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佐 藤 信 行

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(1)

  * 中央大学法科大学院教授,弁護士  ** 中央大学法科大学院教授

*** 中央大学法科大学院教授

「中央大学法科大学院の未修者教育の質の 改善についての提言」をめぐって

山 田 八千子

佐 藤 信 行

**

滝 沢   誠

***

Ⅰ は じ め に

 本稿は,2019 年 2 月 13 日に中央大学法務研究科教授会において報告された「中央大学法 科大学院の未修者教育の質の改善についての提言」,および,同年 4 月 17 日に開催された

FD

集会「中央大学法科大学院の未修者教育の質の改善についての提言をめぐって」を基礎 として,公刊にあたって必要な限度で加筆修正を加えたものである。

 法科大学院における法学未修者に対する教育は,制度発足以来,法科大学院制度の改善を めぐる議論の中で,改革に向けた様々な議論がなされてきた問題であって,本学においても,

対策すべき重要な問題である。加えて,2018 年 4 月には文部科学省が法科大学院入学者に 占める法学系課程以外の出身の者又は実務経験者の割合を「3 割以上」と定めた同省の告示 を撤廃するという,法学未修者に対する極めて重要な制度変更がおこなわれた。また,学部 において法科大学院との連携を前提として設置される「法曹コース」からの早期卒業入学者 の増加も,将来的には,法学未修者にとって間接的ではあるものの,影響がある制度導入で ある。こうした未修者教育をめぐる制度変更を含む現状を受け,2018 年 4 月教授会において,

中央大学法務研究科では未修者教育検討プロジェクトチームの立ち上げが承認され,当該プ ロジェクトチームは,2019 年 1 月を目処に,未修者教育の質の改善についての本提言を作 成し,2019 年 2 月に教授会で報告,2019 年 4 月に中央大学法務研究科の

FD

集会にて発表 した。当該

FD

集会においては,参加者間で活発な意見交換がなされたが,この意見交換の 結果は,本稿Ⅲの部分に主たる意見を掲載している。

 本提言は,中央大学法科大学院の未修者教育について,データに基づく現状分析,原因・

課題,同対策という 3 点に分け,カリキュラム,FD 活動,入学選抜の各領域に関し,内容

を展開している。提言の内容の詳細については提言本体をご覧いただきたいが,本提言の特

(2)

徴的な点を冒頭にまとめれば,①未修者初年次の厳格な成績評価の重要性,②教育改善にあ たっての組織的取組の必要性,③未修者についての準既修者,リベラル・アーツ型未修者,

非法未修者という 3 分類の提唱である。

 2023 年度の実現が目指されている,法科大学院の最終学年次の学生が司法試験受験する ことができる制度については,この新制度が未修者教育にとって極めて重要な影響を与える ものであることは明らかであるものの,未だその内容は流動的であり,制度見直しの議論が 提起された時期の点で,提言作成のスケジュール上,他の論点と同程度の分析・検討は適わ ないと判断し,末尾に補遺を掲載した。なお,本稿の補遺は,2019 年 4 月 17 日の

FD

集会 に提出されている。

 本提言の基となるデータは,中央大学法科大学院のものである点で本学固有の問題も含ま れているが,本提言で分析・検討した未修者教育の課題は,法科大学院全体に共通のもので あると思量し,公刊するものである。

Ⅱ 提言について

中央大学法科大学院の未修者教育の質の改善についての提言

未修者教育検討プロジェクトチーム

山田八千子,佐藤信行,滝沢誠

 本未修者教育検討プロジェクトチーム

(以下「未修者教育PT」という)

は,中央大学 法科大学院における未修者教育の質の改善につき,多様な人材による法曹養成という司 法制度改革の理念の実現を勘案しつつ,法科大学院をめぐる状況の変化を踏まえ,入学 者選抜,カリキュラム,教育体制等の領域に渡り各種資料に基づき分析・検討した結果 として,以下の通り,提言いたします。

Ⅰ はじめに

1  本提言の目的と構成

 未修者教育の改善は,文部科学省中央教育審議会大学分科会法科大学院等特別委員会 の「法科大学院の抜本的な教育の改善・充実に向けた基本的方向性」の柱の一つである。

周知の通り,3 年間の修了年限の法学未修者コースは,理念としての法科大学院制度に おいて,法曹養成の根幹を形成する仕組みであるものの,法学未修者コースの出身者

(以 下「未修者」という。)

は,その司法試験累積合格率が 2 年間修了年限の法学既修者コー スの出身者

(以下「既修者」という。)

と比較すれば,法科大学院制度開始以降一貫して,

全国平均のみならず本学法科大学院を含む大多数の法科大学院において,相当程度低

(3)

1)

。また,法科大学院をめぐる全般的状況は,司法試験予備試験受験者の増加,法科 大学院志願者の減少傾向に伴う募集停止の法科大学院の増加など,法科大学院をめぐる 状況は変化をしてきており,加えて,近時,法学部における「法曹コース」の設置,文 科省が 2018 年 4 月から法科大学院入学者に占める法学系課程以外の出身の者又は実務 経験者の割合を「3 割以上」と定めた告示を撤廃

2)

,学部早期卒業者が法科大学院法学 既修コースへ入学する制度構築

(いわゆる 3 + 2 )

に向けての動き

3)

,ならびに早けれ ば 2023 年度の実現が目指されている法科大学院の最終学年次の学生司法試験受験が実 現できる制度見直し

(以下「司法試験前倒し」という。)

など,法科大学院および法学部 をめぐる現状は,さらに劇的に変化しつつある。いまだに流動的な点もあることを留保 しつつ,こうした現状を踏まえて,法科大学院における未修者教育の改善について,提 言するものである。

 本提言は,Ⅰにおいて,全体の構想と方向性を述べた上で,Ⅰで設定した基本的方向 性に従い,Ⅱ・Ⅲにおいて,現状分析をおこない,Ⅳにおいて,Ⅱ・Ⅲの現状分析をふ まえて対策を提言する。なお,司法試験前倒しについては,実施時期を含め具体的な内 容につき流動性が高いため,提言本体への言及は最低限に留め,提言本体ではなく,末 尾に補遺を記載する。

2  未修者教育についての幾つかの制度的変更

 1 で記載した現状を受けて,法科大学院制度における法学未修者教育の位置づけは見

直しがおこなわれ,未修者教育をめぐる状況には一定の変化がみられるため,この変化

を確認する。一つは,本提言 1 で紹介したように,単に法学未修者を入学させれば良い

のではなく,入学させた法学未修者を法曹として輩出することに比重を置くという方向

性が採用されたことである。自主的な組織見直しの促進および先導的な取組の支援を目

的として導入された,法曹養成制度改革推進会議決定

(2015 年 6 月 30 日。以下「推進会 議決定」という。)4)

による「法科大学院公的支援見直し強化・加算プログラム」の指標

において,多様な人材による法曹養成という司法制度改革の理念の実現にとっての基底

的な条件であるとされていたところの法学系課程以外の課程出身者の入学者数・割合等

について単に入学者を確保するのみならず,これらの者を法曹として輩出するというこ

とが重要であるという観点から,これを指標から削除するという見直しを,前掲のよう

に,2018 年 8 月におこなっていることに表れている。もう一つは,共通到達度確認試

験の導入とこれを活用した未修者教育の改善・充実の質保証であり,具体的には 2020

年 1 月から本格実施が予定されている進級判定時の共通到達度確認試験の活用である

5)

この点,従来各法科大学院の自律性に委ねられていた到達度の判定につき,法科大学院

全体に渡り,標準化した形で到達度が判定できる仕組みが確立されたわけであって,こ

れをどのように用いるかが問題となる。

(4)

3  未修者教育の改善提言に向けての基本的方向性

 未修者教育の改善の基本的方向性であるが,本提言は,入学者選抜において質の良い 未修者を入学させ,ハードとしてのカリキュラム,ソフトとして教育体制

(FD活動,

課外講座を含む)

を両輪とし,各個人教員の個人的な工夫に留まらない組織的な取組と して,司法試験合格率

(卒業後 1 年内の合格率)

および直近 5 年間の未修者の司法試験 累積合格率を上昇させる対策を中核に,以下述べるものである

(司法試験前倒しにより 3 年次の合格率となりうる。以下同様。)

。ただし,未修者教育の改善の基本的方向性とし ては,こうした対策以外にも,想定しうる方向性があるので,本提言が何故このような 基本的方向性を採択したのかについて述べる。なお,本提言における「質の良い」とは,

入学時の入学者の質保証であり,質の良さは,卒業後 1 年内の司法試験合格および修了 後 5 年間の司法試験合格の可能性が高い学生を意味するものとして用いている。基本的 方向性として想定される一つとしては,入学者選抜の時点では,質保証に拘らず多くの 学生をとり,その後の適性に応じて入学後に振り分ける,具体的には,適性がないこと が判明した学生については修了せず中途で退学するということを積極的に容認するとい うモデルがある。一定数の中途退学は回避できないとはいえ,こうしたモデルは,入学 者にとって多大な影響を与えることから問題が多く,標準修業年限修了率も前述の法科 大学院公的試験見直し強化・加算プログラムで求められていることをふまえても,現実 的ではないであろう。また,未修者教育は,司法試験に合格して法曹となる法曹養成に 向けてのみおこなわれる必要はなく,修了した後司法試験に合格して法曹になれなくて も,法科大学院修了者として法務部その他企業に入社して,法律系人材として活用され,

一定数が司法試験合格以外のルートで法曹になる途を活用することに意義を認め,司法 試験合格にこだわらずこうした法律系人材を育成するという方向性もありうる。しかし,

この点については,上掲の中教審の方針と不整合であり,あえてこの方向性を本学が採 用するとしたら,一定の強固な理論的な基盤が必要であろう。

 以上のような考慮から,本節冒頭で掲げたものを,本提言の基本的な方向性として設 定した。

4  未修者の分類―準既修者,リベラル・アーツ型未修者,非法未修者―

 対策を検討するにあたり,未修者につき,以下の通り,準既修者,リベラル・アーツ 型未修者,非法未修者の 3 分類に分けて検討をおこなう。未修者については,従来,純 粋未修や隠れ既修などの俗称が通用しているが,属性の分析により,むしろ上掲の 3 分 類で分けて未修教育の充実改善を検討することが適切であると考えるからである。

 未修者教育の対象者である未修者については,従来,その中心は,法学系課程以外の

課程出身者を指すものとされてきたところ,入学者数や割合への指標を定めなければな

らないという現状がまさに示すとおり,未修者コースにあっても,その属性は様々であ

(5)

る。法学系課程以外の課程出身者の割合も一定数いる一方で,法学系課程の出身者も相 当数おり,しかも,その実質的属性は,様々で,既修者コースを受験したが不合格だっ た者,本学既修者コースは不合格でも他学既修者コースには合格した上で本学未修者コ ース入学を選択した者のような,ほぼ既修者に近い者もいる。彼らは,既修者コース入 学者ではないので形式的には既修者ではないものの,いわゆる基本六法と行政法の司法 試験科目について司法試験受験対策をおこない教義学的な法律学方法論で学修してきた 点で既修者と共通の基盤を有し,ただ本学の既修者コース入学者選抜基準に達しなかっ た者である。こうした者を「準既修者」として類型付けをする。他方で,準既修者の対 極にあるものとして,一般に純粋未修と呼ばれる者,理系や人文学のような法律学とは 思考枠組みが異なる学部を修了して,法律学の思考とは異なる思考方法が備わっており,

法律学の知識は原則的には入学前にはない者である。こうした者は,文字通り「非法未 修者」として類型づけることができる。そして,法学系課程出身者のうち,たとえば学 部中は専ら語学の研修等に従事するなど,司法試験受験対策以外の分野に傾注した者も いる。このような者は,準既修者と異なり,司法試験受験対策的な法律基本科目等の思 考方法

(いわゆる書き方も含む)

や知識は十全ではないものの,非法未修者と比較すれば,

英米法などの外国法も含む広い意味の法学についての基本的考え方は習得しており,専 門用語の意義や用法についても,非法未修者と比べれば違和感をもっていない。こうし た属性を有する者は,法学系課程出身者だけではなく,社会科学系の学部出身者,言い 換えれば経済学部や商学部,社会学部であって,カリキュラムに民法や商法が設置され ているような学部出身者にも,程度の差こそあれ,一定数存在する。そこで,準既修者 以外の法学系課程出身者を中核としながら,社会科学系学部の出身者も含む,非法未修 者以外の未修者につき,社会科学の方法論を「リベラル・アーツ」の一部として学んで きた者という傾向的表現として,これをリベラル・アーツ型未修者と呼ぶ。

 以上の 3 類型は,カリキュラム,教育体制を検討するに当たり,それぞれ独自の特徴 から,別異に検討がされるべきであると思量し,以下の提言に反映する。

Ⅱ 現状 1  概要

 中央大学法科大学院全体として,司法試験合格率

(受験者ベース)

は低下傾向にあり,

全国平均との比較でも下回るに至っている。その中でも,未修者は,司法試験合格率は,

新卒で 8.6%となっている

6)

。なお,準既修型の学生は出発点で他の 2 類型よりも有利 であるにもかかわらず,司法試験合格率が高いという明確な状況は見いだされない。

2  司法試験合格率

 本学の未修の新卒の司法試験合格率は,2006 年度から 2010 年度までは 20%程度,

(6)

2011 年度から 2014 年度まで 35%前後を推移していたが,2015 年度から一転して急激 に 20%以下に減少し,減少しつづけ,2017 年度には全国平均を下回るに至った

7)

。最 も問題であるのは,2015 年度からの急激な減少であり,未修者教育を改善するために,

進級判定導入,未修者フォローアップの導入,1 群科目としての基礎演習の導入などの カリキュラムの変更がいったん効果を上げているように見え始めたもののその効果を持 続できなかったともいえる。言い換えれば,司法試験前倒しが合格率に与える影響を慎 重にはかりつつ,2011 年度から 2014 年度の 35 パーセント前後へと復帰することが急 務であるといえる。なお,この点については,未修者が 2 年次に進級した際に範となる べき既修者のレベルについても,併せて考慮して進めていく必要がある。

3  成績

GPA

 未修者の 1 年次法律科目の

GPA

の状況は,未修者の合格率の低下と平仄を合わせて 低下傾向にあるわけではないが,未修者の 3 年間の法律基本科目の

GPA

については低 下してきている。本学においては,法律基本科目の

GPA

と司法試験の合格との相関に ついては,顕著な相関関係があり,このデータによれば,合格と相関関係にある

GPA

は,

3 年次の法律基本科目が上位層

(3.0 以上)

,中位層

(2.5 以上)

であることが必須である にもかかわらず,新卒での合格が現実的である上位層,中位層が未修者については急激 に減少していることが顕著な特徴であり,原級者の割合も多くなっている。

 修了生全体における新卒合格者の合格率と 3 年間の

GPA

との相関関係については一 定程度あるが,既修者と未修者とを比較すれば,同一の成績をとっていてもその合格率 は著しく低くなっている。なぜこうした相違が生じるかについては,未修者は,1 年次 の法律基本科目の

GPA

が含まれるという違いがあることから,未修者は 1 年次に良い 成績を取っても 2 年次以降の法律基本科目の成績が低下するため,3 年間の成績が合格 に結びつかないのではないかという仮説を立てた。そして,未修者の 1 年次の法律科目

GPA

と未修者の 3 年次の法律科目

GPA

の相関関係につき,1 年次法律基本科目 2.7 以 上

( 3 年間のGPAで卒業後 1 年以内の司法試験合格の可能性が一定以上ある数値)

の成績 を取った者のうち 2 年次の法律基本科目の成績が 2.75 以上の成績を取りえた者は半分 程度であった。このことから,未修者 1 年次の法律基本科目の成績が良くても,2 年次 以降の法律基本科目の成績も同様なレベルを保てる者が多くないことになり,1 年次の カリキュラムや教育体制に問題があることが確認された。言い換えれば,3 年次法律基 本科目の

GPA

と合格率との相関は相対的に高いが,1 年次法律基本科目の

GPA

と合格 率との相関は低いということである。

 新卒の受験者の択一合格率は,法務省提供データによれば,既修者との比較では相対

的に低い一方,同データによれば,論文合格率

(択一に通過した後の合格率)

は,既修

者との比較では有為な差がない。この点,2 年次以上の法律基本科目は,択一向けの基

(7)

礎知識を網羅的に教授するというカリキュラムではないため,既修者試験を合格してい る学生に比べると差が生じるのは,法学部において,法曹になるための学修以外のこと を中心に活動してきた,リベラル・アーツ型,非法未修者型の学生では当然であるとも いえよう。

4  入学者選抜

 入学時の成績と合格率との有為な相関は,最上位層を除けば,ない。他方で,受験者 及び入学者は,周知のように減少しており,入学倍率との新卒の合格率との相関は,合 格率が 35 パーセント前後に上がった時以降のデータにおいては,相関がある。すなわち,

一定の倍率が確保されているときの方が,入学者の質保証が担保されている。

Ⅲ 原因・課題 1  概要

 3 年間の法律基本科目が上位層,中位層でなければ合格は困難であるという現状と未 修者については 1 年次の成績と 3 年間の成績との相関関係が低いという現状をふまえれ ば,全体の成績を上げることがまさに課題であるものの,同時に,1 年次の成績が良く ても,2 年次に上がれば成績が下がるという状況を同時に解消しなければ意味がない。

すなわち,1 年次終了時の法律基本科目の上位層,中位層が 3 年次の法律基本科目と相 関関係がない学生が相当するという現状を改善することも課題となる。この傾向は,全 体に見られるとはいえ,準既修者型の学生が,1 年次ではリベラル・アーツ型の学生,

非法未修型の学生に比べて,相対的に有利なことに油断して学修を怠り,2 年次で落伍 するというストーリーが十分にありえるのであって,とりわけ当該類型の学生に対して 注意を喚起する必要があるだろう。もともと準既修者型の学生は,司法試験に向けた法 律学の勉強を一定程度おこなったにもかかわらず,本学既修レベルに到達しなかったの であって,法的三段論法のような法的思考や法律論文の作成に難をもっている蓋然性が 高い。他方,リベラル・アーツ型の学生,非法未修型の学生は,既修者コースの試験に 向けた学修をしていないため,司法試験択一試験や共通到達度試験で判定される基本的 知識については不十分であるけれども,法律論文の書き方やいわゆる法的三段論法のよ うな法的思考の修得については,準既修者型未修者よりも必ずしも劣らず,とりわけリ ベラル・アーツ型学生は,全く異なる学術の方法論に戸惑いがちな非法未修者よりも,

より一層有利である。冒頭で述べた法学部における法曹コース設置に伴い,準既修型の

学生は法曹コースに在籍しながら既修コースに入学できなかったという属性を有するた

め,より一層,既修者コース入学者との差が開く可能性がある一方で,すべての法学部

を有する大学が法曹コースを設けるとは想定出来ない以上,法曹コースのない大学で法

律学を学んだ者が未修者コースに入学する傾向が発生することも想定出来るため,従来

(8)

よりも質の良い学生が入学してくる可能性もありえ,慎重に傾向を観察する必要性があ るものの,リベラル・アーツ型の学生を入学させて鍛える必要性は依然として変わらな いと考えられる。

 択一合格率については,未修者の合格率は既修者よりも 3 年次の法律基本科目が同一 の場合には低いため,択一合格率を上げる基本的知識を身につけさせる必要があるわけ だが,これらの知識は,意識をして時間をかけて勉強をすれば修得するのは比較的容易 であるため,1 年次あるいは 2 年次以降継続して,基本的知識を確実にセミナー形式な どで教授

(主として 1 年次)

あるいは

e-ラーニング等を利用して自学自習できる仕組み

を大学側で設計

(1 年次から 3 年次にわたり)

する必要があると考えられる。

2  入学者選抜について

 前述の一定以上の倍率による質の確保が合格率の上昇につながることから,受験者数 の増加が必要である。また,入学者選抜試験による質の確保については,すでに述べた ように,現在のところまででは相関関係が見られないものの,適性試験の利用の自由化 により,本学独自の試験内容によって,一定の相関関係を確保するという方向性が検討 に値するものの,具体的に法学以外でどのような選抜内容が司法試験合格率との相関を 確保できるのかの方向性は明確ではない。

3  カリキュラム

⑴ 法律基本科目

 3 年次の法律基本科目の成績が上位層,中位層が少ない,あるいは 1 年次の法律基本 科目で上位層にあっても 3 年次の法律基本科目では上位層から中位層へ,中位層から下 位層へ下がる者が目立つという問題の解消が必要である。これらの原因として考えられ ることは,1 年次のみでは 2 年次において既修者入学者と合流した場合において同様の 実力を備える程度にカリキュラムを十分に消化しきれず,かつ,成績評価からも自分の 実力不足を意識しないため,2 年次で成績が下がるということが有力な原因の候補とし て挙げられる。たとえば,カリキュラムを消化できない原因として,1 年次の前期に複 数設置されている 4 単位科目の検討や科目配置などが挙げられる。場合によっては,2 年次前半においては,未修者用の法律基本科目を別途設けるという対策もありうるが,

制度設計との関係での実現可能性は不透明である。

 また,共通到達度試験の導入に当たり,1 年次の終わりの共通到達度試験に向けての 基本力の養成に向けて実力をつけるカリキュラムが検討される余地がある。

⑵ 課外カリキュラム

 本学特有の課外カリキュラムとして,法科大学院の実務講師がおこなうフォローアッ

(9)

プ演習と法科大学院外の中央大学がおこなう法職講座の両方が提供されており,その講 師は一部重なっている。

 まず,フォローアップについては,一つのグループの人数が少ない上に出席番号順に 機械的に割り振りがあるため,どのフォローアップに属しているかと法律基本科目との 成績との相関関係はなかった。フォローアップの実態については,統一した基準は設定 されておらず,実務講師のアンケートによれば,フォローアップの内容は,担当の実務 講師に任せられていて実務講師ごとに内容が異なっており,たとえば,6 回すべてを,

憲法とするもの,民法とするもの,憲法,民法,刑法に同一回数を割振るものなど,又,

起案についてもおこなうものとおこなわないものなどがあり,フォローアップ講師の自 由裁量にまかされている。なお,必ずしも法律基本科目の授業の直接的なフォローアッ プというわけではない。法律基本科目担当教員はフォローアップで何が具体的に行われ ているかは把握する形にはなっておらず,他方法律基本科目の教員からレジュメの提供 はおこなわれている。また,実務講師と教員側との意見交換は,2 年に 1 回程度はおこ なわれているものの,参加者は科長,教務委員長であって,法律基本科目の教員は,た またま役職者として参加している場合以外は,参加しておらず,意見交換の結果も法律 基本科目教員に組織的にフィードバックはされていない。すなわち,法律基本科目教員 とフォローアップ教員との組織的連携はされていない状況にある。さらに,意見交換の 議事録を精査すると,実務講師側からも内容についての提案や疑問がされているものの,

こうした情報が組織的に教務委員会内でも共有されたり引き継がれたりしていることは 確認できなかった。未修者教育フォローアップは,いっときは司法試験合格率の状況に 向けて良い影響を与えたという側面は否定できないものの,また,実務講師が忙しい中 母校のために努力してくれているという状況から過度に望むことができないという現実 をふまえたとしても,司法試験合格率が低下した現在では見直す必要があり,前述した ような,未修者教育の改善は,各教員の個人的な工夫に留まらない継続的・組織的な取 組としてなされる必要があるという前提に立つと,司法試験合格率上昇を前提にすれば 十分に改善発展の余地が残されていると考えられる。

 法科大学院とは別組織の中央大学法人が実施する法職講座については,受講状況,と りわけ入学前講座については,入学者の半数近くが受けており,その属性は準既修型,

リベラル・アーツ型,非法未修型に分散しており,受講の有無は,入学後の成績との相 関は必ずしも見られない。

⑶ 法律基本科目の講義科目以外の履修科目について

 法律基本科目以外の 1 群選択科目が,2 年次以降の法律基本科目の成績と直結してい

るのかどうかについては,科目によっては必ずしも明らかではなく,法律基本科目の講

義科目以外の科目については,本提言では扱っていないものの,1 群 2 群の科目

(「生

(10)

活紛争と法」「基礎演習」「基礎事案研究」等)

については,カリキュラムの再構築に従い,

履修上限単位数との関係で,組織だった系統的な履修という観点から,検討が必要にな ると予想される。また,1 年次に法律基本科目以外の選択科目を設定することの影響に ついては多様な意見がありえ,今後,2 + 3 導入により学部で履修した科目読み替えが 可能になったとき,読み替えができない非法未修学生への負担については,慎重に考慮 する必要があり,司法試験前倒しにより法科大学院の特徴である 3 群

(基礎法学・外国法・

隣接科目群)

4 群

(展開先端科目)

の科目の履修がおろそかにならないよう配慮をするこ とは必要であると考えられるけれども,現状で早急に対処すべき課題は発見されなかった。

4  教育体制

(成績評価含む)

⑴ 法律基本科目の教育体制

 e-ラーニングの活用については,設備として提供されているものの,基本的な知識択 一力をつけるためのツールは,授業で必須で使わせるのではなければ,充分に使われて いない。起案力をつけるためのツールは,全くないよりは良く,科目によっては,一定 程度活用されているものの,2 年次以降に合流したときに充分な実力をつけているかど うかは明らかではなく,現行と代替的な仕組みも含め,より効率的な利用が望ましいと 思われるが,来年度からは起案力養成システムが廃止されるため,これに代わる形での 起案力の養成を法律基本科目あるいはフォローアップでおこなうことを検討すべきであ る。この点,1 年次から起案力を養成することについては一定の懐疑的な意見があるこ とを前提としつつも,定期試験,中間試験等で問われることが多い事例問題に対する起 案の仕方は,法科大学院の教員が一定期間かけて当然のように修得しているのに対し,

未修者とりわけ非法未修者,リベラル・アーツ型未修者にとっては,基本的知識とは独 立して修得する必要のある技能であり,この点について対応することは,未修教育改善 にとって課題であるといえよう。

⑵ 課外授業

 上で述べたように,フォローアップ演習は,法律基礎科目教員との連携がとれていな いのみならず,組織的継続的な展望のないまま実施されており,何らかの形で効率性を 上げることが課題と考えられる。

⑶ 法律基本科目の講義科目以外の履修科目について

 上で述べたようなカリキュラム上の課題の他,教育体制としては,本提言では扱って

いない。

(11)

Ⅳ 対策 1  概要

 入学試験の倍率を上げ,法学未修者の 3 年間の法律基本科目の上位層,中位層を増や すための対策が必要であり,後者は,1 年次終了時の法律基本科目の上位層,中位層が 3 年間にわたって法律基本科目で上位の成績がとれるような相関関係を有すること,言 い換えれば,1 年次の習熟度の改良と 2 年次以降のフォローが必要である。上述したよ うに,準既修者,リベラル・アーツ型未修者,非法未修者の類型ごとに,対策を考える ことが必要であり,とりわけ教育体制については,その要請が顕著である。以上の対策 を,個別教員やフォローアップの個別実務講師に委ねるのみではなく,未修者の類型を 十分に意識し,教員側が主導をして,組織的継続的に行い,情報共有をしつつ,積み上 げていく必要がある。

2  入学者選抜について

 入学者選抜については,入学者選抜対策が先というよりは,合格率上昇が入学者選抜 の倍率を上げる傾向にあるため,どこかの時点で新卒の合格率を上げて,一応のレピュ テーションをつくり,負のスパイラルから抜け出す必要がある。ただし,文章力一般の 巧拙よりも,いわゆる法的三段論法で表されるような「論理性」を備えている学生を選 抜するような問題を作成することが必要であると考えられる。

3  カリキュラム

 学生が 1 年次の科目について消化不良を起こさず,2 年次以降に反映するような能力 を身につけさせるために,法律基本科目については単位や内容を含めた抜本的検討が教 務委員会の主導の下に必要である。なお,制度的に制約される可能性があるが,2 年次 前半まで基本科目をおこなうという方式も考える余地はある。

4  教育体制

(成績評価含む)

⑴ 教育体制一般

 上に述べたようなカリキュラムの検討と共に,基本的知識を確立するための択一問題

(共通到達度確認試験の利用も含め)

,論文合格率と 2 年次以降の合流の際の成績低下を 防ぐための起案力の涵養を,学生の自習性のみに任せるのではなく,できる範囲で大学 が後見的におこなう必要がある。共通到達度試験などを踏まえると,択一については 1 年次の段階でおこなう必要があり,これにフォローアップなどを利用することも考えら れる。具体的には,択一については

TKC

e-ラーニングの有用な利用方法,起案につ

いては,2 年次以降の教育をふまえた起案力養成の独自の対策を検討することが望ましく,

フォローアップについて起案力を中心として活用することが考えられる。

(12)

 フォローアップの体制については,組織的継続的な取組とし,法律基本科目との関係 についても明らかにする必要がある。連携をとることが望ましいと考えられるが,連携 をとらないという前提であれば,そのような前提を明示して,その代わり,教務委員会 などが,2 年に 1 回程度の意見交換ではなく,継続的な関わりをもつという制度を設計 することも考えられる。

⑵ FD 活動

 1 年次で中位や上位となったにもかかわらず 2 年次以降に成績が下がるのは,到達目 標との関係で実質的にこれに該当しない

(かつその点を意識せず油断する)

にもかかわ らず中位や上位にしているか,それとも 1 年次の到達目標の設定が低いかのどちらかで ある。前者であるかどうかについては,実質的には中位層でないにもかかわらず,中位 層の成績にしていないかを検証する

FD

活動をおこなうことが必要である

(厳格な成績 評価)

。後者については,法律基本科目の 1 年次の到達目標と 2 年次の到達目標につい て系統的なカリキュラム配置になっているかについて,

FD

活動が必要だと思われる。

Ⅴ 最後に

 未修の新卒の司法試験合格率について,2011 年度から 2014 年度まで 35%前後という 実績を維持していたのは複合的な要因によると思われ明確な理由は判明しなかった。

2015 年度から一転して急激に 20%以下に減少し,減少しつづけ,2017 年度には全国平 均 16.3%を下回る 11.8%,2018 年度は 8.6%

(全国平均 17.3%)

に急激に減少した現状に おいては,新たな抜本的な対策を検討する必要がある。その際,まずは,従前のように 個別教員や個別実務講師の貢献によるだけではなく,組織的継続的な系統だった取組と して取り組みをおこない,のみならず,これを検証すること,隠れ既修,純粋未修とい われてきた未修者を準既修者,リベラル・アーツ型未修者,非法未修者という類型にわ け,それぞれが司法試験合格率の低さについて有する問題点の質的な違いを意識しつつ,

組織として具体的な対策をすることが肝要であると考える。

〈補遺〉

司法試験の受験時期が在学最終年次中に変更された場合の未修入学者教育について

はじめに

 当ワーキングルループ

(以下「WG」という。)

は,その報告書を研究科長及び教授会

に提出する直前である 2019 年 1 月において,国が司法試験の受験時期を在学最終年次

中に変更するために必要な立法措置を,早ければ 2019 年の通常国会に提出する可能性

(13)

があるとの報に接した。

 現段階においては,その全体像は不明であるが,このような制度改定が行われた場合,

法科大学院における未修入学者教育に大きな影響を与えるものとなるのは不可避である ことから,当

WG

はこの補遺を付し,この点について予備的な検討を加えておくこと とした。

1  前提

 2019 年 2 月 9 日現在,制度改革の全体像は不明であるが,現在法科大学院修了者に 対して認められている司法試験の受験資格を,法科大学院最終学年に在籍している者に 認め,当該司法試験の合格者は,法科大学院修了直後の 4 月から司法修習を開始できる ようにすること

(いわゆる「ギャップターム」の解消)

が制度の骨格であると理解される。

これと法学部及び法科大学院の一貫した法学教育

(いわゆる「3 + 2」)

を組み合わせる ことにより,高等学校を卒業し法学部に入学した学生が法科大学院での学修を経て法曹 を目指す場合,高等学校卒業後,最短約 6 年で法曹資格を有することができるようになる。

 もっとも,その場合の司法試験の時期については,現在ほとんどの法科大学院がセメ スター制を採用していることを考えると,未修入学者にとっても第 5 セメスター

(既修 入学者にとっては第 3 セメスター)

終了後または第 6 セメスター

(同第 4 セメスター)

終 了後のいずれかとなると思量されるから,実際には,8 月~ 9 月の時期か,1 月~ 2 月 の時期となることが想定される。もっとも,後者の場合,司法試験の採点に 4 ヶ月程度 要していることを考えると,法科大学院在学中に合否結果を知ることができないために,

ここでは,新しい司法試験の時期は,8 月~ 9 月となると想定して検討を行う。なお,

以下では,この時期に実施される司法試験について「新日程司法試験」と呼ぶことにする。

2  検討すべき事項

 上のような新日程司法試験が設定された場合,その影響は,未修入学者教育のみに留 まらず,法科大学院教育全体に及ぶことはいうまでもないが,詳細が不明な現時点でそ の全体像を検討することはできない。そこで,ここでは,まず,想定される検討すべき 事項を示し,さらに,その中で未修入学者教育に関連する点についてのみ,若干の検討 を加えるに留めざるを得ない。

⑴ 選択科目教育

 新日程司法試験において選択科目が司法試験科目に残るのか,あるいは,これが廃止 されるのかは,現状では明らかではなく,双方の可能性を念頭に検討を行う必要がある。

 これが廃止された場合,新日程司法試験受験前のセメスターにおいて,従来の選択科

目を学修する動機の一定部分を失うこととなる。もとより,法科大学院の修了が司法修

(14)

習の前提として維持され,かつ,修了に必要な単位数や第 1 ~第 4 群の科目編成という 考え方が維持される限り,従来の司法試験選択科目についてもその学修は必要となるが,

学生から見たその位置づけは,第 2 群や第 3 群に配置されている科目,第 4 群に配置さ れている非司法試験選択科目と同様なものとなるから,その履修時期誘導を含めた科目 再検討・再配置が必要となる。

 これが廃止されなかった場合,従来より 1 セメスター早く「受験に対応した学修」を 終える必要があることから,その学修時間確保のために,第 2 群や第 3 群科目及び第 4 群の非司法試験選択科目の学修が先送りとなる可能性が高い。こうした点から,やはり,

その履修時期誘導を含めた科目再検討・再配置が必要となる。

 

*追記:選択科目についてはその後廃止されないことが明らかになっている。

⑵ 司法試験科目教育

 司法試験科目については,第 5

(第 3 )

セメスターまでに学修を終えることが必要と なるが,第 5 セメスター直後に新日程司法試験が実施されることを考えるならば,第 5

(第 3 )

セメスターに新たな知識を獲得させる教育は困難であって,同セメスターは,知識 を前提とする問題処理能力獲得を目指す教育を中心とせざるを得ないと思われる。

 結果として,既修入学者については 2 セメスター,未修入学者については 4 セメスタ ーで司法試験科目に係る体系的知識を得させるカリキュラムが必要となる可能性がある。

この場合,「授業」による知識の修得だけを考えれば,授業 15 週及び試験 1 週で構成さ れているセメスターを,さらに 1 つ追加して,1 年トリメスターにすることも考えられ るが,修得単位キャップ制との関係で問題が残る。現実的には,春休み及び夏休み集中 講義を拡大して,事実上のカトルメスター化することが考えられる。

⑶ 第 6

(第 4)

セメスター教育

 新日程司法試験の下では,最終セメスターである第 6

(第 4 )

セメスターは,司法試 験受験後となる。そこから,この期間を,司法試験とは直接関係はなくとも,法曹に必 要な能力を涵養する教育のために利活用するという積極的な活用方法を検討すべきである。

 もとより,合否が判明していない学生にとっては,次年度の司法試験のための「受験 勉強」期間として位置付けられる期間であることから,司法試験に直接関係のない法曹 能力涵養は机上の空論となりかねないが,他方では,司法修習後のキャリア形成の点か らは,合格を予測される学生にとっては,極めて重要な期間でもある。そこで,制度と しては,後者のタイプの学生に焦点を合わせつつ,前者のタイプの学生についても過剰 な負担とならないように,複数のメニュー

(たとえば本法科大学院が独自に設定している,

修了後の活動を念頭においた 6 つの法曹及び履修モデルである「6 つの法曹像」に対応する もの)

を用意し,かつ,集中講義の活用等学生のニーズに応じた学びができるセメスタ

(15)

ーとして位置付けることも検討されるべきである。

⑷ 未修入学者クラス編成

 現在,未修入学者は第 3 セメスターになると,既修入学者と混合のクラスに所属する ことになっている。これは,既修入学者が法科大学院 1 年次の教育内容について,既に 学修済みであるという制度設計からすると,論理的には正しいものといえるほか,これ までの未修入学者の多くが既修者選抜試験に合格しなかった法学部卒業生であったとい う現実に照らしても,その学修進度を 1 年で補うという未修入学者学修の「動機付け」

として,一定の合理性を有していたといえよう。

 しかしながら,新日程司法試験を前提とした場合,報告書本論で想定したいずれのタ イプの未修入学者にとってみても,5 セメスターの学修期間によって司法試験に合格で きる水準の準備を整えることは,極めて困難であるといわざるを得ない。とりわけ,既 修入学者が実質的には 1 年間の学修で司法試験を受験することに対応するためには,第 3

(第 1)

及び第 4

(第 2)

セメスターの教育は,相当程度に知識獲得を優先したものと せざるを得ないと思量されるが,未修入学者にそのようなタイプの教育を提供すること が適切な学修支援方法であるかについては,相当大きな疑問が残る。

 このように考えるならば,未修入学者のクラス編成については,従来の方法を改め,

3 年間一貫したクラス編成としておくことも検討すべきであろう。ただし,未修入学者 の学生数の減少により,このようなクラス編成が困難となることも考えられる。その場 合には,ICT を利活用した教育

(オンデマンド教材による講義代替)

,既修入学者の中でも,

学修速度を落とすことが適切であると考えられる者や

(「 3 + 2 」以外で入学した既修者 の中に,一定程度存在すると考えられる)

との合同クラス編成等も検討すべきである。

⑸ 学修支援及び転進支援体制

 新日程司法試験に対応するためには,法科大学院における教育・学修が知識習得を前 倒しにする形で,その速度を増すものとなると考えられる。そこで,こうした点に配慮 した学修支援体制が必要となるほか,転進を考える者についての支援体制を整備するこ とが重要である。

 前者については,実務講師による支援に加えて,ICT の利活用を加速する必要があろ

う。後者については,たとえば,法学研究科との連携により新たな

LL

.

M

. コース

(たと えば,香港やシンガポールでの商事仲裁人資格取得のためのコース等)

を設定し,法務研

究科からの転大学院を認めること等,総合大学である本学の教育資源の活用を含めた方

策を検討すべきである。

(16)

おわりに

 冒頭に記したように,現時点では,新日程司法試験に係る政策変更の全体像が明らか ではないことから,上記の多くは,論点の提示に留まっている。全体像が明らかになる ことに対応し,新たな未修者

WG

の設定等の対応が必要である。

=山田八千子少数意見=

1  はじめに

 本補遺について,「はじめに」,「1 前提」については,本補遺と意見を共通するが,「2  検討」については,一部意見が異なるところがあるため,相違点の概要について,以下 に記載する。

 本補遺は,司法試験の受験時期が在学最終年次中に変更された場合においての未修入 学者教育について,未修者のみならず既修者の学生にも反映する形で論点を網羅した内 容であると考えられる。提示されている論点や提唱されている制度変更

(トリメスター 制の導入,春夏の集中講義,クラス編成の変更等)

については,検討すること自体の重要 性は否定できないものの,実現可能性

(負担と成果・便益との比例)

について慎重に考 えるべきであると共に,その拠って立っていると考えられる前提について,いささか慎 重に取り扱うべき点があると考えられるので,以下簡単に意見を記す。

2  相違点

⑴ 基本的な認識の相違と問題状況

 まず,本補遺は,3 年の時期

(後期前)

に試験が実施されれば,学生がそれまでの時 期は司法試験に向けた法律基本科目,選択科目に集中するため,それら以外の科目につ いては,3 年の後期に集中的に学ぶという制度設計を採用している。しかしながら,本 制度設計は,段階的に法曹となるべき知識を習得していくという司法試験制度改革の理 念との齟齬が問題になるだけではなく,たとえば筆者の担当する 3 群の基礎法学・隣接 科目群を例に取れば,3 年の後期だけに学ばせることにより,当然に詰め込みの弊害が 起こることが予想され,むしろ法科大学院に入学した段階から徐々に修得するに適して いる科目であると考える。このことは,2 群の実務基礎科目,4 群の展開先端科目でも 同様にあてはまるであろう。また 3 年の後期履修になれば,学生も教員も単位修得のた めに不本意な対応とならざるを得ないことも考えられる。

⑵ 3 年次に司法試験不合格

(とりわけ択一試験不合格)

学生の合格率に与える影響等

 ⑴は,3 年次に司法試験に合格した場合のみを想定しているが,3 年次後期に司法試

験不合格あるいは択一試験不合格となる場合も想定する必要がある。とりわけ択一試験

不合格の学生は,択一試験の不合格を早い段階で知るわけである。択一試験に不合格と

(17)

なった上で翌年の司法試験に向けて学修している学生にとって,3 年次の後期や春休み 等に司法試験に向けた科目以外の多数の科目も学修することは,翌年度の合格にとって の大きな足かせとなる。また,択一の合格結果を知り,程度の差こそあれ,合格するこ とを前提にスケジュールを組み立てる学生にとっても,司法研修所入所前の期間におけ る活動の自由度の低さは,決してプラスに働くと言い切れるものではない。

⑶ ICT の利活用について

 ICT を利活用した教育を利用した教育については,報告者自身が法曹リカレント教育 などで経験したけれども,遠方にいる,職業についているなどの物理的な制約がある者 にとって有効な手段であることは否定しないものの,ICT によって,対面と同様の学修 効果は,教員の習熟によって左右される部分を捨象したとしても,少なくとも本学の法 科大学院生に関しては得られないと考える。とりわけ,教室と同時配信をするならば,

教室で講義を受ける学生にとっては,負担感があることは,過去の関連アンケート等か ら確認される。よって,一般の学生とりわけ習熟度が低い学生にとっての

ICT

は,極 めて慎重におこなうべきであると考える。

3  結論

 たしかに 3 年次の司法試験合格率上昇のため 3 年生の前期まで司法試験に集中させる という環境を整えることは,短期的にみれば,現実的で魅力的な提案に映るかもしれな いけれども,法曹養成制度改革の理念や司法試験科目以外の科目の学修環境の整備とい う理想論だけからではなく,実践的観点からも,当初の制度設計の目的が実現するかは 不透明なところがあり,むしろマイナスの効果がある蓋然性も否定できない。早々に

(司 法試験前倒しに併せて)

,司法試験科目を 3 年次の前期に修了させるためにそれ以外の科 目の段階的な修得を回避するような司法試験対策カリキュラム設計へと抜本的に変更す るよりは,状況を見極め,様々な可能性を考え,当初は慎重に進めていくピースミール アプローチこそが望ましいと考える。

 以上から,「2 検討」のうち,「⑸学修支援及び転進支援体制」の転進を考える者へ の支援体制としての,「たとえば,法学研究科との連携により新たな

LL.M. コース(た とえば,香港やシンガポールでの商事仲裁人資格取得のためのコース等)

を設定し,法務 研究科からの転大学院を認めること等,総合大学である本学の教育資源の活用を含めた 方策を検討すべきである。」を除いた部分については,意見を一にしないものである。

以上

(18)

Ⅲ 2019 年 4 月 17 日の FD 集会について

 2019 年 4 月 17 日に実施された

FD

集会において,本提言および補遺について提出された 主たる意見は以下のようなものである。

 ⃝学生が,自分ができると勘違いしてしまうような成績評価の仕方自体意味がなくなって きているため,評価のあり方について大きな決断をすべき時期が来ていると教員が認識共有 する必要がある。

 ⃝

(本学で定期的に実施している)

学修成果分析会において,2 年次に成績が芳しくない学 生を分析したところ,未修者から進級してきた学生は 2 年次において選択科目を多く履修す る傾向にあることが分かった。その結果,学習が選択科目にも分散され,1 年次に学修して きた法律基本科目の復習がおろそかになっているのではないかと結論付けた。この点は今年 度の学修ガイダンスで注意喚起をした。

 ⃝フォローアップ演習については,開校以来,若手の実務講師の業務負担を考慮して,半 期に 6 回が限度となっている。このことから,授業のフォローというより実務講師独自の伝 え方をしていると推察される。そうなると負担を増やさずにフォローを充実させるためには,

1 人の学生が複数のゼミに登録することが解決策ではないかと考える。

 ⃝未修については,短答式問題の勉強を正課として強制的にやらせるようにした方が良い。

 ⃝厳格な成績評価がなされていないとすれば,進級判定に

GPA

基準を設けてもそこをパ スしてしまう学生がおり,ひいては合格率も下がってしまうことになる。

 ⃝標準修了年限を超えて学修できる長期履修コースを設けることも手段ではないか。そう いう大学もあると聞いている。この点は検討したのかという質問が出された。これに対し,

未修

WG

側から,未修者,とりわけ非法型未修者については,3 年間での十分な学修が困難 であると思われることから,標準修了年限を超えた学修についてはグループ内で検討したが,

制度的に難しいと考えられるので,提言に載せなかった。また,学部の学士入学制度の利用 などで,学部に一部教育を受け持ってもらうということも考えたが,これも制度上の関係で 提言には載せなかった。もし,質問者が,長期履修コースについて具体的情報をもっている のなら,教えて欲しいと発言があった。

 ⃝既修も同様の状況だと思われるので,既修対策も考えなければならない。

 ⃝文科省ウェブサイトに掲載されている「法科大学院における法学未修者への教育手法に 関する調査研究」が非常に参考になるので,ぜひ目を通してほしい。

 ⃝他大学の状況を見ると,例えば,未修者教育に力を入れ,入学前に相当な時間を確保し

て基本科目のガイダンスをおこなっている大学もある。この大学では,入学後も土曜日に

30 週にわたって実務講師が補習をおこなっており,さらに教員と実務講師のコミュニケー

ションも密にとって一体となっているということである。また,学期末試験を夏休み明けに

(19)

おこない,授業期間は基礎知識を,夏休みには起案を鍛えて,試験に臨むようにする大学も ある。このように,参考になる取組みはたくさんある。

 ⃝ 3 + 2 の法曹コースが始まると,法曹コースから入学した学生と一般入学した既修者に おいても,相対的な学力差が出る構造になるので,この対策についても考える必要がある。

〈追記〉

 2018 年度に終了した先導的大学改革推進委託事業調査研究として,日本弁護士連合会に よる「法科大学院における法学未修者への教育手法に関する調査研究」(2019 年 3 月)に接 した(http://www.mext.go.jp/a_menu/koutou/itaku/1415265.htm)。

1 ) 各年度の司法試験結果については以下の法務省のウェブサイトを参照。

 http://www.moj.go.jp/jinji/shihoushiken/jinji08_00026.html 2 ) 参照http://www.mext.go.jp/b_menu/hakusho/nc/1404264.htm

3 ) 第 198 回国会において「法科大学院の教育と司法試験等との連携等に関する法律等の一部を改 正する法律案」が文部科学省提出法律案として提出された。

 参照http://www.mext.go.jp/b_menu/houan/an/detail/1413769.htm 4 )https://www.kantei.go.jp/jp/singi/hoso_kaikaku/

5 )http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo4/041/sir yo/__icsFiles/afield file/2018/07/31/1407689_001.pdf

6 )http://www.moj.go.jp/jinji/shihoushiken/jinji08_00026.html本提言は,司法試験合格率を第一次 基準として用い,それ以外の合格率に言及するときはその旨を明記する。

7 )http://www.moj.go.jp/jinji/shihoushiken/jinji08_00026.html

参照

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