IRUCAA@TDC : 培養線維芽細胞に対する各種保存液の影響
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(2) 平成 21 年度. 卒業論文. 培養線維芽細胞に対する各種保存液の影響. 東京歯科大学 NO.50. 第 115 期生. 木村. 【指. 真由美. 導】. 東京歯科大学歯科保存学講座 齋藤健介. 助教. 中川寛一. 教授.
(3) 緒言 再植時における歯根膜組織の状態はその後の治癒に大きな影響を与えるとされている 1)。 再植歯の理想的予後としては、構造的および機能的に正常な歯周組織を有する歯と同じレ ベルで治癒することである。再植歯歯根膜の欠落、変性は、炎症性吸収や置換性吸収とい った歯根吸収を引き起こすとともにその予後に大きな影響を与える. 2)。Andreasen. らは歯. 根膜細胞の治癒に影響を及ぼす因子として、歯根の発育状態、歯牙が口腔外に取り出され てから乾燥状態に放置した期間、即時再植の有無、唾液や生食により湿潤状態に保存した 期間があると述べている 3)。特に臨床では、歯牙が口腔外に取り出されてから再植立される までの時間的因子と、この間の環境維持が重要な意味をもつ。従って歯根膜の乾燥を防ぎ、 歯根膜を vital な状態で存在させることが再植の成功の鍵となる 4)。 現在までに歯牙保存液として,身近な生理的塩類溶液である生理食塩水や,入手が容易で 保存液として有用性が報告されている牛乳や,移植臓器保存液などが比較検討されてきた 5,6)。巖らは、Via. Span、低温殺菌牛乳が滅菌生理食塩水、ヒト安静唾液よりも再植歯保存. 液として高い有用性があり再植歯保存液の種類と再植の予後とは密接な関係があると述べ ている 7) 。Martin や Pileggi らは抜去歯を 30 分間乾燥状態に放置し、HBSS、牛乳、生理 食塩水、50%プロポリス、100%プロポリスにて 45 分間保存後、ディスパーゼⅡとコラゲ ナーゼにて処理した時の生存歯根膜細胞数について比較検討を行った。プロポリスは他の 保存液に比較して有意に生存細胞数が多く認められ、歯根膜細胞の保存に適していると述 べている 8)。また Velayutham らは、南アジア諸国や東南アジアといった地理的条件下で容 易に入手可能であるココナツウォーターが、HBSS,牛乳,生理食塩水,プロポリスと比較し, 細胞生存率が高い結果を示したと述べている 9)。Teeth Keeper NEO は歯根膜細胞を保護す るために開発された保存液である.歯根膜の乾燥を防ぎ,浸透圧と pH の安定化により歯根膜 細胞の活性を維持する 10)。そこで今回、Teeth Keeper NEO を含む各種歯牙保存液が歯根 膜組織に与える影響を解明するために、保存液中における培養線維芽細胞の生存率の推移 と、細胞形態の変化について検討を行った。 方法および材料 1.実験材料 1:細胞培養 マウス線維芽細胞株 L929. 大日本住友製薬株式会社. 培養液 αMEM. Invitrogen. 15%fetal bovine serum. Sigma. 1%gentamysin. Invitrogen. 2:歯牙保存液 Teeth Keeper NEO (ネオ製薬工業株式会社): TK 群.
(4) Save-A-Tooth (Phoenix-Lazerus,Inc) : SAT 群 emt ToothSaver (Smart Practice): EMT 群 対照. 滅菌生理食塩水 (大塚製薬工業株式会社): control 群. 2.実験方法 〔1〕L929 の培養 15%FBS、1%gentamysin 含有αMEM を加え、37℃、5%CO2、95%O2 湿潤環境下で培 養し、confluent になった時点で,0.25%Trypsin-EDTA 溶液(Life technologies,Inc.,New york,USA)を用いて、細胞をディッシュ面から剥離し、15%FBS、1%gentamysin 含有α MEM 内に分散させ、この細胞を継代培養した。実験には 5 代から 10 代継代培養した細胞 を使用した。 〔2〕細胞増殖能の測定 2×103 cells /well に調整した PDL 細胞を細胞培養用 96Flat bottom White Polystyrol (Falcon 3847,Becton Dickinson Labware,New Jersey,USA)の各ウエルに播種し、37℃、 5%CO2、95%O2 湿潤環境下で 72 時間培養した。その後,培養液を除き,PBS で 2 回洗浄後,4 種類の各被験液を細胞に注加し,交換直前を 0 時間として 4℃にて 3,8,24,48 時間作用させた. その後,再度 PBS で洗浄した後,それぞれの期間における全細胞数に相当する蛍光吸光度を 和光純薬工業株式会社製 cytotoxic fluoro test wako を用いて FACLS 法にて計測を行った。 得られた蛍光強度を元に以下の式より相対的細胞生存率を算出した。 0hr の蛍光強度-(0hr の蛍光強度-各期間の蛍光強度) 相対的細胞生存率(%)=. 0hr の蛍光強度. なお統計処理にはクリスカルワリス検定のターキーテストを行い、同一時間における対照 群と実験群間での比較を行った。 〔3〕形態観察 4×104 の PDL 細胞を直径 35mm の細胞培養用ディッシュ(Falcon 3801,Becton Dickinson Labware,New Jersey,USA)に播種し、37℃、5%CO2、95%O2 湿潤環境下で 48 時間培養 後、培養液を除き、PBS(-)で 2 回洗浄し、各被験液を添加,25℃にて 10,30,60,および 120 分間作用させた。その後、被験液あるいは対照の 10%FBS 含有 DMEM を除き、PBS(-) で 3 回洗浄した後、再び培養液を注加し、作用直後(培養 1 日目)および 7 日目に細胞形 態を位相差顕微鏡にて観察した。 1.細胞生存率 各被験液を作用させた細胞は 3 時間および 8 時間後までは高い細胞生存率を示すものの、 液体の種類に関係なく減少する傾向を示した。24 時間後では対照群は他の実験群に比べて.
(5) 顕著に低い細胞生存率を示した.48 時間後では全ての実験群において低い細胞生存率を示 した。(Fig.2) 2.形態変化 1)3 時間作用時 3 時間作用時において TK(Fig.3a)、SAT(Fig.3e)、あるいは EMT(Fig.3i)を作用させた細胞 は,紡錘様形態で原形質突起の著明な進展を示し、液交換時の細胞が示した形態と類似であ った。滅菌生理食塩水(Fig.3m)を作用させた細胞は紡錘様形態を示す細胞は認められるもの の円形を呈するものが多く認められた。 2) 8 時間作用時 8 時間作用時において TK(Fig.3b)を作用させた細胞は 3 時間作用時の細胞と同様に正常な 線維芽細胞様の形態を呈したが、SAT(Fig.3f)および EMT(Fig.3j)のいずれかを作用させた 細胞は紡錘様形態を示す細胞は認められるものの、円形を呈するものが多く認められた。 滅菌生理食塩水(Fig.3n)を作用させた細胞は円形を呈するものが多く認められた。 3) 24 時間作用時 24 時間作用時において TK(Fig.3c)を作用させた細胞は 3 時間および 8 時間作用時の細胞と 同様に正常な線維芽細胞様の形態を呈していた。SAT(Fig.3g)および EMT(Fig.3k)のいずれ かを作用させた細胞は,紡錘様形態を示す細胞は認められるものの円形を呈するものが多く 認められ,8 時間作用時のものとの差異は認められなかった。 滅菌生理食塩水(Fig.3o)を作用させた細胞においても、円形を呈するものが多く認められ、 8 時間作用時のものとの差異は認められなかった。 3) 48 時間作用時 48 時間作用時において TK(Fig.3d)を作用させた細胞は、紡錘様形態を示す細胞が認められ るものの円形を呈するものが多く認められた。SAT(Fig.3h)および EMT(Fig.3l)のいずれか を作用させた細胞は、円形を呈するものが多く認められた。滅菌生理食塩水(Fig.3p)を作用 させた細胞は円形を呈するものが多く認められ,細胞の集密度も低下していた。 考. 察 歯牙の再植は,構造的および機能的に正常な歯周組織を有する歯と同じレベルで治癒する. ことを目標としている。歯牙の再植の成功は,主に移植歯に付着している歯根膜の生死に依 存おり、歯根膜の恒常性と再生の機能が特に重要であると考えられる。歯根膜の恒常性は、 細胞の増殖および分化,コラーゲンのターンオーバー、セメント質吸収および修復、固有歯 槽骨の改造などの細胞活性の調節によって維持されている 1)。歯根膜は pH や浸透圧の変化 に弱く、歯根面上に付着している歯根膜の損傷の大きさや歯髄の感染の有無によって、置 換性吸収、炎症性吸収、表面吸収といった歯根吸収が生じる。再植を成功させるためには、 可能な限り迅速に処置を行うことが必要である。患者の歯科医院への到着までの間、再植.
(6) 歯の歯根膜の乾燥を防ぎ、その活性を維持させるために、適切な再植歯保存液を使用する ことが重要である 11-13)。 Teeth Keeper NEO は東京歯科大学歯科保存学講座において開発された歯牙保存液であ る。磯野らはサルの上顎側切歯を抜歯し Teeth Keeper NEO に 24 時間浸漬保存後、再植立 した場合の歯牙周囲組織の変化を検討し、最終的に機能的配列を示す歯根膜線維束が大部 分を占め、歯根表面には骨芽細胞がそれぞれ近接して規格的に配列する所見が得られたと 述べている 5)。今回の実験では、L929 の細胞生存率は 24 時間後までは高い値を示し,その 後 48 時間後では顕著に減少するものの、他の実験群にくらべ有意に高い値を示した。細胞 形態においても 24 時間後までは紡錘様形態で原形質突起の著明な進展を示し、液交換時の 細胞が示した形態と類似しており、48 時間後では円形を呈するものが多く認められた紡錘 様形態を示す細胞が確認された。この理由としては Teeth Keeper NEO が塩化カリウム、 塩化マグネシウム、硫酸マグネシウムなどの無機塩類、浸透圧調整剤および、糖類から構 成されていることが関係していると考えられる。保存液の浸透圧と細胞内 LDH 活性および 細胞増殖能との間に相関性が存在すると巌らは述べており、また Velayutham らはココナ ツウォーターが高い細胞生存率を示した理由としてココナツウォーターの無機塩類などの ミネラルの栄養分が関与していると述べている 17)。emt Tooth Saver および Save-A-Tooth は,今回の実験では同様の結果を示した。細胞生存率は 24 時間後までは Teeth Keeper NEO と同様に対象に比較して有意に高い値を示し、その後 48 時間後では顕著に減少した。細胞 形態においても 3 時間後では紡錘様形態で原形質突起の著明な進展を示し、液交換時の細 胞が示した形態と類似であった。24 時間後では紡錘様形態はあるが円形細胞が多く認めら れ、48 時間後では円形を呈するものが多く認められた。Teeth Keeper NEO, emt Tooth Saver および Save-A-Tooth はともに歯牙保存液として開発されており、24 時間後までにお いて細胞形態にはやや差がみられるものの細胞生存率はともに高い値を示したことから保 存液として十分に有用性があると言える。浸透圧や,保存液を構成する成分がどのように歯 根膜の保存に関係するかについて,今後検討を行っていく必要がある。対照として用いた生 理食塩水は今回の実験では、細胞生存率においては 3 時間後までは他の被験液と同様に高 い値を示したが、8 時間後では有意に低い値を示し、24 時間後では極端に細胞生存率が減 少していた。細胞形態においては 3 時間後では紡錘様形態はあるが円形細胞多く認められ た。8, 24 時間後では円形を呈し、48 時間後では円形細胞が多く認められ、細胞の集密度は 低い状態を呈した。本研究では Teeth. Keeper. の 3 時間後の値が近似していたことから,Teeth. NEO の 24 時間後の細胞生存率と対照液 Keeper. NEO に保存した場合、脱落から. 24 時間後の再植では良好な成績を得られることが示唆された。しかし 48 時間以降では Teeth. Keeper. NEO でも 20%以下を示し生存している細胞も活性化が低下していると. 考えられる。 今回の実験では、再植歯保存液として使用した 4 種類の被験液は4℃下で L929 細胞に作用させたが、実際に再植歯の保存に用いる場合、至適温度は液体の種類によって 異なることが考えられる.今回の実験における被験液と L929 細胞との関わりから,保存液の.
(7) 種類と再植の予後を考察すると Teeth Keeper NEO,emt Tooth Saver,および Save-A-Tooth で 24 時間以内,滅菌生理食塩水で 3 時間,の浸漬保存であれば,再植の成功に大きく寄与する ことになると思われる。現在,緊急時においては,入手が容易で,安価で,かつ殺菌済であると いうことから,牛乳が保存液として推奨されているが,今後再植の成功率を高めていくため には全ての所要条件を満たす理想的な再植歯保存液の開発が望まれる. 参考文献 1) 下野正基,飯島国良:治癒の病理臨床編第 3 巻歯の移植・再植;医歯出版,85-88,1995. 2) 巌 恭 輔 : ヒ ト 歯 根 膜 細 胞 へ の 影 響 か ら み た 再 植 歯 保 存 液 の 有 用 性 ; 日 歯 保 誌 39(1),110-127,1996. 3) Andreasen JO,. Borum MK,. JacobsenHL, and. Andreasen. FM: Replantation. of 400 avulsed permanent incisors.4.Factors related to periodontal ligament healing ;Endod Dent Traumatol 11(2):76-79,1995. 4) Louis H.Berman,Lucia Blanco,and Stephen Cohen(中川寛一監訳):外傷歯治療のクリニ カルガイドライン;わかば出版,95-99,2007. 5) 磯野珠貴:歯牙再植後の歯周組織の治癒に対する保存液の効果に関する研究;日口腔イン プラント誌 11(3),47-55,1998. 6) 河合利方:各種溶液が脱落歯歯根膜細胞に与える影響第1報ソフトコンタクトレンズ保 存液について;小児歯科学雑誌第 36(4),684-691,1998. 7) 河合利方:各種溶液が脱落歯歯根膜細胞に与える影響第2報市販の脱落歯保存液の影響; 小児歯科学雑誌(37)1,31-38,1991. 8) Martin MP, Pilleggi RA :A quantitative analysis of Propolis: a promising new storage media following avulsion ;Dent Traumatol(20)85-9, 2004. 9) Velayutham Gopikrishna, MDS,. Paruinder Singh Baweja, BDS, Negedrababu. Venkateshbabu, BDS, Toby Thomas, MDS, and Deivanayagam Kandaswamy, MDS: Comparison of Coconut Water, Propolis, HBBS, and Milk on PDL Cell Survival; JOE(34) ,587-589,2008 10)中川寛一:脱落歯の保存と歯牙保存液についての考え方;the Quintessence21(1),133‐ 141,2002. 11)Jens O. Andreasen(月星光博監訳):カラーアトラス歯牙の再植と移植の治療学;クインテ ッセンス出版,26‐79,1993. 12) 白川正順:失敗しないための歯の移植・再植;日本医療文化センター,10‐11,1988. 13) 月星光博:自家歯牙移植;クインテッセンス出版,28-31,1999..
(8) Fig.1 歯牙保存液. *. 細胞生存率 (%). *. *. Time (hr). Fig.2 細胞生存率. * ; p< 0.05 versus control.
(9) 0 hr. 500μm. 3 hr. 8 hr. 24 hr. 48 hr. b. c. d. e. f. g. h. i. j. k. l. m. n. o. p. TK. a. SAT EMT control. Fig.3 形態変化.
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