原 著
要 旨
何が介護老人福祉施設で看取りを可能にするのか
―看取りを行う看護師のインタビューから―
What makes it possible of the end-of-life care at the nursing home: From interviews with nurses who take care of the end-of-life.
岩瀨 和恵1) 勝野 とわ子2)
Kazue Iwase1) Towako Katsuno2)
目的:本研究の目的は、介護老人福祉施設での看取りの可能性を調査することであった。 方法:本研究では、看取りを積極的に行っている関東地方の 4 施設の介護老人福祉施 設で働く看護師 8 名を、半構造化面接法を用いて看取り経験に関して面接調査した。 得られたデータは、Knafl & Webster によって提案された分析方法を用いて分析した。 結果:介護老人福祉施設で看取りを行うためには【看護師の能力】、【看護師の看取り に対する考え】、【本人・家族の看取りの希望】、【協力的な他職種の存在】、【組織的な 方針】の 5 つが重要であることが抽出された。 結論:本研究では、【看護師の能力】、【看護師の看取りに対する考え】も介護老人福祉 施設での看取りにとって重要であることが新たに示唆された。本研究で抽出された看 取りを可能にしているカテゴリーを踏まえて介護老人福祉施設の看取り体制を整えて いくことができれば介護老人福祉施設での看取りが可能となっていくことが示唆され た。 キーワード:介護老人福祉施設、看取り、高齢者 Abstract
Purpose: The purpose was to investigate the possibility of the end-of-life care in the nursing home.
Method: In this study, 8 nurses working in nursing homes in 4 facilities in the Kanto regions were investigated using the semi-structured interview method. The data obtained were qualitatively analyzed using the method proposed by Knafl & Webster.
Results: In order to make the end-of-life care possible in nursing home, “competency of nurses”, “nurses’ view on the end-of-life care”, “hope for the end-of-life care of the elderly and their family”, “existence of cooperative other occupations”, and “organizational policy” were shown to be important.
Conclusion: In this study, “competency of nurses” and “nurses' view on the end-of-life care” were also newly suggested to be important for the end-of-life care of the elderly. It was suggested that if we were able to prepare a nursing care system based on the things that make the end-of-life care possible in nursing homes revealed in this study, we may enable the end-of-life care in nursing homes.
Keywords: nursing homes, end-of-life care, elderly 1) 川崎市立看護短期大学 Kawasaki City College of Nursing
Ⅰ.緒言
わが国の高齢化率は 2017 年現在 27.7%に達して いる1)。それに伴い、介護老人福祉施設(特別養護 老人ホーム [ 以下、特養 ])の施設数は年々増加し、 2015 年から 2016 年だけでも 200 施設以上増加して いる2)。 2006 年の介護報酬改定以降、特養では「重度化 対応加算」や「看取り介護加算」が算定され3)、特 養における看取りの取り組みが推進された。特に「看 取り介護加算」は 2009 年、2015 年と改定され、特 養において看取り介護加算が当初の約 2 倍となって いる4)。このように、終の住処としての特養の役割 が 2015 年以降さらに高くなり、国の施策でも高齢 者施設は人が人生の最期を迎える場所として期待さ れている。 しかし、高齢者の死亡場所については病院での死 亡者数の割合には高齢者以外も含まれているとはい え、未だ病院での死亡が 73.9%であり、高齢者施 設での死亡の割合は 9.2%である5)。 これを反映するように、高齢者施設からの高度医 療機関への救急搬送は増加傾向にあり6)7)8)9)、救 急搬送される高齢者の中には、救命医療を必要とす る高齢者と必ずしも救命医療を必要としない高齢者 施設での看取り対象と考えられる高齢者の両者が混 在している10)。例えば、高度医療機関である救命 救急センターに死亡後数時間は経過していると思わ れる高齢者が救急搬送され、心臓マッサージ等の救 命救急処置を行わなければならないという状況があ る11)。これは、高齢者本人が希望する場所で必ずし も看取りが行われていないことをうかがわせる12)。 森脇 , 富田 , 田原 , 杉山13)は、特養の職員が看 取りを受容できなければ救急要請されると述べてい る。このことから、特養においては、職員が高齢者 を看取るということを受容できず、看取り体制への 整備へと繋がらないことにより救急要請せざるを得 ない状況であることが示唆される。同時に、特養が 増加しているにもかかわらず、特養での看取りに向 けた体制が未だ十分に整っていないことをうかがわ せる。したがって特養において、看取り体制を整備 することが急務である。 特養の看取りについては、特養での体制や看取り ケアの実態調査14)15)16)17)や看取りを行う看護師の 体験や死生観18)19)の報告がある。また、看護師は 生命の最期をその人らしく迎えられるよう、様々な 準備を行っていると報告されている20)21)22)。特養 で働く職員に看取りについての意識を調査した研究 では、特養で高齢者を看取りたいと考えている職員 は多いが、実際に看取った経験はないという職員が 約半数であったとの報告23)24)がある。また、看取 りの際に看護師が困難を感じている要因について は、医師との連携24)26)27)、家族への対応25)26)27)、 職員の不安が強いこと26)、施設体制および設備に 関すること26)27)が挙げられている。これらの研究 から、特養においては、看取りを推進したいと考え てはいるものの、実際に看取ることが難しい現状が あることがうかがえる。 では、看取りに積極的に取り組んでいる特養では どのようなことを行っているのだろうか。それを明 らかにすることで看取りを行うことが難しかった特 養の看取りへの可能性に関する示唆を得ることがで きると考えられる。特養で高齢者の看取りが可能と なれば、高齢者本人・家族の意向に沿わない高度医 療機関への救急搬送が減少するための一助になると 考えられる。Ⅱ.目的
看取りに積極的に取り組んでいる特養における看 護師の考えや行動を調査し、看取りの可能性の示唆 を得ることを目的とした。Ⅲ.方法
1. 研究デザイン 本研究は質的記述的研究デザインを用いた。 2. 研究参加者の選定 本研究では、特養での看取りについての研究論文、 会議録等の実践報告があり、現在も看取りに取り組 んでいると確認できた特養を看取りに積極的に取り 組んでいると考え、研究参加施設とした。そして、 その施設長又は施設長が推薦するその施設に勤務す る看護師であり、かつ看取りの経験のある看護師を 研究対象者とした。 3. データ収集方法 研究参加者に研究協力の依頼を行い、了承を得た 後にインタビュー日時や場所を相談の上決定し、年 齢、性別、看護師歴、施設での経験年数、今までお よび施設で看取った経験、施設の体制人数等の基本属性に関するフェイスシートの記入をしてもらっ た。その後、看取りについて、どんな気持ちで看取 りをしているか、不安はあったか、看取りをする 中でのジレンマ、何が看取りを可能にしているの か、看取り時の体制の変化やその後の行動を半構造 化面接法を用いてデータ収集を行った。このインタ ビュー内容は参加者の同意を得て録音した。インタ ビュー場所は研究参加施設の個室とし、プライバ シーを確保して面接を実施した。データの収集は平 成 23 年 6 月~ 8 月に実施した。 4. データ分析方法 録音した面接内容から逐語録を作成し、Knafl & Webster 28)に基づく分析法によって分析した。まず、 作成した逐語録を注意深く読み、逐語録全体のコー ディングを行った。次に、類似するコードを集め、 サブカテゴリーとし、さらに抽象度を上げ、カテゴ リーとした。さらに「特養で何が看取りを可能にし ているのか」に着目し、カテゴリーを抽出した。分 析過程において、カテゴリー名が適切であるかを随 時逐語録に戻り、再検討し、適宜修正を行った。ま た、分析の全過程において、高齢者看護学および質 的研究に携わる研究者数名と議論し、分析方法と内 容の妥当性の確保に努めた。 5. 倫理的配慮 本研究は平成 23 年度首都大学東京荒川キャンパ ス研究安全倫理委員会の承認を得て実施した。( 受 理番号 11009) 施設長から紹介を受けた看護師へ、研究目的、協 力内容、面接所要時間、研究への協力は本人の自由 意思であり辞退・中断を希望した場合でも不利益は 生じないこと、プライバシーを確保することを、口 頭および書面を用いて説明した。その後、同意の得 られた看護師と相談の上、面接の日時を決定した。 また、面接開始前に再度上記内容を確認し同意書に 署名を得た。また、個人の特定を避けるため、個人 名の代わりに ID 番号を付し、取得したデータは鍵 のかかる場所に保管する等、プライバシーの保護管 理を徹底した。
Ⅳ.結果
1. 研究参加者の概要 研究参加者の概要を表 1 に示す。研究参加者は女 性看護師 8 名であり、うち 1 名は職位が施設長で あった。年齢は 44 ~ 61 歳 ( 平均 55.3 ± 5.0 歳 )、 看護師歴は 19 ~ 39 年 ( 平均 30 ± 6.0 年 )、現施 設での経験年数は 2 ~ 10 年 ( 平均 6 ± 3.6 年 ) で あった。施設で看取った経験は 5 ~ 39 回 ( 平均 25 ± 12.9 回 ) であった。研究参加施設は関東圏内の 4 施設であり、定員 53 ~ 100 名 ( 平均 78 ± 25.3 名 )、 看護師人数 5 ~ 10 名 ( 平均 8 ± 3.9 名 ) であった。 面接に要した平均時間は 48 分であった。研究参加 者 8 名全員が病院勤務を経て、特養で勤務をしてい た。8 名のうち 2 名が病院勤務後に訪問看護ステー ションでの勤務、3 名が福祉施設での勤務、1 名が 訪問看護ステーション、福祉施設勤務両方を経験し ていた。 以上の 8 名の参加者を対象に、半構造化面接法を 用いてデータを収集し、分析を行った。分析結果の 記述は、以下カテゴリーを【 】、サブカテゴリー を < >、研究参加者が語った言葉は斜ゴシック体 で示す。 2. 特養で何が看取りを可能にしているのか 特養での看取りを可能にしていると考えられる看 護師の考えや行動として、【看護師の能力】、【看護 師の看取りに対する考え】、【本人・家族の看取りの 希望】、【協力的な他職種の存在】、【組織的な方針】 の 5 つのカテゴリーが抽出された。カテゴリー、サ ブカテゴリーを表 2 に示す。 1)【看護師の能力】 【看護師の能力】は、< 看護師の見極める力 >、 < わずかな変化を気に留め観察する力 >、< 家族・ 他職種をサポートする力 > の 3 つのサブカテゴリー から構成された。 < 看護師の見極める力 > では、看護師は高齢者を 観察していく中で食事摂取や睡眠の状態を見極めて いた。 ご飯全部食べれる?食べれないでしょ。やっぱり半 分よね。この食べ物は無理でしょ。この時間は無理 でしょ。寝てる時間が多くなったんだからそれを支 えていきましょうって。この人は二日寝たらね一日 起きてまた、そういうリズムを私達が見極めて支援 していきましょうっていうふうに ( 看護師 G) また、看護師はわずかな高齢者の変化から注意深 く観察する < わずかな変化を気に留め観察する力 > を持っていることが語られた。一応はちょっとした変化を気に留めるようには心が けてます ( 看護師 A) ちょっとおかしいんじゃないかなっていうものから 注意深く見て、あっやっぱりこの人はターミナルに 近いんじゃないかな―って思う時が何回かありまし た ( 看護師 D) < 家族・他職種をサポートする力 > として、介護 士の不安に答えられる看護師の存在が看取りを支え ていることが次のように語られた。 それこそね、日々変化してくるとやっぱ病院に入れ た方がいいとか家族相当揺れますよ・・・そこを受 け止めるのがナースですから、うん。やっぱ看取り のステージに入ったら、ナースのこう見えない、ね、 あのお仕事っていいましょうかねー実はあるんです ね ( 看護師 F) 自分達は、ワーカーさん達をきちっとサポートでき ればいい看取りやっぱりできるなーっていうふうに 思ってます。で一番病気で、ご飯食べさしていいの とか起こしていいとか、そういうことがワーカーさ ん達って心配なんですよ。なのでそれは大丈夫とか できなかったら一緒にやりましょうとか ( 看護師 G) 私たちが新卒の時に覚えたそれを1つずつお話する ような感じで。だけどワーカーさんの中でカチって はまる瞬間があるんですね。やっぱりそういう体の しくみとして自分の体に置き換えたりとかして ・・・ だからそういうひとつひとつ不安や疑問、その不安 が夜の電話とかにも来たりとかしますけど、それは 仕方のないことなので ( 看護師 C) 2)【看護師の看取りに対する考え】 【看護師の看取りに対する考え】では、< 看取り をするという覚悟 >、< 苦しまない看取りが良いと いう考え >、< 馴染みの場所での看取りが幸せとい う考え >、< 自然な形で死を迎える大切さ >、< 病院 で経験した看取りの反省 >、の 5 つのサブカテゴリー が抽出された。 < 看取りをするという覚悟 > として、看護師は最 期まで高齢者を見守り、その姿が崩れようとも看て いかなければならないことを「腹をすえて」という 表現で語っていた。 たぶん看取るっていうことと病院に行かないってい うことが背中合わせになりますので、高熱が出ても、 クーリングと食べられる中での水分補給になります し、褥瘡ができて、ここにできた、あそこにできた と体がこう崩れていく、そこを看ていかなきゃいけ ないんですね。おむつ交換する度にここが赤い、やっ ぱりお世話してる人の体が赤くなったり汚れたり、 便が失禁状態でダラダラだとか。そして食べない、
表 1 研究参加者の背景
ID 施設 年齢 職位 看護師歴 ( 年 ) 現施設での経験年数(年)施設で看取った回数(回)病院勤務経験の有無 施設勤務経験の有無A
a
60 代
看護師
39
4
25
有
無
B
a
40 代
看護師
19
2.5
20
有
有
C
a
50 代
看護師
34
2
30
有
有
D
a
50 代
看護師
28
3
5
有
無
E
b
50 代
看護師
30
10
39
有
有
F
b
50 代
看護師・
施設長
23
10
39
有
無
G
c
50 代
看護師
33
10
8
有
無
H
d
50 代
看護師
34
7
32
有
無
もどすとかマイナスの症状ばかり出てくるのを全部 こう、腹すえて看て行かなければならないっていう ところ ( 看護師 H) < 苦しまない看取りが良いという考え > では、本 人が苦しまないことが一番であると看護師は語って いた。 最期の時に苦しくない、苦しくなければそれが一番 幸せだなーって思ってるので ( 看護師 G) また、< 馴染みの場所での看取りが幸せという考 え > では、同じ人との関わりの中で最期を迎えるこ との幸せを看護師は語っていた。 やはり、場所を変えずに、同じ人との関わりの中で、 最期を迎えられるのが、やっぱりいいのかなあって いうふうに思うときもありますね ( 看護師 D) < 自然な形で死を迎える大切さ > として、看護師 が病院勤務を経て福祉施設勤務になったことで高齢 者が自然な死を迎えることを大切にしており、病院 での辛い経験により看護師の看取りに対する考えが 変わったことを語っていた。 私なんか病院でいわゆる 100%救命救急しなくちゃい けないっていう意識の中にいたんですけどやっぱり ここに、福祉施設にいれば、自然な死を迎えるって いうのは大事かなーっていうのは改めて感じますよ ね・・・100%でなくてもいいんだって思って(看護師H) また、< 病院で経験した看取りの反省 > として、 救命するにあたり、ご家族との最期の時間を奪い、 それで良かったのかという反省が語られた。 相当罪なことをやってきましたから。特に心臓発作 で戻ってこれないとかって、こっちも必死になるか ら『すいません廊下でお待ちください』とか。で、 大事な時間はこちら ( 医療者 ) が全部抱え込んで『ど うぞ』っていった時にはもうこの世に戻ってないわ けですよ。そういうこといっぱいやってきたなあと 思ってね。我々はやることはやりましたって言うけ ど ・・・ それで良かったんだろうかっていうね ( 看護師 F) 3)【本人・家族の看取りの希望】 【本人・家族の看取りの希望】では、< 本人・家 族の希望で決まる看取り >、< 優先される家族の意 向 > の 2 つのサブカテゴリーが抽出された。 < 本人・家族の希望で決まる看取り > は、本人の 気持ちを汲み取ること、家族の希望で行う看取りが 語られた。 気持ちの汲み取り方っていうか・・・本人がこうしてっ ていう意思表示ができればまだ私たちもその辺は考 慮できるんですけど ( 看護師 B) やはり、家族の最終判断だと思います。病院での治 療のもとで最期を迎えたいっていう家族もいれば、 あまり何もしないで、自然な形にまかせる、死を迎 えるっていうのを希望されるかたもいるので ( 看護師 D) 急に具合悪くなったりした時に家族に確認してここ で看取りたいとか治療を望まないといった場合には すぐに家族に来ていただく、とりあえず家族が優先 ですね ( 看護師 A) また、本人が意思表示できないために < 優先され る家族の意向 > が語られた。 認知のかたであり、施設でのご本人の意向が確認で きないがためにご家族の意思決定っていうのがすご く重要になります ( 看護師 B) 4)【協力的な他職種の存在】 【協力的な他職種の存在】として、< 気付きを伝 える介護士の存在 >、< 看取りを受け入れる職員の 存在 >、< 協力的な医師の存在 > の 3 つのサブカテ ゴリーが抽出された。 < 気付きを伝える介護士の存在 > では、介護士が 協力的でもあり、連携が取れていることからちょっ として気付きでも看護師に報告していることを語っ ていた。 ワーカーの方もかなりこうね、経験つんでる人もい ますから。そういう人はわかるっていう ( 看護師 D)
逆に皮膚の状態とかでもワーカーさんのほうが、こ こすごいちょっとなんかおかしいんだけどーって教 えてくれる場合もありますよね ( 看護師 D) < 看取りを受け入れる職員の存在 > では、看取り を受け入れるという意識が職員にあることが語られ た。 んーやっぱりこう今までお話してきたんですけど、 ワーカーさん達がこう看取りをちゃんとする施設 だってことにちゃんと自覚があることとか ( 看護師 G) そして、< 協力的な医師の存在 > が看取りを可能 にしていることを看護師は次のように語った。 うちは嘱託医なんですが、すごく特養が気に入ったっ ていうか ( 笑う )、最初の頃は週 1 回だったんですけ ど最近は週 2 回来てくださるんですよ。で、『先生こ このご家族がちょっとわかんないんですよー』みた いな話をしてるとふいっとこう休みの時に来たりと かして、で先生今ご家族見えてるんですって言うと ふっと行って、お話をしてくださるんで ( 看護師 G) 死亡診断書、ちょっと夜中は無理なんですけれど、 朝方とかになるんですけどもそれも了解得て、ちゃ んと書いていただくんです死亡診断書・・・先生も 看取りに関してもすごい協力的でした ( 看護師 H) 5)【組織的な方針】 【組織的な方針】として、< 施設の方針 >、< 皆が 同じ方向に向かう看取り > の 2 つのサブカテゴリー が抽出された。 < 施設の方針 > では、方針として掲げているから ゆえに看取りが行えていることが語られていた。 ここの理事長がここ ( の施設 ) は、管とかそういうの は一切付けない、最期まで口から、自然に看取って いくっていうのが、それがナースの私としても一番 こうシンプルでわかりやすくってっていうので。そ
表 2 特養で何が看取りを可能にしているのか
カテゴリー
サブカテゴリー
看護師の能力
看護師の見極める力
わずかな変化を気に留め観察する力
家族・他職種をサポートする力
看護師の看取りに対する考え
看取りをするという覚悟
苦しまない看取りが良いという考え
馴染みの場所での看取りが幸せという考え
自然な形で死を迎える大切さ
病院で経験した看取りの反省
本人・家族の看取りの希望
本人・家族の希望で決まる看取り
優先される家族の意向
協力的な他職種の存在
気付きを伝える介護士の存在
看取りを受け入れる職員の存在
協力的な医師の存在
組織的な方針
施設の方針
のやっぱりこう看取りを行う上では大きい支えにな りましたね ( 看護師 G) そして、< 皆が同じ方向に向かう看取り > が施設 での看取りを可能にしていることが語られた。 ドクターとの連携もそうだしワーカーさんとの連携 もそうだし、みんなでチームがこう同じ方向向いて いけるっていうことが、看取りを可能にしていけて るっていうことなんじゃないかなって思います ( 看護 師 G)
Ⅴ.考察
特養での看取りを可能にしていると考えられる看 護師の考えや行動として、本研究では【看護師の能 力】、【看護師の看取りに対する考え】、【本人・家族 の看取りの希望】、【協力的な他職種の存在】、【組織 的な方針】の 5 つのカテゴリーが抽出された。先行 研究では、施設での看取りに際して重要なことは、 利用者と家族の看取りの希望、施設の看取りの方針、 他職種との連携、看取りに向けたケア開始の判断で あると述べられており29)30)31)、本研究でも【本人・ 家族の看取りの希望】、【協力的な他職種の存在】、【組 織的な方針】が重要であることが示唆された。 そして、本研究では、【看護師の能力】、【看護師 の看取りに対する考え】も高齢者の看取りに際して 重要であることが示唆された。【看護師の能力】では、 < 看護師の見極める力 >、< わずかな変化を気に留 め観察する力 >、< 家族・他職種をサポートする力 > が抽出され、< 看護師の見極める力 > では、看護師 が高齢者の看取り時期を見極め、支援していくこと が看取りを可能にしていることが示された。< わず かな変化を気に留め観察する力 > では、わずかな変 化を見逃さず観察することの重要性が示唆され、 < 家族・他職種をサポートする力 > では、看取り体 制に向けて家族・介護士をサポートし、円滑に看取 りが行えるように援助していることが示された。看 取りに積極的に取り組んでいる特養の看護師にはこ れらのような能力があるからゆえに、特養での看取 りが可能となっていることが考えられる。 【看護師の看取りに対する考え】では、特養の看 取りには看護師の看取りに対する考えが大きく影響 していることが示唆された。本研究の看護師は自身 の様々な経験の中から、< 病院で経験した看取りの 反省 > をし、馴染みの場所で、苦しまず、< 自然な 形で死を迎えることの大切さ > を認識していた。そ して、< 看取りをするという覚悟 > が、特養で高齢 者を看取ることを可能にしていた。特養において看 護師の看取りに対する考えを他職種と共有し、日常 のケアをしながら自然な形で死を迎えることができ る環境を整えていくことこそが、特養で看取りを可 能にする看護師の重要な役割であると考える。 独立行政法人福祉医療機構のデータによると、特 養一施設(定員 71 名)あたりの看護職員数は平成 27 年度で 3.9 名であった32)。一方、本研究の参加 施設では、定員 71 名あたりに換算すると看護職員 数は 7.7 名となる。看護職員数が全国平均より多い ということも、本研究参加施設が高齢者の看取りを 可能にしている一要因であると考えられる。 本研究の調査期間は平成 23 年であるが、看取り に積極的に取り組んでいる施設の看護師にインタ ビュー調査し、特養看護師の考えや行動を調査し、 何が看取りを可能にしているのかを質的に明らかに した。その内容は、まだ看取りを行っていない施設 の看取り体制の確立へ寄与すると考えられる。 今後、特養では高齢者の看取りがますます増加す ると予想される。本研究で抽出された特養で何が看 取りを可能にしているかのカテゴリーを踏まえて特 養の看取り体制を整えていくことができれば、高齢 者本人・家族の意向に沿わない高度医療機関への救 急搬送が減少すると同時に、高齢者を看取ることが 可能な高齢者介護施設が増加する可能性があると考 えられる。Ⅵ.本研究の限界および看護への示唆
本研究は、看取りを行っている特養に勤務する看 護師の考えや行動を調査し、看取りの可能性の示唆 を得ることを目的とし、考察したものである。研究 参加者が 4 施設 8 名と少なく、抽出された特養で何 が看取りを可能にしているかについてはすべてを明 らかにしたものとはいえない。また、今回の研究で は看取りをしていない特養看護師にインタビュー調 査を行っていないため、看取りを可能にしている要 因を特定することはできない。今後、参加者数を増 やし、そして看取りを行っていない特養看護師にも 調査する等さらなる研究に繋げていく必要がある。 しかし、本研究は看取りを行うことが難しかった特 養に、看取りを可能にする示唆を得ることができた。文献 1) 内 閣 府.“ 平 成 30 年 版 高 齢 社 会 白 書( 概 要 版 )”.〈http://www8.cao.go.jp/kourei/whitepaper/w-2018/ gaiyou/30pdf_indexg.html〉, ( 参照 2018-08-29). 2)厚生労働省.“平成 28 年度介護サービス施設・事業所調査:結果の概要”.〈https://www.mhlw.go.jp/ toukei/saikin/hw/kaigo/service16/index.html〉,( 参照 2018-08-29). 3) 厚生労働省.“介護保険制度平成 18 年 4 月改正関係通知等”,〈http://www.mhlw.go.jp/topics/kaigo/ hoken/seido/0604/index.html〉,( 参照 2018-08-29). 4)厚生労働省.“第 119 回社会保障審議会介護給付費分科会資料 . 平成 27 年度介護報酬改定の概要”,〈http:// www.mhlw.go.jp/stf/shingi2/0000073442.html〉,( 参照 2018-08-29). 5) 厚生労働省.“統計情報・白書 . 厚生統計要覧 ( 平成 29 年度 ) 第 1 編人口・世帯,第 2 章人口動態,死亡 数・構成割合 . 死亡場所×年次別”,〈https://www.mhlw.go.jp/toukei/youran/indexyk_1_2.html〉,( 参 照 2018-08-29). 6) 加藤昇 , 金銅稔夫 , 森田正則 , 中田康城 , 横田順一朗.老人福祉施設からの救急搬送の現状と課題.日 本臨床救急医学会雑誌.19,2016,29-34. 7) 北出直子.急変加療とその後の再入所の現状と問題点.医療,62,2,2000,89-92. 8) 横堀將司,田村益己,田中俊尚, 増野智彦,佐藤格夫,布施明,辻井厚子,川井真,久志本成樹,横田裕 行.東京都内救命救急センターにおける高齢者心配停止患者収容の問題点.日本臨床救急医学会誌.13,1, 2010,25-30. 9) 森脇義弘,田原良雄,加藤真,豊田洋,小菅宇之,鈴木範行,杉山淳.高齢者の多い救護施設での心配停 止時の対応の準備,盲目的高度救命処置回避に関する施設職員の意識.日本臨床救急医学会雑誌.12, 2009,564-572. 10)伊藤重彦,田口健蔵,井上征雄,岩永充人,木戸川秀生,岡本好司,白石盛雄,安田英信,岩延正夫.北 九州市における高齢者救急の現状と問題点〜とくに介護施設からの搬送事案について.日本臨床救急医学 会雑誌.19,2006,7-12. 11)鈴木幸恵.蘇生処置を行わない意思表示のある終末期がん患者の臨死時に救急車要請となる理由-救急救 命士へのインタビューから把握したこと-.日本プライマリ・ケア連合学会誌.38,2,2005,121-126. 12) 中尾博之,早原賢治,吉田剛他.救急医療と介護福祉の連携構築のために - 神戸市における介護施設から の CPA 症例搬送の検討.日本臨床救急医学会誌.11,2008,428-433. 13)森脇義弘,富田康彦,田原良雄,杉山淳.集団生活施設での状態悪化・心停止に備えた本人の事前意思確 認と看取りの可能性.日本プライマリ・ケア連合学会誌.37,2,2014,133-137. 14) 林幸子,小野幸子,坂田直美,原敦子,兼松惠子,奥村美奈子,梅津美香,古川直美,北村直子,齋藤和子, 平山朝子.特別養護老人ホームにおける死の看取りの実態―その 2 G 県下 C と T 地区の看護職を対象に. 岐阜県看護大学紀要.4,1,2004,45-51. 15) 曽根千賀子,千葉真弓,細田江美,松澤有夏,渡辺みどり.長野県の介護老人福祉施設の終末期ケア体制 このことは、高齢者の望む場所で最期が迎えられる ことができるような看取りへ向けたケアへの第一歩 となったと考えられる。 謝辞:本研究にご協力いただきました施設・参加者 の皆様に心より感謝申し上げます。 利益相反:本研究における利益相反は存在しない。 著者資格: KI は研究の着想・データ収集・分析・ 解釈をし、原稿を作成した。TK は、研究の着想・分析・ 解釈に貢献し、最終原稿について確認した。 付記:本研究は、KI の修士学位論文の一部を加筆・ 修正したものである。
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