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コノハムシの飼育と繁殖

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コノハムシの飼育と繁殖

野本康太・奥山清市

伊丹市昆虫館

Rearing and breeding of the leaf insects (Phyllium pulchrifolium)

in Itami city museum of insects

Kota Nomoto, Seiichi Okuyama

Itami City Museum of Insects

(2014 年 2 月 28 日受理) 1 はじめに  ナナフシ目コノハムシ科の仲間は、自らの体をまわ りの自然環境や風景に似せることで、天敵から身を守 る隠蔽的擬態をする昆虫である。コノハムシは擬態す る昆虫の中でも特に体の形、色、模様、質感などが木 の葉そっくりで、英名ではリーフインセクト、ウォー キングリーフ等と呼ばれるほどである。当館では 2009 年 6 月から 2014 年 3 月現在までコノハムシ(Phyllium pulchrifolium)を飼育し生態展示を継続している(図 1)。 当初終齢幼虫及び成虫で導入した系統は現在、第 5 世代 目の幼虫となっている。コノハムシは各地の昆虫館など で飼育展示の実績のある昆虫だが、今のところ国内にお ける飼育や繁殖における詳細な報告は見あたらない。今 回は本種の飼育繁殖から得られた知見を元にコノハムシ の生活史の一端を明らかにすることを目的とし、本種の 入手や管理に関する手続きから成虫の飼育、採卵から羽 化までの生育データを取りまとめた。  コノハムシ科(Phylliidae)の仲間はインド、セイロ ン島、マレー半島からジャワ、スマトラ、ボルネオ、フィ リピン、ニューギニア、フィジー島など熱帯アジアや南 太平洋の島々に広く分布し、3 属約 30 種が知られてい る(Paul D.Brock 1999, Seow-Choen,Francis 1997)。 コノハムシ(Phyllium pulchrifolium)(図 2、3)の属す

問い合わせ先 E-mail: [email protected] Tel: 072-785-3582

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る Phyllium 属は、雌雄間で体型、触角や上翅の長さな どが大きく異なること、濃淡のある緑色や茶色、黄色な ど体色に変化があること、脚や腹部の側縁がヒダのよう に薄く張り出し、成虫の前翅脈が木の葉の葉脈に似てい ること、腹部や脚の側縁ヒダに凹凸があり虫喰いの葉っ ぱのように見えることなど共通した特徴がある(Seow-Choen, Francis 1997)。  卵は断面が 5 角形の星形になるような形状をしてい る。Paul D.Brock(1999)によればバラ科のブラック ベリー(Rubus fruticosus)、フトモモ科のグアバ(Psidium guajava)、 ム ク ロ ジ 科 の ラ ン ブ ー タ ン(Nephelium

lappaceum)、ウルシ科のマンゴー(Magifera indica) やブナ科の1種などが食草とされている。

  ま た こ の 仲 間 は 種 内 変 異 が 大 き い た め 分 類 が 非 常 に 混 乱 し て お り、 当 館 の コ ノ ハ ム シ(Phyllium

pulchrifolium)についてもコノハムシの1種(Phyllium

bioculatum)と同種ではないのかという見解もある(Paul D.Brock 1999, Philip E.Bragg 2001)。

物を守るため、これらを害する昆虫・微生物などを外国 から日本国内に持ち込むことを禁止しており、コノハム シも対象生物となっている。   当 館 は 平 成 21 年 6 月 8 日、 当 時 の 農 林 水 産 大 臣 石破茂に宛て、神戸植物防疫所を経由し輸入禁止品 輸 入 許 可 申 請 を 行 い コ ノ ハ ム シ 科 の 1 種(Phyllium pulchrifolium)40 個体及び食餌植物(バンジロウの枝 及び葉)2kg をマレーシア共和国から輸入した。輸入に ついては他の昆虫施設でも利用実績があり、現地の昆虫 館などともつながりのある株式会社エルアイエスに委託 し空路携行にて行った。申請にあたり輸入後の管理方法 及び管理場所、飼育ケージの設計図、管理責任者及び飼 育に使用する器具など詳細な計画を立てた。また食べ残 しや死骸などはオートクレーブで高圧滅菌処理(120℃、 20min.)すること、展示に際して来館者から鍵付きの 2 重扉で隔離されていること、管理責任者を定めることな どの条件をクリアしている。(許可指令番号農林水産省 指令 21 神植第 380 号) 飼育について(ケース、エサ、メンテナンス方法)  コノハムシの飼育には植物防疫法により、2 重に施錠 できる環境での管理が求められる。当館のバックヤード での飼育管理は、チョウの卵や幼虫、蛹を管理する施錠 可能な人工気象室(恒温室)で行い、金属メッシュ(1mm) の鍵付きケージ(W45cm×D45cm×H95cm)内で円形 プラスチックカップ(後述)または昆虫飼育ケースを用 いた(図 4)。展示面においては、施錠可能なキャスター 付きアクリルケース台(W60cm×D60cm×H140cm)に 施錠可能な円筒形アクリルケース(直径 40cm×H60cm、 天板は 1mm 金属メッシュ)を入れ込み展示ケース(図 5) とするか、汽車窓式の生態展示室(鍵付き)にて、施錠 可能なアクリルケース(W30cm×D40cm×H60cm)を 使用した。室温 23 〜 25℃程度、湿度 50 〜 70%、1 日 約 8 時間蛍光灯の光をあてた(8L:16D)。エサはフトモ 図 2 コノハムシ雌成虫 図 3 コノハムシ雄成虫

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分類にも役立つ(川上 2007)とされ、コノハムシ科の 種においても種毎に特徴があるようだ(Paul D.Brock 1999)。産卵場所は決まっておらず適当に産み落とす が、腹部末端に卵がついた状態で腹部を揺さぶり卵を飛 ばすこともあった。Philip E.Bragg(2001)によれば Phyllium bioculatumの雌成虫は卵をお尻からはじき飛 ばすとされ、軽くて羽根がついた卵は風が吹いた環境下 で少しでも分散しようとする仕掛けと思われると述べて いる。確認された卵は回収日及び採卵数を記録し、ふた 付きの円形プラスチックカップ(直径 8cm、深さ 4cm) にティッシュを敷き管理した。卵への霧吹きは行わな かった。2,290 個の卵のふ化を調べたところ 563 個がふ 化し、ふ化率は 24.6%だった。卵期間は最短 99 日、最 長で 262 日、平均的には 140 日前後であった。なお卵 期間調査は採卵日から約 1 年後まで行っている。ふ化 に際し卵殻の先端にある小突起状のフタが外れ、わずか 2mm の穴から赤褐色の幼虫が出てくる。この時ふ化幼 虫はコノハムシ特有の薄い葉っぱ状ではなく、細長い棒 状の体型をしており(図 7)、ふ化経過時間と共に腹部側 面が張り出していく。 図 4 バックヤードの飼育ケージ 図 5 展示用 2 重ケージ モ科のグアバ(別名バンジロウ、オオミグアバ、キング グアバ)の葉を用いた。1 日に一度ケース内に霧吹きし 湿度を保った。この飼育環境は卵や幼虫の管理でも同様 である。文献などで、本種の食草とされるマンゴーやブ ナ科の植物(シラカシ)を与えてみたが当館では摂食を 確認できなかった。 3 結果 採卵からふ化  羽化後 1 〜 2 週間で雌成虫は産卵を開始し、2 日に 1 〜 3 個程度産卵した。5 枚のヒダがついたカボチャ型の 卵(図 6)は黒褐色で、長径 6mm 短径 5mm、重さは約 0.02g であった。  ナナフシの仲間において卵の形や模様は種毎に異なり 図 6 卵とふ化幼虫 図 7 ふ化直後の幼虫

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切り、切り口に水を含ませた脱脂綿を付けアルミホイル でくるんで与えた。若齢の幼虫には小さく柔らかめの葉 を使用した。ふ化幼虫の体長は 12mm ほど、腹部は最 大幅 7mm ほど、背腹軸方向の厚みは 1mm 以下である。 他の齢期の幼虫に比べこのふ化幼虫は良く動き、上方へ 向かう性質がある。これは素早く動き、樹上にのぼって 上から舞い落ちて移動する(Paul D.Brock 1999)とい う性質の現れと思われ、櫻井(2001)も本種のふ化幼 虫が高いところからひらひら舞い落ちる行動を記録して いる。赤褐色だった体色は食草を食べ始めると徐々に緑 色または淡い褐色へ変化していく。脱皮前にはじっとし て動かなくなりエサを食べなくなる傾向が見られた(図 9)。抜け殻及び体長や体幅、頭長から判断すると雄は 5 齢幼虫を経て成虫に、雌は 6 齢幼虫を経て成虫になると 思われる。羽化までの日数は雄 ( 図 10) で 183 日(N=33) 雌(図 11)で 213 日(N=26)であった。成虫の形態 は雌雄で大きく異なる。体幅が広く、後ろ翅が退化して いる雌はあまり動かず飛ばないが、スマートで翅の長い 雄は良く動き、ひらひらと飛翔した。平均的な雄成虫 の体長は 58mm、最大体幅 23mm、頭長 4.5mm、雌成 虫の体長 66mm、最大体幅 35mm、頭長 6mm であっ 図 8 幼虫飼育カップ 図 9 脱皮 図10 雄成虫 図11 雌成虫

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た。雌雄間の体型の違いは老齢幼虫になると顕著になる が、初期段階でも脚が体色と異なる薄い茶色の場合は雄 成虫となることがわかった ( 図 12)。当初輸入した母虫 より 2010 〜 2011 年にかけてふ化幼虫 64 個体、成虫 16 個体(羽化率 25%)を得た。2011 〜 2012 年にはふ 化幼虫 523 個体、成虫 51 個体 ( 羽化率 11% )、2012 〜 2013 年にはふ化幼虫 308 個体、成虫 28 個体(羽化率 9%) を得た。 4 考察と今後  約 5 年にわたる本種の飼育から得たデータをまとめる と、卵期間 143 日(最短 99 日、最長 262 日)幼虫期間 は雄で 183 日(最短 145 日、最長 253 日)、雌で 213 日(最 短 175 日、最長 289 日)であった。成虫の寿命は雄で 1 〜 2 ヶ月 雌で 4 〜 5 ヶ月、ふ化率 24.6%、羽化率 10.6%となった(表 1)。ふ化幼虫は、食草への食いつ きが悪くそのまま死亡することがあるが、同一ケースに て多頭飼育すると比較的食いつきが良く、櫻井(2004) によればグアバを植木鉢ごと用いて、飼育することでも 食いつきが良くなるとある。またふ化幼虫は卵殻から体 をうまく引き出せず死亡することもある。老齢の幼虫に なるほど脱皮に必要とする空間が大きくなりケースの大 きさを変えるタイミングを見誤り脱皮失敗をまねくこと があった。これらを改善する事で羽化率を向上させるこ とが出来るかも知れない。岡田(1995)はナナフシの幼 虫における各齢期間はふ化した時期や食草によってかな りの開きがあると述べている。コノハムシについても今 回得られた生育データは一例であり、ふ化率や羽化率、 図 12 雄幼虫(左)雌幼虫(右) 図 13 コノハムシの雌雄 図 14 コノハムシの交尾 表 1 コノハムシ(Phyllium pulchrifolium)の飼育下に おける生育データ 採卵数 ふ化数 ふ化率(%) 備考 2,290 563 24.6 -ふ化数 羽化数 羽化率(%) 備考 895 95 10.6 -卵期間(日) 最短 卵期間(日)最長 卵期間(日)平均 備考 99 262 143 N=22 幼虫期間(日) 最短 幼虫期間(日)最長 幼虫期間(日)平均 備考 雄  145 253 183 N=33 雌  175 289 213 N=26 ※ 成虫期間(観察によるおよその値) 雄 1 〜 2 ヶ月、雌 4 〜 5 ヶ月

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は他施設での飼育状況なども情報収集しながら飼育技術 を高め、累代飼育を続けながら生育特性や生態について 調べていきたい。 5 謝辞  本種の飼育及び展示に関しアドバイスをいただいた広 島市森林公園昆虫館坂本充氏、本種の輸入及び飼育、展 示に関わる諸手続についてご指導いただいた神戸植物防 疫所のみなさま、本稿制作において参考文献の紹介及び アドバイスをいただいた堺自然ふれあいの森の後北峰之 氏に厚く御礼申し上げます。 参考文献 川上洋一(2007)世界珍虫図鑑改訂版 :176-177. 柏書房, 東京 岡田俊典(1995)コブナナフシの飼育から . インセクタ リュウム:32(9):10-12

Paul D.Brock(1999)Phylliidae. Stick and Leaf insects of Malaysia and Singapore:158-164. Malaysian Nature Society,Kuala Lumpur

Philip E.Bragg(2001)Phylliidae. Phasmids of Borneo:189-190. Natural History Publications, Kota Kinabalu

坂口浩平(1979) 図説世界の昆虫 1 東南アジア編Ⅰ: 62-65. 保育社,東京

櫻井佑子(2004)今月の表紙コノハムシ . 動物と動物園: 56(2):9

Seow-Choen,Francis 1997 . A guide to the stick & leaf insects of Singapore: Singapore science centre,Singapore

参照

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