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第第第第 1 章章章章 序序序序 論論論論

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(1)

第 第 第 第 1 章 章 章 章

序 序 序 序 論 論 論 論

1.1

研究の背景 研究の背景 研究の背景 研究の背景

近年の都市機能・社会生活の向上および情報化社会の到来により,品質が良く,また信 頼性の高い電力供給がますます要求されている.これらの社会的要求に応えるために,電 力系統の運営技術の高度化が図られてきた.これと同時に,信頼度の高い電力機器の開発・

導入がなされてきている.このような状況において,電気設備の保守の合理化をはかり,

その安全性の確保と事故の未然防止が必要である(1)

電力設備には,発電設備,変電設備,地中電線路,架空電線路,産業用電動機が主な設 備であり,これらの設備を構成する代表的な機器として,発電機などの回転機,変圧器,

ガス絶縁開閉装置(GIS),コンデンサ,電力ケーブル,酸化亜鉛避雷器などがある(2).これ ら電気機器の性能の低下には,それらの機器を構成している絶縁材料の劣化が原因となっ ていることが多い.絶縁方式としては,1)ガス絶縁(六フッ化硫黄ガス,圧縮空気など), 2)油絶縁(鉱物油,シリコーン油など),3)固体絶縁(プラスチック,セラミックスな ど)が挙げられる.また従来の電力設備には,六フッ化硫黄ガスを用いたガス絶縁が多く 用いられてきたが,1997年12月に京都で開催された気球温暖化に関する国際会議(COP3) において,温室効果ガス排出削減目標の対象ガスとなり,固体絶縁方式による代替の必要 性が高まってきた.また,機器全体のコンパクト化を図るため可能な限り固体絶縁が用い られるようになってきた.従って固体絶縁は材料性能向上への努力が常に行われてきた.

絶縁材料の劣化を引き起こす主な要因として電圧,熱,機械的ストレス,環境ストレスな どが挙げられる.電圧下においては材料中を流れる伝導電流や,誘電体損による発熱によ り材料の温度が上昇する.温度上昇により化学反応が促進され,材料そのものの変質が起 こる.また,電圧印加に伴って高電界部における放電が生じることで,材料の劣化へと繋 がる.機械的ストレスは材料への応力や振動などが劣化の原因となり,屋外で用いられる 材料の場合は,紫外線や有害な化学物質などにさらされることによる環境ストレスも劣化 の原因となる.

一方,ナノテクノロジーの発達により,ポリマーナノコンポジットが出現した.本研究 はこの新しい技術を開発し次世代の固体絶縁技術の確立を実証するために行った.

(2)

ポリマー系ナノコンポジットは,1987年に豊田中央研究所がポリアミド6/クレイナノコ ンポジット(以下 PA6/クレイ系)を発表し,後年1990 年には宇部興産㈱との協力により 工業化された.製造方法に関しては,層間挿入法(ポリマー系コンポジット材料の製造法 の代表的な一つ)と呼ばれるもので,層状物質(主にクレイやマイカが代表)の層間を有 機変性剤で変性し,層間とモノマーあるいはポリマーとの親和性を増加させてから混合し,

その後に層剥離を起こさせる方法が用いられている.これは1層ずつ剥離させポリマー中 に均一に分散させることが理想的であるが,一般には多層のものが残存しているのが現状 であることが挙げられている(3).他にもIn-Situ法や超微粒子直接分散法などの方法がある.

材料の特性評価については,弾性率や熱変形温度などの各特性がナノコンポジット化に より大幅な改善が得られているという報告がある(5-6), (8-10).しかしながら絶縁体としての評 価報告は少ない.また2003年までに商品化されたポリマー系ナノコンポジットは大別して 3種に分類され,1)プラスチック成形材料,2)難燃性やガスバリア性などの機能性材料,

3. 耐摩耗性や塗装材料などに分類されるが,種類としては前述にあるPA6/クレイ系が多い ことが報告されている.

このような背景を基に,本論文では,汎用性が高くポリマー中での均一な分散性や親和 性が良いと考えられる球状のナノシリカフィラーを用い,ベースポリマーとしてエポキシ 樹脂を用いたポリマーナノコンポジット材料の絶縁特性の向上を目指した.電力分野やエ レクトロニクス分野などに用いられる電気絶縁材料として応用できれば,モールド高電圧 絶縁,高電圧ケーブル,パワーエレクトロニクス絶縁,高密度実装電子回路などへの実用 化が可能になると考えられる.

なお,ポリマーナノコンポジットの作製方法では,ナノフィラーがポリマー中に均一に 分散している必要がある.ナノフィラーを用いることで低充填においても全表面積が大き く粒子間距離が小さくなることから,ポリマーマトリックスとナノ粒子間との界面制御が 必要であると考えられ,このような状態を実現するために,本論文では,比較的小規模で 実現可能なポリマー中にナノフィラーを直接混合分散させる方法で行なうこととした.

そこでまず,これまでに行われていなかった試料創製方法の最適化を目指して,試料創 製方法の確立として,ここでは,1)ベースとなるエポキシ樹脂の流動性・粘度の調整,2) フィラー粒子混合時における均一分散状態の確保,3)試料成型時における試料内部のボイ ドレス化,の代表3項目を独自に開発し,試料創製を行なった.

絶縁特性の評価については,フィラー粒子とエポキシ樹脂との界面状態をSEM/TEMに より観察し,絶縁破壊特性として,以下3つの絶縁特性による評価を行なった.1)電気ト リーイングV-t特性…試料内部に電圧を印加し,試料が完全に破壊するまでの時間を評価し たもの.2)初期トリーイング V-t 特性…電圧印加から試料内部に発生したトリー電荷量

(140pC)を検出し,トリー発生までの時間を評価したもの.3)耐部分放電特性…試料表

面への部分放電からの試料表面の侵食深さの評価を行なった.これら耐電界性評価では,

適切な時間で評価するため電圧加速試験および周波数加速試験を行った.

(3)

絶縁特性の向上については実用化に向けて,1)フィラー粒子の粒径による違い,2)フ ィラー添加量による違い,3)ポリマーマトリックスとの界面状態による違いについて,V-t 特性への影響を評価し,絶縁特性の向上のための指標を明らかにした.

1.2

ポリマー ポリマー ポリマー ポリマー系 系 系ナノコンポジットの概要 系 ナノコンポジットの概要 ナノコンポジットの概要 ナノコンポジットの概要

1.2.1

ポリマー ポリマー ポリマー ポリマーナノコンポジットの位 ナノコンポジットの位 ナノコンポジットの位置付け ナノコンポジットの位 置付け 置付け 置付け

ポリマーナノコンポジットは,ポリマーにナノサイズ(通常1~100 nm)の超微粒子を 数wt %均一に分散させた複合材料である.このナノコンポジットは従来のフィラー充填ポ リマーと比べて,1)フィラーが少量,2)フィラーのサイズがナノメートル,3)フィ ラーの比表面積が膨大の3つの特徴を有している.従来のフィラー充填ポリマーには数10

wt %ものフィラーが含まれているので,この混合物はポリマーそのものとは異なった材料

になっている.一方,ナノコンポジットではフィラーの添加量は数wt %で十分なのでポリ マーの元の特性を大幅に残すことができる.2つ目のサイズの差異であるが,長さ方向に3 桁の違いがあるので大きさにして 9 桁の違いがあることが分かる.したがってフィラー間 の離間距離はナノコンポジットでは通常の充填ポリマーに比べて相当小さく,ナノメート ルのオーダーとなる.最後の比表面積であるが,これはサイズの逆数なので 3 桁の相違が

ある.表1.2.1は体積濃度2%の球状粒子の典型的な分散系での粒子半径,粒子間距離,粒

子全表面積を計算したものである(4).同表よりナノコンポジットは,粒子間距離が大幅に狭 まり,粒子全表面積が激増することが明らかである.このようにナノコンポジットでは分 散粒子の全表面積が非常に大きくなり,粒子間距離が非常に小さくなる.したがって,ポ リマーマトリックスとフィラーとの相互作用が非常に大きくなり,物性が大きく変化する ことになるといわれている.

表1.2.1 体積濃度2%の分散系での粒子半径と粒子間距離および粒子の全表面積との関係

Table 1.2.1 Relation between radius, distance and total surface area of particles in dispersed system of 2% in volume density.

Type of Dispersion

Particle in radius Interparticle distance

Total surface

areas

nm µm nm

Macro 40,000 40 160,000 1

Micro 400 0.4 1,600 100

Nano 4 0.004 16 100,000

(4)

ポリマー系ナノコンポジットが,注目を浴びている理由としては主に以下の点があげら れる.1)ナノコンポジット化により各種の性質が著しく向上,2)特に新規の物質の使 用は無い,3)製造設備が安価で汎用的(既存の設備の改良で可能)

ナノコンポジット化に新規な物質を使用する必要がないというのは,工業化にあたって 非常に有利である.粘度鉱物などのクレイは天然に大量に存在している.つまり,既存の 材料を使用して調節し,分散状態の均一性が達成されれば画期的な性能向上が可能となる.

また製造設備に関しては,コストの面からも有利である.表 1.2.2(4)にこれまでに商品化さ れている主なポリマー系ナノコンポジットについてまとめたものを示す.大きく分類する と機械的・熱的性質等の基本的物性が優れた高性能材料と,特殊な機能の優れた高機能材 料とに分類される.高性能材料のほとんどは,エンジニアプラスチック分野への展開が期 待される.

表1.2.2 これまでに商品化されているポリマーナノコンポジット

Table 1.2.2 Commercialized polymer nanocomposites.

( PA:polyamide, TPO:thermoplastic elastomer olefin, PP:polypropylene, PLA: polylactide, PVC:poly vinyl chloride, EVA: ethylene-vinyl acetate, PU: polyurethane )

(5)

1.2.2

ポリマー ポリマー ポリマー ポリマーナノコンポジットの特性 ナノコンポジットの特性 ナノコンポジットの特性 ナノコンポジットの特性

ポリマー系ナノコンポジットは,マイクロメートルオーダーの充填剤が数10 %添加され た強化樹脂に匹敵する物性を有するが,比重は元のポリマーとほとんど同じである.元の ポリマーの物性を損なうことなくナノコンポジット化できることが,ポリマー系ナノコン ポジットの非常に魅力な点である.基礎的物性が優秀なのに加え,種々の機能的物性の発 現も可能であり,成形性や環境適性も元のポリマーと比しても悪化することは少ない.こ れらをまとめると,ポリマー系ナノコンポジットは工業的にも非常に商品価値の高い材料 であるということがわかる.

ポリマーナノコンポジットの特性を表 1.2.3(4),(9)のように基本的特性の向上と機能的特性 に大別できる.基本特性は,ポリマー自身が持つ特性をナノコンポジット化により向上さ せたものであり,機能的特性は,ポリマーに対し,ナノコンポジット化することで新たな 特性を付与したものである.そこで,エポキシ樹脂をナノコンポジット化することで基礎 的特性が向上した例を下記に紹介する.

表1.2.3 ポリマーナノコンポジットの特性

Table 1.2.3 Properties of polymer nanocomposites.

(6)

図1.2.1 エポキシ樹脂ナノコンポジットにおける機械的特性の向上

(a)引張り強さ(b)引張り弾性率

Fig 1.2.1 Improvement of mechanical properties in epoxy nanocomposites.

(a) Tensile strength, (b) Tensile modulus.

図1.2.1ではエポキシ樹脂ナノコンポジットにおける引張り強さ(図1.1(a))と引張り弾

性率(図1.1(b))の向上を示したものである(5) .ビスフェノールA型エポキシ樹脂にオク

タデシルアンモニウムイオン(CH3-(CH2)17-NH3+)で有機化処理した層状シリケート化合 物を分散後,アミン硬化剤により固化した硬化物において,充填量増加に伴い,引張り強 さと引張り弾性率が向上することが報告されている.

図1.2.2 エポキシ樹脂ナノコンポジットにおける耐熱性の向上

Fig 1.2.2 Improvement of thermal resistance in epoxy nanocomposite.

(7)

図1.2.2では,エポキシ樹脂ナノコンポジットにおける耐熱性の向上を示したものである

(6).ビスフェノールA型エポキシ樹脂をビス(2-ヒドロキシエチル)メチルタロウアルキル アンモニウムイオンで有機化処理した層状シリケート化合物をナノコンポジット化するこ とで動的粘弾性測定(DMA)におけるガラス状態およびゴム状態での貯蔵弾性率が増加し,

tanδピークが幅広になり高温側にシフトしていることが報告されている.

1.2.3

ポリマー ポリマー ポリマー ポリマーナノコンポジットの ナノコンポジットの ナノコンポジットの作製 ナノコンポジットの 作製 作製 作製方法 方法 方法 方法

一般に複合材料では異種成分の親和性を高め,両成分を熱力学的に安定に分散させるこ とが必須の条件である.ナノコンポジットの場合は分散相が超微細でありこの条件に応え るには過酷さを極める.この問題を解決することが実用的なナノコンポジットを製造する 上で最大のポイントとなっている.

現在ナノコンポジットの製法としては超微粒子直接分散法,層間挿入法,In-situ 法(ゾ ル-ゲル法),などが挙げられる(4).以下に各製法について述べる.

(1)超微粒子直接分散法

図1.2.3 超微粒子直接分散法 Fig 1.2.3 Direct dispersing method

超微粒子直接分散法は,ポリマーとナノ粒子とを直接二軸押出機などで溶融混錬する方 法である.最も簡単な方法であるが,両者の親和性を高めてやらないと安定で二次凝集を 起こさないナノ分散系を形成させることは難しい.したがって,何らかの方法で超微粒子 の表面を処理して表面エネルギーを低下させることで,二次凝集を防ぎ,ポリマーとの親 和性を上げることが重要である.

(8)

(2)層間挿入法(インターカレーション法)

図1.2.4 層間挿入法 Fig 1.2.4 Intercalation method

層間挿入法はポリマー系ナノコンポジットの製法のうちで大きな位置を占めており,イ ンターカレーション法により製品化されているナノコンポジットには天然に豊富に存在し,

粘度鉱物であるクレイが用いられている.これら粘度鉱物は,実際の構造をみると層状構 造をしており,厚みが1 nm,幅が100~200 nmの層状化合物である.またNa+イオンを有 機物で置換して疎水的な性質に変換し,そこへモノマーまたはポリマーを加え重合し,溶 融混錬することによって層状であったものの層が開き,または単層にまで層剥離を起こし て,ナノコンポジットが形成される.ポリアミド,ポリ乳酸,エポキシ樹脂などの比較的 極性の強いポリマーはクレイの層がよく剥離したナノコンポジットを形成しやすい.逆に ポリオレフィン,スチレン系樹脂など極性の弱いポリマーは十分に層剥離を行うことが困 難なため共重合,特殊有機変性クレイ,相溶化剤の添加などの方法が検討されている.

(3)In-situ法(ゾル-ゲル法)

In-situ 法は,ナノ分散相がナノコンポジット形成の際に同時に形成される方法である.

In-situフィラー形成法(ゾル-ゲル法)とIn-situ重合法の2種類がある.In-situフィラー 形成法はいわゆるゾル-ゲル法であり,金属および無機の溶液をゲルとして固化し,このゲ ルの加熱により酸化物の固体を作製する.In-situ重合法にはモノマー/ポリマー混合液中で モノマーを重合してこれをナノ次元で分散させる方法と,モノマー/低分子物混合液中でモ ノマーを重合して,その中で低分子物からナノ粒子を析出させる方法とがある.以下に

In-situ法における化学式を示す.

(9)

In-situ 法ナノコンポジットの製法は層間挿入法についで重要なナノコンポジットの製法 であり,ナノ粒子として,シリカを用いたものが製品化されている.

1.2.4

ナノコンポジットにおける ナノコンポジットにおける ナノコンポジットにおける ナノコンポジットにおけるベースエポキシ樹脂の種類 ベースエポキシ樹脂の種類 ベースエポキシ樹脂の種類 ベースエポキシ樹脂の種類

エポキシ樹脂には非常に多くの種類があり,その分類もいろいろな角度から行われてい

る.表1.2.4にエポキシ樹脂の種類について示す(7).化学結合による分類では,一般に製造

されているエポキシ樹脂にはエポキシ基の導入により,活性水素化合物とエピクロルヒド リンから製造されるグリシジル化合物と二重結合の酸化により得られる酸化型エポキシの 2 種類がある.前者は活性水素化合物の種類により,グリシジルエーテル(フェノール類,

アルコール類),グリシジルエステル(カルボン酸類),グリシジルアミン(アミン類)な どに分けられている.

表1.2.4 エポキシ樹脂の種類 Table 1.2.4 Type of epoxy resin.

(10)

図1.2.5 ビルフェノールA型エポキシ樹脂における分子構造

Fig.1.2.5 Relation between molecular structure and characteristic of bisphenol A type epoxy resin.

ビスフェノールA型エポキシ樹脂(以後,ビスA型エポキシ樹脂と記す)は,エポキシ 樹脂の中で代表的なタイプであり,最も広く用いられている.分子量に応じて液状のもの から固形のものまであるが,いずれもビスフェノール Aとエピクロルヒドリンを原料とし て製造されている.図1.2.5にビスA型エポキシ樹脂の分子構造と特徴の関係を示す(7).ビ スA 型エポキシ樹脂は,エポキシ樹脂の中でもコストも含めて物性のバランスが優れてお り,さらに優れた電気特性,耐薬品性,耐候性も有している.この特徴は分子の構造に起 因していて,エポキシ基は反応性,水酸基は反応性と接着性,ビスフェノール A 骨格は耐 熱,強靭性に,エーテル基は耐薬品性に,メチレン鎖は可撓性に特徴を発現している.

エポキシ樹脂を電気機器の絶縁体として使用する場合は電気絶縁の性質上,欠陥には細 心の注意を払う必要があり,使用目的にあった樹脂の配合や硬化条件を選定することが重 要である.そのため数多くある電気機器に対応して種々の特性を持った樹脂が市販されて おり,それぞれの特徴を生かした使い分けがなされている.

主なエポキシ樹脂の特長として,エポキシ樹脂は、各種の硬化剤と反応させると不融不溶 の三次元硬化物となり,次に述べる数々の特長を備えた高性能、多機能樹脂として広汎な 用途に利用されている.

エポキシ樹脂の種類として,前記ビスフェノール A 型の基本樹脂のほかに,以下のもの が挙げられている.これらは硬化物に特定の性能を与えるものとして三菱化学㈱より製造 販売されている.これら特殊樹脂は硬化物に対する特別の性能要求を満たすために,単独

各種変性剤(充填剤、可撓性付与剤、希釈剤など)による変性自由度が高く,

特定の性能要求性に適合させることができる.

硬化収縮が小さく,寸法安定性に優れている.

金属,磁器,コンクリートなどに対する接着力が強い.

機械的強度が強い.

絶縁物としての電気特性に優れている.

可撓性・耐熱性・耐磨耗性・耐薬品性,耐水性,耐湿性に優れる.

(11)

またはビスフェノールA型エポキシ樹脂と組み合わせて使用されている.

エポキシ一般的に1分子中に2個以上のエポキシ基を有する化合物であり,化学構造あ るいは分子量により液状から固形まで多種多様のタイプが製品化されている.実際に使用 するに当たっては,液状エポキシ樹脂のほとんどは粘度が高く作業性が悪い.たとえば,

自然環境下で使用する場合,特に冬期は低温によりさらに高粘度になり攪拌脱泡などの作 業性が悪くなる.また,温度管理ができる状態でも,低粘度の方が流動性,成型加工性な どに優れる.この作業性を改善する方法として有効な手段として希釈剤による粘度の低下 である.希釈剤を大別すると端末にエポキシ基を有する反応性希釈剤と,反応に寄与しな い非反応性希釈剤に分類できる.

希釈剤[3]の最大の特徴は低粘度であるために作業性が改善されるが,その反面,架橋密度 が減少するため硬化物性能が低下する欠点を有している.まだしも反応性希釈剤は硬化剤 と反応し架橋後の骨格に組み入れられるため硬化物性能の低下は比較的小さいが,程度の 差こそあれいずれのタイプの反応性希釈剤も硬化速度や耐熱性,力学的特性,接着性など の諸性能を低下させる.希釈剤は単独で使用するケースは少なくほとんどがエポキシ樹脂 と併用することが多い.したがって希釈剤に要求される性能はエポキシ樹脂本来の性能を できるだけ維持しつつ低粘度化することであり,また,希釈剤は皮膚刺激性があるものが 一般的であり安全性の面からもその使用量は必要最小限にとどめた方が好ましい.しかし ながら,構造により可撓性,耐水性などの特性を付与できる希釈剤もあり,各種希釈剤の 特性を把握し有効な使用方法を選択することにより使用目的に応じた低粘度エポキシ樹脂 が得られるため,土木,建築,電気,塗料,接着などの幅広い分野で使用されている.

1.2.5

ナノコンポジットにおける硬化剤・充填剤の種類 ナノコンポジットにおける硬化剤・充填剤の種類 ナノコンポジットにおける硬化剤・充填剤の種類 ナノコンポジットにおける硬化剤・充填剤の種類

通常エポキシ樹脂と呼ばれている分子内に 2 個以上の反応性のエポキシ基を有するエポ キシプレポリマー(あるいはエポキシオリゴマーは)は,硬化剤の存在を得て架橋反応を 行い,三次元網目を形成して,不溶不融の樹脂となる[3].硬化剤のアミンや酸無水物には脂 肪族,芳香族,環状脂肪族などがあり,エポキシ樹脂主剤との組み合わせにより,種々の

ビスフェノールF型エポキシ樹脂 …低粘度で作業に優れる.

多官能エポキシ樹脂 …硬化物は耐熱性、耐薬品性に優れる.

可撓性エポキシ樹脂 …硬化物の耐クラック性などが改良される.

臭素化エポキシ樹脂 …硬化物に難燃性を与える.

グリシジルエステル型エポキシ樹脂…硬化物の耐トラッキング性が改良される.

高分子型エポキシ樹脂 …硬化塗膜は機械加工性に優れる.

ビフェニル型エポキシ樹脂 …硬化物は耐熱性、低応力性に優れる.

(12)

特性を有するエポキシ樹脂硬化物が得られる.硬化物を化学組成で分類するとアミン類,

酸無水物,ポリフェノールなどが挙げられる.このうちアミン類はエポキシ樹脂用硬化剤 として最も多く使用されており,次いで酸無水物が多く使用されている.

充填剤に関し一般的な電気,電子機器においてエポキシ樹脂を絶縁組織として用いる場 合は,ほとんどの場合において無機質充填剤が併用されており,その目的として次のよう な項目が考えられる.

フィラーを用いる目的として主に(1) コストの低減,(2) 物性の改善,(3) 機能の付加,

(4) 加工性の改善,の4点となり,それぞれの目的に応じて使い分けられている.

(1)コストの低減として,プラスチックや複合材料におけるコストの低減は重要な事項であ り,安価なフィラーが使用されている.しかしながら,従来用いられてきているフィラー の充填量が多く,マトリックスとの相性さらには加工時における金型や成型機等への環境 にも配慮する必要がある.(2)物性の改善については,その用途にもよるが,たとえば力学 的性質や熱的性質の補強に対してはフィラーの形状が異方性であり,アスペクト比が大き いフィラーが有効であり,マトリックス分子の自由運動の抑制効果が高くなり,弾性率の 増大や融点の上昇等に繋がると考えられるが,加工性や耐衝撃性の低下を招きやすい点が 挙げられる.(3)機能の付加については,高分子に特定の機能をもたせることを目的として いるため,用途に応じてフィラーの形状,サイズ(粒度),充填方法などを検討する必要が ある.(4)加工性の改善については,複合材料の作製時において試料の粘度や流動性(必要 があれば分散剤の使用),また硬化時間の調整や金型への汚染や発泡への防止などに注意す る必要がある.電気絶縁材料分野としては主に石英粉末(シリカ),アルミナ,水和アルミ ナなどが用いられている.また,充填剤の粒子径サイズはマイクロメーターオーダーでは ポリマーに対して約50 wt%と大量に添加して成形される.

フィラー粒子の形状としては,球状タイプ,板状タイプ,繊維状タイプの三つに大別で き,それぞれの特徴を以下に示す.

(1) 球状フィラーの特徴

球状フィラーは等方性ということが最も特徴的である.プラスチックとフィラーでは熱 膨張係数が異なり,特に結晶性高分子では融解状態から凝固するときの収縮率が大きく,

界面に大きな残留歪みが生じ,これがアスペクト比の大きな異方性のフィラーではソリや 変形の原因になる.その点,球状であれば歪みや応力が偏在せず変形が少ない.また加工 時の流動性が良いことも挙げられる.

硬化時の収縮を小さくする.

熱膨張率を小さくする.

熱伝導率を良くする.

反応熱を吸収する.

機械的強度の向上.

(13)

(2) 板状フィラーの特徴

板状フィラーはアスペクト比の大きいものが主に挙げられ,異方性である.このアスペ クト比が大きいことは,光や熱,ガス等への遮断効果が高く,導電性のあるフィラーなら ば,導電パスの形成に有効である.また,フィラーの充填率の増加に伴い相対弾性率の補 強効果が高いことが挙げられる.

図1.2.6 ガス遮断効果の板状フィラーと粒状フィラーの相違(概念図)

Fig 1.2.6 Gas blocking effect of plate and grained-like type fillers.

(3) 針状・繊維状フィラーの特徴

板状フィラーと共通の部分が多く,特に力学的・熱的補強効果が高い.また加工時に おける成型(寸法)の安定性が高く,高弾性率のウイスカーや繊維は一般に制振効果が 高いことが挙げられ,図1.2.7にフィラー粒子の形状の違いによる充填率と相対弾性率 の関係図を示す.

図1.2.7 フィラー粒子の形状の違いによる充填率と相対弾性率の関係

Fig 1.2.7 Relationship between of filling fraction and relative elastic modulus.

(14)

1.3

本研究の目的 本研究の目的 本研究の目的 本研究の目的と概要 と概要 と概要 と概要

本研究は,新しい固体絶縁材料として,ポリマーナノコンポジットとして新たな創製技 術を開発し次世代の固体絶縁技術の確立を実証することを目的とした.本研究では,ポリ マー系ナノコンポジット材料として,電気機器絶縁に用いられているエポキシ樹脂を主体 に分散し易いと期待されるシリカナノフィラーを添加するエポキシ/シリカナノコンポジッ トを選択した.これまでに無い材料なので,独自に材料創製技術を開発し,創製したナノ コンポジットの絶縁性能を評価した.

本論文では,汎用性が高くポリマー中での均一な分散性や親和性が良いと考えられる球 状のナノシリカフィラーを用い,ベースポリマーとしてはエポキシ樹脂を用いたポリマー ナノコンポジット材料の絶縁特性の向上方法を明確にすることを目標とした.そこでまず,

これまでに行われていなかった試料創製方法の最適化を目指して, 1)ベースとなるエポ キシ樹脂の流動性・粘度の調整,2)フィラー粒子混合時における均一分散状態の確保,3)

試料成型時における試料内部のボイドレス化,の代表3項目について独自技術を開発し,

試料創製を行なった.

創製したナノコンポジットの物理的良否は,フィラー粒子とエポキシ樹脂との界面状態 を電子顕微鏡(SEM/TEM)観察で評価した.絶縁特性は耐電界性に注目し,耐トリーイン グ性および耐部分放電性の評価研究を行った.耐電界性評価では,適切な時間で評価する ため電圧加速試験および周波数加速試験を行ない,ポリマーのナノコンポジット化が絶縁 特性の大幅な向上を可能とすることを明らかにした.

本論文は全6章から構成されており,以下に各章の要旨を示す.

第1章は序論であり,本研究の背景と目的・概要を述べている.ポリアミド等の機械 特性を向上させたポリアミド/クレイナノコンポジットの成果を参考に,絶縁材料であ るエポキシ樹脂の性能向上にこのナノコンポジット技術を応用できるかどうかを検討 し,有機ポリマー(エポキシ樹脂)と無機フィラー(シリカ)を結合するための適切な 結合剤を用い,有効な分散技術を用いれば,優れたエポキシ/シリカナノコンポジット が創製できるとの展望がもてたことを主体に述べている.

第2章では,対象とするエポキシ樹脂をベースとしたナノコンポジット材料の新たな 創製技術の確立について述べている.本研究では,ベースポリマーとしてビスフェノー ル A 型エポキシ樹脂とフィラー粒子としてシリカを使用した.さらにフィラーの分散 性とフィラー/ポリマー結合性を良好にするためにてシランカップリング剤を添加する 方式を採用した.硬化剤には硬化条件を自由に選択できるアミン系のものを使用した.

凝集し易いナノフィラーの分断には回転ミキシング方式,超音波照射方式,高圧せん断

(15)

力方式(硬化前段階の混合物を200 MPaのせん断力がかかるオリフィスを通す)等を検 討し,その中で最も優れていると考えられた高圧せん断力方式を採用した.同時に,硬 化条件(プレキュアおよびポストキュアの温度と時間)の最適化を行った.これらの総 合技術によりフィラー粒子の均一な分散とボイドレス化が可能であることを見出した.

第3章では,ナノコンポジット技術によるトリーイング破壊特性の向上について述べ ている.本章では,エポキシ樹脂(ニート試料)にナノフィラーを添加してナノコンポ ジットにした材料の絶縁特性(特に耐電界性)に与えるナノフィラーの影響を評価した.

耐電界性評価のため,トリーイング破壊特性を評価した.試験方法は試料内部にモール ドした針(直径1 mmφ, 先端半径5 µmR)に電圧を印加し,電極先端から発生したト リーが対向電極に到達する時間すなわち試料が完全に破壊されるまでの時間をトリー イング破壊V-t特性(印加電圧-破壊時間)として求めた.このV-t特性に対するフィラ ーの粒径の影響およびと試料作製方法の違いによる影響を評価した.フィラー粒径の違 いでは,12,40,90,300 nmの4種類のうち,粒径最少の12 nmのナノコンポジット が最も優れた絶縁特性を有することが分った.例えば10 kVrms (電圧の2乗平均の平方 根表示)印加時ではニート試料と比べ破壊時間が10倍(約30時間が約300時間)にも 向上した.SEM 観察でナノフィラーの分散性が悪くフィラーが凝集している場合には ナノコンポジット試料がニート試料に比べてトリーイング破壊時間は減少することも あることが判明した.これらの研究成果により,耐電界性として重要なトリーイング破 壊寿命はエポキシ樹脂をナノシリカで適正なナノコンポジット化すれば大幅に延伸で きることを初めて明らかにした.

第4章では,高熱伝導性を意図したエポキシコンポジット材料の絶縁特性の向上につ いて述べている.絶縁材料ではトリーが発生すると自復機能がないのでトリー発生時間 を評価することが重要であるので,トリーの発生時における部分放電信号を検出し,ト リー発生時間としてV-t 特性を求めた.トリー開始は部分放電の電荷量 140 pCで検出 した.透明な試料でトリー長と部分放電電荷の関係を求めておくと不透明試料でも本特 性を得ることができる.現在実用に供されているエポキシは機械的特性や熱的特性付与 のため粒径1 µm以上のマイクロフィラーを充填した材料であるが,これにナノフィラ ーを添加して効果があるかどうかも重要な課題であり,本章ではそれを明らかにする研 究成果を述べている.

トリーイング開始V-t特性によるニート試料とナノ試料の評価では,6 kVrms印加時では ニート試料では170時間に対しナノコンポジット試料では66倍 (約470日)のトリー開 始時間となり,前章におけるトリーイング全路破壊V-t特性と同様の傾向にあることを 確認した.主題であるナノ(5 wt%)‐マイクロ(40 wt%)コンポジットのトリー発生時間 は,6 kVrms印加条件では, マイクロ(40 wt%)コンポジットに比べ 300 倍程度(4 時間が

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1260時間)に増大することが判明した.これはナノフィラーがマイクロフィラーとポリ マーマトリックス間の界面を改善する役割をしているためである.トリー形状の SEM 観察からナノフィラーがトリー内に析出し,トリー進展を抑制していることを明らかに した.以上の成果により実用のマイクロコンポジットの絶縁性能向上が期待されること が判明しより実用に近いナノコンポジットができる可能性を示した.

第5章では,ナノコンポジット技術による耐部分放電特性の向上について述べている.

実際に機器絶縁は部分放電に曝されて絶縁破壊を起す場合もあり, 新たな材料では耐 部分放電性の評価が必要になる. そこでタングステン棒電極(直径 1 mmφ,先端曲率半

径0.5 mm)と銅平板電極に1 mm試料を挟みその間にギャップ0.2 mmから構成するRod

電極を用いた気中部分放電試験法による耐部分放電特性を評価した.耐部分放電性は試 料部分放電による表面侵食深さを尺度として評価した.エポキシ樹脂にナノフィラーを 添加すると侵食深さが大幅に減少し, ナノコンポジットは優れた耐部分放電特性を有 することを立証した。代表的な結果として,印加電圧4 kVrmsを480時間印加した場合,

ニート試料では劣化深さが146 µmの表面深さであったものが,ナノコンポジット化と することで20 µm程度に抑制できることが分かった.また,用いるフィラーの種類によ っても影響があり,前述のナノ試料(3wt%)に対し,同様の耐部分放電性をマイクロコン ポジット試料で得るには65wt%ものフィラー充填が必要であることが判明した.参考と して異なった樹脂例えばコンデンサー用のポリプロピレン樹脂の評価を行ったが、ナノ コンポジット化の効果があることを確認し、エポキシ樹脂ばかりでなくナノコンポジッ ト化による技術が他のポリマー絶縁材料にも広く適用できる可能性があることが示唆 された.

第6章では,まとめとして本研究で得られた成果を総括して述べている.本研究によ りポリマーのナノコンポジット化が絶縁性能向上に大きな効果があることが判明し,

機器絶縁のコンパクト化に寄与できる革新的技術を提供することになると結論づけて いる.

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第 第 第

第1章章章章 参考文献参考文献参考文献参考文献

(1) 河村達雄,田中祀捷:「電気設備の診断技術 改訂版」,電気学会,2003.

(2) 小崎正光:「IU高電圧・絶縁工学」,オーム社,2001.

(3) 中條澄:「ナノコンポジットの世界」工業調査会,2000.

(4) 中條澄:「ポリマー系ナノコンポジット」工業調査会,2003.

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(9) 今井隆浩,尾崎多文,澤文雄,清水敏夫,田中祀捷:「ナノ粒子分散による電気絶縁材 料の高性能化」,未来材料,Vol.7, No.7, pp.6-13, 2007.

(10) 田中祀捷:「絶縁材料を革新するポリマーナノコンポジット」,電気学会誌Vol.128, No.6,

pp349, 2008.

参照

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