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Japanese Journal of Acute Care Surgery 2017; 7: 298~302 症例報告 産科 DIC を合併した出血性ショックに対し, ダメージコントロール手術にて救命し得た 2 例 1) 1) 1) 1) 1) 西浦嵩弥, 小川新史, 鄧傑之, 廣瀨智也, 山田知

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Academic year: 2021

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はじめに

一般に,産科出血は突然発症で予想が難しく容易に 播 種 性 血 管 内 凝 固 症 候 群(disseminated intravascular coagulation;DIC)を発症する1)。また,大量出血をきた しやすく出血性ショックへ移行する症例も少なくない。産 科 DIC や出血性ショックをきたした症例では危機的産科 出血が宣言され,輸血療法に加え止血処置が行われる。止 血処置には一般に妊孕性保存のため経カテーテル的動脈塞 栓術(transcatheter arterial embolization;TAE)が選択

されることが多い2)。しかしながら,産科 DIC を伴った

出血性ショック症例では,TAE だけでは完全な止血が得

られず救命困難となる症例が散見される3)。一方,ダメー

ジコントロール手術(damage control surgery)は外傷患 者の救命における重要な治療戦略であり,蘇生目的の初回 手術,全身の安定化を図る集中治療,修復・再建手術の 3 つの要素からなる。われわれはダメージコントロール手術 側内腸骨動脈分枝に TAE を施行した。しかし,数時間後再度ショック状態となり,造影 CT で腟断端付近に血管外漏出像 を認め,再開腹・ガーゼパッキング,さらに両側内腸骨動脈分枝に TAE を施行した。術後 3 日目にガーゼ除去・閉腹術を 施行した。術後 38 日目に独歩退院となった。 【症例 2】44 歳女性。他院で緊急帝王切開術が施行され,児娩出後に止血困難となり当院に搬送された。当院搬送時ショッ ク状態であった。出血性ショック・産科 DIC を呈していたため,緊急子宮全摘術・ガーゼパッキング術を施行した。術後 2 日目にガーゼ除去・閉腹術を施行した。術後 7 日目に前医へ転院となった。 【まとめ】産科 DIC を伴う出血性ショックに対し,ダメージコントロール手術は治療戦略の選択肢の 1 つになると考えられ た。 〔キーワード〕〕産科危機的出血,播種性血管内凝固,ダメージコントロール手術,経カテーテル的塞栓術 の概念を産科領域に応用することにより救命し得た 2 症例 を経験したので報告する。

症例 1

患 者:29 歳,女性。 既往歴:特記事項なし。 妊娠歴:未経産 38 週 0 日。 現病歴:分娩時の胎児異常により緊急帝王切開術が施行 された。手術 5 時間後,ショック状態となり意識レベルの 低下を認めたため,当科に応援依頼があった。

現 症:意識レベル Glasgow Coma Scale E4V3M1,血 圧 80/40mmHg, 脈 拍 126 回 / 分, 呼 吸 数 回 17 回 / 分, SpO2 100%(酸素マスク 4L/ 分),体温測定なし。

血液検査:Hb 3.6g/dL,Plt 7.7 × 104/mm3,PT-INR 1.53,

Fibrinogen 112mg/dL,pH 7.215,PaCO2 47.0mmHg,

PaO2 13.6mmHg (酸素マスク4L/分),HCO3- 18.6mmol/L,

B.E. - 8.5mmol/L,lactate 43mg/dL 腹部造影 CT 検査:腹壁からの出血および子宮近傍に造 影剤の血管外漏出像を認めた(Figure 1)。 以上より腹腔内出血による出血性ショック,産科 DIC(産 科 DIC スコア 15 点)と診断し,止血目的に緊急開腹術を 行った。 所属:大阪警察病院 救命救急科1) 同 産婦人科2) 著者連絡先:〒 901-1193 沖縄県島尻郡南風原町字新川 118-1  沖縄県立南部医療センター 一般外科 受付日:2017 年 7 月 26 日/採用日:2017 年 11 月 8 日

(2)

手術所見:子宮前面に長径約 2cm の裂傷を認め子宮破 裂と診断し子宮全摘術を行った。腟断端から oozing が持 続するため DCS としてガーゼパッキングを行った。 術後,血管造影検査を行い両側内腸骨動脈分枝に血管外 漏出像を認めたため,同部位に対し TAE を施行した。集 中治療室に収容し全身状態の安定化を図ったが,数時間後 に再度ショック状態となり,造影 CT 検査を行ったところ 腟断端付近に血腫および血管外漏出像を認めた。緊急再開 腹術を行い,腟断端からの出血に対し結紮止血およびガー ゼパッキングを施行し止血した。さらに,血管造影検査 を行い両側内腸骨動脈分枝に血管外漏出像を認めたため, 追加の TAE を施行した。輸血量と貧血,凝固能の経時的 変化を Figure 2 に示す。輸血は初期対応時から合計して 赤血球液(以下,RBC)46 単位・新鮮凍結血漿(以下, FFP)26 単位・濃厚血小板液(以下,PC)30 単位を要した。 しかし,それ以降は再出血を認めず,術後 3 日目に凝固系 の改善が得られたため,ガーゼ除去および閉腹術を施行し た。術後 6 日目に抜管し,術後 38 日目に自宅退院となった。 Figure 1 Abdominal Contrasted-enhanced CT(Case1)

Contrasted-enhanced CT revealed extravasation from abdominal wall and around the uterus (arrow).

Figure 2 Therapeutic strategy of Damage Control Surgery(Case1)

Emergency total hysterectomy and gauze packing were performed along with transcatheter arterial embolization(TAE). However, the patient developed shock again that was diagnosed as hemorrhagic shock. Thus, repeat emergency gauze packing surgery and TAE were performed. After the procedures, her vital signs remained stable. Therefore, on the third postoperative day, the intraperitoneal gauze packing was removed, and her abdomen was closed.

RCC; Red Cell Concentration, FFP; Fresh Frozen Plasma, Hb; Hemoglobin, PT; Prothrombin Time, PC; Platelet Concentraion

(3)

症例 2

患 者:44 歳,女性。 既往歴:子宮筋腫摘出後。 妊娠歴: 2 経妊 1 経産,人工受精妊娠 40 週 5 日。 現病歴:他院入院中に胎児異常および母体の意識障害を 認めたため緊急帝王切開術が施行された。術中に心室細動 波形となり,電気的除細動で自己心拍再開が得られたが児 娩出後もショック状態が遷延した。前医での対応困難なた め,一時閉腹された状態で当院へ転送となった。

現 症:意識レベル Glasgow Coma Scale E1V1M1,血 圧 104/74mmHg,脈拍 119 回 / 分,呼吸数回 19 回 / 分, SpO2 100%(気管挿管下,FIO2 0.5),体温 35.0℃(腋窩温)。

子宮底を圧迫すると子宮口からの新鮮血の流出を認めた。 血液検査:Hb 6.9g/dL,Plt 8.0 × 104/mm3,PT-INR 5.85,

Fibrinogen < 20mg/dL,pH 7.408,PaCO2 29.4mmHg,

PaO2 421.8mmHg(気管挿管下,FIO2 0.5,PEEP 5mbar),

HCO3-18.1mmol/L,B.E. -5.8mmol/L,lactate 39mg/dL。

腹部造影 CT 検査:腹腔内液貯留は多量で,血管外漏出 像を認めた(Figure 3)。 以上より腹腔内出血による出血性ショック,産科 DIC(産 科 DIC スコア 17 点)と診断し,止血目的に緊急開腹術を 行った。 手術所見:子宮は一部青紫色の変色を認めたが,その他 明らかな肉眼的異常所見は認められなかった。帝王切開の 創部から oozing が持続しており止血が得られないため子 宮全摘術およびガーゼパッキングを施行した。 術後,集中治療室に収容し全身状態の安定化を図った。 輸血量と貧血,凝固能の経時的変化を Figure 4 に示す。 術後 2 日目に凝固系の改善を認めたため,ガーゼ除去およ び閉腹術を施行した。輸血に関しては,搬送されるまでに RBC4 単位・FFP6 単位,搬送後から術前までに RBC6 単位・ FFP14 単位・PC20 単位であり,総輸血量は RBC24 単位・ FFP36 単位・PC45 単位であった。術後 3 日目に抜管し, 術後 7 日目に紹介元病院へ転院となった。

考 察

産科出血による患者の急変では,産科危機的出血への対 応指針に準じ,輸血療法に加えて患者の状態に応じた止 血処置が行われる。一般に,妊孕性保存のために TAE が 第一選択となることが多い2)。しかし,内腸骨動脈は側副 血行路が豊富であるため,TAE の臨床的成功率は 71.5 〜 100%であり4),4 〜 12% に子宮全摘術を要したとされて いる5)6)。また,出血性ショック症例での TAE の奏効率 は 39.1%4)と低く,産科 DIC まで病態が悪化した場合は, 母体の死亡率は 5 〜 10%ときわめて高い7)。産科 DIC を 伴う出血性ショック症例では凝固系の破綻により確実な止 血を得ることが困難であり,本症例のように帝王切開術 後の場合は動脈性出血だけでなく静脈性出血も伴うため, TAE による止血のみでは止血が不十分でありショックが 遷延することが予想される。このような場合,子宮全摘術 による止血が選択されるが,その際には腟断端からの出血 をコントロールする必要がある。凝固系が破綻した状態で の止血コントロールは容易ではなく,われわれは従来,外 傷の治療戦略として用いられているダメージコントロール 手術の戦略8)を応用し一時止血を行う方針とした。 まず蘇生目的の手術として,止血目的に子宮全摘術およ び組織間隙からの出血に対してガーゼパッキングを行っ た。術後,凝固能が回復するまでの間,集中治療管理を行 い全身状態の安定化を図った。凝固能が回復した後,ガー ゼ除去および閉腹術を行った。いずれの症例も後遺症なく 救命でき,ダメージコントロール手術の戦略が有効であっ Figure 3 Abdominal Contrasted-enhanced CT(Case2)

Contrasted-enhanced CT revealed massive ascites and extravasation in the uterus(arrow).

(4)

Figure 4 Therapeutic strategy of Damage Control Surgery(Case 2)

An emergency total hysterectomy and gauze packing were performed. The intraperitoneal gauze was removed on the second postoperative day, and the abdomen was closed.

RCC; Red Cell Concentration, FFP; Fresh Frozen Plasma, Hb: Hemoglobin, PT; Prothrombin Time, PC; Platelet Concentraion

たと考えられた。 一般に重症外傷でのダメージコントロール手術のタイミ ングについては,代謝性アシドーシス・低体温・凝固異 常の「死の 3 徴候」を判断基準とし,これらが予見でき る時あるいはすでに出現している時と定義され9),35℃以 下の低体温では死亡リスクが上昇するため留意が必要で ある10) 一方,産科危機的出血では前述の理由から TAE が第一 選択となることが多い。しかし,一般的に使用されるゼラ チン様塞栓物質での塞栓は,凝固異常があると十分な止血 効果が期待できず,後に手術が必要となることや致命的と なることもある。TAE は手術と同様に準備や処置自体に 時間がかかること,止血に難渋している際に手術に切り変 えるタイミングが難しいという欠点もある。また,帝王切 開の既往,DIC 合併,10 単位以上の RBC 輸血は TAE 不 成功のリスク因子である11) 産科 DIC を伴う出血性ショックに対して子宮摘出術が 施行された症例報告は散見されるが,ダメージコントロー ル戦略の概念によって施行された報告は検索し得た限りで はなかった。そのためダメージコントロール手術の基準と して明確なものは提唱されていないものの,産科領域にお いても基本的に外傷と同様に「死の 3 徴候」を判断基準と し,ダメージコントロール手術を選択することは妥当であ ると考えられる。しかし,前述の TAE が不成功となりや すいリスク因子を有する際はより早期での判断が求められ る。自験例では,すでに「死の 3 徴候」,産科 DIC を呈し ており,ダメージコントロール手術の適応であった。タイ ミングを逸せずにダメージコントロール手術を施行した結 果,救命し得た。 最後に,自験例では症例 1 が子宮破裂,症例 2 が術中心 停止の症例であり,結果的に子宮全摘は回避し得なかった と考えるが,妊孕性保存は今後も考慮すべき重要課題であ る。近年,X 線透視装置と手術台が一体化したハイブリッ ド手術室により血管内治療と外科的手術を同時に行うこと ができるようになってきている。危機的産科出血において も,症例によってはこのような施設を活用しダメージコン トロール手術として動脈性出血に対しては TAE,静脈性 出血にはガーゼパッキングを同時に行うことで妊孕性保存 が可能かもしれない。

結 語

産科 DIC を伴う出血性ショックに対してダメージコン トロール手術を行い救命し得た 2 例を経験した。ダメージ コントロール手術は外傷症例だけでなく,大量出血を伴う 産科領域の治療戦略としても有用である。とくに致死的状 況においては救命のためダメージコントロールへの移行を 躊躇せず行うべきであると考えられる。 本報告における利益相反はない。 文献 1)山本晃士:産科大量出血の病態と輸血治療.日輸血細胞治 療会誌 2012;58:745-752. 2)関博之:産科出血に対する子宮動脈塞栓術.日産婦会誌 2010;62:N256-261. 3)竹田省:産科疾患と異常出血.日産婦会誌 2010;62:

(5)

Two cases of resuscitation of the postpartum women who developed

hemorrhage shock with obstetrical disseminated intravascular

coagulation(DIC)by the operation of damage control surgery

Takaya Nishiura

1)

, Yoshihito Ogawa

1)

, Takayuki To

1)

, Tomoya Hirose

1)

, Tomoki Yamada

1)

,

Haruhiko Nakae

1)

, Yukihiro Nishio

2)

, Masashi Kishi

1)

, Shigeru Yamayoshi

1)

Osaka Police Hospital Emergency and Critical Care Medicine Center1)

Osaka Police Hospital Department of Obstetrics and Gynecology2)

Case 1:A 29-year-old woman developed shock after an emergency cesarian operation. Contrast-enhanced CT revealed

extravasation from the abdominal wall and right uterine artery. She developed hemorrhagic shock and obstetrical disseminated intravascular coagulation(DIC), so emergency complete hysterectomy and gauze packing were performed along with transcatheter arterial embolization(TAE). However, a few hours later, she developed shock again, and repeat contrast-enhanced CT revealed extravasation near the distal vagina. She was diagnosed as being in hemorrhagic shock, so emergency gauze packing and TAE were performed again. The intraperitoneal gauze was removed on the third postoperative day, and her abdomen was closed.

Case 2:A 44-year-old woman developed shock during an emergency cesarian operation in another hospital. Bleeding

could not be stopped after delivery, so she was transported to our hospital. She developed shock. She developed hemorrhagic shock and obstetrical DIC, so emergency total hysterectomy and gauze packing were performed. The intraperitoneal gauze packing was removed on the second postoperative day, and her abdomen was closed.

Summary:Damage control surgery is one of the treatment options for patients with hemorrhagic shock due to

obstetrical DIC.

KeyWords:massive obstetric hemorrhage,disseminated intravascular coagulation(DIC), damage control surgery,

Figure 2 Therapeutic strategy of Damage Control Surgery(Case1) Emergency  total  hysterectomy  and  gauze  packing  were  performed  along  with  transcatheter  arterial  embolization(TAE)
Figure 4 Therapeutic strategy of Damage Control Surgery(Case 2) An emergency total hysterectomy and gauze packing were performed

参照

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