原 著 〔東女医大誌 第62巻 第9号頁853∼861平成4年9月〕
超音波パルスドッフ.ラー法による胎児循環機能評価
東京女子医科大学 産婦人科学教室(主任 ナン バ ハル コ 難 波 治 子 武田佳彦教授) (受付平成4年4月16日) Evaluation of the Fetal Hemodynamics by the Doppler Ultrasomd Tecllnique Haruko NAMBA Department of Obstetrics.&Gynecology(Dir㏄tor:Prof. Yoshihiko TAKEDA) Tokyo Women’s Medical College T.he hemodynamic changes of systemic circulation in normal developing fetus were evaluated using the Doppler ultrasound vel㏄imetry. Serial and simultaneous measurements of blood flow velocity and resistance index(R.1.)in fetal midcerebral artery, common carotid artery, descending aorta, abdominal aorta, common iliac artery and umbilical artery were performed in 58 cases of normal pregnant wQmen. Blood flow volume was determined in aorta and common carotid artery with an esti.mated error of less than 10%. Blood flow volume in both cephalic and abdominal circulation increased steady with advance of pregnancy. Significant correlations were observed between common carotid arterial blood flow volume and biparietal diameter(BPD)with correlation coefficient of O.902 and between abdominal aortic blood flow and abdominal area(AA)with that of O.901,respectively. These two parameters may be useful for evaluation of fetal cephalic and trunk growth. Adeclining tendency of vascular resistance of midcerebral artery was more remarkable than that of common carotid artery during the third trimester, while those of abdominal circulation did not show any remarkable declining tendencies. Placental flow resistance decreased with advance of pregnancy. These facts suggest.that brain needs more blood supply for functional maturation and increased demand of placental fetomaternal exchange than abdominal organs in which blood supply are mainly contributing somatic growth. It is concluded that blood supply in the fetal circulation steady increased with advance of pregnancy, however, these increasing trends were different with organ to organ reflect童ng growth and maturatlon. 緒 言 分娩監視装置.の発達により,ヒト胎.児循環動態 ならびに胎児well−beingの状態がかなり解明で きるようになってきた.さらに,超音波パルスドッ プラー法の開発により,子宮,胎盤,胎児個々の 血流動態をよりくわしく解明できるようになっ た. 正常ヒト胎児の成長において,特に各臓器の発 達においては,臓器毎に妊娠週数によって,その 程度に差がみられる.しかしながら,各臓器の発 達と,各臓器別の血流動態との関係につ.いては, 未だ十分解明されていない. そこで,本研究においては,超音波パルスドッ プラー法を用いて,正常妊娠例で胎児各動脈部位 の血流量,resistance index(RI)を測定し,各臓 器での血流動態の妊娠週数による変動について検 討したので報告する.対象および方法 1.対象 1988年5月∼1992年6月目問に,東京女子医科 大学第二病院産婦人科に通院していた妊娠経過観 察中の妊婦で,母体および胎児合併症がなく,正 常月経周期を有していた58例を対象とした. 2.測定部位 超音波パルスドップラー装置,東芝SSA−270A 2.5MHzを用い,妊娠21∼42週の妊婦において, 胎児の中大脳動脈,総頸動脈,下行大動脈(横隔 膜直下の部位),腹部大動脈(腎動脈分岐部と総腸 骨動脈分岐部の間の部位),総腸骨動脈および謄帯 動脈の1血流動態を解析した.周波数分析は,FFT 法(fast fourie transformation)セこよって行った. 3.血流動態の解析 妊婦を仰臥位またはセミファーラー位の安静状 態でBモード法により測定血管を描写し,パルス トップラー法により血流波形計測を行い,血流動 態解析の指標として,血流量(VF)とresistance index(RI)を用いた(図1). ドップラー効果に基づいて,血液速度(V:m/ min)は以下の式より算出した. V=F・c/2・f。cosθ ここで,Fはドップラー偏位周波数, cは生体内に おける音速(約1560m/sec), fは送信周波数,θは 血球の運動方向と超音波ビームのなす角(血流に 対する超音波入射角)である.上記の式より求め たVと血管断面積(s:mm2)より,血流量(VF: ml/min)は以下の式により算出した. VF=60。s・V1) 血流量測定には,超音波ビームの入射角に対す る血流速度の誤差(図2),血管径測定誤差の問題 が生じる2)3).超音波ビームの入射角に対する血流 速度の誤差に関しては,図2のごとく,入射角依 存性に実際の血流速度を過小評価することにな り,入射角に対して角度補正を要する.入射角20. では,6%の過小評価にとどまるが,入射角が大 きくなるにつれて,誤差は,急速に大きくなり, 入射角60.では実測値の半分となる.そこで本研究 では,入射角はできるかぎり小さくするような ビーム方向で血管を描出し,大多数の症例は入射 図1 胎児贋帯動脈血流波形(妊娠34週胎児) 上:胎児贋帯動脈をカラーフローマッピングにて描 出,下:胎児贋帯動脈血流波形. % 100
8
蟄 遺6 度 誤 40 差 20 旦 0 10 20 30 40 50 60 了0 80 90 degree 超音波ビーム入躬角 図2 超音波ドップラー法による血流速度計測誤差の 入射角依存性 角20.∼300で全ての血流量を測定し,入射角度補 正を全例に行った. 妊娠末期胎児血管直径は6∼8mmであり,0.4 mmの測定誤差においても血流量10%の誤差が 生じる.血管直径はBモード画面上血管壁エコー の内側壁から内側壁(血管内径)を測定した.今回,計測した総頸動脈,下行大動脈も,血管直径
は6∼8mmであり,血管直径の測定誤差は大き
な問題となる.そこで,カラードップラー法にて 血管を正確に描出しえる長所をいかし,また胎児 動脈の中では比較的血管径が大であり,直線的に 描出しえる総頸動脈,下行大動脈を選んで血流量 の測定を行った.この方法では計測誤差は0.4mm 以内であり,血流計測での誤差は10%以内に止ま ると考えられる. 血流動態の分析には,ドップラービーム入射角 や血管径が影響を及ぼさない指標が現在用いられ ている.収縮期最高流速値をA,拡張末期流速値 をB,平均流速値をmeanとすると, Resistance index(RI)=(A−B)/A4) Pulsatile index(PI)=(A−B)/mean5) A/Bratio=A/B6) のような各種の指標が用いられている.本研究に おいては,resistance index(RI)を採用し,胎児 各動脈間1血管抵抗について検討した.RIは中大脳 動脈,総頸動脈,下行大動脈,腹部大動脈,総腸 骨動脈および膀帯動脈について測定した. なお,血流量においては,総頸動脈20例,下行 大動脈24例,RIは中大脳動脈42例,総頸動脈39例, 下行大動脈50例,腹部大動脈42例,総腸骨動脈40 例,丸帯動脈56’例の計測を行った.胎児血管は非 常に細く,胎児胎位によりすべての血管の描出が 不能であったものの,また,長時間を計測に要し, 母体の仰臥位持続が不能となり検査中断の症例も あり,測定部位において症例数の差が生じた. 胎児血流波形測定は,胎児躯幹および四肢の運 動,呼吸様運動により一様なドップラー血流波形 が得にくいため,胎児が静止している状態の血流 波形で,3波形を計算し,その平均値を用いた. また,妊婦をほぼ一定の状態とするため検査時間 は午前9∼11時,午後1∼3時の間とした. 4.胎児計測 胎児成長による血流量推移を判定するため,胎 児成長の指標として胎児大横径(BPD),胎児腹部 面積(AA),胎児大腿骨長(FL)を計測し,胎児 推定体重(ESBW)を以下の式より算出した. ESBW(9)=・ 584.8十〇.5339×BPD3十3.318×AA×FL7) なお,BPDは胎児頭部正中線エコーが描出される 断面,AAは胎児の大動脈に垂直でかつ踏静脈の 最も近位部が描出される断面,FLは大腿骨が最 も長く描出される断面において各々計測した. 5.統計処理 統計処理は,RIおよび1血流量と,妊娠虚数のあ いだの相関について分散分析を行った. 結 果 1.動脈血流量 1)分時血流量 総頸動脈血流量は,妊娠21週より妊娠40週にか けて20例,下行大動脈血流量:は,妊娠21週から妊 娠40週までの24例において測定可能であった. 総頸動脈血流量は直線的に増加し,妊娠21週目 おいて60ml/min,妊娠39週163m1/minと妊娠週 数に伴い約2.5倍の増加を示した.妊娠二二との相 関は相関係数0.864で正の直線相関を示した(図3 a).下行大動脈血流量は妊娠21週108∼128ml/ min,妊娠39週368ml/minと約3倍の増加を示し たが,増加の割合は総頸動脈血流とは異なり妊娠 中期にゆるやかで,妊娠後期に急増し,図3bのご とく曲線相関を示した. 2)胎児推定体重あたり血流量 各々の血流量を単位体重あたりの血流量として 胎児推定体重により算出すると,総頸動脈,下行 大動脈いずれも妊娠中期より直線的に低下し,妊 娠20週から40週では,総頸動脈では180m1/min/ kgより70ml/min/kg,下行大動脈では300ml/ min/kgより125ml/min/kgとそれぞれ約1/2に 低下した.総:i頸動脈血流量は相関係数0.751,下行 大動脈血流量は相関係数0.698といずれも妊娠週 数に伴い負の直線相関を示した(図4a, b). 3)発育に伴う血流分配 胎児心拍出量に対する妊娠品数による頭部循環 血流量と腹部循環血流量の分布変化を明らかにす るために,総頸動脈血流量と下行大動脈血流量の 和が胎児心拍出量に比例すると考え,総頸動脈血 流量/総頸動脈血流量+下行大動脈血流量を14例 で算出した.血流量の和は分時血流量,胎児推定 体重あたり血流量それぞれ妊娠21週168ml/min,a) 皿1/血 160 140 総 120 頸 動 脈 100 血 流 量 80 60 40 o o ○ ○ 8 ○
Oo
○○ ○ ○ ○ 2F=5.385つC−51.023 相関係数r躍0,864 n=20 笥∼,_一_一一・一一一一一一一一一一 〇 20 22 24 26 28 30 32 34 36 38 40 妊娠週数 b) ml/血in 50 450 王400 冥・・ 譲、・・ 血 甕250 黒 200 董50 ○ ○ ○ o o OOO
○○ ○・。・
J釜8瀦:50C+蹴
n=24暇∼一__一____一一一一一
0 22 24 26 28 30 32 34 36 38 40 妊娠週数 図3 a)総頸動脈血流量の妊娠白鷺による変化,b)下行大動脈血流量の妊娠週数による変化 a) 総 頸 動 脈 血 流 量 邸㎏価. 200 180 160 f40 120 100 80 60 ○Oo
O
写=一了.!43つじ十345,537 相関係数r=0.了51 n冨20 ○ ○ Q O ○ ○OO
○oO
b) 皿旬血. 32 王;1: 契,, 潔225鼎
量150 125 100 O ○O o oOQ
O O o 2F=一9.598つC・←494.935 相関係数τ冨0.698 n=24. ○Oo
OQ. 8・ 0 22 24 26 ‘28 30 32 34 36 38 0 22 24 26 28 30 32 34 36 38 娠妊週数 妊娠週数 図4 a)胎児推定体:重あたり総頸動脈血流量の妊娠週数による変化,b)胎児推定体 重あたり下行大動脈血流量の妊娠週数による変化 404ml/min/kg,妊娠32週393ml/min,250m1/ min/kg,妊娠39週643ml/min,268m1/min/kgと なり,妊娠噸数に伴い血流量は増加し,胎児推定 体重あたり血流量は減少した.総頸動脈血流量/総頸動脈血流量+下行大動脈血流量は妊娠中期
21∼32週にかけては,0.34∼0.45とほぼ一定であ るが,妊娠36週以降0.24∼0.28と減少した(図5). 次に頭部と躯幹とについてそれぞれの発育と血 流供給との関連を見るため,胎児大横径(BPD) ならびに腹部面積(AA)と総頸動脈ならびに下行 大動脈血流量との相関を検討した.総頸動脈血流 量と胎児大横径の相関については,相関係数0,902 で,正の直線相関を認めた(図6a).また,下行大 動脈血流量と腹部面積(AA)の相関についても, 相関係数0.901で極めて強い正の直線相関を認め た(図6b).2.各動脈RI値
系統循環系における発育に伴う主要臓器への循 環動脈の変化を検討するため中大脳動脈42例,総 頸動脈39例,下行大動脈50例,腹部大動脈42例, 総腸骨動脈40例,贋帯動脈56例について,妊娠 22∼42週の症例でRI値を検討した.血流量比 % 50 o o
Oo
o o O o ○ o o o O σ n=14 0 20 22 24 26 28 30 32 34 36 38 40 総頸動脈血流量 血流量比: 総頸動脈血流量+下行大動脈血流量 図5 総頸動脈血流量,下行大動脈血流:量和に対する 総頸動脈血流量の妊娠週数による変化中大脳動脈RI値は,妊娠20∼23週0.69±
0.16(mean±SE),妊娠28∼31週0.80±0.01と妊 娠中期にかけて,やや上昇し,その後減少傾向を 示した(図7a).総頸動脈RI値は,妊娠24∼27週 で0,63±0。08と減少し,その後上昇,・妊娠32∼35 週0.90±0.10と最大となり,妊娠40週にかけ 0.79±0.03と再度減少傾向を示した(図7b).下行 大動脈RI値は妊娠28∼31週で0.81±0.01から妊 娠32∼35週で0.73±0.02,妊娠40週以上で0.73± 0.01と減少したが,その他の週数では0.76± 0.01∼0.81±0.01とほぼ一定であった(図7c). 腹部大動脈,総腸骨動脈RI値はいずれも妊娠 28∼31週で0.74±0.02,0。70±0.04と若干の減少 を認めたが妊娠期間を通じてほぼ一定であった (図8a, b).膀帯動脈RI値は妊娠20∼23週0.74± 0.02,妊娠32∼35週0.66±0.03,妊娠36∼39週で 0.62±0.03と妊娠週数に伴い減少が見られ,妊娠 20∼23週に対し妊娠32∼35週,妊娠36∼39週は p〈0.05にて有意差を認めた(図8c,表). 頭部循環の基準として総頸動脈,躯幹の循環の 基準として下行大動脈を選び,動脈間RI値の比 を求めた.中大脳動脈/総頸動脈RI比は,妊娠 20∼23週1.05±0.10から妊娠24∼27週にかけて 1.13±0.10と増加,妊娠28∼31週にかけて0.94± 0,08と減少を示しその後はほぼ一定の値であった (図9).下行大動脈RI値に対する腹部大動脈,総 腸骨動脈,濟帯動脈RI比は,妊娠期間を通じて腹 部大動脈RI比0.90±0.08∼1.20±0.10,総腸骨 a) C皿BPD
10. 9.0 8.O τ0 6.0 5.0 4.0800
o くつ QO@O O o o 2F=2t2360σ一43.512 0 00 相関係数τ蟄0,902 0 0 n=20 b) cm2船
90 80 了0 60 50 40 30 20 ○ ○ o o o o ○ o O O o o o o 2F=4.808ρじ・←42.737 相関係数r=0.901 nヨ24t_一一_一一一_ ・ Lr_〒_「_一門一_
0 100 200 0 100 200 300 400 500 総頸動脈血流量 ml/血 下行大動脈血流量 皿/血n 図6 a)総頸動脈血流量とBPDの関係, b)下行大動脈血流量と胎児腹部面積の関 係 BPD:胎児大横径, AA:胎児腹部面積a) Rl tO 中 大 脳 動 脈 0.5 moan±SE n=42
L∼トr一一_「一一一一
Rl a) ,. 腹 部 大 動 脈 0. 皿oan±SE n這ウ2 b)・ RI 、1.0 総 頸 動 脈 0,5 0 20 η∼ 24 28 32 36 40 mean±SE n雷39 Rl b) 1. 総 ー 骨 動 脈 0.笥∼一一一一__一一一一一一』一一
o 0 2b 24 28 32 .36 40 笥∼ 20 c) Rl 量.0 24 28. 王 何 大 動 脈 32 36 40 mean土SE me㎝±SE 0.5 n=50 n≡40 RI c)1. 騰 帯 動 脈 0. 0 20 24 28 32 36 40 皿ean±SE n胃56 0 20 24 28 32 36 40 妊娠週数 ‘図7 中大脳動脈・総頸動脈・下行大動脈RIの妊娠週 数による変化 24 、 28 32 36 40 妊娠週数 図8 腹部大動脈,総腸骨動脈,月齊帯動脈RIの妊娠週 数による変化 表 各動脈RI値の妊娠週数による変化 ホ妊娠20−23週に対してp<0.05で有意差有り 妊娠週数 ェ定部位 妊娠20∼ @ 23週 妊娠24∼@ 27週 妊娠28∼ @ 31週 妊娠32∼ @ 35週 妊娠36∼@ 39週
妊娠40週 @ 以上中大脳動脈
o.69±oユ6 0.73±0.14 0.80±0.01 0.81±0.03 0.79±0.03 0,70±0,04 総 頸 動 脈 0.87±0.04 0.63±0.08 0.82±0.06 0.90±0.10 0.82±0.03 0.79±0,03 下行大1ョ脈
0.79±0.03 0.81±0.02 0.81±0.01 0.73±0,02 0.76±0.01 0.73±0.01 .腹部大動脈 0.78±0.04 0.75±0.06 0.74±0.02 0.78±0.04 0.78±0.03 0.77±0.03総腸骨動脈
0.74±0.04 0.81±:0.03 0.70±0.04 0.74±0.02 0.79±0,05 0.79±0.03 贋 帯 動 脈 0.77±0.02’ 0.77±0.01 0.76±0.05 *0.66±0.03 象0,62±0.03 0.62±0.03 mean±S耳 動脈RI比0.92士0.06∼1.04±0.05,腰帯動脈RI ほど低い値を示した(図10a, b, c).比0.86±0.07∼0.95±0.08と〃まぽ一定の値を示し
考察
たが,3者を比較するとRI比は末梢血管にいく 超音波ド.ップラー法により非侵襲的に,胎児循中大脳動脈Rl 総頭動脈R1 1.o 皿eanまSE ∼∼ n=22 0 20 24 28 32 36 40 妊娠週数 図9 総頸動脈RIに対する中大脳動脈RI比の妊娠 週数による変化 a) 腹部大動脈田 下行大動脈R奮 重.0 ∼ mean士SE n=26 b) 総腸骨動脈R1 0 20 24 23 32 36 40 下行大動脈R1 1.0 mean士SE n罵28 c) 下行大動脈R1 1.0 0 20 24 28 32 36 40 ∼ mean圭SE n=28 0 20 24 28 32 36 40 妊娠週数 図10 下行大動脈RIに対する腹部大動脈,総腸骨動 脈騰帯動脈RI比の妊娠週数による変化 環機能の評価が可能になった. 胎児各血管の血流量測定が血流分布の解明には 必要であると考えられるが,現在,産科領域にお いては,血流波形の分析が主流をなしている.血 流量測定には,超音波ビームの入射角に対する血 流速度の誤差(図2),血管径測定誤差の問題が生 じるため2》3),本研究においては,比較的血管が太 く直線的に描出しえる総頸動脈,下行大動脈にお いて血流量を測定した. 総頸動脈血液量,下行大動脈血液量は,妊娠回 数に伴い増加した.Tongeらによると下行大動脈 血流量は,妊娠26∼27週224±34ml/min,妊娠 30∼31週356±96ml/min,妊娠40∼41週578±145 ml/minとほぼ今回の成績と同様の傾向を示して いる8).総頸動脈血流量は妊娠週数に伴い正の直 線相関を示し,下行大動脈血流量は妊娠後期にな るにつれ増加の割合が上昇する凹の曲線相関と なったが,この経過は,胎児BPDおよび腹部面積 の成長曲線において,BPDが妊娠36週まで直線的 に増加9),腹部面積が妊娠中;期に比較し後期によ り増加する経過とほぼヅ致しているlo).今回,総頸 動脈血流量と胎児大横径,下行大動脈血流量:と腹 部面積の相関を調べると,相関係数0.902,0.901 との高い相関係数を示し,総頸動脈血流量は胎児 頭部成長,下行大動脈血流量は胎児腹部成長の指 標となると考えられた.胎児臨床では妊娠中期で の胎児発育の評価が極めて重要であり,頭部発育 と躯幹発育の解離が胎児発育遅延の虚像,病態に 密接に関連する.従って総頸動脈および下行大動 脈血流量は発育を定量的かつ動的に診断しえる指 標となりえることが明瞭となった. ”総頸動脈血流量,下行大動脈血流量の和が胎児 心拍出量に比例していると考え,血流量の和を算 出した.血流量の和は妊娠21週測定症例では168 ml/min,404ml/min/kg,妊娠39週測定症例643 ml/min,268ml/min/kgと妊娠週数に伴い血流量 は増加,胎児推定体重あたり血流量は減少の傾向 であった.総頸動脈血流量/総頸動脈血流量+下行 大動脈血流量は妊娠後期に減少し,躯幹の妊娠後 期における発育を反映して頭部循環血流量の割合 が正常胎児では妊娠後期に減少することが考えら れた. 中大脳動脈11),下行大動脈ユ2),腹部大動脈13),晶 帯動脈12)14)∼16)の血流波形分析には,諸家の報告が
あるが,今回の結果とほぼ同様の傾向にあった. 頭部循環系では,’?蜚]動脈,総頸動脈RIは,34 週以降は,両者ともRI値の減少を認め,頭部循環 全体における血管抵抗の減弱が考えられた.越前 屋ら9)も,RI値は34週より若干下降し始め,38週以 降ほぼ一定であると報告している. 腹部循環としての下行大動脈,腹部大動脈,総 腸骨動脈RIは,妊娠;期間中ほぼ一定の値を示し ており,腹部循環全体における血管抵抗について は,妊娠品数に伴う変化は微小であると考えられ た. 月副帯動脈においては,妊娠歩数に伴いRI値は 減少している.贋帯動脈の血管抵抗はDawesの 羊の大腿動脈よりのカテーテル法による研究にお いても胎齢90∼115日で著しく減少し,115∼140日 でゆるやかな血管抵抗の減少を示しており,胎児 踏帯動脈RIの変化と同様の推移を示した17).温 帯動脈は総腸骨動脈からの分枝であり総腸骨動脈 RIが妊娠期間を通じほぼ一定の値であることよ り,胎盤末梢抵抗が,妊娠後期に減弱すると考え られた. 頭部循環,腹部循環系の各血管の血流動態の関 係を把握するために頭部循環系の基準として総頸 動脈,腹部循環系の基準として下行大動脈を選び 各動脈間のRI比を算出した.中大脳動脈,総頸動 脈RI比は,妊娠28∼31週にかけて減少を示し,妊 娠後期に頭部循環内で中大脳動脈領域の血管抵抗 がより減弱していることが示唆された.この時期 は胎児行動より評価したREM睡眠, non REM 睡眠の周期性が確立する時期より4∼8週間先行 しており脳の器質的発育を表現していると考えら れる.腹部循環系では腹部大動脈,総腸骨動脈, 二二動脈の各々の下行大動脈に対するRI比は妊 娠期間中を通じほぼ一定の値となったが,3者を 比較すると比の値は末梢血管にいくほど低くなっ ており,その間の腹部臓器への分枝血管の血管抵 抗の影響と考えられた.RI値はいずれもバラツキ が少なく,血管径が細く,血管同定の困難な各臓 器への分枝血管の血管抵抗を推定することが可能 となり,IUGR(intra uter互ne growth retardia− tion),胎児仮死等異常児の詳細な病態評価が臓器 血流の分布から可能になると考えられた. 結 語 正常ヒト胎児において超音波パルスドップラー 法を用いて,血流分布の妊娠二藍に対する変化を 検討した. 1.頭部循環血液:量,腹部循環血液量は,妊娠週 数に伴い増加したが,胎児推定体重あたりの血流 量は両者とも減少した.頭部循環血液量とBPD, 腹部循環血液量と腹部面積との間には,正の相関 を認めた. 2.謄帯動脈のRIは,妊娠週数に伴い下降し, 胎盤の血管抵抗の減弱が考えられた. 3.頭部循環系では,妊娠後期において中大脳動 脈血管抵抗の減弱が考えられた. 4.腹部領域の血管のRIの差は,その間の腹部 臓器への血管分布の影響と考えられた. 5.胎児発育に伴い循環血液量は増加するが,増 加の傾向と程度は部位によって異なりその差は各 臓器の発育と成熟に関連すると考えられた. 稿を終えるにあたり,御指導,御校閲を賜りました 武田佳彦教授に深謝致します.また御指導,御教示を 頂きました本学付属第二病院産婦人科,吉田茂子教授 に心から御礼申し上げます. 文 献 1)Chen HY, Cbang FM, Huang HC et all Antenata豆fetal blood flow in the descending aorta in the umbilical vein and their ratio in no㎜al pregnancy. Ultras6und Med Biol l4: 263−368, 1988 2)Eik・Nes S, Masa璽K, Kristo鉦eisein K:Meth− odology and basic proble∬」s related to blood 且ow studies in the human fetus. Ultrasound Med Bio1110:329−337,1984 3)FitzGerald DE;Stant B,1)rumm JE et al: The assessment of the fetoplacental circulat三〇n with continuous wave Doppler ultrasound. Ultrasound Med Blol 10:371−376,1984 4)Poucelto L:Application cliniques de P examan DoPPIer transcutan6.肋V610cim6trie Ultrasonor6 Doppler(Perroneau P ed>pp213 −240,S6minaire INSERM, Paris(1974) 5)Gosling RG, King DH:Ultrasonic Angiology in Arteries and Veins(Harcus A, Adamson L eds)pp61−98, Churchill Livingstone, Edinburgh
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