) (続)

5.まとめ

以上述べたことをまとめると、次のようなことがいえるだろう。 まず、晦とth岳との相違点については、thさは疑問文にしか使われなく、 diyは肯定文にも、 疑問文にも使われるoただし、疑問文に使われるdayには制限がある。それは「今」と「そこ」とい う時間・空間の枠内に行われれている活動にしか使われないということである。 また、日本語と対照して一般的に言えば、説明や解釈を表わす「のだ」と、言い換えの「のだ」 と、モダリティ表現を伴なう「のだ」と、疑問文に使われる「のだ」 (- 「のですか」)のうち、言い換 えの「のだ」を訳すのに、 dayもthさも使うことが出来ないようだ。それから、説明や解釈を表わ す「のだ」に対しても、原因・理由を表すviを使うか、何も使わないのが普通である。 また、モダリティ表現を伴なう「のだ」に対しても、ベトナム語にはdayが使われる場合もあるけ れども、その場合、話し手の主張が強調されるという意味合いが生じることになる。 最もよく対応するのは、 「のですか」とth6の場合だと言えよう.ただ、この場合にも、日本語の 表現と比べて、ベトナム語の表現がかなり制限を受けることが分かる。つまり、 「のですか」は、 ある事柄を前提に、その背後にある事情について尋ねるのに、広く使われるのに対し、 th岳の 賂合は、この前提になる事柄の構成要素(つまり述語句の格成分) 、に焦点を合わせて、 「誰/ 何/いっ/どこ」等のように、特定するために、尋ねるのが普通である。 「のだ/のですか」とday/thさとの間のこういう相違点は、文法化の観点から見れば、文末詞 として使われるようになるプロセスで、 「の」とdiy/thさがそれぞれ被る語秦性の希薄化の度合 いの差違に起因するものだと思われる。 本稿では言及する余裕がなかったが、 「のだ」に対応しないdayの用法も興味深い問題である が、今後の課題としたい。

26

(29)

本稿は文部科学省科学研究費補助金(基盤研究(B) (2) ) 〔課題番号11410128] iこよる研究成 果の一部である. 柳こ関する部分は、 1990年9月22日に、第4回つくば言語文化フォーラムで、行われた「ベ トナム語における指示表現一日本語との対照を試みて-」という口頭発表の一部を修正・加筆 したものである。発表の際、青木三郎氏とポリー・ザトラウスキー氏から、大変有益なアドバイス を数多く頂いた。ここに記して感謝したい。 1この事はday(ここ)の文末詞としての用法にも言える。例えば、下の例では、 dayの用法は、 「いま」という時点の意味と「ここ」という場所の意味が、いわば主体化したものだと考えられる。

i Con di 動.Ms nhd glu-gln sac-khoe.

+/私行く  お母さん覚える大事にする健康

(それじゃあ、行ってきますから。お母さんも体に気をつけてねo ) 2例文中で、ぺけム語の単語をイタリックにするのは強調するためである。また、日本語のグ ロスとベトナム語のローマ字の区切りとの対応が正確に分かりやすくなるように、一つのグロスが 二つ以上の区切り(音節)に対応する場合、区切りと区切りとの間にハイフンを使うことにする。 例えば、 ham-qua (昨日)のように。ベトナム語の正書法では、こういう場合には、ハイフンが使 われないのが普通である。 3レ- (1988:83-88)を参照されたい。ちなみに、 「Nl+の+N2」に対応するぺけム語の属格 表現は、 "N2+cda+Nl"である。この属格形はiの用法に見られる名詞から派生したものと 考えられ、そしてihとivのような連街司(や前置詞)の用法-と意味拡張していくと考えられるo i baove(守る) cda(財産) C6ng(公共) ‥公共の財産を守る

ii sach(本) cda(の) t6i(私) : (私の本)

iii sach (本)cda(の/が) n6(彼) mua(買う) =彼の買う本

iv N6(彼) muon(借りる) cda(から) t6i(私) bacu6n(三冊) sach(本)・‥ (彼は私から本を三冊借りた。 ) (レ- (1993‥ト17)を参照)

4この点で、 th岳は、中国語の「是…的」に類似している特徴をもっている。中国語の「是-・的」構

文と「のだ」構文との対照については、杉村(1982: 155-172)や対す(2002)や井上(2003)を参

(30)

引用資料

(続) : 『続ベトナム短編小説選』.竹内与之助・川口健一・今井昭夫訳注. 1987.大学書林

(cH) : `C6 Hang Xen', Thach Lam. (続)所収

(NG) : `Ngheo',NamCao. (続)所収

(TN) : `TtrNgayMe Ch6t', Nam Cao.- (続)所収

(目) :『現代日本語初級総合講座発展編』.水谷信子、梁島史恵. 1993.アルク

(cc) : Cth/ chD㊥7 du・dil紘7 1dl・q,. Nguyen T叫Ngoc Td・ 1981・ Phu NB

(木) : 「木蔭の物語」『流れ星の光、現代ベトナム短編小説集』.ズォン・トウ一・フォン他著、加藤 栄訳. 1988.新宿書房 参考文献 庵功雄他. 2000. 『初級を教える人のための日本語文法ハンドブック』.スリーエー ネットワック 井上優. 2003, r「のだ」文t"的"構文」『中国語学』250号 木村英樹. 2002. 「"的"の機能拡張一事物限定から動作限定--」 、 『現代中国語研究』第4期、 朋友書店 国広哲弥. 1992.「「のだ」から「のに」 ・ 「ので」--「の」の共通性-」.カッケンブッ シュ寛子他(宿) 『日本語研究と日本語教育』.名古屋大学出版会 杉村博文. 1982. 「 「是-的」一中国語の「のだ」文一」『講座日本語学12』.明治書院 田野相思温. 1990. 『現代日本語の文法I 「のだ」の意味と用法』.和泉書院 寺村秀夫. 1984.『日本語のシンタクスと意味2』.くろしお出版 冨田健次. 1984. 『ベトナム語重要文法語嚢用例集(1) 』.大阪外国語大学 野田春美. 1997.F「の(だ) 」の機能』.くろしお出版 三上草1972 (1953).『現代語法序説-シンタクスの試み-』・くろしお出版 レ一・バン・クー. 〔LeVan Ctr〕 1988.Wrの」による文埋め込みの構造と表現の機能』.くろしお出版 . 1993. 「名詞と名詞を繋ぐcdaの用法と機能一日・越両語の属格の対照研究-」筑波 大学つくば言語文化フォーラム編『対照研究』第3号属格について

Horie, Kaoru・ 1998・ On the polyfunctionality of the Japanese Panicle No: From the Perspectives of

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Press.

(31)

後記:本稿は、最終的には、神戸市外国語大学外国学研究所編の『アジア言語論叢5』 (pp・

45 - 57)に掲載されたものである。

(32)

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