金 沢 大学 十全医学 会 稚 誌 第88巻 第2 ・ 3号 4 21 ‑4 51 (1 9 7 9)
腫瘍 細 胞の変 性 過 程の研究
一 胸 。 腹 水 中の ヒト臆 瘍 細 胞の変 性 過 程 一
金 沢 大学 大 学院医学研 究科内科 学 第三講座 ( 主 任: 服 部 絢一教 授)
三 田 村 英
(雷雲志謂孟蔓聖霊芸雷雲王守撃品書讐空空地学会総会 お よび昭和5 4年 第2 附)
細胞診では, 各 種臓器 か らの生 検塗沫や内視鏡直 視 下擦過 法等の検 体 採取 法の進 動こと も ない比較 的に新 鮮な状態の細胞を採取, 観 察す る機会が多く な り. 腫
の po oI s m e a r や嗜 癖な どの変 性し た細胞を対象にし
た Papa nic ola o uH の "c rite ria of m align a n cy
l 一 のみ
では 律 し き れ ない細胞の存在が注目 さ れ. 新鮮な細 胞
の所見 を加 味した悪性 判 定基 準の再検 討が行な わ れて い る2曲.
一 方, 主に婦 人科領 域では集団 検診の普及によ り細
胞 診の自 動化に関す る 研究も 進 め ら れて いる4削. 集団 検 診では検 体の採 取仁標 本作 製の過程な ど か ら変 性を と も なっ た細胞を扱うこと が多く細 胞の変 性過程の検 討 が 必要であ る. ま た自 動 化細胞 診で は 悪性の最 も有 力な情 報を.細胞のD N A 量 や核 構 造に求めてお り,変 性過程で のD N A 量の変 化と形態 学 的 変 化との比較 検 討も 必要であ る.
細胞の変 性過 程 を 形 態学的に観 察し た報 告は多い が. D N A 量の変化につ い て の報 告は 比較 的に少ない.
さ らに, 形態学的 所 見と D N A 量 を 比較 検 討し た報告 は Le u chte nbe rge r6 ), A lfe rt7 ), Be r e nbo m ら8 )9l
,C ha ng ら川 J , Ve ndr ely らIHお よ び吉田一2)らの もの をみ るにす ぎ ない . し か も. これ ら はいず れ も動物 材 料の一 種類の細胞につ い て の検討であ り, ヒ ト の数 種 類の細 胞につい て比較 検 討し た報 告は み ら れ ない.
体腔 液の細 胞診 は 現在 広く行な わ れ, 診断, 治療 効 果の判定な どに役立って いる が, 胸 ● 腹 水 中の細胞の
変性につい ては 谷 田‖トの報告 を み るにす ぎ ない. ま た 細 胞の生死の判定は, 最近の臓器 移 植 やそれに と も な う臓 器や細胞の保 存. 薬剤の効果 や副 作用の検 討, さ らには免疫学的機 序の解明 な ど極めて広汎 な領 域で利用 さ れ. 判定には色素 排 泄能. 運動 機 能, 代 謝 徳性. 成 長能ない し は 移 植能な ど が 用 いら れて い る刷、l引
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細胞はそ の変 性過程におい て, ま ず細 胞 分裂, 高 分 子物 質 合 成 能. 色素 排 泄 能な どの機能を失ない, 次い で形 態学 的 変化 を来た し, その後D N A 巌の減 少を み ると さ れて いる== 鋸
本実 験で は, 胸・ 腹 水 申の豊 膿 細胞お よ び腫 瘍 細 胞
の変性過 程で の機能あ るいは 形態の変 化を知る た め に, 細 胞の生死 の 判 定に は色 素 排 泄 能お よ び
a uto r ad iogr aphy 法によ る細 胞 分裂 能と高分 子 物 質 合成 能の検 討を行ない, 以後の変 性過程では 形態 学 的 変 化 と D N A 量の変化 を対比検 討し た.
実 験 材 料
本実 験に使用 し た 胸 ・腹 水は,昭 和5 1 年5月か ら昭 和5 3 年 5 月 まで に金 沢大 学医学 部 附属 病 院に入 院し, 胸 。腹 水の細 胞 学 的 検索お よ び病理組 織 学的に診 断 が 確 定 し, 採取 前に放 射線 治 療や抗腫 瘍 剤. ホル モン剤 な どの投 与の行な わ れて いない こと を 確 認でき た計7 症 例 を 選 び採取 し た. そ の内 訳は, 腺がん2 例 ( 胃 原 発分化型腺が んの腹 水. 2 例 ). 扁平 上 皮がん2 例(子 宮 原 発 低分化 型扁平 上皮が んの腹 水, 1 例, 肺原 発分 化 型扁平上 皮がん の胸 水. 1例), 小 細 胞が ん 1 例( 肺 がん の胸 水), 細 綱 肉 腫症1例 ( 系統 的リン パ節 腫の胸 水) お よ び欒膜 細胞の観 察のた めの肝 硬変症 1 例(腹 水) であ る,
実 験 方 法
Ⅰ. 細 胞死の観察 1. 色素排 泄 能
採 取直 後の胸 ・ 腹 水および試験管内で 370c, 2 00C および 40C に可 及的 無 菌 的に保存し, 3 70C では. 1.
3, 6,1 2 時 間 後お よ び 1, 2, 4. 7, 1 4, 2 1 , 2 8 日 後, 2 00c と 40C では 1 2 時 間後および 1,2, 4,7,1 4.
2 1, 2 8 日後に そ の 一部を 試験 管よ り取り出し た もの Studie s o n Dege n e r atio n Pr o c e s s of H um a n T u m o r C ells・ E iichi M ita mu ra, D epa r‑ tm e nt of Inte rn al M edicin e (ⅠII) (Dire ctor: P rof. K .H at to ri),SchQ Ol of M edicine, K a n a‑
Za W a U niv e r sit y.
4 2 2
を 80 0rpm で 5 分 間 遠 心 し, そ の 沈 査 に 0.5 % e ry thr o sin B 液 を等量 加 えて混合し. その 一 を Biirke トTurk 血 球 計 算板の計 算室に入 れ約1 0 抄 後に2 08 偶の細胞につ い て e r sthr o sin B によ り赤 染 し た細胞の百分率 (e ry thr o sin inde x,以下E.Ⅰ. と す る) を求め, Viabi lit y を( 1 0 0‑E.I.) % で表わ し た.
2 . 細 胞の分裂能と高 分 子 物 質 合 成 能
上述の実 験Ⅰ.の1. に用いた 胸 ・ 腹 水のう ち 保存7 日白まで の それ ぞ れ 1 扉に.
3H‑thymi d in e 3pC i,
3H‑u ri d in e 5JIC i を加えて無 菌 的に3 70c で 1時 間培 養 し, ハ ン ク スⅢ液で3 回洗 浄, さ らにF C S O.5mエで
洗 浄 後塗沫 乾 燥, メ タノ ー ル で 1 5 分 間固定 後 乾 燥, S A K U R A N R‑M, 乳 剤を 用 い て d ip ping 法で
a uto r ad iogr aphy 模 本を作 製し た. 榎本は乾 燥 剤入 りの暗 箱 申で 40c, 4 日間 露 出し た後D 19 を 用 い て 1 80C で5分 間現像. 9 % 酢酸で停 止. コ エ フィ ク ス で 200C l O分 間 定 着後 流 水で3 0 分 間 水 洗,乾燥 後ギム ザ 染色を施し た.各 棟 本につ い て そ れ ぞ れ 1 0 00 偶の細胞 を数え,銀粒 子5個以上を陽 性と して百分 率を求め た.
Ⅲ. 細胞の変性過 程 1, 形態学 的変 化
実 験Ⅰで用いた と同 様に. 採取 直 後お よ び試 験 管に
保 存し た胸・ 腹水を経 時 的に取り出し, 8 0 0rpm で 5 分 間遠心 し沈 壇よ り薄 層 標 本を作 製, 位 相差顕 微 鏡 下
で観察し た. 位相差顕 微 鏡は 日本 光 学K K 製で対 物レ
ン ズは Da rk Med iu m x l O O を 用い緑 色フィ ル タ ー を 透 して観 察し 写真 撮影には ネ オパ ン F を使用 し た. 同時に塗沫標 本を作 製し,
一
つ は 9 5 % エ タノ ー ル ・ エ
ー テ ル 等量 液 で 蘭=遡 定 後, W alte r‑Re ed‑Ar m y
Ho spital 変態によ る Papa nic ola o u 染 色を施す と と もに. 他の 一 つ はカル ノ ア液で湿 固定 後, Fe ulge n 反 応を施し, いず れ も 形態 学 的 観 察を行なっ た.
2, D N A 量の測定
上記の形態 学 的観 察に使用 し た Fe ulge n 反応 標 本
につい て. N i ko n‑V icke r s M ・8 5 s c a n ning mic r o‑
de n sitophoto m ete r で波 長5 6 0 n m/SpOtlfL,対 物レ
ンズ×1 0 0 に より, 多核 白血 球を除い て連 続 的に2 0 0 個の細 胞を測定し,縦 軸に細 胞 数,槙 軸に D N A 量 を任 意の単位にと りヒ ス トグラム を作 製し た.
実 験 成 績
Ⅰ. 奨 膜 細 胞
1 . 色 素 排 泄能によ るviab ilit y (F ig.1.a) 1) 採取 直 後の細胞
E.I, は 4.5 % で viab ilit y は 9 5.5 % であった. 2 ) 3 70C に保 存し た細胞
田 村
E.Ⅰ. は時 間の経過 と と もに上 昇 し. viab ilit y は 1 日後4 4.0 % . 1 4 日後4.0 % , 2 1 日後0 % と なっ た.
3 ) 2 00C に保 存し た細 胞
viab ilit y は 7 日後5 3.5 % , 1 4 日後1 1.5 % と著 滅 し.2 8 日後には 0 % と なった.
4 ) 40C に保 存し た細 胞
1 4 日後に23 .0 % と著滅, 2 8 日後に0 % と なった.
2. a uto r ad iogr aphy 法に よ る Labeling Inde x の測定 (F ig.2.a)
1) 採取直後の細 胞
3H‑thy mi d in e お よ ぴ3H‑u ri d in e の Labeling Inde x ( 以 下3H・T d R .L I. お よ び3H・U d R.L.Ⅰ.と略す)
は, それ ぞ れ 1 1 .5 % , 6 8.4 % であっ た.
2 ) 3 70C に保 存し た細 胞
i) 3H‑T d R.L.Ⅰ. : 1 2 時 間 後に1 .5 % と著 減, 1 日 後に0 % と なった.
ii) 3H ・U d R .L.Ⅰ, : 1 2時 間 後に3 .7 % , 2 日後に0
% と なった.
3 ) 2 00C に保 存し た細 胞
i ) 3H‑T d R.L.I. : 1 2 時 間 後に 3.7 % と著減, 2 日 後に0 % と なっ た.
ii) 3H‑U d R.L.Ⅰ. : 1 2 時 間 後に1 8.4 % と著 滅. 4 日 後に0 % と なっ た.
4 ) 40c に保 存し た細 胞
i) 3H‑T d R.L.Ⅰ. : 1 日後に2.1 % と著滅. 4 日後に 0 % と なった.
ii) 3H ‑U d R.L.Ⅰ. : 4 日後に1 2.5 % . 7 日後に0 % と なった.
3. 形 態学 的 観察 1 ) 採 取 直 後の細 胞 i) 位 相差 顕 微鏡によ る観 察
細胞 質には細 賊粒状の糸 粒体を核周囲に認 め, 核 は 類円 形, 核線は 円滑で薄く, 核内には 1 〜 3 個の小形 の核 小 体と少 数の凝 集 塊を 認 め た.
ii) Papa nic ola o u 染 色によ る観 察
細胞 質は広く 層状を 呈 し, 核 縁は薄く円 滑で核内は 細顆粒 状で矯円形の核小 体を み た.
i ii) Fe ulge n 反 応によ る観 察
核形は円 形 ないし類円 形, 核縁は 薄 く 円滑. 核の網 工 は純綿状あ るいは細 顆 粒 状で均 等に分布し, 核小体
の部 分はぬけ. その周囲に凝 集 塊を み た. 2 ) 3 70C に保 存し た細 胞
i) 位相差 顕 微鏡によ る観察
a. 1 時間後 : 細 胞 質では糸粒 体が膨化 し.光輝性轍 粒 も出現, 核は採取直 後と著 変を み な かった.
b. 3時 間 後 : 細 胞 質の光 輝 性 顆 粒が増 多, 核 径は
腫 瘍 細 胞の変性 過 程の研 究
t 2 句 7 日 2 t ‡一 伽i
12 q 7 川 21 2 且 伽S
4 2 3
1 Z q 7 l q 2 1 劫 如
1 2 q 7 =1 2 t 油虫lyt
F ig・1・ Sequ e ntfal cha nge in c ell viabilit y e x am i‑
n ed by e ry thr o sin B e x clu sio n m ethod.
㌦ Viable c ells w e r e e xpr e s s ed by(1 0 0‑
e ryth r o sin B stain ed c ells) %
⑳ ‑ ◎ kep t at 3 7 ℃
◎ … 一‑・◎ kep t at 2 0 ℃
⑳ … …・・⑳ kep t at 4 ℃
a . M e s othelial c ells fr o m a s cite s.
b . W ell diffe r e ntiated ade n o c a r cin o m a c ells of
StO m a Ch fr o m a s cite s.
C . W ell diffe r e ntiated ade n o c ar Cin o ma c ells of
StO m a Ch fr o m a s cite s.
d . Po o rly d iffe r e ntiated squ a m o u s c ell c a rin o m a C ells of ute r u s fr o m a s cite s.
e . We11 dif fe r e ntiated squ a m o u s c ell c a r cino m a C ells of lun g fr o m ple u r al fluid.
f ・ Sm all c ell c a r cino m a c ells of lu ng fr o m ple‑ u
r al fluid.
g ・ Retic ulum C ell s a r c o m a c e11s of lym phn ode
fr o m ple u ral fluid.
4 2 4
1 2 q
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+ ▲
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F ig.2. Sequ e ntial cha nge s in labeling in d ic e s of 3 H‑T d R (up pe r)
a
nd 3 H‑U d R (lo w e r)
◎ 一 ◎ kep t at 3 7 ℃ 匂ぃ=‥=り砂 kep t at 2 0 ℃
● … ‑‑・ ● kep t at 4 ℃
a. Me s oth elial c ells fr o m a s cite s.
b. W ell diffe r e ntiated ade n o c a r cin o m a c e11s of sto m a ch fr o mr
a s cite s.
c. W e11 diffe r e ntiated ade n o c a r cin o m a c ells of sto m a ch fr o m a s cite s.
d. Po o rly diffe r e ntiated squ a m o u s c ell c a r cin o m a c ells of ute r u s
fr o m a s cite s.
e. W ell diffe r e ntiated squ a m o u s c ell c a r cin o ma c ells of lu ng fr o m ple ur al fluid.
f. Sm all c ell c a r cin o m a c ells of lun g fr o m ple u r al fluid. g. Retic ul um C ell s a r c o ma c ells of lym phn ode fr o m ple u r al
fluid.