経済成長とインフレーション
その他のタイトル Economic Growth and Inflation
著者 高本 昇
雑誌名 關西大學經済論集
巻 8
号 6
ページ 475‑498
発行年 1959‑02‑20
URL http://hdl.handle.net/10112/15607
47.5
は決して
e x p l
i c i t
成長経済学における問題点︒現代経済学において︱つのファッションとなっている成長経済学は︑
に古典派理論の長期的性格を与えて止揚した︱つの綜合理論として大きな意義を有するにもかかわらず︑なお省察
すべきいくつかの点を残している。その第一は、所得決定における貯蓄•投資の均等関係を基調とする成長モデル
が︑その故にまた所得・貯蓄︑産出高・資本といった関係のみによって経済成長を説明しようとしていることであ
る︒
勿論
︑
経 済 成 長 と イ
五
ケインズ理論
これらの貯蓄率や資本係数といった主成分の背景には人口や生産技術の変動も考慮されているが︑それ
ではなく︑資本係数や貯蓄率に反映されたものとしてである︒端的にいえば︑経済成長は資本
蓄積を通じてのみ捉えうるものとしているといつてもよい︒しかし︑経済を成長せしめる要因は︑基本的には寧ろ
労仇人口や生産技術の側にあり︑少くともこれらの要因の作用を資本ストックの成長と平行して採上げる必要があ
る︒第二は︑成長理論が均衡成長のみより問題にしていないということである︒ドマールの﹁投資の二重効果﹂は
均衡成長の論議を飛躍せしめる︱つの跳躍台ともなる筈のものであるが︑
経済成長とインフレーツョン︵高本︶
. ヽ
課
題
ン フ レ ー
高
この発展はなお企てられていないようで ション
本
昇
経済成長とインフ
V
ジョン︵高本︶I
︑︑
︑ ある︒本稿では︑均衡成長のみならず︑不均衡成長のモデルが考察され︑力点は寧ろ後者におかれる︒第三は︑イ
( 1 )
ーガーによって指摘されているように︑成長理論が経済の貨幣的側面を完全に無視していることである︒この点で
の本稿の抱負は決して大きくはないが︑成長モデルに貨幣的接近をはかる場合の︱つの局面がそこにみられよう︒
これらの成長理論の弱点を多少とも補強することによって︑より一般的な成長モデルを構成することが本稿の一
いる
が︑
つの狙いである︒
インフレーション分析の問題点︒最近欧米︑特にイギリスにおいてインフレーションの性質が論議の的となって
( 2 )
その問題とするのは︑現下のインフレーションが従来経験してきたものと本質的に異るという点にある︒
インフレーションの分析は︑周知の通り︑ケインズ以後︑
インフレ・ギヤップ論の形で展開されてきた︒事実︑第
二次大戦後五0
年代に入るまでのインフレーションには︑明らかに超過需要の存在が窺われ︑従って需要インフレ ーションが実証されてきたが︑現在のそれにはもはや超過需要は認められず︑寧ろ賃銀水準の上昇に基づくコスト
・インフレーションがそれにとつて替ったといわれている︒問題はコスト・インフレーションを需要インフレーシ ョンと全く別個の性質をもつものと考えることが妥当かどうかという点にある︒インフレーションの主因は経済の
極めて根深いところに発生するものであって︑
たものとは思えない︒
その現象形態の単なる変化を以て性質の変化とみなすことは当を得 インフレーションは現在一時的現象とみるには余りにも長期化しすぎているのであるが︑本稿ではその本質的特
徴を分析するとともに︑それを可能ならしめる原因に長期的観点からスポットを当ててみたい︒
註
C1
) L.B•
Ye ag er , "
So me Qu es ti on s a bo ut Gr ow th Econom
ic s,
"
m A er ic an Eco no mi c R e vi e w , V o l .
64
No . 1
,
Ma rc
h 1
95 4,
五
477
PP . 53 6 3. e s p . p . 6 0 f f .
(2)例えば、J.C.R•
Dow••
An al ys is f o th e G en er at io n o f P r i ce I nf l a ti o n ,
A
St ud y o f C os t a nd Pr i c e C ha ng es n i th e Un it ed
Kingdom•
19 46 5 4,
"
O xf or d E co no mi c Papers•
N. S. , V ol .
8
No . 3 , O ct . 1 9 5 6, PP .2 52 3 01 .
T . B
al og h,
P •
ro du ct iv it y an d I n fl a t io n , "
O xf or d E co no mi c Papers,
N. S. , V ol . 1 0 N o. 2, Ju ne 1 9 5 8, PP . 2 20 2 45 . G. D•N.
Worswick••
P ri c e s,
・ Pr o d uc t i vi t y , an d Income,•
o p . c i t . , PP . 24 62 64 .
以下の分析においては︑終始封鎮体系を対象とし︑また財政収支の経済に与える作用を無視する︒
このような経済の中で経済変動の過程を分析しようとするとき︑対象は通常二様の形をとる︒
であり︑他は趨勢
tr en d
である︒現実の経済変動は通常景気循環という姿となって現われるが︑
趨勢線に沿つて︑経済は長期的に成長してゆくことが知られている︒これが循環的成長
c y c l i c a l gr ow th
である︒し
かし︑本稿では︑このうち循環という現象を全く考慮しないことにする︒このことは︑経済の基礎にある長期的因
にも均衡が成立しており︑ 次いで︑出発点においては︑生産要素としての労佑と資本は完全雇用の状態にあり︑また財貨市場にも貨幣市場
その点において価格水準は一定していると仮定する︒この一定水準に与えられた価格が
経済成長の過程を通じて維持されうるか否かを検討することが本稿の︱つの目的でもある︒
経済成長とイソフ
V Iツョン︵高本︶
ヽ
記
号 子の動態に特に分析を限定することを意味しよう︒
二 ︑ 仮
定
五
その波動を貫ぬく ︱つは循環
c yc l e
w m ヽ p s a a c 貯蓄率
w
U)1
11
L odo
61
1K
"
11
旦d
O dL
m "
"t:)
I I
ト や
I
I
~,Cl)
一人当り基礎消費額
基礎消費比率
労佑の平均生産力︵生産性︶
資本の限界生産力
労佑の限界生産力
平均賃銀率
A
I I
"‑::l:i:.
1:1 I I
"til~
消費係数
CーAdC
│ 1 1
Y
dY
cー w
賃銀所得
E I
投 資
s
貯 蓄
c
消 費
A
基礎消費
L労佑人口k 資本ストック
非賃銀所得
D
社会需要
P
総 人 口
゜
経済成長とインフレーツョン︵高本︶社会的産出高y
国民所得
四五
‑479
p g GD Gs
冗 B ︑ g て
, ^
a》
四 ︑
労仇の相対的分前
人口成長率
技術的進歩率
生産力の成長率
社会需要の成長率
インフレ・ギャップ係数
一般物価水準
g1
1 G
D
ーG
s 社会的生産力の成長
以下の論議は︑特に指定する場合を除き︑事前的
e x
, an t e
なクームであらわされた経済量で以て進められる︒
一社
会の
生産
能力
は︑
決定されるであろう︒ その社会の労仇人口と資本ストックが与えられると︑次のような社会的生産函数によって
経済成長とインフ>ーツョン︵高本︶ E
dE
I I
Y dY
利 潤 率
︑ 1 1
消費者嗜好の成長率
I
" " " "
E P 投資比率
A P A L
" "
"
1 1 P L
i
e
I I
a)~
五五
分することによって知られる︒ それが投資需要に裏付けられる限り︑
経済成長とインフレーツョン︵高本︶
01
1f
(L
9k
)
LとKを一定とすれば︑
( 2 )
田式は静学的な生産のモデルを与えるが︑長期的にはその何れも一定ではあり得ない︒
Lは総人口Pと一定の関係にあると考えられるから︑長期的に人口増加の傾向をもつ経済では︑増加する人口の
一定部分が労仇人口の成長を実現させるものと想定することができよう︒また0の一部は資本財からなっており︑
4KIIIを齋らす︒これは資本ストックの成長︑即ち資本蓄積の現象と考え
られる︒そうすると︑長期的にはLもKも変化することが予想されるから︑これは生産技術を一定としても0
の増
大を惹起すことは必至である︒LとKの長期的変化から結果する0の予想しうる変化は︑①式をLとKについて微
do
11
fL
.d
L+
x f
・d
K
②式は︑ある一定期間における社会的産出高の可能な増加量が︑労佑の限界生産力に雇傭量の増分を乗じたもの
と︑資本の限界生産力に資本増分︑即ちその期間の投資量を乗じたものの和に等しいことを物語っている︒
ところがこの場合生産技術一定という仮定はそのまま維持されている︒しかし︑長期的にみて生産技術が不変と
いうことはあり得ない︒生産技術の﹁革新﹂が実現されると︑
ば︑労仇と資本の社会的存在量に変化がなくとも︑
その企業はより有利な生産条件の下に生産を遂行
し︑そこに利潤の増加を期待することができるから︑企業者はその実現に不断の努力をする︒このような企業者行
動は︑経済をして不断に技術的進歩の過程を辿らせるものと想定することができよう︒長期的に技術的進歩があれ
その生産能力を引上げることによって︑社会的産出高を継続的
に増大させることが可能となろう︒そこで︑技術的進歩の産出高に対する貢献を︑ここでの
sc
he
me
に採入れるた
五六
( 1 )
.48 I
ての性質については︑第一次接近としては︑
当であろう︒しかし︑
う利
潤予
想︑
Tを加える︒ここではてが︑便宜上︑産出高と一定の関係をもつものとすると︑
技術的進歩が常に中立的という保証はない︒資本主義発展の過程をみれば︑それは寧ろ資
( 3 )
本使用的
ca pi ta l' sa vi ng
な傾向が強いことを物語っている︒そうとすれば︑成長する労佑人口をすべて稼仇させ︑
( 4 )
︑即ちロビンソンの﹁実質資本比率﹂
r ea l c ap i t al r at i
0を継続的に維持するか︑もしくはそれを引上げるために L
K l
は︑企業者がそれに必要なだけの投資を遂行せねばならないであろう︒さもなければ︑労佑人口の一部に失業を招
来することは避け難い︒ところが︑少くとも実質資本比率と
の積に等しい資本形成が実現されるためには︑企業A L
者にそれだけの投資需要を計画せしめるに十分な動機がなければならない︒このような動機が技術的進歩にともな︐︑︑︑︑︑︑︑︑︑︑︑︑︑︑︑︑︑︑︑︑あるいはケインズ的表現を藉りれば︑新資本資産の限界効率表の予想されるシフトに基づくものであ
が︑それが資本財の生産計画と需要計画に与える影響は必ずしも対称的でないことが予想されるのである︒
さて︑社会的生産力の長期的変化率を知るためには︑③式の両辺を0で割ればよい︒そうすると︑
経済成長とインフ>ーツョン︵高本︶
+ T
fL
"
L
dL
I
゜
ー
+ fK
L .
゜
I L! ! J i .
+ t . .
d o
゜
ー ー
11
ー
:
dL +f K 0 0
ることはいうまでもなかろう︒こうして︑ と
なる
︒
は
dO
=/ L・ dL
+ /
K・ dK + 入
︒
め︑②式に﹁技術的進歩率﹂
五七
( 4 )
②式
それが﹁中立的﹂技術的進歩率を示すものと考えることが適
ては中セ的よりも寧ろ資本使用的に近い技術的進歩率を示すこととなる
( 3 )
年率にして
Gs
1 1
e.
i+
1 1‑ s +T
を⑥式に代入すると
経済
成長
とイ
ンフ
レー
ショ
ン︵
高本
︶
( 6 )
と書き替えることができるから︑第三節の記号を用いて④式を書き
o y
社会的産出高がすべて所得として実現されうるものとすれば︑
O I は
Y I に等しくなる︒
d d
とこ
ろで
︑
rは資本財供給量の増分の産出高に対する比率であり︑0がyとして実現されうるものとすれば︑供
給としてのIはSに等しく︑従って
m
Gs
1 1
││
.A
+ (J•S
+T p となる︒⑥式は︑可能な社会的生産力の成長率が︑労仇の限界生産力と平均生産力あるいは一人当り生産性との比
限界資本係数︵資本の限界生産力の逆数︶で貯蓄率を割った商︑および技術的進歩率
m W ところで、賃銀の限界生産力説に従ってm11さとすると、fL•LIIWL11W
とな
り︑
従っ
て│
ー1
1ー
ー1
1e
.こ
れ
p o
i1
11
濠
くことが予想される︒
S1
1 1 0 %
3
5 が得られる︒⑥式では︑右辺第一項が労仇の相対的分前と人口成長率の積になっている︒いま仮りにe11ーとし︑
d1
1T︑ の合計になることを物語っている︒ 率に人口成長率を乗じた積と︑ 改
める
と︑
T112冷とすると︑産出高は年々五・一彩の率で複利的に成長してゆ
E m11さとおくことは︱つの均衡条件であり︑労佑者と資本家との間の所得分配率
V I
がこれによって決定される
が︑現実にはこの条件が常に満たされるという保証はない︒従ってmがWより大あるいは小となる場合の
の変化G S
S¥
Y1
1s
五八
( 5 )
483
ここに
C W と
S w は賃銀所得中から︑
C E と
S E は資本家所得中から︑
SI
I 崎
︑
s1
︑1 1 年fs2
1 1 豪とすると︑
経済
成長
とイ
ンフ
レー
ツョ
ン︵
高本
︶
E=CE +
SE
︑
Cw
" " "
゜W︑それぞれ行なわれる消費と貯蓄である
c1
c l は近似的に一に等しく︑従ってSは殆ど.に等しいであろう︒ W11C1
Sw ︑
C 1
C 1
w +
CE
}
S 1 1 S
w +
SE
所得に関する
Y1
1C
+S
という周知の定義式と切式とから が考えられるが︑
固式において︑
社会的生産物は生産に参加した生産要素に所得として分配される︒いま国民所得Yを労仇者の賃銀所得Wと資本
Y"W+E
家︵企業者はその一部であり代表でもある︶の所得E
に分
つと
︑
五 ︑
TI
IO
ここではまず両者が均等化する点で
G S が決定されることに注目しておこう︒
とす
れば
︑
G S はハロッドードマール型の成長率となるが︑
社会的総需要の成長
五九
( 8 )
( 7 )
その欠を補うために0︑ m ー
・
7 1 1
p ハロッドは自然成長率
G n に
i m p l
i c i t
に人口成長と技術的進歩によって可能ならしめられる年々の産出高の増加率
( 5 )
という条件を附さねばならなかった︒⑥式の成長モデルではそれらの因子が
e x p l
i c i t
に採入れられている︒
註
(3 )J.M•
Ke yn es ,
"
So me Ec on om ic Co ns eq ue nc es of
a
De cl in in g Po pu la ti on
"
i n R ea di ng s i n E co no mi c Analysis
̀ V o
l .
1
( ed i t ed by . R Cl em en ce ) Ca mb ri dg e, 19 5 0 , P . 1 94 . (4 )
J. R ob in so n, T he Ac ci
̀
mul at io n o f C a pi t a l, L on do n, 1 9 5 6, PP . 1 2 2 , ー
︑
3.
( i i : :
訳i
︑一
三一
百(
)︒
(5 ) R.F•
Ha rr od , To wa rd s a Dy na mi c E co no mi cs , Lo nd on ,' 19 49 , P .
87 . (
邦訳
︑一
︱七
頁︶
︒
以下では第
るから︑⑩式は書き替えると︑
C1
1c
Y+
A
は通常次のような一次の消費函数で示すことができよう︒ なされるからである︒
D1
1Y
11
c+
I
一次
接近
とし
て︑
と仮定しよう︒
ところで︑予想される社会の総需要は︑
であらわされる︒ここでのCは家計がその消費嗜好と与えられた可処分所得に基づいて行なう消費財購入計画であ
るが
︑
Iは企業が新規に調達しようとする資本財数量である︒そこで︑Iの源泉は家計部門から企業部門へ供給さ
れる貯蓄にまたねばならない︒このことは︑資本家所得と貯蓄との関係についてなされた先の仮定から︑貯蓄者と
しての資本家がEをSに転化せしめ︑
が
S=
Iというケインズ的均衡条件に導くとは限らない︒なぜなら︑貯蓄決意と投資決意は別個の計画に基づいて
総需要の構成要素たる消費と投資は︑
ここにA︵一般に独立消費と呼ばれている︶は﹁一人当り基礎消費額﹂に人口数を乗じたもの.と等しくおくことができ
S 1
1 S
E
Cd
.C
w +
CE
それを企業者が生産計画に従って需要するということになる︒しかし︑
経済
成長
とイ
ンフ
レー
ツョ
ン︵
高本
︶
それがすべて所得として実現されるとすると︑
それぞれがまたいくつかの因子によって決定される︒まず︑消費需要計画 六〇
( 1 0
) こ
れ
( 9 )
(8̀)
485
dC 11
F
y・
dY
+ F
rd P + tY
る︒かくて皿式は ,
0
し 相互間の 消費需要の増加分を知るために︑皿式をyとPについて微分する︒
⑫式は附加的消費需要が︑消費係数と一人当り基礎消費額を一定とする限り︑所得と人口の増加によって可能なら
しめられることを示している︒
F P は︑人口の増加がある限り︑所得を一定としてもなお必要とされる︵一人当りの︶
消費の増分をあらわすが︑これはaに等しいであろう︒さらに︑長期的には消費者個人の生活水準向上欲求とその
D e m o n s t r a t i o n E f f e c t
し︑それを5であらわそう︒
o r
A C
11 c AY + a AP
六
︑ し
(14) (13)
( 1 2︑ )
が基礎消費水準を引上げ︑また技術的進歩による﹁新製品﹂の出現や︑広告・
宣伝等による消費生活合理化への誘導はそれに拍車をかけるであろうから︑
いまそのような消費者嗜好の成長によって消費需要を増大せしめる比率を総需要と一定の関係にあるものと
tは、長期的には、Aのみならず、C—Aをも引上げる作用をするものと想定され
となる︒総需要のうち予想される消費需要の成長率は︑閥式の両辺をyで割ったものとなろう︒右辺第二項に若干
調整を加えると︑それは次のようになる︒尭
I I S 素
+ 違
. 素
+
t
経済成長とインフレーツョン︵高本︶
dC
11 Fy•dY
+F
p.
dP
C1
1F
︵ 只
P︶
c1 1
Y + ap
その作用を⑫式に採入れねばならな (12) ( 1 1 )
II
IP
E
と考えられているが︑これは投資計画の当事者たる企業者の合理的行動を忠実に定式化したものとはいえない︒生
産要素の完全雇用状態においては︑確かに誘発投資としての投資需要を考えることに意義もあるが︑企業者の生産
︑︑
︑︑
••
計画の一環としてみれば︑投資需要は産出物に対する需要の増加よりも︑寧ろその決定因として資本利潤の存在を
挙げるのが至当であろう︒これは資本の限界効率表が利子率を超過するものと期待される限り︑投資計画がなされ
るということと同じである︒投資需要は他のいかなる要因があろうとも︑利潤の予想されないところに生ずる可能
性はないから︑それを実現された経常利潤に基づいて予測される将来利潤の函数とすることには十分の意義がある
と思われる︒産出物需要の増加は投資需要のための十分条件であっても︑必要条件ではない︒そこで
同様にして︑投資需要の増加は附加的利潤の実現をまつて初めて計画されよう︒従って︑
AI
II
PA
E
さらに技術的進歩によって要素生産性の向上が予想されると︑ 次に予想される投資需要についてみる︒投資需要は︑ と
なる
︒
ap
11
︑A or
JY
II IC .│
│+ c. i+ t JC
y y
aP
A
" "
1 1 a
y y 従つてi
AP
l l
p + t
JC
JY
aP JP
.
Y P
+ Y
││
11
c
Y
経済成長とインフレーツョン︵高本︶
( 1 4
︑ )
それから長期的に超過利潤を獲得しようとの期待
. '
・
であ
るか
ら︑
4式はー︵
六
(17) (16) 一般には︑産出物への附加的需要の函数として決定される (15)
487
から新投資が計画される︒技術的進歩は労佑に完全雇傭がある限り︑資本使用的傾向が強いから︑
需要をも含めると︑予想される資本財生産量従って社会貯蓄を以てすべての投資需要を充足しうるのは極めて特殊
な場合のみであろう︒もとより経常利潤に基づく投資のみで貯蓄のすべてを吸収し尽くすとの保証はない︒
し︑すべてを含めて資本財需給の継続的に均等化するとの保証もまたないであろう︒ここに均衡成長の理念が崩れ
去る︱つの朋芽がある︒それは経済成長の︱つの特殊な場合であろう︒
ところで︑技術的進歩による期待利潤に基づく投資需要の増分を総需要と一定比率を保つものとして採入れると︑
A I I I p 4 E + ' l " y
と改められる︒ここで伍は︑⑦式から
n
にある一定比率を乗じた値に等しいことがわかる︒即ち︑利潤率
m 1 1
土T
を考
慮す
ると
P ︑ AE 11 f h
r : , :
J Y
総需要のうち予想される投資需要の成長率は︑
D かくて︑総需要の成長率Gは⑯と伽を単純に合計したものとなろう︒従って︑
経済成長とインフレーツョン︵高本︶
4 I A Y
I I I P 7 │
+T
Y Y
A l
= /
3 7
C A
Y + TY
⑬と閥から 闘式はより一般的に︑
この両辺をyで割ることによって得られる︒
六 (21) (20)
( 1 9 )
(18) ヽ~
しカ
このための投資
六 ︑
二 つ の 成 長 率 に つ い て の 若 千 の 註 釈
経済成長とインフレーツョン︵高本︶
この式のCはIーSーaに等しく︑翫は附加的産出物のうち現在の利潤率を将来も維持しようとして投資に向けられ
る部分の比率である︒従って︑P月
A
Yが
A S に等しくなるという保証はないが︑経済が順調に発展し︑利潤が一定率
で継続的に増大してゆくときには︑貯蓄はその殆どがこの種の投資に向けられると期待してよかろう︒そこでBを
( 6 )
︵カルドアの
S P )
に等しいとすると︑舷は
s=
l‑
c
ーaにほぽ等しいとみなすことができる︒かくして︑
C 1
1 I
ーSー
a 9
P7
11
]
ーCーRを四式に代入し︑
C+
s+
RI
II
を考慮すれば︑
a . K + t + T a . K + t + T t + T
II
i+
GD
1 1
Iー
S( I ーー
a )
ー
ー( I
?ー a ) a a
が得られる︒これから︑総需要の成長率は人口成長率に︑消費者嗜好の成長率と技術的進歩率をそれぞれ﹁基礎消
費比率﹂で割った商を加えたものに等しいことがわかる︒ここでもし
B7 AS
とす
ると
︑
註(6)N•
Ka ld or ,
"
Al te rn at iv e T he or ie s o f D i s tr i b ut i o n, ̀ ︑ Re e 0 i w o f E co no mi c S tu di es
︑
V ol .
23
( 2 )
N
o.
6
1,
F
eb .
19 56 ,
P.
9
5.
これまでに社会の生産力と総需要について別個にそれぞれの成長率を導き出してきたがその成立に当つて次のよ
うな事柄の意味を若干考察してみる必要があろう︒
その一っは投資需要決定のメカニズムとしての加速度原理を排し︑経常利潤と期待利潤という形で利潤をその決 となり︑従って
G D はやや小となるであろう︒ 近似的に
5 2
A Y
A
C +
4 I A Y A Y R . i + t + T
I̲
︵C
+P
m)
Gv 1
1│
│!
1 1 1 1 c .
│
│
ー+
a.
K+
t+
P︑
ー +
?
I I
y y y y
aの値はこれよりやや大
六四
(2 3)
(2 2)
‑489
経済
成長
とイ
ンフ
レー
ツョ
ン︵
高本
︶
第二は基本的生産要素の量的変化の効果を二面的なものとして採用したことである︒ドマールは投資の二重効果
をかなり強力に主張しているが、結局は二面的なその効果も―つの糸に撚り合わされてしまつている。•その作用を る乗数と加速度因子に特に退席して貰う必要があった︒ 定因として選んだことである︒周知のように︑ケインズの投資決定因は資本の限界効率と利子率であるが︑利子率をしばらく無視すれば︑資本の限界効率こそ投資の唯一の決定因ということがケインズに倣つて唱道されるのである︒とすれば︑ポスト・ケインジァンがこの点を殆ど顧みなかったことは︱つの不思議ですらあり︑まさにK
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r s というべきであろう︒資本の限界効率が新投資の費用超過予想収益率︑換言すれば
新投資についての予想利潤率であること︑またそれが経常利潤率に基礎をおくものであることはいうまでもなかろ
う︒本稿ではさらに資本の限界効率表のシフトを齋らす技術的進歩による予想利潤をも参加せしめている︒利潤・
投資関係を発展の図式に採入れることは古典派理論のある意味での復活であり︑その点今世紀に入って分配論に多
くの進歩をみなかった経済学が積極的にこの関係を考慮し得なかったことにも一理があろう。しかし、利潤•投資
関係を無視した動態理論が︑極言すれば︑デンマークの王子を欠いた﹁ハムレット﹂であるという事実はいまや蔽
( 7 )
うべくもなかろう︒ここに︱つの例外はカレッキの業績である︒乗数理論と加速度原理を手掛りとして動態経済学
を成功に導いたかにみえた現代経済学も所詮は一面的な成功に過ぎなかったのではなかろうか︒カレッキはその点
独自の途をとったのであるが︑
よう︒最近に至って︑
六五
一般に信頼をもたれてい
ここ
で
カルドアは分配論の方面から利潤•投資関係の復活を企て、またロビンソンも資本蓄積過程
( 8 )
の中にそれを十分採入れようと努力している︒本稿ではこの企てをより強調するために︑ しかしそれは決して異端的ではなく︑寧ろ伝統の途に繋がるものであったといえ
業者により大なる利潤予想を提供するものであり︑
経済
成長
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高本
︶
終姶供給面と需要面に分つて︑その両面からする相互作用と︑
によって絶えず引上げられてゆくことは看過できな それぞれの側でそれが他の要素の変化量とともに営
なむ結合作用を明らかにする必要があった︒また投資のみならず︑人口増加も需給両面に作用する︒ただ︑その作
用の仕方は異つている︒投資が資本ストックヘの追加として︑供給面では生産力に変化を与え︑同時に需要面では︑︑︑︑︑︑︑︑総需要を変化せしめるという効果をもつのに対し︑増加人口はその一定部分たる増加労仇人口のみが生産力への貢
献となり︑需要面では増加人口を一人当り基礎消費類に乗じただけの附加的需要を与えるという効果をもつてい
る︒このような生産要素の変化の二重効果と並んで︑いま︱つ技術的進歩の二重効果も無視し得ない︒それは供給
面では︑生産要素の存在量を不変としても︑それから得られる産出物を増大させる効果をもち︑生産要素に変化が
あれば︑それにさらに拍車をかけるか︑または負の変化に対してはその効果を補償する作用をもつている︒また需
要面では︑生産力増大の有利な効果を享受するために投資を増大せしめることが考えられた︒技術的進歩は常に企
一時的に弛緩があつても長期的には非可逆的な発展動因として
その役割は大きい︒シュムペーターに従って技術的進歩を﹁革新﹂と解するならば︑それはまた消費者嗜好に剌戟
を加
え︑
その成長を促進するという効果ももつている︒勿論︑消費者の嗜好がより重要な動因︑即ち消費者自身の
生活水準改良欲求と消費者相互間の
D e m o n s t r a t i o E f n f e c t
い︒このような要因の変化の効果は決して外生的要因という名の下に経済外に放逐さるべきものではない︒なぜな
ら︑それらはいわゆる内生的要因のうちに切離し難く溶け込んでいるからである︒投資を内生的要因とすれば︑労
人口成長と技術的進歩が殆ど循環性︵ある仇人口の増加はそれと同じ理由で内生的要因とせねばならぬであろう︒
いは波動性︶をもたないということだけで投資と区別するのは決して経済動態の解明のために望ましい処理方法と
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