平成12年4月1日
肺癌骨転移症例に対する手術的治療法
山梨医科大学整形外科 藤巻圭太 河野秀樹 佐藤栄一 前川慎吾 浜田良機 Key words:肺癌、転移性骨腫瘍、手術的治療 要旨 肺癌の四肢骨転移による病的骨折に対する手術療法の有 用性につき除痛と四肢の運動機能の点から検討した。症例は当科で手術を施行した男性5例、女性5例の計10例11
肢であった。手術の有用性は上肢、下肢各々について除痛効 果、術後患肢機能評価法で評価した。上肢の機能回復は良 好であったが、下肢はそれより劣っていた。しかし、上下 肢とも疾痛の改善は著明であった。 はじめに 肺癌に対する治療法の進歩は生命的予後の改善をもたら し、その結果、肺癌の骨転移症例を整形外科で治療する機 会が増加している1)2)。今回、肺癌の骨転移による病的骨 折例に対して手術を施行したので、その有用性につき報告 する。 対象及び方法 対象症例は当科で1985年より1998年までに肺癌の四肢 骨転移に対して手術を行った男性5例、女性5例の計10 例11肢であった。年齢は48歳から78歳、平均64.5歳で、、 転移病巣部位は大腿骨が8例と大部分を占め、上腕骨2例、 一53一脛骨1例であった。 手術術式は、上肢の上腕骨骨幹部骨折の2例に創外固定 術を、他方下肢の大腿骨骨幹部骨折に対しては創外固定術 が2例、髄内釘固定術を2例、エンダーピン固定術を1例 に施行していた。大腿骨頚部骨折に対してはCompression hip screwによる固定術、3本釘固定術、人工骨頭置換術が 各々1例つつに行われていた。なお、手術法は全身状態、 転移巣の部位や大きさおよび生命的予後などを考慮し決定 している。 これらの症例を鈴木らの評価に準じて除痛効果、術後患 肢機能評価について比較検討した(表1、表2)3)。なお、 多発転移巣が今回の治療成績に影響を与えた症例はなかっ た。 結果 これらの症例の術後生存期間は、最短3カ月、最長6 カ月で平均4.2カ月であった。 除痛効果に関しては、術後より全経過を通じて優が1例、 良7例、可3例で、不可と評価された症例はなかった。 術後患肢機能評価に関しては、上肢の2例はいずれも死 亡まで良の状態を維持していた。一方、下肢の9例につい ては、術直後より可5例、不可4例であった。 症例 症例1 68歳、女性。誘因なく左肘関節周辺に痔痛を自覚した。 その約2週間後、突然左上腕骨遠位に激しい疾痛と腫脹が 出現し、当科を受診した。7年前より当院内科で肺癌の診、 断で加療中であった。初診時の単純X線所見(図1)で、 −54一
平成12年4月1日 左上腕骨遠位端部に骨破壊を伴う病的骨折を認め、創外固 定術を施行した。 死亡までの3カ月間、創外固定器を装着していたが(図 2)、疾痛の改善は持続し、食事は介助なしで可能であった。 死亡まで除痛評価、機能評価とも良の状態を維持した。 症例2 69歳、男性。転倒により大腿部に疾痛が出現した。単 純X線所見で、右大腿骨転子下に病的骨折を認めた(図3)。 当科初診2年前に肺癌に対して右葉切除術が施行され、当 科初診時の胸部X線像で右葉に再発を認め、呼吸機能は著 明に低下していた。 比較的手術侵襲の少ないエンダーピンによる骨接合術を 施行した(図4)。術後、痔痛は改善し車椅子移動は可能と なり、死亡までの3カ月間除痛評価、機能評価とも可の状 態を維持した。 考察 四肢長幹骨に対する転移性骨腫瘍は病的骨折を起こすと、四肢 の運動機能・支持性は著しく低下する。したがって、これらの 転移病巣に対する手術的治療の目的は、疾痛の除去と機能の回復で ある。 手術術式としては、患者の全身状態や転移巣の部位、大きさな どを考慮して最も有用な方法を選択する必要がある4)。今回、我々 が検討した肺癌骨転移症例に対する手術療法は除痛効果に関しては、 多くの症例で優又は良と評価され、手術療法が痔痛の改善に対し有 用であった。なかでも創外固定法は固定のみによる除痛を目的とす るものであるが、手術侵襲が少なく、比較的強固な固定が得られ、. 術後早期の機能回復が可能である。したがって肺癌のような比較的 一55一
予後不良と考えられ、あるいは全身状態の低下した症例には良い適 応であると考えている。今回の創外固定症例はいずれも全身状態が 不良な症例であったが疾痛の改善は著明でこの点では満足すべき結 果であった。 一方、患肢機能評価に関しては、下肢の場合では機能回復に手 術療法があまり有用ではなかった。これは肺癌骨転移症例の場合、 術後の生存期間が短いため、十分な期間のリハビリテーションが行 えなかったことも一因と考えている。 まとめ 肺癌の四肢骨転移による病的骨折に対する手術療法の有 用性につきQOLの点から検討したので報告した・ 1) 2) 3) 4) 文献 河野秀樹ほか:四肢病的骨折に対する整形外科的治療につい て.日整会誌(J.Jpn.Orthop.Assoc.)69(6);S1197,1995 松村卓洋ほか:四肢転移性骨腫瘍患者に対する治療とQOL. 日整会誌(J.Jpn.OrthoP.Assoc.)71(6);S1052,1997 鈴木勝美ほか:下肢長幹骨転移癌に対する手術的療法.整・ 災外31;253−259,1988 楠崎克之ほか:長幹骨転移性骨腫瘍の治療原則.整・災外41; 1155−1161, 1998 一56一
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