Ⅰ.はじめに
心理学専攻の学生や教職希望の学生に生涯発 達心理学を教えている坂上(2015)は,ここ 15 年間の変化のひとつとして(あくまでも個人的 な印象と断ったうえで),「幼い子どもに興味や 関心をもつ学生がかつてよりも減り,将来の子 育てへの不安を表す学生が増えた」と述べてい る.
そうした学生に対して,少し意識的になって 周囲の子どもたちに目を向けて観察してみるこ とを勧めると,思いがけない子どもの発想の面 白さやおとなにはない率直な子ども同士のけん かや仲直りの場面に遭遇して,子どもへの興味 が湧いてくることも少なくない.乳幼児の指さ しの研究をしている岸本(2012,p.3)も,そのきっ かけが保育園の観察にあったことを次のように 記している.
研究テーマが決まらず,ぼんやり(保育園の)幼児を 観察していた時のことです.体調が悪く,布団で横になっ ていた女の子,そばには保育士さんがいました.そこへ 1歳半くらいの男の子がやってきて,「あ,あ」と言い ながら横になっていた女の子を指さしました.保育士さ んはそれに対して,「うん,○○ちゃん,ねんねしてるね」
と答えました.その光景を見た瞬間,私は衝撃を受けま した.言葉も話せない幼児が保育士さんと「会話」して いるのです!何を考えているのかわからない存在として
幼児をとらえていた私は,この瞬間から幼児を「自分の 考えを相手に伝えようとする強い社会性を帯びた存在」
と思うようになりました.
この瞬間に岸本の研究テーマが幼児の指さ しに決定したのは言うまでもない.そして,
Tomasello(2006) の,人間以外の霊長類において 個体同士で指さしが行われたという報告はほと んどないという指摘を読んで,指さしは優れて 人間的行為であることに筆者も改めて感動を覚 えた.本稿は,指さしから始まる人間特有の社 会性の発達について概観する.なお,「社会性」
とは「人が物との関係ではなく人との関係をも つことができること」という,発達心理学の定 義を基に概観する(鯨岡,1995,p.293).
Ⅱ.指さしに込められた乳幼児の社会性の萌芽 「指さし(Pointing Gesture)」とは,左右一方 の腕と人さし指を伸展させ,環境内の特定の対 象や方向に向ける行動である(Liszkowski,2011).
定型発達児の指さしは,生後 11 カ月齢から 12 カ月齢ころから始まる.岸本(2012,p.3)は,幼 児の指さしを「発見」した際に,指さしをする 幼児を「強い社会性を帯びた存在」と思うよう になったと述べている.それでは,指さしには,
どのような社会性が込められているのだろうか.
リシュコフスキら(Liszkowski et al.,2004)は,
要約:人間特有の社会性の発達を,指さし,心の理論,教示行為を通して概観した.定型発達児 では生後 11 カ月齢ころから始まる指さしは,他者の注意を喚起するだけではなく,他者の関心 を感じ取って共有する「心の理論」と「利他的な動機づけ」の萌芽が見られる(Liszkowski et al.,2004;2006).瀬野(2008)は,「心の理論」の4~5歳通過説に着目した実験研究から,3歳 児は自分が知っていることを外界に向けて全面的に開示する存在であり,4~5歳児は他者に開 かれつつ閉じた存在であると考察し,ワーキングメモリと抑制制御力の発達が関連していること を示唆した.児童期になると,「心の理論」を理解している他者の心の中を,さらに理解するこ とが可能になることを,簡略化した課題で林(2002)が示した.赤木(2007;2012)は,子どもが 行う教示行為について,相手がどこまで理解できているかを推測し,相手が出来そうなところは 抑制制御して見守る力が必要であるので,高度な「心の理論」が求められることを実験によって 示し,上手に教示が出来ると自尊感情も育まれると指摘している.
指さし・心の理論・教示行為を通して見る子どもの社会性の発達について Development of Children's Sociability through Passing Pointing Gesture,
Theory of Mind and Teaching
大須賀隆子(帝京科学大学)
Takako OSUGA(Teikyo University of Science)
乳幼児は指さしによって相手の関心(心の状態)
を自分の意図する対象に向けさせようとしてい ることを実験によって示した.その実験は,12 カ月齢児と実験者が向かい合って座り,実験者 の背後に人形を出現させ,12 カ月齢児が指さし をすると実験者は4種類の異なった行動【①実 験者は幼児が指さした背後の人形を見て「わあ,
あれはなんだろう?」と発声して幼児を見る.
②実験者は背後を一切見ずに幼児を直視して「わ あ,ご機嫌だね」と発声する.③実験者は無表 情に幼児が指さした人形のみを見る.④実験者 は無表情に自分の手のみ直視する.】をとるとい うものである.
結果は,①において,指さしの繰り返しがもっ とも少なく指さしの保持がもっとも長かった.
なぜならば,①の実験者の行動は,幼児の驚き ながらの指さし行動を共有しているので,幼児 は実験者が自分と同じように驚いていると感じ て,指さしは1回で十分であり指さしの保持時 間は関心の共有のために長くなっているのであ る.②③④の実験者の行動は,突然出現した人 形に対して幼児が指さしによって懸命に注意を 喚起しているにも関わらず,実験者が無反応も しくは無表情であるために指さしを繰り返さざ るを得ない状況に見舞われるのである.つまり,
12 カ月児の指さしには,単に相手の注意を喚起 するためだけではなく,相手の関心を感じ取っ ているという「心の理論」の芽生えが込められ ていることが示唆されている.
さ ら に, リ シ ュ コ フ ス キ ら(Liszkowski et al.,2006)は,指さしが社会性の芽生えとしての「利 他的な動機づけ」によってなされるかどうかを 実験によって示した.対象児は,指さしを開始 して間もない 12 カ月児である.実験室で,12 カ 月児と実験者が机を介して対面して座り,実験 者は幼児の好むおもちゃを3個,大人が使用す る物を3個,12 カ月児に一個ずつ提示する.お もちゃを提示する場合は,実験者は幼児と一緒 にそのおもちゃで遊ぶ.大人が使用する物を提 示する場合は,実験者だけが扱い,幼児は見る だけである.その後,実験者がよそ見をしてい るうちに,おもちゃや大人の使用物が床に落ち る.机上から対象物が無くなっていることに気 づいた実験者は驚いて「○○はどこに行ったの かな」と見回す.そこで,12 カ月児がどのよう な反応をするのかを見るという実験である.
結果は,12 カ月児は,自分が遊んだおもちゃ だけでなく,実験者だけが扱った大人用の物に
対しても床を指さして知らせたのである.リシュ コフスキら(Liszkowski et al.,2006)は,指さし を始めたばかりの 12 カ月児が,他者に指さしを して知らせるという「利他的な動機づけ」によっ て指さしを行うことが示唆されたと述べている.
ところで,指さしが開始される 12 カ月齢ころ は,初語の開始と重なるのだが,指さしと言葉 はどのように関連しているのだろうか.カマイ ニオーニら(Camaioni et al.,1991)は,12 カ月 齢時点での指さしの量は,20 カ月齢時点の言葉 の量を予測すると報告している.ロウら(Rowe et al.,2008)は,14 カ月齢時点で指さした対象の 種類数から 42 カ月齢時点で理解できる言葉数を 予測できると指摘している.こうした研究から,
乳幼児の指さしと言葉の発達が関連しているこ とが理解される.
それでは,具体的には,どのように関連して いるのだろうか.岸本ら(2007)は,保育園の 1 歳児 13 名が,指さしを行うと保育士(4名)か らどのように言葉かけを受けるか(指さし後場 面),指さしをしない場面での保育士からの言葉 かけはどのようになるのか(統制場面)を比較 観察した(室内自由遊び時間に限定).その結果,
指さし後場面での保育士による言葉かけまでの 時間が,統制場面での言葉かけの時間より有意 に差があることが判明した.園児は,指さし後 5秒以内に保育士から言葉かけを受けており,
統制場面より早くに言葉かけを受けていたので ある.言葉によるコミュニケーションが未発達 な1歳児は,指さしによって養育者から言葉を 引き出す機会を積極的につくり出していると岸 本らは考察している.
Ⅲ.人間関係を育てる「心の理論」
「心の理論」とは,人はその人なりの内なる 世界(内面性)をもっており,外面的な行動は その内なる世界の特徴によって規定され,制御 されていると理解していることをいう(丸野,
1995,p.211).
「心の理論」をもつかもたないかを調べるため に心理学者が考案した方法が「サリーとアンの 課題」(Wimmer&Perner,1983) に代表される誤 信念課題である.サリーがビー玉を籠に入れて 外に出かける.そのビー玉をアンは籠から出し て箱に入れて外に出かける.サリーが帰って来 てビー玉を探すが,どこを探すだろうか?とい う問いに答えるのが「サリーとアンの課題」で ある.4~5歳児のほとんどは,サリーは籠を
探すと答えるが,3歳児の大部分は箱を探すと 答える.ビー玉はアンによって箱に移しかえら れた(現実)が,そのことをサリーは知らない ので最初に入れた籠を探す(サリーの心の現実)
という,現実とサリーの心の現実のズレを理解 していることをもって「心の理論」をもつとみ なすのである.
「心の理論」の成立は,4~5歳ころである が,その起源は生得的なところにあるとする説 と環境とのかかわりのなかで獲得されるという 説がある.前者が生得説,後者が理論説と呼ば れている.1983 年に誤信念課題が提示されて以 来,多くの実験が行われて両派の論争が続いて きたが,2001 年にウェルマンら(Wellman,H.M.
et al., 2001)が「心の理論」に関する 178 の研究 を分析した結果,理論説に軍配が上がった.
しかし,筆者は,生得説派の次のような主張 にも一理あるように思われる.即ち,「心の理論」
の通過は4歳以降ということだが,それは,誤 信念課題を理解する言語能力が未発達であるた めに,潜在的には「心の理論」を理解していても,
その能力が発揮されないという主張である.現 に,言葉を十分に使えない乳幼児のための非言 語版誤信念課題を 15 カ月児に実施し,注視時間 などの指標によって判定したところ,1歳児が 知覚レベルで「心の理論」をもつことが示され ている(Onishi &Baillargeon,2005).
それに対して,3 歳児と年長児の“違い”にこ だわって研究をしている理論説派の瀬野(2008)
のこだわりの実験方略と結果を紹介したい.
瀬野の実験研究は,「知識課題」と「実行機能 課題」からなる.「知識課題」は,宝物の隠し場 所を知っている子どもに,協力相手と競争相手 が「知ってるかな?」「教えて」と二段階方式で 尋ねるというものである.競争相手が「知って るかな?」さらに「教えて」と尋ねるのは「宝 物を取ってしまおう」という意図がある.一方,
協力相手にも「知ってるかな?」「教えて」と尋 ねるのだが,競争相手のような意図は協力相手 には勿論ない.瀬野の考案した「知識課題」は,
「知ってるかな?」と尋ねる相手の意図に応じて 知識の提供と非提供を使い分けるという,まさ に「心の理論」が試される課題である.
瀬野(2008)の実験研究のもうひとつの課題 である「実行機能課題」は,太陽が描かれた昼 のカードを見て「夜」と答え,月が描かれた夜 のカードを見て「昼」と逆を答える「昼 / 夜課題」
である.なぜ,「心の理論」に実行機能課題を加
えたかについて,瀬野は次のように説明してい る.「サリーとアンの課題」において,サリーが どこを探すかという問いに正しく答えるために は,回答者自身が実際に知っている隠し場所(箱)
とサリーの知っている隠し場所(籠)を思い浮 かべ,サリーの視点に立って答えるという過程 を経なければならない.つまり,正解を答える ためには,サリーとアンの両者の行動情報を記 憶するワーキングメモリと,実際に隠されてい る場所を知っているのだが,それを抑制制御し てサリーの心の現実を答えるという実行機能が 発達している必要があるというのだ.そのワー キングメモリと抑制制御力を測るために用意さ れたのが「昼 / 夜課題」である.
実験の結果は,3歳代を中心とする年少児で は,競争相手に対しても協力相手に対しても,
即時に宝物の隠し場所を教える行動が確認され た.その行動は年齢が上昇するとともに見られ なくなった.つまり,競争相手には知識の非提 示(宝物の隠し場所を教えない)で応じ,協力 相手には知識を提示するという使い分けが,年 齢の上昇とともに増加していったのである.そ の傾向は,「実行機能課題」である「昼 / 夜課題」
と強い相関があり,「心の理論」の発達と「実行 機能」の発達が相関していることが示唆された と瀬野は述べている.
瀬野(2012)は,以上の実験研究結果をめぐっ て3歳と4~5歳の“違い”について次のよう に考察している.3歳児は,自分が知っている ことを外の世界に向けて全面的に開示する存在 である.つまり,3歳児は,“知っている”こ と自体が紛れもない「私」であり,それ以外の
「私」は存在しないのである.一方,4~5歳児 は,「知っている私」を意識し始めるようになり,
同時に「知らない他者」も意識できるようになっ ている.従って,4~5歳児は,3歳児のよう に自分が知っていることを全面的に開示するの ではなく,閉じる側面と他者に開かれる側面を もてるような「私」に成っていくのだと言う.
この他者に対して閉じる側面と開く側面とを併 せもった「私」の形成に実行機能の発達がかか わっているというのが瀬野の考察である.「心の 理論」の4~5歳通過説をめぐる瀬野の考察は,
万能感溢れる3歳児を理解するうえでも,3歳 児の他者理解を育てる契機として実行機能の発 達を促すヒントとしても、意義深いものと思わ れる.
児童期に入ると,「心の理論」は,さらに高度
る円孔を指さし,なかには「ココ」と発話をと もなって教える子どもも見られたと言う.赤木 は,1 歳半を過ぎたころに見られる教示行為を「積 極的教示行為」と名づけている.
図1 赤木が用いた道具
(赤木 ,2012,『他者とかかわる心の発達心理学』, 金子書房)
図2 積極的教示行為を問う課題の結果
(赤木,2012,『他者とかかわる心の発達心理学』, 金子書房)
赤木(2007;2008a)は,「心の理論」獲得後 の4歳以降の高次な教示行為の発達についても 研究している.高次な教示行為として「教えな いという教え方」を赤木は挙げている.対象者 の状況によっては教えないほうが効果的な場合 もあるが,「教えないという教え方」ができるた めには,教えたいところを抑制する能力や,対 象者の時間的に先の可能性を予測する能力が求 められる.この教え方がいつ頃から可能になる のかを,5~6歳児 24 名,小学生(2,4,6年生)
183 名を対象に,ストーリーをつくって赤木は 調べた.そのストーリーとは,友だちが折り紙 で紙飛行機を作ろうとしているが,作れなくて 困っている.あなたは作り方を知っている.友 だちは頑張って作っているうちに少しずつだが,
紙飛行機ができてきた.この時,あなたはどう するか?①作り方を教えてあげる,②そっと見 ている,③友だちにはかまわず遊びに行く,の いずれかと尋ねたところ,5 歳児・6 歳児・小学 2年生の多くが①作り方を教えてあげると答え,
②そっと見ているを選んだのは 20%以下だった.
小学4年生になると②を選んだ者は 40%,小学 6年生は 60%だった.②そっと見ているを選ん だ子どもたちは,その理由として,「自分の力で な発達を遂げる.「現実にはビー玉はアンによっ
て箱に移動させられているのだが,それを知ら ないサリーは籠の中を探す」という理解を一次 的信念の理解,その一次的信念の理解をしてい る他者の心の中をさらに理解していることを二 次的信念の理解として,その通過が6歳後半か ら概ね9歳頃にかけて可能になることを,簡略 化した課題で林(2002)が示している.二次的 信念の理解は,自分の心中を相手が知ったらど う思うだろうかとか,ある友人の言動を別の友 人がどのように考えているのかを想像したりと いうように入れ子型に他者の「心」を理解でき るようになる.それまでの単純な他者との関係 性が,複数の他者に対して同時に配慮できる高 度な「心の理論」をもつようになるのである.
Ⅳ.子どもが教示行為をすることで発達する力 発達障害心理学が専門の赤木は,大学院生の ころ,様々な研究会で「いかに大人が上手に子 どもを教えるのか」という実践報告を聞いてい て違和感を覚えたと言う.その違和感が契機に なって子どもが主語になる「教える」という行 為の発達研究をするようになったと述べている
(赤木,2012,p.164).赤木(2012,p.149)は,教 示行為を次のように定義している.教示行為と は,他者の知識や技能・規範を修正・向上させ ようとする意図的な行為である.
赤木(2004)は,教示行為の発達的始源は 1 歳半ころにあるとして,実際に実験研究によっ て示している.筆者に限らず 1 歳半ころから教 示行為が可能であると聞いて不思議に思われる 向きも多いだろう.赤木は,教示行為が生起す るためには,「行為主体としての自他分化」と,「他 者が誤った行為をしているという認識」が必要 であり,1 歳半ころを過ぎると,この2つの理解 が可能になると言う.原理的には成立するよう だが,実際の実験はどのように組み立てられて 実施されたのだろうか.
1歳 0 カ月から1歳 11 カ月の子ども 43 名に,
はめ板と呼ばれる図1のような道具を用いて実 験をした.実験者が,1 歳児の目の前で,円板 を四角の孔にはめようとして「あら,入らない」
と言いながら四角孔に入れ続ける様子を見せる というものである.その結果,図2に示された ように,1歳7カ月までの子どものほとんどは,
自ら円板を触って自分ではめようとし,実験者 に教える行為は見られなかった.1歳8カ月か ら1歳 11 カ月の子どものうち半数は,正解であ
おける「社会性」とは,「人が物との関係ではな く人との関係をもつことができること」という 極めてシンプルな定義であるが,ヒトが人間関 係を成立させ維持し発展していくためには,他 者(たち)への奥行きと広がりのある配慮が求 められる複雑な能力であることに,いくつかの 実験研究を概観することを通して,思いを新た にした .
定型発達児では生後 11 カ月齢から 12 カ月齢 ころから始まる指さしは,単に他者の注意を喚 起するためだけではなく,他者の関心を感じ 取って共有する「心の理論」と「利他的な動機 づけ」によってなされていることが理解された
(Liszkowski et al.,2004;2006).さらに,言葉に よるコミュニケーションが未発達の 1 歳児は,
指さしによって養育者から言葉を積極的に引き 出す機会を得ている,生まれながらにして言葉 志向の存在なのである(岸本ら,2007).指さしは,
人間の社会性の明示的な始源であり,社会性を 形成する牽引力なのである.
瀬野(2008)は,「心の理論」の4~5歳通過 説にこだわった「知識課題」と「実行機能課題」
からなる実験研究から,3歳児は自分が知って いることを外界に向けて全面的に開示する存在 であり,4~5歳児は「知っている私」と同時 に「知らない他者」をも意識できる,他者に開 かれつつ閉じた存在であると考察している.万 能感溢れる3歳児を理解し,自己中心性そのも のの3歳児を我慢強く保育していくうえで,意 義深い考察である.
社会性という観点から赤木の,子どもを主語 とする教示行為を概観した.教示行為は,社会 性の発達に難のある小学生や高機能自閉症児童 の発達を促す方法として極めて有効ではないか と明るい希望を抱いた.子どもが他者に教える ためには,他者の心を理解することが不可欠で ある.教えながら,どこまで相手が理解できて いるかを推測しなければならないし,相手が出 来そうなところは,教える側の子ども自身が分 かっていても抑制制御して見守る力も必要であ る.高度な「心の理論」が求められるし,上手 に教示が出来ると,自尊感情も育まれる.
同じヒト科のチンパンジーと人間のゲノム(全 遺伝情報)の違いは,約 1.2%である.1978 年 からチンパンジーの心の研究をしている松沢
(2011,p.77)は,チンパンジーの社会的知性発 達の四段階を示している.チンパンジーも人間 と同じように「見つめ合い」「新生児微笑」「新 頑張った方が身につくから」「達成感をもたせて
あげたいから」と他者の心的状態を配慮した理 由を述べていた.
赤木(2007)は,積極的教示行為の実験を自 閉症の幼児に実施して,3歳を過ぎたころには 可能になることを明らかにした.自閉症児のコ ミュニケーションや他者理解の発達の遅れが積 極的教示行為の遅れに影響を与えているが,定 型発達児の獲得時期より遅れたとしても自閉症 児も積極的教示行為を獲得できる点を赤木は評 価している.
さらに,赤木(2007)は,高機能自閉症児(7 歳~ 15 歳,平均生活年齢 12 歳)の 18 名を対象 に「教えないという教え方」の獲得調査を実施 した.その結果は,②「そっと見守る」を選択 した高機能自閉症児は 40%に達した.このこと は,高機能自閉症児も高次の教示行為をするこ とが可能であるということなのだが,問題は,
その理由が「後で文句を言われると困るから」「で きそうだし」といったように,他者の成長への 配慮を理由とした定型発達児とは,真逆の理由 を述べている点である.「教えないという教え方」
という高次の教示行為には,教えたいところを 抑制する能力や,対象者の時間的に先の可能性 を予測する能力が求められるので,高機能自閉 症児の場合は、少なくとも学童期では「教えな いという教え方」という教示行為は難しいと赤 木は述べている.
以上,教示行為は,定型発達児においては早 い時期から,自閉症児についても遅れがちでは あるが可能であることが明らかになった.他者 に教える行為は,教える課題についての理解力・
他者の理解度を理解する力・言語説明能力など を高める行為であり,教示行為を重ねることで 主体感覚や自尊感情も育まれる.特に,障害の ある子どもの場合は,できないことが少なくな いので一つ一つを一方的に教え込む傾向が強く なってしまい,子どもが受け身になってしまう 傾向にある.障害のある子どもも教示行為がで きることを踏まえて,できない子どもがいたら すぐに教師が出て行くのではなく,他の子ども に助けを求めるように,子ども自身の教示能力 を引き出すような発想の転換が効果的ではない かと赤木(2012,p.161)は指摘している.
Ⅴ.おわりに
ヒトの社会性の発達を,指さし,心の理論,
教示行為を通して概観してきた.発達心理学に
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(2011,p.140).
冒頭で,指さしは優れて人間に特有の行為で あると述べたが,教示行為も同様に人間特有の 行為である.しかも,子どもの教示行為は,社 会性の発達が促進される契機が豊かに埋め込ま れているとの考察を受け,初等教育実践に新た な発想として活かしていけるのではないかと期 待している.
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