Posted at the Institutional Resources for Unique Collection and Academic Archives at Tokyo Dental College, Available from http://ir.tdc.ac.jp/
Title
出血点がわからない場合の止血方法はなんでしょうか
Author(s)
髙野, 正行
Journal
歯科学報, 120(2): 197-198
URL
http://hdl.handle.net/10130/5157
Right
Description
日常臨床のなかで,急に出血を来たして止血に苦 労することがあります。とくに外傷や抜歯,粘膜切 開に際して遭遇して,一時的な圧迫などで早期に止 血することもありますが,創部が広かったり出血量 が多かったりすると出血点が分からず止血に苦労す ることもみうけられます。このようなときにはどの ように対応すればよいでしょうか。ここでは日常の 歯科臨床で遭遇する出血とその止血法について説明 します。 1.出血の種類と止血法について まず,口腔からの出血についておさらいしておき ましょう。口腔顎顔面領域はその解剖学的特殊性か ら小さな動脈や静脈が多く,外科的処置をしている と,ときに急性の出血に遭遇します。これらは出血 している血管の種類によって,動脈の損傷による動 脈性出血,静脈の損傷による静脈性出血,毛細血管 からの出血に分けられます。動脈性出血は拍動性で 鮮紅色の勢いの強い出血が特徴です。血管の太さに もよりますが,出血はみるみると創部からあふれ, ときに口腔から溢れ出すくらいの量になります。一 方,静脈性出血は動脈性ほどの勢いはなく,暗赤色 をしています。毛細血管からの出血は,色はやや鮮 やかですが創の範囲は広くても勢いのない弱い出血 がほとんどです。 止血法には大きく分けて,指圧法,圧迫法,栓塞 法,緊縛法などの一時的止血法と,血管結紮,括約 結紮,挫滅捻転法,焼却法などの永久的止血法があ ります。さらにこれらの止血法と併用する止血剤に は経口的,経静脈的に投与するものと,局所的に応 用するものとに分けられます。 2.動脈性出血を疑うとき 出血点がわからないとき,それが動脈性を疑う急 速で強い出血の場合には,焦らず速やかに創部を指 やガーゼで押さえ10∼20分間,離さずに圧迫し続け ることが大切です(圧迫法)。このような出血は,口 腔では口唇部,オトガイ部(オトガイ動脈),口蓋部 (大口蓋動脈),舌(舌動脈),口底部(舌下動脈),智 歯部(頰動脈)などの部位で生じることが多いので す。時間が経ったら,先の細いサクションチップを 準備して,圧迫した部分を少しずつずらして緩めな がら出血点を探します。まだ勢いのある出血があれ ばさらに圧迫が必要になることもあります。出血点 が特定できたら,ごく細い血管ならば電気メスによ る凝固も可能ですが,ある程度の太さの血管は止血 鉗子(ぺアンやモスキート鉗子)や先の細いピンセッ トで摘んで,縫合糸を懸けて鉗子の先を滑らせてで きるだけ血管のみを結紮するよう に し ま し ょ う (図)。もし動脈が特定できない場合には,周囲の組
臨床のヒント
Q&A
口腔外科系
Q&Aコーナーは,東京歯科大学の3病院の臨床研修歯 科医から寄せられた質問に対しての回答です。回答は本 学3施設の専門家にお願い致します。内容によっては基 礎や臨床,あるいは歯科や医科と複数の回答者に依頼す る場合もあります。毎号掲載いたしますので,会員の皆 様もご質問がございましたら,ぜひ東京歯科大学学会ま でeメールかファックスで依頼していただきたいと存じ ます。必ずご期待に添えることと思います。今号は止血 が困難な状況に関する質問です。Question
出血点がわからない場合の止血方法はなんでしょうかAnswer
197 ― 95 ―織ごと結紮する括約結紮法や集約(収束)結紮法を行 います。ただしこの場合,動脈の周囲には神経が伴 走していることも多く,これらを結紮して損傷しな いように十分に注意する必要があります。 また,動脈性出血では圧迫止血後に一時的に止血 が得られた場合に,そのまま粘膜表面のみを縫合閉 鎖しただけでは,術後の血圧変動,抗凝固薬服用な どにより,組織間隙に潜在性の出血をきたし,血腫 が気道を圧迫して重大な医療事故の引き金となるこ となどもありうるため,状況によっては,いったん 落ち着いてから二次医療機関に転送するなど危険を 予測した慎重な対応が必要です。 3.静脈性出血を疑うとき 静脈性の出血では,適切な創部の圧迫法によりた いていの出血は止血傾向が得られることが多いで す。それでも止血しない場合には,ゼラチンスポン ジ(ス ポ ン ゼ ルTM ),酸 化 セ ル ロ ー ス(サ ー ジ セ ルTM ),アテロコラーゲン(インテグランTM )などの 局所止血剤を創部に密着させてさらに圧迫すると効 果的です。止血が確認できたら周囲組織に注意しな がら創部をやや深めに縫合閉鎖しましょう。ただし 術後の組織内出血については動脈性出血と同様に注 意が必要です。 4.抜歯窩からの出血のとき 抜歯窩から強い出血があった場合,止血点を特定 するのは難しいことがあります。多く見られるの は,智歯抜歯に際しての下顎管内の下歯槽動静脈か らの出血,歯槽骨の亀裂骨折に伴う骨面からの出血 などです。ガーゼタンポンで圧迫して多少の止血が 得られたら,サクションで慎重に吸引して,おおよ その出血点を確認します。次に抗生物質含有軟膏を 塗ったリボンガーゼを抜歯窩に塡入して圧迫止血し ます。 出血がみられなくなったら歯肉を縫合して,さら にその上から印象採得して,得た模型で止血用シー ネ(保護床)を作成して装着するのが確実です。確認 のためエックス線検査を行いましょう。このタンポ ンガーゼと保護床は1週間は留置しておいた方が確 実です。また比較的小さな抜歯窩ならば,ガーゼの 代わりに抜歯後の治癒促進の目的で発売されている コラーゲン止血材(テルプラグTM )を用いるのもよ いでしょう。 5.まとめ 手術中に急な出血があったら,まず焦らずに指や ガーゼで確実に創部を圧迫しましょう。圧迫後にあ る程度の止血が得られてから,出血点を探して確実 な止血操作を行います。止血後もしばらくは患者様 の状態に変化がないか注意が必要です。 Answer:髙野正行 東京歯科大学口腔顎顔面外科学講座 参考文献 1)杉崎正志 編著:切開と縫合の基本と臨床,ヒョーロン パブリッシャーズ,東京,2008. 2)野間弘康,瀬戸皖一 監修:標準口腔外科学 第4版, 医学書院,東京,2015. 3)口腔外科学会編:イラストで見る口腔外科手術,クイン テッセンス出版,東京,2010. 4)片倉 朗 編:新・口腔外科をはじめましょう,デンタ ルダイヤモンド社,東京,2020. 図 出血点が特定できたら,血管を止血鉗子で摘んで吸 収糸などで結紮する(血管結紮法)。もし血管が特定で きなかったら周囲の組織ごと掴んで集約結紮法を行 う。 198 歯科学報 Vol.120,No.2(2020) ― 96 ―