Posted at the Institutional Resources for Unique Collection and Academic Archives at Tokyo Dental College,
Available from http://ir.tdc.ac.jp/
Title
女性の医学部入学制限について
Author(s)
佐々木, 文
Journal
歯科学報, 118(5): 5i-5i
URL
http://hdl.handle.net/10130/4758
Right
Description
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巻 頭 言 ⑤ ��������������
女性の医学部入学制限について
佐々木
文
最近某医科系大学が入試得点操作により女子の入学を抑制していたことが発覚し,マスコミから非
難の集中砲火を浴びている。私も自分が医学部を志していた高校生や医学部学生の頃にこのニュース
を聞いたら大いに憤慨したに違いないが,現在の医療現場を知る立場としては,非難を承知で言わせ
ていただくがそれほど責められる方策とは思えない。
近年女性医師の割合は全体的に20%,30代以前の若年層では30%を超えるといわれている。施設に
よっては構成医師の男女比が逆転している診療科や部門もしばしば見受けられる。そのような職場で
複数の女性医師が,あるいは部門の核となっている女性医師が産休・育休に入ると職場が機能不全に
陥る。これは医療業界に限らず女性の社会進出が進んだ現代社会一般にみられる現象でもある。職場
の応援体制が悪いと言ってしまえばそれまでだが,産休育休に入る女性の補充が困難なことも多く,
周囲の男性や子供のいない女性に仕事のしわ寄せが行き彼ら彼女らが疲弊しているのも事実である。
病理医を志すものは従来学年に一人いるかいないかという程度で少なく,さらに病理解剖の負のイ
メージが強く女性に敬遠されていたようだが,近年は眼科,皮膚科,麻酔科などと並び「女性向きの
科」として見直され女性に選択される傾向がある。大学の病理学教室などでは,「女性も働きやすい」
を売りにして学生を勧誘することも多い。その結果,若い世代の病理医は全国的に女性の割合が増え
ている。確かに病理医は勤務医であっても当直がなく,夜間や休日の突然の呼び出しもない(病理解
剖や緊急を要する移植医療関係の病理診断のため待機することはある)ので,子育て中の女性でも比
較的働きやすいと思われる。しかし,この楽な側面を重視して病理を選択する医学生が男女問わず増
えてきていて困っている。
病理の仕事は,実は結核菌,肝炎ウィルスなどの危険な病原体やホルマリンなどの有害物質にさら
される機会が多く,妊娠,出産を控えた女性にとって必ずしもいい環境とはいえない。また,大学病
院などは別として病院の病理医は一人(いわゆる一人病理医)であることが多くなかなか休みを取りづ
らい。しかし,最近の若い女性病理医には妊娠すると体調の良し悪しにかかわらず当然のように病理
解剖や切り出し*
,休日待機の免除,一人病理医としての市中勤務拒否を求めて来る人がいる。もち
ろん母体への配慮は必要ではあるが,3K(汚い,臭い,きつい)仕事は当然のように他の人にお任
せ,自分は快適な室内での顕微鏡診断と専門医取得のための勉強だけ,自分の仕事を肩代わりしてく
れた人への感謝の気持ちもなくやってもらって当然という態度を目の当たりにすると残念な気持ちで
いっぱいである。仮に職場の8人中女性が1人でそれがそのような人物ならまあ仕方がないかと思う
が,8人中5人が女性でそのうち3人がそのような人物だと職場が崩壊する。出産・子育てをしなが
らも人一倍素晴らしい仕事をしている女性医師もたくさん知っており尊敬しているが,前者のような
女性医師はあまり増えないで欲しいというのが本音である。
医歯学系の大学に進む者は,学んで自身の教養を高めて満足するだけではなく身に着けた知識でそ
の後社会に貢献する使命を持っている。潜在的に社会に貢献できない可能性のある女子の入学を抑制
するのはそれほど責められることであろうか。いっそのこと,大学の入学定員を例えば男子80人,女
子20人として募集するのも一案ではないかと思う。なお,同じ大学で行われていた便宜を図っても
らった見返りの裏口入学は許されない行為と思っている。
一病理医としては,男女を問わず気概のある者が今後も病理医を志して欲しいと願っている。
*
手術で摘出された材料を観察して診断に必要な部分を選び出し,標本を作製するためにメスで切り出す作業。病理診断の要
となる重要な作業である。設備が不十分だと揮発したホルマリンにさらされる。
(東京歯科大学市川総合病院臨床検査科 教授)