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防寒着型(二部式)刺子資料の分析 国立民族学博物館収蔵標本による(1)

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防寒着型(二部式)刺子資料の分析

国立民族学博物館収蔵標本による(1)

山崎光子

Analysis of Winter Sashiko 

Specimens in the National Museum of Ethnology (1) Mitsuko Yamazaki

 かつては顧みられることの少なかった農山漁村の日 常生活に用いられていた民具類も,煙滅の危機にさら されはじめてから,ようやく世の注目を集めるように なり,有形民俗文化財として法的な保護措置も講じら 礼各地域ごとに悉皆収集や,それにともなう民俗博 物館等の設立も相次いでいる。

 緊急を要する民俗調査の中には衣生活に関する事柄 も当然含まれているが,これまで特に物質文化(モノ)

としての仕事着に関する調査などは必ずしも充分では なくD,款研究方法についても具体的な検討はあま りなされていないと云えよう。

 最近,民俗服飾研究iζついZ,民族¥,民具学服 装文化研究等の関連諸分野からの関心が高まり,それ

らの現状分析や当面の課題が指摘されるようになり,

学際的な協力による民俗服飾研究の体系化がのぞまれ ている。

 その研究の手順としての共通の認識は,杉本氏の次 の文によって代辮されるのではないだろうカ、すなわ ち, 「今後の民俗服飾の研究は,調査。収集よりも調 査・収集された物に対する民俗学的整理,分析,比較 に重点を置くべきではないかと考える。もちろk,調 査・収集の作業は今後とも続けなければならない煤 従来の調査・収集の業績に対する再検討の意味からも,

地方の大学や博物館,郷土資料館や民俗資料館に収集 されている民俗服飾関係資料の実態を確認U,これに 対する系統的分頬分布地域発生と伝播系路,歴史 的年代他の地域との比較語彙の調鳶その他 イ ギリスやドイツの民俗学が行なっている比較,分析の 研究方法を総合して過去を再構築するような作業が必 要であろう。」2)という。

 本報は,以上のような現状をふまえた上空すでに 集められた資料的価値の高い民俗服飾関係資料の実態 の一端を明らかにするために,またこれまでに考察し

て畝その研獅灘財る槻鋤%研究6)7)

1ζもとつく基礎的研甕をまとめる資料とするため1も 国立民族学博物嫡所蔵の刺子標本をとりあげて分析し たものである。

 なおこれらの資料は,国立民族学博物館の労働衣服 に関する共同研究(昭和49年度〜52年度)の一共同研 究員として分担した仕事の一部分である。その共同研 究の全体の成果については,関連諸学の共同研究者の 研究結果と合わせて,同館で学術研究情報としてコン ピュータ処理中であり,いずれ何らかの形で別途報告 の予定である。

 すでに国立民族学博物館の刺子資料については,新 潟県内で採集された資料を中心に,まだ未開拓分野で あった労働衣服標本の分析方法の基準の設定を試みて おり8),っついてその分析方法に準じて主として漁 村で着用されたと思われる,一一般にドンザと呼ばれて いる長着型←部式)刺子資料についてまとめてみた2)

 本報は,おもにうわ着として着用されたと思われる防 寒着型(二部式)の刺子資料をとりあげたものである。

 次報では農作業衣型(二部式)短衣の刺子資料につ いZ,次々報では,揺梓着型(一部式)刺子資料につ いてとりあげたい。既報8)9)とあわせると国立民族学 博物館所蔵(旧文部省史料館収集品を中心とする)の 刺子標本資料の全貌があきらかになる粧その比較分 析については稿を改め,ここでは,上述の目的のたあ に,出来るだけ資料を具体的に詳細に観察することと

した。

研究方法

 研究方法は,すでに資料の分析のために設定して報 告した方法に一部修正を加えたもので,下記の項遇に よる。その詳細は,民俗脹飾に関する基礎的硬究とし て更に検討を加え,別途,報告する予定であるe

1.資料の情報  資料の概要 一75一

(2)

県立新潟女子短期大学研究紀要 第2工集 1984

  採集旭採集時期,採集煮 名称(呼称)・等に   ついて

2.資料の分析

  a.形状の状況(写真・図)

  b.材料

  (1)織布の材質と色織・染柄(図)

  (21縫い糸の材質と色刺子模様(図)とそ    の意匠構成く図)

  c.縫い方と裁ち方

  (1}縫い方の状態,縫い代の様子(図)

  ・{2)裁ち方の推定(図)t・

結果と考察

 資料1−1 〔品名〕モッパ   .、一   〔標本番号〕H19626(衣類F−4」8)

 この資料は地方名がモッパと呼ばれており, f鰹釣 や一般漁の時の上衣」と採集時に記録されているから 漁師によって着用されたものであろうか。一般的な漁 携用労働衣服のドンザとは異なる形態の梓纒型の丈の 短い外衣で,地厚のため防寒用として着用されたもの と思われる。

 採集地は,三重県度会郡南海村字相賀浦で1938年5 月28日,A・M同人(アチック・ミューゼァム同人)1ζ よって集められている。他にマエアテ,狩猟用パバキ など7点があり,°いずれも,持主だったらしい河口大 助氏の寄贈になるものである。        

 a.形状.

 形状は,巻他祥纒型で,外衣のため丈ほやや短い カ〜布は4枚重ねの刺子で厚い。長期間着用して使い 古されており,4枚重ねの布の一番表側の縞布がすり 切れてなくなり,内側の緋布がところどころにみえ,

また左前身頃や右肩にも補修布が貼りつけるように縫 ってある。最もいたみのひどいところは,後身頃の裾 上の部分である。着用後に補修されたらしい布さえな       くなっている。裾のワの部分も表2枚分の布が全くな

くなり,下の布がのぞいている。背の部分のいたみも 大きい。

 しかし,仕立て上りの時のデザインは斬新なデザイ,

ンであり,仕立て方も布がすり切れてもほDれないほ どにしっかりと縫いつけてある。

 表布はさえた浅黄の手織木綿に,藍染の太糸の素朴 な刺子がよく映えている。補修布の縫い糸も藍染であ り,採集年月からかなりさかのぼった古い時代につく られた労働着と思われる。

 b.材料

 〔1}織布の材質と色,織り柄

 本資料の素材は,4枚重ねのいずれも平織りの木綿 布である。表布は一種類の縞布がべ一スになっている。¶

それは明るい灰〔N7.5(light gray)〕と暗い灰〔N4  (dark gray)〕,のモノクロームの縞で,糸密度は経〔28

本/ em〕緯〔20本/em〕であった。しかし,はじめから 裾部分と袖口部分半分に他の縞をさらに縫い重ねて補 強している。   、..一

 裾部分の縦縞は紺縞〔2.5PB 2/3(dark grayish blue)ゴに明るい灰〔N 7.5(light gray)〕の縞で糸密度 は経〔24本/on〕,緯(20本/㎝〕であった。袖口側の縞 も同色で一見して同じ布にみえるが,縦縞が1本多く,

糸密度も経〔22本/㎝〕,緯〔26本/en〕と少々異なっ ている6衿も身頃よりやや細い縞であるが色は衿の上 部や右衿の下部 (下前の部分)や裏側にはかなり鮮 かな紺色〔2.5PB.2/3,(dark grayish blue)〕が残っ ている。糸密度は経緯とも〔22本/㎝〕であった。

 身頃の裏布は手織り布らしい浅黄色の無地〔5B・5/

4(dull 1 gr eeni sh blue)〕でi糸密度は経緯とも〔20本/

㎝〕である。袖裏は小緋や井桁耕や紺無地がはぎ合わ されている。身頃にも表布の下に井桁耕がかなり使わ れているのがみえる。耕織物は縞よりも貴電なものと いわれている魎表布として用いるには,すでに使い 古されt)・小ぎれになりすぎていたのかもしれない。耕 布の下にさらに他の未綿布がすけてみえている。袖裏 の緋布は丈夫そうな布であるが,刺子布にする以前に 破れたと思われる穴が数ケ所あいている。袖口べりに は,・当布の上から身頃と同色の布を配してへりとりし てある。.     ,、..  ・・ −c. :・L・

 厚さは身頃3.48㎜,,袖244㎜5衿6.56 rm,重量 は1320,9と短衣ではあるが厚いので重い6

 {2)縫い糸の材質と色ジ刺し方・

 縫い糸は,紺の太い木綿糸2本どりであり,補修糸 も濃紺の太い木綿糸1本どり,いずれも左撚りである。

刺し糸は,.左の甘撚りの浅黄木綿糸で,長時間使用 したためか,色もさめ,糸のなぐなっそしまってい る部分もある。表側からみると図1,b−5のよ うに 表に小さい針目を出,して白縞の上に糸1本どりで針目

〔8針目/10㎝〕で刺してあるが,裏側にはその他ヂ左 撚りの同様の刺子糸がその間1〜2本縦に長針で縫わ れている。あらかじめ3枚ほど布を重ねて刺し縫いし て,布の形を整えたのち∴表布をあわせてさしたもの一

らしい。二

 以上でわかるように}この労働衣服の縫い,刺しは あくまでも補強が目的であるカ〜それでも縞の上にあ

(3)

防寒着型(二部式)刺子資料の分析

えて目立っように破線状に刺してあるのをみると,繕 う時にも美しさを意識したかつての人々の生き様が感

じられる。

 c.縫い方と裁ち方

 縫セ}方,縫い代は附図のとおりである。背縫いの縫 い代の折り方力㍉通常の着物の仕立て方と反対の方向 1ζ折られているのが目立つ。背,脇,袖付け,袖下と も〔6〜7針目/10cm〕位で合わせ縫いをしてから,

〔8針目/10cm〕で伏せ縫いがしてあり,大半はまだ しっかりと縫い付けられている。裾の裏側には図C一 ユにもみられる通り,補強したり,裏布が短かったり で,数枚の布が段模様をなしているが,裾の始末は丁 寧iζ〔7針目/10cnt〕位で折りくけされている・

 裁ち方は図C−2のように推定される。

 古布を寄せ集め重ね合わせ,.表側に丈夫な4種の布 を合種にみせ上手に配してある。特に巻袖を縦に重ね は{ぎにすることは,袖口の補強のために考え出された ものかもしれない旭見事な配色効果を生んでいる。

 総用布は約6300nであるが,へりとり布やその他 裏布などが多く必要である。布幅は表布34吼裏布32 0m,中側の布は33㎝ほどの布が用いてあった。

 資料1−2 〔品名〕婦人作業衣  〔標本番号〕H20146(衣類F−5一2)

 この全面に枡刺しをほどこした巻袖の梓纒は,山形 県飽海郡吹浦村で採集された資料である。採集煮採 集時期は記されていない。意識的に,耕布,縞布無 地布と3種の布を配した短衣形式の刺子衣で刺し方 も準色OP地布に太い白糸でくっきりζあらわし・袖の 枡形の中心には,ところどころに簡単な模様を入れた

り,肩山や裾に刺繍を施してある。背,脇,袖などに は,飾りしつけがかけられたままであり,一度も手を 通さないまま納められたものらしい。へりとり布のな いことが通例の刺子の仕立て方と異なるが,他にも数 例のへりとりのない資料はある。

 a.形状

.形状は伴纒型気 さらle馬のりもつけてある。

袖越巻袖である潮身丈に比して長い丈の袖つけを縮 めるためカ、袖っけの下端を左右不揃いに5〜7㎝ほ ど内側に折りあげてから袖つけをするなζやや変型 している。一般的には袖下を鋭角に折り上げることで 袖っけ丈を短くすることが多い。

 仕立て方は通常の刺子と同様の単仕立てであるが,

へりとりをせずに表側からは,衿仕立てにみえるよう に布端を始末している。袖裏に袖口布をっけたり,裾 もうにして折り返してから裏布を1〜2㎝ひかえて縫

いつけている。

 それぞれの布の配置は図のように,表布は前後とも 身頃の上部に耕,下部に縞をはぎ合わ画袖は紺無地 である。刺し模様は,いずれも枡刺ししてある。裏布 は身頃と袖に異なる縞柄を用いてある。表と裏の2種 の縞柄は,どちらも類似しているが同種の布ではない。

表身頃下部と同じ縞布の通し衿に刺しはなく,その上 に掛け衿がかけてある。

 b.材料

,(1}織布の材質と色,織り柄

 素材はいずれも平織りの木綿布である。

 表布の3毬のうち,身頃上部は附図にみられるよう な耕柄で青味黒〔10B 2/2(bluish black)〕地に 青味白〔2.5PB9/2(bluish white)〕耕の薄手木 綿で,比較的新しく,力織機で量産されたものであろう。

糸密度は経〔22本/㎝〕,緯〔18本/㎝〕であった。

 身頃下半部裏側の袖布も,色はわずかに異なるがほ ぼ類似している。同じ幅の青味黒〔10B2/2(bl uish black)〕の縞と黄茶〔7.5YR 5/4(yellow browri)〕

の縞が交互に入っており,糸密度は経〔24本/㎝〕緯

〔20本/㎝〕であった。袖は無地のにぶ青〔5PB 3/

4(dull blue)〕地で糸密度は経緯とも〔21本/ on〕

である。やや色があせており合成染料による染め色と 思われる。裏布の前後身頃布は表布と似た色づかいで あるカ〜やや細かい縞で黒〔N1(black)〕地に灰味 黄茶〔2.5Y 4/2(grayish yellow brown)〕の縞で 糸密度は経〔29本/㎝〕,緯〔28本/切〕である。袖口 布は青味黒〔10B2/2(bluish blac10〕地にうす青

〔2.5PB8/4(pale blue)〕と黄茶〔7.5YR 5/4

(yellow bro㎜)〕の縞であり,糸密度は経〔24本/em)

緯〔17本/㎝〕であった。衿の紺木綿は新しい布で色 は青味黒〔10B2/2(bluish black)〕である。

 以上でわかるように表布と類似の布が充分あるにも かかわら式表の袖に紺布を用いているのは配色効果 を意識したものであろう。掛け衿の濃紺の色が多様な 色づかいをよくまとめている。

 刺子布はいずれも2枚重ね双布の厚みは身頃と袖 が0。8〜1.18㎜,衿が3。46㎜であり,総重鑓は720

9であった。

 {2)縫い糸の材質と色,刺子の模様とその意匠構成  縫い糸は右撚り2本どりの白糸を用いている。それ は濃色は黒色淡色は白糸で縫う和服の一般的な糸使 いと異なる。もっとも馬のりや,裏の袖口布の始末な ど縫い目が表布にひびく部分は黒色2本どりである。

しつけ糸は白糸1本どりで これもいずれも右撚りで

一77−一

(4)

県立新潟女子短期大学研究紀要 第21集 1984

ある。布を2枚重ねて刺子する前le施したしうけ糸は

〔9針目/10㎝〕である。        −  1刺し糸も右撚りの白木綿糸2本どりで,表側に針  目をくっきりみせて前後の全面に枡形に刺してある。

身頃の上部の耕の部分には,2列2段で4つずつ,前 後合わせて16枡,下半部は,前身頃は2列,4段で  8つずつ,後身頃は2列3段で6つずつで計28枡,

即ち身頃だけで44枡ある。袖は片袖の前後あわせて8 枡で計16枡,仕事着全体で60ケの枡刺しがざして ある。しかもそれは単純に用布の全体に均等に配した ものではなく,3種の布の仕立て上りの布幅に丁度お さまるように長さや幅を変え1大小の長方形や正方形 を形づくっている。

 また両袖には,図のように前観各1ケ所ずつ計4 ケ所と袖下ユケ所ずつ,あわせて6ケ所に図や図印が 入れてある。山形県の刺子の中には枡刺の中に各種の 模様を入れる例はよくあるが,持にこのような単純な 形の例はあまりないようである。一

 枡刺しの刺子の縫い目は,縦方向は(18針目/10cm),

横は〔20針目/ユ〔)cm〕がいずれも〔11本/ユOcm〕ほど の間隔である。刺し模様は,枡の角ごと1針チェーン ステッチ状に針目が外側に縫い出されてしっかり止め られており,そのため視点を変えると,斜めの格子が 強調されて浮き上ってみえたりする。枡刺しの縫い方

は,縞柄Sζそっており,茶色の縞の部分に刺してあっ た。ただし,同じ茶縞の衿の部分には何も刺していない。

 裾線のチェーンステッチの刺繍は右撚,りの白糸工 本どりで,補強と装飾を兼ねたものと思われるが,同

様な刺繍は肩にもある。その縫い目は〔24〜28針目/

10c n〕であった。

 c.縫い方と裁ち方

 縫い方は背縫い,脇縫い,巻梅袖付けにいずれも 白糸2本どりで〔7〜8針目/10㎝〕で合わせ縫いにな っている。飾りしつけは白糸1本どりで2目おとし

〔3針目/10㎝〕である。

 縫い代の始末はない。馬のりの耳のおさえ縫い,袖 ロへりの折り伏せ縫いにかぎっては,前述のように表 側に縫い目がみえるためカ、黒糸で表に小さい針目を 出しながら1〜2本どりで〔8〜9針目/10cm〕と粗く 縫いつけている。衿っけのまつりぐけは〔3針目/10

㎝〕,白糸2本どりとこれも粗い粗い縫い目である。

 裁ち方は簡単であるカ〜3種の布をはぎ合わせる心 くばり宅縫い上げる前に仕立て上り寸法を考慮して 充分な計算のもとに枡刺しをしていることが注目され る。衿は掛け衿の下部にみえる部分だけが身頃と共布

     1.

 であり,掛け衿の下には他の紺木綿布がはぎ合わせて  あり,縞布が節約されている。

  表布3種の用布は附図のように推定される。その総  用布は約570cm,布幅は表布35㎝∴裏布35. 5 cmである。

  資料1−3 〔品名〕刺子上衣

   〔標本番号〕H62114(衣類F−5−7〕

  この資料は,大阪の商店からL括購入されたものの  一つ鴛収集記録がない。しかし,庄内と附記されて  いるため,山形県のものであることがわかる。

  刺子模様は藍染布に白糸で心を尽くして配置した総模  様(前身頃は肩裾模様)である。よく着こんでおり  衿や袖口へりはすり切れでしまったのであろう,あと から丈夫な学童用スカートを切ってそれ1と替えてあわ  ひだのあとが横縞になってみえている。最終的には労 働用衣服として,美しさより機能性を重んじて着用し ていたことがわかる。いつくしんでつくら札な拘 充分に着用されたものであろう。

  a.形状

  この資料の形状はかげ衿であり,形鮭上からは作業 tJc paさわ硯袖は防繍こ多し・巻袖であり,付 け紐の状態や模様の配色などからみZ,実際には上に

・羽織って着たものかと思われる。上衣の名称は妥当か もしれない。しかし布は薄手気防寒の役はあまり果 たさ式装飾性に富んでいるから,嫁入めの時1ζでも つくったものであろちか。

 巻袖は,できるだけ働きやすく小ぶりになるよう袖 を変形さ亘袖付け側を短かくとってある。仕重着と

して充分着用したためか刺字糸が腰や裾部分では失せ       e   ており,手ざわりもやわらかい。表側の腰に揚げのあ

とが退色せずに帯状に残っている。裏側に縫い込んで 丈を短くしたものらしい。紐は0.5 en ×22enの仕上

りに丁寧にくけて仕立てている魁内側の紐はなぐな り,スカート布でつけ替えている。

 b.材質

 (1}織布の素材と柄,染め色

 素材は表裏へりとり布とも,のちの補修の紺ス カート地以外はすべて董染の浅黄や紺の手織りの木 綿布である。しかし,端ぎれを何枚かっなぎ合わせて それぞれ身頃,袖などをつくっている。色は表が浅 黄〔2.5PB4/4(grayish blue)〕から紺〔2.5PB 2/3(dark grayish blue)〕であり,裏布もほぼ 同様の布である。

 糸密度は布により多少異なるが,表裏ともおよそ経

〔18本/勧〕,緯〔ユ6本/om〕で,糸に粗密があり手織り布 かと思われる。

(5)

防寒着型(二部式)刺子資料の分析

 布はいずれも2枚重ねで,厚みは身頃0.98 rm,袖 1.4㎜,へりとり部分3。1㎜,衿2.8rmで総重量は,

800gであった。

 ② 縫い糸の素材と色刺し模様と意匠構成  縫い糸は甘撚りの右撚りの黒木綿糸1本どりである。

刺し糸は1本どりの白い右撚りの木綿糸であり,白い 刺し模様が藍地に映えて美しい。

 刺しの針目は,肩当て部分以外はぐし縫い〔14〜20 針目/10cm〕で意匠効果を充分考慮した模様構成と なっている。そろばん玉のような模様は身頃と袖で大 きさをかえ,また前身頃には斜め格子模様がはしって いる。肩には柿の花模様が刺してある。その全体を浅 黄無地のへりとり布で囲って全体をひきしめている。

 刺し方は,あまり丁寧ではない。忙しい仕事の合間 に暇をみつけて刺したかもしれない。刺子をする前の しつけに使った糸は細い右撚りの白糸1本どりであっ た。裏の玉結びはところどころに出ているカ〜角はし っかりと止めてある。

 c.縫い方と裁ち方

 縫い方と縫い代は,図にも示した通り,身頃背 脇袖つけとも〔12針目/10cm〕位で合わせ縫いをし たあと,布端を粗く〔5針目/10㎝〕位で伏せ縫いが してある。へりとり布は,きわめて丁寧た三つ折りぐ けで仕立てられている。細い紐もきれいにくけてあ ったようであるカ〜衿はすり切れてしまっている。今 のスカート地の掛け衿の裏側には,もとの衿がみえ,

衿肩明き部分の補強の様子もわかる。

 裁ち方磯何枚かの布がはいであるが模様構成がは っきりしているので身頃,袖と衿とにわけて裁った ものであろう。緋や染め模様の珍重された時代,入 手しがたいそれらに代って刺子模様の花を咲かせた庄 内の女達の手仕事を評価したい。

要   約

 1.資料にっいての情報

 {1}刺子とは,古い布きれを重ね合わせて刺し縫い してつくったもので激しい労働にも耐えるよう補強 さ桟また防寒の用も果たすことのできる労働衣服で ある。ここにみられる資料は,使用頻度が高く(新品 もあったが)大半は日常生活の中ではげしく用いられ たらしくすり切剋あて布されたものが多かった。

 ② ここであっかった刺子衣資料の被覆部位はいず れも躯幹部であり,形態名称別に分類すると,防寒着 型(二部式)の3点である。

 {3}採集者は,1点はアチック・ミューゼァム同人で

ある粧他の2点ははっきりしない。

 {4)採集時期は,1点は1938年であるが,他の2 点は不明である。

 (5)採集地は三重県1点山形県2点である。

 {6)呼称は,モッパ,婦人作業衣,刺子上衣であらた。

 2.資料の分析 a.形 状

 Cl) 本資料の構成要素は,身頃,袖,衿から成って

いる。

(2}衿は,梓纒型の2点が一般的な形といえようが,

ここではかげ衿の1点も含めた。掛け衿は1点であった。

 (3}袖は3点とも巻袖で防寒着型である。

(4}馬のりは3点中1点あった。

{5}つけ紐は,伴纒型ではなく,かげ衿の1点にあ り,これはうわっばり状の外衣として用いたようで,

衿の内側と外側に一組ずつの紐がついている。

 (6)資料の寸法

  ④丈については,最少値91.5cm,最大値94.5㎝

である。

  ② 桁丈(肩幅+袖幅)は,最少値58.5 cm,最大 値63.0㎝である。

b.材料

 {1}織布の材質と柄,染め色

  ①素材はいずれも木綿であり,組織はほとんど が平織りである。

  ②糸密度は表布裏布とも何枚かの布を用いて いるため一一概にはいえない粧経糸は〔18本/om〕か

ら〔28本/㎝〕までのものであり,緯糸は〔16本/㎝〕

から〔20本/㎝〕までである。

  ③布の厚さは,布重ねの枚数や,身頃の上龍 下部,袖,衿,へりとり部分などにより異なる粧0.8

㎜から6.56㎜である。

  ④刺子の合わせ布の枚数は一般には2枚合わせ が多いが,ここでは2枚合わせは2点,4枚合わせが

1点である。

  ⑤布の重さは,身丈の長さや布重ねの枚数など に大きく左右される。ここでは720gから1320gで

ある。

  ⑥表布の織柄は(複数の布を用いてある場合は 主だったものを数える),紺地耕と茶縞のものlk 紺地白縞のもの1点,藍無地のもの1点である。

 裏布の織柄賎黒地茶縞1点,浅黄無地1颪藍と

浅黄無地のもの1点である。

 なお表布一蔦 2種類以上の布を用いた資料は2点,

1種類の布を用いた資料は1点である。

一79一

(6)

県立新潟女子短期大学研究紀要 第21集 1984

  (2)刺子糸,縫い糸の材質と色

   ①刺子糸縫い糸いずれも木綿糸である粧両  者は必ずしも同じ糸ではない6

   ② 刺子糸の撚り方は,右撚りが2点左撚りが  1点である。縫い糸も同衣類で共通しており,右撚り  が2点,左撚りが1点である。  一

   ⑨刺子糸の色は,白が2点,浅黄が1点である。

 糸の本数は,1本どりが2点 2本どりが1点である。

   ④縫い糸は刺子糸とは目的が異なるため,地色  と似た紺や黒色が2点,白と黒を用いたものが1点で  ある。

   ⑤刺し方は,縦刺し1慮枡刺し1点,模様刺  し1点である。

  刺し方の媚は,〔8鯛ノ1伽〕カ・ら,〔18媚/

 10cnt〕であり,その間隔は, 〔3本/ユOcnz〕から〔20  本/10cm〕である。

 c.縫い方と裁ち方  に}縫い方

  ①刺子の仕立て方は,単仕立てに蛎る力怖

地が厚く,細かく縫うことができないため,また丈夫 にするために,背臓袖つけなどは,合わせ縫いの のち伏せ縫いをすることが多い。ここでは,それに類 似したかざりじつけのものも1点あった。

  ②縫い目は,布の厚さにも関係する旭合わせ 縫いは, 〔8針目/10㎝〕から〔ユ2針目/ユ0㎝〕であ り,伏せ縫いは〔5針目/100n〕から〔8針目/ 1 Ocn:〕

である。

 縫い方は長着などの仕立てになれた技術でそれに 準じて機能性を重視しながら縫っていることがわかる。

  ③周縁部,即ち袖ロ,梶衿下などの端の始

末の方法は,布地が厚く折りく けなどがしにくいため,

へりをとることが刺子衣の常石である粧 しかしここ では,周縁部にへりとりのあるものは1点のみで他 のユ点は裾がすり切れたためか柚口の吃もう1点は へりとりがなく刺子衣としては特異なものであった。

 ②裁ち方

  ④布幅は,並幅寸法としてほぼ:一定している筈 である粧手織布や更生布だったりすることや,刺し縫 いの縮み分などもあるためはっきりしたことはいえな い。ここでは325侃から35 cmであった。

  ②刺子の場合,古い布をよせ集b6,はぎ合わせ てつくるため必要用布を推定することはあまり妥当で はない粧掛け衿や,へりとり布を除く衣服としての 表布の用尺は,510enから630cmであった。1反の布 から2枚分の外衣をとることが可能である。

謝   辞

 この報告は国立民族学博物館の共同研究「非破壊分 析をともなう日本在来の労働衣服の比較研究」の成果 の一部である。

 御指導いただきました共同研究の代表者の中村俊亀 智融授(国立民族学博物館),ならびに西村緩子教授

(岡山大学)をはじめとする他の共同研究員の方々,さ らには資料の利用に御協力下さいました国立民族学博 物館情報管理施設の方々に,心から御礼申し上げます。

        文  ・  献 1) 中村ひろ子;衣生活研究の方法と現状

  一民俗学の一視点から一。服装文化,Naユ80,14,

  1983.

2) 杉本正年;民俗服飾の課題。服装文化,Na 177,

  20,1983.

3) 山崎光子;越後の民俗服飾。衣生活研究 19,

 (20), 46〜49,1976.      1 ・

4) 山崎光子;民俗服飾研究に関する一考察。日本   家政学会第29回総会研究発表要旨集 125 ,   ユ977.

5) 山崎光子;労働衣服について。民具マンスリー,

  14(4),1〜4, 1981.

6) 山崎光子;形態分類からみた労働表服の地域性   と普遍性。表服研究助成賞入選作品eeNa 3, 61   〜89,  1982.

7) 山崎光子;シンポジウム仕事着研究の現状と課   題一機能と分布からみたサシコ類のパターン分類   一。日本常民文化研究所第9回民具研究講座講演  要旨集,46〜47,1982.

8) 山崎光子;国立民族学博物館所蔵の労働衣服一   とくに刺子の形態・染織の分析一。国立民族学博  物館研究報告 5(3),778〜800,1980.

9) 山崎光子;国立民族学博物館所蔵あドンザー  形媒材覧染織の分析一一一。国立民族学博物館研  究報告,6(2),319〜354,1981.

一80一

(7)

県立新潟女子短潮大学研究紀要 第21集 1984

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写真1

 資料1−1

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表,後面 裏,前面 裏,後面

部分の拡大

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(8)

防寒着型(二部式)刺子資料の分析

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部分の拡大

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(9)

県立新潟女子短期大学研究紀要 第21集 1984

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写真3

 資料1−3 刺子上衣     1 表,前面     2 表,後面     3 裏,苗面     4 裏,後面     5 部分の拡大

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(10)

県立新潟女子短期大学研究紀要 第21集 1984

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図1 資料1−1編名〕モッパ〔標本番号〕H19626

 12345 一一層一一abbbbb 形状図表布の縞柄

表裾当布の縞柄 表袖口当布の縞柄 衿布の縞柄

刺し方

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一84一

(11)

防寒着型(二部式)刺子資料の分析

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用布約130㎝

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一85一

(12)

県立薪潟女子短期大学研究紀要 第刎集 1984

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図3 資料1−2〔品名〕婦人作業衣〔標本番号〕H20146

 12345678 =一=欄=abbbbbbbb 形状図

織柄配置図,表,前,後面 織柄配置図,裏,前,後面 表布前後身頃上部の縞柄と色

表布前後身頃下部,衿(裏布,袖)の縞柄と色

裏布前後身頃の縞柄と色 裏の袖口布の格子柄と色 枡刺し拡大図

刺し方図

(13)

防寒着型(二部式)刺子資料の分析

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図4 資料1−2

  〔品名〕婦人作業衣   〔標本番号〕約2贋46

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・∵ (中心膜様の拡大図)表 b−10刺子模様の配置図  i ・(中心模様の拡大図)裏

.c−1  縫い方

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用布約aOO㎝ 用布鈎ユ3登砿

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(14)

県立新潟女子短期大学研究紀要 第21集 1984

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(15)

防寒着型(二部式)刺子資料の分析

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図6 資料1−3 〔品名〕刺子上衣麻本番号〕H 62114

4僧0ーム9臼一一胸一tD噛DCC 後身頃の刺し模様

袖の刺し模様 縫 い 方

裁ち方推定図 全体図

一89一

(16)

参照

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