- 66 - ライオンはアフリカに暮らす大型のネコ 科の動物です。アフリカにはネコ科の仲間 としてライオンをはじめヒョウ,チーター, カラカル,サーバル,ワイルドキャットなど がいますが,オスが持つ立派なたてがみ,"
プライド"と呼ばれるオスを中心に複数の メス,子どもたちで構成される群れなど,他 の動物をしのぐ存在感,威圧感があります。
ところでアフリカ大陸の赤道直下,タン ザニアのマニヤラ湖国立公園に住むライオ ンは,何故か昔から特別変わった習性をす ることで知られています。それは"木登り"
という特技です。
マニヤラ湖の木登りライオンといいます と,高名な動物文学者である戸川幸夫先生 が書かれた一文を,まっ先に思い起こしま す。
戸川先生はアフリカへもたびたび出かけ られ,写真や絵画でも動物の姿を多く記録 されていらっしゃいます。
8 年振り,何度目かのケニア訪問の際戸川 先生はマニヤラ湖以外で"木登りライオン"
に出会われたそうです。そのくだりをご紹 介してみますと,
ただ嬉しかったのはタンザニアのマニヤ
ラ NP(注……ナショナル・パーク,国立公園 のこと)でしか見られないかと思われてい た「木登りライオン」にマサイマラで会えた ことだった。高いアカシアのてっぺんに一 匹の成長した雌ライオンが登り悠々と昼寝 していた。これはこの地方では従来見られ なかったものである。われわれを案内した 4 人のベテラン運転手も初めて目撃したと語 り,これは極めて珍しい事だと目を見張っ ていた。彼らが初めてだというのだから恐 らく観光客でこの光景を見た人は少ないだ
木登りライオン
動物雑感 (18)
平 岩 雅 代
アニマルフォトグラファー トラベルライター
- 67 - ろう。だが私はこれがライオンの間の伝承 によるものなのか,それともこのライオン だけの偶発的な発見によるものか判断がつ かなかった。そこで後でレンジャーに訪ね てみた。彼の答えは,
「極めて異例のことだがそれは伝承によ るものと思えます。マニヤラの森林に棲息 するライオンが森林性というところから, 豹のように木に登ることを覚えた。木に登 れば涼しいし,害虫にたかられることも少 ない。そんなことでこの風習はそこに棲息 するライオン全部に広がった。この風習は, 時間はかかったが,マニヤラからセレンゲ ティ NP のライオンへと伝承され,それが隣 接するこのマサイマラへと伝わり始めてい るのです」というものだった。
彼の説明が正しいとすれば"動物と伝承"
の面白い実例になると思った。私はセレン ゲティのライオンが果たしてこの習慣を身
につけているかどうかを確かめた いと思ったが,今回は日数もなくそ の機会は得られなかった。セレンゲ ティに行かれる方があったらぜひ それを確かめて貰いたいとお願い する実は私もマニヤラ湖ではたび たび木登りライオンに出会ってい ますが,正直なところどうしてここ のライオンが木に登るのか,よくわ かりませんでした。
ところが一昨年の夏,タンザニア のタランギーレ国立公園で若いオスライオ ン 2 頭が,樹上で昼寝をしているところに出 会い,さらに昨年の夏にも同じタランギー レ国立公園で,母親と成長した子ライオン の 2 頭が,木の上で休んでいるところに遭遇 し,思う存分撮影を堪能することができま した。
時は昼下がり,木陰のライオン母子は,あ ちらを向いたかと思えば,立ち上がって体 の向きを変えたり,いろいろなポーズを,ま るでショーのように見せてくれました。
時の過ぎるのも忘れ,気が付いた時には 10 数本のフィルムをその場で使っていまし た。
私はこれまでにアフリカの草原でたくさ んのライオンに出会ってきましたが,この タランギーレの木登りライオン母子との出 会いは,今までにはない忘れられないもの として,私の心の中に残っています。