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小学校における子どもの自己肯定感育成に関する研究 -実態調査と学校教育実践の分析から- [ PDF

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1.章構成 序章 子どもの自己肯定感 第 1 節 問題の所在 第 2 節 自己肯定感の用語 第1章 研究目的と研究方法 第1節 研究目的 第2節 研究の対象と方法 第2章 自己肯定感に関する実態調査と実践の分析 第1節 子どもの意識調査 第 2 節 教師と教育実践・授業に関する調査 第 3 節 校長の学校経営に関する調査 第3章 自己肯定感に関する追跡調査 第 1 節 卒業生と他校生徒の実態 第 2 節 卒業生と他校生徒の比較 第 3 節 A校卒業生抽出生徒の実態 第 4 節 A校教師その後の教育実践に関する調査 第4章 総合考察 第 1 節 自己肯定感を育てる教師の指導性 第 2 節 自己肯定感を育てる学校経営 終章 課題と展望 第 1 節 本論のまとめ 第 2 節 本論の課題と展望 2. 研究の概要 序章 子どもの自己肯定感 1)問題の所在 自己肯定感の育成は、学校教育において大きな課題に なっている(蘭 1989、梶田 2002、田中 2005)。自己肯定 感を育成する重要性は、教育学においても心理学におい ても語られており、自己肯定感の類似概念として語られ ている自尊感情の低さは、あらゆる不適応な言動や不健 全なあり方と関連があるとしている(伊藤 2014)。自己へ の肯定的な感情は、日々の学習での意欲を旺盛にし、自 己の成長につながるとともに、社会生活を豊かにするな ど、子どもが生きていく上での原動力として欠かせない ものである。しかし、必ずしも期待される教育効果は得 られていない。また、他の調査結果からも、子どもの自 己肯定感は依然として低いとの指摘がなされている(上 薗 2007、東京都教職員研修センター 2011)。自己肯定感 を育てるためには、競争や個別に基づく授業よりも、協 同に基づく授業が有効であると報告されている(杉江 2011)。そこで、学校経営の一環として全校の児童に対す る自己肯定感に関する意識調査を、上薗(2011)が開発 した連想法を軸にして、学級集団を対象に行ってきた。 しかし、全校児童の自己肯定感は2年間(2012、2013)の 意識調査の結果、有意な結果を生んで来なかった。そこ で 2014 年度に計画を緻密にした方針を明確にするとと もに、推進体制を組んで、本研究年度とした。 2) 自己肯定感の用語 自尊感情の用語はさまざまに訳され定義され分析さ れて、一義的に流通しなくなっている。例えば『セルフ・ エスティームの心理学 自己価値の追求』と称した本で も各人の論における定義を集約するには「大まかにいう と『自己評価』ないし『自尊感情』」(遠藤 et al 1992 初版、まえがき)と言うほかない。他方、自己肯定感は、 Steel(1988)の Self-affirmation が有斐閣の心理学辞 典(1999)に見るように「自己肯定化」と訳され、高垣 (2004)は自己肯定感を「自分自身の在り方を肯定する 気持ちであり、自分のことを好きである気持ち」として いる。 本研究では、自己肯定感を、1)自分をふり返って想 起する言葉のうち、肯定が否定を上回る。(自己効力感、 自己有用感、自己有能感)、2)自分を受け入れる。(自 己受容)、3)何かができる、何かになれる、感覚がある。 (成長する子ども、夢や希望を持つ子ども)と定義する (上薗 2015)。 第 1 章 研究目的と研究方法 1)研究目的 自己肯定感は、子どもが自己形成していく基盤であり、 子どもの自己肯定感の育成は、今日の日本の重要な教育 課題である。そこで本研究は、子どもの自己肯定感の育 成を促す経営方針をとる公立小学校において、どのよう

小学校における子どもの自己肯定感育成に関する研究

-実態調査と学校教育実践の分析から-

キーワード:自己肯定感,学校経営,連想法,振り返り 所 属 教育システム専攻 氏 名 森永 謙二

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に子どもの自己肯定感を育成するのか、また、そういっ た学校経営のあり方はいかなるものかを明らかにするこ とを目的とする。 2)研究の対象と方法 ①調査対象 公立小学校A校、B校、C校の児童及び教師を対象 に、自己肯定感に関する定期的な意識調査を行い、 その結果を踏まえて、子ども(抽出児)並びに教師 に聞き取り調査を行った。 [子どもの調査対象] ア 公立小学校A校の全校児童 244 名を対象 イ 公立小学校B校の全校児童 56 名を対象 ウ 公立小学校C校の 473 名(5月調査)を5月 調査(1回目)の対象とした。12 月調査(2回 目)及び3月調査(3回目)については、各学 年から1学級を選定し調査対象とした。 1年1組:25 名、2年3組:26 名、3年1組: 22 名、4年2組:26 名、5年3組:22 名、6 年3組:27 名 [教師の調査対象] 公立小学校A校の教師[教師の調査対象]13 名、 公立小学校B校の教師7名、公立小学校C校の教 師7名を対象とした。 ②研究の方法 [子どもの意識調査] 2014 年の5月、12 月、2015 年3月に、学校生活 における自己肯定感の育成状況を見る定期的な 調査を、年度始め1学期(5月)、年度途中2学 期(12 月)、年度終わり3学期(3月)の3回 実施した。 ア 方法:10 分程度の連想法による調査を用いる。 イ 内容:子どもに次の8つの提示語を示し、一 提示語 50 秒で思いつく言葉を記入させる。1) 友達、2)学校、3)自分、4)学級、5)A 校、B校、C校それぞれの校区名、6)やさし い、7)先生、8)話し合い [教師の授業に関するアンケート、聞き取り調査] 子どもの意識調査を実施している公立小学校A 校、B校、C校における教師の学級経営や授業に 関する取り組み状況を把握して、子どもの自己肯 定感を育成するための効果的な取り組みや教師 が抱えている課題を分析し、自己肯定感を育てる 学校経営や学級経営の基礎資料とした。 〈アンケート調査〉 ア 方法:5 分程度の質問紙によるアンケート調査 イ 内容:日常の学級経営や授業で取り組んでい る 10 項目の調査 〈聞き取り調査〉 ア 方法:一人 15 分程度の半構造化インタビュー を行った。 イ 内容:アンケート調査で実施した、自己肯定 感を育てるために実践した具体的内容や教師が 抱えている育成上の課題について聞き取りを行 った。 [2年目の聞き取り調査] 2015 年 8 月に、A校、B校から進学した公立中 学校において、小学校で実施した意識調査を中学校 1年の全生徒を対象に実施した。また、A校で授業 を受けた生徒数名(抽出児)ならびに、卒業生の担 任であった教師及び、2015 年度もA校に在籍する 教師への聞き取り調査を行った。聞き取り対象の抽 出生徒は、小学校での抽出児を引き続き選出した。 生徒の聞き取りについては、小学校時代の授業や先 生達の印象及び成長の実感などについて質問した。 教師の聞き取りについては、2015 年度の自己肯定 感を育てるための実践状況や、自己肯定感育成に対 する 2014 年度との意識の違いなどについて質問し た。 第 2 章 自己肯定感に関する実態調査と実践の分析 1)5 月時点での3校の子どもの自己肯定感の実態 A校においては、『属性』、『体』、『肯定』、『その他』、 『否定』の順に割合が高い。 B校においても、『属性』、 『体』、『肯定』、『その他』 、『否定』の順に割合が高い。 C校においては、『属性』、『肯定』、『体』、『否定』、『その 他』の順になっている。 子どもの自己肯定感を量的に見ると、3校とも年度初 めでは同様の実態を示しているが、C校に占める『肯定』 の割合(回答者数比 100.0%)は、A校(回答者数比 77.0%)、B校(回答者数比 66.1%)を上回っている。 これが、2015 年 3 月の調査で子どもの意識に表れたA校 の肯定(回答者数比 316.0%)、B校の肯定(回答者数比 208.9%)、C校の肯定(回答者数比 91.2%)と比べると き、基本的に学校経営の差と捉えられる。 否定に示す割合はC校が高く(回答者数比 26.8%)、 B校(回答者数比 21.4%)、A校(回答者数比 11.1%) の順に低くなっている。 この3校の研究対象校における、子どもの自己肯定感 の意識が、2014 年 12 月、2015 年3月の3回の調査によ り、どのように変化したのかを連想調査、χ2検定、質

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的な変化を回答語の減少・消失、増加・新出をもとに 分析した。 χ2検定による、〈自分〉の回答語のカテゴリ比較は 3校とも調査を重ねる毎に『肯定』に示す割合が高く なっていることから、5月と3月を比較した。3校の 中でも有意結果が出ているA校の意識変化(図 1) とカテゴリ比較(表 1)を下記に示す。 図 1 A校全校児童〈自分〉についての調査ごとの 意識変化 表 1 A校全校統合〈自分〉の回答語 5 月と3月の カテゴリ比較 図 1 から、『肯定』の割合が調査ごとに増加し、『属 性』や『体』の割合が学期ごとに減少している。表 1から、自分を肯定する回答語が有意に増加し (p<.05)、『属性』や『体』に関する回答語が有意に 減少している。しかし、否定の割合も5月と3月を 比較すると増加しており、自分を否定する回答語が 有意に増加している。(p<.05) 2)子どもの自己肯定感が育つ要因 子どもは生活の中で、外的な要因として周りからの 様々な影響を受けて成長している。学校生活においては、 身近な友達、先生からの影響とともに、学級集団、学校 集団から大きな影響を受けており、その影響が内的な要 因として、自己肯定感の育ちにつながっているものと思 う。研究対象校において、1)友達、2)学校、3)自 分、4)学級、5)A校、B校、C校それぞれの校区 名、6)やさしい、7)先生、8)話し合いの8つの 提示語による調査を行っている。8つの提示語の中か ら、自己肯定感の意識変化に影響を及ぼしていると思わ れる〈友達〉、〈先生〉、〈学級〉、〈学校〉の回答語 5 月と 3 月のカテゴリ比較、回答語の減少・消失、増加・ 新出を見ることによって、子どもの自己肯定感が育つ要 因を明らかにした。 外的要因:〈友達〉、〈先生〉、〈学級〉、〈学校〉 内的要因:1)自分の成長に目を向ける、2)夢や希望 を持つ、3)内省(自分を振り返り向き合う)、4)マ イナス面も受け入れるなど。 第 3 章 自己肯定感に関する追跡調査 1)卒業生と他校生徒との比較 表 2 A校出身者と他校出身者〈自分〉のカテゴリ比較 カテゴリ 肯定 否定 属性 体 その他 A校出身者 70 13 ▽ 97 1 23 ▲ 他校出身者 93 81 ▲ 133 1 6 ▽ (▲有意に多い、▽有意に少ない、p<.05) A小学校出身者N=29 他校小学校出身者N=68 2015 年 8 月に、A校、B校から進学した公立中学校 において、小学校で実施した意識調査を中学校1年の 全生徒を対象に実施した結果は、以下の通りである。 ①A小学校出身者には、p<.01 で、否定の意識が少ない と言える。 ②肯定と否定との差を見ると、A小学校出身者は、自 己肯定が高い。 (肯定が否定の 5.38 倍)、他校出身者は肯定否定の差 が少ない(1.15 倍)。 ③その他は「友達」「家族」「親友」など、自分以外の 回答が有意に多い。 抽出した、A校出身者 4 名への聞き取りで「小学校に いて、自分が成長したか」につては、4 名の生徒すべて が、「成長した」と語っている。成長した理由を尋ねると、 4 名共通の理由が「振り返り」であった。小学校時代に 行った振り返りが中学校でも生かされて、自分の内面の 成長に目を向け、中学校生活を意味あるものにしている と思う。 2)A校教師その後の教育実践に関する調査 聞き取り調査した 6 名すべての教師が、本年度も子ど もの自己肯定感を育てる取り組みを継続しており、自己 肯定感に対する考えが、昨年度と違っている点や具体的 になっている点については、「振り返りの視点を、きちん と子ども達に持たせている。」「授業の中で振り返りを 大事にしている。」などが語られた。振り返りが、子ど もの成長に目を向けさせ、意識化されて自己肯定感をは ぐくんでいるものと思う。 カテゴリ 肯定 否定 属性 体 その他 2014年5月 187 ▽ 27 ▽ 465 ▲ 426 ▲ 42 2015年3月 749 ▲ 45 ▲ 279 ▽ 41 ▽ 55 (▲有意に多い、▽有意に少ない、p<.05)

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第4章 総合考察 1)自己肯定感を育てる教師の指導性 学習の見通しを立てると言う事には、大きく 3 つの意 味があったように思う。 1 つは特別な支援を必要とす る子どもたちが安心して授業に参加するための土台を 作ることになった。 2 番目に教師の指示が子ども全体 に徹底することになった。加えて協同の学びの形をと ることによって、子どもたち同士で何をやるのか、お 互いに確認しながら自分たちで活動していく土台を作 ることになった。3 番目に、子ども自身が見通しをはっ きりさせることによって、自分で考え活動する土台を 得ることになった。子どもたちが考え動くレールを敷 くために見通しをはっきりさせることが有意義であっ たと思う。それは協同の学びを取り入れた場合に、特 に有効に働いたのではないか。こうした子ども自身の 動きが、子どもの自己肯定感につながっていった面が あるように思う。 学習の振り返りは、学んだ内容の定着に役に立つと いうことや、自分を振り返り生活と結びつけて理解を 深め、自分を見つめて自己肯定感を育てた。勿論自分 を見つめる中には、反省すべき点を見出すということ が入るが、全体としては、自己肯定感を育てるところ につながっていったように思う。 2)自己肯定感を育てる学校経営 子どもの実態を知ることを客観化し視覚化すること、 2番目が学校経営の見通しを立てる事、学校経営の見 通しは方針が明確であるとともに、方針をどうやって 進めるのかについて、外部からの客観的な意見をもら う研修会を開催することが明確であること。もう一つ は、個々の先生にとって学級経営が掲げられ学級経営 とつなぐことである。学校経営と学級経営方針の一貫 性と具体性のある明確さが、学校全体の考えの流れを すっきりと理解させることになり、その柱に従って進 められることによって、生産的な有効な協議を生んで いく。 自己肯定感を育てようという意識の高さは、学校経 営や学級担任において、教育に向かう子どもを支える 意識の高さを作り出した。つまり自己肯定感を育てる という方針は、単に自己肯定感を育てるという方針を 明確にするということだけではなく、優れた教育をし ようという教師の意識の高さを学校経営にもたらし た。自己肯定感を育てるという方針が教職員に伝わっ ていったということではなく、自己肯定感を育てよう という方針を立てることが、学校経営そのもの質を高 いものにした。自己肯定感を育てるということを掲げ ることが、学校経営と教師の教育者としての意識を育 て、その循環がうまくいったところにA校の子どもの 自己肯定感が育った大きな要因があると思う。 終章 課題と展望 1)本論のまとめ 授業研究をするチーム学校を作り上げた。授業研究 するチーム化の 1 つは、子どもの意識の現状を分析す る手立てを見出す。それから見通し、振り返り、そし て評価という流れを教師が伸びる手立てとして示す ことになった。これも学校経営のサイクルであるとと もに学級経営のひいては、意図的教育を進めるための 手立てとして示すことになった。 2)本論の課題と展望 (1) 家庭との連携推進 自己肯定感の育成を、学校教育の取り組みとし て中心に述べたが、保護者への説明責任として、 子どもの自己肯定感の育成を学校経営の方針に あげて、年度当初のPTA総会に示し、我が子が どのようにA小学校で育てられようとしている のかを知らせたことが家庭との連携として意味 を持った。その上で、家庭地域と連携した取り組 みの分析は今後の課題となる (2) 自己肯定感が育つシステムの提言や支援 自己肯定感を掲げることによって学校がチー ム化し、教師の同僚性が高まった。他校への自己 肯定感を育てるシステムの提言や支援を行って いくことが今後の課題となる。 3.主要参考文献 蘭千壽 1989 子どもの自己概念と自尊感情に関する研 究 上越教育大学紀要、 8、 1、17-35 田中智志 2005 ケアリングのモラル形成-対話的関係 のなかの倫理-:越智貢、金井淑子、川本隆史・高橋 久一郎・中岡成文・丸山徳次・水谷雅彦編、 岩波応 用倫理学講義6教育、岩波書店、132-148 伊藤美奈子 2014 自尊心が低い子どもたち 児童心理、 №986、p.42 上薗恒太郎 2007 長崎県の教育の課題 自尊感覚を育 成する教育を、 長崎人権研究所、もやい 長崎人権・ 学 53 号、2-4 上薗恒太郎 2011 連想法による道徳授業評価 ―教育 臨床の技法― 教育出版 上薗恒太朗 2015 教育哲学研究 教育哲学会第 112 号、 p.140

参照

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