Posted at the Institutional Resources for Unique Collection and Academic Archives at Tokyo Dental College, Available from http://ir.tdc.ac.jp/
Title
抜歯に際し,不良肉芽組織掻爬はどこまで除去すればよ
いでしょうか?
Author(s)
柴原, 孝彦
Journal
歯科学報, 118(5): 455-457
URL
http://hdl.handle.net/10130/4756
Right
Description
455 歯科学報 Vol.118,No.5(2018)
臨床のヒント
Q&A 65
口腔外科系
Q&Aコーナーは,東京歯科大学の3病院の臨床研修歯 科医から寄せられた質問に対しての回答です。回答は本 学3施設の専門家にお願い致します。内容によっては基 礎や臨床,あるいは歯科や医科と複数の回答者に依頼す る場合もあります。毎号掲載いたしますので,会員の皆 様もご質問がございましたら,ぜひ東京歯科大学学会ま でeメールかファックスで依頼していただきたいと存じ ます。必ずご期待に添えることと思います。今号は抜歯 後の掻爬に関する質問です。Question
抜歯に際し,不良肉芽組織掻爬はどこまで除去すればよいでしょうか?Answer
はじめに 抜歯しなければならない理由は,歯冠・歯根の崩 壊,重度の歯周病で動揺歯,根尖病巣のための動揺 歯,矯正治療上の便宜抜去,などが挙げられる1)。 抜歯に際してX線画像検査は必須で,当該歯の病変 のみならず周囲の歯槽骨の状態も把握する。歯根膜 空隙,歯槽硬線の状態,そして顎骨内に骨透過像が 観察される場合はその周囲に骨硬化所見があるか否 かもチェックする。骨硬化所見があれば慢性炎症の 存在が推測できる。抜去歯の根尖に位置する不良肉 芽の除去は必要であるが,硬化所見を呈した骨組織 を除去する必要はない。生体反応の一環であり,病 的なものではない。抜去すべき歯と周囲骨の状態を 知って,掻爬は行っていただきたい。 抜去される歯の状態 •根尖病巣がある場合 抜歯前のX線画像から当該歯根尖(または根側)明 確な骨透過像として観察される。透過像の周囲には 緻密化した骨様所見があり骨硬化像が確認できる。 術中所見で透過像には図1のような歯根嚢胞または 肉芽が占拠しているはずである。後述のような歯科 用鋭匙の使い方を行えば,嚢胞は容易に母床骨から 剥離,摘出できる。骨面も硬く緻密な場合が多い。 根尖病巣が不良肉芽組織様の場合は,骨面と癒着し ているためやや剥離に難渋し,骨面も粗造なことが 多い。可及的に鋭匙による摘出を行うが,不良肉芽 組織残存を防ぐため最後に骨バーによる母床骨の一 層削去が望ましい。骨バーを低速で使用すると過剰 な骨削去なく,軟組織のみが分離できる。 •重度歯周病の場合 当該歯の歯根周囲に骨透過像を認める(図2)。根 図1 下顎前歯にみられた根尖病巣 嚢胞を形成していた。 ― 87 ―456 歯科学報 Vol.118,No.5(2018) 尖病巣による骨吸収と異なり,上皮の裏打ちを伴っ て歯の周囲の骨破壊と吸収が起こっている。すなわ ちポケットの慢性炎症によって歯周ポケットの伸展 は進み,対側の内縁上皮との連続性が得られるまで に至る。歯は歯槽骨の支えがなく浮遊状態となって いる。この際は抜歯後の掻爬は必要なく,そのまま 圧迫か縫合閉鎖で治癒へ導くことができる。逆に, 掻爬すればいたずらな出血に悩まされ,患者へ要ら ぬ負担を強いることになる。歯周病に罹患した歯の 抜去では,不良肉芽組織があればその部のみの掻爬 に留める。抜歯後幼弱な上皮の裏層が確認されれ ば,肉芽組織の掻爬は必ずしも必要ではない。肉芽 =感染源(不良肉芽)ではなく,肉芽そのものは良性 で瘢痕治癒が期待できるので,残存させても支障は ない。 •境界不明瞭な透過像の場合 慢性炎症がないのに骨吸収所見があり,吸収像の 周囲に骨硬化像を伴っていない場合は要注意である (図3)。悪性腫瘍の病態も念頭におき注意深い観察 が必要となる。「がん」でなくても抜歯後の掻爬は 不良肉芽組織の除去のみに留め,一層の骨削去は行 わない。肉芽掻爬後の骨面は租造だと思われるが, 新鮮骨面の明示までの骨削去は敢えてしない。可能 であれば肉芽の病理検査を行うべきである。 •健全歯の便宜抜歯の場合 掻爬すべき根尖病巣または不良肉芽はないので, 摘出・掻爬する必要はない。摘出・掻爬を敢えて行 えば健全な歯根膜線維を損傷し剥離が起こるので, 抜歯後治癒不全(ドライソケット)の可能性が出てく る。埋伏歯(例えば智歯)の抜去に際しても根尖病巣 図2 全顎にわたる重度歯周病 歯槽骨は著しく吸収している。 図3 下顎左側2から5に至る歯肉がん 歯槽骨は歯周病と同様に吸収所見がある(左)。 当該歯肉には腫脹と潰瘍がみられる(右)。 ― 88 ―
457 歯科学報 Vol.118,No.5(2018) などはないので,掻爬の必要はない。歯冠周囲炎を 起こしていれば歯冠周囲の肉芽除去は必要である。 智歯の場合は歯胚,根未完成歯の場合は歯髄組織が 掻爬の対象となる。 •不良肉芽組織の掻爬に用いる器具 どのような歯の状態であっても抜歯後の不良肉芽 組織の掻爬に使用する器具は歯科用鋭匙が適してい 2) る(図4)。抜歯後,抜歯窩に歯科用鋭匙を挿入す るが,病巣付近で鋭匙凹面を抜歯窩壁に当て鋭匙の 背を用いて歯槽骨面から肉芽組織を剥離していく。 抜歯窩全周で同様なことを行い不良肉芽や根尖病巣 等を一塊として摘出する。しかし抜歯窩の掻爬は創 縁から創面,創底まで全面で行ってはならない。必 要以上に窩壁の歯根膜線維を除去すればドライソ ケットの原因となってしまう。必要最小限に留めた い。 不良肉芽組織の除去がスムーズにできず母床骨が 粗造な場合は,骨バーを用いて削去する。その際, 低速回転のエンジンで行うとより効果的に,母床骨 への傷害も少なく剥離できる。 おわりに 抜歯後の掻爬は必ず行わなければならない処置で はない。前述のようにどのような歯であるか,術前 の画像所見はどうかを先ず確認をして臨むべきであ る。明らかな不良肉芽組織または根尖病巣があれば 可及的な除去が望ましい。残存させれば,治癒不 図4 歯科用鋭匙の使い方 鋭匙の背を使って骨面から病巣を剥離する⑴。 同様な操作を抜歯窩全域にかけて行う⑵。 分離した病巣をスプーン状の部分で摘出する⑶。 全,二次感染,残留嚢胞などを継発する。また過剰 な掻爬も患者に負担を掛け,治癒不全を惹起するか もしれない。掻爬にあたっては適切な器具を選択 し,正しい使い方で対応していただきたい。 文 献 1)野間弘康 編:カラーアトラス抜歯の臨床,医歯薬出版, 東京,1998. 2)野間弘康 編:イラストでみる口腔外科手術,クイン テッセンス出版,東京,2011. Answer:柴原孝彦 東京歯科大学口腔顎顔面外科学講座 ― 89 ―