― 113 ―
1) 2) 2)
1) 1) 3)
( ± ( ± ))
( ) ( )
松 田 拓 朗1) 平 尾 紀 子2) 清 水 登 志 子2) 坂 井 洋 子1) 中 島 裕 之1) 田 中 宏 暁3)
超高齢社会の到来に向けて 高齢者が自立した 生活を送るための予防対策として様々な健康教室 が実施されている 健康づくりのために実施する 運動の条件として 「種類 頻度 時間 強度」 が 挙げられ なかでも強度は安全で効果的な運動を 行うための最も重要な条件である このことから 安全かつ効果的な運動を行うためには各個人にあっ た運動強度を設定する必要がある
安全で効果的な運動強度を設定するための有用 な指標として乳酸閾値 ( ) 強度が挙げられる この 強度は 血中乳酸濃度の過剰な蓄積のな い運動強度の上限である この強度での運動は 高齢者や低体力者 有疾患者に対しても有用性に 優れており 運動を安全に実施することが可能で ある
2,7,12,13,16,19−21,26)高齢者の体力は 加齢に伴い低下していくこと が報告されている
22)現在 高齢者の寝たきりを 未然に防ぐための転倒予防に注目した筋力トレー ニングが介護予防事業として多く展開されている が 予想されていたほどの効果や成果が得られて いない
28)しかし 十分な有酸素運動トレーニン グ時間を確保することで 高齢者でも体力・身体 機能に改善がみられることが我々の研究で明らか にされている
2,19,25,26)高齢者にとって最も好まし いのは 持久力と筋力を同時に改善することであ る (2006) は 強度のベンチス テップ運動トレーニングが持久力と筋パワーを同 時に改善できることを報告している
19)更に高齢者にとって問題視されていることが 認知症やアルツハイマーといった脳機能の低下で ある 学習課題の遂行や ウォーキング ジョギ ングなどの身体運動の実施で 前頭葉機能 認知 機能の改善を示唆する報告がある
8,17,32)また我々 の本プログラムを用いた運動においても 自立高 齢者の前頭葉機能と認知機能を高める可能性を示 唆する結果を得ている
25,26)最近 アルツハイマー 病マウスを用いた (2005) の研 究で 神経細胞死の起因となるアミロイド量の有
意な減少の要因に 身体活動量 (時間) が関連し ていることが示唆されている
15)これらの知見に基づくと 強度の運動時間 を十分に確保することで 自立高齢者に限らず虚 弱高齢者においても体力 前頭葉・認知機能に好 影響を及ぼす可能性が考えられる そこで本研究 は ベンチステップ運動が虚弱高齢者の持久力向 上 前頭葉・認知機能の改善に有効であるか否か を検討した
1. 対象者
対象者は 老人ホーム入居者並びにデイサービス を利用している高齢者男女23名であった 本研究の 対象者は 全て要介護認定者であった また群分け は 対象者の希望により行なった (介入群10名
【79 4±8 7歳】 非介入群13名【83 5±4 1歳】 ) なお 群間において年齢に有意差は認められなかっ た ( 0 248).
本研究プロトコルは 福岡大学医学部倫理委員 会にて承諾をうけた
2. 運動プログラム
介入群においてステップ台 (ステップウェル2 コンビウェルネス社製) を用い 11週間のベンチ ステップ運動トレーニングを行った 個人に処方 された運動強度に相当するように台高調整可能な ステップ台と80 から120 まで10 刻 みで5段階のテンポが収録された音楽 を使用 した 膝や腰に痛みを持つ対象者や ベンチステッ プ運動に対して不安のある対象者には補助器具と して歩行器等を使用し 音楽 に合わせて1回 10分のベンチステップ運動を実施した 1週間当 りの目標運動時間は先行研究に従い140分以上を 目標とした
9,14,23)また 1回 90分間の健康運動教室を週に1度 開催しベンチステップ運動やレクリエーション等 を行った なお, 教室90分間の内20分間は必ずベ ンチステップ運動を実施した 運動の実施状況は
― 114 ―
虚弱高齢者を対象としたベンチステップ運動プログラムが 持久力及び前頭葉・認知機能向上に及ぼす影響(松田・他)
日誌によって調査した 日誌には トレーニング 時間 体調 その日の出来事などを記入してもらい 週に1回の教室時に回収し コメントを付して還 元した
介入期間中において非介入群は 特別な運動は 行なわず従来通りの生活スタイルを維持し続けて もらった
3. 測定項目
1) 体力・運動能力測定
体力・運動能力は 文部省新体力テスト
18)に 従い 握力 (筋力) 長座体前屈 (柔軟性) 開眼 片足立ち (平衡性) を測定した 更に
(動的バランス能力)
4)(全体的なバランス機能)
5)30秒椅 子立上がりテスト
10)10回椅子立上がりテスト (敏捷性 下肢筋力)
30)を測定した
2) 前頭葉および認知機能測定
介 入 前 後 に 認 知 機 能 の 評 価 と し て
( )
27)検査を
前頭葉機能の評価として (
)
6)検査を用 いた
3) 運動負荷試験
介入前後にステップ台を用いて間欠式多段階漸 増運動負荷試験を行った 各段階の運動時間は2 分間とした 初期負荷は毎分10回の昇降回数で実 施し その後台高及び昇降頻度を変え 0 5 づつ運動強度を漸増した 各段階には1分間の休 息をとった 心拍数の測定は 携帯型心拍数測定
装 置 ( 社 製
) を用い 各段階の運動終了30秒前に測 定した 血中乳酸濃度 ( ) は 簡易血中乳酸 測定器 (ラクテート・プロ
TM1710 アークレ イファクトリー社製) を用い各段階の運動終了直 後に耳朶採血より得られた5μ の血液で分析し
た 採血終了後に (
以下 ) を聴取した 運動
の中止基準は が2 を越えた時 本 人の意思により運動継続が困難と判断された時 規定テンポで昇降が出来なくなった時 ドクター ストップが出た時のいずれかの条件で中止とした
4. 運動強度決定法
は (2003)が報告した簡易決 定法
3)に基づき決定した 強度に相当する はアメリカスポーツ医学会が報告した次 式により算出した
1)・ {(0 2×昇降数)+(1 33×1 8×高さ×
昇降数)+3 5}÷3 5
【昇降数:昇降回数 分 高さ: 】
5. 統計処理
体力・運動能力測定 前頭葉及び認知機能検査 の介入前後の変化については の符号付 順位検定を行った 群間比較には
の 検定を行った 全ての統計解析は
( 5 0 ) を用い
いずれの検定も有意水準は <0 05に設定した
トレーニング中の運動時間を表1に示した 介入 前後の 強度 処方運動強度 ( 強度:介入 前 ; 4 0(1 0) → 介 入 後 ; 4 3(1 1)
0 1 中央値 (四分位範囲) ) に向上傾向が認 められた (表2) 安静時心拍数 (介入前;76(15) 拍 分→介入後;69(14)拍 分 0 1 中央値 (四 分位範囲) ) に低下傾向が認められた (表2) 運動能力テストでは 右手握力 左右握力の最大
値 (普通・早く) が有意に
変化した (表3) しかし 10回椅子立上がりに おいては低下傾向が確認された (表3) 前頭葉 検査 ( ) の得点は介入群において維持され 非介入群において有意な低下が認められた また 介入後の得点において群間に有意な差が認められ た 認知機能検査 ( ) の得点は介入群にお いて維持され 非介入群において有意な変化が認
― 115 ―
‑116‑
表
1
ベ ンチステ ップ運動 トレーニ ング時間対象者 合計 (分/週 )
介入群 (9名
) 90.9±
62.9・数値 は平均値 士標準偏差を示す
・介入群の10名中 1名 は,日誌未提出
表
2
ベ ンチステ ップ運動 トレーニ ング介 入前後の体力の変化測定項 目
人数(名
)
介 入前介 入後
LT引貪I隻
8 4.0〔
1.0〕4.3〔
1.1〕+
(NIIETs)
安可][}│ぶ;白蓼女 8 76〔 15〕 69〔14〕
+
同―毒
訂酔舞ギ拍数 8 109〔 17〕 99〔16〕
同一負荷時
RPE 8 13〔
3〕14〔
2〕・数値 は中央値 〔四分位範 囲〕を示す.
口介入前 後の値 の差 に有意傾 向が認められ た (+:p<0.1).
口RPE:rate ofperceived cxciion(主 観 的運 動 強 度)
虚弱高齢者 を対 象 と したベ ンチステ ップ運動 プログ ラムが 持久力及 び前頭葉 ・認知機 能 向上 に及 ぼす影響(松田・他)
表
3
ベ ンチ ステ ップ運 動 トレー ニ ン グ介 入 前 後 の運動 能 カ テ ス トの 変 化―
‑117‑
測定項 目 人数 (名) 介入前 介 入後
握 力
(kg){重
重 片 足 立 ち(秒) 長 座 体 前 屈 (cm)
Tillled up and gO(秒) {種 )
ファンクショナル リーチ(c→
30秒 椅子立上が り(回)
10回椅子 立 上 が り(秒)
7 8 7 6 8 8 8 6 7
21.6〔7.6〕
18.3〔7.7〕
3.5〔3.1〕
15.5〔9.5〕
15.8〔7.2〕
13.5〔5.4〕
29.5〔11.5〕
9〔3〕
23.8 〔10.3〕
2t.7 1r3.4*
18.3
[e.2]
3.0 [15.8]
17.3
19.s) tr.1 l2.i*
g.z lz.z)*
3l.s [8.0]
rz lt)
26.0123.3)', --r
・数値 は中央値 〔四分位範囲 〕を示す.
・介入前後 の値 に有意 差が認 められた(*:p<0.05).
口介 入前後 の値 の差 に有意傾 向が認められた (+:p<0.1).
表
4
ベンチステ ップ運動 トレーニング介入前後の前頭葉 。認知機能検査の得点の変化測 定項 目 人数(名) 介入前 介 入後
FAB(点)
NIMSE(点)
介入群 非介入群
介入群 非介入群
11〔4〕
10〔5〕
24〔4〕
20〔5〕
r
r [:Jb e llJ*
zs 14)
z: Is]*
9 12
9 13
口数値 は中央値 〔四分位範 囲〕を示す。
口介 入前後 の値 に有意差が認められた (*:p<0.05).
・群間の値 に有意差が認められた(♭ :p<0.01).
・FAB:iontd assessment battery(前 頭葉機 能検査) MMSE:mini―menta state exanml on(認知機 能検査)
められた (表4)
家庭にて乳酸閾値に相当する高さ 昇降頻度で 行うベンチステップ運動は高齢者の有酸素能と脳 機 能 の 改 善 に 有 効 で あ る こ と が 報 告 さ れ て い る
2 19 25 26)運動時間が短かったにもかかわらず 体力 運 動能力に有意な改善が認められた 既に我々は家 庭にて乳酸閾値に相当する高さ 昇降頻度で行う ベンチステップ運動が高齢者の有酸素能と脳機能 の改善に有効であることを報告してきた
2 19 25 26)その結果 先行研究と同様に 有酸素性作業能力 の向上傾向のみならず 運動能力テストの向上が 認められた 強度のべンチステップ運動は有 酸素運動でありながら運動様式がスクワット運動 の連続であるので 有酸素能のみならず下肢筋力 の増大も期待できる点が最も魅力的である さら に片足で支持して体重を挙上するという動作の繰 り返しが巧緻性を改善することに寄与するものと 考えられる このような運動特性が体力のみなら ず 運動能力の改善に有効であったものと推測さ れる
前頭葉機能 認知機能に関して 川島ら (2006) は 1日15分 週平均5日間の学習療法を実施し たところ 介入群の 検査 検査にお いて介入前に比して 6ヶ月後 12ヶ月後の得点 が有意に改善した 一方 非介入群の 検査 は介入前に比して 6ヶ月後 12ヶ月後の得点が 有意に増悪したことを報告している
11)また我々 の予備研究で 自立高齢者を対象とした運動介入 が前頭葉機能 認知機能の改善を示唆する結果を
得ている
25 26)本研究では 11週間という短い介入
期間 かつ 虚弱高齢者であっても 検査 検査の得点が運動介入によって維持され る可能性が示唆された
ヒトを対象とした運動が脳機能に及ぼす影響に 関する研究のほとんどが 屋外で行われるウォー キングやジョギングによるものである
(2004) は 屋外でジョギングを行う際の信
号や段差をはじめとした周囲の道路状況への気配 りなどが前頭葉を使っており そのことが前頭葉 機能の改善効果をもたらした可能性があると考察 している
8)本研究で用いたステップ運動は 主に 屋内で行うため屋外で行なうウォーキングと比較 して前頭葉機能を働かせるための環境要因は小さ い可能性もある しかし 前頭葉機能 認知機能 に維持が認められた 我々の予備研究では 自立 高齢者を対象に本プログラムで前頭葉機能と認知 機能の改善を示唆する結果を得ている
25 26)また (2001) は 運動によって 前頭葉の運動野の血流が増大したこと 手脚の動 きに応じて運動野の血流が増大する可能性がある ことを報告している
17)今回我々の用いたステッ プ運動は昇降運動であり 特に台を上り下りする 動作は通常の歩行よりも巧みさを要求するため 前頭葉を働かせていたとも考えられる
今回のような結果をもたらした別の側面として コミュニケーションの影響も考えられる 吉田ら (2004) によると コミュニケーションを行うグ ループと行わないグループとに分けて学習療法を 行い比較した結果 コミュニケーションを行うグ ループの方に前頭葉機能テスト成績の改善がみら れたことを報告している
31)本研究の結果も 健康運動教室を通した指導者 と参加者間 参加者間同士によるコミュニケーショ ンの増加が認知機能 前頭葉機能の維持に有効で あった可能性も否定できない
最 近 ア ル ツ ハ イ マ ー 病 マ ウ ス を 用 い た (2005) の研究で 神経細胞死の 起因となるアミロイド量の有意な減少の要因に 身体活動量 (時間) が関連していることが示唆さ れている
15今回は前頭葉機能と認知機能のいず れも有意な変化は認められなかった 予備実験で は平均160分 週の運動時間が確保されたのに対 し 今回は平均91分 週と短かったことが異なる 結果となった原因かもしれない また予備研究で は3ヶ月より6ヶ月とトレーニング期間が長くな るにつれてさらに機能が改善した
25 26)本研究の 結果は 前頭葉・認知機能の改善効果をもたらす為
― 118 ―
虚弱高齢者を対象としたベンチステップ運動プログラムが 持久力及び前頭葉・認知機能向上に及ぼす影響(松田・他)
には十分な運動 (身体活動) 時間を確保する必要 であることを示唆している
本研究の結果から 非介入群で介入後の認知機 能検査の得点に有意な向上が認められた その原 因として 介入以前から日常的に行なわれていた 施設独自のプログラムが認知機能の改善に影響を もたらした可能性が考えられるが 認知機能検査 に対する慣れがあったことも否定できない なお 非介入群では 検査 検査のみの実 施であったため これらの検査項目結果と身体機 能との関連性を明らかにすることは出来なかった
本プログラムで実施したベンチステップ運動は 虚弱高齢者の体力維持に有用であった また 前 頭葉機能 認知機能の維持・改善に 強度の ベンチステップ運動のみならず 健康運動教室で の指導者と参加者間のみならず, 参加者間同士の コミュニケーションも影響を及ぼしていた可能性 が考えられた. 虚弱高齢者を対象としたベンチス テップ運動は 包括的介護予防や生活機能向上法 として有効な手段になり得る可能性が示唆された.
謝 辞
本研究を遂行するにあたり 参加対象者の募集 ならびに測定 運動教室の場をご提供頂いた医療 法人ふらて会西野病院理事長 西野憲史氏に謹ん で感謝の意を申し上げます また 本研究の準備 や測定等で多大なるご協力頂いた 西野病院スタッ フの皆様をはじめ 福岡大学スポーツ科学部運動 生理学研究室の皆様に深く感謝申し上げます
1) アメリカスポーツ医学会編:運動処方の指針 運動負荷試験とプログラム (原著第 6版)
南江堂299 2001
2)
:
4:536 543 2006
3)
:
1:
207 215 2003
4) :
:
39:142 148 1991 5)
: :
45
: 192 197 1990 6)
:
55:1621 1625 2000
7)
:
83:96 103 1991
8) :
49:
325 337 2004
9) 橋本勲 :健康づくりのための運動所要量と 活用の手引き
栄養日本32:621 629 1989
10) : 30
― 119 ―
70:
113 119 1999
11) 川島隆太 :学都共同研究プロジェクト研究 成果最終報告書 :1−19 2006
12)
:
13:1275 1290 1991 13)
:
7:125 131 1985
14) 厚生省健康づくりのための運動所要量策定検 討会 (黒田善雄委員長) :健康づくりのため の運動所要量策定検討会報告書 1989 15)
:
120:701 713 2005 16)
:
88:116 126 1993 17)
:
14:1186 1192 2001
18) 文部省:新体力テスト65〜79歳対象 117 135 2000
19)
4: 570 576 2006
20) 森由香梨 飛奈卓郎 清永明 進藤宗洋 田 中宏暁 :高齢者を対象として開発された在 宅型ベンチステップ運動プログラムの壮年者 への応用
健康支援9:97 101 2007 21)
:
30:818 823 1998 22)
:
55 86
31:1813 1820 1999 23) 進藤宗洋 橋本勲 :健康のための運動所要
量 &
新企画出版1989 24)
:
11:149 165 1989 25) 田中宏暁:高齢者のトレーニングの可能性
日老医誌
42:526 528 2005
26) 田中宏暁 森由香梨 :高齢者の体力 地域における健康増進プログラム実例集 ステップ運動 14:15 19 2005
27) :
(3 )
48:314 318 1987 28) 照井和史 山口和之 :高齢者の運動機能と
筋力トレーニング概論
運動・物理療法16:
― 120 ―
虚弱高齢者を対象としたベンチステップ運動プログラムが 持久力及び前頭葉・認知機能向上に及ぼす影響(松田・他)