立正大学臨床心理学研究 第
11号
3102 0-391p.p研究論文
公立学校における学校臨床心理実習のシステム構築
一実習生派遣体制のフレーム構築一
System Development rof dleiF gnniiraT Program Cfolacinil gylohoycPs Ptacilbu sloohcS -Field ginniaTr ginhsilbastE-marogrP System Dothtcapsi lacinilC tsigolohcysP
I n t e r
n Potcilbu Schools-
岡 本 淳 子 ! ) 永 井 智
I)佐 藤 秀 行
I)J u n k
o Okamoto ruoatS iagaN kiyueidH otaS
下 山 晃 司
2)金
K o j
i Shimoyama Ami Kim
亜 美
3)本学では、原則
1年間の学校臨床心理実習を実施しており、主旨としてはスクールカウンセ リング実習生として活動している。学校実習では、実習生は学校という組織の中で自分の臨床 活動の「場」を作り、そこに生きる人々を対象に臨機応変な心理臨床活動を行っていくことが 求められる。心理臨床活動の専門性からみると応用編とも言えるその活動は大変に難しいが、
それだけに臨床的な成長も期待される。実習にあたっては、学校教育の運営や教貝組織運営、
子どもたちの学校教育の営み、スクールカウンセラーの相談体制に支障を起こさずに、地道な 活動を積んでいくことを心がけることが重要である。大学院としては、院生の実習に責任をも つ必要があるが、実習生を派遣する先の「場」の確保そのものにも困難が伴うのが実状である。
本論文では、実習のシステム構築について、実習生派遣体制のフレーム構築という側面に焦点 をあてて、開始から
9年間継続されてきた実践を振り返り考察する。
システム構築にあたっては、派遣要請をとらえるタイミング、「場」の管理機構と交わす文害 に実習への考え方を反映させること、「場」と院生の関係の実状をとらえた堅実な連携、危機対 応を含めた臨機応変な対応、大学院教貝によるコーデイネートやバックアップ体制が煎視され た。その上にたって、院生の臨床的成長が育まれると考えられた。
[キーワード]スクールカウンセラー実習学校臨床心理実習.大学院生 学校臨床心理実習システム構築,実習生派遣体制フレーム構築
I
問題と目的
国によるスクールカウンセラー活用調査研究委 託事業が
5991年に開始され、翌
6991年臨床心理士
1) 立正大学心理学部・心理学研究科
2)立正大学心理臨床センター
3)株式会社ウイングル
養成指定大学院が始まった。当時文部省から全国
の大学長等あて通達
6991(「教育改革プログラム
について」)の中で、「スクールカウンセラー(以
下 、
)CSの質・量の確保を図るため、大学の自主
的判断を前提としつつ、臨床心理士等の高等教育 機関における養成の充実を図る」ことが通知され ている。大学院臨床心理士養成カリキュラム(財.
日本臨床心理士資格認定協会)に
9991年以降、「学 校臨床心理学特論」「コミュニティアプローチ特 論」「グループアプローチ特論」等が加えられ、
SC
養成に資する改正がなされ(大塚,
)0002、今 日に至っている。
スクールカウンセラー配置数はその後大規模に 拡大してきた。昨年度のいじめ事件を受けて、文 部科学省は平成
52年度にはさらに
SC配置拡充の 予鉢を組んでいる。東京都では平成
52年度から小 中高全校への配腔が決定している。今後一層需要 が高まることが予想されているところである。
SC
の活動は、集団や組織を背景にして、臨床的 関わりが構造化されていない中で自分の活動を支 える「場」を作るのに始まり、臨床心理の専門性 に基づく関わりを多様に展開していく。この活動 は臨床心理の専門性からみても応用編とも言え、
本来は臨床経験を重ねたベテランによることが望 まれるが、現実的には大学院修了後間もない者が 多くその職に就いている。
学校臨床心理実習はこれらの実情も視野に入れ ると、次のような意義が考えられる。①組織を背 景にした臨床心理活動の在り方を学ぶ、②子ども や教師たちが現実の生活の場で見せるさまざまな 姿に直接触れ、人が生きる様、変容していく様を、
全体像としてとらえる、③子どもの発達段階やそ の母集団の様相を知りその中で起こっている個の 課題についてとらえ、何が支援できるかを考える 機会を得る、などである。
実習は大学院内での学修を経て、現実の「場」
での体験を行うことになるが、目的としては、単 にスクールカウンセラーになるために行うのでは なく、学校という場に身を置いて、一般的な臨床 心理士の成長を図る活動に汎化(中村,
)5002す るものであると本論では考えている。学内の心理 臨床センターという構造化された中での心理臨床 訓練を基盤に、現場において応用の活動として意 義深い。
“院生が学校に赴いて学ぶ”という視点から先行 研究に目をやると、初期の論文としては伊藤良子
( 2 0 0 1
)
がある。伊藤では、自身の担当する「教育 心理臨床学」を履修した院生が、ゼミ活動の一環 として学校へ出向いている。子供たちとのかかわ りを通して、臨床的視点を醸成している様子が伺 える特集論文が注目される。
0202年
-2007年にか けては、論文数が増加する。いずれも大学院とし て実習に取り組み始めて間もない時点での考察で あり、実習の中での工夫などが盛り込まれている
(奥野ら,
3002、志村ら,
0302、本間,
2020、小野 ら.
)7002。
8002年以降は、数年間の実践を踏まえ た成呆や評価の在り方についての論文(北林ら.
2 0 0
8
、友清ら.
0802、田島ら.
8020、岡本ら,
2 0 0 8
)
が見られるようになる。その他、臨床心理 士養成教育に特化した専門職大学院同士の連携に よる「臨床心理実習における客観的評価方法の構 築」に関する大規模な共同研究が注目される(鹿 児島大学大学院・九外
l大学大学院,
)0102。また
「大学院における養成プログラム」として、イン ターンシップとして位置づける動きも見られてい る(福田,
)1102。近年では、大学院生と教員の共 同による実践研究として、実習事例の展開や意義、
実習サポート体制について報告している論文も目 を引く(久保ら,
1102、長谷川ら,
2102、片瀬,
2 0 1
2
、相原,
)2102。実習実践にあって大学院生も そのフレームの作り手になっていると考えられる ことが興味深い。
これら先行研究に見る実習派遣の形態としては、
① 「一つの実習校に大学院生を複数配置する」も のと院生を「一人ずつ配置する」もの、また、②
「教育委員会との連携の上で配置する」ものと「大 学付属として進める」もの、③「学校全体を視野 に入れて配置する」ものと「特定の児童あるいは 生徒を対象に配置する」という対比で見ることも できる。派遣システムは、その大学院が置かれた 条件や現実の学校との関係の中で多様な形で作ら れていることが分かる。
本学大学院での実習も、公立学校を対象にした
実習と、大学付属の学校を対象にした実習に大別
-20-立正大学臨床心理学研究第
11号
3102表
1学校臨床心理実習を実施していない理由
45(校分から得た複数回答)
校数
%a 学校臨床心理実習を実施する必要性を感じない
6 1.11 b実施したいと思っているが、派遣先が見つからない
02 0.73C
実施したいと思っているが、指導を担当できる教貝がいない
3 6.5 d実施したいと思っているが、教員に余裕がない
41 9.52e 実施したいと思っているが、大学院生の希望が少ない
4 4.7 f他の領域への実習で十分である
g
その他
できる。実践を進めてきた経緯から、公立学校へ の実習派遣は、教育委員会や学校管理職、教員等、
外部の行政機構との多層的な関係の中で作り上げ られるものであり、システムの安定化に配慮事項 も多い。
なお、筆者ら(岡本ら,
)2102は、全国の学校 臨床心理士養成大学院を対象に学校臨床心理実習 の実態について調査を実施した。東北 3 県を除く
15
7
校に配布、回答のあった
901校中
45校が学校臨 床心理実習を「実施していない」と回答(金ら.
2 0 1 2
)
した。その理由を尋ねた複数回答の結果(水 崎ら,
)2102を、表
1に示す。多いものから,「実 施したいと思っているが,派遣先が見つからない」
が
02校
,)%0.73(次いで「実施したいと思ってい るが、教貝に余裕がない」があげられた。この結 果から、多くの大学院にとって、学校に実習生を 派遣することは困難が伴うことが分かる。
本論文では、学校実習活動をめぐる全体の動き を作ることを「システム構築」として定義する。
システム構築とは、大学院や実習生、学校等に相 互に関連して生じる動きも含めた構造全体の成り 立ちをさすものとする。また、本論文で取り上げ
る「フレーム構築」とは、実習そのものを維持す る外部との契約やそれによる「場」の確保等、実 習の維持や実行を保証する外枠を構築することと
1
0 5.81 2
5 3.64
I
I 方 法
1) 手続き
本学大学院において、進めてきた実習経過の記 録の中からフレーム構築に関わる記録を整理分析 する。なお、記録は年代を追うに従って実習状況 が変化してきているため、実施初年度から通して 一貫した項目に基づく記録内容は存在しない。
2)
分析対象
本学で、平成
61年度~平成
42年度に実施した学 校臨床心理実習とする。平成
61年度は本学が指定 大学院としての認定を受ける前年であるが、平成
16
年度の実習実績からその後の展開への考察を得 ており、準備段階として意義が大きかったので分 析の対象とした。
I I
I
結 果1 .
実習実施校数と実習生の人数
平成
61年~平成
42年度までの実習生派遣総数を、
表
2に示す。( )内は、学部生派遣人数を示して いる。
表
2に見るように、
9年間に大学院実習生を延 ベ
46名派遣した。
する。
.2年代ごとの実習実績と各期の考察
本論文では、実習の「場」を維持するのに変動 ) 1 ( 第
1期:平成
61年度~平成
71年度 要素の大きい、公立学校での実習に有効なフレー ① 実施状況
ム構築について考察することを目的とする。 当時筆者(筆頭執筆者、以下筆者)が SC とし
て勤務していた中学校長から要請を受けて、「学生
表
2公立学校派遣実習生数
年度(年度)
H16 H17 H18 Hl9 H20 H21 H22 H23 H24計 校数(校)
2 2 8 8 01 21 6 5 2 15実習生(人)
)2+(3 )+2(3 5 01 01 31,
7 3 )4+3(6実習学校内訳(校)
小学校 中学校 ゜゜゜゜゜
2 2 8 8,
5 5゜゜゜
4 3゜
735高 校 ゜゜゜゜
1 2 2 2 3 0116 年度
0010SS2000SgS200
2 1 1 1 1 人戴 1
ヽ月 7月 9月 10月 II月 21月 1月 9月 3月
17 年度
20
01
80
g1
40
12
01
00
80
s"
20
人戴
4月 9月 9月 7月 9月 01月 II月 21月
図
1 61年度、
71年度の月別来室者数
加しているが、中でも
2年目には、来室者が著し く増加している(岡本,
)6002。実習生による相談 室運営も、安定した形で継続することにより、生 徒たちに相談機能の周知が図られ、学校に相談室 機能が定着していくことが分かった。
②
1期の考察
この活動を通して、コーディネートする教員(筆 者)の立場から以下の考察を得た。
〈実習派遣導入前の運び〉
①管理職からの要請を受けて実習活動に入るこ とがその後の展開に重要である。
〈導入に際しての学校組織との関係〉
②組織への周知と配置態勢について、教職貝と の調整を丁寧に行う。
③校内で実践を行う「場」(例:相談室等)の調 整も必要である。
〈実習実践〉
④実践を指導するうえでの諸々の必要事項(例:
報告の仕方、記録の書かせ方、実習生同士の連携 等)への対処が必要である。
〈実習指導体制〉
⑤実習生の活動が関わる危機発生に常にアンテ ナをはっていて、危機管理体制への構えを持って いることが必要である。
によるボランティアの導入」を始めた。始めるに あたっては、学校長が本学に心理学部長を訪れて、
要請が伝えられた。その時期、以前から学部生
2名が強く現場でのボランティア活動を望んでいた こともあって、
61年 、
71年度とも、学部生
2名 、 大学院生(当時文学部哲学科心理学専修) 3 名の 計
5名をローテーションで学校へ派遣した。平成
16
年度は原則週
4日 、
71年度は週
3日、各日とも 学部生
1名、院生
1名、計
2名ずつ派遣した。年 間統計の残っている平成
61年度をみると、総計で
延べ
422名を派遣している。 初年度の取りくみであったので、実際には実習 第
1期
2年間に当該の中学校で受けた相談室へ 活動を展開しながら、上記の観点を一つ一つ経験 の来室生徒数を月別に示す(図 1) 。年間統計から していくことになっていた。
は、両年度とも
9月から
11月にかけて来室者が増 この実践を通して派遣先の中学校の教育相談体
立正大学臨床心理学研究 第1 1 号
0132制も活性化し、かつ活発な相談活動を通して、実
習生の心理臨床的成長を得る機会が数多く提供さ れた。初期の試みではあったが、
SC(筆者)と院 生、学部生のチームワークがよくとれていたこと が、実践における相互援助においても指導におい ても、力強く有効であった。ただし、これらは大 学院担当者が
SCとして現場に配置されていたこ とで、学校現場と大学院の双方が直接的に視野に 入っており実施できたと考えられた。
71年度には 活動実績を心理臨床センター紀要(岡本ら.
)6002にまとめるまでに研究会が充実していた。筆者は 平成
71年度で
SC業務を降りることになり、後継 者に引き継いで、大学院生の実習は別途手立てを 工夫することになった。
( 2
)
第
2期 平 成
81年 度
-20年 度
① 実施状況
平成
71年に某区教育委員会での教貝研修に筆者 が出講したことを契機に、指導主事から区立中学 校へのボランティア派遣要請を受け、平成
81年度 から派遣を始めることになった。平成
81年度は実 習システムとして確立しておらず、実習生と派遣 学校数のバランスも調整できないまま開始した。
そこで一院生が年間を通して掛け持ちで
2校に行 くケースが 2 組も生じた。ボランティア活用も学 校ごとに実に多様だった。指導にあたっては箪者 がインフォーマルな研究会(岡本ら,
)0702と個 人的指導を織り交ぜながらフォローした。
ボランティア実践は学校で高く評価され、平成
19
年度からは予算がつかないものの、「スクールカ ウンセラーボランティア (SCVo) 事業」と称して 教育委貝会により事業化される運びになった。大 学長からも教育委員会に正式に実習生受け入れ依 頼書を出しているが、それに加えて、実際に指導 にあたる者同士で覚書を交わすまでにシステム化 された。指導主事と筆者は「学校にとっても、大 学院にとっても有益な活動であること」を軸に据 えて、再三話し合いを行い、覚書を作成した。そ れに伴い実習生も各自、活動に伴う守秘について 誓約書に署名し、派遣先の校長に提出した。
保護者面接陪席
5 1
行事参加
4 4
校内巡回
4 3
教貝との話し合い
6 0
養護教諭との連携
5 2
給食時間学級訪問
4 7 {
相談室の活性化
3 2
相談室広報
4 6 '
相談室開室
5 0
相談室運営
(S C
と ) 5 7
発 達 障 害 の 生 徒 の 対 応
、 不 登 校 生 徒 の 対 応
3 7
生徒の相談相手 5
゜ー数
m生徒の話し相手 答 回
2 0
0 0
8 0
6 0
4 0
2 0
0
図
2教師は SCVo に何を期待するか(総数 3 3 1 人、複数回答)
実際の導入手続きは、教育委貝会が校長会にこ の事業について周知を図り、実習生派遣への学校 としての希望を募った。実習生は、履歴書及び健 康診断書を提出して教育委員会で面談の後、副校 長会で挨拶をし、校長面接を経て初めて現場に派 遣が受け入れられるという手順で進められた。
実習生派遣中学校における教師を対象に、 SCVo に要請したい活動についてアンケート調査を行っ たところ、以下のような結果を得た(図 2) 。教師 は、子どもたちの「話し相手」を求めていること がわかった。
実習生は現場の中で
SCの実践を目の当たりに して、臨床心理士としてのモデルを感じ、感動し ている様子が見られた。
派遣校数も増加し、実習規模が大きくなったこ とで、大学院のサポート体制として院生へのグルー プ
vsも導入した。この時期、他の都立高校から も
1件要請があり、実習校に追加された。
②
2期の考察
〈導入に際しての教育委員会からの要請と契約〉
学校を所管する教育委員会からの要請を受けて システム構築が機能することにより、院生は学校 における存在を公的に守られていることになる。
院生は教育委貝会や校長との面接も経験し、学校 の行政上の位置について、身を以て学修すること になった。
また大学院側としては、学校との契約に年度ご
とに気を遣うのではなく、安定して複数校で実践、
継続できる意義が大きい。
院生たちは複数の学校について理解することで、
自分が身を置く学校の特徴をより的確に捉えられ るようになっていると感じられた。複数校を回る 負担はあるが、一校だけの実践では得られない経 験となった。
〈実習サポート体制〉
グループ
vsでは、実習生同士が互いの活動を 共有することで考察が深まり、臨床心理に関する 視野の広がりや深みが見られるようになった。
( 3
) 第
3期 平 成
12年~平成
22年
① 実施状況
高等学校からさらに
1件、派遣要請を受けた。
この機を利用して、これまで実習で感じていた課 題を、実践における構想に新たに折り込みたいと 大学院として考えた。新たに引き受ける条件とし て、実習を“学校組織全体で"受け入れ、“臨床心 理の専門的な実習生として:活用されることを要 請し、管理職と打ち合わせを繰り返した。その結 果、「「
00高等学校スクールカウンセラー専門実 習生派遣事業推進会議事業」実施要項」を学校側 が文書化し、校内組織に位置づける形で結実した。
実施要項の中では、学校教育相談関係者全体の 会議として、学校からは校長、副校長、教貝代表 3 名、養護教諭、 SC が出席し、大学院側からは実 習生の指導にあたる教員が複数と臨床心理専門実 習生が出席し、学期に一回開催するものと定めら れた。他に、小委貝会の機会も併記され、両者か ら若干名が集まって適宜開催できるものとされた。
大学院教貝は、その後高等学校の要望を受けて
「学校生活に関するアンケート」を全校生徒と保護 者対象に実施した。生徒の“悩みの程度”と“相 談への意図”について結果を学校に返し、保護者 に関しては“子どもや学校に向けた思い”につい て報告した。どの学年も半数以上の生徒がストレ スを抱えているが、相談への意図は
10-20%程度 であまり高くないことが見られた。また、保護者 にはわが子の抱える問題を、教員が感じている以
上に認識している様子が伺われた。教師たちは、
初めてこのような詳細な声に触れて、感慨深いこ とが伝えられ、管理職は学校新聞にアンケート結 果からみる傾向を掲載していた。
一方、中学校へ派遣している教育委貝会からは、
年度末も押し迫った時期になって加えて小学校へ の派遣要請を受けた。これまでの関係もあって大 学院側として受け入れ、平成
12年度には派遣校が 当該区域の小学校
5校、中学校
5校に拡大した。
大学院内では在籍する院生の
9割が学校臨床実 習に臨むようになり、実習規模に合わせて指導体 制も箪者だけでなく、
4人がチームで指導にあた
ることにした。
学びの成果が広がる一方で、いくつかのインシ デントも経験した。課題の実態や経緯を見守りな がら、実習を一時休止して解決にあたることが必 要な事態も生じた。日頃の実習生の動きやチーム ワークの中での情報共有から、大学院コーデイネー ターが即日管理職と大学院にて話し合いを行った り、また別件では大学院教員が教育委員会や実習 校を訪ねて話し合いを重ねたりした。課題の要因 としては、実習に多くの人々が関わることになっ て、学校関係者と実習生それぞれの持ち味と、そ の関係に行き違いが生じることも有りうると考え られた。いずれもタイミングを逃さない対応と、
学校の態勢と実習生の成長の双方を重視した誠意 ある対応を心がけて行った。
創 設 期 か ら 用 い て き た 「 SC ボ ラ ン テ ィ ア (SCVo) 」の名称を、この時期「 SC 実習生」と変 更した。教貝からは、 SC ボランティアが何をする 人か、教員として何をしてあげたらよいのか、と いう疑問が度々ぶつけられることもあり、大学院 側としては、実習生が行える活動項目等を要約し 伝えるなども合わせて行った。
また、実習後、報告書を書く事を通例としてい たが、開始当初から試行錯誤を重ねてきた様式が この時期ほぼ安定した。記録を書くことを通して、
院生自身が“自分の臨床心理活動を振り返る”こ
とに重点をおいた記録様式とした(図
3)。図
3は
実際には
A4で
1枚の用紙であり、ボリュームを
立正大学臨床心理学研究第
11号
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"
<トピックス:その日印蒙深かった場面の記tとホなたの対応>.,
• 気づいたこと・考えたこと¢
. ,
図
3実習記録用紙
限定してその日の重点をとらえて、コンパクトに 事実を書き、それに対して考えたこと、感じたこ となど内観を記し、それに基づいてどのように対 応したかを中心に記載し、活動中の自身の臨床心 理活動について自覚的になることを促すよう図っ ている。
この時期、実習生が学校に出向いたことを学校 と大学院の双方で確認していく出勤簿に代わる書 類も様式として作った。
② 3 期の考察
〈発達段階と支援の在り方への考察〉
小学校への派遣も始まったのに伴い、小学校、
中学校、高等学校それぞれの発達段階における学 校での支援の課題など、院生の学びに広がりが見 られた。小学校では教室や廊下など児童の生活す る場へ実習生も赴き、中学生では相談室での遊び や集団への介入、高校では相談室での会話への関 わりに活動の視点が置かれることが多かった。
〈危機対応への即時性と誠意ある対応の重要性〉
実習継続を不安定にする要因は、学校側にも大 学院側にも起こりうることが見られた。危機への 即日対応や、的確な情報交換、誠意ある連携が重 要だと考えられた。特に、教育委員会と学校管理
職、コーデイネーター及び大学院サポート体制の 円滑な連携が重視されると考えられた。
〈実習校に対する臨床心理の専門性の理解の浸透〉
“ボランティア”という名称により、教員からは
“学生が時間のあるときに好きで来ている”と受け 取られ、学校組織の中で教師や子どもとの関係が 定消しにくい要因になると考えられた。教師たち に臨床心理実習の目的や意義をわかりやすく伝え ることが重要であることが分かった。
一方で、新規に始まる実習校との契約において、
これまでの実習実践を経て考察した観点が、実習 フレーム構築に生かせたことが今期の大きな特徴 である。“学校組織全体として"、“臨床心理の専門 性を養う実習生(呼称「 SC 専門実習生」)”を受け 入れるという観点が実習実施要項に盛り込めたこ とは、学校との実習の成約としては大きな成果と 考えられた。院生の心理臨床的成長を図る新たな 機会として期待される出来事となった。この時期 には、筆者が高等学校
2校共で、学校運営連絡協 議会協議委員を委託され、学校運営の中に連携を 築けることにもなった。このことは、実習生の運 営や学校との信頼関係をより深め、着実なものと することになっていると考えられる。
-25-
〈実習をコーディネートしていく上での理念〉
実習システムを考える上で、 3 期は派遣の範囲 も広がり、成果も課題も見られ、実習継続の意義 や実施の在り方について深く考える時期になった。
実習を進める上では常に、学校にとっての相談 活動の充実と大学院生の心理臨床における成長と いう、双方にとって益のある実習であることを心 がけることが重視され、それが循環的に実習を保 証するものとしても展開していくと考えられた。
学校臨床心理実習開始から
5、
6年間を経て、
大学院全体では、臨床心理実習の受け入れ先が医 療・福祉など、多数の領域に広がりを見せてきた。
実習におけるインシデントを防ぐ意味でも院生の 志望動機等を確認しながら、派遣することも重要 だと考えられた。
( 4
)
第
4期 平 成
32年度
-24年度
① 実施状況
大学院側の事情が整わなかったこともあり、平 成
42年度から中学校での実習をしばらく休止して 様子をみることにした。
高等学校 2 校とはその後、管理職や SC 、養護教 諭をはじめとする教員の大幅な異動を経験したが、
専門実習生は学校組織の中でその位置が理解され、
活動が継続的に受け入れられている。専門実習生 たちが新たな活動を展開できる環境にもなった。
両校とも、 SC が配置されているが、学校の実状 に合わせた要請もあり、結果的に SC と同日の出 校とは限らず、 SC との連携の在り方は 2 校でかな り異なる。実習生は、 SC から様々な学びを得なが ら、組織を背景にして自らの心理臨床実践を開拓 している。
「 SC 専門実習生派遣事業推進会議」は定期的に 開催されており、
4年目を迎えて日常の生徒指導 に及ぶ活発な協議が持たれるようになってきてい る 。
②
4期の考察
〈フレーム構築による実習の安定化〉
この期にあっても学校関係者の異動に伴い、継
続の危機を予測したことがなかったとは言えない が、信頼関係を基に実習のフレームは比較的安定 している。派遣先学校の教師からも、「実習生がい てくれることが当然」の感が伝わるようになって きた。実習生の名前も一般教貝にもよく覚えられ ていて、学校における働きも評価されている。
今後の課題としては、学校の中で隠れた援助要 請に気づき、心理臨床的により質の高い支援がで きるようになることが課題と考えられるだろう。
' J V
. 全体考察
1
.
学校臨床心理実習のシステム構築は、実習の 安定的な維持と進行という意味で、フレーム構 築と深く結びついている。フレームをいかに構 築するかで、そもそも実習がその年度継続でき るか否かが決まってくる。そういう意味でも、
フレーム構築は重要であり、実習システムを保 証していく。
2
.
フレーム構築はその開始の段階では、学校関 係者からの派遣要請をタイミングよくとらえて、
実習システムにつなげることが望ましいと考え られた。例えば、
1期の中学校長から、
2期の 教育委員会から、 3 期の高等学校各 2 校から、
といずれも管理職から寄せられた要請のタイミ ングを実習システムの導入に生かすことで、そ の後の安定した運営や展開につながった。大学 院としては、“要請されて”実習を導入していく ことで、実習実践における困難が生じたときに も、それだけ対等な形での協力につながると考 えられた。
3
.
動機づけの高まりは、学校、大学院の双方に
重要である。学校側のニーズが組織的に高まっ
ていることが、管理職だけでなく教員組織から
の実習生の活用につながる。大学院や実習生個々
の動機付けの高まりも重要である。
1期に実習
そのものを立ち上げられたのも学生からの強い
要望があってのことであった。その後も、院生
の積極的な姿勢や工夫は学校側の評価にもつな
がるものであり、それがさらに実習システムの
活性化やフレームの安定性にもつながる。高い
立正大学臨床心理学研究 第
11号
2013評価はフレーム構築をより堅固なものにして、
大学院側にとって院生に成長の機会を与えると いう良循環を生むと考えられた。
4
.
実習導入に際して、諸事項を文書に収め、交 わしておくことが実習を支える。文書内容は、
学校と大学院生の両者にとって有意義な実習派 遣になる理念が具体化されたものが望まれる。
例えば、実習生の学校組織での位憫づけや、実 習生への呼称、実習時間や派遣の組織的受け入 れ態勢等がそれに当たる。これらが学校と大学 院で共通に認識されていることで、実習活動の
「場」作りや、関係性の醸成につながりやすい。
学校は人事異動等で体制が大きく変動するこ ともあるが、文書による契約は継続性を生みや すいと感じられる。
なお、大学長からの実習先への依頼書は、実 習の派遣体制のフレームをより公的なものとす
る。
5
.
実習の展開や安全な実施には、全体をコーデイ ネートする役割が必須であることが分かった。
実習の設定や維持、危機対応等、展開の節目節 目で要所を抑えていく。なおその際には、教育 行政や学校運営について十分理解していること、
教育委員会や管理職、組織、教員、
SC、そして 院生、大学院の立場など、一人ひとりを大事に しながら進めるという意味で心理臨床の実践力 を持っていることが要となる。コーデイネーター は、心理臨床的に見るとグループのファシリテー ター役を持ちながらも、必要な場面では、個の 生き方を守るために勝負に出る動きも重要な動
きの一つであると考えられる。
6
.
臨床心理の専門性を育てる実習の構造を考察 し、図
4に示す。図
4は学校臨床心理実習の行 われる仕組み全体(システム)を示したもので ある。
上段:教育委員会あるいは学校から要請を受 けて、大学院が実習を行う。その両者の関係を つなぐのがコーデイネート機能になる。コーデイ ネーターがそこに介在することにより、学校組 織に実習生を受け入れられる土壌を養成する。
大学院のなかでも実習を院生の心理臨床教育の 中に日常的に位置づけ、サポート体制を構築す る。
下段:学校を「場」として実習生が実習に取 り組む状況を示している。中村
)5002(は臨床 心理士の専門業務を、「メタ援助業務」と「直接
教育委員会
校内システム構築 く学校>
教育相談会議
(教育相談システム運営・
SC•実習生)
危機対応時の連携
nー デ ィ ネ ー タ ー
( コ ー デ ィ ネ ー ト 機 能 )
•実習派遣前の運び
・教育委員会・学校からの
要請と契約
・サポート体制の構築
•危機対応
・臨床心理の専門性の浸透
・ nーディネートの際の理念
く大学院>
院内システム構築 院内実習コーディネー
危機管理・対応
直接的援助業務 臨 床 心 理 専 門 的
力 量 の 成 長 成立基盤
I
メタ援助業務
I臨床心理面接
(子どもの話し相手)
臨床心理アセスメント(見立て)
• の
{
「場」の特微の把握 他職種との運携・謂整 援助環境の形成※中村( 2 0 0 5 ) を加筆修正
図 4 学校臨床心理実習における臨床心理の専門性を育てるシステム構築
-27-的援助業務」の側面からとらえているが、水準 の違いはあっても、臨床心理実習においても同 質のことが言える。
実習活動を可能にするものとして「メタ援助」
が重要である。学校という「場」の理解や把握、
そこに働く管理職や教師たち、養護教諭、特別 支援スタッフなど、心理臨床以外のスタッフに 自らを知ってもらいその機能についても理解さ れるよう存在し、働きかけられることが活動を 進める基盤を作る。本稿ではフレーム構築に焦 点を当てているので、実習生の活動の実際につ いては省略してきたが、箪者が日頃大学院で指 導を行っていると、実習生はこの「メタ援助業 務」にあたる実習活動の段階で、エネルギーを 相当に使っている様子が見られる。
「直接的援助業務」は、学校実習における実際 の場合、図 2にもあるように「子どもの話し相 手」が主なところである。実習期間を重ね、カ がついてくると、学校組織や教員との連携が可 能になってくる。これらを通して、実習生は心 理臨床家を目指している自分を認識し、専門性 が何であるかに身を以て虹面し、臨床心理の専 門的力最の成長が芽生える。
図
4の全体を囲む枠線を作ることを、本稿で は「フレーム構築」としている。また、各項目 を視野に入れて、システムとして活性化して動 くよう働きかけることを、学校臨床心理実習に おける「システム構築」とした。実習システム の充実を保証するフレーム構築が望まれる。フ レーム構築と学校実習システムは相補い合いな がら成熟を果たしていくものと考えられる。
システムにある各項目は、期間を経て長い経 過の中で相まって醸成されていく。項目相互の 関連の在り方が重要である。指導やスーパーヴィ ジョンにあっては、これら相互の関連にも視野 を広げながら行うことが心理臨床の専門性を育 成する意味で、重視される。
7
.
学校臨床心理実習は実習の「場」が確保でき なければ実践できない。そこで、ここまでは、
その「場」を保証するフレーム構築の重要性に
ついて論じてきた。
しかし、逆説的になるが、フレーム構築が安 定することが、心理臨床活動の成長を必ずしも 促進するばかりではないことを認識しておきた い。フレームの安定が指導態勢や実習生の緊張 感の緩和を生み、「場」の中で自ら開拓すべき臨 床活動への意欲を忘れることになっては何のた めのフレーム構築か、かえって損失になってし まうだろう。心理臨床の活動では、自分なりに
「場」を醸成する中で、十分に活動できないつら さにも向かい合い、自らの活動の可能性を考え 続けることがやがて新たな活動を生み出す芽に なっていくことにつながると考えられる。そん な院生の姿勢を支えられるようなフレーム構築 を目指していくことが、指導担当者の立場では 必要なのだろうと考える。実習生の心理臨床に おける成長について注意深く見守りながら、そ のプロセスをフレーム構築との関連において検 討することも基本的に重要な課題の一つであろ
うと考える。
V
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