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日本小児循環器学会雑誌 13巻3号 427〜429頁(1997年)

<Editorial Comment>

円錐動脈幹異常顔貌症候群から22q11欠失へ一患者への還元

九州厚生年金病院小児科 城尾 邦隆  本誌には,旭川医大・梶野浩樹氏の円錐動脈幹異常顔貌症候群(CAFS)に関する論文1)が掲載されている.

CAFSは,周知のとおり,1976年に東京女子医大心研名誉教授高尾篤良先生が提唱された疾患であり,本邦の 小児循環器医には身近なものであった.近年,英国Newcascle groupにより22ql1.2微小欠失すなわち隣接遺 伝子症候群として確立した経緯やその意義については多くの論文や解説がある2}3).欠失部分に想定される数個 の遺伝子がクローニングされ,いずれ発生原器としての神経堤の分化への関与が証明されるだろう.しかし,

何故22q11なのか? ほかの奇形症候群でもつぎつぎに微小欠失が発見されるのか? 発生生物学は前後や背 腹軸についで最近ようやく左右軸についても知見を整理しつつあるが,発生に関与する遺伝子群はいくつもの 染色体に分散し,しかもその発現は,階級性があり,胚にあるさまざまな物質の濃度勾配や細胞間の影響をう けるなど,発生の過程はきわめて複雑である4)5).しかも,対象とする心臓の形態形成は,胎児の成長と同時に 臓器形成が進行する特殊なものである.われわれの理解はまだごく限られた範囲である.研究の進展に興味は 尽きないが,曲折が予想される.

 本稿では以下,梶野論文に触発されつつ,「臨床医の立場として,現時点でCAFS患者に還元できること」

を整理しておきたいと思う.

 1)梶野論文は,症例数は6例と多くないが,臨床的に重要な症例が鮮明にかつ丁寧に提示されていて貴重で ある.たしかに,血管輪による気道狭窄は時に致死的であり,血管の大奇形ともいえよう.読者は,特有な顔 貌などから22q11欠失を疑う症例に呼吸障害がみられたら,血管輪の合併を念頭に検討を進めること,そして CT(MRI)の有効性を学んだ.診断のほとんどを心エコー検査の威力に頼る若い循環器医に,あえて云えば,

このような症例では防御的な後弓反張位によりStridorや呼吸障害が軽減していないか観察し,胸部X線側面 で気管食道に偏位狭窄がないか検討されることを希望する.疑えば,食道造影という簡単で正確な診断法があ る.もっとも,腕頭動脈起始異常では,梶野論文(患者3)のように,気管は前方から圧迫されて,食道造影 法のピットフォールとなる.

 2)つぎに,梶野論文では大動脈分岐の異常の疫学が論じてあるので若干補足しよう.すでに松岡が22ql1.2 欠失を認めたファロー四徴84例中69例(82%)に血管異常の合併を報告している6).心室中隔欠損症については 自験を表に示す7).10例中9例が膜様部欠損ですべて左大動脈弓であったことはやや意外であった.しかし,5 例の頂点は高く,鎖骨下動脈起始異常や無名動脈分岐異常,さらに静脈系にも小奇形ともいうべき病変があり,

それらを8例に観察できた.多くの施設で症例を集積し,より正確な頻度を知るためには,血管造影時にあら かじめ広めの視野を確保することと常に関心を持ち続けることが前提である.逆に,動静脈に小奇形を認めた

とき顔を見なおすことをすすめる.

 3)顔貌について.多くの論文で年長児の顔が提示されているが,成長とともに変化することを指摘しておき たい.しかも,近年,先天性心疾患の大半は新生児期に発見され治療が開始されている.新生児・乳児の顔貌 に親しむことが重要である.著者の経験した症例の写真を掲載する.鼻翼や小さな口や下顎,耳介変形などに 特徴がある.海外の研究者には顔貌からの診断の限界に言及するものがあるが11),本邦では高尾先生の長年の 指導と単一民族のため特徴をとらえ易いのでこのような混乱はないと確信している.さらに,やや甲高く鼻に ぬける泣き声や鼻からの吐乳,細長い指などにも注意を払えば臨床診断は高率となる.

 4)成長にともなう諸問題.乳児期から幼児期前半までは心臓病や呼吸器感染を中心とした医療サービスに っいて,家族の満足度は比較的高い.ところが,診断に役立った諸症状は,患者には消しがたいStigmataで ある.精神発達のおくれや学業不振などへの対応が,その後の問題となり,ことに,言語発達遅滞の治療には

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428−(26) U小循誌、 13 (3), 1997

表 ls. olated VSD a〕〕d cardlovascular lninor anomalles associated with CAFS   (del 22qll)

Caldlo、ab〔.ulal λ11nOI Anomdhes

Case(ge×) Type of VSD

RAA

Hlgh BC Branch

1.U.A.(f) vSD I(SubPlll) Abel RSA

2.S.M.(m) vSI) II(PM/EM) Abel RSA IVCD/Abn INV

3.1.Y.(f) vSD II(PM/EM) Abll INA

4.Y.S.(m) vSD II(PM/EM)

TOIt/lOt特Alch 5台1.N.(f) vSI)II(PM/EM)

6.0.II.(m) vSD II(PM/ErvI)

7.T. K.(m) VSD II(PM)

IVCD

8.Y.Y.(f) vSD II(PM)

LSVC

9.S.K.(f) vSD II(PM)

1{}.II S.(f) vSl)II(PM)

*T}pe of VSD KIrklm I ol II PM perimembran(川s EM EIsenmenger lnalallgn RAA I lght  aortlc arch Hlgh arch dbove the thlrd tholaclc、ertebla BC Branch brachlocephanc branch

Aber aberrant ollgln Ab!)INA abnorlnal brallchmg of llmo1 nmate artel}IVCI) IVC defect  、〜1th a∠}gos. connectlon

騨⑱

ユぷ

㍉、

鷲華

漣ぷ

  惣遁、

鷺ぎ饗聯欝

姦懇     難

影芸鴻

       乳児期の円錐動脈幹異常顔貌

(下段は同一e」1例の生後4カ月,4歳,14歳時)

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平成9年5月1日

429−(27)

特別の難しさがある.口腔外科医であるS hprintzenも手術治療の難しさに言及している8).それは,本症の鼻 腔閉鎖不全が粘膜下口蓋裂という構造異常だけではなくアデノイド低形成や機能障害の結果でもあり,さらに 軽度のIQ低下をともなうためである.手術適応や後方弁形成の術式選択さらに効果の判定などについて,口腔 外科医や言語療法士との交流と連携がとりわけ重要と考えている9).免疫不全に関しては,開心術時の大量輸血 への反応に不安をもったが,幸いGVHDをふくむ重大な合併症は経験していない.しかし,反復性中耳炎や 麻疹など生ワクチンの無効例のほかに,難治性の接触1生皮膚炎や自己免疫疾患として特発性血小板減少性紫斑 病や甲状腺の橋本氏病を経験したL°}.若年性関節リウマチの合併もある1 ).

 5)倫理について.梶野論文が,写真掲載やFISII法への同意にふれていることに注意をむけよう.顔写真の 撮影や掲載には慎重でありたいし,当然ながら本人あるいは両親への説明と同意が必要である.現場でよく経 験するジレンマである.今回は,査読者のみに写真を提示してもらい,人権への配慮と研究の両立をはかった.

今後も工夫努力を怠るまい.染色体検査と結果の説明にはいっそうの配慮が必要である.われわれは,かつて CAFSに親子例や同胞例を経験したとき,多因子遺伝であり再発は4〜10%であろうと説明した.今,80〜85%

はnew mutationだが,いったん生じた欠失は優性遺伝形式をとり再発率50%であることを知っている.将来,

患者が成人した時,結婚の相談や遺伝相談が予想される.循環器疾患にも出生前診断が現実のことである.と ころで,自験の6組の親子例には同数の健康な同胞がいる.不用意な情報提供で,このような立場の子供たち が生まれてくるチャンスを失う可能性がある.

 このように問題点を挙げてみると,外科治療が格段の進歩を遂げた現在では,ファロー四徴症を中核とした 心血管病変より,その他の病変,なにより精神発達の遅れへの対応のほうが困難であることは明らかであろう.

小児循環器医がどこまで関与できるかはそれぞれの置かれた立場によって異なるが,CAFSと診断したその時 から,包括的な援助を惜しまない姿勢と準備が重要となる.ダウン症協会の活動はよく知られており,最近で は,やはり隣接遺伝子症候群であるWilliams症候群の会が組織され家族の相互援助が進みつつある.今後,

CAFSでも同様の動きが考えられる.本邦でのCAFSの20年におよぶ長い歴史をふまえ,すでに成人した患者 の現状を調査し,対策を講じたりあらたな患者への長期支援に役立てる必要性を痛感している.

       文  献

1)梶野浩樹,岡 隆治,梶野真弓,津田尚也:円錐動脈幹異常顔貌症候群における大動脈弓の異常 血管輪と腕頭動脈   起始異常について .「」小循誌 1997;13:419426

2)Wnsol〕DI, Burn J, Scalnbler P: DiGeorge syndrome:Part of CATCH 22. J Med Genet 1993;30:852−−858 3)高尾篤良:CATCH 22症候群(DGS, CAFS, VCFS).小児科 1995;36:259−268

4)岡田節人:からだの設計図.岩波新書.1994

5)柳澤桂子:左右を決める遺伝子.講談社ブルーバックス.1997

6)松岡瑠美子:先天性心疾患の遺伝子診断.循環器専門医 1996;4:77 87

7)城尾邦隆,合志光史,井1二和彦,大野拓郎:円錐動脈幹異常症候群の臨床疫学(抄録).口小循誌 1995;11:467 8)Goldberg R, Motzkill B, Shprintzen RJ, et al: VCFS:Areview of 120 patients. Am J Med Genet 1993;45:

  313−319

9)館村 卓,原 久永,佐藤耕一一,他:VCF症例における内頸動脈走行の計測に関する一方法.口口蓋誌 1993;18:

  201 −209

1(1)城尾邦隆:症候群と心疾患.高尾篤良編集,臨床発達心臓病学 2版,中外医学社,東京,1997(印刷中)

11)Johnson MC, Watson MS, Strauss AW:Chromosome 22(III mollosomy alユd the genetic basis of congenital   heart disease−Editor s colullm. J Pediatr 1996;129(1):1−−3

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