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車椅子キャスター上げスキルトレーニング 行動分析的コーチングの効果

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Academic year: 2021

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車椅子キャスター上げスキルトレーニング

行動分析的コーチングの効果 山崎 裕司 ,松下 恵子

要 旨

本研究では,行動分析学の技法を用いた車椅子キャスター上げの指導方法を考案し,その効果について口頭 指示による試行錯誤型の操作練習と比較検討した.

対象は,キャスター上げ経験の無い健常女性 名で,無作為に 群に分類された. 群( 名)には,最 初に試行錯誤型のコーチングが行われ,次に日を変えて行動分析的コーチングが行われた. 群( 名)では,

群とは逆の順でコーチングが行われた.目標行動は, 分以内に標準型車椅子のキャスターを上げ,その状 態を 秒間保持することとした.

行動分析的コーチングは,シェイピングや連鎖化,身体的ガイド,プロンプト・フェイディングなどの技法 を取り入れて形成された.課題の難易度が段階的に設定され,練習中の失敗ができるだけ少なくなるように配 慮された.試行錯誤型のコーチングでは,キャスター上げ,およびその保持の方法が口頭で教示された.いず れも練習時間は 分とした.

行動分析的コーチング後, 名全員が 秒以上のキャスター上げに成功した.試行錯誤型コーチングを一日 目に導入した 名中, 秒以上のキャスター上げができた症例はなかった.

以上のことから,シェイピングや身体的ガイド,プロンプト・フェイディングを用いたキャスター上げ練習 は,口頭指示のみによる試行錯誤型練習に比較してより有効なものと考えられた.

キーワード 車椅子,キャスター上げ,行動分析,学習

【はじめに】

車椅子のキャスター上げは,自走による車椅子移 動を行う障害者が段差を克服するための操作であ り,屋外で車椅子を操作する障害者にとって,その 技能を修得する必要性はきわめて高い.この操作で は,キャスターを持ち上げ,さらに 輪によって微

妙なバランスをとる必要がある。後方へバランスを 崩した場合には転倒する危険性を伴うため,不安感 や恐怖心を抱きやすい動作でもある.回復期リハビ リテーション期間中の車椅子使用者,地域の車椅子 使用者,健常大学生を対象とした先行研究では,車 椅子操作練習後,キャスター挙げの技術を習得した

)高知リハビリテーション学院 理学療法学科

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対象者の数は極めて少なかったことが報告されてい る 。キャスター上げ操作は難易度の高い動作で あり,セラピストは有効な練習方法を確立しなけれ ばならない.

行動分析学では,動作学習をさせる際に,成功可 能な課題設定(以下,シェイピング)や連鎖化,プ ロンプト・フェイディングなどの技法が用いられ る .近年はリハビリテーション分野でも,箸操 作 や義足歩行練習 などでこれら技法の有効性 が報告されている.

本研究では,シェイピングや連鎖化,身体的ガイ ド,プロンプト・フェイディングなどの技法を用い た車椅子のキャスター上げ指導方法を考案し,その 効果について口頭指示による試行錯誤型の操作練習 と比較検討した.

【方法】

対象は,車椅子のキャスター上げ経験のない健常 女性 名で,平均年齢 歳,平均身長

,平均体重 である.対象者に は研究の目的と内容を説明し,同意を得た後に実験 を実施した.

キャスター上げ課題は,スタンダードタイプの車 椅子 (図 )を使用し,その状態を 秒間保持す ることとした.

キャスター上げ能力は, 分間のキャスター上げ 操作を実施させ, 秒を上限として,保持できた時

間によって評価した.例えば, 秒の時点でキャス ターを上げた場合には,最大 分 秒の時点まで時 間を計測した.

キャスター上げの指導方法は次の つを準備し た.試行錯誤型コーチングでは車椅子 を使用し,

検査者がキャスターを上げるためのハンドリムの操 作方法 後方へ回した後,すばやく前方へ切り返す と身体の使い方 同時に後方へ頚・体幹を傾斜させ る ,キャスター挙上後バランスをとってその状態 を保持するハンドリムの操作方法 バランスが後方 へ崩れそうなときにはハンドリムを後方へ回し,前 方へ崩れそうなときには前方へ回すこと ハンド リムは適切な位置でにぎること(前後いずれにも動 かしやすい位置)について説明とインストラクショ ンを行った.その後,対象者は試行錯誤型練習を行っ た.検査者は練習中,車椅子後方でクロスバーに結 んだ帯を持ち転倒を防止した(図 ).練習中は,

不適切な操作に対して 手の動きを鋭くして下さい などの口頭指示を与え,対象者からの要求があれば モデリングを追加して行った.

行動分析的コーチングではモデリング,口頭指示,

転倒防止用の帯に加え,シェイピング,連鎖化の技 法を用いて,難易度を 段階に設定した練習プログ ラムを創出した.車椅子 よりも,車軸が前方,下 方に位置し,その高さがシート高に一致した車椅子 を用意した(図 ).車椅子 は,キャスターが 上がりやすく,シート高と車軸が一致するためハン

図 使用した車椅子 図 行動分析的コーチング場面

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ドリム操作感覚も習得しやすい構造である.なお,

いずれの車体も,対象者の下腿長に合わせてフット レストの高さは調節した.第 段階では車椅子 の キャスターを上げて,後方へ倒れ,検査者に転倒防 止用の帯で支えられる練習を行った.第 段階では キャスターを上げた状態から,バランスをとって 秒間保持する練習を行わせた.開始当初,検査者は グリップを握り,前後の重心移動が適切に調節でき るよう介助した.同時に,重心位置のずれを口頭に てフィードバックし,ハンドリム操作方法を教示し た.これらの介助は徐々にフェイディングしていっ た.第 段階では,キャスター上げを施行し,その 状態から 秒間保持する練習を行った.第 , , 段階は車椅子 に移行して前述した 段階の練習 を実施した.なお,すべての段階において 回連続 成功すれば次の段階へ進むようにした.

介入 , とも,介入時間は 分とし,その前後 で評価を実施した.評価は帯を除去した状態で施行 した.安全性を確保するため,車椅子の後方転倒を 防止する係りが 名ついた.

対象者は無作為に つの群に振り分けた. 群

( 名)は試行錯誤型コーチングを行った後,日を 変えて 週間以内に行動分析的コーチングが行われ た. 群( 名)は行動分析的コーチング実施後,

日を変えて 週間以内に試行錯誤型コーチングが行 われた.

統計学的手法としては, 検定と 符号 付順位和検定を用い,危険率 %を有意水準とした.

【結果】(表 )

年齢,身長,体重は, 群, 群間で差を認め なかった.

介入前, 秒間のキャスター上げが可能な症例は 無く,キャスター上げ時間は, 群, 群間で差 を認めなかった.

初日に行動分析的コーチングを適応した 群 名中 名が時間切れのため段階 までのクリアーに とどまった.その他の対象者はいすれも 分以内に 段階 をクリアーした.

群は,試行錯誤型コーチング後, 名中 名に 保持時間の有意な向上を認めたが( ), 秒 に到達した症例はなかった.行動分析的コーチング 前の評価でも, 秒間の保持が可能な対象者は無 かった.行動分析的コーチング後, 名全員が目標 である 秒間の保持を達成した.

群では行動分析的コーチング後, 名全員が 秒間の保持が可能となった.試行錯誤型コーチング 前, 名が 秒保持を達成した.試行錯誤型コーチ ング後,全員が, 秒間の保持が可能となった.

度の介入前, 秒間のキャスター上げができて いない対象者は,行動分析的コーチング 名,試行 錯誤型コーチング 名であった.介入後, 秒間の キャスター上げが可能となった症例の割合は,試行 錯誤型コーチング( )に比較し,行動分析的コー チング( )で有意に大きかった( ).

【考察】

本研究では,シェイピングや連鎖化,プロンプト・

フェイディングを用いた車椅子のキャスター上げ操 作の練習プログラムを考案し,その効果について試 行錯誤型の練習方法と比較検討した.

群, 群とも行動分析的コーチングを実施し 表 キャスター上げ保持時間の推移 試行錯誤型コーチング 行動分析的コーチング

介入前(秒)介入後(秒)介入前(秒)介入後(秒)

対象 対象 対象 対象 対象 対象 対象

行動分析的コーチング 試行錯誤型コーチング 介入前(秒)介入後(秒)介入前(秒)介入後(秒)

対象 対象 対象 対象 対象 対象

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た後にキャスター上げ保持時間は目標の 秒間に到 達した.一方,最初に試行錯誤型コーチングを導入 した 群では, 秒間のキャスター上げが可能と なった症例はなく, 秒間のキャスター上げができ た対象者は,行動分析的コーチング導入後において 有意に多かった.以上のことからシェイピングと連 鎖化,プロンプト・フェイディングを使った練習方 法は,試行錯誤型のキャスター上げ練習に比較して 有用なものと考えられた.

奥田ら は,一日 分間のキャスター上げ練習を 今回と同年代の健常者に実施し,キャスター上げ習 得までに平均で 日を要したことを報告した.奥田 らの練習内容の詳細は分からないが,彼らも転倒防 止の措置はとっていた.本研究における試行錯誤型 コーチングは 分を 回行ったのみであった.よっ て,試行錯誤型のコーチングでは練習時間の不足が キャスター上げを習得できなかった主原因と考えら れた.

群では,試行錯誤型コーチングによって, 名 が 秒間のキャスター上げ保持が可能となった.

群では,試行錯誤型コーチング前の評価において 例が 秒間のキャスター上げが可能であり,他の 名も前回の介入前に比較し保持時間は延長してい た.このことは前回の行動分析的コーチングの効果 が,残存していたことを示している.よって,ある 程度動作が習熟した後は,試行錯誤型の反復練習に よって学習効果を得ることが可能なものと考えられ た.

群における試行錯誤型コーチングにおいて学習 が促進されなかった背景については,学習過程にお ける失敗の多さが関与したものと推察された.学習 過程における失敗は,意欲を低下させるとともに , 学習能力や既に学習された行動の遂行能力低下を生 じさせる .また,清宮 ,山崎 らは,難易度 の高い箸操作課題では,反復練習による学習効果が 得られないことを指摘している. 群における試 行錯誤型コーチングでは,実際に失敗が多く,練習 中上達はまったく自覚できなかったと思われる.一 方,行動分析的コーチングでは, 分間のうちに,

対象者は 段階のプログラムを徐々にステップアッ プすることで成功・達成経験をしていた.さらに,

キャスター上げ状態を保持する間も,グリップのガ イドによって,キャスターを床につけるという失敗 は最小限に防がれていた.

最後に,試行錯誤型のコーチングではキャスター を上げるという初期の操作段階の習得が困難であっ た.このため,キャスターを上げた状態でのバラン ス保持練習に十分な時間を裂くことができなかっ た.よって,試行錯誤型コーチングにおいても,当 初キャスター上げがより容易なタイプの車椅子を導 入することで練習効果は変化する可能性があり,今 後の検討が必要である.

片麻痺患者や対麻痺患者,切断患者などが行う日 常生活動作の多くは,障害を有する以前には経験し ていない動作であり,その練習は新たな動作の学習 過程として捉えられる.動作練習は日常生活動作再 獲得の上で主要なアプローチであり,今後は様々な 動作練習場面において失敗を少なくした動作練習プ ログラムを創出する必要がある.

【まとめ】

シェイピングや連鎖化,プロンプト・フェイディ ングの技法を用いた車椅子のキャスター上げ練習プ ログラムを考案し,その効果について検討した.

.行動分析的コーチングによって,全例が 秒間 のキャスター上げが可能となった.

. 日目に試行錯誤型コーチングを実施した群で は, 秒以上のキャスター上げができた対象者を 認めなかった.

以上のことから,シェイピングや連鎖化,プロン プト・フェイディングを用いたキャスター上げ練習 は,口頭指示のみによる試行錯誤型練習に比較して より有効なものと考えられた.

【引用文献】

(5)

)山 裕司,山本淳一(編) リハビリテーション 効果を最大限に引き出すコツ,三輪書店,東京,

)山 裕司,豊田 輝・他 学習行動理論を用い た日常生活動作練習.高知リハビリテーション 学院紀要 , .

)山 裕司,鈴木 誠 身体的ガイドとフェイ ディング法を用いた左手箸操作の練習方法.総

合リハ , .

)鈴木 誠,山 裕司・他 箸操作練習における

身体的ガイドの有効性.総合リハ ,

)豊田 輝,宮城新吾・他 練習方法の違いが模 擬大腿義足歩行技能に及ぼす影響について.理 学療法科学 , .

)奥田邦晴,明石圭司・他 車椅子のキャスター 上げ能力獲得に関する一考察.理学療法学

( ) , .

)清宮良昭,長谷川聡世・他 箸つまみ動作の速 度が異なる課題を練習したときの練習効果の違 い.作業分析学研究 , .

)山 裕司,中村明香 身体的ガイドを用いた左 手 箸 操 作 練 習 箸 操 作 技 能 と 学 習 効 果 の 関 係 . 高 知 リ ハ ビ リ テー ショ ン 学 院 紀 要

, .

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参照

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