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目本小児循環器学会雑誌 12巻3号 420〜423頁(1996年)

Editorial Comment

小児期における有酸素運動能の指標としてのVO,max, LT, VATに関する 問題点は,trainalility判定の条件とは

       横浜市大小児科 新村一郎 日本体力学会会員,H本臨床スポーツ医学会評議員,日体協公認スポーツドクター

 本号掲載の小児患児の心臓リハビリテーションの論文を興味深く読ませていただいた.重篤な先天性疾患

(CHD)の診断と治療に多忙な臨床生活を強いられている先生方にとってはcyanotic CHD術後症例を対象と した1カ月にわたる入院による心臓リハビリテーションの研究には敬服されたものと思う.著者大内秀夫先生 らの努力を賞賛したい.

 小児期における運動能とtrainabilityの評価には健康児童に関しても今なお多くの問題点をはらんでいる.

さらに酸素輸送能に多大の影響を与えるcyanotic CHDの関心術後症例が対象の場合には,問題点は一 層複雑 化されてこよう.そこで,運動能とtrainability評価に際して,小児期に特徴的な問題点について解説したい.

 有酸素運動能評価には一般に最大酸素摂取量VO2maxが代表的な指標とされているが,思春期前小児では 有酸素運動能を必ずしも正確に反映するとはいえない.それ故,酸素供給能の評価に加えて,筋組織における 有酸素的代謝能力,末梢循環系の応答,運動筋performance,中枢神経系コントロール(集中力)などの総合 的評価が要求される.

 1.健康小児を対象とする有酸素運動能について

 trainabilityに関する小児期の縦断的研究には成人と比較して以ドの問題点を有している }、3).

 i)資質:生来の体力で,遺伝的影響が強い.有酸素運動の耐容能に関しても思春期前には遺伝的な資質の 影響が強い.

 ii)成長度・成熟度:暦年齢が同一でも成長度・成熟度は異なることが多いために, trainability判定には暦 年齢に加えて成熟度maturationなどを考慮したmatchingが必要となる.

 以ヒの事実より小児トレーニングによる運動耐容能向ヒの判定には,

 i)年齢,性別,身体発達状況(成長度,成熟度),トレーニング開始前の有酸素運動能,日頃の身体活動レ ベルなどのmatchin9.

 ii)定量化されたトレーニングの種類・内容・トレーニングの強度・時間・頻度・期間などの妥当性の検討.

 iii)再現性と信頼性のある運動生理学的検査(VO,max, VAT,肺機能,血中乳酸,血漿catecholamine,

運動筋performance)による判定.

 iv)評価に耐える質の高い研究プログラムと適正な統計的処理.

 h記の条件が要求される4).しかし,成熟度matchingは困難なために,同性で体重差のあまりない同年齢群 の検討で良いであろう.

 特別なハードトレーニングを除いては思春期小児ではVO,maxは加齢による上昇度を超えることはな い5).体重当たりのVO2maxでみれば男子は6〜16歳まで殆ど差はなく,女子は6歳以降では低下傾向がみら れる6).性別に関してはVO,maxは思春期前に男女差はなく,14歳以降では女子は男子より約15%低値を示し,

最大運動能では男子は18歳まで上昇するのに反して,女子は14歳以降はプラトーを示す2).

 次に,trainabilityの評価に適切な検査法とは?

 有酸素運動能評価のgolden standardは矢張りVO,maxであり,近頃は臨床医学やスポーツ医学の面での 無酸素閾値anaerobic threshold(AT)7)〜9),換気性閾値(VAT)1°),乳酸閾値(LT)ll}などの登場,および血 漿catecholamine測定12)13),運動筋performanceなどが挙げられる.無酸素閾値(AT)とは運動によって代 謝性acidosisおよびそれに伴うガス交換の変化が生じる直前の運動強度または酸素摂取≒辻定義され,換気

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ll/J\fl肖、誌i  l2 (3), 1996 421 (31)

閾値VTとは炭酸ガス当量VE/VCO、の増加を伴わない酸素当量VE/VO、の増加開始点と定義される.しか もLTとVATは互いに異なる次元における指標にも拘わらず良い相関関係が認められることは興味深い.

VO,maxは有酸素運動能の指標として成人や思春期後小児では定評が得られているのに対して,思春期前小 児では末だ疑問が残されている14).さらに運動筋の有酸素運動能に関してはVO、maxよりもLT(血中乳酸値 の急峻なヒ昇開始点)や血中乳酸値が4mM/L到達点をonset of blood lactate accumulation(OBLA)と定 義され,スポーツ科学分野では有酸素運動能を良く反映する指標として汎用されている11).

 運動筋performanceは筋力(筋収縮力),収縮速度,持久力の3要素より評価される.小児期の運動筋の特 色としてはfast twitch fiberの発達は未だ不十分で,13〜14歳以降で発達する.筋持久性ではslow twitch oxidative fiberの比率が高いほど,さらに筋血流量が大であるほど高く,運動開始時のVO、上昇度は成人より 高い(有酸素エネルギー代謝が迅速なために).筋線維内の酸化酵素のsuccinate dehydrogenase活性値は成 人より高く,解糖系rate−limiting enzymeのphosphofructokinase活性値は成人より約40%低値を示す15)〜17).

以上の事実より筋代謝に関与する因子として末梢循環系と筋酵素系の重要性が認識されよう.LTはそれらの 良い指標とみなされてきたが,思春期前男子のsteady−state負荷時LTとsteady−state最高血中乳酸濃度,

VAT三者の比較検討では明瞭な相関関係はえられず, VATとsteady−state最高血中乳酸濃度の間に弱い相 関がみられ,LTはsteady−state最高血中乳酸濃度よりは有意の低値を示した18)19).

 末梢循環系は神経系,内分泌系,筋原性の各因子による調節を受けており,動・静脈酸素較差で代表される ことが多い.交感神経性血管収縮は主にnoradrenalineにより,acetylcholineは迷走神経終末,体性神経終末,

synapseより分泌され血管を拡張させる.その他の化学物質としてはadenosine, prostaglandin, CO、, NO、

などである.筋原性因子は血管平滑筋であり,血管内圧上昇で収縮し,血管内圧低下で拡張する.さらに末梢 血流路は細動脈 毛細血管の直列回路と,安静時には休止血管として存在し激しい運動時に血液を供給する並 列[,il路の2相性血流回路よりなる.発育期にはトレーニングを意識しなくとも,日常生活を通じて血管新生を 伴った並列回路が成立していくものと思われる2°).

 2.先天性心疾患(CHD)関心術後症例を対象とする有酸素運動能について

 CIII)開心術後の運動能評価に際しては先ず形態学的・血行動態的修復度,刺激伝導系損傷度を把握し,次い で遺残症residuae,合併症complication,後遺症sequeIaeの程度を,さらには術前の異常血行動態や低酸素 Ifrl症による心筋障害度の予めの認識が大切である. acyanotic CHD開心術後症例の多くは適切な時期に満足 なr一術がなされていれば同年齢健康小児と比較して有酸素運動能は差がない.ASD, VSD, PSなどがこれに 相当し,非開心術のPDAも含まれる.一 方, cyanotic CHD開心術後症例の多くは同年齢健康児として有酸 素運動能は低下している.原因としてはchronotropic iinc()mpetence(運動時心拍数L昇不良),stroke volume 増加不良または減少,SaO,低下と体血管抵抗上昇,さらには不十分な手術,手術年齢などがいわれている.し かし,術前と比較すれば著明な改善が得られていることを強調したい.本文ではファロー四徴手術例,Fontan 手術例,TGAに対するMustard手術例を中 C・に述べる.

 術後ファロー四徴の運動能低下の主因はchronotropic inconlpetenceである21)一一24).運動能低下の一因とし て拡大した右室,ejection fractionの低下などがいわれてきたが25),否定的であり,最近では肺動脈逆流残存 が原因との説26)もある.chronotropic incompetencceの発生機序としては洞結節障害(先天的,後天的では血 行動態的影響,低酸素血症,手術時損傷など),心臓自律神経系異常などがいわれているが詳細は未だ不明であ

る.最近血中のcatecholamine測定より運動時の交感神経活性は充進しているにも拘わらず,心拍数応答の低 下は心臓交感神経β一receptor感受性低下が一因ではないかとの報告がある2 ).これはうっ血性心不全症例の 運動時心拍数上昇不良の機序27)と同様であり興味深い.さらに運動能低下と同時にVO、 transiellt kinetics低 下も指摘されている23).そうであれば短時間内の急激な運動に対する耐容能低下は理解できよう.

 Fontan手術後は運動開始時のstroke volume増加を認めず,運動時心拍出量は専ら心拍数増加に依存する.

対象が三尖弁閉鎖または単心室であろうとFontan術後はchronotropic inc()mpetenceを示す場合が多い.そ の機序としてはi)心臓自律神経系機能障害,ii)運動時SaO2低下, iii)洞結節機能障害などが挙げられ る28).大血管転位のMustard手術後症例の検討では健康児と比較して安静時の心拍数,血圧, SaO,,心拍出

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422− (32) 日本小児循環器) :会雑誌 第12巻 第3号 量,体血管抵抗には差がみられなかったが,最高運動時にはVO、max,心拍数,心拍出量, stroke volurne,

SaO,は著しく低下した.これはstroke volume減少,一部心拍数上昇不良および体血管抵抗の異常な・ヒ昇によ るとした29)3°).Jatene手術後には良好な運動能が期待されるが,未だ充分な資料がない.但し,運動時の心筋 虚血出現の可能性は残されていよう.

 まとめ

 1)有酸素運動能の評価として最大酸素摂取量はgolden standardとされてきたが,酸素輸送能の一指標で あり,末梢循環系の筋における代謝機能の評価を忘れてはならない.

 2)有酸素運動能の指標としてのAT, VAT, LTの各指標は思春期前小児の運動能評価にはなお問題が残さ れている.

 3)trainability評価には性別・年St matchingに加えて成熟度matchingが極めて重要な条件となる.

 4)CHD開心術後の有酸素運動能の評価に際しては,

 i.基礎心疾患の形態学的特徴,異常な血行動態による心筋の肥厚と伸展,低酸素血症や酸・塩基平衡障害 による心筋障害の程度,刺激伝導系障害度を予め把握しておく.

 ii.開心術後は形態学的・血行動態的修復度,刺激伝導系損傷度を正確に把握し,適切な運動負荷試験のも とに運動能を評価する.さらに心拍変動法や薬剤負荷による心臓自律神経系機能,末梢循環系,筋performance の評価を行う.上記のcyanotic CHD開心術後にみられる運動時の異常応答は適切な手術が心筋障害発生前の 早期に施行されれば減少していく可能性が強い.

 iii.心臓rehabilitationについては循環器医師,スポーツ指導者,臨床検査技師,心理カウンセラーなどの チームワークが必要であり,開始前の運動能評価→トレーニングメニュー作成→トレーニング開始・継続→ト レーニング効果判定(行動体力の機能面の一指標に過ぎないVO2max, AT, VAT測定のみならず防衛体力や 精神的要素の評価を含めた総合的判定のもとに)→運動処方作成,の順序で施行されるべきであろう.

 最後に1994年AHAより小児運動負荷ガイドライン3 )が作成されており,健康児・心疾患児の運動負荷試験 施行時の参考にしてもらいたい.

       文  献

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平成8年5月1日 423−(33)

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