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周術期の循環動態評価における肺超音波検査の有用性

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原箸「 名寄市病誌 18:5〜8,2010

周術期の循環動態評価における肺超音波検査の有用性

The Utr7ity ofLullg Ultrasonography ih Cardiac Pervbperative Hemodyllamfc Monitoring

増田 孝広1),舘岡 一芳2),松井 康二2),遠山 裕樹2),櫻井 行一)

掬勲舳0傭5μ幽    κ∂Z呼03毎Tfiteoka   A琢1ル秘5αノ      }4uki  Toyatpa     1〈oichi Sakurai

Key Words:肺超音波検査,血行動態モニタリング,超音波スクリーニング検査,心臓手術周術期管理

はじめに 対象・方法

 超音波検査は簡便かっ低侵襲に施行でき,感度,

特異度にも優れるため,今日さまざまな領域で用 いられている.だが,超音波には空気中で著しく 減衰し,伝導速度が低下する性質があるため,組 織に空気を多く含む肺は伝統的に超音波検査に適

さない臓器とされてきた1).

 しかし近年,超音波検査で積極的に肺を評価し ようとする報告が救急医学や集中治療医学などの 領域で現れており,これまでに気胸2),肺挫傷3),

肺水腫1)5),急性呼吸窮迫症候群6)などの肺病変の 評価が試みられている.特に,病態の速やかな評 価が要求される救急医学では,病院前診断で肺超 音波検査がスクリーニングに有用であるとの認識 が広まりっっあり7),肺超音波検査の重要性が増 大している.

 肺病変における超音波検査の知見が蓄積される 一方で,より最近では肺超音波検査を循環動態の 指標として活用しようとする研究も現れ,これま でに肺動脈襖入隅を予測する試みが報告されてい る8).従来,集中治療医学では循環動態は専ら肺 動脈カテーテルを中心とした侵襲的なデバイスで 評価されてきたが,そうしたデバイスの使用は重 大な合併症発生のリスクを無視できない.肺超音 波検査によって簡便,迅速に循環動態の予測が可 能となれば,臨床上も有用と考えられる.そこで 我々は,心臓手術周術期症例に対して肺超音波検 査を施行することにより,循環動態評価における 肺超音波検査の有用性を検討した.

症例;当院で冠動脈バイパス術を施行した5例に 肺超音波検査を施行した.

評価手順:肺超音波検査は従来の報告に記載され ている評価方法をそのまま用いた1)(図!,図2).

まず,M−modeで胸膜下肺組織の呼吸性移動を確 認し,呼吸性移動を認めた場合をlung−sliding陽性 とした.次にB−modeで二つのアーチファクト,

A−lineとB−lineの有無を評価した. A−lineは,肺の 領域に胸膜と平行に描出される線状のアーチファ

クトである8).A−lineは胸膜下に間質性の滲出液 貯留や炎症などの病変が存在しないことを示唆す

る.走査にてA−lineのみを認める場合をA−line pred。minantとした. B−lineは,胸膜に対して垂直

に描出され,A−lineを消去する放射線状のアーチ ファクトである8).B−lineは臓側胸膜下の問質性 の滲出液貯留や炎症などの病変を示唆する.

B−lineを少なくとも1本認める場合をB−line predominantとした.

1)名寄市立総合病院研修医

 Residen4 Nayoro City Genera/ Hospita7

2)名寄市立総合病院麻酔科

 ∠)θP∂rtmθnt of・4flesthesia,八fayoro crty Gθnera/ Hospi ta7

5

図1 正常肺の肺超音波検査所見の例(文献1)よ り引用).左;胸壁から胸膜までの距離に等しい 間隔で,胸膜に平行なアーチファクトを認める(A

−line,水平方向の矢印).垂直方向の矢印は,

肋骨と胸膜を示す.右:胸膜下の肺の移動を示

す所見(1ung−sliding).矢印は胸膜を示す.

(2)

図2 胸膜下の滲出液などの病変を示唆する所見

(文献1)より引用).胸膜に垂直な放射線状のア ーチファクト(B−line)を認める.本来点線矢印 の部分に認められるべきA−lineが, B−lineによ って消失している,

襖入圧は表1の通りであった.今回の結果,全て の症例で手術前後を問わずlung−sliding陽性であ

り,A−line predominantであった(図3,図4).

性別 男性 男性 女性 男性 男性

定期・臨時

定期 臨時 臨時 臨時 定期

lung−sliding (+) (+) (+) (+) (+)

predominant A−line A−line A−line A一【ine A一[ine

術前BP(mmHg)

138/72 127/51 82/60 92/55 98/64

PAP(mmHg)

30/18 39/20 30/14 36/29

16/7

PAWP(mmH)

16 22

11 24

8

1ung−sliding (+) (+) (+) (+) (+)

predomlnant A−line A−line A−line A−line A−line

術後BP(mmHg)

124/71 95/71 107/62 116/50 108/62

PAP(mmHg)

20/13 22/14 24/10 26/14 20/8

PAWP(mmH)

9

7

10

8 7

表1 5例の特性,肺超音波所見,および血圧(BI ood Pressure;BP),肺動脈圧(Pulmonary Art ery Pressure;PAP),肺動脈模入圧(Pulmonary

Artery Wedge Pressure ; PAWP).

手術前評価:手術前の肺超音波検査は,麻酔導入 後,十分な鎮静が得られ,気管挿管され人工呼吸 管理中の症例に対し施行した.検査は全例仰臥位 で施行した.機器はSonosite社のMicroMAXXTxiを 用い,探触込はマイクロコンベックスプローブを 用いた.左右の鎖骨中線上,第4肋間をアコース ティックウインドウとして,最初にlung−slidingを 評価し,次いでA−1ine predominantであるか,

B−line predominantであるかを評価した.同時に,

身骨動脈カテーテルと肺動脈カテーテル

(Swan−Ganz cathetel,@7.5F, Edwards Lifescience)

により種々の循環動態の指標を測定した.動脈血 ガス分析,経皮的酸素飽和度もあわせて測定した.

手術後評価:手術前評価を行った全例に対して,

手術前評価の24時間後に肺超音波検査を施行し た.機器や操作方法は手術前の肺超音波検査と同 様に行った.油画動脈カテーテル,肺動脈カテー テルによる循環指標に加え,動脈血ガス分析,経 皮的酸素飽和度も同様に測定した.

結果

 5例のうち4例が男性,1例が女性であった.手 術は2例が待機手術,3例が臨時手術であった.手 術後評価の時点で,3例が抜擢されており,2例が 人工呼吸管理中であった.

 全例に対して手術前評価,手術後評価を施行し た(表1).左右の肺の評価に要した時間はそれぞ れの症例にっき1分以内であった.

 5例の肺超音波所見と血圧,肺動脈圧,肺動脈

図3 今回の症例での肺超音波検査の所見例(2例 目手術前右肺).lung−slidng陽性とした.

図4 今回の症例での肺超音波検査の所見例(2例 目,手術前右肺).矢印の部分にA−lineを認める が,B−lineは明らかでない. A−line predominan tとした、

6

(3)

考察

 全ての症例で手術前後,肺の左右を問わず,

1ung−sliding陽性であり,A−line predominantであ った.今回対象となった症例には手術前に肺疾患 を指摘されていた症例は1例もなく,肺病変のな い症例の肺超音波検査としてこれは妥当な結果と いえる.実際に,血液ガス分析や経皮的酸素飽和 度でも拡散能の低下や酸素化の不良を認めず,肺 門音波検査所見と矛盾しなかった.こうしたこと からも,肺病変の評価としての肺超音波検査は,

これまでの報告と一致していると考えられる.

 一方,循環動態の評価は,これまでの報告と我 々の結果に相違を認めた.Lichtensteinらは,集 中治療室(ICU)で管理されている症例を対象に,

肺超音波検査所見と肺動脈二二圧との関係を検討 し,肺動脈二二圧のカットオフ値を18mmHgとす るとB−1ine predominantの特異度が増加すると報告 している8).しかし我々は肺動脈襖入圧と肺超音 波所見との相関関係を見出せず,すべての症例で A−line predominantであった.この相違の理由と

して,我々の症例の均一性が考えられる.

Lichtensteinらの研究は, ICU管理下に肺動脈カテ ーテルを挿入した全症例を対象としており,その 疾患は多岐にわたり,非均一的であった.一方,

我々は冠動脈バイパス術の周術期症例のみを対象 とし,疾患の全例が虚血性心疾患であった.この ような症例の均一性が,これまでの結果との相違 を導いた可能性がある.

 また,手術前検査が手術室で行われたことも相 違の理由のひとつに挙げられるかもしれない.今 回の症例は,2例が待機手術,残る3例は当院到着 後直ちに緊急手術が施行された.待機手術症例は,

手術前に水分摂取の管理が行われ,肺超音波検査 でB−lineが出現しえなかったものと考えられる.

緊急手術症例では,肺動脈襖入山の高値や,肺動 脈圧の上昇を認めた例はあったが,肺水腫を疑う 臨床像は認めなかった.発症から手術開始までが 短期間であったために,B−1ineが出現する前に手 術前評価が行われたものと考えられる.

 このように考えると,心臓手術周術期の肺超音 波検査は,ICU管理における肺超音波検査とは異 なる特性を持っているのかもしれない.心臓手術 呪術期のプロトコルに絞り,より多くの症例を検 討することで,これまで議論されてきた,ICU管 理における肺超音波検査の有用性とは異なる,新 しい観点からの肺超音波検査の有用性が議論でき

7

るだろう.

 ところで,これまでの肺超音波検査は質的評価 が中心であり,我々も質的評価のみを扱ったが,

最近では呼吸状態や循環動態を肺超音波検査で量 的に評価しようとする研究が現れている.Aglic。la

らは,B−lineの本数と肺動脈襖入圧に正の相関関 係を見出している9).我々の結果ではB−lineを認

めなかったので,この報告について直接議論する ことはできないが,B−lineと肺動脈襖入圧との定 量的な関係を議論することは,肺超音波検査を通 じてより詳細な循環動態の評価を行うためには重 要と考えられる.我々の結果から量的評価につい て議論するためには,より多くの症例からの知見 の蓄積が必要かもしれない.肺超音波検査の所見 をいかに定量化するかという課題は今後さらに議 論されるであろう.

 これまで,心臓手術治術期の血行動態の評価は,

もっぱら肺動脈カテーテルを中心とした侵襲的な デバイスを通じて行われてきた.肺超音波検査で 得られる知見は肺動脈カテーテルのそれと比較す ると限定的で,量的評価は検討が不十分な状況で ある.今後もなお,肺動脈カテーテルによる血行 動態の把握は必要であろうが,緊急手術症例の手 術前評価に代表されるように,迅速な評価が必要 となる状況では,低侵襲で,両側の肺評価を!分 以内に施行できる肺超音波検査は特に有用と考え

られる.今回は5例という限られたサンプルサイ ズを通じた議論であるが,今後症例数を充実させ,

知見を集約し,より詳しい循環動態の評価法を議 論することが,今後の課題といえよう.

おわりに

 周面期における循環動態の迅速な質的評価の方 法として,肺超音波検査は有用であった.肺超音 波検査による循環動態の量的評価,心臓手術周密 期症例の評価法についての議論には,今後の十分 な症例の蓄積が必要である.

(4)

1)

2)

3)

4)

5)

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    2005.

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参照

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