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日本小児循環器学会雑誌 14巻5号 614〜616頁(1998年)

<Editorial Comment>

左心低形成症候群に対するNorwood手術成績向上への提言

         開心補助手段を中心として

福岡市立こども病院心臓血管外科角 秀秋  松尾論文は,左心低形成症候群に対する治療成績としては比較的少数例の報告ではあるが,一施設における 治療方針の変遷と外科治療の問題点を明らかにした優れた論文である.とくに,脳循環維持を中心とした開心 補助手段の改良,Norwood手術困難例に対するVan Prragh手術の適応基準の提言など有意義な情報をもた

らすものである.

 本邦におけるNorWood手術成績は,現在でも満足行く結果が得られていないのが現状である.その理由と しては,本手術は新生児期の姑息的開心術であること,大動脈弓再建を伴う侵襲の大きな術式であることが挙 げられる.Norwood手術における大動脈弓再建のためには,通常,長時間の循環停止が必要となり,そのこと が手術侵襲を大きくし,術後管理を困難なものにしていた.欧米においては新生児開心術の補助手段としては 超低体温循環停止法が汎用されてきたが,現在,わが国では中等度あるいは高度低体温体外循環法が主として 用いられている.この流れの中で,本邦の多くの施設でNorwood手術成績の向上のために可能な限り循環停 止を回避する方法が試みられてきた1)2).著者らも述べているごとく,術後体肺短絡路として使用する人工血管 からの送血による脳循環および冠循環の維持を目的としたものであり,Japanese methodとでも言うべき優れ た補助手段である.本稿ではNorwood手術の開心補助手段について,当施設における変遷と現在の工夫を述 べcommentとしたい.

 対象と方法:左心低形成症候群にたいするNorwood手術症例を1987年から1992年までの15例(前期)と 1993年以降の21例(後期)とに分けて検討した.前期の大動脈再建時の開心補助手段は体外循環併用超低体温 循環停止法であり,最低直腸温度は16℃,全身循環停止時間は66±24分(47〜107分)であった.後期の16例で

は体肺短絡人工血管を用いた腕頭動脈からの送血によるの高度低体温低流量体外循環法(真腸温22°C,流量50 ml/kg/min)で選択的脳灌流を行い脳循環停止を回避した.大動脈再建時の下半身循環停止時間は41±14分

(17〜60分)であった.更に,最近の5例では胸骨正中切開からの遠位胸部下行大動脈送血の併用により循環停 止を完全に回避iし,軽度低体温高流量体外循環(直腸温30℃,流量150ml/kg/min)とした.腕頭動脈からの脳 灌流に用いた人工血管はGore・Tex 3.0〜3.5mmであった(図1).

 正中切開からの遠位胸部下行大動脈送血法(図2):下大静脈左方の心膜を横隔膜近傍で約2cm横切開する.

下大静脈の後左方の食道を右方に避けると胸部下行大動脈が容易に視認される.大動脈の壁側胸膜を一部剥離 し送血部に巾着縫合糸をかける.大動脈剥離の際,食道を愛護的に避けることはもちろんであるが,肋間動脈,

胸管,迷走神経の損傷防止にも留意する.送血cannulaとしては口径2.1mmのL型のもの(JMS社)を使用 し,先端は頭部に向ける.Y字管による分離体外循環とするが,還流圧確認のための一ヒ半身および下半身動脈 圧モニターは必須である.大動脈弓再建後は下行大動脈のみからの送血が可能となる.

 新大動脈再建法:前期では上行大動脈を単冠動脈として用いる肺動脈 大動脈弓部直接吻合法5例,異種心 膜ロール作成法10例であった.後期では大動脈縮窄部拡大を併用した異種心膜ロール作成法12例,同じくグル

タールアルデヒド処理自己心膜補填法6例,大動脈縮窄部切除を併用した直接吻合法3例であった.

 体肺短絡路作成:腕頭動脈 肺短絡路は可能な限り中心肺動脈に吻合し,1.7kgの1例では短絡路として右 室肺動脈間に心外導管(Gore−tex 5.Omm)を使用した.

 結果:前期は15例中8例が早期死亡した(死亡率53%).急性期の術後管理は困難を極め,4例において覚醒 遅延,急性腎不全を含む多臓器不全が認められた.遠隔生存7例中6例がBidirectional Glenn(BDG)前に 遠隔死した.1例のみBDGを経てFontan手術に到達したが遠隔死し,現在生存例はない.後期は21例中6例

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(2)

日小循誌 14(5),1998 615 (23)

3.5mm PTFE graft

AV憲 織

2.1 mm JMS cannula

図1 循環停止を用いない大動脈再建のための体外循  環送血法

 腕頭動脈からの送血に加え,胸部下行大動脈からの  送血を確保し,軽度低体温高流量体外循環下に大動  脈再建を行う.

        図2 術中写真

A:下行大動脈送血用Cannula, D:横隔膜, V:脱血 cannula, IVC:下大静脈

が早期死亡した(死亡率28.5%).死亡原因の多くは右室不全あるいは肺血管閉塞性病変に起因するものであ り,下行大動脈送血を行った最近の3例では腹膜灌流を必要としなかった.生存例に脳障害を認めたものはな かった.生存15例中3例がBDG前に遠隔死した.7例でBDGを施行し3例でFontan手術に到達した.現在

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(3)

616−(24) 日本小児循環器学会雑誌 第14巻 第5号

BDG待機5例, Fontan待機4例である.

 まとめ:開心補助手段および術式の改良により手術成績の更なる向上が期待される.開心補助手段として は,選択的脳灌流法や下行大動脈送血による循環停止の回避法が今後普及していくものと考えられる.術式と しては,大動脈縮窄部の拡大大動脈吻合と主肺動脈大動脈弓直接吻合併用術式が遠隔期の成長を考慮すると有 利と考えられる.術後肺血流調節を容易にするためには,口径3.0〜3.5mmの小さめの人工血管による体肺短 絡路の作成,一酸化窒素(NO)吸入によるPH crisisの予防などが有用と思われる.遠隔成績向上のためには 早期の段階的治療戦略(Norwood, BDG, Fontan)の積極的導入が重要であろう.

      文  献

1)Asou T, Kado H,Ilnoto Y、 et a1: Selective cerebral perfusion technique dllring aortic repair in neonates. Arm   Thorac Surg 1996;61:1546 1548

2)佐野俊二:Norwood手術の適応と成績.新外科学大系追哺3.胸部血管の外科,1997, pp230−236

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