製品差別化と企業間の 費用情報の交換について
−寡占市場理論の情報経済学的再構成(Ⅱ)−
越智教文
§1.はじめに
本稿の目的は,価格先導性が行われている製品差別化された複占市場に焦 点を当て,この市場において各企業の費用に関する情報を,企業間で情報交 換することによるシュタッケルベルグ均衡の変化を明らかにすることにあ る。
拙稿[9]で越智は,価格先導性が行われている同質財複占市場において 企業間で費用情報の交換が行われたときの,シュタッケルベルク均衡の変化 の分析を行った。そこで得られた結論としては,追随企業は,先導企業に対 しこの情報交換で嘘をつくのであるが,しかし先導企業がこの情報をそのま ま真実の情報であると信じて自己の最適行動をとることにより,両企業とも に,真実の費用情報の交換をした場合よりも利潤を増大させることができる 場合があることを示した。よく知られた寡占企業間の結託によるものと同様 の効果を,このような費用情報の交換における嘘情報の伝達により実現でき,
しかもそこでは嘘をついた追随企業以外には,真実を知ることができないと いうものである。本稿では拙稿[9]の結論が,製品差別化された複占市場 においても示すことができるかについての検討を行う。
寡占市場理論に対する情報経済学からの接近は,80年代に入りめざましく 発展している。その中で企業間の情報交換の問題に関する代表的な貢献とし
ては,Vives[19],Singh&Vives[18],Ga1−Or[6],Shapiro[17],Sakai
&Yamato[15],酒井[16]等があげられるであろう。彼らの扱っている主
な問題は,寡占市場における企業間での種々の形の情報交換ではあるが, し かし扱っている均衡は基本的にクルーノ均衡とベルトラン均衡だけである。
シュ夕、ソケルベルク事均衡を扱っているものとしては,酒井[13,16Jがあげ られる。その中で彼は同質財複占市場における市場需要関数に,各企業共通 の不確実性の要素を取り入れ,その不確実性について各企業が市場調査等を 通じて得た情報を,企業問で情報交換する事による均衡の変化を分析してい る。しかし彼がそこで行っている議論には,下で述べる,小野氏の寡占市場 の分析を行うときの論点である②,③の視点が欠けており,また得られた結 論には,戸~需要関数及び各企業の費用関数が線形であることが強く影響を 及ぼl いる。越智 [9Jではこの2つの線形性のうち,各企業の費用関数 に / ・ては2次曲線を用いた分析を行なっている。また取り扱った情報交換 各企業の費用関数についての情報交換が対象になっている。さらに情報 交換の形態も,嘘情報の伝達という,これまでに行われて来た分析にはない 視点からの分析を行なった。
小 野 は 口2Jの中で,寡占企業がクルーノ的またはベルトラン的に行動す るとすれば,その企業の政策は,均衡点以外では,相手企業の反応に関する 推測が常に誤りであるにも関わらず,そのような推測を変更せず固執するこ とになり,現実に企業がこのような政策をとり続けるとは考えにくいと述べ ている。その上で彼は寡占市場における企業の行動を説明する一つのモデル として,価格先導性を取り上げている。この前提の上で彼は寡占市場におけ る企業の行動を,①企業は価格と供給量を政策変数とする,②自己の行動形 態と他企業の行動形態の斉合性,③各企業の行動選択の誘因の最適性,を同 時に考慮に入れて統一的説明を行なっている。本稿では小野[12Jの4章で 示されている,価格先導性が行われている製品差別化された寡占市場モデル に基づいて,企業聞の費用に関する情報交換の問題を考察する。本稿の構成 は以下のようなものである。
第2節では考察の対象となる基本モデルとそのパフォーマンスが述べられ る。第3節ではこのモデルの下で,企業間に費用情報の交換の誘因が存在す ることが示される。第4節では企業聞の費用情報の交換において,追随企業
が先導企業に対し嘘の情報を伝えた場合と真実の'情報を伝えた場合の市場に おける均衡解の変化が調べられる。そこで得られる結論は拙稿 [9Jのそれ のように単一ではなく,両企業がおかれている市場条件,技術条件及び製品 の市場における粗代替性の大きさにより結論が変わることが示される。すな わち越智 [9Jでの結論が,製品差別化された市場においても常に成り立つ とは限らず,追随企業による嘘情報の伝達が,ある場合には先導企業と追随 企業の間に利害の対立を呼び,ある場合には利害の一致を生むことが示され る。なお簡単化のため前拙稿と同じく,以下の分析においては固定費の存在 は捨象されている。
~ 2.基本モデルとその性質
本節では,考察の対象となる基本モデルとそのパフォーマンスについて述 べる。最初は企業の数が一般的な場合で記述するが,後で実際に使用するの は企業数が2の場合だけである。価格先導性が行われている製品差別化され た寡占市場が同質財寡占市場と異なる点は,各企業の個別市場需要関数が自 己の価格付け以外に,他企業の価格付けにも依存して決まる点にある。まず 最 初 に 小 野 口2Jの4章に基づいて,価格先導性が行われている寡占市場に おける各企業の行動についての一般的説明を行う。
いま企業数を n として,この製品差別化された市場における第 i企業に 対する市場需要関数を
Xj=Dj(p), i= 1 ,…, n
とする。ただしP=(PJ'・1 丸)であり, pjは第i企業が自己の製品に付け る価格とする。またX =(xJ,…, Xn)とおく。ただしめ‑は第i企業の生産量 とする。各企業の生産のための費用関数を Cj(Xj),(i= 1 ,…, n)とし,こ こで次の仮定をおく。
(1) この節で展開されているモデルとそのパフォーマンスは,小野口幻の第4章で展 関されているものであり,詳しくはそちらを参照すること。
aD.. 月D. .
〔仮定1Jーa2pj" ‑.=Dj i. (' r P)/ く‑0‑, ,ーap2j =Djj(p)> 0
C'j (Xj) > 0, Ci (Xj) > 0, i, j = 1 ,…n, i学j.
以下この仮定に基づいた各企業の行動を見ることにする。いま企業 n が 全面的な追随者として行動するとき,企業 n は他のすべての企業の価格ρ
1 ,…,丸一lを所与と考えて,自己の利潤 IIn=ム •Dn (p) ‑Cn (Dn (P) )
が最大になるように自己の付ける価格れを決めることになる。そしてこの ようなρ舟は
月口
説=D耳切)+仇一C'n)Dnn (P) =。
より求めることができる。したがってこの式を満たすルは, ρ1,… ,Pn‑l
の関数として
ρn=ム(tl,…, Pn‑l) 'EA r︑ ︑ ︐ ︐
︐ ︐
E目 ︑ ︑
と表すことができる。これは企業 nが全面的な追随者として行動するとき の反応関数である。同様に企業 (n‑1 )が次の追随者として,企業1,…,
(n‑2)を自己の先導者としてその価格 ρぃ … ,Pn‑2を所与と考え,ま た企業 nのつける価格ルは,自分の付ける価格丸一1に対して(1)にしたが って反応すると考えるならば,企業 (n‑1 )の利潤は
H抱一1 =丸一1・Dn‑l(tl' …, ρ時一1,Pn(tl, …, ρn‑1 ))
‑c時一1(Dnー 1(tl' …,丸一1,Pn(tl' …, Pn‑1 )))
で与えられる。したがって最適条件は
aII.,‑1
τ~ρn=ム (Þ l,…,Pnー d
Ul'n‑1
悲
山一
+ 仇
D 一 仇
C ω + a
となる。この式を満たす丸一lはρ1,…,丸一2の値に依存するので,
九一1=丸一1(Pぃ … ,Pn‑2)
と表すことができる。以下同様に各企業は,自分より番号の大きい企業を自 己の取る行動に対する追随者と考え,また番号の小さい企業を自己に対する 先導者と考えて利潤の最大化を図るとすれば,第i企業の利潤は
H
九 ρ釘i. Dj(ゆρlい….一 ρお,iれ ρあi+1 ゆ(ρい….一l ρおλ)i …υ. ρ丸nゆ(ρlい一….一", おあPi ρ
あi+川1(ωp い .一一…. ρおλ)j .一一… ρ九n一叶tCψP1い….一 ρムn一2) ) )
‑Cj(Dj(P1,…)), i= 1,… , n
となる。また最適条件は
arri
~ api I Pk=Pk(P 1,… , Pk‑1) = 0, i= 1 ,… , n, k=i+ 1 ,…, η(2) より,第i企 業 の つ け る 最 適 価 格 お は ル … , 釘‑1の関数となり,それは
あ ρ'i(P1,…,お‑1),i=2,…, n (3)
と表される。
以上の説明においてこの寡占市場では,第1企業は全面的な先導者として 考えられている。したがって第l企業の価格付けは,他企業の価格付けには まったく依存しない。企業1は自己の付ける価格に対する他企業の反応が
(3)で与えられると考え, (2)に基づいて自己の最適化を図ることになる。こ のときの企業lの全面的な価格先導者としての最適価格を p11とすると,こ の寡占市場での均衡においては,各企業の付ける最適価格は
あ=あi(Pl1,ρ2 (Pl1 ) , pj ‑1 (Pl1 ,ρ2 (Pld,…) ) ,
i= 1 ,… , n (4)
と書くことが出来る。またそのときに各企業が得る利潤は
rrj=ρj(Pl1 ,ρ2 (Pl1 ),… , Pj‑1 (P11' …) )
XDj(pll' …, Pn(pll' …,)) ‑Cj(Dj(Pll,…,九(Pll' …)) ) , i= 1,…, n (5) で与えられる。
以上で求めた各企業の最適行動の条件が,実際の最適条件であることを保 証するため,次の仮定をおく。
〔仮定2J各企業の(5)で示された利潤関数は,対応する企業の付ける価格 に関して厳密な凹関数である。
さらに各企業にとって,その企業がどの順位の立場を選択しでも,自己の つける価格の上昇に応じて自分を先導者とみなす企業の価格は上昇し,それ らの上昇は,自分に対する個別需要を増大させる効果を持つ。もしこの需要 増大効果が,自己の価格上昇による個別需要の減少効果を相殺する以上の効 果を持つならば,その企業は供給量を維持しながら価格を任意に上昇させる ことが可能となり,利潤を任意に増大させることができる。このようなこと が起こらないように次の仮定をおく。
~ OPi oXj I oXj
〔仮定3J エど立・ー+一一く 0,i= 1 , n.
円 +10ρ oあi'oh
以上の議論を基にして小野は口2Jの4章で,製品差別化された市場にお ける寡占企業の行動を価格先導性の下で,前節で述べた3つの視点に基づい て統一的な説明を行っている。しかし本稿ではその詳しい議論にはこれ以上 立ち入らないことにする。また以下では複占市場を考え,さらにどちらの企 業が先導性を選択するか等の条件を考慮するため,上述の説明で用いた,先 導性を選択する順位の高い企業が,番号の若い順番に並んでいる状況だけを 考えているとは限らないことを注意しておく。
以後本稿では複占市場に焦点をあてるため ,n= 2の場合だけを考えるこ とにする。いま企業 1が先導性を選択しその先導価格がpllであるとする。
このとき企業2の 追 随 価 格 が わ ゆ11)であれば,企業2の利潤は II2=ρ2・D2(Pll'ρ2 (Pll ) ) ‑C 2 (D 2 (Pll ,ρ2 (Pll )))
で与えられる。またそのときの企業2つける最適な追随価格的は oII? / ,." • / . 月D、,
~';.t. op 2 ‑=D2 w (' 4 l ' Pl1'わゆC W ' 4 1 / / 11))+ ρ(2 ‑C‑'2)w / 一ap :t.2 = 0 (6) を満たす ρ2の値として求められ,上で述べたようにこれはがlの関数にな る。この関数を
め=JY2(Pl1) (7) と お し 一 方 企 業1は自己の付ける先導価格 p11に対し企業2は(7)と反応す るので,自己の利潤は
II1=ρ11・D1(pl1 , ρ~ (Pl1 ) ) ‑C 1 (D 1 (Pl1 ,め(Pl1)))
であると判断することになる。したがって実際に企業1が付ける最適な先導 価格ρ11は,
oIIl
ー~=D1 (P1'必(pd)+(ρ1‑C'I)
ap1
• (~r: 一 一 一 一 ・ 立 主 )1 + ~r:} • ~位 = 0
ap1 . aめ 砂1 (8)
を満たすものとして求められる。一方各企業がこれとは逆の立場を選択した 場合でも,各企業の取る行動は同様に説明できる。
次に各企業の先導性を選択した場合と追随性を選択した場合の,その企業 に対する個別需要関数の違いを見ることにする。いま企業lが先導性を,企 業2が追随性を選択したとする。このとき企業lの付ける先導価格をめと すると,企業lの先導性を選択したときの個別需要関数 Xl1は,企業2が企 業1の先導価格p11に対して(7)と反応するので,
X11 (p11) =D 1 (p11 ,め(p11))
と表せる。一方企業lがこれと逆の立場を選択した場合,企業2のつける先 導 価 格 的 は 企 業1には与件となるので,企業 1が追随性を選択したときの 個別需要関数xtiは
がiCJIr (め ))=D1CJ1r(め ),め) と書けることになる。ゆえに
の~ _aD1 ゆ~(釣)め= D
11く0, dpii. apii. ‑.L.>'11
dX1l ̲ aD 1 (P ,め (ll Pll) ) φら
=Dll+DI2~巴f..く O dp1l ap1l ...., U ' ...., 1 "dp1l と な 仏 仮 定lより D122?〉Oであるので,曲雌線恥削x刈11仰1l
もその傾きが急急、であることが分カかhる。同様の関係は,企業2の個別需要曲線 であるが2CXI2) ,必(ぬCp1l))の間についても成り立つ。したがっていずれ の企業にとっても,先導性の立場を選択するよりも追随性の立場を選択する 方が,自己にたいする個別需要関数の価格弾力性が大きくなることが分かる。
ここで次の補助定理が成立することが小野口2Jで示されている。
〔補助定理〕 いま 2つの需要関数11(P), 12 (P)が
o >/1 (P) >/2 (P)
を満たしこれらの需要関数に直面する企業の費用関数 C は,仮定 1を満 たすとする。この時各需要関数に対応する企業の利潤をIIIゆ),II2(P)とし,
その利潤を最大にする価格を釘(i=1, 2)とすれば II 1 (れ )~II2(れ)
>/1 (れ)>/2 (れ) >列>れ.
この補助定理をいま上で述べた企業1, 2それぞれの,先導性を選択した ときと追随性を選択したときの個別需要関数X1l,が1,X[2,めに対して適用 すると,
① もし企業1にとって追随性を選択する方が有利であるならば,
(2) この補助定理の証明については,小野口幻のpp.100‑101を参照すること。
fIli (pfi (め)) > rr1l (tll )
T> xfi (pfi (め))> X1l (ダi(め))
T>(ダi(め)>ρ11<=今〆i‑1(tll)くめ, (9)
② もし企業2にとって追随性を選択する方が有利であるならば,
Hらψ2(tll)) > rrらゆら)
T>吟ゆら(抗))> X12 (tfz (抗))
T> (tfz (抗)>めく:T>片1(め)くが1 (10) が成立することが分かる。次節ではこの結果を用いて複占企業の聞に,費用 情報の交換を行う誘因が存在することを示す。
~ 3 .企業間における費用情報交換の誘因
この節では越智 [9Jの3節と同様の議論で,企業間に費用情報の交換の 誘因が存在することを示す。まず前節までの議論においては,先導企業,追 随企業は共に自己及び相手企業に関する個別市場需要関数 Di(Pl,P2,) 費 用関数 Cj(Xj),(i= 1, 2)をすべて正確に把握していることが前提になっ ている。しかしこのことを前提としなければ,前節までの話はそのままでは 何の意味もなくなるであろう。すなわち各企業は,自己及び他企業の個別市 場と費用に関するすべてについて完全な情報を保有していなければ,前節で 述べたような最適行動を取ることができない。どちらの企業が先導性を選択 した方が良いのか,またたとえ各企業の間で先導,追随の行動選択が決定し たとしても,追随企業の価格設定が何処に決まるのかが分からなければ,少 なくとも先導企業は自己の最適化を図ることができない。つまり最適な先導 価格を決定できないのである。前拙稿 [9Jと同じく以下においては,各企 業は自己の費用関数,自己及び相手企業の個別市場需要関数については完全 な情報を持っているが,相手企業の費用関数については,情報をまったく持 っていないと仮定する。
まず企業lが先導性を,企業2が追随性を選択したときの各企業の利潤は,
rr/l (P/l,めψ/1))=ρ/1・D1(P/l'め(P/l))
‑C1 (D1 (P/l'め(P/l)))
Hら(P/l,め (P/l))=め (P/l)・D2(P/l'め (P/l))
‑C1 (D2 (P/l'め(P/l)))
である。これと立場を逆にした場合は,
IVi(がi(め),め)=〆i(め ).D1CJ1t(め),め)
‑C 1 (D 1 CJIt (抗),め)) rr/2 CJIt (め),め)=め .D2 (〆i(め),め)
‑C 2 (D 2 CJIt (め),め))
である。このとき両企業とも,相手企業の費用関数についての情報をまった く持っていないならば,例えば企業1の先導性を選択したときの利潤と追随 性を選択したときの利潤の差は,企業2の付ける先導価格めがどこに決ま るのか,また自己の先導価格 p/lに対する企業2の 追 随 価 格 め ゆ/1)がどこ に決まるのかが企業1には未知であるので,
rrtCめ,め(P/l)) = rr/l (p/l ,的(P/l))一同(め)
と表せる。この式は企業lが先導性,追随性の行動のどちらを選択するのか の意志決定を行うときの指標を与えるものである。同様に考えて企業2の先 導性を選択したときの利潤と追随性を選択したときの利潤の差は,
rr 2 (P/l ,〆1(め))=rrらゆら,〆1(め))‑uらゆ1) /
と表すことができる。この式についても企業2の行動選択に関して,企業1 の場合と同様の解釈をすることができる。ここで,
Brrd的,M(p/¥))一 一 組 処Lf 1ム払単L̲aD ̲I l n
apl2 dpら い D¥ aM (釣)J .., ...1
。D¥I i " aD¥ dpt¥ (め)
‑CJIt悦)‑C'd五ζ+C'1 apt;cめ ,dめ 1(。
Brr 1 (め,P!2 (tll )) ̲ I LI r'" ¥ aD 1
= (tll ‑C' 1 L\.I/"';'.s.~ ap!2 (tll)¥ > 0 (1~
である。 (1~の値は常に正である。ゆえに企業 1 の先導価格 ρ11に対し,企業 2の追随価格が高く設定される状況のときには,企業1の利潤は増えること,
になる。一方(11)については,右辺の第2項と第3項は正の値を取るが,第 l項に関しては,企業1が追随性を選択したときの自己の製品の価格弾力性 の値が, ‑1より大きいかどうかでその正負が決まる。したがって全体とし ての(11)の値の正負は決まらないことになる。しかしながら次の議論が成り 立つ。
① いま企業2にとって追随性を選択するより,先導性を選択する方が有 利であるとする。このとき次の需要関数
X2(わ )=D2 (〆1(め),わ)
は,企業2が先導価格をわに変更したにも関わらず,それに対して企業1 は最適な追随行動をとらずに,その追随価格を〆i(め)に維持した場合の,
企業2の直面する個別需要関数を意味すると同時に,企業1がその先導価格 を(何故このように設定するのかの理由は問わないとして)〆i(め)に設定 し,企業2はそれに対する追随行動を取るとしたときの,企業2が直面する 個別需要関数であるとも理解できる。この個別需要関数は,企業2が先導性 を選択したときの個別需要関数約(め)と点 (X12(め),ρら)で交わり, し かも曲線 X2の傾きの大きさは,曲線 X12(Pら)のそれより小さい。さらに曲 線X2上おける最適点は点 (X12(め),め)ではないので,この2つの曲線の 傾きの大小関係と考え合わせると,
め>p!2(〆i(め)) (13) が成立し,企業2にとってはこのときに得られる利潤の方が,先導性を選択
した場合に得られる利潤 rrl2(め)より大きい。また(13)と仮定 1より,
DI (〆i(ρら),め(折(め)) )くDd〆i(め),め) (1~
となるので,需要関数れは,企業lの先導価格が抗であるときの企業2の (追随)需要関数的(pt2(Pl1 ))より常に大きいoXI2 (Jf2 (Pl1 ) ) お よ び れ は 共に企業2の追随者としての需要関数を意味しているので,このことは,
〆1(め)>抗
を意味する。したがって(1~, (15)およひ‑.r.,ちぬら "> 0を考慮に入れると
dPl1
め > め(Pl1),
ρ!z(pfi(め))>め(Pl1)
が成り立つことも分かる。
( 1) 5
。
。
② 逆に,企業lにとって追随性よりも先導性を選択する方が有利である とする。このとき企業1が付ける価格をめとすると,次の需要関数
X1 = D1 (P1'め(ρ11) )
は企業lに関し,企業2に対する需要曲線れの場合と同様の意味を持つ。
そして需要曲線引の傾きは,企業1が先導性を選択したときに直面する個 別需要曲線 Xl1= D 1 (pl1 , JY2 (Pl1 ))の傾きより小さく,さらに X1は,企業 2の先導価格がめであるときの,企業1の(追随)個別需要曲線科(折(
め ))より常に大きい。ゆえに①と同様の議論を行うことにより,
ρ11>〆i(pf2 (Pl1 ) ) , め (Pl1)>め,
ρ11>〆i(め),
〆i(Jf2 (Pld ) >〆i(め) が成り立つ。
以上の議論を基にして,次の結論が導き出される。
(1~
(3) 以 上 の 議 論 は , 小 野 口 幻 の pp.126‑130で行われている屈折需要曲線の為の議論 を本稿に援用したものである。
[ 1 ]いま企業2にとって先導性を選択する方が有利な状況であるとし,そ の先導価格を抗とする。この状況の下で企業1にとってもやはり,先導性 を選択する方が有利であると仮定する。このとき企業1の,先導性を選択し たときの需要関数と,追随性を選択したときのそれを比較すると,この2つ の需要関数は,企業1のつける価格がρ1=〆2‑1 (め)であるところで交わ る。したがって企業1が先導性を選択するときにつける価格めは,〆2‑1
(め)より大きくなければならないが,これはめゆ[1)>めを意味する。し かしながらこのことは(l~より,企業 2 は先導性を選択する方が有利である との前提に矛盾する。したがって企業2が先導性を選択する方が有利である 状況の下では,企業1は追随性を選択する方が必ず有利であることが分かる。
[II]同様に考えて,企業2が追随性を選択する方が有利な状況であるなら ば,企業lにとっては,先導性を選択する方が必ず有利であることも分かる。
すなわち一方の企業が先導性を選択する方が有利な状況であるならば,他 方の企業は必ず追随性を選択する方が有利になるのである。したがってここ に,どちらの企業が先導性を選択するのかの決定をめぐって企業間に,費用 情報の交換を行う誘因が存在することになる。
~ 4 .嘘情報の伝達による市場均衡の変化
本節では前拙稿 [9Jの4節と同じく,前節で述べた企業聞の費用情報の 交換において,企業は相手企業に対し嘘をつく誘因を持っか否か,また嘘を ついた場合,市場均衡はどのように変化するのかについて検討する。嘘をつ く場合,相手企業にそのことを知られないこと,及び自己の利潤がそれによ り必ず増加することが必要であろう。以下この市場では複占企業の間で,先 導性を選択する企業と追随性を選択する企業が,あらかじめ決まっていると する。この前提の下では,前拙稿の同質財複占市場の場合と同じく製品差別 化された複占市場においても,追随企業は基本的に先導企業の付ける先導価 格さえ分かれば,先導企業の費用関数について正確に知らなくても自己の最 適行動を取ることができる。この点では追随企業は,この費用情報の交換を 行う積極的誘因を持たないと考えられる。しかしながら追随企業はこの情報
交換に応じることにより,次のメリ、ソトを持つことが出来るとも考えること ができる。
(a) 費用情報の交換により自己の行動形態選択の最適性が確保できる。
(b) 先導企業の付ける最適な先導価格は追随企業の付ける追随価格に依 存して決まるため,もし費用情報の交換をしないとすると,先導企業がそれ をどこに決めるかのメカニズムが追随企業には分からない。したがって場合 によっては追随企業にとって不利になる価格付けを先導企業が行う可能性が ある。しかし情報交換を行うことにより,このような可能性を排除できる。
したがって追随企業は,この費用情報の交換に対し常に消極的であるとは 限らないであろう。さらに次のような積極的な誘因も考えられる。
(c) 追随企業はこの情報交換において嘘をつくことが可能であり,また 嘘をついたことが先導企業には知られず,さらに嘘をつくことにより自己の 利潤を増加させることが出来るのであれば,追随企業はこの情報交換に積極 的に参加するであろう。
一方この製品差別化された市場では先導企業は,自己のつける先導価格が 自己にとっての最適価格であることを予め知っておくためには,追随企業の 費用関数を正確に知らなければならない。さらに自己の付ける先導価格は追 随企業に知られてしまうので,追随企業に対し嘘をつく誘因を持たないと考 えられる。したがってこの企業聞の費用関数の情報交換においては,先導企 業は追随企業に対し自己の正確な費用関数を伝えると仮定する。以下では追 随企業による(c)の嘘情報の伝達による費用情報の交換が,この複占市場の 均衡に対しどのような変動を与えるかの分析を行う。
ここで分析内容を拙稿 [9Jの4節に合わせるため企業1を追随者,企業 2を先導者と仮定する。そして企業lは企業2に対し,自己の費用関数を
C*l (x 1 ) = C 1 (x 1 ) + e x 1
と伝えると仮定する。ここにC1(Xl)は企業lの真の費用関数であり,。は 定数である。以下では企業2がこの費用関数 C*lを,企業lの真の費用関数 であると信じて自己の最適行動をとる場合を考える。企業2がこのような行
動を取ったとき,企業2から見た企業1の個別需要関数,追随価格がどのよ うに決まるのか,またそれにより企業2の生産及び先導価格の設定行動が,
真実の情報交換が行われた場合と比較して,どのように変化するのかを検討 しよう。まず金業1が上式で示されるような嘘をついたとする。
(イ) この状況において企業2が付ける先導価格をρすとする。このとき企 業1が取る生産行動は,この先導価格 ρすを所与として,自己の費用関数 C*l (Xl)及び個別市場需要関数 Dl(Tl' p*.J.) に基づいて最適行動をとる,
と企業2は考えるであろう。それゆえ企業1の 生 産 量 的(P'1)は,企業1 の追随価格を折(必)としたときの企業lの利潤が
n*{=〆1. X*l ‑C*l (川) で与えられるので,
専=〆1+X*l梨‑C*i(X*I) = 0
0ル uλ l (1~
を満たす川の値γxであり,このときに企業1が実際に設定する最適な追随 価格ργ(似)は,
X*{ = D 1 (t*{, ρす)
を満たすものであると企業2は考えることになる。
(ロ) 一方企業2が企業1の行動をこのように考えているにもかかわらず,
企業lが企業2の付けた先導価格 P'1を与えられたものとして,自己の真の 費用関数 C1(X1)に基づいて最適行動を取ったとする。そしてこのときに 企業1が設定する追随価格を〆1(p*i)とすれば,企業1の生産量 X1(似) は,企業1の利潤が
nf1 =ρf1 • X 1 ‑C 1 (X 1 )
で与えられるので,
dlIIl df>ll
て→ =ρ~ +X1子L‑c' 1 (X 1 ) = 0
0ル uルl (19)
を満たすX1の値判として求められる。そしてこのとき企業lが実際に設定 する最適な追随価格祈は,
xf1 =D1 (ダ1,川) より求められる口
付 そ し てμ),(ロ)で求めた x*{,xfiについて,
x
γ(t*{, P*i)くがi(p!i, p*i) if ( )> 0 ,
x*{ (t*{, P*i) > xfi (p!i, p*i) if ()くO ~o) なる関係が成り立つ。何故ならば企業2からみた企業1の限界費用関数は,
()> 0ならば上方に, ()くOならば下方にI()Iだけシフトする。しかしながら 企業2の付ける先導価格がρすと与えられた下での企業lの個別市場需要関 数および限界収入関数には何の変化もない。ゆえに企業 1が(イ)の行動を取 った場合の限界費用関数と限界収入関数の交点のx軸(生産軸)上の値は,
企業1が(ロ)の行動を取った場合のそれと比べて,限界費用関数の上下への シフトに従って左右に動く。すなわち~~が成立する。そしてこのことは仮 定1より,
ργ(似)>〆i(t*i)
ρず(t*i)く〆i(t*i)
if ()> 0,
if()くO ~1) を意味する。以上は企業2の設定した先導価格 ρすに反応して,企業1が設 定する生産量および追随価格を表す反応関数に関しての,企業1が(イ)の行 動を取った場合と(ロ)の行動を取った場合の比較である。
仁)ωより企業2の生産量は,
x i*(t*{, p*i) > Xl2 (が1,必) x i*(tγ,必)くぬ(p!i,必)
if ()> 0,
if ()く O ~~
の関係を満たすことが分かる。ただし巧 ,Xl2はそれぞれ,企業1が(イ)の行 動を取った場合と(ロ)の行動を取った場合に対応する企業2の生産量である。