アクション・リサーチによる授業改革
スピーキングを重視した中学校入門期の英語指導(その2)
藤 田 絹 子*・長 澤 邦 紘**
(1996年10月14日受理)
Innovations of English Classes through Action Research:More Weight on Speaking at the Introductory Stage of Junior High School(Part 2)
Kinuko FuJITA*and Kunihiro NAGAsAwA**
(Received October 14,1996)
Abstract
This is the second instalment of a three。part series of an article which presents an action research study on innovations in the teaching of junior high school English classe3 1t describes the second and third stage of the project:action and observation. Six kinds of oral activities were implemented:
p趾onics, Bnglish Time, individual interviews, group interviews, speeches and drama. Data was collected for ana藍yses and evaluation of each activity through questionna董res to students, studen捻 πeports, the teachefs field notes and audio−and video−tape record㎞9&
第4章 実践過程
4.1計画
本プロジェクトを実施するに当たっては,従来従ってきたカリキュラムを改編する必要があった。
通常,カリキュラム(年間計画または指導計画)というとき,それは教科書を教えることを前提に 計画されている。このプロジェクトで行う諸活動を通常のカリキュラムの中で行うには,教科書を 教える時間をやりくりして時間をうかさなければならなかった。そのため,独自のカリキュラムを 作成することにした。
口頭による活動を重視した授業を推進するために,6つの活動を行うことにした。それは(1)フ
*茨城大学教育学部附属中学校(〒310水戸市文京1−3−32;Attached Juniof High School, Faculty of
Education, Ibaraki University, Mito, Ibaraki 310 Japan).
**茨城大学教育学部英語教育講座(〒310水戸市文京2−1−1;English Language Teaching, Faculty of Educa一 tlon, Ibaraki University, Mito, Ibaraki 310 Japan).
オニックス,(2) English Time (生徒達は英語だけを話す約束になっている),(3)個人面接,(4)
集団面接,(5)スピーチ,(6)劇である。改編したカリキュラムは図1に示す。実線は主に当該の活 動を使って英語を教えた時期を示す。また,点線は補助的に当該活動を使ったことを示す。
4 5 6 7 9 10 11 フォニックス 一一一 一一一一一一曽 一一 ■口騨罹層一9 一一一一一卿_一一一、
dnglish Time 一一一. 冒一一■一一一 冒冒一一畠一 一一一 一一一一一一一 騨旧一一一一一冒一儘O畠一一
一一一
個人面接 集団面接 スピーチ 劇
教科書 一一一一一甲
図1本研究のための指導計画
English Time は毎回の授業で5分から10分間行った。また,授業開始当初の約10回はフォニッ クスの規則を教え,それを練習することに徹した。この2つの活動はプロジェクト全体を通して折あ るごとに指導した。残りの4つの活動(2種の面接,スピーチ,劇)は特別企画のような形で行った。
4.2 ロ頭による指導を重視する根拠
実際の活動について述べる前に,なぜこれらの口頭による活動を重視するかの理由について説明
したい。
第1に,フォニックスは英語の音と文字を結びつける上で効果的な指導法である。これは,日本の 英語教育界でもハイルマン(1981),稲垣(1984),松香・谷口(1984),Matsuka Phonics Institute
(1988)等の研究によって大きな支持を得るようになった指導法である。Matsuka Phonics Institute
(1988)は,フォニックスがもつ音声指導の特徴に焦点を当てている。フォニックスは,綴りと発音 の関係を学習者に理解させることを可能にする手法なので,発音指導に有効な手段たり得ると言っ ている。従って,フォニックスのルールを教えることは生徒の音声面の技能の基礎を形成する上で 重要なのである。例えば,短母音のルール( cat の a と言う文字は[紀]と発音されるなど)は,
[子音+母音+子音]という英語の音節の構造を生徒に理解させるために最も簡単で,効果的なもの である。ふつう生徒は単語を書くことに困難を感ずる。しかし,短母音のルールを覚えると,何度 も繰り返し単語を書く練習をしなくとも,単語の個々の音を聞いただけで正しい語を書けるように なる。時には,まだ習っていない語さえ正しく書くこともある。このことは生徒を大いに喜ばせる ようである。中学生は英語を複雑だと考えるが,フォニックスは英語学習の入門期に英語に興味を 起こさせる有効な方法である。「[フォニックスを通して]生徒は当初から自力で考え,発言し,理 解することを覚えるのである。_フォニックスはまた,日本人学習者に適切な発音を学ぶ上で助け
となる(Matsuka Phonics Institute l 988:55)。」
第2に, English Time というのは,英語しか使わないという約束になっている特別な時間のこと である。我々は,英語の授業中に日本語を使うことは必要であると考えている。しかし,同時に,話 す能力を発達させるためにはできるだけ多くの機会に英語を使わせるようにすることも,特に英語 学習の入門期には極めて重要なことであると考えている。 English Time はそのような機会の一つ なのである。具体的な方法としては,固定的ペア,流動的ペア,グループ等の形態でインフォーメー ション・ギャップを利用した活動をする。様々な種類のプリント,テープ,実物等を用いて,学習 した文法や重要な表現を多少とも現実場面に似せた状況で使うようにしている。
第3に,面接テストは,日本の英語教育界においては活動形態としても,またその評価の面を含め ても新しい試みである。「なぜ,英語の先生は生徒の話す能力を直接的に評価しないのだろう。音楽 の教師は,目の前でリコーダーを吹かせてテストをするのに」という声を時折聞く。面接テストは,
生徒一人一人の話す能力,聞く能力,方略的能力を観察するのに最適の方法である。それのみなら ず,言語学習者としての生徒の人間的発達を知る上で貴重な情報源となることが期待できる。
2種類の面接テストが行われる。個人面接と集団面接である。個人面接はこのプロジェクトの早い 段階に実施された。その理由は,生徒に友人の助けを借りることなく自分の力で応答する経験をさ
せたかったことと,独力でも英語で意志疎通ができるということに気づかせたかったからである。
我々は,言語行動においては相手の発言に即応する大切さを生徒に理解させることが必要だと考え ている。しかしながら,第1回目の面接では,必要なときは藤田が生徒を助けた。なぜなら,この時 期に生徒が話せなくて自分の話す能力に自信をなくしたり,英語に対して否定的イメージを持った
りすることを避けたかったからである。
第4の集団面接は異なった趣旨で設定された。面接を行う前に,生徒は面接で何を言うか準備し,
友人同士助け合うことができる。助けを求めるとか,ジェスチャーを使う等の方略的能力が十分に 使われることが期待されているからである。この面接はまた,生徒が互いに観察しあい,互いのコ
ミュニケーション能力について知る機会を提供するという意味も含まれている。
第5に,生徒は自分の好きなもの,きらいなもの,その他好きな話題についてスピーチをする。こ の活動は,生徒にとって自己表現をし,音声によるコミュニケーションを経験するよい機会となる。
生徒は,他の生徒の前でスピーチをし,他の生徒はそれを聞いて評価する。従って,これは書くこ と,聞くこと,読むこと,話すことの技能が融合された活動である。
最後に,生徒は劇を演じる。この活動もまた,協力的に行われることが期待されている。各グルー プは教科書の題材をもとに話し合い,演じる内容を決める。シナリオは既習事項を活用して書かれ ることになる。この活動を行いながら,生徒は社会言語的能力を伸ばすことができるのである。な ぜなら,生徒は特定の状況においてふさわしい文は何であるかを考えなければならないからである。
4.3実践と結果分析
4.3.1 フォニックス
フォニックスは年間を通して指導したが,4.1に示した特定の時期に集中して行い,何回かはほぼ 1時間の授業全部を費やした。以下に指導内容を示す。
〈第1期〉(4−5月)
1アルファベットを読む(大文字と小文字)
2「アルファベットかるた」を作る
3「かるた」をしながら発音と文字を結びつける
4英語と日本語における綴りと音の関係の違いについて知る(例えば,日本語においては綴りと 発音はほぽ完全に一致しているが,英語においては綴りと音に100%の対応関係はない)
5 「フォニックス・アルファベット」(アルファベットの a は[缶]と, b は[b]という 音で読むようにする)
6母音の発音
76つの子音([p],[b],[t],[d],[k],[g])
8短母音([ee],[e],[i],[D],[A])
9他の子音
102文字子音(例えば sh [∫], ch [t∫])
11子音連結(例えば cl [k1], tr [tr])
〈第2期〉(9月)
12既習のフォニックス・ルールの復習
13母音+rの綴りをもつ語(例えば park , girl ) 142文字母音(例えば boat , seat )
15 silent E
16「礼儀正しい母音」( rain のTや daジの y などの読まれない母音)
毎時間,生徒にフォニックスについてのワークシートを配り,黒板にその日のねらいを書いた。生 徒にその日の目標音の発音練習をさせた。生徒は教師の短母音[田],[e],[i],[っ],[A]の発 音を聞き,それに対応する文字を書いた。また,生徒達は単語の発音を聞き,プリント中の選択肢 から正しい単語を選んだ。また,生徒達は文字と聞こえてくる音を結びつける練習もした。[b],
[記],[t]を聞いて,それを一つの単語 baゼに合成するわけである。フォニックス指導の各段階は どれも規則の説明と練習という段階を踏んで行われた。
4.3.1.1 テスト
前述の通り,フォニックスを2期に分けて指導し,各期の終了時にテストを行った。最初のテスト は個人面接時に行われた。
テスト結果によると「短母音のルール」は覚えやすく,101人中78人が短母音を含む単語を正し く読めた。しかし, game などのreで終わる語」に関しては26人しか正しく読めなかった。
2回目のテストはフォニックスに関する16のルールを学習した後で実施された。今回は,音声に よるテストと筆記テストの両方をおこなった。音声によるテストでは,生徒はテスト用紙中の語を 声を出して読み,教師がそれをきいて評価した。筆記テストにおいては,生徒はテスト用紙中の語 の読みをカタカナで書き表した。
筆記テストの得点平均は以下の表の通りである。
1−1 1−2 1−3 平均 (%)
短母音 3.2 3.3 3.1 3.2
サイレントE 24 3.2 3.5 3.1
5点満点 礼儀正しい母音 2.6 3.1 2.8 2.8
2文字母音 2.8 3.1 3.3 3.1
合計 11.2 12.5 12.2 12.0 20点満点
この結果から,生徒にとっては「礼儀正しい母音」のルールが他のルールよりも難しいということ がわかる。それに加えて,生徒達は「eで終わる語」のルールを第1回目のテストに比べてより正確 に理解するようになったといえる。
4.3.1.2事例研究
前節で示された2回目のテスト結果は,フォニックスのルールを理解している者とそうでない者と の間の差を明確iに示した。興味深いことに,このルールの習得度は定期テストでの成績と必ずしも 一致しないのである。例えば,Nという生徒は英語の成績が学年でもトップの生徒であり,フォニッ クスのテストにも完壁に答えている。しかし,Aというトップクラスの生徒はフォニックスに関する ルールの半分程度しか理解していないのである。その一方,0と言う生徒は通常平均以下の成績であ るが,フォニックスに関してはクラス36名中第7位の成績を残した。約15名ほどの生徒が類似の 傾向を示した。
生徒の中には筆記テストと音声によるテストとで出来ばえが異なった者もいる。以下に例を示す。
TN HS YT KI AK TK YI (%)
筆記短母音 100 60 60 20 40 20 100 サイレントE 20 20 20 0 20 20 40 礼儀正しい母音 60 40 40 20 60 20 40 2文字母音 60 80 80 20 80 20 20 口頭短母音 100 90 100 70 90 40 100
その他 80 83 88 50 100 67 83
YIという生徒は音声によるテストでは比較的よい成績をとったが,2文字母音の読みでは1題しか正 答しなかった。それに対して,TN, Y℃AKの音声によるテストの成績は優秀であるが,筆記テスト の結果は思わしくなかった。なぜこのような差異が生じたかについては,現在のところ立ち入って 論ずるだけの資料に乏しいのでこれ以上は触れない。しかし,このような結果を知って,我々は生 徒の持つ進歩の可能性を再認識させられたし,もしかすると教師の側がまだ生徒の潜在能力を十分
引き出していないのではないかということも考えさせられた。しかしながら,上記の結果から生徒 の言語的センスがかいま見られ,また,通常のテストの成績はよくないがフォニックスは得意だと いう生徒を賞賛することができたのである。
4.3.1.3生徒のレポート
生徒にフォニックスを学んでの感想を自由に書かせた。それによると,22.3%の生徒がフォニック スの有効性を認めている。12.6%の生徒はフォニックスの規則を習得するために努力したいと答えて いる。しかしながら,27.2%の生徒が自分にとってフォニックスのルールは難しすぎると回答した。
(これらの数字は生徒の感想を分類して得たものである。)以下に生徒の感想の一部を示す。
1 この規則を身につけたら,様々な語を読むことができると思う。それは楽しい。
2 英語の力が少しついてきてうれしい。
3 −・旦この規則を習得したら,単語の綴りを思い出せなくとも,もしその語の発音を知っていた ら,その綴りを正確に書くことができると思う。この規則を完壁にマスターしたい。
4 この規則は役に立つと思う。なぜなら,これを使うことによって,まだ習っていない単語も発 音することができるし,綴りを書くこともできると思うから。
4.3.1.4 教師の記録
当初,フォニックスのルールを約10回の授業で集中して教え,その後折を見て復習するように しようと計画していた。しかし,教えているうちに生徒が混乱を来していることに気づいた。それ は,生まれて初めて英語を学び始めたところだったので,「短母音」のルールでさえも生徒には難し かったのである。ある日,次のようなことがあった。この規則が分からなかったために,一人の男 子生徒が授業中に泣き出してしまったのである。当時,比較的簡単なルールだと思われた「短母音」
「2文字子音」「子音連結」などを教えていたが,これさえも生徒には複雑だったのである。従って,
フォニックス学習に関してはしばらく冷却期間を置いた方がよいという結論に達した。一定の期間 を置くことによって,生徒の中で知識が整理されることを期待したのであった。
第2期を迎え,再びフォニックスに焦点を当てた。第1期では生徒の様子からフォニックスを教え ることを中断したが,それが有効であったのか否か定かではなかった。しかし,今回は生徒のフォ ニックス学習に関する理解がスムーズになっていることに気づいた。5か月間英語を勉強して,英語 の綴りや発音に慣れたことの効果のようであった。その結果,フォニックスを理解すること,換言 すれば,英単語の音節構造を理解できるようになったことが,英語の理解そのものを促進したと思 われる。また,このことは,通常1年生の夏休み後に生じる英語学習に対する学習意欲の減退から生 徒を救うことにもなった。
4.3.2 English Time
毎授業時に英語のみを話す特別の時間を設定し, English Timゼと名づけた。本研究で実施され た English Time における活動内容は以下の通りである。
第1期(4月一7月)
Hello! My name is 。/How do you do?/Who am I?/How ale you?/This is a ./
What s this?/11ike ./Do you like ?/What do you have in your pocket?/
Aor B?/Telephone conversation
(これらの活動は折を見て繰り返し行われた。)
第2期(9月一12月)
Are you hungry?/Do you want a cookie?/What do you have in your ?/Is this pen_ s?/
Whose pen is this?/Who do you like best?/Do you have brothers?How old are they?1What are your hobbies?/When is your birthday?/Which is youl pen?/Where did you buy it?/Is this A or B?/What time do you get up?
(これらの活動も折ある毎に繰り返し行われた。)
この時間帯には「日本語禁止」という厳しいルールをつくった。例を挙げてみよう。 What is this?
を教えた授業では,まず基本文を示して説明した後,その文を暗唱させた。次にクラスをグループ に分け,この What is this? という表現を使わざるを得ない状況をつくり,以下のような課題を出
した。
「一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一1
1課題:自分のグループ構成員に教えられるよう,ワークシートにある単語を覚えなさい。 ;
l l
戟@ 知らない単語がある場合は,What is this?という表現を使って,教えてくれる役のll ll 人にたずねなさい。 Il l」一一一一一一一一一一一一一一一一一胴一一一一一一___________________________J
この活動では,36人の生徒を6つのグループに分けた。各グループごとに1台のテープレコーダー を与え,自分達が覚えなければならない単語が録音されたテープを使用した。6種類のワークシート を用意し,全員に配った。各プリントには,数種の動物,野菜,スポーツ等の絵とそれらを表す英 語が書いてある。まず最初に,各グループでテープを聞き,その単語の発音練習をする。各グルー プとも異なった語群が録音されている。(例えば,グループ1には野菜の名前が,グループ2には文 房具の名称がというように。)次に,一人の生徒(key student)を残して,他の生徒はそれぞれ別の グループへ移動する。従って,残った生徒が他のグループから来た生徒に次のようにして単語を教 えるわけである。
生徒A:(ピーマンを指しながら)What is this?
生徒(key student):It is a green pepPer.
単語を覚えたら,生徒は元のグループへ戻り,key studentに教えてもらった語を他のメンバーに教 える。その際もし教えてもらっている側がその単語を発音できない場合には,次のように尋ねる ことができるのである。
生徒B:What is this?
生徒A(key studentから新語を習った生徒):It is a green pepper.
このやり取りの中で,生徒は日本語を使うことを禁じられた。もし,日本語を使ったら,話相手 に1円払わなければならないのである。最もたくさん1円玉を集めた生徒が勝利者である。
4,3.2.1アンケート調査
1年1,2,3組の生徒(107名)を対象に Enghsh Time についての感想を求めるアンケート調 査を行った。(結果の詳細は付録1を参照)
「 English Time をどう思いますか?」という質問に対しては,大多数の生徒がこの活動を楽しん だと答えた。しかしながら,105人中10人の生徒がこの活動に対し否定的な見方をしている。「こ の活動を通じてどのような英語能力を身につけたと思うか」という質問に対しては,105人中4分の 3の生徒が,とりわけ話す能力が進歩していると考えている。また,聞く力がついたという感想は興 味深い。
4.3.2.2.生徒のレポート
以下は English Tim♂に関する生徒のコメントからの抜粋である。
〈肯定的回答〉
1 実際に英語を話し,聞くよい方法だと思う。
2 友達と話して話す力がついた。
3 この活動中は日本語は話せなくて英語だけなので,話す能力がついた。
4 日本語を話すことができないというルールは有効だと思う。
5 ゲームのような活動を行って,英語を話すことができるようになった。
〈否定的回答〉
1 私にとっては英語しか話せないというのはちょっと難しくて,ときどき日本語を話してしまっ
た。
2 英語を上手に話せないので,もうこの活動をしたくない。
3 楽しかったけれど,英語を書く方がいい。
4 わからなくておもしろくなかった。
否定的なコメントを述べているのが,学習に遅れがちな生徒ばかりでなく,筆記テストで高得点 をとる者も含まれているというのは興味深い点である。これらの生徒にとって English Time の活 動は時として易しすぎたと思われる。しかし,その活動に取り組むかどうかということは生徒の性 格による部分も大きい。なぜなら,筆記テストで高得点を取り English Time を楽しいと答える生 徒もいたからである。
4.3.2.3評価カード
生徒が English Time にどのように取り組んだかを知るため,付録2の評価カードに答えさせた。
生徒の評価は我々を満足させるものだった。なぜなら,ほとんどの生徒が自分の相手を肯定的に評 価していたからである。これは,教室内に受容の雰囲気を打ち立てようとした我々のねらいが効を 奏したことを意味する。
4.3.2.4教師の授業記録
ほとんどの生徒が English Time の活動を嫌がっていないということは興味深かった。生徒は課 題についての説明を聞いた直後には「え一っ!」とか「そんな!」等と抗議するが,それだけの話 である。ちょっと不平を言ったあとは,課題を達成するためにいろいろな質問をしたり,課題に集
中するのが常であった。
前節で English Time のルールについて述べたが,この活動を始める前は,生徒がこれを受け入 れるかどうか大いに心配した。しかし,罰金1円というルールはこの活動にゲーム的要素をつけ加え たようである。彼らはこの決まりを受け入れ,英語をできるだけ使い,それでも足りなければジェ スチャーも使っていた。1円という罰金を払いたくなかったのである。活動終了後,お金は元の生徒 に戻された。
4.3.3面接テスト(個人)
まず面接テストのやり方について説明した。次いで,面接テストの日程を知らせ,生徒に面接希 望日を申し出させた。
面接は教室ではなく,それより小さな部屋を使って行われた。AETが質問をし,藤田がそれを録 音し,また生徒が困っているときには援助した。最初,AETは生徒をリラックスさせるために,通 常の授業で行っているのと同じように生徒と挨拶を交わしたり,名前を尋ねたりした。それから,
AETは生徒がすでに習った簡単な英語,和製英語,またカタカナ読みで知っているような英語を使 って,生徒にスポーツ,食べ物,色の好み等について尋ねた。もし,生徒が質問の意味を理解でき ない時には,AETは繰り返し尋ねたり,ジェスチャーを用いたりして理解させようとした。藤田も
ヒントを与えて生徒を助けた。また,生徒にはできるだけ自分から質問をするように指示した。こ のような短いやり取りの後,双六をした。双六では,さいころの目だけ数字を数えるように指示し たり,双六盤上の絵について What is thisγのような質問をしたりした。 AETはこちらで用意した いくつかの質問をした。藤田は生徒とAETのやり取りを観察し,録音した。そのとき使用した評価 カードを付録3に挙げておく。
面接テストの最後に,生徒には未習の単語を読むように指示した。これは,生徒がフォニックス のルールをどの程度習得しているかを見るためのものである。
4.3.3.1アンケート調査
アンケート調査は面接テストを実施した翌日におこなわれた。「面接テストをしてどのように思い ましたか」という質問には,ほとんどの生徒が「この面接テストを受けて緊張したが,同時に楽し かった」と答えている。楽しくなかったと答えたのは一人の女生徒だけである。約半数の生徒がま たやりたいと言っている(付録4参照)。生徒が選択肢キ「もう一度やりたい」を選んだ理由のいく つかを次にあげる。
1 緊張し過ぎて実力を発揮できなかった。わかっているのに答えられなかった問題があってがっ かりした。
2 もっと勉強してから,またやってみたい。
3 ジョンソン先生の言うことがわかったので,またやってみたい。
4 最初緊張したけれど,だんだん楽しくなった。だから,またやりたい。
5 ジョンソン先生と話したい。
6 英語を話すことは楽しい。
7 英語は得意ではないけれど,英会話はおもしろいと思った。英語を話せば英語の力が伸びると
思う。
その一方で「もうやりたくない」の理由には次のようなものがある。
1 ぜんぜん英語を話せなかった。
2 緊張してしまった。やってみて,自分の力がわかった。緊張し過ぎて,楽しかったんだかそう でなかったのかも思い出せない。
3 2人の先生と話して恥ずかしかった。
4 他の人の前で話すのは好きではない。
次に,生徒の学習意欲について情報を得るために「面接テストを受けたあと英語学習に対してど のように思いましたか」という質問をした(付録5参照)。結果は,2人を除いたすべての生徒がこ の面接テストによって英語の学習意欲が増進されたことが明かになった。
4.3.3.2教師の授業記録と生徒のレポート
生徒のレポートは我々を大いに勇気づけてくれるものだった。以下に典型的な生徒の声を示す。
1思ったよりも答えるのに時間がかかったけれど,藤田先生にほめられたときうれしかった。こ の面接は楽しかった。
2一生懸命やれば努力は報われるということが今わかった。これからはもっとがんばりたい。とて も楽しかった。また,このような場を作ってください。
3面接テストをして自分の力に自信を持つことができた。
我々はまた予期せぬ事実に気づいた。筆記テストの成績が必ずしも口頭試験の成績と対応しない ということである。例えば,Kという生徒は筆記テストでは平均以下であるが,明らかに彼は AETの質問を理解していた。また,0という生徒は普段の授業ではあまり目立たない。彼は動作が あまり速くないため,筆記テストでは問題を終わらせることができず,たいがい点数が低い。しか し,この面接テストを行ってこの生徒の能力がよくわかった。こちらが辛抱強く彼の反応を待って やれば,彼は正しく答えることができたのである。従って,もし彼が英語を書くことに慣れてくれ ば,自分の能力を発揮する事ができるであろう。この活動によって,生徒に自分の能力を発揮させ る適切な機会を提供することが非常に大切なことを認識した。
4.3.4面接テスト(集団)
まず,この面接テストのやり方について次のように説明した。「大体6人位のグループを作りなさ い。そして,新しいAETの先生に質問したいことについて話し合いなさい。それを協力して英語に 直し,言い方を練習しなさい。また,自分がするのと同じ質問をAETの先生にされると想定して,返 答も考えなさい。」
面接ではグループのメンバー全員が,例えば好きなことなどについてAETに尋ねた。少なくとも,
一人一回は発言することが義務づけられた。生徒の質問の例を以下に示す。
What sport do you like?/Who is your favorite player?/What is your favorite food?/
What is your favorite flower?/When is your birthday?/Do you have brothers or sisters?/
How is youf Japanese life?
もし,生徒からそれ以上質問が出ない時には,AETが生徒に簡単な質問をした。例えば,
Do you have a pet?/What is your pet sname?/What animal do you like?/Do you likeκ脚εわo∫痂?/
How old are you?/What is 5μ耀o?
この間,彼らのやりとりはビデオに録画された。今回,藤田は生徒の手助けをしなかったので,問 題が生じたとき生徒は自分達の力で解決しなければならなかった。
4,3,4,1アンケート調査
アンケート調査は面接テストの直後に行われた。その質問項目は,個人面接のものと同じである。
このアンケート調査をしたときには,生徒が英語の勉強を始めてから約6か月が過ぎていた。我々は これら3つの学級それぞれが違った雰囲気を持っているのに気づいていたが,それは,この集団面接 を行った結果にも反映されている。例えば,1組は定期テストにおける平均点は,3クラス中最も低 い。しかし,1組の生徒は自分を肯定的に捉えているようであり,英語を学習することをあきらめた
り,さぽったりしない。選択肢キ「またやりたい」の大きな割合が彼らの気質を示している(付録 6参照)。また「気づいたこと」を問う質問に対しても3クラスの異なった性格が明らかになった。3 組の生徒はまじめで自分に厳しい評価をする。実際この学級は私が教えている3クラス中のみなら ず,学年9クラス中でも最も優秀であるが,上記の通り,彼ら自身による評価は楽観的ではない。
「面接テストを終えて考えたこと」では,「ますますやる気が出た」などが多く,「やる気がなくな った」や「意欲は変わらない」はごく一部の生徒である。
4.3.4.2生徒のレポート
集団面接の後で書かれた生徒の感想のいくつかを以下に示す。
1 スモーリー先生が言ったことのほとんどがわかってうれしかった。また,スモーリー先生と面 接をしたい。すらすら話せるようにもっと一生懸命勉強したい。
2 前よりも英語を話し,いろいろなことを話すよう努力している。ますますやる気が出た。
3 毎日英語を勉強したら,知らない内に聞く力や話す力がついた。
4 知らない単語が時々出てきたので,もっと勉強しなければならないと思った。
5 会話がうまくいったかどうかは別として,自信を持ってたくさん話すことができた。「やれば できる」ということがわかった。やる気が出た。
6 聞く力が弱いことに気づいたので,もっと勉強しようと思う。
「知らないうちに力がついた」という生徒の感想が印象深かった。というのも,この活動によって 生徒は達成感と喜びを得,自己の能力に気づくことができたことが明らかになったからである。
4.3.4.3.教師の授業記録
個人面接に比べて,集団面接ではいくつかのグループが問題に直面した。この面接テストが生徒 の自信にマイナスに働いたかもしれないと感じられるところがあるのである。その原因の一部は,面 接をしたAETが新任だったということである。彼女は生徒の話す能力や思春期に特有の態度につい てよく理解していなかった。また,彼女は前任のAETほど生徒の応答を待たず,自身が速い英語を 話した。そのため生徒は動揺してしまった。この意味では3組の生徒が最も不運だった。3組の生徒 は最も勤勉で,まじめであり,彼らは非常に一生懸命面接テストのための準備をした。しかし,3組 の面接時にはAETの疲労はピークに達しており,あまりよい条件だとはいえなかった。生徒の情意
面への配慮が乏しくなりがちであった。そのため,3組の生徒はまごつき,簡単な質問にも答えられ なくなってしまった生徒もいた。「この活動をもうやりたくない」という回答が3組で比較的多かっ た理由はこの点にあると思われる。
4.3.5 スピーチ
まず,生徒に次のような見本のスピーチとスピーチの書き方についての注意が書かれたプリント
(付録7参照)を配った。
Hello, everyone.1 m from Tsuchiufa. I hke running. I like osampo. I like enka. I like milk and niboshi. I like kasutera, too. But I don t like pedigricham. I don t like cats. My name is Charo.
Whoam l?
まず,生徒は日本語で自分のスピーチについての計画を練る。次に,英語で荒書きを書く。基本 的には既習の文を使うが,もっと難しいことを言いたい時には先生に質問したり,辞書で調べたり する。生徒達は前もって発表の日を決めて,申し出ておく。
1日に3,4人の生徒がスピーチを行った。残りの生徒は聞く側にまわり,(1)声の明瞭さ,(2)発 音の正確さ,(3)話し方の流暢さ,(4)話の内容,(5)話す態度の自然さ,の5つの基準に従って評 価した。
スピーチを聞いて,もし疑問点がある場合は生徒は質問できる。この活動の最後には毎回AETが 発表した生徒一人一人にコメントを述べた。生徒はAETのコメントも聞いて,評価カードに記入す る。評価カードの記入が終わったら,それは回収され,チェックを受けた後,スピーカー一人一人 に返却された。
4,3.5.1アンケート調査
スピーチ終了時に行ったアンケート調査では,「恥ずかしかった」や「緊張した」も少なくなかっ たが,「楽しかった」や「自信がでてきた」がそれに劣らず多く,生徒たちがこの活動を肯定的に受 けとめたのがわかる。
次に生徒の感想の一部を示す。
1 ジョンソン先生がもっとぼくのスピーチを聞きたいと言ったので,もっと勉強することにした。
2 もっと長く書けばよかった。でも,ジョンソン先生が juice の発音をほめてくれたのでうれ しかった。
3 原稿を読んでしまったので残念だった。もっと準備すればよかった。
4 ちょっと緊張したが,思ったよりよくできて自信がついたと思う。
5 友達は「それは難しすぎる」と言ったけれど,やってみたらかえって自信がついた。ちょっと 緊張した。よく練習しなかったので後悔しているけど,楽しかった。
6 初めて友達の前で英語を話した。間違ったけれど,英語を話すことに関して進歩したと思った のでうれしかった。
7 最初,緊張したけど,話すにつれてもっと話したくなった。
うまくいってもいかなくても,生徒は英語を勉強することにまじめであることがわかった。
4.3.5.2評価カード
生徒のスピーチを聞いた後,AETは評価カードに記入し,感想を述べ,生徒を励ました(付録8 参照)。ここではMという生徒の発音がよかったと述べ,特に R と L が区別できていると誉 めた。評価カードに Shellfish と書かれてあるのは, Mという生徒がこの語を使ったが,一般の生 徒にはこれは難し過ぎると判断して,解説したことを示している。他の生徒もスピーチを評価し,得 点を集計する。そうするためには,生徒は注意深くスピーチを聞かなければならないわけである。ス
ピーチ終了後ほとんど毎回,だれかがスピーチの要点を明らかにするために質問した。
4.3.5.3教師の授業記録
生徒の発表には驚いた。まず,生徒は自分のスピーチを暗記してきた。確かに,事前指導で「原 稿は読まない方がいい」と言ってはあったが,彼らがスピーチを暗唱してきて,級友の方を見なが
ら話しかけるとは思わなかったのである。
次に,聞いている生徒は話し手によく反応した。例えば,最初のスピーカーが Hello, everyone!
と言うと,残りの生徒が元気に Hello! と応じたのである。話し手と聞き手とのこの種のやりとり は,スピーチを聞いてからの質問コーナーまで続いて,活発に行われた。どうやら,最初の生徒の スピーチが他の生徒に良い刺激となったようである。よい手本を見せるため,最初の3,4人のスピー カーは生徒からの申告でなくこちらが選出しておいたのだが,そのねらいは当たったといえる。
4.3.6劇
まず,劇を演じる手順について説明した後,以下のような活動のスケジュール表を生徒に与えた。
劇を演じよう!
上演までの予定
題:外国からのお客様を迎えての歓迎会または誕生パーティ 1状況設定:状況,登場人物,あらすじ決め
2台本書き 3台本読み合わせ 4舞台稽古
5 リハーサル
6上演7評価
生徒は6つのグループに分かれ,英語で各グループ独自の台本を書いた。生徒は配役を決め,授業 中や放課後に演技の練習をし,劇のために必要なものの準備をした。授業中のごく短い時間,各グ ループとも自分達の劇の一部を演じてみて,相談をし直し,次の授業時間に級友の前で演じた。生 徒が演じた劇の題名の例を以下に示す。
Welcome, Catherine/At Sushi shoP/Hijack!/Birthday party/Good−by, Mr. Bessho
AETをはじめ,観劇した生徒は,それぞれのグループの劇について評価し,最優秀俳優を選んだ。最 後に,AETが各グループの劇について寸評をした。その劇は録画され,話す能力を見るための資料
とされた。(付録9に評価カードを示す。)
4.3.6.1アンケート調査
劇を鑑賞した後で,「初めて劇を演じてどのような感想をもちましたか?」などの質問をしたが,
3組とも「楽しかった」「もっとやりたい」「もっと準備すればよかった」が最も多かった。
3組がほかのクラスより緊張してしまったが,それには理由がある。3組の劇は授業参観日に演じ られた。つまり,自分の保護者に劇を見られて,3組の生徒は非常に緊張してしまったのである。
生徒にとって初めての経験がもう一つあった。それはビデオに撮られたことであった。前もって 録画するとは告げておかなかったので,生徒は動揺してしまったのかもしれない。
4.3.6.2生徒のレポート
以下に,この活動についての生徒の感想の典型的なものを挙げる。
1もっと上手に発音したかった。
2もっと大きな声で言えばよかった。
3もっと一生懸命練習すればよかった。
4練習期間が短かったと思う。
5ベストを尽くした。
6次回はもっと一生懸命やりたい。
7協力してできた。
8話をもっとおもしろくすればよかった。
9自分の役割を果たせなかった。
10原稿を見ないでできた。
11自分達で台本を書けたのでうれしい。
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ス人かの生徒が十分な準備時間がなかったと述べているが,その責任の一端は教師の側にあると 考えている。実際生徒の練習状況を見ると,この活動のために作ったスケジュールから遅れてい たので,準備期間を延長したかった。AETもまた同意見だった。しかし,予定を変更する余裕がな かったのである。もし,この活動を行った結果として生徒が自信をなくしたり,英語が嫌いになっ たとしたら,その責任はこちらにある。この失敗を取り返すためには,生徒の「また演じたい」と いう声に応えるしかないと思っている。
4.3.6.3 教師の授業記録
劇を演じることは,多かれ少なかれ現実的状況に近い場面で英語を話したり,聞いたりする経験 を生徒に与える手だての一つである。自分が俳優になって劇を演じる時,特殊な状況の中で自分自 身とは異なった人格を生徒は演じた。生徒の想像力は,演劇で最高に花開いた。彼らがさまざまな 才能や想像力をもっていることを知ることは教師に感銘を与えるものである。生徒達も友人の新た な側面に気づいたようである。これは生徒の英語の能力の伸長には関係ないかもしれないが,生徒 相互に親しい人間関係を築き,相互の感情を通わせるのに大切なことであると思われる。この活動 を通して生徒は友達と互いに関わり,他者を受け入れるという経験をしたのである。
生徒にとって準備をする十分な時間はなかったけれども,いくつかのグループは非常によく演じ
た。このことは他のクラスでも噂になり,このクラスに負けずに劇の上演にがんばろうというよい 意味での刺激になったのである。
引 用 文 献
ハイルマン,A. W.(松香洋子監訳).1981。 rフォニックス指導の実際』.東京:玉川大学出版部.
稲垣明子.1984.rうたとリズムでフォニックスー一入門期の英語指導』.東京:厚徳社.
Matsuka Phonics Institute.1988.τα舵ρ∬w勧Phoη c5. Tokyo:Nisshin Co., Ltd.
松香洋子・谷ロジョイス.1984.『英語,話せますか』.東京:読売新聞社.
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