令 和 元 年 度 修 士 論 文
高校生フェンシング選手を対象とした 心理サポートに関する研究
三 重 大 学 大 学 院 教 育 学 研 究 科 修 士 課 程 教 育 科 学 専 攻 芸 術 ・ ス ポ ー ツ 系 教 育 領 域
218M035
番
竹 原 健 太
令 和 2 年 2 月 7 日 提 出
目 次
【 第 1 章 】 研 究 目 的 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 1
【 第 2 章 】 研 究 方 法 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 17 ( 1 ) 対 象 者 に つ い て ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 18 ( 2 ) 心 理 サ ポ ー ト の 実 施 期 間 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 18 ( 3 ) 事 前 の 心 理 サ ポ ー ト に つ い て ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 18 ( 4 ) 心 理 サ ポ ー ト の 内 容 に つ い て ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 19 ( 5 ) 心 理 サ ポ ー ト 実 施 者 に つ い て ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 26 ( 6 ) ア ン ケ ー ト に つ い て ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 26
( 7 ) 分 析 方 法 に つ い て ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 27 ( 8 ) 倫 理 的 配 慮 に つ い て ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 27
【 第 3 章 】 結 果 及 び 考 察 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 28 第 1 節 実 施 し た 心 理 サ ポ ー ト に つ い て の 検 討 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 29 ( 1 ) 心 理 面 へ の 意 識 に つ い て の 検 討 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 29
( 2 ) 選 手 と の 面 談 に つ い て の 検 討 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 34
( 3 ) 目 標 設 定 に つ い て の 検 討 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 39 ( 4 ) ル ー テ ィ ー ン に つ い て の 検 討 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 45 ( 5 ) 漸 進 的 筋 弛 緩 法 に つ い て の 検 討 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 52
( 6 ) 練 習 日 誌 に つ い て の 検 討 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 53 ( 7 ) 対 象 チ ー ム 指 導 者 の 評 価 に つ い て の 検 討 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 59
( 8 ) ま と め ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 62
第 2 節 事 例 か ら の 検 討 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 67
( 1 ) 選 手 A の 事 例 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 67 ( 2 ) 選 手 B の 事 例 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 84 ( 3 ) 選 手 C の 事 例 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 101 ( 4 ) 事 例 の ま と め ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 115
【 第 4 章 】 全 体 の ま と め と 今 後 の 課 題 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 117
【 文 献 】 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 121
【 資 料 】
【 謝 辞 】
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第1章 研究目的
2
【 第 1 章 】 研 究 目 的
ス ポ ー ツ に お い て , ベ ス ト な パ フ ォ ー マ ン ス を 発 揮 す る た め に , 体 力 面 や 技 術 面 の 強 化 だ け で な く , プ レ ッ シ ャ ー の か か っ た 場 面 で も 自 分 の 力 を 発 揮 す る た め に 心 理 面 の 強 化 も 必 要 と さ れ て い る . し か し , た だ 心 理 面 の 強 化 を す れ ば い い と い う わ け で は な く , 中 込 ( 2 016) は ,「 実 力 発 揮 す る た め に は , 心 理 面 の コ ン デ ィ シ ョ ニ ン グ に も 配 慮 し な け れ ば な ら な い 」 と 述 べ て い る . つ ま り た だ 心 理 面 を 鍛 え る だ け で な く , 試 合 な ど に お い て 心 理 面 を ベ ス ト な 状 態 に し て い く よ う に 調 整 で き る よ う に し て い く こ と が , ど の よ う な 場 面 で も ベ ス ト な パ フ ォ ー マ ン ス を 発 揮 す る こ と に は 大 切 で あ る と い え る だ ろ う . し か し , 実 際 は 心 理 面 の 強 化 や コ ン デ ィ シ ョ ニ ン グ と い っ た こ と は , 練 習 の 中 な ど で あ ま り 重 視 さ れ て い な い . 鶴 原 ( 2016) は ,「 心 ・ 技 ・ 体 」 の 必 要 な 割 合 を 回 答 さ せ , そ の 回 答 し た 割 合 を 踏 ま え 日 頃 の 練 習 に お い て , 時 間 配 分 を こ の 割 合 で 実 施 し て い る か と 質 問 す る と , す べ て の 選 手 が 心 理 面 に そ れ ほ ど 時 間 を か け て い な い と 回 答 し た と 述 べ て い る . や は り 心 理 面 が 重 要 で あ る と い う こ と は 分 か っ て い る が , 心 理 面 を 鍛 え る た め の 行 い 方 な ど が 分 か ら な い た め に , 時 間 を か け る こ と が で き て い な い と い う こ と を 読 み 取 る こ と が で き る .
そ う し た 心 理 面 の 強 化 や コ ン デ ィ シ ョ 二 ン グ を 行 う た め に , 選 手 に 対 す る
心 理 サ ポ ー ト の 実 施 が 必 要 と な る . 心 理 サ ポ ー ト に お い て , メ ン タ ル ト レ ー
ニ ン グ が 主 な 取 り 組 み と し て 実 施 さ れ る . そ の メ ン タ ル ト レ ー ニ ン グ の 進 め
方 に つ い て , 鶴 原 ( 2 016) は 図 1 の よ う に 示 し て い る . メ ン タ ル ト レ ー ニ ン
グ を 行 う の は 選 手 で あ る . し か し , そ の メ ン タ ル ト レ ー ニ ン グ を 実 施 す る た
め に は プ ロ グ ラ ム を 計 画 す る こ と や , カ ウ ン セ リ ン グ ( 面 談 ) を 実 施 す る こ
と な ど が 必 要 と な る .つ ま り ,心 理 サ ポ ー ト は 選 手 に 対 し て ,面 談 を し た り ,
3
メ ン タ ル ト レ ー ニ
ン グ プ ロ グ ラ ム を 提 供 す る な ど ,総 合 的 に 選 手 を 援 助 す る こ と で あ る と 考 え ら れ る . そ し て , メ ン タ ル ト レ ー ニ
ン グ は , 選 手 を 援 助 す る 際 に 提 供 す る 一 つ の 手 立 て で あ る と 考 え ら れ る . ま た , 心 理 サ ポ ー ト で の 守 備 範 囲 に つ い て 見 て い く . マ ー ト ン ( 1991) は , 2 つ の ス ポ ー ツ 心 理 学 の 区 別 に つ い て , 図 2 の よ う に 示 し , 選 手 が , 神 経 症 や 精 神 障 害 な ど の 重 大 な 心 理 的 問 題 を 抱 え る 時 は ,臨 床 的 ス ポ ー ツ 心 理 学 者( 異 常 行 動 と ス ポ ー ツ の 両 方 に 通 じ
て い る 人 )が ,重 大 な 心 理 的 問 題 を 抱 え て い な い 時 は 教 育 的 ス ポ ー ツ 心 理 学 者 ( ス ポ ー ツ 心 理 学 者 )が ,選 手 を 適 切 に 援 助 す る 上 で の 適 切 な 専 門 家 で あ る と 述 べ
て い る . つ ま り 心 理 サ ポ ー ト は , 広 い 意 味 で 捉 え ら れ る が , 臨 床 的 な ア プ ロ ー チ を 行 う 心 理 サ ポ ー ト と 教 育 的 ア プ ロ ー チ を 行 う 心 理 サ ポ ー ト で 分 け ら れ , 心 理 面 の 強 化 や コ ン デ ィ シ ョ ニ ン グ を 行 う こ と を 目 的 と し て 実 施 さ れ る 心 理 サ ポ ー ト は 教 育 的 ア プ ロ ー チ を 行 う 心 理 サ ポ ー ト で あ る と い え る .そ の た め , 心 理 サ ポ ー ト を 実 施 す る 際 に は 配 慮 し な け れ ば な ら な い だ ろ う .
そ し て , 心 理 サ ポ ー ト と し て , 心 理 面 の 強 化 や コ ン デ ィ シ ョ ニ ン グ を 行 う た め に , メ ン タ ル ト レ ー ニ ン グ が 用 い ら れ , 実 施 さ れ る こ と が 多 い . こ こ か
図2.臨床的スポーツ心理学と教育的スポーツ 心理学の区別(マートン,1991 より引用)
図1. メンタルトレーニングの進め方(鶴原,2016 より引用)
臨床的スポーツ 心理学者の領域
教育的スポー ツ 心理学者の領域
な動 常
異
行 ふつうの
行 動
優れた
行 動
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ら は メ ン タ ル ト レ ー ニ ン グ に つ い て 概 観 し て い く . ス ポ ー ツ に お け る メ ン タ
ル ト レ ー ニ ン グ の 定 義 や 目 的 に つ い て , 猪 俣 ( 2006) は 最 新 ス ポ ー ツ 科 学 事
典 に お い て 「 競 技 者 や 心 理 サ ポ ー ト 実 施 者 が 競 技 力 向 上 の た め に 必 要 な 心 理
的 ス キ ル を 習 得 し , 実 際 に そ れ ら を 活 用 し て , 自 己 の 潜 在 的 能 力 を 最 大 限 に
競 技 の 場 で 発 揮 で き る よ う に な る こ と を 目 的 と し た 訓 練 」 と 述 べ て い る . ま
た ,松 田( 1996)は , 「 体 力 や 技 能 の ト レ ー ニ ン グ 同 様 に ,競 技 場 面 で 最 高 の
パ フ ォ ー マ ン ス を 発 揮 す る た め に 必 要 な 精 神 的 な 側 面 を 積 極 的 に ト レ ー ニ ン
グ し て 精 神 力 を 高 め , 自 分 で 自 分 の 精 神 を 管 理 ( ま た は コ ン ト ロ ー ル ) で き
る よ う に な る こ と を め ざ し て 行 わ れ る も の が メ ン タ ル・マ ネ ジ メ ン ト で あ る 」
と 述 べ て い る . こ こ で の 精 神 力 を 高 め る ト レ ー ニ ン グ は メ ン タ ル ト レ ー ニ ン
グ で あ り , た だ 精 神 力 を 高 め る だ け で な く , 自 己 管 理 で き る よ う す る こ と も
メ ン タ ル ト レ ー ニ ン グ の 目 的 で あ る と 読 み 取 る こ と が で き る . つ ま り , メ ン
タ ル ・ マ ネ ジ メ ン ト と メ ン タ ル ト レ ー ニ ン グ は 言 葉 が 違 う も の の , 両 方 と も
選 手 自 身 が 行 っ て い く も の で あ り , 同 じ 目 的 で あ る と 考 え ら れ る . さ ら に 中
込( 1994)は メ ン タ ル ト レ ー ニ ン グ に よ っ て , 「 気 づ き 」と「 意 図 性 」の 高 ま
り が 期 待 で き , そ の 二 つ に よ っ て , 技 術 練 習 の レ ベ ル ア ッ プ を 図 る こ と が で
き る と 述 べ て い る . し た が っ て , メ ン タ ル ト レ ー ニ ン グ に よ っ て , 心 理 面 を
強 化 す る こ と だ け で な く , 自 分 自 身 の 状 態 に 気 づ き , そ の 状 態 に 応 じ て , 自
分 自 身 を セ ル フ コ ン ト ロ ー ル で き る よ う に な る こ と に つ な が る . ま た , そ の
こ と は 心 理 面 だ け で な く , 体 力 面 や 技 術 面 の 向 上 に も つ な げ て い く こ と が で
き る と 考 え ら れ る .し か し 鶴 原( 2016)は , 「 実 際 の ト レ ー ニ ン グ を 実 施 し て
い く に あ た っ て , 心 理 サ ポ ー ト 実 施 者 の い う が ま ま に な っ て い る 場 合 , ト レ
ー ニ ン グ を さ せ ら れ て い る と い う 意 識 が 選 手 に 芽 生 え る こ と が あ る た め , 選
手 自 ら が ト レ ー ニ ン グ や 競 技 の 目 標 を 持 っ て , 選 手 生 活 を 実 施 し て い く こ と
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が 必 要 で あ る 」 と 述 べ て い る . そ の た め , メ ン タ ル ト レ ー ニ ン グ を し て い く
に あ た っ て 心 理 サ ポ ー ト 実 施 者 が 一 方 的 に ト レ ー ニ ン グ の 方 法 な ど を 提 示 し
て 行 っ て い く の で は な く , あ く ま で も 選 手 自 ら が 考 え , 自 ら の 課 題 な ど に 解
決 し て い く た め の サ ポ ー ト を す る こ と で , 選 手 が 心 理 面 を 強 化 し , 自 分 で コ
ン ト ロ ー ル で き る よ う に し て い く こ と が 重 要 で あ る . 一 般 的 に メ ン タ ル ト レ
ー ニ ン グ は , 心 理 検 査 を 用 い て , 選 手 の 特 性 や 傾 向 な ど を ア セ ス メ ン ト す る
と と も に ,選 手 と の 面 談 を 行 い ,試 合 に お け る 悩 み な ど を 明 ら か に し た 上 で ,
い く つ か の プ ロ グ ラ ム が 計 画 さ れ る . し か し , た だ メ ン タ ル ト レ ー ニ ン グ を
実 施 す れ ば よ い と い う わ け で は な く , メ ン タ ル ト レ ー ニ ン グ の 実 施 に は , 図
1 に 示 し た よ う に ,ラ ポ ー ル( 信 頼 関 係 )の 形 成 が 重 要 で あ る と さ れ て い る .
鈴 木 ら( 1993)は , 「 選 手 ,コ ー チ ,カ ウ ン セ ラ ー の 間 の 関 係 性 の 構 築 が メ ン
タ ル ト レ ー ニ ン グ の 継 続 の た め に 必 須 な も の で あ り , そ れ な く し て メ ン タ ル
ト レ ー ニ ン グ の 成 果 を 期 待 す る こ と は 非 常 に 困 難 で あ る 」 と 述 べ て い る . ま
た ,鈴 木( 2015)は , 「 信 頼 関 係 が 築 か れ て い な い と ,提 供 さ れ る 支 援 や 指 導
が 活 か さ れ な く な る 」と 述 べ て い る .さ ら に ,中 込( 2016)は , 「 心 理 的 作 業
を 共 に し た り 働 き か け を 行 う 場 合 , 両 者 の 人 間 関 係 ( 支 援 的 人 間 関 係 ) の 質
が , そ こ で の で き ば え を 大 き く 左 右 し て い る 」 と 述 べ て い る . し た が っ て ,
メ ン タ ル ト レ ー ニ ン グ の 実 施 に は , 選 手 や コ ー チ と の ラ ポ ー ル ( 信 頼 関 係 )
の 形 成 が と て も 重 要 で あ り , こ の こ と を 十 分 に 考 慮 し た 上 で , 選 手 に メ ン タ
ル ト レ ー ニ ン グ プ ロ グ ラ ム を 提 供 す る こ と が 必 要 で あ る と 考 え ら れ る .
現 在 , 多 く の メ ン タ ル ト レ ー ニ ン グ が 行 わ れ て い る . そ し て メ ン タ ル ト レ
ー ニ ン グ の 実 践 研 究 に お い て , 良 い 効 果 を 示 し た 報 告 が い く つ も な さ れ て い
る . 竹 田 ・ 小 松 ( 200 8) は , ス ピ ー ド ス ケ ー ト 競 技 に お い て 高 校 生 を 対 象 と
し て , 目 標 設 定 , リ ラ ク セ ー シ ョ ン と サ イ キ ン グ ア ッ プ , イ メ ー ジ ト レ ー ニ
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ン グ , ポ ジ テ ィ ブ シ ン キ ン グ , セ ル フ ト ー ク , ル ー テ ィ ー ン か ら な る メ ン タ ル ト レ ー ニ ン グ プ ロ グ ラ ム を 7 ヶ 月 の 期 間 に 4 回 実 施 し た . そ の 結 果 , 心 理 的 競 技 能 力 診 断 検 査( DIPCA.3)の 結 果 に お い て ,す べ て の 尺 度 の 平 均 点 が 増 加 し , そ の 中 で も 「 忍 耐 力 」,「 闘 争 心 」,「 自 己 実 現 意 欲 」,「 予 測 力 」,「 協 調 性 」 の 項 目 に お い て 有 意 に 増 加 し た と 報 告 し て い る . ま た , 村 上 ら ( 2000)
は , テ ニ ス 競 技 に お い て 高 校 生 を 対 象 と し て , 目 標 設 定 , 自 律 訓 練 法 , 積 極 的 思 考 , イ メ ー ジ ト レ ー ニ ン グ ( リ ハ ー サ ル ) ら な る メ ン タ ル ト レ ー ニ ン グ プ ロ グ ラ ム を 3 ヶ 月 の 期 間 に 20 回 実 施 し た .そ の 結 果 ,心 理 的 競 技 能 力 は ト レ ー ニ ン グ に す べ て 向 上 し ,「 忍 耐 力 」,「 勝 利 意 欲 」,「 自 己 コ ン ト ロ ー ル 」,
「 リ ラ ッ ク ス 」, 「 集 中 力 」, 「 自 信 」の 尺 度 で 1 % 水 準 の 有 意 な 変 化 が , 「 決 断
力 」及 び「 予 測 力 」に お い て は 10% 水 準 の 有 意 な 傾 向 が 見 ら れ た と 報 告 し て
い る . さ ら に , 小 林 ・ 高 妻 ( 2016 ) は プ ロ ・ ア マ チ ュ ア ボ ク サ ー を 対 象 と し
て , 目 標 設 定 , リ ラ ク セ ー シ ョ ン と サ イ キ ン グ ア ッ プ , イ メ ー ジ ト レ ー ニ ン
グ ,練 習 日 誌 ,セ ル フ ト ー ク か ら な る メ ン タ ル ト レ ー ニ ン グ プ ロ グ ラ ム を 11
ヶ 月 の 期 間 で メ ン タ ル ト レ ー ニ ン グ 指 導 を 合 計 12 回 , そ し て 練 習 で の 心 理
サ ポ ー ト を 4 8 回 実 施 し , 心 理 的 競 技 能 力 診 断 検 査 に お い て , 1 0 尺 度 ( 忍 耐
力 ,闘 争 心 ,自 己 実 現 意 欲 ,自 己 コ ン ト ロ ー ル 能 力 ,リ ラ ッ ク ス 能 力 ,自 信 ,
決 断 力 , 予 測 力 , 判 断 力 , 協 調 性 ), 5 因 子 ( 競 技 意 欲 , 精 神 の 安 定 ・ 集 中 ,
自 信 ,作 戦 能 力 ,協 調 性 ),さ ら に 総 合 得 点 で 有 意 に 向 上 し た こ と を 報 告 し て
い る . 以 上 よ り , メ ン タ ル ト レ ー ニ ン グ プ ロ グ ラ ム の 内 容 や 期 間 は 異 な る も
の の , 実 際 に メ ン タ ル ト レ ー ニ ン グ を 行 う こ と に よ っ て , 対 象 と し た 選 手 の
心 理 面 に 良 い 効 果 を 与 え る 可 能 性 が あ る と 捉 え る こ と が で き る . ま た , 一 つ
で は な く , い く つ か の 技 法 を 用 い る メ ン タ ル ト レ ー ニ ン グ プ ロ グ ラ ム を あ る
程 度 の 期 間 , 継 続 的 に 行 う こ と が 必 要 で あ る と 捉 え る こ と も で き る .
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こ こ か ら は 心 理 サ ポ ー ト で 行 わ れ て い る 心 理 検 査 や 選 手 と の 面 談 に つ い て , ま た , 前 に 述 べ た 実 践 研 究 で も 用 い ら れ て い る 主 な メ ン タ ル ト レ ー ニ ン グ の 技 法 に つ い て 概 観 し て い く .
ま ず は 心 理 検 査 に つ い て で あ る .心 理 検 査 の 目 的 と し て ,東 山( 2016)は ,
① 自 己 理 解 , ② ア ス リ ー ト の 理 解 , ③ 適 切 な 目 標 設 定 や 練 習 メ ニ ュ ー , ④ 心
理 的 安 定 , ⑤ 心 理 サ ポ ー ト を 挙 げ て い る . つ ま り , 心 理 検 査 は 心 理 サ ポ ー ト
を 行 う 心 理 サ ポ ー ト 実 施 者 の た め だ け で は な く , 選 手 が 自 分 自 身 を 客 観 的 に
捉 え , 自 分 の 課 題 な ど を 理 解 し て い く こ と な ど 選 手 自 身 の た め に な る も の で
あ る と い え る だ ろ う . ス ポ ー ツ で 用 い ら れ る 心 理 検 査 と し て , ス ポ ー ツ 選 手
の 心 理 的 競 技 能 力 を 12 の 内 容 に 分 け て 診 断 す る DIPCA .3 ( Diagnostic
Inventory of Psycho logical-Competiti ve Ability for Athlet es : 心 理 的
競 技 能 力 診 断 検 査 )( 徳 永 他 ,2000 )や 気 分 状 態 を 7 つ の 尺 度 か ら と ら え て 測
定 ・ 評 価 を 行 う POM S2 ( Profile of Moo d States 2nd Edit ion )( J uvia
P.Heuchert and Doug las M.McNair:横 山 和 仁 監 訳 , 2015) な ど が 存 在 し , 主
に DIPCA.3 が 多 く 用 い ら れ て い る( 竹 田 ・ 小 松 ,2008; 村 上 ら ,2000; 小 林 ・
高 妻 ,2016).そ し て DIPCA.3 は ,心 理 的 競 技 能 力 を 総 合 的 に 判 断 す る こ と が
で き , メ ン タ ル ト レ ー ニ ン グ 実 施 に よ る 効 果 を 様 々 な 観 点 か ら 検 討 で き る た
め , 実 践 研 究 に 用 い る 心 理 検 査 と し て 適 し て い る と 考 え ら れ る . ま た , 試 合
前 の 心 理 的 な 状 態 を 診 断 す る DIPS-B .1 ( Diagnostic In ventory of
Psychological Sta te Before Competitio n: 試 合 前 の 心 理 状 態 診 断 検 査 )( 徳
永 ,1997),試 合 中 に 望 ま し い 心 理 状 態 で 試 合 が で き た か ど う か を チ ェ ッ ク す
る DIPS-D.2 ( Diagn ostic Inventory of Psycholo gical Sta te During
Competition: 試 合 中 の 心 理 状 態 診 断 検 査 )( 徳 永 , 1999 ) な ど が 存 在 し , 用
い ら れ て い る . こ れ ら は 普 段 の 状 態 だ け で な く , 試 合 時 に お け る 心 理 状 態 に
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つ い て 知 る こ と が で き る た め , 選 手 自 身 が 試 合 の 振 り 返 り に 用 い る こ と や , 課 題 を 見 つ け る こ と に 適 し て い る と 考 え ら れ る .
次 に 選 手 と の 面 談 に つ い て で あ る .鈴 木( 2016 )は , 「 人 格 上 の 問 題 や 発 達 課 題 が 競 技 遂 行 に そ れ ほ ど 影 響 し て い な い と 思 わ れ て も , す ぐ に 心 理 技 法 や 心 理 的 ス キ ル ト レ ー ニ ン グ を 行 う の で は な く , ま ず 対 象 と な る ア ス リ ー ト に か か わ る 情 報 を 詳 細 に 聴 く こ と が 必 要 で あ る 」 と い っ て い る . ま た 「 ア ス リ ー ト が 訴 え る 競 技 遂 行 上 の 問 題 を ス ポ ー ツ メ ン タ ル ト レ ー ニ ン グ 指 導 士 が 受 容 的 , 共 感 的 に 聴 き 続 け る と , 次 第 に ア ス リ ー ト 自 身 が 自 分 の 問 題 に 気 づ い て , 自 分 の 力 で 問 題 と な っ て い る 競 技 状 況 を 乗 り 越 え て い く よ う に な る 」 と 述 べ て い る . こ れ よ り メ ン タ ル ト レ ー ニ ン グ を 行 う に あ た っ て , ま ず は 対 象 と な る 選 手 と 面 談 を 行 う こ と で 選 手 が 何 に 悩 ん で い る の か , 何 を 変 え て い か な け れ ば い け な い の か を 見 通 し , メ ン タ ル ト レ ー ニ ン グ の プ ロ グ ラ ム を 計 画 し て い く こ と が 重 要 で あ る こ と が こ こ か ら 読 み 取 る こ と が で き る . さ ら に 面 談 を 通 し て , 選 手 の 考 え な ど を 傾 聴 す る こ と に よ っ て , 選 手 自 身 が 自 立 的 に 考 え , 行 動 し て い く こ と に も つ な が る と 考 え る こ と が で き る だ ろ う .
そ し て , 心 理 検 査 や 面 談 な ど を 踏 ま え て 行 わ れ る プ ロ グ ラ ム と し て , 目 標 設 定 技 法 や リ ラ ク セ ー シ ョ ン 技 法 , ま た イ メ ー ジ 技 法 や 注 意 集 中 技 法 な ど が 用 い ら れ , メ ン タ ル ト レ ー ニ ン グ と し て 多 く 実 践 さ れ て い る .
ま ず 目 標 設 定 技 法 に つ い て 見 て い く .吉 澤( 2016)は , 「 適 切 な 目 標 設 定 は , ア ス リ ー ト の 競 技 行 動 を 明 確 化 し , ア ス リ ー ト の 不 安 を 軽 減 さ せ る , ア ス リ ー ト に 自 信 を 持 た せ る , 競 技 に 集 中 さ せ る , 満 足 感 を 与 え る な ど , ア ス リ ー ト の 心 理 面 に 大 き な 影 響 を 与 え ,積 極 的 な 行 動 を 生 み 出 す 効 果 が 期 待 で き る .」
ま た , ア ス リ ー ト の 行 動 を 方 向 づ け る 内 発 的 な 動 機 づ け の 役 割 を 果 た し , 練
習 の 質 ( 運 動 量 , 回 数 , 時 間 ) を 高 め る こ と に 有 効 で あ り , ア ス リ ー ト が 自
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ら 進 ん で 行 う 練 習 に 意 識 改 革 を 促 す と い っ て い る .選 手 に と っ て 目 標 設 定 は , 試 合 で ベ ス ト な パ フ ォ ー マ ン ス を 発 揮 す る た め に 重 要 で あ る と と も に , 試 合 だ け で な く ,普 段 の 練 習 に も 良 い 効 果 を 与 え る と 捉 え る こ と が で き る だ ろ う . ま た 目 標 設 定 の 原 理 ・ 原 則 に つ い て , 石 井 ( 1997) は , ① 一 般 的 な 目 標 で は な く , 詳 し く て 具 体 的 な 目 標 を 設 定 す る . ② 現 実 的 で 挑 戦 的 な 目 標 を 設 定 す る . ③ 長 期 目 標 も 大 切 で あ る が 短 期 目 標 を 重 視 す る . ④ チ ー ム 目 標 よ り も 個 人 目 標 を 重 視 す る . ⑤ 勝 敗 目 標 よ り も プ レ ー 目 標 を 設 定 す る . ⑥ 目 標 に 対 し そ の 上 達 度 が 具 体 的 か つ 客 観 的 に 評 価 さ れ る よ う 工 夫 す る . こ れ ら を 目 標 設 定 の 原 理 ・ 原 則 と し て 挙 げ て い る . ま た , こ こ か ら , 長 い 期 間 の 中 で , 一 つ 一 つ の 目 標 が 達 成 し た か ど う か を 客 観 的 に 評 価 で き る よ う に , よ り 具 体 的 に 目 標 を 設 定 し て い く こ と が 重 要 で あ る こ と が 分 か る . 実 際 に プ ロ ス ポ ー ツ 選 手 の コ ー チ も 目 標 設 定 を 重 要 と 捉 え て い る . 世 界 で 活 躍 す る 女 子 テ ニ ス プ レ ー ヤ ー の 大 坂 な お み の コ ー チ で あ る サ ー シ ャ ・ バ イ ン( 2019 )は , 「 目 標 を 適 切 な レ ベ ル に 設 定 す る こ と が 大 切 で あ る こ と 」や , 「 小 さ な 目 標 を 丹 念 に こ な し て い く こ と を 心 掛 け る こ と で , 大 き な 目 標 の 達 成 に 結 び 付 く 」 と い っ た こ と を 述 べ て い る . こ の よ う に プ ロ ス ポ ー ツ の 世 界 で も 目 標 設 定 を す る こ と が 重 要 で あ る と 捉 え , 一 つ 一 つ 目 標 を 達 成 し て い る こ と が こ こ か ら 読 み 取 る こ と が で き る . 以 上 よ り , 適 切 な 目 標 設 定 を 行 う こ と で , 試 合 だ け で な く , 普 段 の 練 習 に も 良 い 効 果 を 与 え , そ れ が 結 果 と し て ベ ス ト パ フ ォ ー マ ン ス に つ な が る と い う こ と が で き る と 考 え ら れ る .
次 は リ ラ ク セ ー シ ョ ン 技 法 で あ る . 現 在 , メ ン タ ル ト レ ー ニ ン グ で は , 呼
吸 法 や 自 律 訓 練 法 , 漸 進 的 筋 弛 緩 法 と い っ た 技 法 が 多 く 用 い ら れ て い る . 坂
入( 2016 )に よ る と , 「 リ ラ ク セ ー シ ョ ン 技 法 は ,他 の ト レ ー ニ ン グ 法 と 同 様
に , 十 分 な 練 習 も せ ず に そ の 場 で 実 施 し て リ ラ ッ ク ス す る よ う な 即 効 性 の 効
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果 は 期 待 で き ず , 一 定 期 間 の 練 習 の 継 続 に よ る ス キ ル の 向 上 を 目 的 と す る も の 」で あ り , 「 そ の ス キ ル の 中 核 は ,セ ル フ コ ン ト ロ ー ル で は な く セ ル フ モ ニ タ リ ン グ ( 自 己 客 観 視 ) で あ る 」 と い っ て い る . つ ま り , た だ ト レ ー ニ ン グ を 行 う だ け で は な く , 継 続 し て 練 習 を す る 中 で , 自 分 の 体 や 心 の 状 態 の 変 化 に 気 づ き , そ の 変 化 な ど に 応 じ て 調 整 を し て い く こ と が 重 要 で あ る と い う こ と が 分 か る .
ま ず 呼 吸 法 は , 心 理 的 影 響 に よ っ て 変 化 し た 呼 吸 活 動 を 随 意 的 に コ ン ト ロ ー ル し て , 心 身 の 安 定 を 得 よ う と す る 方 法 で あ る . 競 技 に お け る 試 合 場 面 な ど で は 極 度 の 緊 張 状 態 か ら 交 感 神 経 優 位 と な り , 呼 吸 活 動 は 活 性 化 し , 心 拍 の 上 昇 や 覚 醒 水 準 の 過 度 な 向 上 な ど が 起 こ る 「 あ が り 」 の 状 態 を 適 切 な 水 準 に 戻 す 作 業 と し て 腹 式 呼 吸 が 挙 げ ら れ る . ま た , 覚 醒 水 準 が 低 下 し , 意 気 消 沈 し て い る よ う な 場 合 に は 交 感 神 経 を 活 性 化 さ せ る た め に ,短 く 速 い 呼 吸 や , 一 気 に 息 を 吸 い 込 ん で 一 気 に 吐 き 出 す よ う な 呼 吸 法 を 用 い る ( 菅 生 , 2016).
次 に 自 律 訓 練 法 に つ い て 見 て い く .自 律 訓 練 法 は ,1932 年 に ド イ ツ の 精 神 医 学 者 シ ュ ル ツ に よ っ て つ く ら れ た 緊 張 緩 和 の た め の 心 理 ・ 生 理 的 治 療 法 で あ る . こ の 訓 練 法 は , 催 眠 の エ ッ セ ン ス を 抽 出 し , そ れ を 科 学 的 に 再 構 成 し て 練 習 を 段 階 的 に 組 み 立 て , 誰 で も 迷 う こ と な く 始 め ら れ る よ う に し た も の で あ り , 安 静 練 習 及 び 6 段 階 の 公 式 に よ る 標 準 練 習 と , 黙 想 練 習 や 特 殊 練 習 な ど が あ る . そ の 中 で も , 標 準 練 習 に お け る 安 静 練 習 , 重 感 練 習 , 温 感 練 習 の マ ス タ ー が ,自 律 訓 練 法 で は 特 に 大 切 で あ る と さ れ て い る( 佐 々 木 ,2007).
最 後 に 漸 進 的 筋 弛 緩 法 に つ い て で あ る . 漸 進 的 筋 弛 緩 法 は , 1 929 年 に ,ア
メ リ カ の ジ ェ イ コ ブ ソ ン ( Jacobson ) に よ っ て 創 始 さ れ た リ ラ ク セ ー シ ョ ン
技 法 で あ る . 全 身 の 筋 組 織 を 弛 緩 さ せ る た め に 体 系 立 て ら れ た 方 法 で あ り ,
ジ ェ イ コ ブ ソ ン の 原 法 で は , 全 身 の 筋 組 織 を 細 か く 分 け , 1 つ 1 つ の 部 位 の
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緊 張 ‒弛 緩 を 繰 り 返 す .こ の 方 法 で は 習 得 に 時 間 を 要 す る た め ,複 数 の 筋 組 織 を 同 時 に 緊 張 ‒ 弛 緩 さ せ 全 身 の リ ラ ッ ク ス 感 を 得 る 簡 易 法 が 用 い ら れ る こ と が 多 い と さ れ て い る ( 富 岡 , 2017). そ し て ,「 日 頃 か ら 練 習 を 継 続 し て , 筋 が 緊 張 し た 状 態 と 弛 緩 し て い く 過 程 を 繰 り 返 し 体 験 す る こ と を 通 し て , 脳 と 身 体 の 自 然 な 調 整 の ス キ ル が 向 上 し て い く こ と を 目 指 し た 活 用 が 望 ま し い 」 と さ れ て い る( 坂 入 , 2016).実 際 の 研 究 で は ,秋 葉 ら( 2013) が 競 技 者 は 漸 進 的 筋 弛 緩 法 を 1 日 2 回 2 週 間 以 上 , 継 続 的 に 実 施 す る こ と で , 心 理 的 リ ラ ク セ ー シ ョ ン 効 果 が 得 ら れ る こ と を 報 告 し て い る .
以 上 よ り , 緊 張 場 面 が 多 く 見 ら れ る ス ポ ー ツ に お い て , リ ラ ク セ ー シ ョ ン を 行 う こ と に よ り , 覚 醒 水 準 を 適 切 な 水 準 に 戻 し , 良 い 心 理 状 態 に す る こ と が で き る と 考 え ら れ る . し か し , 継 続 的 に 練 習 を し て い く 必 要 が あ る こ と も 注 意 し な け れ ば い け な い .
次 は イ メ ー ジ 技 法 で あ る . イ メ ー ジ 技 法 と し て , イ メ ー ジ ト レ ー ニ ン グ や
イ メ ー ジ リ ハ ー サ ル な ど が 存 在 す る . 高 橋 ( 1994) は , イ メ ー ジ ト レ ー ニ ン
グ が , パ フ ォ ー マ ン ス に プ ラ ス の 効 果 を 及 ぼ す メ カ ニ ズ ム に つ い て は 以 下 の
よ う に ま と め て い る . 1 つ 目 は , 頭 の 中 で イ メ ー ジ を 描 く と , ス キ ル を 実 行
す る 際 に 用 い る 筋 に 刺 激 が 伝 達 さ れ る と い っ た 事 実 か ら , イ メ ー ジ ト レ ー ニ
ン グ に よ っ て 神 経 系 に お け る 刺 激 の 伝 達 が 強 化 さ れ る と い う こ と で あ る . 2
つ 目 は , イ メ ー ジ を 通 し て , 事 前 に 競 技 遂 行 状 況 を リ ハ ー サ ル し て お く こ と
に よ り ,慣 れ ,う ま く で き る と い う 予 期 ,問 題 点 や 対 処 の 心 構 え が 形 成 さ れ ,
競 技 へ の 心 理 的 準 備 が 整 う と い う こ と で あ る . そ し て , イ メ ー ジ す る こ と に
よ っ て , パ フ ォ ー マ ン ス に こ の よ う な プ ラ ス の 影 響 を 及 ぼ す た め に は , パ フ
ォ ー マ ン ス 出 力 前 の 心 身 の 状 態 を , 実 際 の 状 況 に で き る だ け 近 く 再 現 す る こ
と が 必 要 で あ る と 述 べ て い る . そ し て 土 屋 ( 2016) は , イ メ ー ジ ト レ ー ニ ン
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グ の 手 順 に つ い て 以 下 の よ う に ま と め て い る . 1 つ 目 は イ メ ー ジ ス ト ー リ ー の 作 成 で あ る . ま ず イ メ ー ジ ト レ ー ニ ン グ の 準 備 段 階 と し て , あ ら か じ め イ メ ー ジ す る 内 容 を 「 イ メ ー ジ ス ト ー リ ー 」 と し て 枠 づ け し , こ れ か ら 描 こ う と す る イ メ ー ジ の 場 面 ・ 状 況 , 自 身 の 心 身 の 状 態 , 周 囲 の 様 子 等 を , あ た か も 脚 本 の よ う に 設 定 す る と よ い と 述 べ て い る . 2 つ 目 は リ ラ ク セ ー シ ョ ン で あ る . イ メ ー ジ ト レ ー ニ ン グ 実 施 ま で に , リ ラ ク セ ー シ ョ ン を 実 施 す る と よ い と 述 べ て い る . 3 つ 目 は , イ メ ー ジ 想 起 で あ る . あ ら か じ め 作 成 さ れ た イ メ ー ジ ス ト ー リ ー に 従 っ て , イ メ ー ジ を 思 い 浮 か べ て い く こ と が 中 心 で あ る と 述 べ て い る . 4 つ 目 は , イ メ ー ジ 体 験 の 振 り 返 り で あ る . イ メ ー ジ 終 了 後 は , そ こ で の 体 験 を 振 り 返 る と よ い と 述 べ て い る . 一 般 に は , イ メ ー ジ 中 の 体 験 を ト レ ー ニ ン グ ・ ロ グ に 記 録 し て い く 方 法 が よ く 用 い ら れ て い る . 以 上 よ り , い き な り 試 合 に 出 て 緊 張 を し た り , う ま く い か な い こ と が な い 状 態 に す る た め に , あ ら か じ め 頭 の 中 で イ メ ー ジ を し , そ の 試 合 に 向 け て 準 備 し て お く こ と で よ い パ フ ォ ー マ ン ス に つ な が る こ と が 考 え ら れ る . ま た , 試 合 場 面 の こ と だ け で な く , 技 術 習 得 な ど に も イ メ ー ジ ト レ ー ニ ン グ は 効 果 が あ る と 考 え ら れ る .
最 後 に 注 意 集 中 技 法 で あ る . 兄 井 ( 2016 ) は , 注 意 集 中 と は , ス ポ ー ツ の
現 場 で は , 一 般 的 に 「 集 中 力 」 と 呼 ば れ る こ と が 多 く , こ の 集 中 力 は ス ポ ー
ツ に お い て , 実 力 発 揮 の た め に 大 変 重 要 だ と 考 え ら れ て い る と 述 べ て い る .
ま た , こ の 「 集 中 力 」 は , 従 来 か ら プ レ ー の 進 行 に 欠 く こ と の で き な い 重 要
な 心 理 的 能 力 の 1 つ と し て 考 え ら れ , 一 般 的 に は 「 注 意 も し く は 意 識 を あ る
こ と に 集 中 し て ,そ れ を 持 続 す る 能 力 」と 捉 え ら れ て い る( 遠 藤 ,2006).そ
し て そ の 注 意 集 中 ( 集 中 力 ) を 高 め る 方 法 と し て , ト リ ガ ー ワ ー ド ( キ ュ ー
ワ ー ド ) と , プ レ ・ パ フ ォ ー マ ン ス ・ ル ー テ ィ ー ン を は じ め と し た ル ー テ ィ
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ー ン が 存 在 す る .
ま ず ト リ ガ ー ワ ー ド( キ ュ ー ワ ー ド )に つ い て 見 て い く .兄 井( 20 16)は , ト リ ガ ー ワ ー ド ( キ ュ ー ワ ー ド ) は 緊 張 や プ レ ッ シ ャ ー に よ り 注 意 集 中 が 途 切 れ て し ま い そ う な 場 面 で , ネ ガ テ ィ ブ な イ メ ー ジ や 考 え を ポ ジ テ ィ ブ に 切 り 替 え る た め に 用 い る 印 象 的 で 短 い ポ ジ テ ィ ブ な フ レ ー ズ の 言 葉 で あ る . 例 え ば , 「 リ ラ ッ ク ス 」 「 落 ち 着 け 」な ど ,印 象 的 で 短 い 言 葉 を つ ぶ や く こ と で , 注 意 や 気 持 ち を ポ ジ テ ィ ブ な 方 向 に 切 り 替 え る き っ か け と な り , 注 意 集 中 を 高 め る こ と が で き る と さ れ て い る . そ し て , 失 敗 や ミ ス を し た と き ほ ど ネ ガ テ ィ ブ な イ メ ー ジ や 気 持 ち に な り や す い た め , ト リ ガ ー ワ ー ド ( キ ュ ー ワ ー ド ) に よ っ て , ポ ジ テ ィ ブ な 方 向 に 切 り 替 わ る よ う に 日 頃 か ら 練 習 し て お く 必 要 が あ る と さ れ て い る .
次 に ル ー テ ィ ー ン に つ い て 見 て い く . ル ー テ ィ ー ン に は , プ レ ・ パ フ ォ ー マ ン ス ・ ル ー テ ィ ー ン や ポ ス ト ・ パ フ ォ ー マ ン ス ・ ル ー テ ィ ー ン が あ る . そ の 中 で も , プ レ ・ パ フ ォ ー マ ン ス ・ ル ー テ ィ ー ン が 多 く 用 い ら れ る . プ レ ・ パ フ ォ ー マ ン ス ・ ル ー テ ィ ー ン は , プ レ ー の 直 前 に 行 わ れ る あ ら か じ め 計 画 さ れ た 一 連 の 系 統 的 な 準 備 動 作 の こ と で あ り , プ レ ー の 直 前 に 運 動 に 関 す る 情 報 に 注 意 を 向 け さ せ , 運 動 の 実 行 に 適 切 な 心 理 状 態 を 作 り 出 す こ と で , 注 意 集 中 を 高 め る こ と が で き る . ま た ,『 過 去 の 出 来 事 や 未 来 の 結 果 で は な く , 今 行 わ な け れ ば な ら な い 動 き ( ル ー テ ィ ー ン ) だ け に 注 意 を 向 け る 効 果 が あ る 』 と さ れ て い る ( 兄 井 , 2016). ま た , 荒 木 ( 2016) は プ レ ・ パ フ ォ ー マ ン ス ・ ル ー テ ィ ー ン が も た ら す 効 果 に つ い て , ① そ の 動 作 を す る こ と に よ り , そ れ に 続 く プ レ ー を ス ム ー ズ に 行 え る , ② 外 的 及 び 内 的 障 害 の 排 除 , ③ プ レ ー を 修 正 し や す い ,④ ス ト レ ス の 軽 減 が 挙 げ ら れ る と 述 べ て い る .こ の プ レ・
パ フ ォ ー マ ン ス ・ ル ー テ ィ ー ン は , 実 際 に ス ポ ー ツ 選 手 が 用 い て , ベ ス ト パ
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フ ォ ー マ ン ス に つ な げ て い る . 例 え ば , ラ グ ビ ー ワ ー ル ド カ ッ プ で 活 躍 し た ラ グ ビ ー 日 本 代 表 の 五 郎 丸 選 手 も プ レ ・ パ フ ォ ー マ ン ス ・ ル ー テ ィ ー ン を 行 っ て い た . そ し て , 五 郎 丸 選 手 は 「 プ レ ・ パ フ ォ ー マ ン ス ・ ル ー テ ィ ー ン が あ っ て よ か っ た . な か っ た ら ど う な っ て い た か と 思 う と ぞ っ と す る 」 と 述 べ て い る( 荒 木 ,2016).こ の よ う に プ レ ・ パ フ ォ ー マ ン ス ・ ル ー テ ィ ー ン に よ っ て , 安 定 し た キ ッ ク を す る こ と に つ な げ て い た こ と が こ こ か ら 読 み 取 る こ と が で き る . こ の プ レ ・ パ フ ォ ー マ ン ス ・ ル ー テ ィ ー ン を 用 い る こ と に よ っ て 試 合 で の 集 中 を 高 め , ベ ス ト な パ フ ォ ー マ ン ス を 発 揮 す る こ と に つ な げ る だ け で な く , 選 手 一 人 一 人 の 特 徴 や 状 態 に 応 じ た ル ー テ ィ ー ン を 作 る こ と が で き る こ と や , 試 合 中 の 様 子 に つ い て 確 認 す る 一 つ の 指 標 と な る と 考 え ら れ る . こ の プ レ ・ パ フ ォ ー マ ン ス ・ ル ー テ ィ ー ン に 関 し て は 多 く の 研 究 が な さ れ て い る . Masagno e t al.( 2008) は プ レ ・ パ フ ォ ー マ ン ス ・ ル ー テ ィ ー ン が プ レ ッ シ ャ ー 下 で の パ フ ォ ー マ ン ス を 促 進 で き る か ど う か を 研 究 し , 個 人 化 さ れ た プ レ ・ パ フ ォ ー マ ン ス ・ ル ー テ ィ ー ン が プ レ ッ シ ャ ー 下 で パ フ ォ ー マ ン ス を 促 進 で き る と い う 可 能 性 を 示 唆 さ れ る と 報 告 し て い る . し か し , 一 貫 性 の な い ル ー テ ィ ー ン を 使 用 す る と , パ フ ォ ー マ ン ス が 低 下 す る こ と も 報 告 さ れ て い る ( Mes ag no et al . 2010). つ ま り , プ レ ・ パ フ ォ ー マ ン ス ・ ル ー テ ィ ー ン を た だ 行 う だ け で は な く , 行 う 回 数 な ど を 安 定 さ せ , 一 貫 性 の あ る ル ー テ ィ ー ン を 行 う こ と に よ っ て , パ フ ォ ー マ ン ス を 向 上 す る こ と が で き る と い う こ と が 分 か る . し か し , プ レ ・ パ フ ォ ー マ ン ス ・ ル ー テ ィ ー ン に 関 す る 研 究 は 実 験 的 な 研 究 が 多 く , 実 際 の 試 合 で 用 い た 際 の 効 果 な ど に つ い て の 研 究 は あ ま り 見 ら れ な い . そ の た め , 実 際 の 試 合 な ど で 用 い た 際 の 効 果 に つ い て も 検 討 し て い く 必 要 が あ る と 考 え ら れ る .
以 上 よ り ,注 意 集 中 技 法 と し て 挙 げ ら れ る ト リ ガ ー ワ ー ド( キ ュ ー ワ ー ド )
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や ル ー テ ィ ー ン は , 試 合 場 面 に お け る 緊 張 場 面 な ど 様 々 な 場 面 に お い て , 目 の 前 の こ と に 集 中 す る た め に 行 わ れ る も の で あ り , そ れ に よ っ て ど の 場 面 で も 同 じ よ う に 自 分 の 力 を 発 揮 す る た め に 行 う こ と が で き る と 考 え ら れ る . し か し , 他 の 技 法 な ど と 同 様 に , 試 合 だ け 行 う の で は な く , 日 頃 の 練 習 か ら 継 続 的 に 行 う 必 要 が あ る こ と も い え る だ ろ う .
ま た こ れ ら の 技 法 だ け で な く , メ ン タ ル ト レ ー ニ ン グ に は 振 り 返 り も 重 要 で あ る と さ れ て お り , そ の 振 り 返 り に は 練 習 日 誌 が 用 い ら れ る . そ し て そ の 練 習 日 誌 を つ け る こ と も 心 理 面 に 良 い 効 果 を 与 え る こ と へ の 可 能 性 に つ い て も 報 告 さ れ て い る . 佐 々 木 ら ( 200 7) は , 中 学 生 野 球 部 員 を 対 象 に , 練 習 日 誌 を 付 け る 前 と 練 習 日 誌 を 付 け る 後 の 心 理 的 競 技 能 力 診 断 検 査 の 結 果 に つ い て 比 較 を 行 っ た . そ の 結 果 , チ ー ム 全 体 と し て の 心 理 的 競 技 能 力 は 向 上 し , そ の 要 因 と し て 毎 日 の 練 習 に お い て 反 省 し , 自 己 分 析 ・ 自 己 評 価 す る こ と の 積 み 重 ね が 心 理 的 競 技 能 力 の 向 上 に 反 映 さ れ た の で は な い か と 見 解 を 述 べ て い る . こ こ か ら 少 な く と も 練 習 日 誌 を 付 け る こ と に よ っ て , 心 理 面 に 良 い 効 果 を 与 え る こ と が で き る と 考 え ら れ る だ ろ う .
こ れ ら メ ン タ ル ト レ ー ニ ン グ に お け る 様 々 な 技 法 を 用 い て , メ ン タ ル ト レ
ー ニ ン グ を 中 心 と し た 心 理 サ ポ ー ト が な さ れ て い る が , メ ン タ ル ト レ ー ニ ン
グ の 現 状 に つ い て , 水 落 ( 2016) は , メ ン タ ル ト レ ー ニ ン グ は ス ポ ー ツ を 行
う す べ て の 人 に 心 理 的 な 恩 恵 を 与 え る こ と が で き る も の で あ る が , そ の 多 様
性 を 受 け 入 れ る た め の 研 究 開 発 と 実 践 は ま だ 十 分 と は い え な い と 述 べ て い る .
実 践 研 究 で も , プ ロ グ ラ ム の 内 容 や 対 象 な ど が 全 く 一 緒 で あ る 場 合 は ほ と ん
ど な い . つ ま り 現 在 , 心 理 サ ポ ー ト が す べ て の 人 に 心 理 的 な 恩 恵 を 与 え る 状
況 で は な い と い え る だ ろ う . そ の た め , い く つ か の 実 践 事 例 な ど を 踏 ま え ,
競 技 種 目 や 年 齢 な ど 異 な る 中 で も , よ り 効 果 的 な メ ン タ ル ト レ ー ニ ン グ を 中
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心 と し た 心 理 サ ポ ー ト に つ い て 明 ら か に し て い く 必 要 が あ る と 考 え る . ま た 対 象 と な る 選 手 の 幅 を 広 げ , ど の 選 手 で も 心 理 面 の 強 化 に よ っ て , 競 技 力 向 上 に つ な げ る こ と が で き る よ う に し て い く こ と が 求 め ら れ る だ ろ う .
そ ん な 中 で , 今 回 は フ ェ ン シ ン グ 選 手 を 対 象 と し た 研 究 で あ る が , フ ェ ン
シ ン グ 選 手 に 対 す る 心 理 サ ポ ー ト も 行 わ れ て い る . ロ ン ド ン オ リ ン ピ ッ ク へ
向 け た 心 理 サ ポ ー ト の 取 り 組 み と し て , フ ェ ン シ ン グ 男 子 フ ル ー レ ナ シ ョ ナ
ル チ ー ム を 対 象 と し て , 個 別 性 を 重 視 し た メ ン タ ル ト レ ー ニ ン グ と ス ポ ー ツ
カ ウ ン セ リ ン グ を 織 り 交 ぜ た 心 理 サ ポ ー ト を 対 象 選 手 7 名 に 対 し て 実 施 回 数
は 違 う も の の ,4 年 間 で 合 計 380 セ ッ シ ョ ン( 1 セ ッ シ ョ ン / 1 時 間 )行 っ た
事 例 報 告 が な さ れ て い る( 織 田 ら ,2013).こ う し た ト ッ プ 選 手 を 対 象 と し た
心 理 サ ポ ー ト が 報 告 さ れ て い る 一 方 で , フ ェ ン シ ン グ を 行 う 高 校 生 を 対 象 と
し た 心 理 サ ポ ー ト に 関 す る 研 究 や 事 例 報 告 は な さ れ て い な い . フ ェ ン シ ン グ
に お い て , 高 校 生 の よ う な ア マ チ ュ ア 選 手 に お け る 心 理 サ ポ ー ト の 効 果 が 明
ら か と な れ ば ,さ ら な る 競 技 力 向 上 に つ な が る の で は な い だ ろ う か と 考 え る .
以 上 の こ と を 踏 ま え , 本 研 究 で は 高 校 生 フ ェ ン シ ン グ 選 手 に 心 理 サ ポ ー ト
を 実 施 し た 効 果 に つ い て 検 討 し , 効 果 的 な 心 理 サ ポ ー ト に 関 す る 知 見 を 得 る
と と も に , そ の 課 題 や 問 題 点 に つ い て も 検 討 す る こ と を 目 的 と し た .
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第2章 研究方法
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【 第 2 章 】 研 究 方 法
( 1 ) 対 象 者 に つ い て
対 象 者 は , 三 重 県 A 高 校 の 男 子 フ ェ ン シ ン グ 部 に 所 属 す る 男 子 部 員 9 名 で あ る . ま た 対 象 者 は , 心 理 サ ポ ー ト 実 施 時 に 1 ~ 2 年 生 で あ っ た . さ ら に 競 技 レ ベ ル は 県 大 会 出 場 レ ベ ル か ら 全 国 大 会 出 場 レ ベ ル で あ っ た .
( 2 ) 心 理 サ ポ ー ト の 実 施 期 間
2018 年 5 月 か ら 20 19 年 10 月 の 期 間 に 心 理 サ ポ ー ト を 実 施 し た .詳 細 は 後 か ら 述 べ る こ と と す る . た だ し , 対 象 者 は 2017 年 1 0 月 よ り 心 理 サ ポ ー ト を 受 け て お り , 本 研 究 は そ の 心 理 サ ポ ー ト を 継 続 し て 行 っ た も の で あ る .
( 3 ) 事 前 の 心 理 サ ポ ー ト に つ い て
対 象 者 を 含 む 男 子 フ ェ ン シ ン グ 部 は ,事 前 に 心 理 サ ポ ー ト を 受 け て い た( 鶴 原 ら , 2019). 期 間 は 2017 年 1 0 月 か ら 201 8 年 3 月 ま で で あ る . 心 理 サ ポ ー ト の 内 容 に 関 し て は , 大 き く 二 つ の 内 容 が 挙 げ ら れ る .
一 つ 目 は , メ ン タ ル ト レ ー ニ ン グ に つ い て の 解 説 で あ る . メ ン タ ル ト レ ー 二 ン グ の 基 本 的 な 考 え 方 に つ い て , ① 実 力 発 揮 に お け る 心 ・ 技 ・ 体 の 重 要 性 に つ い て , ② メ ン タ ル ト レ ー ニ ン グ の 基 本 的 な 考 え 方 に つ い て , ③ メ ン タ ル ト レ ー ニ ン グ の 進 め 方 に つ い て , ④ メ ン タ ル ト レ ー ニ ン グ の 技 法 の 簡 単 な 説 明 の 4 つ の 観 点 か ら 解 説 が な さ れ た . 二 つ 目 は , 目 標 設 定 に つ い て で あ る . 目 標 設 定 に つ い て は , 目 標 設 定 の 方 法 に 関 す る 資 料 を 作 成 し , 資 料 に 基 づ い て 説 明 を 実 施 さ れ た . そ の 後 選 手 は 目 標 を 設 定 し , 目 標 を 明 確 に す る と と も に , そ の 実 施 に 向 け て の 内 容 を 明 確 に し た .
ま た , 選 手 に 対 し て 心 理 面 に 関 す る 調 査 も 行 わ れ た . フ ェ ン シ ン グ の メ ン
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タ ル 面 に つ い て の 質 問(「 フ ェ ン シ ン グ に 取 り 組 ん で い る 時 に メ ン タ ル の 重 要 性 を 感 じ た こ と は あ り ま す か ? 」・「 具 体 的 に ど の よ う な 状 況 で 感 じ ま し た か ? 」 な ど ) が 主 な 内 容 で あ る .
( 4 ) 心 理 サ ポ ー ト の 内 容 に つ い て
【 心 理 検 査 に つ い て 】
心 理 検 査 の 目 的 に つ い て , 東 山 ( 2016 ) は , ① 自 己 理 解 , ② ア ス リ ー ト の 理 解 , ③ 適 切 な 目 標 設 定 や 練 習 メ ニ ュ ー の 組 み 立 て , ④ 心 理 的 安 定 に 導 く ,
⑤ 心 理 サ ポ ー ト に お け る 相 互 理 解 を 挙 げ て い る . ま た 留 意 点 に つ い て , 心 理 検 査 で ラ ベ リ ン グ を 行 わ な い こ と や 検 査 は 複 数 回 行 う こ と を 挙 げ て い る . 本 研 究 で は , こ れ ら の 目 的 や 留 意 点 を 踏 ま え て , 心 理 検 査 を 行 っ た .
心 理 検 査 と し て は , ス ポ ー ツ 選 手 の 心 理 的 競 技 能 力 を 忍 耐 力 , 闘 争 心 , 自 己 実 現 意 欲 , 勝 利 意 欲 , リ ラ ッ ク ス 能 力 , 集 中 力 , 自 己 コ ン ト ロ ー ル 能 力 , 自 信 ,決 断 力 ,予 想 力 ,判 断 力 ,協 調 性 の 1 2 の 内 容 に 分 け て 診 断 す る DIPCA.3
( Diagnostic Inv en tory of Psycholog ical -Competitive A bility for Athletes: 心 理 的 競 技 能 力 診 断 検 査 )( 徳 永 他 ,2000)を 用 い ,定 期 的 に 行 っ た . 実 施 方 法 に 関 し て は , ま ず 選 手 に 実 施 の 方 法 を 説 明 し , 各 自 で 実 施 す る よ う に 指 示 を し た . 実 施 し た 後 は , 選 手 各 自 が 採 点 を 行 い , 自 分 の 状 態 が ど う で あ っ た か 振 り 返 ら せ た . そ の 後 , 研 究 者 が 回 収 す る よ う に し た .
ま た , 試 合 前 の 心 理 的 な 状 態 を 診 断 す る D IPS-B.1( Diag nostic Inventory of Psycholog ical St ate Before Competit ion : 試 合 前 の 心 理 状 態 診 断 検 査 )
( 徳 永 ,1997),試 合 中 に 望 ま し い 心 理 状 態 で 試 合 が で き た か ど う か を チ ェ ッ
ク す る DIPS-D.2( Dia gnostic Inventory o f Psychological St a te During
Competition: 試 合 中 の 心 理 状 態 診 断 検 査 )( 徳 永 , 1999 ) を 用 い た . 実 施 方
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法 に 関 し て は , 公 式 試 合 が あ る 前 の タ イ ミ ン グ で 選 手 に 渡 し , 各 自 で 実 施 す る よ う に 指 示 を し た . 実 施 し た 後 は , 選 手 各 自 が 採 点 を 行 い , 自 分 の 状 態 が ど う で あ っ た か 振 り 返 ら せ た . そ の 後 , 心 理 サ ポ ー ト 実 施 者 が 回 収 す る よ う に し た .
【 選 手 と の 面 談 に つ い て 】
心 理 サ ポ ー ト を 行 う 上 で ,重 要 と な る の が 選 手 と の 面 談 で あ る .鈴 木( 2016)
は , メ ン タ ル ト レ ー ニ ン グ や 心 理 サ ポ ー ト で は , ま ず 対 象 者 ( ア ス リ ー ト ) に 面 接 し ,彼 ら が メ ン タ ル ト レ ー ニ ン グ や 心 理 サ ポ ー ト に 何 を 求 め て い る か , ど の よ う に 競 技 に 取 り 組 ん で い る か ,ど の よ う な 競 技 遂 行 上 の 問 題 が あ る か , な ど を 聴 く こ と か ら 始 め な け れ ば な ら な い . 聴 く こ と に よ っ て , 何 が 問 題 と な っ て い る か , ど の よ う な 支 援 が 適 切 で あ る か , 問 題 解 決 に ど れ く ら い の 期 間 が 必 要 か な ど を 「 見 立 て 」 を す る の で あ る と 述 べ て い る . ま た , 面 接 す る 上 で の 留 意 点 と し て , ① ア ス リ ー ト を 第 一 と 考 え , ア ス リ ー ト の 立 場 に 立 っ て , 彼 ら の 話 を 共 感 的 , 受 容 的 に 傾 聴 す る こ と , ② ア ス リ ー ト の 競 技 遂 行 上 で 問 題 と な っ て い る こ と を 十 分 に 聴 か ず に , 理 解 し た つ も り に な る こ と に な る の で は な く , 全 く わ か ら な い 人 と し て ア ス リ ー ト の 話 を 詳 細 に 聴 か な け れ ば な ら な い こ と , ③ 話 を 聴 い て い て 競 技 上 改 善 す べ き 点 が 見 え て き た 時 に 競 技 の 指 導 を す る こ と , と い っ た こ と を 挙 げ て い る .
そ の た め , 選 手 と の 面 談 を 行 う 際 に は 上 記 の こ と を 踏 ま え , 本 研 究 に お い
て は , 試 合 で の 反 省 な ど か ら 現 在 考 え な け れ ば な ら な い 問 題 に つ い て 面 談 を
す る 中 で , 共 に 見 つ け 出 し て い き , そ の 問 題 に 対 し て ど う し て い き た い か ・
ど の よ う に し て 解 決 し て い く か を 心 理 サ ポ ー ト 実 施 者 か ら 話 し て い く の で は
な く , 選 手 自 身 が 考 え , 発 言 で き る よ う に 行 っ た . 面 談 で 話 し た 主 な 内 容 と
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し て は , ① 最 近 感 じ て い る 悩 み , ② 試 合 に 向 け て ど う し て い く か , ③ 試 合 で ど う で あ っ た か と い っ た 内 容 で あ る . そ の 際 , 必 要 に 応 じ て そ の や り と り を メ モ や 録 音 を し ,記 録 と し て 残 し た .
ま た , 強 制 的 に 行 う の で は な く , 何 か あ る 選 手 と 面 談 を 行 う と い う 形 で 行 っ た .
【 練 習 日 誌 に つ い て 】
「 心 理 的 コ ン デ ィ シ ョ ニ ン グ に お い て は , 心 身 の コ ン デ ィ シ ョ ン を 継 続 し て 自 己 観 察 す る こ と が 重 要 で あ る 」と さ れ て い る( 菅 生 ,2016).ま た 練 習 日 誌 を 用 い る こ と で , ト レ ー ニ ン グ 継 続 へ の モ チ ベ ー シ ョ ン に も な る だ け で な く , 自 己 理 解 を 深 め る こ と に つ な が る( 中 込 ,2016)と さ れ て い る .こ れ ら の こ と を 踏 ま え ,菅 生 が 提 示 し て い た コ ン デ ィ シ ョ ン チ ェ ッ ク シ ー ト( 図 3 )を 参 考 と し ,そ こ に 今 日 の 目 標 ,練 習 に 対 す る 反 省 ,メ ン タ ル ト レ ー ニ ン グ に つ い て 記 入 す る 欄 , 悩 み な ど を 書 く こ と が で き る 欄 を 設 け ,チ ー ム の 練 習 日 誌( 図 4 , 資 料 1 )と し た .そ し て ,今 回 の 心 理
図3.コンディショニングチェックリスト
図4.今回用いた練習日誌
月
日 ( 躍 日 ) 練 習 ( 有・無)今日の評 題・目 標 (コ ンディショ;::̲ングや線習内容)
からだのコンディション E
司
‑‑‑‑i戸 戸 巨
9月の目党め・熟睡度 悪い 1 2 3 4 5 Rい ...~....~.~ ・・"""""""・・・・・・・・"""" " ' " ""'""伶,~ 悪い 1 2 3 4 5 良い
' ' ' " "' " ' ' ' ' ' '' ' '' " " " ' " ' ' ' ' ' ' ' ' ' ' " ' ' ' ' ・ " " "" "
起床陀の仮労回復度 悪い 1 2 3 4 5 良い
-—"—• ―"""'""ー・一"一"""'""—"""ー~ー・―""'""
ケガや剃みの状態 悪い 1 2 3 4 5 ftい 食平(さちんとしっかり摂取)悪い 7 2 3 4 5 I>い
‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑・‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑ I
.
...... . . . . . . .
.....I .......................... . . . . .
.... .
..I I
練習状況
寧 ←
棟習;;;度...(:i.ilと貸)... ...低い...1 2 3 4 ...5 ...高い.... 茂習負担/,I'.(きつさ) i氏い 1 2 3 4 5 ;,; い 綬百への怠欲 低い I 2 3 4 5 品い
‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑
技 術 的莉 子 悪い I 2 3 4 5 良い
‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑
I
lここるのコンディション
見9技 生 活 =X 8., 生 活=Oで"をつけ、それぞれ練で紐んでみよう.
三
1····1—+→・1・・・・}・・1・・・・・・・,圧
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‑戸
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"ラクセーシ冨ン襖目をし●しえか はい いいえ
"さいと答えた人)
,., セーシ冨ン襖B桟のリ9ッ.,~讐"どうでしたか 患い I ' a t a ‑"''
棟召岬に何かイメージし●したが fさい Fいえ
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