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344 近藤ほか 継続的になされてきた. いずれも, 子どもたちの体力水準の低下や身体のおかしさを指摘しており, 日常生活の改善や運動の推奨等を提言している. こうした問題に対処する一つの施策として, 全国各地に 体力つくり推進校 が定められ, 体力向上に向けた様々な活動がなされている. これらの取

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1) 日本体育大学体育学部 〒1588508 東京都世田谷区深沢 711 2) 筑波大学体育系 〒3058574 茨城県つくば市天王台 111 3) 同志社大学スポーツ健康科学部 〒6100394 京都府京田辺市多々羅都谷 13 4) 愛知県立大学教育福祉学部 〒4801198 愛知県長久手市茨ケ廻間15223 連絡先 近藤智靖

1. Faculty of Sport Science, Nippon Sport Science Univer-sity

711 Fukasawa, Setagaya, Tokyo 1588508 2. Faculty of Health and Sport Sciences, University of

Tsukuba

111 Tennodai, Tsukuba, Ibaraki 3058574 3. Faculty of Health and Sports Science, Doshisha

Univer-sity

13 Miyakodani,Tatara, Kyotanabe, Kyoto 6100394 4. School of Education and Welfare, Aichi Prefectural

University

15223 Ibaragabasama, Nagakute-shi, Aichi 480 1198

Corresponding author kondohtomoyasu@nittai.ac.jp

研究資料

ドイツとスイスにおける「動きのある学校」の

理念の拡がりとその事例について

近藤 智靖1) 岡出 美則2) 長谷川聖修2)

田附 俊一3) 丸山 真司4)

Tomoyasu Kondoh1, Yoshinori Okade2, Kiyonao Hasegawa2, Shunichi Tazuke3and Shinji Maruyama4: Expansion of theBewegte Schule concept in Germany and Switzerland, with case surveys. Japan J. Phys. Educ. Hlth. Sport Sci. 58: 343360, June, 2013

AbstractThe purpose of this study was to clarify the expansion of theBewegte Schule concept in Ger-many and Switzerland. TheBewegte Schule was devised in 1983 by Urs Illi in Switzerland, and the move-ment was consistently adopted for school education. It has since spread widely through Germany.

The following actions are accomplished selectively in the Bewegte Schule: (1) Dynamic learning space, (2) Exercise breaks during class, (3) Dynamic sitting, (4) Dynamic classes, (5) Dynamic physi-cal education classes, (6) Proposal to exercise out of classes, (7) Active breaks.

This study revealed that theBewegte Schule encompassed four concepts. There was common recog-nition that movement was indispensable for the growth of the student in school education, and that it was necessary to move even during classroom lessons. DiŠerent theories have led to the development of the Bewegte Schule, including ``healthy education'', ``school as a life space'' and ``school culture'' etc. In addi-tion, according to examples in three schools, movement was introduced into the school curriculum for various reasons, including inclusive education, school reform, and an all-day school system. The term Bewegte Schule is an umbrella concept that encompasses various ways of thinking.

Key wordsbewegter lernraum, bewegungspause, bewegter unterricht キーワード動的な学習空間,運動休憩,動的な授業

.

子どもたちの健康や体力を問題視する報告は教 育行政のホームページや新聞・テレビ等のメディ アにおいて頻繁に見られるが,こうしたことは, 近年に始まったわけではなく,正木ら(1979) をはじめとして,様々な形で1970年代後半より

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継続的になされてきた.いずれも,子どもたちの 体力水準の低下や身体のおかしさを指摘してお り,日常生活の改善や運動の推奨等を提言してい る. こうした問題に対処する一つの施策として,全 国各地に「体力つくり推進校」が定められ,体力 向上に向けた様々な活動がなされている.これら の取り組みは,主として体育授業の改善と充実, 休み時間の運動の推奨,給食指導をはじめとした 食育の推進,家庭との連携による生活改善等,健 康や体力向上に直接寄与する活動が行われる傾向 にある. こうした取り組みに類似した活動は,欧米にお いてもなされているが,一例として米国のフィッ トネス教育がある(井谷,2005).米国では, Physical Best の考えの下で全国スポーツ・体育 協会(National Association of Sport and Physical Education)(NASPE)やアメリカ健康・体育・ レクリエーション・ダンス連合(The American Alliance for Health, Physical Education, Recrea-tion, and Dance)(AAHPERD)から様々な提案 がなされており,身体に関する知識の獲得や運動 への愛好的態度の育成等を図っている. 一方,ドイツ語圏に目を向けてみると,「動き のある学校」(Bewegte Schule)という試みがあ り,我が国の健康や体力づくりに対するアプロー チとは若干異なっている. 「動きのある学校」の試みは,1983年のスイス 学校スポーツ連盟(Schweizerischer Verband f äur Sport in der Schule)(SVSS)の会議において Illi が報告した内容を契機として始まったプロジェク トのことであり,現在は,スイス国内に留まら ず,ドイツにも拡がっている.たとえば,ドイ ツ・ニーダーザクセン州内の「動きのある学校」 へ の 参 加 校 は 数 百 に の ぼ っ て い る ( Bewegte Schule Gesunde Schule Niedersachsen Online, online). 「動きのある学校」の基本理念は,学校教育全 般にわたって,運動を取り入れながら学習を進め ていくことであり,健康や体力の保持増進を狙う 試みがあったり,一方で座学での集中力向上や学 習それ自体を動的にしたりと,様々な目標がその 射程にはある.そして,この試みは,スポーツ授 業という一つの教科の問題に留まらず,休み時間 や他教科の授業,あるいは机や椅子等の学習環境 面にも影響があり,教科を超えた学校教育活動全 般に及んでいる. 具体的に「動きのある学校」では,概ね次のよ うな取り組みが選択的になされている(Regen-sburger Projektgruppe, 2000, p. 19). 1) 動的な学習空間(Bewegter Lernraum) 2) 運動休憩(Bewegungspause) 3) 動的な座位(Bewegtes Sitzen) 4) 動的な授業(Bewegter Unterricht) 5) 動的なスポーツ授業(Bewegter Sportun-terricht) 6) 教科外の運動機会の充実(Bewegungsan-gebote im außerunterrichtlichen Schulsport) 7) 休み時間の運動の充実(Bewegte Pause) この中で,我が国ではあまり馴染みのない 1) から 4)及び 6)について簡単に説明をする. 1)では,教室内で可動性のある椅子や机を使 用し,授業中に動きながら学習できる環境を整え ることである. 2)では,たとえば,授業開始から20分ないし は30分程度経過した後,簡易なストレッチやダ ンス,ウォーキング,あるいはリラクゼーション の体操等を行うことである. 3)では,G ボールや半円等の椅子を用いるこ とで,自然とバランスをとりながら座ることがで きるようにすることである. 4)では,座学であっても長い時間,椅子に座 ったままで学習が進むのではなく,学習内容を踏 まえて,子どもたちが定期的に身体を動かした り,グループワークをしたり,椅子から離れたり することである.たとえば,7 年生向けの数学で は,単に教室で問題を解くだけではなく,以下の ように動きながら問題に取り組んでいる. 「チョークを使って広場で自由に三角形を書き ましょう.全ての辺の長さや角度を測りなさ い.そして,色を使って底辺と高さを示しなさ い」(Trucco und Bucher, 2000, p. 175)

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また,応用課題として次のような問題が示され ている. 「二等分線を書きなさい.あるグループは問 題を出し,別のグループはそれを解きなさい. グループ内で問題を出し合いなさい.紐や 釘を使って,三角形を作りなさい」(Trucco und Bucher, 2000, p. 175) これは三角形の性質を学ばせる問題である.こ の他にも国語,外国語,音楽等の教科において動 的な授業が展開されている. 6)では,運動機会と称して様々なスポーツ活 動が用意されている.そこでは,日本の必修クラ ブのように子どもたちが好きな活動を選ぶことが できる.また,指導者は外部から来ている場合も ある.特に,終日制の学校では,午後になると外 部から指導者が来て各種のプログラムを提供す る.たとえば,チームスポーツ,ラケットスポー ツ,ダンス,格技等である(Stobbe, 2007, p. 35). 上記のように,「動きのある学校」ではスポー ツ授業に限定せず,教育活動全体と関連して運動 を取り入れている. こうした「動きのある学校」の試みは,ドイツ 語圏において様々な取り組みがなされており,書 籍の出版やホームページの開設も数多くなされて いる.しかし,我が国では,これまで長谷川によ って部分的に紹介されてきたのみである(長谷川, 1993).その意味で,このプロジェクトの性質が 我が国に十分に伝わっているわけではない.そこ で,本研究では,以下の二つの目的を設定した. 一つは,同プロジェクトの理念について,ドイ ツ語圏でどのような拡がりをみせているのか明ら かにすること.二つ目は,同プロジェクトを巡っ ていくつかの方向性がある中で,マールブルク大 学の Laging や ブラ ウン シ ュバ イク 工 科大 学 の Hildebrandt らの推奨する「動きのある学校」に ついて事例的に紹介すること.なお,「動きのあ る学校」にも,いくつかの理念と実践がある中 で,この両氏の試みを取り上げる理由は,両氏の 考え方が,学校改革を射程に含んでいる点であ る.そのため,我が国の体力づくりのアプローチ と若干異なっており,体力テストの数値向上を論 議するよりも,運動を基点とした学校改革を問題 としていて,非常にダイナミックな事例であると いえるからである. こうした一連の研究を通じて,我が国の学校教 育における体力づくり,あるいは,学校教育の在 り方等について論議するための一つの基礎資料を 得ることができると考える.

.

研 究 方 法

「動きのある学校」の概要とその拡がりについ て網羅的に扱っている文献として,下記の二つが ある. 一つは,2001年にブッパータル大学の Balz が 中 心 と な っ て い る Regensburger Projektgruppe が記した ``Bewegte SchuleAnspruch und Wir-klichkeit'' である(Regensburger Projektgruppe, 2001).

二 つ目は ,2007 年に Laging と Schillack が編 集した ``Die Schule kommt in Bewegung'' である (Laging und Schillack, 2007).

この二冊を主たる文献として扱う.検討する視 点は,「動きのある学校」の理念の分類と,各理 念の内容についてである.

また,「動きのある学校」の事例については, ``Bewegt den ganzen Tag: Bewegungskonzepte in der ganzt äagigen Schule'' (Becker u.a., 2008) や 各学校の実践報告書等を資料として扱う.この 他,適宜補足的に各種文献を利用する. なお,今回は,三つの学校の事例について記 す.そこでは,学校の理念と実際の取り組みを中 心に記していく.また,当該校については,筆者 が実際に現地訪問を行い,文献に記されている内 容がどのように行われているか,また,学校の取 り組みや子どもたちの様子はどうなっているのか を確認した. 本論の記載順としては,「動きのある学校」の 理念の拡がり,事例調査,まとめの順とした.

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. 「動きのある学校」の理念の拡がり

1983年にスイスではじまった試みは,現在, 多くの学校で導入されており,ドイツ語圏を中心 とした一大プロジェクトとなっている.発案者で ある Illi は,長時間にわたる授業での座位姿勢が 子どもの腰部に大きな負担となっていると考え, こ の 負 担 を 軽 減 す る 方 策 と し て 「 動 的 な 学 習 (das bewegte Lernen)」という考え方を提唱す る(Regensburger Projektgruppe, 2001, pp. 13 14).このプロジェクトは,その後,ドイツに渡 り,かなり多様化していく. そこで,まず,この試みがスイスを超えてドイ ツに入る過程について Illi の文献を手がかりに, 簡単に確認をしていく(Illi, 1995, pp. 404405). 「動きのある学校」の発端は,先記したように 1983年の Illi の報告である.この報告を一つの契 機として,週三回だけのスポーツ授業だけでは, 子どもの健康問題の解決に繋がらないとの認識が 会議の参加者の間に拡がり始めたという.そし て,翌年の秋に再び開催されたスイス学校スポー ツ 連 盟 の 会 議 で は ,「 負 荷 の か か る 座 位 姿 勢 (Sitzen als Belastung)」というテーマが取り上 げられ,医師やバイオメカニクスの研究者,教員 養成の研究者,異なる学校種の教師,スポーツ協 会の代表者による作業チームが発足することにな る.この作業チームの活動が,しばらく続くが, 1991年にこのチームに新たなメンバーとしてス イス教師連盟(Dachverband der Lehrerinnen und Lehrer) (LCH) が加わり,大きなキャン ペーンが張られていく.同時に「負荷のかかる座 位姿勢(Sitzen als Belastung)」というハンドブ ックが出版される. ド イ ツ を は じ め と し た 他 国 へ の 拡 が り は , 1993年のロールシャッハでの国際シンポジウム からであり,作業チームが「動きのある学校」の 報告を行っている.この報告を聞いていたドイ ツ,オーストリア,オランダ,ベルギー等のヨー ロッパ周辺諸国の研究者達がこれを機に情報交換 を始めるようになったという.そして,ドイツで は,様々な研究者達がこの試みに関心を示し始め る. このように「動きのある学校」のプロジェクト がドイツの研究者に拡がり始めるのは,1993年 以降であり,スイスでの取り組みがはじまってか ら約10年後になる.折しも1990年代初頭からド イツ国内では,学校スポーツの危機が叫ばれてい た時期でもあり,「動きのある学校」がドイツに 導入され,拡がり始める時期とほぼ重複している. こ の 点 と 関 わ っ て Balz は , ド イ ツ に お け る 「動きのある学校」の取り組みについて,以下の ような意味づけをしている. 「とりわけ心に留めておくべきことは,『動きの ある学校』の展開は,学校スポーツに降り注い でいる新たな危機(たとえば,学校の中で必修 教科としてスポーツや運動が不要であるといっ た政策)に対して,避けて通れない,何か教育 的な意見表明のような,一種の社会的な意味を 持 っ て い る 」( Regensburger Projektgruppe, 2001, p. 14) このように記しており,ドイツのスポーツ授業 の削減問題に対する一つの対抗策として「動きの ある学校」の試みが立ち現れていると Balz は考 えている.加えて,彼はこれまでスポーツ教育 学・スポーツ教授学分野において,特に1970年 代や1980年代の議論や関心事が「スポーツの中 の行為能力」という学校におけるスポーツの可能 性に終始しており,教科の統合や学校全体の発展 といった議論はしてこなかったのではないかと考 えている.この傾向に抗するかのように,「動き のある学校」に端を発する議論は,学校の在り方 を再考する視点を有しており,非常に射程の広い 議 論 を 提 供 し て い る と 指 摘 し て い る ( Regen-sburger Projektgruppe, 2001, pp. 1819). このようにドイツにおける「動きのある学校」 の展開は,スポーツ授業という一教科の論議を超 えて,学校教育全体の中での教科教育,学校教育 の中での運動や健康という点に目を向けさせる一 つの契機となっている.そして,ドイツ国内の教 育的な背景も相俟って,「動きのある学校」のプ ロジェクトは,発案者の Illi の意図を超えて大き

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表 Laging による動きのある学校の分類表(Laging, 2007, p. 30)(一部抜粋)

コンセプト 運動教育 健康教育 学校プログラムにおける運動・プレイ・スポーツ 運動を志向した学校文化の創造 主張者 Christina M äuller Urs Illi

Uwe P äuhse Wolfgang Zahner

R äudiger

Klupsch-Sahlmann Reinter HildebrandtRalf Laging 目標 教室の授業や休憩時間に おいてプレイや活動を用 いて運動教育をする.ま た,学校生活の推進・発 展をはかるために運動教 育をする. 「負荷のかかる座位姿勢」 動きのある座り方や動的 な学習,あるいは知覚志 向の運動授業をすること で,健康を促進するため に運動をする. 学校全体,あるいは学校 経営の一部として児童生 徒の発達と学習を統合す るものの一つとして,運 動・プレイ・スポーツを 使う. 学校を協同的に形成する といった目的のために, 根源的・教育的に運動が 必要となる. 学校スポー ツと動きの ある学校と の関係 学校スポーツやスポーツ 授業と動きのある学校と の関係は異なる.つま り,各々が独自の目的, 内容,方法,組織形態を 持っており,独立してい るものとする. スポーツ授業は動きのあ る学校の一部と考える. 知覚や運動行為の改善の ためとして位置づいてい る. スポーツ授業は,動きの ある学校の構成要素の一 部である.それは,運動 教育や運動授業という視 点からである. スポーツ授業は,動的な 学校文化といった統合的 な理解の中で,運動授業 としてその可能性を考え る. 対象 要素 視点 動的な授業 動的な学校生活 動的な休憩 感覚に働きかけるよう な教え方と学習 動的な座り方 緊張と弛緩のバランス 動的な休憩 知覚と運動 状況の変化に応じた健 康的な日常行動 運動空間といえるよう な教室 授業内での運動休憩 静けさを感じる テーマと関連した運動 スポーツと運動授業 休み時間中の運動 さらなる運動機会 動かしやすい物が多く ある教室 身体や姿勢がテーマと なる 動的な授業 動的な学校生活 校庭に手を加える 運動工房 運動教育 理論面 発達/学習促進 生活世界 健康促進 健康促進 発達/学習促進 学校の組織 学校の発展 学校プログラム作成 発達/学習促進 生活世界 人間学的原理 学校文化と学校の発展 スポーツの転換 生活世界 発達/学習促進 人間学的原理 主たる 方向性 欠損を補うための運動教育・健康教育 学校・授業・学習の統一体に向けて,教育の統合的要素としての運動 く多様化していく.そこには,極めてプラグマテ ィックな考え方もあれば,学校の在り方そのもの を問い直しながら,大きな改革に乗り出す考え方 もある.その多様化を示すものとしていくつかの 論稿が見られるが,分類したものとして Laging がまとめた一覧表がある注1) 彼は,「動きのある学校」の理念を,大きく分 けて二つに分類し,さらに細かく分けて四つにし ている.大きく分けて二つとは,「欠損を補うた めの運動教育・健康教育」という立場と,「学校・ 授業・学習の統一体に向けて,教育の統合的要素 としての運動」という立場である.前者には,ラ イプチッヒ大学の M äuller と先記した Illi が位置 づき,後者にはミュンスターの教育研修機関で教 員養成に携わっている Klupsch-Sahlmann や,先 記 し た Laging と Hildebrandt が 位 置 づ く . な お,この四つは,「動きのある学校」の代表的な 理念でもあり,各研究者は協力校を持ちながら教 育実践を繰り返し,「動きのある学校」について の情報発信をしている. 以下では,Laging の分類に従いながら,各論 について簡単に触れることとする. ) M äuller の取り組み M äuller は,特に小学校を対象としており,運 動教育(Bewegungserziehung)という考え方に 依拠している.彼女の考える運動教育は,「運動 を通じて環境を知ったり,構成したりできるよう な行為能力(Handlungskompetenz)を身につけ ること」を大きな目標としており,子どもの感覚 的・認識的・社会的・情緒的・運動的な視点から の発達促進を重視している(M äuller, 2003, pp. 39

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図 M äuller による「動きのある小学校」の領域構成 図(M äuller, 2007, p. 195) 44)注2) そして,彼女は,運動教育という考え方を踏ま えながら,図 1 のような構想図を示している. 彼女は,スポーツ授業以外の教科を動的にしなが ら,学校生活全体を動的にしようと考えている. ただこの点は,彼女だけに見られる特徴ではな い.彼女の考え方の特徴は,教科としてのスポー ツ 授 業 に つ い て の 捉 え 方 で あ る . 図 1 の よ う に,スポーツ授業を中心とした下段部分を構成し ている学校スポーツと,上部の動的な授業,動的 な休み時間等との間を点線で区切っており,上段 の「動きのある学校」を特徴付ける部分と,下段 の学校スポーツとを別の論理で構成している.下 段の学校スポーツは,スポーツの能力育成を中心 として考え,発達理論を中心とする運動教育の論 理とは若干別に考えている(Laging, 2007, pp. 19 20). ただし,彼女の意図としては,スポーツ授業の 中であっても,できる限り運動教育の考え方も一 部取り入れ,スポーツの能力育成を展開すること も希望しているが,基本的には学校スポーツの論 理と「動きのある学校」の論理を別物として捉え ている(M äuller, 2007, p. 197).そのため, M äuller は統一的な一つの理論を展開せず,複数 の考え方を取り入れたプラグマティックな考えを とっている. この点と関わって,Laging は次のように解説 している. 「ザクセンの動きのある小学校モデルが,他の コンセプトと異なっているのは,『運動教育/動 きのある学校』と『学校スポーツ/スポーツ授 業』との関係であろう.M äuller は三時間のス ポーツ授業を想定しており,運動教育という考 え方は,スポーツ授業を補足し,新たな刺激を 与えるものでもあると考えている.ただ,『動 きのある学校』と学校スポーツとを並列して理 論を作っていくのは,一つは,スポーツ授業の 拡大を狙っており,教育政策への配慮をしたの であろう.つまり,『動きのある学校』によっ て児童生徒達が運動するようになり,スポーツ 授業の拡大に繋がるといった考えがその背景に はある.もう一つは,スポーツ授業の中で,ス ポーツに常に付随するスポーツ的な能力に向か っていく方が,方法的にも組織的にも良いと考 えているからであろう.運動とは何かを理論づ けるにあたって,『動きのある学校』の依拠し ている運動教育と,学校スポーツとを,共通と なる一つの根拠で覆わないことでのみ,こうし た区分けが可能となっている」(Laging, 2007, pp. 1920) このように,彼女の考え方は,一方で運動教育 の考えを適用し,一方で従来までの学校スポーツ の考え方を踏襲するというプラグマティックな側 面が大きく見える.その点から,彼女の考え方 は,「スポーツを補足している運動教育」(Spor-terg äanzende Bewegungserziehung ) と 指 摘 さ れ ている(Laging, 2007, p. 20)注3) ) Illi と Ph äuse らの取り組み 先記したとおり,Illi の考え方は「動きのある 学校」の発端となっており,現在でもスイスの 「動きのある学校」を推進する考え方である.Illi やバーゼル大学の Ph äuse らは「『動きのある学校』 =健康的な学校(Gesunde Schule)」と考え,静 的な教授-学習,硬直化した椅子,さらには発達 刺激の少ないスポーツ授業等を批判している.彼 らは,Balague がフライブルガースタディーズ (Freiburuger Studie)という学術誌に掲載した データを基に,1995年と1998年に30の子ども

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図 Illi らの考える行為と環境の関係図(一部修正) (Illi und Zahner, 1999, p. 25)

が何らかの腰痛を抱えているという論文を発表し ており注4),学校の目標として「動的である(ein Bewegtes Sein )」 こ と を 掲 げ て い る ( Laging, 2007, p. 21).

ま た , Illi ら は ,「 リ ラ ッ ク ス と し て の 運 動 (Bewegung als Entlastung)」という考え方を主 張し,リラックスしながら行う運動が,三つの効 果をもたらすとしている.それは,脳や神経,骨 等の生理的な側面への効果,社会性や態度,さら には自己概念の形成等の人格面への効果,また, 余暇時間への効果である.ちなみに Illi らの考え 方と,先記した M äuller の考え方とは,次の二つ の点で異なっている. 一つは,教師と児童生徒の主導性についてであ る が , M äuller は , 小 学 生 の 導 入 段 階 に お い て は,教師による運動の提示や支援を重視している (M äuller, 2003, p. 39).それに対して,Illi らは, 児童生徒の自己活動(Selbstaktivit äat)により, 自然と動くことを重視している.Illi らの根拠と なっているのが,健康科学で示されている,子ど もや教師の活動(行為)(Verhalten)と関係性 (環境・状況)(Verh äaltnis)という考え方である ( Laging, 2007, p. 22 ). こ の Verhalten と Verh äaltnis は,前者が,具体的な行動であり,後 者は,前者を誘発する環境や状況との関係性のこ とである.その関係性を示したものが図 2 であ る.たとえば,二段目の「動的な座位姿勢と活動」 (左)を子どもたちが実行するには,「動的な学校 備品と作業スペース」という環境が必要となって くる.主体の側と環境の側とのバランスを良くす ることが健康には重要である,という考え方であ る.こうした考えから,Illi らは,動きを自然と 誘発し,自己活動を促進する環境作りや道具の工 夫に大きな力点を置いている(Laging, 2007, p. 22). また,Illi らと M äuller の二つ目の違いは,ス ポーツ授業に関わる考え方である.Illi は,子ど も達の運動不足や健康問題を助長している生活状 況や学校の在り方を変えたいと考えている.その ため,スポーツ授業や運動の授業も「動きのある 学校」の一部として考えており,知覚志向の運動 行為を推奨するよう考えている.そのため,ス ポーツ授業においても,知覚を促進するスポーツ 授業を重視しており,スポーツをする中で自己の 身体との関わりを促すことが重視されている.こ の点は,M äuller とは大きく違っている(Laging, 2007, p. 22).Illi らの考え方は,「補償的健康教 育」(Kompensatorische Gesundheitserziehung) と指摘されているが(Laging, 2007, pp. 2223), 一方で M äuller も運動による発達促進という考え を持っていることから,共通する面も見られてお り,両者は近接する理念として位置づけることが できる. ) Klupsch-Sahlmann の考え方 彼は,学校経営の大きな柱として「動きのある 学校」を考えている.前の二つの考え方のように 運動教育や健康教育といった学校教育における付 加的な位置づけではなく,目指すべき学校像の中 心として捉えている点に特徴がある.理論面で は,「学校は学習空間や生活空間である」といっ た教育学の理論を基盤としており,特にノルトラ イン・ヴェストファーレン州(以下,NRW 州) の教育審議会の提言する「学習の家(Haus des Lernens)」という考え方注5)の発展としての「動 きのある学校」を想定している(Laging, 2007, p. 24). 彼の考え方では,図 3 のように「運動と発達」 と「運動と学習」という二つの要素が,家の基礎 部分となっており,この基礎の上に様々な活動や

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図 Klupsch-Sahlmann の構想する「動きのある学校 の家」

(Mehr Bewegung in die Schule ホームページ, 参照日2011年 2 月10日) 組織が位置づいている.左右の「学校プログラム」 と屋根の「学校生活」で覆われた一つの空間とし て学校を見立てており,学校の教育活動全てが運 動と関係している. 彼が依拠している理論は,他に,Piaget の発 達理論や,オランダの Tamboer と Trebels らの 対話的運動理論(dialoigische Bewegungstheorie) である注6) Klupsch-Sahlmann は,子どもたちが,運動を 通じて生活空間の中で意味を獲得していくと考え ており,児童期や青年期こそ,運動を通じた経験 を持つことが非常に重要であると考えている.ま た,運動には,たとえば,人格的・探求的・生産 的・コミュニケーション的等といった様々な意味 や機能があり,それらを知る機会が子どもたちに は重要である,と彼は考えている.その機会は, 運動空間としての教室であったり,授業中での運 動休憩であったり,スポーツと運動授業等である (Laging, 2007, p. 24). また,彼は運動こそ世界との関わりに不可欠で あると考え,行為志向の学習や経験を重視してい る.さらに,運動が世界を拡げることに繋がり, 同時にものの関連性(Sachzusammenh äange)を 深 く 理 解 す る 可 能 性 を 持 つ , と 考 え て い る (Laging, 2007, p. 25). Klupsch-Sahlmann が 他 の 研 究 者 と 異 な る 点 は,教育学の理論を出発点としており,運動教育 や健康教育という側面を包括しながら,学校教育 の在り方にまで踏み込んでいる点である.なお, 彼らの取り組みは,NRW 州のゲンゼルキルヒェ ンを中心になされている. ) Laging や Hildebrandt らの考え方 彼らは,教育学者の Fauser が提唱する学校文 化 ( Schulkultur ) と い う 理 論 を 援 用 し な が ら 「動きのある学校」を推進している.彼らは,個 別の活動によってのみ学校を活性化するのではな く,生活空間としての構成を問題としており,教 師・児童生徒・親が学校の構成者として参画する ことや自覚を促している.ここでは文化という概 念が問題となるが,彼らの考える文化は,所与の ものではなく,自然と伝わるようなものでもな い,むしろ,生活空間の中で行為する人間によっ て 常 に 新 た に 創 ら れ る も の で あ る ( Laging, 2007, p. 26).「動きのある学校」の取り組みとな っている様々な運動機会,たとえば,校庭での運 動機会,運動-スポーツ的行事,動的な学習等 は,文化というコンテキストの下で初めて意味を 持つようになると考えている. この学校文化という考え方は,既成の学校に対 する改革のキー概念となっており,学校生活の分 断性(Aufspaltung)や特殊性を批判する対抗概 念と位置づけられている注7) 学校文化という考え方に依拠した「動きのある 学校」では,教師・親・児童生徒が参加者であ り,創造者となる.こうした関与が,自己決定や アイデンティティ,身体性の獲得等に重要な役割 を果たすと Laging らは考えている. また,運動の捉え方としては,「自ら動く」と いう考え方に依拠しており,「自ら動く」ことに よって自己を確立することや,他者と何かを作り 上げていくこと,また,世界を通じて何かを経験 すること(Laging, 2007, p. 27),世界との関わり の中で,動くことを重視している. 彼らは,スポーツ授業や運動授業についても次 のような考え方を持っている.

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図 Hildebrandt が関わったニーダーザクセン州フェ ヒタのリオバシューレ の構想図(Hildebrandt, 2007, p. 82) 「運動を構成する際に,子どもが関与できるよ うになっているかどうか,学校外の運動文化や スポーツ文化が,運動授業やスポーツ授業の中 で考慮されているかどうか,さらには,スポー ツ授業や運動授業が日常的な学校生活に作用し う る よ う に な っ て い る か ど う か 」( Laging, 2007, p. 27) こうした点が授業との関係で重視されるべきで あると考えている.なお,彼らの取り組みは,ヘ ッセン州・ニーダーザクセン州の一部で実践され ている(図 4). 以上のように,「動きのある学校」には四つの 理念がある.この他にも,NRW 州が推奨してい る 「 運 動 を 楽 し む 学 校 」( Bewegungsfreudige Schule)という考え方も,「動きのある学校」の 一つとみなす立場がある注8) Laging の 分 類 に 挙 げ ら れ て い た 四 つ の 理 念 は,運動教育を重視した M äuller,健康科学を重 視した Illi,子どもたちの生活空間を重視 した Klupsch-Sahlmann,学校文化を重視した Laging と Hildebrandt となっている.前者の二つの理念 は,特色ある学校づくりの一つとして,運動や健 康といった点が強調されているのに対して,後者 の二つは,学校教育の在り方そのものにまで大き く踏み込んだ学校改革を志向した考え方である. こうした差異は,どのような理論に依拠し,誰 と協同してプロジェクトを推進していくのかによ って決まってくる.教育行政や外部団体とどのよ うに組んでいくのかによって理念や実践の方向性 も大きく異なる.また,活動拠点も多様であり, たとえば,M äuller はザクセン州を中心に行政と 協同しており,Illi らは学校スポーツ連盟と協同 し , ス イ ス の バ ー ゼ ル 地 域 で 実 践 を 展 開 し , Klupsch-Sahlmann は NRW 州のゲンゼルキルヒ ェ ン を 中 心 に 活 動 し て い る . Laging や Hil-debrandt は,ヘッセン州とニーダーザクセン州 の一部で活動しており,実践地域や外部機関との 関係等も多様で統一化されていないといえる注9) 方法論の次元では,先記した通り,動的な学 習空間,運動休憩,動的な座位,動的な授 業,動的なスポーツ授業,教科外の運動機会 の充実,休み時間の運動の充実といった共通原 則はあるが,実際には各学校や実践者が活動内容 を自由に選択しているのが現状である. たとえば,~を全て実践しようとする学校 もあれば,としか取り入れない学校もあり, 「動きのある学校」とひと言に捉えても様相が各 学校によって大きく異なっている.では,具体的 に「動きのある学校」はどのように進められてい るのか,三つの事例を以下に見ていくこととする.

.

Laging と Hildebrandt らの

推奨する「動きのある学校」

今 回は,Laging と Hildebrandt と関 係してい る三校について報告する.「動きのある学校」に も,いくつかの理念と実践がある中で,この両氏 と関係のある学校を取り上げる理由は,先記した 通り,我が国の体力づくりのアプローチと異な り,学校改革を射程に含み非常に特徴的な様相を 呈しているからである. その三校とは,ギーセンにあるソフィア・シ ョ ー ル ・ シ ュ ー レ ( Sophie-Scholl-Schule in Gießen),ハノーファーにあるグロックゼー・シ ューレ(Glocksee Schule Hannover),ハノーフ ァーにあるフリットヨッフ・ナンゼン・シューレ

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(Fridtjof-Nansen-Schule)である. 先の二校は,終日制の学校でもあり,フリット ヨッフ・ナンゼン・シューレは半日制の学校であ る.学校の基本となる教育理念もそれぞれ異なっ ており,Laging と Hildebrandt は,学校文化の 創造という考え方を推奨している研究者達ではあ るが,彼らの考え方が,この三校に全面的に反映 されているわけではなく,あくまで研究者と学校 長とが学校運営に関わって議論できるパートナー としての関係であり,三校の学校長は,「動きの ある学校」関係の出版物の共著者とはなってはい るが,研究者の全面的指導がなされた実験校や指 定校とはいえない.その意味では,各校の独立性 が保たれているといえる.では,三校について紹 介したい. ) ソフィア・ショール・シューレ(ギーセン) 同校は,近年ドイツに広がっている私立の小中 一貫校であり,且つ,終日制の学校でもある.新 設校のため,2009年時点では 7 年生までしか在 籍していない.月謝として260ユーロがかかる. この学校の基本理念は,Peter Petersen のイエナ プランにあり,異質集団による学習を重視してい る.特に障害を持つ子どもとそうでない子どもと が一緒に学ぶことを重視している.そのため,一 クラス22名のうち,約 4 名の子どもたちは何ら かの障害をもっている.また,二学年ごとのクラ ス編成を行っている.一方で,個性の伸張を図る ことも重視されており,個に応じた教育も教育方 針の一つとしている. こうした体制を支えるために,一クラスに対し て多くの教職員が配置されている.具体的には, 各クラスに教師が 1~2 名,授業をしないが子ど もの個別対応や授業の補助的役割を行う保育士 (Erzieher)1 名以上,また,兵役ではなく社会 福 祉 に 関 わ る 奉 仕 活 動 を 行 っ て い る 若 者 1 名 と,最低でも 4 名を一つの単位としている. 同校では異質集団の学習を基礎とし,子ども間 の交流をはかったり,運動欲求を満たしたり,学 習それ自体を活性化させたりするために,「動き のある学校」の考え方を導入している(Becker u.a., 2008, p. 57). 同校では,運動の機会を多様に保障するために いくつかの方策がとられている.それは以下の通 りである(Stobbe, 2007, pp. 3242).  校庭 校庭の遊具としてシーソーや登り棒等が設置さ れおり,また,ミニサッカー場や砂場,小さな山 も設置されている.  スポーツ授業 各クラスの授業時間は,週 3 回ある.スポー ツ授業の考え方については,各教師に任せられて いるが,技能や競争等を中心としたスポーツ種目 志向の教師と,基本の運動を中心として展開する 教師とに分かれており,学校として統一化できて いない.  午後の運動機会 午後の活動として様々な運動機会が用意されて いる.同校では,チームスポーツ,ラケットス ポーツ,ダンスやヨガ,格技等のプログラムがあ る.  運動に関わる行事 年に二回の行事があり,夏のプレイ・スポーツ フェスティバルは,競技的な色彩を帯びている. 秋に実施されるフェスティバルでは,子ども同士 の交流や楽しみを重視している.  授業の中での運動 同校では,学習の中での多様な運動機会を保障 する点から,作業課題をする際には教室から離 れ,廊下で課題に取り組む等,各自場所を移動し ながら学習を行っている. なお,授業は,90分を一つとするブロック制 を導入しており,時間をどのように使うかは,ク ラスの実態に応じて異なっている. 〈訪問報告〉 今回は,二つの授業を中心に見学した.一つ目 は 1~2 年生合同の生活科(Sachunterricht)で あり,二つ目は,3~4 年生合同のスポーツ授業 であった. 一つ目の授業には,自閉症,軽度の知的障害, 重度の知的障害等計 4 名の障害児が交じってい た.授業は,「ハリネズミが来る」というテーマ

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で進み,ハリネズミを実際に手で触り,ハリネズ ミの身体部位の名称を覚え,絵を描くといった総 合的な活動をした.授業開始約20分がたった後 に,授業内容に区切りを見計らって,運動休憩が はじまった.そこでは,ダンスが 3 分ほど行わ れた.運動休憩後に,ハリネズミの学習に戻っ た.この90分の授業の流れは下記の通りであっ た. ハリネズミが来る(ハリネズミに触れる)→運 動休憩→ハリネズミの学習(部位等の名称の学 習)→ハリネズミの塗り絵→図書室での読書・ 調べ学習 授業には身体を使った動的な部分と静かに作業 する時間とがあったが,授業内容に合わせて場所 を適宜変更していた.たとえば,ハリネズミに触 れる時間では,教室の奥の小スペースに行って, コの字型になったベンチに座る.運動休憩では, 教室中を走り回り,ハリネズミの塗り絵では,自 分の机に座る,という具合である.また,教室に 大人が多く,個別の進度に対応するようになって いた. 一つ目の授業が終わった後の休み時間では,軽 食をとり,その後,大勢の子どもたちが校庭に出 て,サッカーや綱渡り等の様々な遊びをしてい た.教職員達も一緒に外に出て遊んでいた. 二つ目の授業では,ダウン症,軽度の知的障害 と運動障害をもつ重複障害の子ども等が交じって いた.授業内容は,下記の通りである. 鬼ごっこ→子どもたちが選んだストレッチ→複 数の基本の運動(Psychomotorik)の場(ステー ション学習) 基本の運動では,いくつかの運動の場が用意さ れており,跳び箱を乗り越える場,肋木を使って の壁逆立ちをする場,平均台上にボールやコーン をおいてバランスをとりながら渡る場,クモ歩き をしながら足にボールを運んで移動する場,肋木 に平均台を引っかけ,斜めの坂を登っていく場等 があった.この基本の運動では,障害のある児童 とそうではない児童が 3 人組となり,活動の場 を選択したり,教え合ったりしながら取り組んで いた. 午前の授業がほぼ12時で終了した後に,再び 外遊びの時間があった.その後,昼食時間があ り,午後は,必修クラブのような活動が行われて いた.訪問日は,14 年生が集まり 4 人一組で動 物の胃について実験するグループの見学をした. 参加者は,12名,大人は 3 名であった.この他 にも,運動機会としてスポーツについての内容も 用意されていた. 以上のように,同校では,障害を持つ子どもた ちとのインクルーシブを学校教育の柱としてお り,その理念を実現させる手段として運動を取り 入れていた.また,運動を取り入れながら,身体 の体験を通じて感覚的に内容を理解していくこと が重視されていた.なお,算数等,インクルーシ ブ教育の実施が難しい教科については,個別学習 か,あるいは,34 人程度の小グループ学習が導 入されていた. ちなみに,この学校は私立学校のため授業料収 入の他に,障害者生活支援団体(Lebenshilfe) が財政援助をしている.(調査訪問日2009年11 月 4 日) ) グロックゼー・シューレ(ハノーファー) 同校は,ハノーファーにある公立の小中一貫校 で 1~10年生の215名が学ぶ条件付き終日制学校 ( Gebundene Ganztagsschule ) で あ る ( Laging u.a., 2010, p. 60).この場合の条件付きとは, 月・火・木曜日は15時半まで学校で学習するこ とを義務としていることである.それ以外の水曜 日と金曜日は義務となっておらず,家庭等の事情 によって,13時に下校してもよく,また,学校 に残っていてもかまわないというフレキシブルな 対 応 と な っ て い る . 学 校 種 は , 小 学 校 (Grundschule)と総合制学校(Gesamtschule) の混合である(Becker u.a., 2008, pp. 3437). 同校もいくつかの特徴的な理念と方法を採用し ている.代表的な点は以下の通りである.  自己調整(Selbstregulierung)と子ども一 人一人の欲求の重視(個々のリズムの重視)  異年齢集団の組織化  45 分 授 業 を 廃 し , オ ー プ ン ス タ ー ト ,

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オープンエンド,ノーチャイム(全体での昼 食時間のスタートだけが固定化)  留年制度や通知表制度の廃止  合科的な総合学習,テーマ学習,行事との 連携した学習 この学校で重視していることは,個人が自律的 に調整をしていくことと,個人の身体的欲求を満 たすことである.そのため,強制によらない個々 の生活リズムを大切にしている.また,留年制度 や通知表制度は廃しているものの,通知表に代わ る学習報告書があり,学習の到達目標が設定され ている(Laging u.a., 2010, pp. 6061). この学校も異質集団による学習を重視してお り,段階 1(Stufe1)では 13 年生の児童が所属 し,一クラスに三学年がいる.段階 2(Stufe2) では,4~6 年生までの児童生徒が所属し,同様 に一クラスに三学年がいる.7 年生以降は学年単 位のクラスとなっている.教師一人あたりの担当 人数は22名である.補助職員も一部いるが,常 に各クラスにいるとは限らない. 〈訪問報告〉 今回は,低学年の 13 年生の合同クラスに参 加した.この学校はドイツでも珍しく外靴を脱ぐ 学校である. 教室にいる児童達を観察すると,授業開始前に 静かに談笑したり,ゲームをしたりしていたが, 教師が 9 時になって所定の位置に座ると,何も 指示をしていないのに,児童は静かに集まりはじ めた.児童が全員集まると,朝の活動が始まり, 昨日あったことや話したいこと等,児童の体験談 を自由にみんなの前で話す時間があった.その 後,黒板に書いてある一日のスケジュール(時計 の針とスケジュールが書いてある)を読みあい, 時計の針とともに動くことを確認していた.教師 による本の読み聞かせの時間となり,児童は,教 室内の自分の好きなところに移動し,寝転がりな がら児童小説の一説を聞き続けていた.その間に 私語は一切見られていなかった. 算数の授業では,能力に応じて 4 種類の課題 があり,決められたペアでそれを解いていた.問 題を解くときは,廊下や階段でもよく,決められ た時間になると児童は教室に戻ってきた.学習形 態は,個別学習とペア学習であり,プログラム学 習でもあった.児童は自律的に学ぶ習慣が身につ いており,ほとんど自主的に活動していた.ま た,授業開始約20分後にウォーキングタイムが 設定されており,児童は校内を歩いていた.ま た,休み時間は,多くの児童が校庭に出て運動を していた. なお,当日は,学校長の Hermann とも話す機 会を持った.その中で,学校長は,身体的な強制 を排除し,自律的に調整していくことの大切さを 繰り返し語っていた.そのために,45分という 産業労働に対応した時間の区切りを廃止し,自律 性を重んじていた.また,運動は,全人格的発達 や子どもたちのリズムを作る上で非常に重要なフ ァクターであると考えていた.(調査訪問日 2010年 3 月10日) ) フリットヨッフ・ナンゼン・シューレ(ハ ノーファー) 同校は,ハノーファーにある半日制学校であ り,児童数約350名の小学校である.WHO の国 際プロジェクトである「健康推進校ネットワーク ( Netzwerk gesundheitsf äordernder Schulen ) に 参加しており,健康優良校として2009年に表彰 されている(Deutscher Pr äaventionspreis 2009) (Fridtjof-Nansen-Schule, online). また,同校は近隣にドイツへの移民定着施設が あるため,外国籍の児童が多いという特徴があ り,在籍児童の国籍が2007年時点で24カ国とな っている.同校の在籍児童の状況は,ハノーフ ァ ー の 社 会 状 況 を 象 徴 す る 場 ( sozialen Bren-npunkt)である,と学校長の St äadler は著書の中 で記している(St äadler, 2007, p. 99).一クラス の人数は約24名であり,一学年 4 クラスで,学 年別のクラス編成を行っている. 同校の教育に関わる基本理念は,健康である. この場合の健康とは,単なる肉体面にとどまら ず,社会的な行動の改善や,児童の学習の在り 方,あるいはそれを支える学校組織の在り方も含 めて,全体的に健康になることを意味している.

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具体的には,下記の五点を重視している.  健康促進 人間工学に基づいた教室・栄養・運動・生活リ ズム・教室の雰囲気等を大切にする.  社会的行動 児童の問題行動や争い事への対処の仕方や予防 を大切にする.  自らがコントロールし組織する学校 教師や保護者の代表者が集まって合議で学校の 方針を決定する.  学習空間でもあり,生活空間でもある学校 教室のみならず,校庭等も含めて,あらゆる空 間が児童を刺激する場となり,学習の場でもあ り,生活の場であるとする.  学習文化 児童自らが学習することを大切にしたり,様々 な学内外の行事やプロジェクトと連携したり,自 主的な学習に動機づけられていく雰囲気を重視す る(Fridtjof-Nansen-Schule, online). 以上のような点を重視しており,この理念を実 現するために運動を中核に据えている.同校の学 校長は次のように記している. 「『動きのある学校』では,単に外から見える運 動だけに限定しているわけではない.学校の社 会システムとも関連していることであり,教 師,児童,保護者に加えて,関係する諸組織全 体と関わっている」(St äadtler, 2008, p. 42) 「我々が思うに,学校に運動を持ち込む上で, 子ども,教師,そして学習に見合うように授業 のリズム化をはかり,動的で自立的な学習を し,動的な休み時間を過ごし,動的で参加可能 な組織体制を作り,外部に向けて学校をオープ ンにし,考え方を共有する.こうした活動をす る こ と で , 結 果 的 に 学 校 が 変 わ っ て い く 」 (St äadtler, 2008, p. 42) St äadler は,校長職をすでに20年ほど経験して おり,且つニーダーザクセン州における「動きの ある学校」の草分けとして様々な情報を発信する 立場にある.彼の主導で,同校は単に運動を促進 するだけではなく,学校の組織そのものを変えて いる. 〈訪問報告〉 同校は,国際色豊かであり,外国籍の児童とド イツ籍の児童との交流が大きなテーマにもなって いる.同校は,学校長を中心としながら学校改革 を進めており,その過程で Hildebrandt らの考え 方を取り入れながら進めている.ただし,Hil-debrandt らの発想だけではなく,オスナブリュ ック大学で運動教育を推奨する Zimmer のような 研究者との交流も持っており,Hildebrandt らの 学校文化という考え方は,同校を推進する理念の 一つとして位置づけられている. この学校も,教室に入る際に靴を脱いでいる. 当日は,3 年生の朝の活動と図工の授業,休み時 間中の活動等をそれぞれ見学した. どの教室にも三方の壁に固定式と可動式のホワ イトボードやスクリーンがある.可動式のもの は,高さを変えたりすることも容易で,教師も児 童も必要とあれば,あらゆるホワイトボードを使 って文字を書いていた.また,机や椅子もキャス ターがついていることから,容易に移動可能とな っており,児童がグループ学習やペア学習となる と,すぐに椅子や机を動かしていくことが可能で あった. 3 年生の図工の授業では,「顔」がテーマとな っており,手元を見ずに身体感覚だけで仲間の顔 を描いていた. 休み時間では,多くの児童が寒い日にもかかわ らず校庭のアスレチックをはじめとした固定遊具 施設で遊んでいた.アスレチック施設そのものは 児童にとってもかなり高くできており,上に登る ことで落下のリスクがあった.しかし,高いとこ ろに登らせることで落下するかもしれないが,そ こで児童には危険を予知する力や身のこなし等を 身につけることが大切である,と学校長は考えて いた.また,授業間の教室移動の際には,廊下に 固定遊具施設として,簡単なクライミングウォー ルやマット,雲梯のような道具があり,児童が休 み時間や移動時間に雲梯に飛び乗り,運動してか ら次の教室に移動していく光景が頻繁に見られた. 体育館を見学したが,壁には,クライミングウ ォールや梯子のような固定器具が数多くあり,児

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童が休み時間や授業で使用できる状況になってい た. 当日,学校長と話をする機会が設けられた.具 体的に下記の通りである. 一つは,運動がこの学校において非常に重要な 位置を占めており,基本理念を達成するための大 きな手段となっていること.それは,児童の学 習,健康,学校の雰囲気,学校への愛好的態度, 自立性の促進等,大きくプラスに作用していると 感じている.特にこの学校の児童は,移民定着施 設の家庭から通う者が多く,将来的にはギムナジ ウムに通う児童達ではないため,知識に偏らず, 多様な経験を積んでいくことが大切であると考え ている.そのためには,教員の専門性を高めるよ うに心がけており,目的を共有化することも重視 すると語っていた. 二つ目は,「動きのある学校」の中での,スポー ツ授業の位置づけである.同校では,スポーツ授 業を重視しており,スポーツ授業では,運動の学 習と社会性の学習という点を大きな柱としてい る.運動を通じて問題解決能力を身につけること が重視されており,週 2 回のスポーツ授業が大 きな意義をもっていた.もし仮に同校からスポー ツ授業をなくしたら,争い事が絶えない可能性が あると語っていた.(調査訪問日2010年 3 月12 日) ) 三つの学校から 以上,三校について記したが,いずれも共通し ていることは,大きく三つであった. 一つは,いずれの学校も異質性の中での学習を 重視しており,障害者と健常者,上級生と下級 生,外国籍とドイツ籍といった異質集団の中で学 んでいくことを重視し,その学習を円滑に進める ための手段として運動を位置づけていたことであ る. 二つ目は,学校長に大きな裁量権を認めながら も,教師や保護者が学校の構成者として大きく関 与していることである.外部の研究者や州文科省 の指示通りに運営するのではなく,地域や学校の 実態によって,構成者が主体的になって学校の運 営やサポートに当たっている点である. 三つ目は,子どもが仲間や課題との関わりの中 で,動きながら体験的・感覚的な学習を進めてい る点である.そこでは,強圧的な命令によって動 かされることではなく,「自ら動く」といった状 況が見られていた. こ う し た 意 味 か ら す る と ,「 3 4 ) Laging や Hildebrandt らの考え方」についての記述でも触 れたように,教師・子ども・保護者・外部機関や ボランティア等が主体的な構成者となっていた点 や,「生活空間の中で行為する人間によって常に 新たに創られるものである」と捉える文化観を具 現化していたし,また,「自ら動く」という考え 方を反映したものになっていた点からも,学校文 化の考え方を一部反映した学校であったといえ る.ただし,これは Laging らが関わる学校例で あり,「動きのある学校」の中では一つの事例に すぎない.

.

本研究では,「動きのある学校」のプロジェク トの理念がドイツ語圏でどのように拡がっている かについて明らかにすること.さらに,「動きの ある学校」の一部を事例的に紹介することが目的 であった. 1983年にスイスで芽生えたプロジェクトは, 30年の間にドイツ語圏で概ね 四つの考え方に拡 大していることが明らかになった.いずれも学校 教育における子どもたちの成長にとって,運動が 不可欠であり,座学の時でさえも動く必要がある という共通認識があり,運動を通じて学校を活性 化したいといった方向性を持っており,運動を教 育の重要な手段として位置づけていた.しかし, 個々の理念を見ると,健康教育,運動教育,生活 空間としての学校,学校文化といった依拠する理 論が異なっている実態が見られた.また,Lag-ing と Hildebrandt らの推奨する三つの学校の事 例を見ると,健康,インクルーシブ教育,終日 制,学校改革等,様々な教育状況の中で,運動が 重視されている実態が明らかになった.このよう

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に複数の理念が存在する点や,三つの学校の事例 を見ると,「動きのある学校」とは,様々な考え 方を包括する一つの傘概念であることが明らかに なった.また,三つの学校の事例を見る限り,運 動を通じての学校改革を志向していたといえる. ドイツ語圏で行われているこの試みから,我が 国において何が学べるかについて最後に簡単に触 れたいと思う. 一つは,「自ら動く」という考え方である.「動 きのある学校」では,学校教育全般に運動を持ち 込み,座学にも動きを取り入れている.休み時間 や授業の合間にも運動がなされており,いつでも 動けるような仕組みになっている.加えて,そう した「動きのある学校」の理念の中で,スポーツ 授業もまた決して軽視されておらず,重要な活動 と位置づけられているという点である. 二つ目は,運動を基点とした学校づくりや学校 改革の思想である.我が国の体力づくりは,体力 テストの数値向上といった小さな問題に矮小化し ていく傾向にある.しかし,今回取り扱った「動 きのある学校」の研究者達の一部には,運動を基 点とした特色ある学校づくりや学校改革にまで射 程を広げて考えている者もいる.そこでは,学校 教育という大きな枠組みの中で,授業・放課後の 活動・座学の授業・休み時間の活動等の位置づけ や方法を模索しており,学校教育全体からスポー ツや運動を見たり,また,スポーツや運動から学 校を見たりといった発想があり,非常にダイナミ ックなものであるといえる. 三つ目は,学習観の捉え直しである.学習とは 決して知識と身体が切り離されたものではなく, 身体を通じて世界とどう関わるかが問題になる. 動的な授業という発想は,単に健康とか学力向上 といった点だけではなく,「学ぶとは動くことで ある」という点を具現化しており,示唆に富むも のである.その点では,我が国の学習観が未だに 知育・徳育・体育といった三育論に依拠してお り,この知育と体育とを分離していく学習観から の脱却が必要ではないかと考える. 四つ目は,組織の次元である.今回調査を行っ た「動きのある学校」では,学校長が裁量権を発 揮しながらも,教師・保護者・行政・スポーツク ラブ・福祉団体といった学校内外の組織と連携 し,問題を共有していく状況がある.学校長を中 心として複数の関係者が連携をとり,問題を共有 化していく組織の在り方については,学ぶべき点 が多くあるように思う. ドイツ語圏で起きているこうした取り組みは, 社会状況や教育状況が大きく異なる我が国に直接 持ち込んだとしても,学校現場で受容されること はなく,また,十分な成果を期待していくことは 不可能である.しかし,こうした取り組みから我 々が学ぶべきものは多くあると考える. 謝辞 本研究は JSPS 科研費20500557の助成を受け たものです. 注 注1) 他の分類論として Balz のものがある(Regen-sburger Projektgruppe, 2001, pp. 2955).彼は, 「動きのある学校」の教授学構想として以下の五点 を挙げている. 1 ) Aschebrock の 「 運 動 を 楽 し む 学 校 」( Be-wegungsfreudige Schule) (Regensburger Pro-jektgruppe, 2001, p. 30)

2 ) Hildebrandt の 「 運 動 に 親 し む 学 校 」( Be-wegungsfreundliche Schule) (Regensburger Pro-jektgruppe, 2001, p. 33)

3) Illi の「動きのある学校」(Bewegte Schule) (Regensburger Projektgruppe, 2001, p. 37) 4) Klupsch-Sahlmann

の「動きのある学校」(Be-wegte Schule) (Regensburger Projektgruppe, 2001, p. 44)

5 ) Laging の 「 動 的 な 学 校 文 化 」( Bewegte Schulkultur ) ( Regensburger Projektgruppe, 2001, p. 51) この Balz の分類では,NRW 州としての政策を 方向付けている Aschebrock の考え方をあげてい るものの,理念の分類としては不備がある.具体 的 に は , 2 ) の Hildebrandt と 5 ) の Laging は , 学 校文化論の下で協同しながら「動きのある学校」 と終日制学校とを一体化したプロジェクト(Stu-die zur Entwicklung von Bewegung, Spiel und Sport in der Ganztagsschule)(StuBSS)を推進し

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ている.そのため,別物として扱うことはできな い.また,ザクセンの M äuller らの取り組みを記し ていない.こうした理由から,分類論として積極 的に採用することができない. 注2) ドイツ語圏で運動教育(Bewegungserziehung) は,英語圏の Movement Education に対応してい るわけではない.運動教育という用語は研究者に よって使用方法が異なっており,M äuller は,概ね 三つあると指摘している.一つは,スポーツ授業 に代わるものとして使用している例.二つ目は, 教科名として使用したり,あるいは教科を超えた 大きな教育的な課題に対して使用したりしている 例.三つ目は,バイエルン州に見られるように, 音楽と運動を融合した独自教科の名称に使用され る例(M äuller, 2003, p. 34).特に,一点目につい ては,スポーツ教育学内で多くの論争があり,ス ポーツ授業の対抗概念として考える潮流も多く見 られている(Weichert und Wolters, 2009). M äuller の提唱する運動教育は,二つ目の使用方法 と近接しており,教科を超えた課題への取り組み を重視している.ただし,運動教育の提唱者の一 人であるGr äoßing のように既存のスポーツ文化と スポーツ授業に批判的な態度をとるのではなく, むしろ,スポーツ授業を含む学校スポーツと運動 教育とは役割がそれぞれあると考え,相互に補完 し合う関係を志向している. 注3) Laging は,M äuller がプラグマティックな考え方 に立ち,「動きのある学校」における運動の意味に つ い て 十 分 に 説 明 し て い な い と 批 判 し て い る (Laging, 2007, p. 20). 注4) Illi の論文について,Balz は問題視している.そ れは,Illi が,基本的な引用・参考文献を挙げてい ないのに,学校から座位姿勢を排除すべきである といった主張をしているからである(Regensburg-er Projektgruppe, 2001, pp. 3738). 注5) NRW 州の「学習の家」では,学校が単なる知 識の習得の場として機能するだけではなく,様々 な体験をしていく場であると捉えている.たとえ ば,社会的な関係性を学ぶ場や,自己のアイデン ティティを確認する場である.こうした点から, 「生活空間としての学校(Schule als Lebensraum)」

という考え方が生まれ,終日制学校を推進するに あたっての 理論的な拠 り所の一 つとなって いる (Bildungskommission NRW, 1995). 注6) 対話的運動理論については,Trebels の論稿に詳 しい.Trebels によると,Gordijn と,その弟子の Tamboer の考え方は,対話的運動理論と呼ばれて おり,彼らは運動を「自ら動く」(Sich-Bewegen) という概念から捉え,人が世界との関係を作って いくための媒体と考えている.そこでは,測定に 代表されるような外から見た運動ではなく,運動 が , 個 別 的 - 状 況 関 連 的 ( pers äonlich-situativen Bezug)なものであり,状況と切り離せないもの として捉えられている(Trebels, 1992, p. 22).こ の ように人 と世界とが 関わり合う 関係性は対 話 (Dialog)のようであることから,対話的運動理論 と 呼ばれて いる.Tamboer は「自ら 動く」を , 「行為の中での世界了解(Weltverstehen-in-Aktion」 と捉えている(Trebels, 1992, pp. 2728). 注7) 学校文化という用語は,状況に応じて様々な意 味で用いられており,その対象とするものは大き く異なっている,と Fischer は指摘している.学 校文化という用語は,具体的に以下のように用い られている(Fischer, 2008, pp. 413416). 1) 学校内で催される文化的行事全般(演劇・美 術展等)に対して 2) 学校全体の環境(校風・伝統・価値観,建物 までも含めた全体を覆う雰囲気)に対して 3) 学校を成立させるための組織全般(教育委員 会・予算・教員研修・教員養成等)に対して 4) 「学校の教育的文化」という意味での教育学理 論に対して 5) エスノメソドロジーのような視点から,個々 の学校の在り方等を表現する際,象徴的意味と して用いられる言葉として この中で,Laging と Hildebrandt が使用してい る学校文化概念は,4)である.Fischer は,4)の意 味で用いる場合,人・授業・組織の三つが独立し た性質をもちつつも,統合的な関与が重視されて いる,と指摘している(Fischer, 2008, p. 415). 注8) Aschebrock の「運動を楽しむ学校」について, 本研究で触れなかった理由は,Laging の分類論に 採用されていなかったというだけではなく,他の 研究者と比べた時に,その性質が異なっているか らである.Aschebrock は NRW 州学習指導要領の 作成において中心的役割を果たした人物であり, 「運動を楽しむ学校」について提言をする州政府の 研究者でもある.たしかに,「運動を楽しむ学校」 は NRW 州が提唱する政策であるが,Aschebrock 自身が特定の協力校をもち,「動きのある学校」に ついて積極的に発言をしているわけではない.そ のため,他の研究者達の理念や実践と同列に扱う ことは難しい. 注9) 研究者,実践校,地域の三つが必ずしも一致し

参照

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