リボンスズメダイ属の一種 Neopomacentrus azysron の
水槽飼育下における繁殖と育成
田 中 洋 一
1)・山 田 一 幸
2)・白 藤 拓
3)・中 村 絢 子
4)Reproduction and Rearing of the Damselfi sh,
Neopomacentrus azysron
,
in the Aquarium
Yoichi Tanaka
1), Kazuyuki Yamada
2), Taku Shirafuji
3)and Ayako Nakamura
4)Abstract
Reproductive behavior and embryonic and morphological development of larvae, juveniles and adults of the laboratory reared damselfi sh, Neopomacentrus azysron(Bleeker)are described.
The four adult specimens(one female and three males)were reared in an about 190 tank(60 × 60 cm acrylic aquarium with water of 52 cm depth)in the laboratory of the Marine Science Museum, Tokai University. One unglazed earthenware pipe and one vinyl chloride pipe were set on bottom of the tank as an egg laying nest.
The observation period was about nine months from 2 April 2003 to 20 January 2004. Spawning was observed sixty-eight times during the period from 26 April 2003 to 17 January 2004. Spawning occurred at the period from mid night to before dawn(03:30-06:45)under natural light conditions. The fertilized eggs were demarsal cocoon-like in shape, mersuring 1.08-1.38 mm(average 1.18 mm)in long axis and 0.42-0.47 mm (average 0.44 mm)in short axis with one oil globule(0.14-0.16 mm in diameter). Hatching began from 3 to 5
days(mainly 4-5 days)after fertilization at a water temperature of about 25.℃ .
Newly hatched larvae measured 2.64-3.34 mm(average 3.07 mm)in total length are shared with myomeres(5-6+21=26-27), an oil globule(about 0.07 mm in diameter)in the yolk sac(about. 2 mm), opend anus, not completely opened mouth and completely blacked eyes. The sixteen days after hatching, larvae reached the early juvenile stage, measured 7.37-7.50 mm( average 7.43 mm)in TL. The larvae were
1) 東海大学海洋研究所 〒 424-8610 静岡市清水区折戸 3 -20-1
Institute of Oceanic Research and Development, Tokai University. 3-20-1 Orido, Shimizu-ku, Shizuoka 424-8610, Japan 2) 東海大学海洋科学博物館 〒 424-8620 静岡市清水区三保 2389
Marine Science Museum, Tokai University. 2389 Miho, Shimizu-ku, Shizuoka 424-8620, Japan 3) 名古屋港水族館 〒 455-0033 名古屋市港区港町 1-3
Port of Nagoya Pablic Aquarium. 1-3 Minato, Minato-ku, Nagoya 455-0033, Japan 4) 〒 134-0088 東京都江戸川区西葛西 3 丁目 4-4 サンハイツ西葛西 202 号
202 Nishikasai Sun-heights, 3-4-4 Nishikasai, Edogawa-ku, Tokyo 134-0088, Japan (2006 年 9 月 4 日受付/ 2006 年 11 月 10 日受理)
緒 言 今回観察した種は,スズメダイ科 Pomacentridae, リボンスズメダイ属 Neopomacentrus の Neopomacentrus azysron である.本種はフィリピン,モロッコ,ニュー ギニア,ソロモンの各諸島および北オーストラリアな どの熱帯域に広く分布し,水深 1 ∼ 12 m の礁脈の傾 斜面上に生息する(Allen,1975). 体色は,全体は赤味がかった灰色を呈するが,頭部 から背鰭にかけての背面は薄緑色で,背・臀鰭軟条部 および尾柄から尾鰭後端までは赤味がかった黄色を呈 する.胸鰭基部と主鰓蓋骨上方に各 1 個の明瞭な青味 がかった黒色斑を有する. 本種に関しては,分布や成魚の形態に関する情報は あるものの,繁殖習性や卵・仔魚に関する情報は皆無 である.著者らは 2001 年に,本種の親魚を入手して 継続飼育した結果,2003 年に水槽飼育下で産卵を確 認し,繁殖習性と卵・仔稚魚の形態変化を観察した. また,孵化した仔魚を孵化後約 2 年半まで育成したと ころ,孵化から 1 年2ヵ月後には,水槽内で産卵も行 われた. 材 料 と 方 法 親魚の入手と飼育 親魚は,2001 年 3 月 29 日に,熱帯魚商を通じて購 入したバリ島産の 7 尾のうち,約 2 年後の 2003 年 4 月 の時点で生存していた雄 3 尾と雌 1 尾の合計 4 尾で, 観察を終了した 2004 年 1 月 20 日に計測した雄 3 尾の各 部の範囲は,全長 107.9 ∼ 79.5 mm,体高 28.6 ∼ 25.5 mm,体重 12.7 ∼ 7.8 g,雌の全長 89.7 mm,体高 25.3 mm,体重 9.7 g であった.これらは,東海大学海洋 科学博物館敷地内にある実験棟内に設置されている容 量約 190 (60 × 60 × 52 cm)の角型透明アクリル水槽 に収容して,飼育を継続した.水槽底には,径 2 ∼ 4 mm の珪砂を厚さ 7 ∼ 8 cm に敷いて,底面濾過循環 方式としたほか,産卵巣として,T字型の素焼きの土 管(長さ 20 cm × 11 cm,内径 7.5 cm)1 個と,筒型塩 化ビニールパイプ(長さ 16 cm,内径 8 cm)1 個を設置 した.水温は,200 wヒーターで本種の生息域での産 卵期の水温として予測された 25℃に調温した.また, 親魚のストレスを防ぐ目的で,水槽の外壁に黒色ビ ニールを貼った.なお,実験水槽が設置された場所は, 自然光の環境下とは異なるので,昼間(9 時 00 ∼ 17 時 00)は,水槽上部約 1 m に設置した 40 W蛍光燈を点 灯した.また夜間は,実験棟外の外灯の影響を僅かに 受けるので,水槽内が暗黒となることはなかった.親 魚の餌料は,市販の冷凍アルテミア成体を解凍したも のを,毎日午前中1回投与したほか,日曜と祭日を除 く 14 時 30 分頃に,塩抜きしたタラコとオキアミ,ア サリ,アジ肉をミンチにして混合し,ほぼ飽食と思わ れるまで投与した. 仔稚魚の飼育 受精卵は,孵化まで親魚の保護に任せ,孵化後の仔 魚を以下の方法で採集した.すなわち,孵化が予想さ れた日の夕刻に,水槽の循環装置を停止して孵化を待 ち,孵化仔魚が強い正の走光性を有する特徴を利用し, 水槽上部から水槽底に向かってハンドライトを照射し て仔魚を蝟集させた.そして,手製のサイフォン用具 (濾斗:径約 80 mm)を先端に付けたビニールホース (内径 7 mm)を用いて,親魚飼育水と同温度に調節し た新鮮海水を満たした 200 容量ポリカーボネイトタ ンク(商品名:パンライト;以下飼育水槽と呼ぶ)に仔 魚を移した.飼育水槽は,200 wヒーターで水温を親 魚と同じ 25 ℃を保持するように設定し,弱い通気を 行った.また,仔魚の餌料の量的維持と,水槽外部か らの刺激による仔魚のストレスを防ぐ目的で,飼育水 が常に薄い緑色を呈するように,市販の冷凍クロレラ を解凍して適量添加した.飼育水槽の底に溜まった死 魚やゴミは,毎日午前中に,サイフォンで除去し,新 鮮な海水によって飼育水の約 1/3 を換水した.また, 飼育個体の大部分が着底した後は,容器内にスポンジ フィルター 1 個を設置して,飼育水を濾過した.さら にその後は,容量約 60 の角型ガラス水槽(底面濾過 式,200 wヒーター 1 本設置)に移し入れて,親魚と同 様の方法で飼育を継続した. 仔魚の初期餌料としては,孵化直後から,清水港周 辺で採集した天然プランクトン(種の査定は行わず)を 適量と市販の DHA 剤(スーパーカプセルパウダー; successively fed rotifers, Artemia nauplii, fi sh egg and chopped fi sh meats and after about fourteen months reached the adult stage and then spawned in the aquarium.
クロレラ工業製)で栄養強化したS型シオミズツボワ ムシ Brachionus sp. を 80 尾/cc 前後の密度で投与し た.その後は成長に伴って,以下のような餌料系列 で飼育を行った.孵化 15 日後から 5 日間は,シオミ ズツボワムシに加えて,同様に栄養強化した Artemia 孵化幼生を添加して併用投与したが,孵化 20 日後か ら約 1 ヶ月間は,アルテミア孵化幼生の単独投与とし た.そして孵化 50 日後から 10 日間ほどは,アルテミ ア孵化幼生に加えて,タラコ,冷凍アルテミア成体, 魚介肉混合ミンチなどの死餌を併用,孵化 2 ヶ月後以 降は,魚介肉混合ミンチのみの単独餌料として飼育を 行った. 繁殖習性と卵・仔稚魚の観察 繁殖習性の観察は,夕刻に水槽前面に貼った黒色ビ ニールを外して,アクリルガラス越しに,目視によっ て行った.卵内発生の観察は,卵塊の一部を採取し て親魚飼育水を満たした容量2の角型プラスチック ケースに収容し,Water bath で水温を 25℃に保った ほか,エア・ストーン 1 個を投入して,弱い通気を行っ た.そして,発生段階ごとに 5 ∼ 10 粒の卵を採取し て,双眼実体顕微鏡下でスケッチとデジタルカメラに よる撮影を行った.仔魚の発育段階別の観察は,毎回 3 ∼ 5 尾を取り上げて,MS 222 で麻酔した後に,双 眼実体顕微鏡下でスケッチと,デジタルカメラによる 撮影を行った.なお,卵径および仔魚の体各部の計測 は,万能投影機下で 10 ∼ 20 倍に拡大後,ノギスを用 いて小数点第 2 位まで計測した. 結 果 繁殖習性 繁殖行動:繁殖行動は,雄による産卵基盤となる産 卵床の掃除行動によって開始され,続いて雌への求愛 と産卵巣への誘引,雌の放卵と雄の放精,そして雄の 卵保護といった一連の行動パターンを示した.それら の行動は,以下のように纏められる. 雄 3 尾は,産卵巣として設置した T 字型素焼きの 土管内や筒型塩化ビニールパイプの内外を,それぞれ に占拠した. そして産卵日が近づくと,雄は,それぞれ産卵巣 の内壁や外壁に付着したゴミや珪藻類,あるいは前回 産着した卵の付着糸叢根を口で剥ぎ取り,口や胸鰭 を使って巣外に出す,いわゆる「掃除行動」を開始す る.一方雌は,この掃除行動には参加しない. なお,通常の外見上の雌雄差としては,雄の背鰭 と臀鰭の第 1 軟条と尾鰭の上下両葉は,雌に比べて長 く伸長していた.また,雌への求愛行動中の雄の頭頂 部には,通常は見られない婚姻色と見なされる白色斑 が認められた.雄は,掃除行動と併行して,産卵巣周 辺の上方にいる雌の近くまで泳ぎ上がった後,急に方 向転換して素早く産卵巣に戻る Signal jump と呼ばれ る行動や,体を小刻みに震わせながら雌に接近した 後に,S字を描くように階段状に産卵巣まで下降する Dipping motion や Jerk dance と呼ばれる求愛・誘引 行動を示す.これらの行動は,時間の経過に伴って速 度を増して,次第に雌と産卵巣の間隔を狭めながら繰 り返し行なわれる.産卵間近には,雄は雌と産卵巣の 間を,1 分間に 3 ∼ 5 回ゆっくりと往復する.その後, 雌雄は産卵巣内に入って放卵・放精を行った.しかし, 繁殖行動中の雌雄は,観察者に対する警戒心が強く, 放卵・放精を中断したため,放卵・放精行動を直接長 時間観察することは出来なかった.その後,放卵終了 後と見なされた雌は,すでに巣外に出ており,雄のみ が巣内に留まって卵保護行動を行うのが観察された. 雄は,口によって不良卵のほか,残存しているゴミ や付着珪藻を除去するとともに,産着卵塊を胸鰭で扇 ぎ,新鮮な海水を送る Fanning と呼ばれる卵保護行 動を行う.また,この行動と併行して,産卵巣に接近・ 浸入しようとする個体に対しては,雌雄を問わず突進 して追いかける駆逐行動を示し た.なお,卵保護中の雄は,投 餌時には一旦産卵巣を離れて摂 餌に集中するが,摂餌後は,直 ちに産卵巣に戻って卵保護行動 を継続する.雄は,夜間にも産 卵巣内に留まるものの,昼間の ような卵保護行動は示さず,卵 塊に寄り添った状態で静止して
Table 1 Reproduction record of the damselfi sh, Neopomacentrus azysron
Observation period 2 April 2003 ∼ 20 January 2004 Spawning period 26 April 2003 ∼ 17 January 2004 Number of spawning 68 times
Beginning time of spawning 03:30 ∼ 06:45 AM Number of egg 3,800 ∼ 4,800
Days for incubation 3 ∼ 5 days(4 days:89%) Beginning time of hatching 17:45 ∼ 20:30 PM
Accumulated temperature 101.0 ∼ 145.1(mainly 115.8 ∼ 136.7D℃) Spawning intervals 1 ∼ 14(2 days:43%, 1 ∼ 3 days:69%)
いる.そして孵化直前には,それまでに比べて一層活 発に Fanning を行って,孵化を促すのが観察された. 産卵回数,産卵時刻,産卵所要時間および産出卵数 産卵回数,産卵時刻,産卵所要時間および産出卵数 (Table 1):本種の産卵は,2003 年 4 月 26 日に初めて 確認されてから,観察を終了した 2004 年 1 月 20 日ま での約 9 ヶ月間に,68 回行われた.前述したように, 産卵開始時刻の多くは直接観察することができなかっ たが,産着卵の出現状況と卵内発生の状態からは,3 時 30 分∼ 6 時 45 分の間に,産卵が開始されるものと 推測された.また,当日の夕刻までに産着卵が確認で きなかった場合でも,翌朝の日の出前には卵塊が確認 されたことから,本種の産卵は,深夜から日の出前ま での間に行なわれるものと考えられた.雌の 1 回の産 卵数は,2 回の計数では,約 3,800 粒と約 4,800 粒が数 えられた.また,毎回の卵の付着面積に大きな差は認 められなかったことから,本種の雌の 1 回の産出卵数 は,ほぼ前述の値に相当するものと考えられた. 孵化所要日数,積算温度,孵化時刻および産卵間 孵化所要日数,積算温度,孵化時刻および産卵間 隔(Table 1):産卵から孵化までの所要日数は,受精 3 日後に孵化が行なわれた 1 例を除けば,産卵日と孵 化日がともに観察できた 51 例中,受精 4 ∼ 5 日後が全 体の 89 %であった.しかし中には,1 卵塊が全て孵 化を終了するのに,2 日間を要した例もあった.飼育 水温 25 ℃前後での孵化までの積算温度は,3 日後に 孵化した 1 例で 101.0,4 日後では 115.8 ∼ 136.7(125.2 ± 4.63 SD),5 日 後 で 144.1 ∼ 145.1(144.5 ± 0.35 SD) であった.孵化は全て日没後に開始され,15 ∼ 30 分 を要して終了した.また,1 卵塊が全て孵化を終了す るのに,2 日間を要した場合も,2 日目は前日とほぼ 同時刻に孵化が開始された.観察した 51 回の雌1尾 の産卵から次の産卵までの産卵間隔は,1 ∼ 14 日で, そのうち 2 日が約 43%,1 日が約 16%,3 日が約 10% と,1 ∼ 3 日で全体の 69 %,そして 4 ∼ 8 日が約 27 % で,全体の約 96 %は 8 日以内に次の産卵が行なわれ たことになる. 初期生活史 受精卵の形状と卵内発生:受精卵(N=20)は,長径 1.08 ∼ 1.38 mm(1.18 ± 0.15 mm SD),短径 0.42 ∼ 0.47 mm(0.44 ± 0.03 mm SD)で,長軸の中程に浅い窪み をもつ繭形をした無色透明の付着沈性卵である.長径 0.51 ∼ 0.53 mm,短径 0.29 ∼ 0.32 mm の卵黄内には, 径 0.14 ∼ 0.16 mm のほぼ真球の大油球 1 個が存在す る.動物極側には付着糸叢を有しており,これによっ て基盤に一層を成して付着する. 本種の孵化は受精 3 ∼ 5 日であった.ここでは孵化 後の仔魚の状態が最も活発に行動し,しかも生存率が 良かった受精 5 日後に孵化した例について,卵内発生 過程を記載する. 受精 13 分後に付着糸叢側に胚盤が隆起し,45 分後 には,最初の卵割が行なわれて 2 細胞期となる(Fig. 1-A).1 時間 24 分後,4 細胞期.2 時間 20 分後,8 細胞 期.4 時間後,16 細胞期.そして受精 4 時間 30 分後に は,初期桑実期に入る(Fig. 1-B).5 時間 30 分後,後 期桑実期.8 時間 30 分後,初期胞胚期.9 時間 15 分後, 後期胞胚期.12 時間 45 分後,胚皮が卵黄の 1/3 を覆い, 初期嚢胚期に入る.15 時間 30 分後,中期嚢胚期とな り,胚皮は卵黄の 1/2 を覆う.18 時間 00 分後,胚皮 はほぼ卵黄全体を覆い尽くす.20 時間 00 分後,胚体 形成がほぼ完了する(Fig. 1-C).23 時間 00 分後,眼胞 が形成されるほか,脊索原基および胚体中央付近に筋 節数 4 が形成される(Fig. 1- D).25 時間 00 分後,胚 体の尾部腹面にクッパー氏胞が出現する.筋節数7. 28 時間 00 分後,耳胞が形成される.筋節数 11(Fig. 1-E).31 時間 00 分後,眼胞内にレンズが形成される. 顆粒状の黒色素胞が,胚体上と眼の周辺に数個および 卵黄表面に 10 個前後出現する.筋節数 15(Fig. 1-F). 33 時間 00 分後,耳胞内に耳石が形成され始めるほか, 脳の分化も認められる.この時点でクッパー氏胞は既 に消失している.体各部の黒色素胞は樹枝状に変化し つつある.筋節数 18 .35 時間 00 分後には,心臓の拍 動が認められ,その 1 時間後には尾部が卵黄から遊離 している.筋節数 20 .40 時間 00 分後,胚体は卵内で 反転する.筋節 22(Fig. 1-G).45 時間 00 分後,血流 が確認される.中脳部付近に左右各 1 個の明瞭な顆粒 状黒色素胞が出現する.55 時間 00 分後,尾部は伸長 して,その先端は頭部のやや後方に達する.油球は相 互に癒合して大形となり,小油球は僅かに残存するの みとなる.体格部の黒色素胞は大型となり,中脳部付 近のものを除き,全て樹枝状を呈する.56 時間後に は,尾部に鰭膜の形成が認められる.65 時間 00 分後, 眼に点状の黒色素胞が出現して,黒化が開始される. 油球は合一して,大油球 1 個となる.101 時間 00 分後, 卵黄の吸収が進み,胚体は卵内で活発に動く.肛門 の形成が認められる.106 時間 00 分後,消化管の形成 が認められる.筋節 25 ∼ 26(Fig. 1-H).123 時間 00 分 後,尾部はさらに伸長して,その先端は頭頂部付近に
Fig. 1 Development of eggs and pre-larval stages of Neopomacentrus azysron
A: 2-cell, 45min. after fertilization. B : Morula stage, 4 hr. 30 min.
C : Formation of embryonal body, 20 hr. 00 min.
D: 4-myotome stage, formation of optic vesicles. 23hr. 00 min. E : 11-myotome stage, formation of auditory vesicles. 28 hr.00 min. F : 14-myotome stage, formation of lenses and punctuate melanophores appear on the yolk sac and embryonal body. 31 hr. 00 min.
G : 22-myotome stage, embryonal body was reversed into the egg. 44 hr. 00 min. H: 25-myotome stage, punctate melanophores appear on the eyes. 65 hr. 00 min. I : 26-myotome stage, Just before hatching. 129 hr. 00 min.
J : Newly- hatched larva, 3.07 mm in total length. K: Postlarva, 24 hr., 3.22 mm TL.
Fig.
Fig. 2 Post-larval stages of Post-larval stages of Neopomacentrus azysronNeopomacentrus azysron
A: 2 days after hatching, 3.23 mm in total length. B : 5 days, 3.51 mm TL. C : 7 days, 3.87 mm TL. D: 8 days, 3.64 mm TL. E : 9 days, 4.71 mm TL. F :10 days, 4.76 mm TL. (scales denote 1 mm)
達する.この時点で,眼の黒化は完全に終了している. 受精 129 時間後の孵化直近には,口は形成されている ものの,未開口の状態にある.黒色素胞は消化管表面 の樹枝状のものを除いて,再び顆粒状を呈し,中脳部 付近に 1 個,尾部腹面の第 8 ∼ 24 筋節に 10 ∼ 11 個が 一列に並んで存在する.筋節数 26 ∼ 27(Fig. 1-I). 卵内発生を観察した今回は,飼育水温 25℃前後で, 受精 133 時間後に最初の孵化が観察された. 仔稚魚の形態 前期仔魚期:孵化直後の仔魚は,全長 2.64 ∼ 3.34 mm(3.07 ± 0.26 mm SD), 体 高 0.39 ∼ 0.55 mm(0.47 ± 0.06 mm SD),筋節数 6+20 ∼ 21=26 ∼ 27 で,径約 0.20 mm の卵黄内には,径約 0.07 mm の油球が 1 個 存在する.脳の分化が明瞭で,眼は完全に黒化してい て機能的と見なされる.口は形成されていて僅かに開 き,肛門は頭部先端から体の 1/3 の部分に開いている. 胸鰭は既に形成されているが,腹鰭は形成されておら ず,各垂直鰭も未分化で,一繋がりとなって膜鰭状を 呈している.顆粒状の黒色素胞が,吻部上方の中脳部 付近に 1 個と第 8 ∼ 24 筋節にかけての尾部腹面に 9 ∼ 11 個,樹枝状の黒色素胞が消化管表面に多数存在す るほか,卵内発生中は確認されなかった塊状の黄色素 胞が,眼上の後方と胸鰭基部および消化管表面に各 1 個存在する(Fig. 1-J). 後期仔魚期:孵化 24 時間後,全長 2.93 ∼ 3.35 mm(平 均 3.22 mm), 体 高 0.44 ∼ 0.57 mm( 平 均 0.52 mm), 筋節数 6+20=26 .卵黄と油球は完全に吸収されてお り,後期仔魚期に入る.上下両顎も形成されて,下顎 先端は上顎よりも僅かに前方に突出する.各黒色素胞 は伸張して樹枝状となって,消化管表面に多数存在す るほか,第 11 ∼ 25 筋節にかけての尾部腹面に 10 個前 後,また,孵化直後に吻部上方の中脳部付近にあった 1 個は,頭頂部に移動している.黄色素胞は,耳胞後 方の頸部,第 2 筋節腹面および消化管表面にそれぞれ 1 個存在する(Fig. 1-K). 孵化 2 日後,全長 2.87 ∼ 3.23 mm(平均 3.05 mm), 体高 0.46 ∼ 0.58 mm(平均 0.51 mm).鼻孔が形成され る.黒色素胞は,顆粒状のものが耳胞の上下に一対お よび鰓蓋下縁に 1 個,樹枝状のものが,消化管表面に 多数,頭頂部に 1 個,第 11 ∼ 26 筋節にかけての腹面 に 10 ∼ 11 個存在する.黄色素胞は,消化管表面のも ののみ残存している(Fig. 2-A). 以後孵化 3 日から4日にかけては,形態上に目立っ た変化は認められなかった. 孵化 5 日後,全長 2.79∼3.48 mm(平均 3.14 mm),体 高 0.51 ∼ 0.65 mm(平均 0.58 mm).耳胞後方から消化 管表面にかけて黄色素胞が1つの塊状となって存在す る.耳胞の上方と下方および鰓蓋下縁の黒色素胞は伸 張して樹枝状を呈し,耳胞上方をほぼ覆うようになる. 尾部腹面の黒色素胞数は数を減じて 5 ∼ 6 個となる. 尾部後縁は截形を呈する(Fig. 2-B). 孵化 6 日後,全長 3.44∼4.22 mm(平均 3.90 mm),体 高 0.76 ∼ 0.94 mm(平均 0.87 mm),筋節数 6+20=26 . 前鰓蓋骨前縁と後縁に各 1 本の棘が形成される.黒色 素胞は頭頂部と耳胞上方に各 1 個のほか,消化管表面 に多数存在する.尾部腹面の樹枝状黒色素胞は相互に 連結して,第 12 ∼ 25 筋節にかけての腹面に 4 塊存在 する. 孵化 7 日後,全長 3.83∼3.92 mm(平均 3.90 mm),体 高 0.76 ∼ 0.94 mm(平均 0.87 mm),筋節数 6+20=26 . 上下両顎の形成が進み,頭部の形態が発達して変化 する.前鰓蓋骨後縁に新たに 1 本の棘が出現すること で,前鰓蓋骨には前縁の 1 本と合わせて 3 本の棘が形 成される.黒色素胞は,耳胞下部と鰓蓋下縁の各 1 個 が収縮して,再び顆粒状を呈するほか,樹枝状のもの が頭頂部と耳胞上方に各 1 個,消化管表面に多数存在 する.尾部腹面の黒色素胞は相互に連結してさらに数 を減じ,第 13 ∼ 26 筋節にかけての腹面に 4 塊存在し, 最後端のものは鰭膜上にまで拡がっている.黄色素胞 は,胸鰭基部上方に1塊存在する.尾部後端の膜鰭中 央部に浅い窪みができる(Fig. 2-C). 孵化 8 日後,全長 3.64∼4.12 mm(平均 3.75 mm),体 高 0.76 ∼ 1.01 mm(平均 0.90 mm),筋節数 6+20=26 . 尾部後端部には下尾骨の原基が形成されて,膨らみと して認められる.背・臀鰭基底原基も形成される.ま た,鰓条骨(4 ∼ 5 本)も確認される.頭頂部と耳胞上 方の黒色素胞はいずれも数を増し,耳胞上方のものは, 体背面後方にかけて 4 ∼ 5 個連続して存在する.また, 耳胞下方と鰓蓋部下縁のものは,いずれも伸張して 大型となり,腹腔部への拡がりが認められる.また, 尾部腹面のものはさらに数を減らして,第 13 と 23 筋 節に各 1 塊のみとなる.消化管表面の黒色素胞は減少 する.黄色素胞は未だ耳胞後方に1塊残存する(Fig. 2-D). 孵化 9 日後,全長 3.72∼5.03 mm(平均 4.15 mm),体 高 0.66∼1.05 mm(平均 0.85 mm),筋節数 7+19=26 .
Fig. 3 Postlarvae and juvenaile of Neopomacentrus azysron
A: 11 day-postlarva, after hatching, 4.55 mm in total length. B : 12 day-postlarva, 4.79 mm TL.
C : 13 day-postlarva, 4.91 mm TL. D: 14 day-postlarva, 6.28 mm TL. E : 20 day−Juvenile, 10.2 mm TL. (scales denote 1 mm)
尾鰭軟条原基が 6 本確認でき,尾鰭膜の下方が伸長 する.黄色素胞は依然耳胞後方に1塊存在する(Fig. 2-E). 孵 化 10 日 後, 全 長 4.17 ∼ 4.76 mm( 平 均 4.41 mm),体高 1.05 ∼ 1.23 mm(平均 1.12 mm),筋節数 7+19=26 .背鰭に 9 個と臀鰭に 7 個の軟条基底が形 成される.腹鰭原基が出現する.尾鰭鰭条原基も数を 増して,9 本が数えられる.樹枝状黒色素胞は,頭頂 部に 1 塊と耳胞後方から体背面にかけて2塊,消化管 表面に 3 ∼ 4 個のほか,第 12∼15 筋節にかけての体側 背面側に 3 ∼ 4 個,第 14∼18 筋節にかけての体側中央 部に連続した塊として,また,第 25 筋節腹面に 1 個 存在する.黄色素胞はこの時点で全て消失している (Fig. 2-F). 孵化 11 日後,全長 4.55∼4.85 mm(平均 4.70 mm),体 高 1.21∼1.29 mm( 平 均 1.25 mm), 筋 節 数 7+19=26 . 背鰭に 9 軟条,臀鰭に 7 軟条の原基が形成されるほか, 5+5=10 本の尾鰭軟条原基が数えられる.脊索末端は 約 30°上屈する.黒色素胞は,新たに,上顎先端付近 に樹枝状黒色素胞が 1 個出現するほか,体側部では, 背面側の第 11 ∼ 15 筋節にかけてのほか,第 12 ∼ 20 筋 節にかけての体側中央部,および第 14 ∼ 21 筋節にか けての臀鰭基底部に連続した樹枝状黒色素胞が存在す る(Fig. 3-A). 孵化 12 日後,全長 3.95∼4.95 mm(平均 4.56 mm),体 高 1.08∼1.15 mm(平均 1.12 mm),筋節数 7+19=26 . 胸鰭鰭条原基 6 ∼ 7 本が出現する.各鰭の鰭条数は, 背 鰭 13 棘 11 軟 条, 臀 鰭 2 棘 9 軟 条, 尾 鰭 7+6=13 軟 条(有節軟条 5+5=10)が数えられる.脊索末端はほぼ 45°上屈して,尾部棒状骨を形成する.黒色素胞は, 新たに下顎先端付近に樹枝状黒色素胞が 1 個出現す る.また,体側では,第 12 ∼ 19 筋節にかけての脊椎 骨上下両縁部および第 8 ∼ 18 筋節にかけての背鰭基底 部に連続して存在する.しかし,この時点で,臀鰭基 底部に存在した黒色素胞は消失している(Fig. 3-B). 孵化 13 日後,全長 4.04∼4.91 mm(平均 4.47 mm), 体高 1.01∼1.42 mm(平均 1.23 mm),筋節数 9+17=26 . 各鰭条数は,背鰭 13 棘 11 軟条,臀鰭 2 棘 9 軟条,尾鰭 8+8=16 軟条(有節軟条 7+8=15)が数えられる.黒色素 胞は小型の樹枝状黒色素胞が,上下両顎先端,耳胞の 後縁と下方に各 1 個および主鰓蓋骨後方に 2 個存在す るほか,消化管表面に多数,そして体側では,連続し た樹枝状黒色素胞が第 13 ∼ 21 筋節にかけての脊椎骨 上下両縁部,その上方の第 12 ∼ 15 筋節のそれぞれの 筋隔に沿って 4 列,背鰭基底部の第 10 ∼ 18 筋節にか けて連続して認められる(Fig. 3-C). 孵化 14 日後,全長 4.48 ∼ 6.28 mm(平均 5.37 mm), 体高 1.22 ∼ 1.63 mm(平均 1.38 mm)と,大きさに個体 差が認められるようになる.筋節数 9+17=26 .各鰭 条は伸長し,背鰭 13 棘 10 軟条,臀鰭 2 棘 11 軟条,尾 鰭 9+8=17 軟条(有節軟条 8+7=15)が数えられる.臀 鰭基底 16 ∼ 17 筋節腹面に再び樹枝状黒色素胞が出現 するほか,頭部と体側の黒色素胞は数を増すとともに, 大型となる(Fig. 3-D). 孵化 15 日後,全長 3.85 ∼ 6.77 mm(平均 5.74 mm), 体高 0.95 ∼ 1.96 mm(平均 1.59 mm),この頃から尾 部と腹部の表皮が発達して,筋節数の計数は困難と なる.各鰭条数は,背鰭 13 棘 10 軟条,臀鰭 2 棘 11 軟 条,胸鰭鰭条 16 ∼ 17 軟条,腹鰭鰭条 1 棘 5 軟条,尾鰭 11+10=21(有節軟条 7+6=13),黒色素胞は,頭頂部か ら耳胞後方にかけて頭部で大型の樹枝状黒色素胞が数 を増す. 孵化 16 日後,全長 7.37 ∼ 7.50 mm(平均 7.43 mm), 体高 1.90 ∼ 1.98 mm(平均 1.94 mm),各鰭条は膜鰭縁 辺には達していないものの,背鰭 13 棘 11 軟条,臀鰭 2 棘 11 軟条,胸鰭 15 ∼ 17 軟条,腹鰭 1 棘 5 軟条,腹鰭 1 棘 5 軟条,尾鰭有節軟条 9 + 9=18 が数えられ,いず れも本種の定数に達して,この時点で初期稚魚期に入 る. なお稚魚期以降は,生存尾数が減少したため,観察 個体は無作為に選んだ 3 尾程度となった. 稚魚期以降の形態と体色変化:孵化 20 日後,全長 5.72 ∼ 11.32 mm(平均 7.79 mm),体高 1.57 ∼ 2.78 mm (平均 2.01 mm),各鰭条は鰭膜縁辺まで達する.頭頂 部から尾部後方にかけて顆粒状黒色素胞が密に出現す るほか,樹枝状の黒色素胞が,体の背面,体側中央部 および尾部背面に多数存在する(Fig. 3-E, Fig. 4-A). 孵化 23 日後,全長 10.82∼10.95 mm(平均 10.89 mm), 体高 2.15 ∼ 2.46 mm(平均 2.30 mm),頭頂部から尾柄 部にかけての体背面が茶褐色を呈する(Fig. 4-B). 孵化 29 日後,全長 9.56∼13.82 mm(平均 11.81 mm), 体高 2.27 ∼ 3.40 mm(平均 2.77 mm),腹鰭の第 1 軟条 が伸長する.尾部表面に無数の黄色素胞が出現する. 孵化 32 日後,全長 11.42∼13.82 mm(平均 12.59 mm), 体高 2.74 ∼ 3.44 mm(平均 3.11 mm),体の黒色素胞が 樹枝状から顆粒状へと変化する一方,黄色素胞が増加
して,背鰭基部から尾柄後方にかけて薄い 黄色を呈する(Fig. 4-C). 孵 化 37 日 後,全 長 15.38 mm,体 高 4.58 mm(生存数が減少したため 1 尾のみ測定 した).背鰭軟条基部付近から尾鰭基底 にかけての尾部後方の黄色味が増す(Fig. 4-D). 孵化 49 日後,全長 22.55 mm,体高 6.19 mm.頭部から腹部腹面にかけての体色は 灰色で,背面を含むその他の体側は青味を 帯びるほか,背鰭と臀鰭の軟条部および尾 柄部後方から尾鰭上下両葉外縁が黄色を呈 する. 孵化 65 日後,全長 27.9 ∼ 28.85 mm(平均 28.47 mm),体高 8.20 ∼ 8.65 mm(平均 8.45 mm).胸鰭基部および主鰓蓋骨上縁に, 本種の特徴となる黒色班が出現する.体色 は背側が黄色味を帯びた緑色,腹側は青味 がかったピンク色で,背・腹鰭軟条部と尾 柄から後方の尾鰭上下縁辺は黄色を呈する (Fig. 4-E). 孵 化 約 1 年 後, 全 長 約 90 mm. 体 型・ 体色ともに雌雄それぞれの成魚のそれとほ ぼ同様となる(Fig. 4-F).そして,孵化約 1 年 2 ヵ月後の 2004 年 7 月 18 日には,全長 約 85 mm ∼ 100 mm ほどに成長して,こ れ ら 繁 殖 個 体 に よ る 再 生 産 が 行 な わ れ た. 水槽内における仔稚魚の生態 孵化直後の仔魚は,水槽の表層から下 層にかけての水槽全体に一様に分散して いて,浮遊状態にあるが,尾部を振っての 僅かな遊泳力は認められる.夜間に,水槽 上部からハンドライトで照射すると,その 光束に対して蝟集する正の走光性が認めら れる.また,観察のために採取する際など の外的刺激に対しては,尾部を激しく振っ て逃避行動を示す.孵化翌日には,孵化直 後に投与したシオミズツボワムシや天然プ ランクトンなどの餌料生物の 1 cm ほど前 方で一旦停止して,体を S 字状に曲げた 後に餌に飛び掛る摂餌行動(S−postured movement)が観察された.またこの時点
Fig. 4 Photographs showed juvenils of Neopomacentrus azysron
A:20 days after hatching, 8.90 mm in total length
B:23 days, 10.90 mm TL. C:32 days, 12.65 mm TL. D:37 days, 15.38 mm TL. E:62 days, 28.5 mm TL. F:310 days, about 90 mm TL. (scales denote 1 mm)
では,実験棟の窓を透過する自然光が当たる側の水槽 壁に,蝟集する傾向が認められた.しかし,解凍冷凍 クロレラを添加して,飼育水が薄い緑色を呈すると, 仔魚は水槽全体に分散した.その後,飼育期間の経過 に伴って鰭の形成が進行して,仔魚の遊泳力が増すと ともに,摂餌行動も活発になった.孵化 10 日後頃か らは,仔魚は水槽の中層から下層にかけて,個々に活 発に遊泳して,観察のための採取がかなり困難となっ た.孵化 15 日後には,遊泳スピードも更に速くなり, 人が近づくと,素早く逃避する行動が見られた.この 時点で,アルテミア孵化幼生を投与したところ,摂 餌が観察された.そして翌日には,生長の早い個体は 初期稚魚期に達して,少数個体でいくつもの群れを形 成し,水槽壁面に沿って遊泳するようになった.孵化 20 日後以降には,少数個体の群れは合一して大きな 群れを形成し,活発な遊泳を行う. しかし夜間には,群れを形成することはなく,個々 に水槽底部の壁面に沿って静止状態でいるのが観察さ れた.孵化 35 日後には,一群となって水槽底に降り て着底期に入り,夜間には,水槽内に垂下したヒ−ター やエアストーンの近くで静止状態でいるのが観察され た.孵化 50 日を過ぎると,昼間の群れはさらに活発 に遊泳し,この時点では,魚介肉混合ミンチやタラコ など,成魚のそれと同様の餌を摂餌するようになる. そして孵化後 2 ヵ月以降は,個体間に優劣が現れ,大 型で優位な個体は,それぞれに水槽底に設置した石な どの周囲を縄張りとして占有し,そこに接近する個体 との間で闘争も見られるようになった. 論 議 外見上の親魚の雌雄差 スズメダイ科魚類の外見上の雌雄差としては,雄性 先熟が知られるクマノミ類を除けば,多くの種で,雄 が雌に比べて大型である点が著者らによって確かめら れている(田中,1998).しかし,今回観察した本種で は,大型で優位な雄 1 尾以外の雄 2 尾は,ともに雌に 比べて小型であり,これまでの結果とは相違した.し かしいずれの雄も,背・臀・尾鰭の軟条末端が後方に 伸長するといった,雌には見られない雄の性徴が確認 された.このような雌雄による鰭軟条の伸長の度合い の相違は,雌性先熟の性転換を行うハタ科のサクラダ イ属やナガハナダイ属(鈴木、979),あるいはキンチャ クダイ科のタテジマヤッコ属(日置,1992)で知られる が,これまでに本科魚類では知られていない.また, 本種の雄の繁殖行動中には,頭頂部に婚姻色と見なさ れる白色斑の出現が認められた.本科魚類で繁殖時に 婚姻色を現わす種は少なくはなく,本種と同属のスミ レスズメダイ N.violascens(田中ほか,2003)でも,繁 殖時の雄の頭頂部や体側に白色班が観察されているほ か,ミスジリュウキュウスズメダイ属 Dascyllus のミ ツボシクロスズメダイ D. trimaculatus(田中,1999), ソ ラ ス ズ メ ダ イ 属 Pomacentrus の ソ ラ ス ズ メ ダ イ P. coelestis(田中・新田,1997 a),ヒレナガスズメ ダイ属 Paraglyphidodon のクロスズメダイ P. melas (田中ほか,1996)など十数種の雄で知られ,これらは いずれも婚姻色と見なされたことから,本種の雄に出 現した白色班も婚姻色と判断される. 繁殖行動,産卵回数 本種の繁殖行動は,雄による産卵基盤の「掃除行動」 によって開始され,Signal jump や Dipping motion, Jerk dance などの,雄の雌に対する求愛や産卵巣へ の誘引行動,雌雄による放卵・放精行動,そして雄に よる卵保護行動といった一連の行動が観察された.こ れらの行動は,繁殖行動が報告されている本科魚類 のそれとほぼ同様と見なされた.Thresher(1984)は, 本科魚類の多くの種の繁殖行動は,雄主導型であると し,一般的には雌雄ともに特定の異性とは絆を持たな い「乱婚型」を示すとしている.この点に関しては,今 回の本種でも,雌 1 尾に対して雄 3 尾での繁殖行動が 観察され,少なくとも雌については 「 乱婚型 」 であっ た.また,今回の雌 1 尾は,約 9ヶ月間に 68 回の産卵 を行ったことが確かめられ,本種も,産卵行動が観 察されているスズメダイ科魚類の多くの種(田中・森, 1989;田中,1999;ほか)と同様に,多回産卵魚であ ることが認められた. 産卵時刻と産出卵数 本種の産卵開始時刻については,直接観察すること ができなかった.しかし、卵の発生段階と卵塊の発見 時刻から推察した結果,3 時 30 分∼ 6 時 45 分の間に開 始されるものと考えられた.この点に関しては,さら に,前日の夕刻あるいは夜間には,産卵巣内に卵塊が 観察されなかった場合も,翌朝の日の出後には新しい 卵塊が確認されたことからも,本種の産卵時刻は,深 夜から日の出前までの間に行なわれるものと考えられ た.田中(1998)は,本科魚類 9 属 29 種の産卵を観察し て,産卵時刻を大きく3つのパターンに分類した.す
なわち第 1 のパターンは,深夜から日の出前の間に産 卵を行なうもの.第 2 のパターンは,日の出直前から 日の出後の早朝にかけて産卵するもの.そして第 3 の パターンは,日の出後から夕刻にかけての日中に行う ものである.本種の産卵時刻は,第 1 のパターンにな ることが認められた.なお,第 1 のパターンに属する 本科魚類としては,本種と同属のスミレスズメダイ のほか,ヒレナガスズメダイ属 Paraglyphidodon の ヒレナガスズメダイ P. nigroris(田中・高宮,1999) とクロスズメダイ(田中ほか,1996)ソラスズメダイ 属 Pomacentrus のソラスズメダイ(田中・新田,1997 a)とナガサキスズメダイ P. nagasakiensis(田中ほ か,2002),ルリスズメダイ属 Chrysiptera のシリキ ルリスズメダイ C. parasema(田中・新田,1997 b) と C. hemicyanea(田中・山田,2001)など,比較的多 くの種が含まれる. 田中(1998)によれば,本科魚類の雌の 1 回の産出 卵数は,雌の大きさや産卵経歴などのほか,卵の 大きさによって相違するとされ,道津(1979)が報告 したハゼ類で知られるのと同様に,「大卵少産」「小 卵多産」の傾向が認められている.今回の雌の 1 回 の産出卵数は,約 3,800 ∼ 4,700 粒が計数された.こ の数は,田中(1998)が調査した本科 9 属 28 種の産卵 数に比べても,1 mm 以下の小型卵を産出するスズ メダイ属のマツバスズメダイの約 55,000 粒やミスジ リュウキュウスズメダイ属のミツボシクロスズメダ イ Dascyllustrimaculatus の 約 27,000 ∼ 38,000 粒 に 比べれば少ないものの,中型卵産出魚の中ではソラ スズメダイ属のフィリピンスズメダイ Pomacentrus philippinus の約 7,400 ∼ 8,300 粒に次いで多いもので あった. 卵の形態と大きさ 田中(1998)は,本科魚類 13 属 44 種の受精卵を観察 して,その長径の大きさによって 3 段階に分類した. すなわち,長径が 1 mm 前後あるいはそれ以下の卵 を小型卵,2 mm を越えるものを大型卵,そしてその 中間の大きさのものを中型卵とした.本種の受精卵 は,本科魚類の最も多くの種が含まれる,中型卵に分 類されることが認められた. 孵化所要日数,積算温度,孵化時刻および産卵間隔 産卵から孵化までの所要日数は,受精 3 ∼5日後 が記録された.しかし,その多くの個体(89 %)で は,受精 4 日後であった.したがって,積算温度も 3 日後の 101.0 から 5 日後の 145.1 まで幅が見られたが, そ の 多 く は,4 日 後 の 115.8 ∼ 136.7(79 % が 120 台, 18%が 130 台)で,これらの値は,本種と同属のスミ レスズメダイとほぼ同様で,同じ中型卵に含まれるソ ラスズメダイ属やルリスズメダイ属のそれに類似する 値であった. 孵化は全て日没後の 17 時 45 分∼ 20 時 30 分の間に 開始されたが,これら孵化開始時刻は,季節による 日没時間の変化に伴って変化する傾向(冬季および春 季に早く,夏季と秋期に遅い)が認められ,この点は, 孵化時刻が知られる本科 魚類のそれと同様の傾向が 認められた.1 尾の雌の産卵から次の産卵までの産卵 間隔は,1 ∼ 14 日が記録されたが,そのうち 1 日が 約 16 %,2 日が約 43 %,3 日が約 10 %と,1 ∼ 3 日で 全体の 69 %,そして 4 ∼ 8 日が約 27 %で,全体の約 96 %は 8 日以内に次の産卵が行なわれたことになる. 産卵間隔が知られる本科魚類では,短いもので 2 ∼ 3 日,長いものでは 10 日以上と,種によってかなりの 幅が認められているほか,同一種でも,個体差がある ことが知られている(田中,1998).本種では,短い 場合は翌日,長い場合で 14 日後が記録されたが,そ の 96 %は 8 日以内と,中型卵産出魚で産卵間隔が知 られる種の多くとほぼ同様の値を示した.なお産卵 間隔は,飼育水温によって相違することが知られて おり,ルリスズメダイ属のルリスズメダイ C. cyanea (田名瀬,1971),ミスジリュウキュウスズメダイ属の ミツボシクロスズメ D. trimaculatus(田名瀬,1989) やミスジリュウキュウスズメダイ D. aruanus(田中, 1990)では,高水温で飼育した場合は産卵間隔が短く, 低水温では長くなる傾向が認められている. 仔魚の形態と大きさ 本種の孵化直後の仔魚の大きさや器官の発達状態 は,既知の中型卵から孵化する種(田中・新田,1997 a;1997 b)のそれと同様の特徴を有していることが 確かめられた.ただし,本種の孵化直後から 10 日後 の仔魚には,黄色素胞の存在が認められたが,これ までに,仔魚に黄色素胞が存在する種としては,小 型卵を産出するミスジリュウキュウスズメダイ属の ほか,スズメダイ属 Chromis,オキナワスズメダイ属 Pomachromis およびオヤビッチャ属 Abdefduf でしか 知られておらず(田中,1998;田中,1999),本種のよ うに中型卵から孵化する仔魚としては,特異的と見な された.
成長と再生産 本種は,孵化直後に全長 2.64 ∼ 3.34 mm(平均 3.07 mm)であったものが,孵化 16 日後には初期稚魚期に 入って,全長 7.37 ∼ 7.50 mm(平均 7.43 mm),孵化 約 2 ヵ 月 後 に 全 長 27.90 mm ∼ 28.85 mm( 平 均 28.47 mm)となり,この時点で,体形(全長に対する体高 比)は,親魚のそれとほぼ同様となった.さらに孵化 7 ヶ月後には全長 36.45 ∼ 74.05 mm,そして孵化約 1 年 2 ヶ月後の 16 個体では,全長約 65 mm ∼ 80 mm ほ どとなって,これら繁殖個体による産卵が観察され た.著者らはこれまでに,本科魚類のうち,クマノミ 類 7 種のほか,ソラスズメダイとシリキルリスズメダ イ Chrysiptera parasema の繁殖個体による再生産を 確認した.その結果,クマノミ類を除く 2 種は,いず れも孵化約 1 年後に繁殖個体による産卵が行なわれた (田中・新田,1997a;1997 b).今回の本種を含む再 生産が観察された 3 種のうち,前述の 2 種は本科魚類 の中では小型種,そして本種は中型種に含まれる.こ れらの点から,小型種の 2 種は孵化後 1 年未満で,本 種のような中型種は 2 年未満で性的にも成熟するもの と考えられる. 謝 辞 本研究は東海大学海洋科学博物館の施設を利用して 実施されもので,東海大学社会教育センター学芸室学 芸課長佐藤 猛課長を始め,同課技術職員諸氏にはさ まざまな面で協力を得た.また,本研究を実施するに 当たり,有限会社「ブルーコーナー」代表取締役石垣 幸二氏には材料入手にご協力戴いた.ここに感謝した い.なお本研究は,2003 年度東海大学海洋研究所部 門研究の助成を受けて実施された. 引 用 文 献 道津喜衛(1979)ハゼ亜目魚類の卵と仔・稚魚.海洋 科学,11(2), 111 ∼ 116 . 日置勝三(1992)日本産キンチャクダイ科魚類の繁殖 生態と雌雄性に関する研究.学位請求論文(九州大 学), 244 p. 鈴木克美(1979)日本産ハナダイ類の生態学的研究. 学位請求論文(東京大学), 222 p. 田中洋一(1998)スズメダイ科魚類の繁殖習性と卵・ 仔魚の形状.東海大紀要海洋,45,167 ∼ 179 . 田中洋一(1999)飼育下におけるミスジリュウキュウ スズメダイ属 4 種の繁殖習性と卵・仔魚.東海大紀 要海洋,47, 223 ∼ 244 . 田中洋一・伏見 純(1998)飼育下におけるレモンスズ メダイの繁殖と卵・仔稚魚.東海大海洋研報,19, 47 ∼ 59 . 田中洋一・森 徹(1989)水槽飼育下におけるクラカ オスズメダイの繁殖習性と卵・仔魚.東海大海洋研 報,10,3 ∼ 12 . 田中洋一・高宮一浩(1999)飼育下におけるヒレナガ スズメダイの繁殖と育成.東海大海洋研報,20, 157 ∼ 171 . 田中洋一・新田 誠(1997 a)飼育下におけるソラスズ メダイの繁殖と育成.東海大海洋研研報告,18, 51 ∼ 62 . 田中洋一・新田 誠(1997 b)飼育下におけるシリキル リスズメダイの繁殖と育成.東海大海洋研報,18, 63 ∼ 75 . 田中洋一・山田一幸(2001)水槽飼育下におけるスズ メダイ科 Chrysiptera hemicyanea の繁殖と育成. 東海大海洋研報,22,49 ∼ 63 . 田中洋一・山田一幸・早川雄介・渡辺大樹(2003)水 槽飼育下におけるスミレスズメダイの繁殖と育成. 東海大海洋研報,24,33 ∼ 44 . 田中洋一・山田一幸・早川雄介・渡辺大樹(2004)水 槽飼育下におけるクジャクスズメダイの繁殖と育 成.東海大海洋研報,25,1 ∼ 12 . 田中洋一・山田一幸・坂入智子・廣川真知子(2002) 水槽飼育下におけるナガサキスズメダイの繁殖と育 成.東海大海洋研報,23,27 ∼ 39 . 田中洋一・吉中敦史・長谷川悦子(1996)飼育下にお けるクロスズメダイの繁殖習性と初期育成.東海大 海洋研報,17,13 ∼ 25 . 田名瀬英朋(1971)ルリスズメダイの産卵と孵化.動 物園水族館雑誌,13(1),1 ∼ 3 . 田名瀬英朋(1989)ミツボシクロスズメダイ.76 ∼ 78 . 海水魚の繁殖.鈴木克美・高松史郎(編),緑書房, 東京. Thresher,R.E.(1984) Reproduction in reef fi shes. T. F. H. Publ., Neptune City, 339p