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ガバペンチン服薬を契機に症状が改善した小児線維筋痛症の1例

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(1)

函医誌 第34巻 第1号(2010)

11

要     旨

 今回我々はガバペンチン服薬によって症状の改善がみ られた小児線維筋痛症の1例を経験したので報告する。

症例は

10

歳男児。

2008

年6月より全身の疼痛を自覚,外 来通院していたが症状が改善しないため,精査加療目的 に入院となった。各種血液,画像,生理学的検査上大き な異常を認めなかったことから,器質的疾患による疼痛 は否定的であり,

allodynia

を認めたことから,線維筋痛 症を疑った。診断基準の

18

箇所の圧痛点は全て陽性で あった。発症後約1ヶ月であり診断基準は満たさない が,線維筋痛症として抗ヒスタミン薬の内服,疼痛に関 する話題を避けたり,コメディカルスタッフとの交流を 図るなどの治療を開始した。2週間程経過観察したが,

症状の改善が見られないため,抗ヒスタミン薬の服薬を 中止しガバペンチンを漸増投与したところ,疼痛は徐々 に軽減し動きも活発になった。その後ガバペンチンによ る肝機能障害が出現するも投与を継続,症状が軽減した ため,漸減,中止したが症状の悪化はなく,発症6ヶ月 目には疼痛は消失した。

は  じ  め  に

 線維筋痛症は慢性的な筋骨格系疼痛,特有な圧痛点,

多彩な不定愁訴を呈する原因不明のリウマチ性疾患であ る。近年成人領域では注目されてきているが,小児領域 では馴染みの薄い疾患である。薬物治療については,成 人では抗うつ薬が第一選択とされており,抗けいれん

薬,ノイロトロピン,抗ヒスタミン薬,漢方なども用い られているが,小児においては有効な治療法が確立され ておらず,疾患概念の捉えにくさから,精神疾患や詐病 と誤解されることも多いのが実情である1)2)。近年本邦 でも症例の報告は増えてきており,治療法の早期の確立 が望まれる。

症     例  症 例:

10

歳 男児。

 主 訴:全身の接触時の疼痛。

 既往歴:気管支喘息。

 家族歴:特記すべきことなし。

 現病歴:

2009

年5月気管支喘息で当院小児科にて入院 加療を行い,症状が改善したため退院した。その直後よ り全身の接触時の疼痛を自覚,症状が改善しないため,

当院小児科を受診。6月6日精査加療目的に入院となっ た。

 入院時現症:身長

140.5cm

,体重

40.6kg

。体温

36.7

℃,

血圧

130/ 70mmHg

,脈拍

104/

分。胸腹部に異常なし。四 肢の肘・膝より近位端,体幹全体,耳介〜頸部に接触時 の疼痛を認めたが,関節腫脹や可動時痛を認めなかっ た。

 検査所見(表1):血液検査では,一般血液,生化学検 査に異常を認めず,抗核抗体陽性であったが,各種自己 抗体に上昇を認めなかった。

【経過】

 入院後経過を図1に示す。

 確定診断はつかない状態であったが,当初症状から若

ガバペンチン服薬を契機に症状が改善した 小児線維筋痛症の1例

大野真由美 酒井 好幸 橋本  真 平川 賢史 須佐 史信 依田弥奈子

A case report of Fibromyalsia symtom improved by internal use of the Gabapentin

Mayumi OHNO,Y oshiyuki SAKAI,Shin HASHIMOTO Satoshi HIRAKA W A,F uminobu SUSA,Minami Y ODA Key  words: Fibromyalgia ―― Gabapentin

症例報告 

市立函館病院 小児科

(2)

12

函医誌 第34巻 第1号(2010)

年性皮膚筋炎を念頭に置き,ステロイド投与を行った が,疼痛の改善を認めないため,約2週間で漸減,中止 とした。また,

NSAIDS

投与も行ったが,疼痛に対する 効果を認めなかった。

 各種自己抗体の上昇なく,骨単純写真,

MRI

検査,神 経伝導速度検査を施行したがいずれも異常を認めないこ とから,器質的疾患による疼痛は否定的であると考えら れた。

allodynia

を認めたことから,線維筋痛症を疑い圧痛 点の検索を行った。

18

圧痛点が全て陽性,対称点は全て 陰性であった。発症から約1ヶ月であり,診断基準は満 たさなかったが,線維筋痛症疑いとして治療を開始し た。

 まず国内での治療例を参考に,抗ヒスタミン薬として ニポラジンを投与し,同時に,院内学級への参加,疼痛 の話題を避ける,コメディカルとの交流をはかるなどの 対応を行った。

 2週間程投与を継続したが,疼痛の改善がないため,

抗ヒスタミン薬を中止し,ガバペンチン

200mg/day

から開始し

1200mg/day

まで漸増投与後,3週間程度で 疼痛の範囲が徐々に縮小していった。肝機能障害をきた したが,本人,家族と相談し投与を継続,症状の改善が

見られたため,漸減していき,8月

15

日退院となった。

この時点で疼痛が持続していたため,線維筋痛症と診断 した。その後,さらに疼痛の改善がみられたため,ガバ ペンチン投与を中止したが増悪なく経過し,発症6ヵ月 後には疼痛は消失した。

【考察】

 線維筋痛症の診断は,炎症性疾患,腫瘍性疾患,外傷 などを除外した上で,米国リウマチ学会の診断基準3)を 用いて行われる。すなわち,①身体の左右,上下半身,

さらに体軸骨格部の全ての領域に疼痛の訴えがあり,

3ヶ月以上持続する。②4

kg/cm

の力で

18

の特異的圧 痛点を触診し,

11

箇所以上に圧痛を認める。ただし3つ の陰性圧痛点(前額正中部,右前腕背部,左親指の爪)

には圧痛を認めないこと。を満たすものである(図2)4)。  本症例では,各種画像検査,血液検査,生理検査の結 果から,器質的疾患による疼痛は否定的であると考え た。

allodynia

を認めたことから,線維筋痛症を疑い圧痛 点の検索を行い,

18

圧痛点が全て陽性,対称点は全て陰 性であったため,線維筋痛症を強く疑った。その後疼痛 の持続期間が3ヶ月に達したため,線維筋痛症と診断し た。

 何らかの発症誘因(外傷,感染,心理的トラウマ,内 分泌疾患,免疫疾患,自己免疫疾患など)がある場合も あるとの報告もあるが4)5),本症例では,特に誘因は明ら かでなかった。また,罹患する患児の特徴としては,患 児と母親の相互依存性,完全主義的,感情移入しやすい,

年齢に比して大人びているなどの点が国内の症例から報 告されており4),本症例の患児にも,比較的そのような 特徴が見られていた。

 小児領域で試みられている治療としては,成人と同様 の薬物療法も行われているが,

表1 入院時検査所見 血清学 生化学

末梢血

ANA 40倍 T-Bil 0.5mg/dl

WBC 13000/μ l

RF 9U/ml TP 7.4g/dl

Neutro 77%

IgG 868mg/dl Alb 4.4g/dl

Lym 9%

IgA 167mg/dl AST 15IU/l

Mono 4%

IgM 169mg/dl ALT 15IU/l

RBC 524×10

/μ l

C 3 120mg/dl LDH 242IU/l

Hb 14.5g/dl

C 4 18mg/dl ALP 535IU/l

Hct 42.4%

CH 50 36mg/dl AMY 53IU/l

Plt 28.8×10

/μ l

抗AChR抗体 陰性

CPK 58IU/l

BUN 14mg/l

CRP 0.01mg/dl Cre 0.5mg/dl

ESR 8mm/h Na 141mEq/l

K 3.8mEq/l Cl 105mEq/l Ca 9.5mg/dl

図1 入院後経過

抗ヒスタミン薬  ガバペンチン 

ステロイド 

院内学級 

疼痛 

入院  2週  3週  6週  10週 

診断 

図2 診断のための圧痛点(18箇所)と対照点(3箇所)

文献4より

膝: 

関節境界線  からの近位  側の内側脂  肪パッド  後頭部: 

後頭下の  筋付着部 

3  2 

4  5 

6 

8  9 

19  18 

16 

13  12 

14  15 

17 

21  20  10 

 

11 

2/3  1/3  肩甲部: 

(僧帽部) 

上縁の  中央点 

棘上筋: 

肩甲(骨) 

棘の内側  縁の上部  殿部: 

殿部の上部  外側の四半  部  大転子部: 

大転子隆起の  後部 

下位頸部: 

C5〜C7の横  突間の前面 

第2肋骨: 

第2肋骨肋  軟骨連結部 

外側上顆: 

上顆から  2cm遠位  側 

(3)

函医誌 第34巻 第1号(2010)

13

適応年齢や副作用の問題から導入困難で,有効性が低い ことが多いため,カウンセリングや,疼痛の話題を避け る,コメディカルとの交流や院内学級で他児との交流を 図る,母子分離を図るなど,精神的アプローチを中心と した治療が行われていることが多く,それのみで症状が 軽快する例もある4)。本症例においても,このようなア プローチを行ったことが,症状改善の一助となったと思 われる。

 今回の症例では,抗ヒスタミン薬が無効だったため,

米国で線維筋痛症の治療薬として認可を受けているプレ ガバリンの類縁であるガバペンチンを漸増投与し,疼痛 の軽減がみられた。ガバペンチンは,

1993

年に英国およ び米国で成人のてんかんの部分発作に対する併用薬とし て承認され,

1999

年小児に対する適応が認められて以 来,抗てんかん薬として広く使用されている。

2003

年に 米国で帯状疱疹後神経痛に対する適応が認められたが,

適応外の様々な慢性疼痛に対しても使用されている。ガ バペンチンは,シナプス前の電位依存性カルシウムチャ ネルの

α 2

δサブユニットに対するリガンドであり,シ ナプス前ニューロンからの神経伝達物質の流出を抑制す ることにより,抗てんかん作用だけでなく疼痛に対する 効果も発揮するものと考えられている5)6)。米国で施行 された成人を対象とした二重盲検試験によると,本剤を

1200mg-2400mg/day

投与することで,線維筋痛症に伴 う疼痛の程度の軽減がみられ,睡眠障害やうつ症状など 他の随伴症状の改善がみられたという結果が得られてい る6)。本邦でも線維筋痛症の治療薬として注目を集めて おり,今後さらに使用例の報告が増えるものと思われる。

 小児の線維筋痛症に対して,ガバペンチンが有効で あったという報告は少ないが,本症例のように効果的な 例もあり,治療薬の一つとして検討する価値はあると思 われる。

【まとめ】

 今回我々はガバペンチン服薬を契機に症状が改善した 小児線維筋痛症の1例を経験した。

 肝機能障害が出現するも投薬を継続し,その後症状が 改善傾向だったため,漸減,中止したが,ガバペンチン 服薬を開始してから明らかに症状の改善がみられた。

 今後,さらなる症例の検討が必要となるが,線維筋痛 症の薬物療法としての役割が期待される。

文     献

1)伊藤保彦,五十嵐徹,福永慶隆:注目されている膠 原病類縁疾患:線維筋痛症.小児科診療,

2005

68

697-702.

2)宮前多佳子,渡辺由佳,横田俊平:わが国における 線 維 筋 痛 症 の 実 態 と 臨 床 像.日 児 誌,

2008

112

1769-1777.

3)

Wolfe F

Smythe HA

Yunus MB

et al

The American College of Rheumatology 1990

criteria for the classification of fibromyalgia

report of the Multicenter Criteria Committee

Arthritis Rheumatism

1990

33

160-172.

4)横田俊平,梅林宏明,宮前多佳子,ほか:小児期の 線維筋痛症の3例の経験.日児誌,

2007

111

462- 468.

5)伊藤保彦,五十嵐徹,福永慶隆:疾患・病態におけ る鎮痛コントロール:線維筋痛症.小児科,

2008

49

1630-1634.

6)

Treatment of Fibromyalgia

A Randomized

Double-Blind

Placebo-Controlled

Multicenter Trial

Arthritis Rheumatism

2007

56

1336-1344.

参照

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