偏光高速度干渉計を用いた空力音源近傍の可視化と解析
Visualization and analyses near sources of aerodynamic sound using parallel phase-shifting interferometry
5118E010-2 谷川 理佐子 指導教員 及川 靖広 教授
TANIGAWA Risako Prof. OIKAWA Yasuhiro
概要: 新幹線や自動車の騒音の原因の一つである空力音の新たな計測法として,非接触に音場を記録可能な偏光高速 度干渉計を用いた空力音源近傍の可視化と解析を提案する。従来のマイクロホンを用いた計測では困難であった気流 内部の音源近傍の観測を行うことで,空力音の発生過程の理解につながることが期待される。本研究では,空力音の シンプルな例である角柱周りの流れから発生する空力音の可視化実験を行い,空力音源近傍の可視化の可能性を検証 し,その有効性を確認した。また,可視化された流れと音の関係を調べることにより,音の発生に寄与する流れの成 分の構造を含めた可視化が可能であることを確認した。
キーワード:空力音,光学的音響計測,干渉計,高速度カメラ
Keywords: Aerodynamic sound, Optical measurement of sound, Interferometer, High-speed camera.
1. ま え が き
気流が乱れることにより発生する空力音は,新幹線や 自動車,風車などの騒音の原因の一つと言われている。
これらの騒音低減には騒音源の性質を知ることが重要で あり,これまでに理論,実験,数値解析など様々な研究 が行われてきた
[1, 2]
。特に,数値シミュレーションを用 いることで,音源近傍の流れ場や音場を解析可能になり,空力音の発生予測や騒音低減に向けた対策を容易にして きた。一方で,数値シミュレーションの理想的な条件で は観測されない現象が実験で観測されることも多くある ことから,実測による観測も重要である。
空力音の計測にはマイクロホンやマイクロホンアレイ を用いるのが一般的である。マイクロホンを音源の遠方 に設置して放射音を測定することで,空力音の周波数や 音圧レベルを知ることが可能である。また,マイクロホ ンアレイを用いておおよその音源位置を推定することも 可能である。一方で,マイクロホンを気流内部に設置す るとマイクロホン自体が新たな空力音源となってしまう ため,気流内部の音源近傍の音の計測は困難である。
そこで本研究では,空力音源近傍の音場を観測するこ とを目的に,近年提案された非接触に音場の記録が可能 な偏光高速度干渉計
[3, 4]
を用いた空力音源近傍の可視 化と解析を行った。空力音のシンプルな例である,角柱 周りの流れから発生する音を対象に音源近傍の可視化と 解析を行うことで,空力音源近傍の観測の可能性を確認 した。また,圧力変動のある流れの可視化が予想される ことから,可視化された流れと音の関係を調べることで 空力音の発生に寄与する音源の成分を確認した。2. 光学的音響計測
光を用いた音場の計測では,音による空気の疎密変化 が光の位相を変調させることを利用している。幾何光学
Optical flat
Beam splitter Aperture Lens
Lens
Wollaston prism
Laser
Quarter wave plate
High-speed polarization camera Test section Lens
Optical flat
Reference light Object light
図–1 本研究で使用する偏光高速度干渉計のシステムの模式図 近似により光の位相
ϕ
と媒質の屈折率n
は,ϕ(r, t) = k
∫
L(r)
n(l, t) dl (1)
と 表 さ れ る 。た だ し ,
r
は 位 置 ベ ク ト ル ,t
は 時 間 ,k
は光の波数,L
は光路である。ここで,Gladstone–
Dale
則より媒質が空気の場合は屈折率n
と密度ρ
の 間に(n − 1)/ρ = const.
なる関係が成り立つことに 加え,音圧p
と空気の密度ρ
は断熱変化を仮定すると(p
0+ p(r, t)) /p
0= (ρ(r, t)/ρ
0)
γ(
ただし,p
0は大気圧,ρ
0は大気の密度,γ
は比熱比)
が成り立つことから,音 圧p
による光の位相変化ϕ
pはϕ
p(r, t) = k n
0− 1 γp
0∫
L(r)
p(l, t) dl (2)
と表すことができる。このことから,光の位相を観測す ることで音の情報を取得可能である。
光の位相を観測する方法の一つに干渉計測がある。本 研究では,光の位相を瞬時・定量的に計測可能な光学計 測装置である,偏光高速度干渉計を使用する。図
–1
に本 研究で使用する偏光高速度干渉計の模式図を示す。レー ザから発せられた光は計測領域手前で反射する参照光と 計測領域を通過する物体光に分けられる。計測領域を通 過し音による光の位相変化を受けた物体光と参照光を合 成することで生じた干渉縞を光の強度として偏光高速度 カメラで記録する。Nozzle Square
cylinder Micorphone
100 mm
40 mm
Supporting rods
図–2 角柱周りの流れから発生する空力音の可視化実験環境
0 0.01 0.02 0.03 0.04 0.05 0.06 0.07 0.08 0.09 0.1
Time [s]
-5 0 5
Amplitude [Pa]
t = 0.03 [s] t = 0.04 [s] t = 0.05 [s]
-0.02 -0.01 0 0.01 0.02
Phase of light [rad]
t = 0.06 [s] t = 0.07 [s] t = 0.08 [s]
図–3 角柱周りの流れから発生する空力音の可視化結果
3. 実 験
偏光高速度干渉計を用いた空力音源近傍の可視化の検 証を行うことを目的に,空力音のシンプルな例である角 柱周りの流れから発生する空力音を対象に実験を行った。
図
–2
に実験環境を示す。ノズル出口から40 mm
の位置 に支柱と一体になった2mm
角の角柱を設置し,リファ レンスの計測用にマイクロホンを角柱上部100 mm
の位 置に設置した。3. 1
可視化結果図
–3
に角柱から発生する空力音の可視化結果とマイ クロホンの時間波形を示す。色は光の位相を表しており,圧力の正負に対応している。可視化画像の円形内部が計 測領域であり,計測領域右端にノズル,計測領域中央付 近に角柱が設置してある。可視化結果から,角柱を中心 に二重極音源的な音場が観測されている様子が確認でき る。また,角柱後流側において,角柱上下で正圧と負圧 がおおよそ反転した細かい圧力分布が観測される。音の 波長と比較して空間周波数が高いこと,角柱後流のみに 見られる特徴的なパターンであることから,音の発生に 寄与する流れの成分であると考えられる。マイクロホン の時間波形と同様に,可視化結果において音の振幅が時 間的に変動している様子が見て取れる。
3. 2
解 析可視化された音と流れの成分との関係を調べることを 目的に,流れと音の時間的な振幅変動の相関を算出した。
図
–4
に音と流れの成分の振幅変動の相互相関係数を示 す。図中の丸で示したピクセルを基準点とし,全ピクセ ルの時間波形の平均二乗平方根による包絡(RMS
包絡)
の相互相関係数を算出した。図より,角柱上下の広範囲 および,角柱後流側で強い正の相関があることが確認で きる。したがって,可視化された流れの成分は音の発生 に寄与する成分であると考えられる。次に,角柱後流の流れの成分に着目すると,可視化結
20 40 60 80 100 120 140
20
40
60
80
100
120
140
0 0.1 0.2 0.3 0.4 0.5 0.6 0.7 0.8 0.9 1
Cross-correlation coefficient
Position [pixel]
Position [pixel]
図–4 基準点に対する全ピクセルの相互相関係数
0 0.01 0.02 0.03 0.04 0.05 0.06 0.07 0.08 0.09 0.1 Time [s]
0 0.005 0.01 0.015 0.02 0.025 0.03 0.035 0.04 0.045
Amplitude of sound [rad]
0 0.1 0.2 0.3 0.4 0.5 0.6 0.7
Difference value of flow [rad]
Sound Flow
図–5 流れの角柱上下対称性と音の振幅の関係
果図
–3
から,時間的に上下の正負圧の分布が完全に反 転している時刻(t = 0.05, 0.08 s)
や斜め方向に崩れて いる時刻(t = 0.03, 0.07 s)
があることが見て取れる。ま た,角柱上下で流れの成分が正負対称のとき音の振幅も 大きくなっている様子が確認できる。音の時間的な振幅 変動と角柱上下での流れの対称性の時間変動を比較した 結果を図–5
に示す。音の信号は,左図中角柱から離れた 位置の長方形で囲まれた二つの領域での各ピクセルの時 間波形のRMS
包絡を平均したものであり,流れの信号 は,左図中の角柱近くの長方形囲まれた二つの領域にお いて,角柱上側と下側の成分の差のRMS
包絡を平均し たものである。右図より,流れの成分の差が大きくなる,すなわち角柱に対して正圧負圧が対称になると,音の振 幅も増大していることが確認できる。したがって,流れ の成分の角柱に対する上下の対称性が上下方向への音の 放射に寄与していると考えられる。
4. む す び
本研究では,空力音源近傍の音場を観測することを目 的に,偏光高速度干渉計を用いた可視化と解析を行った。
実験により空力音源近傍の音と流れ可視化が可能でるこ とを確認した。また,流れと音の関係から,音の放射に 寄与度の高い成分の観測が可能であることも確認した。
参 考 文 献
[ 1 ] C. K. W. Tam. Computational aeroacoustics: An overview of computational challenges and applications.
Int.J. Comput. Fluid Dyn., Vol. 18, No. 6, pp. 547–567, 2004.
[ 2 ]
飯田明由.最新の空力騒音解析技術(<
小特集>機械の振動騒音 解析の先進技術とその適用). 日本音響学会誌, Vol. 66, No. 5, pp.227–232, 2010.
[ 3 ] K. Ishikawa, K. Yatabe, N. Chitanont, Y. Ikeda, Y. Oikawa, T. Onuma, H. Niwa, and M. Yoshii. High-speed imaging of sound using parallel phase-shifting interferometry.
Opt. Express, Vol. 24, No. 12, pp. 12922–12932, Jun 2016.
[ 4 ]
矢田部浩平,石川憲治,谷川理佐子,及川靖広. 光学的音響計測.電子情報通信学会 基礎・境界ソサイエティ