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一九九〇年代韓国における情報化過程分析

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Academic year: 2021

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一九九〇年代韓国における情報化過程分析

━ 電子情報化:インターネットとインターネット文化を中心に ━

2003 (平成15) 年3月卒業予定

(2)

目 次

1

. 序 ……… 1

2

. 目的,方法,対象,および論の展開 ……… 3

2.1. 研究目的 ……… 3 2.2. 研究方法 ……… 3 2.3. 研究対象 ……… 4 2.4. 論の展開 ……… 4

3

. 一九九〇年代以降の大韓民国の電子情報化 ……… 5

3.1. 統計数値を中心にした日本との比較 ……… 5 3.1.1. インターネット利用者数・利用率 ……… 5 3.1.2. インターネット利用実態 ……… 6 3.2. 各分野における電子情報化の進展度 ……… 9 3.2.1. 政府・行政分野 ……… 12 3.2.2. 民間・ビジネス分野 ……… 12 3.2.3. 教育分野 ……… 14 3.3. 市民の視点から見た電子情報化の浸透(インフラ面) ……… 16 3.3.1. インターネットカフェ ……… 16 3.3.2. 電子メール ……… 17 3.3.3. 公衆インターネット ……… 17 3.4. 市民の視点から見た電子情報化の浸透(コンテンツ面) ……… 19 3.4.1. オンラインゲーム ……… 19 3.4.2. オンラインチャット ……… 19 3.4.3. アンチサイト ……… 21 3.4.4. コミュニティおよびサイバー共同体 ……… 21

4

. 政府による情報化推進 ……… 23

5

. 市民に浸透した電子情報化 ……… 26

5.1. オンラインゲーム ……… 26

(3)

5.1.1. オンラインゲームの始祖 ……… 26 5.1.2. オンラインゲームの諸相 ……… 26 5.1.3. オンラインゲームの中毒性 ……… 27 5.2. チャット ……… 29 5.2.1. チャット概観 ……… 29 5.2.2. オンラインチャット ……… 29 5.3. アンチサイト ……… 31

6

. 考察 ……… 33

6.1. オンラインコミュニティおよびサイバー共同体 ……… 33 6.1.1. 草の根活動 ……… 33 6.1.2. 旧社会からの離脱 ……… 34 6.2. オンラインでのアイデンティティと匿名性 ……… 34 6.2.1. ユートピア ……… 36 6.2.2. 薄氷の匿名性 ……… 36 6.3. 現実社会と仮想社会 ……… 36 6.4. 補足 ……… 38 6.4.1. オンラインゲーム ……… 38 6.4.2. 援助交際・売買春など ……… 38

7

. 結語 ……… 39

8

. 参考文献 ……… 41

8.1. 西洋書 ……… 41 8.2. 日本書 ……… 41 8.2.1. 一般書籍 ……… 41 8.2.2. 白書および政府刊行物類 ……… 42 8.2.3. 雑誌 ……… 42 8.2.4. その他 ……… 42 8.3. 韓国書 ……… 42 8.3.1. 研究論文 ……… 42 8.3.2. 一般書籍 ……… 42

(4)

8.3.3. 白書および政府刊行物類 ……… 43 8.3.4. 雑誌 ……… 43 8.3.5. その他 ……… 44

(5)

図目次

[図3-1]インターネット利用率の日韓比較 ……… 7 [図3-2]世帯でのコンピュータ保有率の日韓比較 ……… 7 [図3-3]日本・インターネット利用者の接続場所および利用機器別構成比 … 8 [図3-4]韓国・インターネット利用者の接続場所 ……… 10 [図3-5]韓国・インターネット利用部門 ……… 11 [図3-6]大韓民国電子政府トップページ ……… 13 [図3-7]大統領選挙投票用紙 ……… 13 [図3-8]韓国・無線インターネットの加入者割合 ……… 18 [図3-9]韓国・地下鉄駅に設置された「無料電話・インターネット」装置 … 20 [ 図3-10]インターネットアンチ朝鮮コミュニティ「我々すべて」 ……… 22 [ 図3-11]「朝鮮日報反対市民連帯」ウェッブサイト ……… 22 [図5-1]オンラインチャット機能を持つサイトの例 「セイクラブ」ウェッブサイト ………… 30 [図5-2]アバタの例 ……… 30 [図6-1]サイバー示威の新聞記事 ……… 35 [図6-2]住民登録番号のしくみ ……… 37 [図7-1]韓国における現実空間と仮想空間の関係 ……… 40 [図7-2]韓国における電子情報化の概念図 ……… 40

表目次

[表3-1]韓国・家庭でのインターネット環境 ……… 8 [表3-2]韓国・インターネット利用者の接続場所 ……… 10 [表3-3]日本・インターネット利用者の利用サービス ……… 10 [表3-4]韓国・インターネット利用部門・年齢階層別数値 ……… 11 [表3-5]韓国・コンピュータ使用およびインターネット利用の可否 ………… 15 [表3-6]韓国・無線インターネットの利用状況 ……… 18 [表4-1]韓国・整備完了法令現況 ……… 25 [表5-1]ゲーム中毒に対する利用者の意識 ……… 28

(6)

1

. 序

「遠くて近い国」……この言葉を何度耳にしたであろうか。 2002年は史上初の日本と大韓民国(以下,本 文中では韓国と表記する)との二カ国による共催ワールドカップの年であった。我々のような「新世代」に とっては韓国は「近くて近い国」でもあり,特に抵抗感などもない。しかしながら,韓国が軍事政権だった 時代,また,特に朝鮮戦争の明瞭な記憶を持つ人々にとっては,1988年に開催されたソウル夏期オリンピッ ク大会,そして今回のワールドカップを通じ,韓国の急速な成長に驚く契機になったに違いない。筆者はも ちろん朝鮮戦争の記憶など全くないし,軍事独裁時代の記憶もかすんだニュース映像とともにおぼろげなが ら呼び出せる程度の「新世代」である。 日本が第二次世界大戦後に果たした高度経済成長は,韓国にとっても大きな刺激となり,かなり歪んだ国 内情勢を押さえ込みながら現代に至るまで漕ぎ着けた。輸入代替工業から始まり,輸出特区の創設による輸 出志向型・外貨獲得型の工業へ,そして独自技術を開発する先進工業国への道を,多くの障碍を乗り越えな がら韓国は歩みつつある。 最大とも言える障碍は 1990年代後半の通貨危機に始まる経済危機の時代,いわゆる「 IMF時代(IMFシ デ・IMF시대)」であった。当時,大統領であったキム・デジュン(김대중 ・金大中)はさまざまな方策で 経済危機からの恢復を図ったが,その中の産業政策における重要なキーワードは「情報化」であった。 世界における産業の趨勢は1960年代以降,重厚長大型産業から軽薄短小型産業へと移り変わり,特に 1990 年代以降はその延長線上にあたる情報産業が急速な発展を見せている。また,産業面のみならず,政府はも ちろんのこと社会・市民の水準にいたるまで,情報に対する関係性はより濃密なものとなり,また,情報が 社会・市民に与える影響も大きくなってきている。近年までは,半導体産業や各種情報サーヴィス業などの 情報産業に限らず,情報産業に隣接した分野においてもアメリカが主導権を握ってきた。しかし,ヨーロッ パ諸国,アジア諸国,そしてアフリカ諸国に至るまでが多様な政策と目論見を持って市場や言論界に参入し た結果,アメリカの独壇場であった情報分野における発展も世界各地で見られるようになった。 このような現在の状況の中で,アジアの小国家に過ぎない韓国における電子情報化の進展に注目が集まっ ており,これに関する議論も盛んに行われている。しかし,現在まで議論されてきた内容は,韓国の電子情 報化を1980年代のいわゆる「アジア成長神話」とこれに継起する1990年代のいわゆる「アジア危機」,そし てその後の復活を賭けて政府が主導した構造改革を中心に扱った,多分に経済産業的なものであったように 思われる。1980年代の韓国研究の代表書とも言えるAmsden, H. Alice, Asia's next giant : South Korea and Late

Industrialization, New York : Oxford University Press, 1989.の視点から脱却しきれていない状況であるとも言 えるだろう。

これまで,このような観点からのみ韓国の電子情報化を捉えてきたことはあまりに一面的に過ぎないだろ うか。韓国政府の政策や財閥企業の策略というテーマだけでは一般市民レベルにまで電子情報化がこれだけ

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遍く普及し,浸透したという事実へ対する説明は難しいのではないだろうか。とはいえ,この主張は前出の 要因を否定するものではない。軍事独裁時代に蓄えられた重化学工業部門での蓄積,通貨危機時代の外的圧 力に対応した経済改革,また,大統領制なる意志決定システムなども大きな影響を与えたことは確実であ る。 しかし,市民が電子情報化をどのように受けとめ,消化していったのか。また,その過程においては,政 府側にはどのような思惑があり,市民・社会の態度との間に温度差はあったのか。そして,政府の思惑その ものを一般市民は認知していたのか。このような微視的な視点(見方によってはカルチュラルスタディーズ 的とも言えるであろう)での研究が必要とされている。そしてまさにこれが,本論文が取り上げ,解析しよ うとする対象である。より具体的には,韓国における電子情報化を展望し,その中に見られる市民・社会の 電子情報化に接する態度や,その文化的な側面を考察する。 このような点に関心を持つに至った直接の契機は,一年間韓国に留学して(日本と比べて)社会の成熟度 に対して一般市民の電子情報化の程度が有意に高いように感じたことである。一般の市民が高度な電子情報 化に接して消化する態度(バランス感覚とでも言えば適当であろうか),そして一般市民と高度電子情報化 の間にある相互関係とその背景にある文化的要因,この二点を統合させ,韓国で感じたことを論理的に解明 することが筆者の研究の第一目標であると言っても差し支えない。

(8)

2

. 目的,方法,対象,および論の展開

2.1. 研究目的

前章で述べたように,本論文が目標としているのは韓国における電子情報化を市民の視点から説明・分析 することである。しかしながらこれを手がかりとして,韓国社会の持っている文化的な特殊性,そしてま た,電子情報・電子情報化と市民・人間の関係に関してひとつの解答を見いだすことが研究の最終的な目的 である。韓国を研究しながらも,あまりにも韓国という一地域にばかり拘泥しない議論を目指したい。 この分野に関しては,韓国国内でもまだまだ研究の不十分な分野である。例として挙げるとすれば,ソウ ル大学の言論情報学科においても,情報と社会の関係性を論ずるような講義は不十分であり,あったとして もアメリカからの輸入学問であることが多い(ケーススタディなどもアメリカのものであったりする)。ま た,日本においても筆者のような視点から韓国の電子情報化を論じている人は寡聞にしてあまり耳にしな い。仮に韓国の電子情報化を議論していても,実際の韓国の「時代精神」のようなものを感じて研究してい る人は少ない模様であり,また,議論の流れが産業・政策的,もしくは極めて週刊誌的であることが多いよ うに見受けられる。 つまり,韓国がこれまで走ってきた電子情報化の道を,これまであまり議論の俎上に上ることのなかった 「市民の視点」から振り返ることによって,電子情報化分野のみに留まらない韓国の姿,そして更には,韓 国に留まらない情報と人間の関係を露にできないだろうかと考えている。

2.2. 研究方法

大韓民国における電子情報化を市民の視点から見ることを目標としているため,実証研究的な要素は不可 避的に強くならざるを得ない。生に近いデータ収集の手段としては,各種新聞・雑誌・テレビジョンなどの マスコミを通じて「電子情報化と市民」に関する情報を収集するほか,究極的には,直接韓国の市民にイン タビューすることが必要であろう。また,公共機関や政府関連の諸団体が刊行している白書や資料集などか らは,参考となる数値的な情報が得られ,市民の行動のみならず,その背景にある政府・企業の姿を知るこ とができるはずである。また,韓国においても電子情報化や情報と文化に関して研究する学会や機関が活動 を始めつつある。例えば,韓国情報社会学会,韓国通信政策研究院,通信開発研究院などである。また,学 会としては韓国社会文化学会,サイバーコミュニケーション学会,韓国言論情報学会など,数多くの団体が 研究を始めている。水準や専門性は決してまだ高いとはいえないものの,韓国国内での電子情報化に対する 議論や解釈を知ることができる点で有用である。 このような先行研究や情報を踏まえつつ,現代韓国社会で起きているの現象を説明するのが理想ではある

(9)

が,時間的・金銭的な制約などを鑑み,本論文では,政府刊行物(白書や報告書),各種研究院が行った設 問紙調査などを社会現象を捉える際の根幹としたい。もちろん市民の観点から捉えるためには,それだけで は不十分であるので,適宜,実際に経験・見聞した内容,各種の著作物,雑誌などの記事を対象として分析 を行い,論を展開する。 これまで述べてきたような社会的現象を分析し,また理解するのに適当な「核」となるディシプリンは, 韓国における学会や論文でも未だ定まったものはないように見受けられる。また,個人的にも「核」となる べきディシプリンを模索中である。

2.3. 研究対象

具体的な研究対象としては,1990年代以降の電子情報化の象徴ともいえる「インターネット」を取り上げ ることとしたい。韓国において市民が最も身近に電子情報化を感じることができ,また実際に頻繁に接して いるツールはインターネットである。そのため,インターネットを中心に分析することにより,今後,他の 分野への軸足とすることが可能だと思われるからである。

2.4. 論の展開

本論文では,まず第3章で 1990年代以降の韓国の電子情報化の状況を包括的に各種統計などを利用した り,実体験や論文を用いて整理した後,第4章で政府,すなわち上から見た場合の電子情報化の推進につい て簡単に触れる。続いて,第5章で本論文の中心となる市民の水準,いわば下から見た見た電子情報化につ いて,筆者の実際の観察や実体験,韓国の大学生(ソウル大学)の発表・レポートなど,可能な限り直接的 で新鮮な情報を踏まえて記述してゆく。続く第6章では,第5章の内容を踏まえ,韓国の電子情報化に関す る一歩踏み込んだ分析を行う。最後の第7章では本論文をまとめるともに,今後の課題についても言及す る。

(10)

3

. 一九九〇年代以降の大韓民国の電子情報化

3.1. 統計数値を中心にした日本との比較

2.3でも述べたように,電子情報化とひとことにいっても様々な側面があるが,本論文ではその代表的な 側面としてインターネットを取り上げる。「インターネットに関連する分野では韓国が日本よりも先を行っ ている」との声をよく耳にするが,ここでは具体的にはどのくらい「先を行っているのか」を,日韓双方の 統計数値を利用することによって整理しておきたい。ただし,インターネットに関する各種統計を分析する にあたっては母集団の前提条件や算出基準など,日韓の間で相違するものが多い上,各々の国内でも調査機 関によって数値が異なっていることに留意せねばならない。 3.1.1. インターネット利用者数・利用率 まず,インターネット利用者の数から見ることにする。日本では 2002年2月の調査で4,619.6万人との結果 が出ている1) 。この数字の算出方法はやや複雑で,まず,携帯電話やPHSの所有率・自宅でのパソコン,テ レビゲーム機器,PDAなどの所有率調査を行い,同時にその機器をインターネットに接続して利用している かの調査を行う。その後,勤務先や学校の機器の利用や携帯電話・PHSによる利用など,利用機器別の調査 を経て推計されたデータである(なお,重複は除かれている)。日本の 2001年の推計人口が 12,718.3万人2) であることから計算すると,国民全体に占める利用率は 36.3%余りとなる。ただし,この調査においては, 各種機器の普及率調査に関してはランダム・ディジット・ダイアリングによる 26主要都市および近郊の世帯 を対象とした電話調査を採用し,各種機器の利用実態調査に関して は16歳以上の男女個人を対象にした郵便 留置調査を採用している。また,インターネット利用の定義もなされていないため,ここで示した数字は目 安程度にしかならないことに留意する必要がある。 一方,韓国では,2001年12月基準でやや日本よりも時期が早いが,インターネット利用人口(月に一回以 上利用する者)は 2,438万人であり,利用率は 56.6%に至っている。こちらも標本調査であるが,性別・年 齢・都市によって加重をした標本調査である。また,満7歳以上が対象となっていることにも留意する必要 1) 財団法人インターネット協会監修,『インターネット白書2002』東京:株式会社インプレス,2002年: p.32, pp.38-45. 2) 国立社会補償人権問題研究所,"表1 総人口・年齢3区分(0∼14歳, 15∼64歳, 65歳以上)別人口および 年齢構造係数:中位推計(http://www.ipss.go.jp/Japanese/newest02/3/t_1.html)",『国立社会補償・人 口問題研究所ホームページ(http://www.ipss.go.jp)』,参照日 2002.12.24.,2000年の日本の総人口は同 年の国勢調査(同年10月1日現在)によれば1億2,693万人であり,これを利用して推計した値である。た だし,年齢「不詳」の人口は各歳別に按分して含められている。

(11)

があるが,この56.6%という数字は総人口(統計庁,住民登録人口)に占める割合である3) 。 参考までに,この韓国における調査を,日本における調査と可能な限り比較可能にするために満16 歳以上 のインターネット利用人口(月に一回以上利用する者)を2001年の総人口(統計庁,住民登録人口)で割っ た数値を算出すると 43.3%となる。このように,いずれにしても日本よりもインターネット利用が進んでい ることが数字によってある程度立証できるといえる。参考までに両国の利用率の推移をグラフに表したもの が[図3-1]である。 3.1.2. インターネット利用実態 次に,インターネットをどのような場所,様式,目的で利用しているのかについて日韓比較を試み,その 過程を通じて韓国の利用形態における特徴を洗い出してみたい。 まず,コンピュータを世帯で保有しているかどうか(インターネットを利用しているかではないことに留 意されたい)を比較してみると,[図3-2]に見られるように日韓の間で大きな差がある。ちなみに,国民 一人当たりの名目GNI(Gross National Income)が,日本は35,620ドル(1999年)であるのに対し4) ,韓国 は8,551ドル(1999年)であることを勘案すると5) ,物価の差を考慮しても,韓国の方がコンピュータ保有 世帯の割合が非常に高いと考えることができる。 また,韓国では,コンピュータを所有している世帯の 82.3%でインターネットが利用可能であり,イン ターネットの利用を目的としてコンピュータを購入している,もしくはコンピュータ利用の主目的がイン ターネットであることが推測される。詳細な数値に関しては[表3-1]を参照されたい。 また,インターネットをどこで利用しているかに関する調査結果に関しても日韓間で大きな差がある。調 査票の現物を見ることができない場合もあるため,実際にはどのようになっていたのか不明である。しか し,日本での調査には「携帯電話・ PHSからの利用」という項目がある一方で,韓国での調査では「イン ターネットカフェ(ピーシーバン・ PC방)」という項目があるという点が,統計数値云々以前に両国で利 用形態が異なることを如実に示している。この調査に関しても両国の間で方式に差があり,また,韓国の内 部でも,韓国電算院と統計庁の調査にやや差があるが,大きな差ではないのでそのまま利用すると次のこと が言える。まず日本側から「インターネット利用者数における主な接続場所」の構成比を見てみると,最も 多いのが「自宅機器からの接続者( 38.7%)」であり,目を引くのは「携帯電話・ P H Sのみの利用者 (14.7%)」 3) 한국전산원(편). 2002 한국이터넷백서 . 서울 : 한국전산원, 2002 : pp.54-57.,この白書の中では,国内イ ンターネット利用者の定義として「満7歳以上で,一ヶ月に一回以上インターネットを利用する者」となっ ている。 4) 外務省,"世界のGDP及び1人当りGNI (99年) (http://www.mofa.go.jp/mofaj/area/ecodata/gdp.html)", 『外務省ホームページ(http://www.mofa.go.jp)』,参照日 2002.12.24. 5) 통계청(편). 2001 한국의 사회지표 . 대전 : 통계청, 2001 : p.149.

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出所:한국전산원(편). 2002 한국이터넷백서 . 서울 : 한국전산원, 2002 : p.56.    総務省編,『平成14年版情報通信白書』東京:株式会社ぎょうせい,2002年 : p.4.    上記資料に基づいて坂hがグラフを作成。 [図3-1] インターネット利用率の日韓比較 6) 6) 3.1.1.で述べた利用率と日本のデータが異なるのは,資料出典が異なる,すなわち算出方法が異なるため である。グラフは理解を助けるためのものとして,あくまでも参考として掲げた。

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PC保有世帯 PC非保有世帯 -計 100.0% 76.9% 全体世帯 82.3% 17.7% 23.1% 13.7% 63.2% インターネット可能 インターネット不可能 PC保有世帯 出所:한국전산원(편). 2002 한국이터넷백서 . 서울 : 한국전산원, 2002 : p.62.    財団法人インターネット協会監修,『インターネット白書2002』東京:株式会社インプレス,2002年 : p.39.    上記資料に基づいて坂hがグラフを作成。 [図3-2] 世帯でのコンピュータ保有率の日韓比較 出所:한국전산원(편). 2002 한국이터넷백서 . 서울 : 한국전산원, 2002 : p.62.    上記資料に基づいて坂hが翻訳および一部を抜粋。 [表3-1] 韓国・家庭でのインターネット環境(2001年12月)

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である7) 。詳細は[図3-3]を参照されたい。 これに対して,韓国ではどのような結果が出ているのかを示したのが[図3-4]である8) 。また,[表3-2]の年齢階層別の利用率も合わせて見ると,韓国でのインターネット利用の実態がより鮮明に見えてくる はずである。10∼19歳の利用者は,その多くがインターネットカフェでインターネットを利用しているのに 対し,20歳以上の層では学校・職場で主にインターネットを利用しているという結果が出ている。これは20 代では主に大学での利用,そして大学を卒業する25歳前後以降は職場での利用が中心になることを示してい ると考えられる。 さらにインターネットがどのような目的で使用されているか,というのも重要である。両国間で質問項目 に差があり,単純な比較は難しいが整理しておく。まず日本では, [表3-3]に見られるような活動が行わ れており,これを韓国の調査の項目に(少々無理があるが)当てはめたのが [表3-3]中の※の欄である。 この記号は5]に表した韓国統計庁の調査結果に振り分けた記号に対応している。また,この [図3-5]を年齢階層別に見たものが [表3-4]である。 [表3-3]と[図3-5]および[表3-4]をどのように見比 べればよいのかは難しい。しかし,少なくとも言えることは,日本では電子メールの利用が圧倒的に多いの に比べ,韓国ではゲーム・娯楽としてのインターネットの利用が盛んであるということである。その他,日 韓の間で項目の設定に差がありすぎるため,厳密な日韓比較は不可能であるが,本論文では韓国を対象とし ているため,日本にはあまり言及しないこととする。 さて,ここで[図3-5]を年齢階層別に詳しく見た[表 3-4]に目を向けると,下線が引いてあるように, 若年層や青年層でゲームやチャットの利用が非常に盛んであることが一目瞭然である。また,この調査では 「余暇活動」という項目があるが,これに該当する英訳が「Music, Movies」となっており9) ,恐らく高速 インターネットを利用したMP3などの音楽ファイルの交換や,映画のダウンロードやストリーミング再生を 指しているのであろう。合法か非合法かは別にして,若年層のこのようなインターネットの利用が,全体と しての割合に大きな影響を与えている。技術決定論のみに傾くのは非常に危険であるが,チャットやオンラ インゲーム,そして音楽や映画のダウンロードやストリーミング再生が可能になった背景には,後述する韓 国の高速インターネット網の急速な普及があることは間違いない。

3.2. 各分野における電子情報化の進展度

3.1.では,統計データを基礎として韓国と日本のインターネット利用の現況を,韓国に重点を置いて見て 7) 財団法人インターネット協会監修,『インターネット白書2002』東京:株式会社インプレス,2002年 : p.33. 8) ここで取り上げる調査では,インターネット利用者を「一週間に一時間以上利用する者」として定義して いる。 9) 통계청(편). 2001 정보화실태조사보고서 제1호 . 대전 : 통계청, 2001 : p.142.

(15)

5.4 4.3 2.5 2.6 1.1 1.0 1.3 3.3 2.0 2.1 1.1 1.7 1.1 1.5 2.0 4.9 14.0 33.5 41.8 34.0 10.6 2.9 2.2 3.3 17.4 17.1 27.0 45.1 47.2 44.0 50.9 27.0 79.7 75.2 66.2 52.7 64.0 72.6 62.5 71.3 100.0 100.0 100.0 100.0 100.0 100.0 100.0 100.0 2.5 1.6 25.1 36.3 64.9 100.0 6 ∼ 9 10∼14 15∼19 20∼29 30∼39 40∼49 50∼59 60歳以上 全国 その他 公共機関 カフェ 学校・職場 家庭 インターネット利用者(%) 出所:財団法人インターネット協会監修,『インターネット白書2002』東京:株式会社インプレス,2002年 : p.33. [図3-3] 日本・インターネット利用者の接続場所および利用機器別構成比(2002年) 出所:통계청(편). 2001 정보화실태조사보고서 제1호 . 대전 : 통계청, 2001 : p.26. [図3-4] 韓国・インターネット利用者の接続場所(重複回答) 出所:통계청(편). 2001 정보화실태조사보고서 제1호 . 대전 : 통계청, 2001 : p.26.    上記資料に基づいて坂hが翻訳および下線を付与。 [表3-2] 韓国・インターネット利用者の接続場所(重複回答)

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1.6 1.2 1.1 1.3 1.2 1.0 1.4 1.1 13.6 25.5 38.8 29.9 20.6 16.4 11.0 12.9 -1.4 23.4 37.9 39.5 45.1 20.1 0.0 0.2 1.8 10.0 20.4 21.0 18.3 19.2 9.9 29.8 33.8 17.3 6.5 3.9 2.3 2.6 1.2 25.9 19.8 10.0 17.5 55.7 3.4 4.0 53.9 52.2 96.2 85.8 67.2 46.7 38.0 34.7 33.8 35.3 -1.5 7.7 3.1 2.8 2.4 2.4 1.1 2.1 3.8 3.9 5.5 5.5 3.1 7.2 26.3 57.8 68.6 65.2 43.8 35.8 35.6 39.1 36.2 37.9 44.8 53.7 63.5 64.8 63.9 68.5 その他 余暇 活動 業務 遂行 予約 購入 チャ ット ゲーム 求職 活動 ネット 電話 電子 メール 情報 検索 100.0 100.0 100.0 100.0 100.0 100.0 100.0 100.0 100.0 6 ∼ 9 10∼14 15∼19 20∼29 30∼39 40∼49 50∼59 60歳以上 全国 インターネット利用者(%) 出所:통계청(편). 2001 정보화실태조사보고서 제1호 . 대전 : 통계청, 2001 : p142.    上記資料に基づいて坂hが翻訳,簡略化,抜粋および下線を付与。 [表3-4] 韓国・インターネット利用部門(重複回答)年齢階層別数値 出所:통계청(편). 2001 정보화실태조사보고서 제1호 . 대전 : 통계청, 2001 : p142.    上記資料に基づいて坂hが翻訳およびグラフ作成。 [図3-5] 韓国・インターネット利用部門(重複回答) j j a i a h g j a i g i g j a d h j i g h j a j a a a b 1.7 無回答 0.2 その他 1.4 有料記事検索等 1.6 カラオケ 3.1 3.5 有料コンテンツ  イーラーニング 4.3 金融商品取引 5.1 アダルト 5.8 有料情報配信サービス 5.8 電子書籍ダウンロード 6.8 バンキング 7.6 動画・音声等の配信 8.2 アンケート調査パネル 11.3 学術情報 11.9 転職・求人情報 12.1 占い 15.1 16.0 19.7 21.4 地方行政サービス オークション オンラインショッピング 24.1 仕事の情報収集 25.4 公募・懸賞 28.0 34.8 38.0 50.7 商品・サービス情報 フリーソフト 無料情報配信 ニュース・天気予報 53.8 生活情報 77.0 趣味の情報収集 音楽ダウンロード a 92.5% 電子メール ※ 利用率 サービス 出所:財団法人インターネット協会監修,『インターネット白書2002』東京:株式会社インプレス,2002年 : p.58.s    上記資料に基づいて坂hが表現を簡略化および韓国での調査の該当項目にカテゴライズ。 [表3-3] 日本・インターネット利用者の利用サービス(重複回答)

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きた。次に,この節では韓国においてどれほど電子情報化が進んでいるのかということについて,具体例を 挙げながら説明・分析することにする。 3.2.1. 政府・行政分野 第1章でも触れたように,韓国の電子情報化は国が率先して進めてきたという面があるため,当然ながら 政府・行政の各分野では電子情報化が進んでいると言える。これは日本でも行われている取り組みである が,「大韓民国電子政府( http://www.egov.go.kr)」からは様々な申請を行うことが可能で,各種データ のダウンロードサービスなども豊富である。このような国民・市民からの申請や請願のことを「民願(ミン ウォン・민원)」と呼ぶが,これをインターネットで行うことができ,かつ,進捗状況や処理状況も逐一 ウェッブサイトで確認できるのである。また,これは産業面とも関わってくるが,ダウンロード可能なファ イルの大部分はいわば国民的ソフトウェアである「アレアハングル(흔글)」形式であり,韓国人ならばほ ぼ誰もが活用できる状態になっている場合がほとんどである10) 。民願専用の掲示板が設置されている場合 も多く,インターネット上で各種の問い合わせや質疑に答えるシステムを採用している機関も多い。 また,韓国の国立国会図書館と国立中央図書館では,これまでの国会の議事録や,各種論文(これは民間 会社との契約関係に基づいているが),法令が大部分スキャンされ,画像データとして保存されている。現 在もその作業は進行中の模様であるが,利用者はこれらのデータをコンピュータのモニタで閲覧できるほ か,専用のプリペイドカードを購入すれば紙に印刷して持ち帰ることもできる。 最近の例としては,2002年末に行われた第16代大統領選挙では,各開票所に自動読み取り装置と,中央選 挙管理委員会へのホットラインが敷かれた11) 。また,中央選挙管理委員会からは各種メディアにリアルタ イムで得票数などのデータが転送され,テレビジョンなどの各種報道に実時間で反映された。これも政府や 行政が積極的に電子化に取り組んでいる一つの例と言うことができよう。 3.2.2. 民間・ビジネス分野 10) 「アレアハングル(흔글)」という統合(ワープロが中心)ソフトウェアは,韓国企業である「ハング ルとコンピュータ(한글과 컴퓨터)」社が制作したソフトウェアであり,日本で言うならば「ジャストシ ステム社」の「一太郎」がこれに当たるだろう。ただし,普及度の点で大きな差があり,アレアハングルは 韓国人のコンピュータ所有者ならばほぼ全員が持っているソフトウェアである。「マイクロソフト社」の 「ワード」がデファクトスタンダードとなっている中,韓国では未だにアレアハングルが国民的ソフトウェ アとして君臨し続けている理由の一つに,1990年代の経済危機がある。ワードを購入して外貨を浪費せず, 純国産ソフトウェアのアレアハングルを使おう,という運動が巻き起こったのである。ハングルとコン ピュータ社側でも,採算を度外視した(機能は限定されていたが)廉価版を発売したことによるところが大 きいと言える。 11) 韓国では選挙の投票は記名式ではなく,投票用紙には候補者名があらかじめ印刷されており,その候補 者名の左側の空欄に,記票ブースに設置された公式的な印鑑を押すことで投票を行う。そのため,日本より 開票の自動化を推進しやすかったという側面もある。[図3-7]を参照されたい。

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出所:대한민국, 대한민국정자정부 홈페이지(http://www.egov.go.kr) . [図3-6] 大韓民国電子政府トップページ(http://www.egov.go.kr) 出所:전라복도선거관리위원회, "선거의 발자취", 전라복도선거관리위원회(http://www.jbelection.go.kr) ,    上記資料に基づいて坂hが矢印および説明を付与。 [図3-7] 大統領選挙投票用紙(第15代選挙時のもの) この欄に, 定められた印鑑を押す

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近年では日本でもビジネス分野における電子情報化が盛んであり,韓国に追いついてきている感がある。 各業種ともウェッブサイトの設置や電子メールによる問い合わせなど,大企業を中心にして中小企業や,町 工場レベルの業種にいたるまで,ウェッブサイトの開設が盛んである。しかしながら,日本では更新が止 まっていたり,ウェッブサイトを開設しているにもかかわらず問い合わせは電話のみの応対だったりと,電 子情報化の意味がいまいち理解できていない会社も少なからず見受けられる。 また,韓国では各業種ともに画像を多用したウェッブサイトが多く見受けられる。韓国では高速インター ネット網が普及しているため,韓国のホームページは一般に動画や画像が多く,いわゆる「重たい」構造に なっている。また,掲示板などを設置して利用者からの意見を収斂しようという企業も多く,特にインター ネット上で商品を販売するサイトでは顕著である。韓国では,インターネットを一つのコミュニケーション チャネルとして捉え,企業‐個人間のコミュニケーションを企図している企業が多いと言えよう。 3.2.3. 教育分野 韓国の教育部,および韓国教育学術情報院では,1980 年代後半から1990年代初期までを「(情報化)拡散 期」,1990年代中盤からを「教育情報化期」と整理している。1970年代初期から軍事政権の下ですでに学校 でのコンピュータ教育が推進されてきたが,これは文民政権に政体が移行してからは「教育情報化」という 名の下に転換期を迎えることになる。 1993年4月,政府は国家レベルでの情報化の推進の意思を表明し, 「新情報通信政策方案」を打ち立てた。また,情報化関連基本法とも呼ぶべき「情報化促進基本法」が 1995 年に制定され,1996年1月1日から施行された。1996年4月には国務総理を委員長とする「情報化推進委員 会」が発足したのを受け,教育部内にも「教育情報化推進分科委員会」が設置されることとなった。 具体的な方策としては,1999年5月に高等学校の課程において一定水準の基礎的な情報教育を実施し,ま たこれを認定し,さらに大学入学時の内申資料として活用することを勧める制度として「学生情報素養認定 制」の施行計画が発表された。また,2000年2月には教育部が情報化教育強化方案を発表し,小学校一年生 からのコンピュータ教育を必須とし,先の「学生情報素養認定制」を中学校まで拡大適用する方針を明らか にした。また,同年3月には生涯教育関連法が公布されたが,遠隔(サイバー)教育に関する法的,制度的 根拠を含ませ,サイバー教育での学位認定などに関する内容も含ませた。同年6月には,CD-ROMなどの電 子著作物も教科書の範疇に含ませるなど,1990年代末からは積極的で急進的な政策が行われている12) 。サ イバー大学はすでに実際に存在し,学生募集を行っている。また,小学校一年生という初期段階からコン ピュータ教育を行っていることが,その目標を達成していることは,[表3-5]からも読みとれる。 また,大学そのものの電子化も日本に比べ非常に進んでいる。筆者が留学したソウル大学を例にとって紹 介すると,受講申請や兵役申請などはすべてインターネットのみで行うことができ,成績表もインターネッ 12) 교육부・한국교육학술정보원(편). 2000 교육정보화백서 . 서울 : 교육부・한국교육학술정보원, 2000 : pp.33-38.

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12.0 1.5 0.7 1.0 23.0 1.9 0.8 0.5 65.0 96.6 98.5 98.5 88.0 98.5 99.3 99.0 100.0 100.0 100.0 100.0 小学生 中学生 高校生 大学生 17.9 2.1 1.7 10.5 34.4 59.1 82.9 95.8 82.1 97.9 98.3 89.5 65.6 40.9 17.1 4.2 29.9 5.1 0.9 3.2 7.1 5.4 3.0 1.2 52.2 92.8 97.4 86.3 58.6 35.5 14.1 3.1 100.0 100.0 100.0 100.0 100.0 100.0 100.0 100.0 6 ∼ 9 10∼14 15∼19 20∼29 30∼39 40∼49 50∼59 60歳以上 6 歳以上 人口 (%) インターネット利用可能 インターネット利用不可能 コンピュータ 使用不可能 41.3 5.8 52.9 58.7 100.0 全国 コンピュータ 使用可能 出所:통계청(편). 2001 정보화실태조사보고서 제1호 . 대전 : 통계청, 2001 : p.56.    上記資料に基づいて坂hが翻訳,簡略化,抜粋および下線を付与。 [表3-5] 韓国・コンピュータ使用およびインターネット利用の可否

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トで見ることができた。また,教官によってはレポートの類は電子メールのみの受領というケースもあった し,また,講義中に紙の資料を配付するのではなく,あらかじめ 授業ごとの掲示板に資料がアップロードさ れ,それを各自がコンピュータにダウンロードするなり,印刷して見るなりする,といった形式も少なくな かった。インターネット上のチャットによって出張先からの講義を企図した教授もいたほどである。これら は高速インターネット網と,後述する文化的要因によって機能しているシステムであると言える。

3.3. 市民の視点から見た電子情報化の浸透(インフラ面)

前節では,大きく三分野に分けて,公式的な統計を利用しての電子情報化の進展度について分析を行って きた。換言すればマクロな分析は前節で済ませたと言うことができる。しかし,本論文は市民の視点に立っ た,いわばミクロな分析を企図しているゆえ,この節では数字には表れてこない,経験論的な観点から韓国 におけるインターネットの市民への普及や使われ方を紹介し,簡単に分析する。 3.3.1. インターネットカフェ(PC房・PC방) 韓国の市民へのインターネット普及を考える時,落とすことのできない要素がインターネットカフェであ る。本論文中でもこれまでインターネットカフェという単語を何回か使ってきたが,この単語はあくまでも 便宜的に使ってきただけであり,日本のインターネットカフェを想像してしまっては現実を見誤るおそれが ある。ここからは日本のインターネットカフェと区 別するために「PC房(ピーシーバン・ PC방)」と呼ぶ ことにする。 PC房は雑居ビルの一角でよく見られる業態であり,カフェ的な要素は全くなく,うす暗い空間に高速イ ンターネットに接続されたコンピュータがずらりと並んでいるのが一般的である。入口そばのカウンターに は,多数のコンピュータを制御するためのコンピュータが置かれており,料金の計算や客の管理を行ってい る。料金は一時間あたり1,000ウォン(約100円13) )程度で,追加料金を支払えば印刷も可能である。この ように家庭にコンピュータがなくとも,学校に通っていなくとも,ここに行けばインターネットを利用する ことができることが,韓国のインターネットの高い利用率につながっているのである。コンピュータの中に は各種チャットソフトやオンラインゲームソフト,また,ビジネス用のソフト(前述したアレアハングルな ど)がインストールされており,様々な用途でPC 房を利用することができるようになっている。大学生で レポートやスライドを作成している客もいれば,電子メールを利用している客もいる。しかしながら客の大 部分はチャットかオンラインゲームを利用する若者である。このことは, PC房でのインターネット利用に 限定した統計ではないが,[表 3-4]において 若年層がインターネットをチャットかオンラインゲーム目的 で利用していること,そして [表3-2] に見られるように,コンピュータの購買能力の低い若年層は PC房 13) 2000年12月26日のレート(1ウォン=0.1000円)に基づく。この章の他の部分も同様。

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(表中では「カフェ」と略記)でインターネットを利用していることの両者から裏付けることができる。そ してこの PC房という装置が,韓国市民のインターネット利用率の高さや韓国社会に大きな影響を与えてい る。このことに関しては第4章でもう一度触れる。 3.3.2. 電子メール(主にウェッブメール) 韓国では電子メール利用者の大部分が,各自のコンピュータにインストールされた電子メールソフトウェ アで送受信(これを「メーラーメール」と呼ぶことにする)せずに,インターネットのホームページ上で送 受信を行っている(「メーラーメール」と対比させて「ウェッブメール」と呼ぶことにする)。この要因と して,まず, 3.3.1で触れたPC房と大きな関係がある。メーラーメールを利用するためには,自分専用のコ ンピュータを所有している必要があり,自分専用のコンピュータを持っていない状況ではブラウザメールを 使うしかないという実情があるためである。また,ウェッブメールのサービス が3.4.4.で述べるオ ンライン コミュニティや検索エンジンなどと統合しており,非常に便利で無料で利用できるというのも挙げられる。 具体例としては, ダウム (Daum・다음=次の意)のハンメール(hanmail ・한메일 )サービスや,フリー チャル( Freechal)のサービスなどが挙げられる(後者は有料化されてしまい,現在ではいわば「フリー チャル離れ」現象が起こっている)。 3.3.3. 公衆インターネット 現在,著者本人が確認 しているだけで,韓国には大分して四種類の公衆電話機がある。最も古いものが 「硬貨専用」であり,その後,時代を下るに従って,「磁気カード専用」,「硬貨とICカード兼用で電話機 能のみ」,「硬貨とICカード兼用で多機能」と世に現れた。この中で最後に登場した最新式の公衆電話は, 通話はもちろんのこと,インターネット,電子メール14) ,そして,電話機の上部に設置されたカメラを利 用しての画像付き電子メールなど,公衆「電話」と呼ぶのが憚られるほどの多機能ぶりである。最新式の公 衆電話は,ソウルなどの大都市の主要施設(空港,駅,ショッピングビルなど)に設 置されており, PC房 が街中いたる所にある韓国では,「どこでも電子メールを確認したい」という欲求が高いため,このような 設備が設置されていると考えられる。また,付け加えるならば, PC房と公衆インターネットがまず普及し てしまったがために,携帯電話による電子メール送受信サービスやウェッブ閲覧サービスに関してはやや出 14) 3.2.2.で触れたウェッブメールが一般的であるがために,このような形式での公衆インターネットが可能 なのである。実際,この公衆電話で電子メールを確認しようとする場合,据え付けられた液晶画面にウェッ ブメールの種類を選択する画面が登場する。利用者はその中から自分が利用している(確認したい)ウェッ ブメールのサービスを選択し,IDとパスワードを入力して閲覧する。

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出所:한국전산원(편). 2002 한국이터넷백서 . 서울 : 한국전산원, 2002 : p.154.    上記資料に基づいて坂hが翻訳。 [表3-6] 韓国・無線(携帯電話)インターネットの利用状況(2001年12月末現在) 合計 LGテレコム KTF SKテレコム 29,046 23,874 82% 92% 3,945 4,276 9,591 9,429 98% 69% 10,500 15,179 無線インターネット加入者比率 無線インターネット加入者数 携帯電話加入者数 区分 単位:1,000人 出所:한국전산원(편). 2002 한국이터넷백서 . 서울 : 한국전산원, 2002 : p.154.    통계청(편). 2001 한국의 사회지표 . 대전 : 통계청, 2001 : p.91.    上記資料に基づいて坂hが翻訳,計算および作成。 [図3-8] 韓国・無線(携帯電話)インターネットの加入者割合 (2001年12月現在,総人口は2000年センサスに基づく2001年年央推計値)

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遅れてしまったのである15) 。 また,長距離バスターミナルや国鉄の大きな駅には,ミニ PC房とも呼ぶべき施設が設置されていること がある。コンピュータが数台から数十台設置されており,コンピュータに取り付けられた硬貨投入口から硬 貨を入れると,10∼20分程度インターネットを利用できる。 さらに,地下鉄の駅で無料電話兼無料インターネット装置を目にすることもできる。[図3-9] がその一 例である。 接続前に流れる広告収入や,電話接続時の呼び出し音の代わりに広告メッセージを流すことに よって利益を上げているものと思われるが,ここまでくると,まさに「韓国,至る所にPC 房あり」といっ た感がある。

3.4. 市民の視点から見た電子情報化の浸透(コンテンツ面)

前節では,おもにインフラストラクチャーを中心にして,市民の視点に立った 経験論的な説明を行った。 次に,この節では市民という視点から見た場合,より重要と思われるコンテンツ面,すなわち,韓国の「イ ンターネット文化」を語る上で特に重要なものに関して一旦整理をしておく。第1項から第3項までの詳細 に関しては第5章で,第4項までを含めた内容は第6章で詳しく分析するため,ここでの整理は簡潔なもの に留める。 3.4.1. オンラインゲーム これまで掲げてきた [図3-5] ,[表3-4] や3.3.1.からも分かるように,若年層を中心にしてインター ネット利用者の半数以上がオンラインゲームを利用している。高速インターネット網が普及する以前は文字 によるロールプレイング型のゲームが中心であったが,高速インターネット網が普及してからはグラフィッ クを多用したものが中心となっている。現在普及しているオンラインゲームでは仮想空間の中でのプレイ ヤー同士の接触が多いのが特徴である。企業と年俸制で契約を結ぶプロが存在したり,一日中ゲームの進行 を実況・解説付きで放送するケーブルテレビのチャンネルがあったり,ま た,2001年末にはソウルでオンラ インゲームの世界大会が行われるほど,特に男性を中心にして普及・一般化している。 3.4.2. オンラインチャット 回線が高速で反応も早いため,文字によるチャットをストレスを感じずに行うことができる。また,オン ラインチャットにはメッセンジャーなどの専用ソフトウェアを利用する場合と,ウェブ上で行われる場合が 15) 現在では携帯電話端末から無線でインターネットを利用する人数が増えつつある。詳細は[表3-6]およ び[図3-8]を参照されたい。なお,この場合でも公衆インターネットの場合と同じように,各携帯端末に 電子メールアドレスが付与されるのではなく,ウェッブメールにのサイトに接続して電子メールを確認する ことになる。

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2002.8.17.,プサン(釜山・부산)市地下鉄の駅にて,坂h写す

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ある。ハングルキーボードのキー配列が合理的で,入力速度が速いのも普及や利用度の高さの一助になって いる。また,コンピュータに接続されたカメラを通じて行う画像チャットや,ヘッドセットを利用した音声 チャットなども一般的である。 ソウルに本社がを持つ企業が地方の学生と画像チャットで面接試験を行ったり,遠距離恋愛中の恋人同が 音声チャットをするなど,一般市民への浸透度は非常に高いといえる。しかしながら,マイナス面として 「援助交際」や「ナンパ(俗称:ポンゲティング・번개팅 =稲妻+ ing)」のために利用されることも多 く,若年層の性文化に影響を与えるものとして問題視される場合もある16) 。 3.4.3. アンチサイト また,「アンチサイト( anti-site)」は,文字通り何らかの団体や会社,または個人(芸能人や有名人) に反対する目的で作られたウェッブサイトであり,これらがそれなりのページビューを達成していることも 韓国インターネット文化の特徴であると言える。有名なものでは,韓国を代表する新聞の朝鮮日報に対して 批判を 加える「我々すべて(ウリモドゥ・ 우리모두)」[図3-10] や「朝鮮日報反対市民連帯(チョソン イルボパンデシミンヨンデ・조선일보반대시민연대)」 [図3-11] などがある。特に前者はサイト訪問者 が200万人を超える韓国で最も有名な「インターネットアンチ朝鮮コミュニティー」のひとつである。  しかし,「アンチ」というコンセプトに匿名性と開放性が加わり,悪意に満ちた発言が並んだり,個人 を攻撃するような発言がなされる場合もあり,管理をする者の力量と,参加するものの自制が問われること になる。 3.4.4. コミュニティやサイバー共同体 3.3.2.でも触れたが,ダウムな どの総合ポータルサイトは,ホットメール( Hotmail)や(Yahoo!)同様, そのコンテンツとして電子メール機能やメッセンジャー(チャット)機能はもちろんのこと,オンラインコ ミュニティ(ダウムでは「カフェ」と呼ばれている)を作る機能を持っている。ここでは資料やスケジュー ルの共有,掲示板などの機能が利用可能で,実世界に存在する共同体(学科,同好会など)がインターネッ ト上にオンラインコミュニティを設置する場合もあれば,実世界には存在せず,インターネット上にオンラ インコミュニティのみ存在する共同体(サイバー共同体)も少なからず存在する。 また,これらのサーヴィスを利用せず,独自にウェブサイトを立ち上げてサイバー共同体を構成すること も多い。 16) 조성관(기자). "10대의 性 : 문란인가 자유로움인가". 주간조선 . 2001.8.23, pp18-23. 서울 : 조선일보사.

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出所:우리모두, 인터넷 안티조선 커뮤니티 : 우리모두 홈페이지 (http://www.urimodu.com) , 참조일 2002.12.28.    矢印と一部拡大は坂hが加工。

[図3-10] インターネットアンチ朝鮮コミュニティ「我々すべて(ウリモドゥ・우리모두)」

出所:조선일보반대시민연대, 조선일보반대시민연대 홈페이지 (http://www.antichosun.or.kr) , 참조일 2002.12.28.

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. 政府による電子情報化推進

ここまでは,韓国における電子情報化,特にインターネットに範囲を絞って,その特徴と現状についての 説明と簡単な分析を行ってきた。では,ここで話の本筋からやや離れるが,なぜ韓国にこれほどに高速イン ターネットが普及したのか,という疑問に対して,政策的,社会的な見地から説明してみたい。 現代の状況の契機となった韓国政府としての誘導は, 1995年,キム・ヨンサム(김영삼・金泳三)政権下 で制定された「情報化促進基本法」に始まるといってよいであろう。政府はこの基本法に基づいて「情報化 促進基本計画」を促進した。この時期に基本法が制定された背景には,アメリカ合衆国がクリントン政権の 元で「NII (National Information Infrastructure)」および「GII (Global Information Infrastructure)」を打ち 出したことがあると考えられる1) 。また,1999年3月にはキム・デジュン政権下で,創造的知識基盤国家を 作り出すための国家情報化ビジョンとして「Cyber Korea 21」を打ち出すが,この核心となるものとして, インターネットの活性化を掲げ,これを実現させるための多様な政策が施行された2) 。具体的には費用の低 廉化,転送速度の高速化,また,インターネットを基盤とした付加価値の高い産業の育成などを行ったので ある。 ただし,韓国の現在の高速インターネット分野の成功は偶然の重なり合いに過ぎなかったという見解もあ る。以下,その見解を引用して紹介する。 (前略)なぜ韓国で,ここまでブロードバンドが普及したのだろうか。実は,韓国のプロードバンド の普及状況を最初から予測したり,計画し,推進したりしてきた人は誰もいない。政府の積極政策が 奏功したという説もあるが,それは急速に進行した現実を後から説明したものにすぎない。 基本的には偶然の産物である。韓国でのインターネットとプロードバンドの急遠な普及過程では,互 いに独立した複数の要因が連鎖的に働き,いわゆるポジティブスパイラルが働いたとみられる。(中 略)当時の金泳三大統領がKII (Korea Information Infrastructure) 構想を唱え,政府がインフラ構築政 策を積極的に推進し, 1995年から 97年頃まで光ファイバーによる高速通信幹線が全国に敷設されて いった。その 1997年に,まったく想定していなかった 未曾有の経済危機が突如起こった緒果,この高 速インフラは大幅な供給過剰 となる。ちょうどその頃, 通信市場には本格的な競争が導入 された。こ のため, 需要に対して過剰となった供給は競争の激化を招き,料金の大幅な低下 につながった。(中 略)専用回線の料金が低かったことが高速サービスの普及を助けた。これは供給過剰という,経済危 機による予期せぬ結果のおかげである。ただし,政府のベンチャー育成策などの政策も一定の貢献は 果たした。 1) 財団法人インターネット協会監修,『インターネット白書2002』東京:株式会社インプレス,2002年 : p.236. 2) 한국전산원(편). 2001 한국이터넷백서 . 용인 : 한국전산원, 2001 : p.70.

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よく知られているように,韓国でのインターネットの急増の嚆矢となったのは,「 PC房」(イン ターネットカフェ)だ。(中略) PC房は, 経済危機による失業者が仕方なく始めたというのが実態 で,やってみたところ若者が多く集まり,経営が順調にいったのをみて,多くの人がこれに続いた 。 当初,PC房はゲームセンターとして人気が出た。(中略)オンラインゲームはレスポンスが速くない と面白くないので, PC房は客を集めるために軒並み 1.5∼2Mbpsの高速専用線を導入し、PC 房はいわ は高速回線のショールームの役を果たした。この PC房によって街頭で高速サービスの魅力を実感した 利用者は,自宅にもADSLやケーブルインターネットなどの高速回線サービスを抵抗なく導入していっ た。 韓国では人口の 4割以上が高層団地に住んでいる。その団地内の回線は基本的にコリアテレコム (KT)の所有・管理下になかったため,ADSLを提供する際にもKTの許可を得る必要がなかった。(中 略)韓国では,通信会社に抵抗の余地はなく,団地の自治会やデベロッパーの承認をとって,構内交 換機にADSL用モデムを接続するだけで済んだ。(後略)3) 確かに1997年の通貨危機以降,韓国は復興(「第二の建国」と呼ばれた)のためのテコ入れ策として,国 全体の情報化と情報産業の育成に尽力してきた。また,いわゆるベンチャー企業に対する援助も行ってき た。そして,人口が首都ソウルに密集しており,高層マンション居住者が多いために,高速インターネット 網を敷設しやすかった点(人口稠密地域に高速インターネットを整備すれば,統計上利用人口は大幅に増加 する)や,経済危機で生じた失業者が自営業として PC房を始めたというのも,妥当な指摘である。新聞広 告にチキンやピザの代理店募集広告と並んで,大手 PC房チェーンの代理店広告が並ぶのが実態である。な るほど,「偶然の産物」と呼べるかも知れない。 しかしながら,国や政府の電子情報化,すなわち高速インターネット網の普及と活用に対する努力は捨象 することができないであろう。それは「国際社会から認められる先進国づくり」の一環であるかも知れない が,新技術を経済復興のために躊躇なく導入する挑戦的な姿勢は評価されるべきものである。例えば,携帯 電話の規格である IMT-2000も最初に導入した国は韓国であった。運良く結果的に成功したので問題はな かったのだが,冷静に見れば韓国は「新技術の実験場」だったのだ。通貨危機・経済危機に陥った国家の復 活と,先進国入りに挙国体制で臨む韓国の底力は以て知るべしである。参考までに,韓国 が2001年までに整 備したインターネット関連法のリスト(韓国語)を[表4-1]に示す。 3) 財団法人インターネット協会監修,『インターネット白書2002』東京:株式会社インプレス,2002年: pp.236-237.,坂hが適宜改行部分の変更,読点のカンマへの変更などを行った。なお,下線は坂h。

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出所:한국전산원(편). 2002 한국이터넷백서 . 서울 : 한국전산원, 2002 : p.223.

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5

. 市民に浸透した電子情報化

第3章第4節では,市民の視点から見た場合に重要と思われるコンテンツ面(韓国の「インターネット文 化」を語る上で特に重要なもの)に関して簡単な整理を行った。ここでは,その浸透過程や現状,問題点や 意識構造を分析し,展望を述べたい。

5.1. オンラインゲーム

5.1.1. オンラインゲームの始祖 そもそもオンラインゲームは,インターネット の前身と言えるARPANETの技術者らが時間つぶしのため に文字中心のゲームを作ったのが始まりとされる。本格的なオンラインゲームが市場に姿を見せるのは 1980 年のことであり,それは1977年にある高校生が学校の宿題で制作した「ウルティマ」というゲームであった 1) 。現在では実に多様なゲームが市場に出回っているが,中心となっているのは対戦型,またはロールプレ イング型のゲームである。 5.1.2. オンラインゲームの諸相 オンラインゲームといっても様々な種類がある。伝統的なトランプゲームもあれば,ロールプレイング型 のゲームもある。特に後者は個人でプレイ,もしくは個人同士で対戦するというよりも,仮想の共同体を構 成するゲームであったり,その場合が多いのが韓国の特徴であると言える。その結果, 3.4.1.で述べたよう に仮想空間の中でのプレイヤー同士の接触は必然的に多くなり,参加者間のコミュニケーションも豊かにな る。文化的な影響も大きく,企業と年俸制で契約を結ぶプロが存在したり,一日中ゲームの進行を実況・解 説付きで放送するケーブルテレビのチャンネルが存在する。 例えば2001年に流行した「リニッジ( Lineage,血盟・血統の意)」というゲームの中では,各々のプレ イヤーは仮想の共同体組織を構成し,魔法使いや騎士など役割を決め,それぞれの容貌を決めて参加する。 逆に言えば,リニッジというタイトルにふさわしく,またゲームの設定上,ゲームへの参加者は役割や階 級,中央集権を特徴とした封建主義的な仮想の社会システムの中に組み込まれることが要求されるのであ る。 しかし,オンラインゲームで興味深いことは,他の仮想社会および現実社会との関係性である。例えば, 上段で挙げたリニッジにおいて,ピラミッド状の仮想共同体の「長」を務めるプレイヤーは,オンライン ゲームから離れても自分の「家臣」のためにインターネット上でコミュニティを運営して親睦を図ったりす 1) 조동기・김병준・조회경. 연구보고 01-39 사이버문화의 특성과 사회적 영향 . 과천 : 정보통신정책연구 원, 2001 : p.83.

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る2) 。また,特にゲーム上のイベントとして設定(プログラム)されていないにも関わらず,客を集めてオ ンライン結婚(ゲームの世界だけにおける仮想の結婚)をしたりする例も見られ,ゲームに参加してるとい うよりも,インターネットという別の世界で別の「生」を生きている感すらある。  また,次の話はリニッジから離れるが,ゲームで使われるアイテムはゲーム内で奪取したり,譲り受けた りして入手するほか,実際の貨幣で購入する場合もあるという。オンラインゲームのアイテム専用の売買掲 示板までも存在するということである。価格も決して安いものではなく, 40万ウォン(約4万円)台に始ま り,中にはゲームの中で劇的な効果を示すものに関しては 200万ウォン(約 20万円)の売り値が付けられる こともある3) 。これを利用して金儲けをたくらむ者もおり,中にはこのゲームアイテムを売ることを専門と し,一年間に2,000万ウォン(約200万円)以上の収益をあげる者もいる4) 。当然のことながら,アイテムの 現実空間での取り引きにおいて詐欺などの事件が頻発しており,果たしてオンラインゲームのアイテムが財 産として認められるのか否かが問題になったことがある。各オンラインゲーム事業者はアイテムの著作権を 主張し,オンラインゲーム中のアイテムは財産になり得ず,また詐欺やゆすりなどの行為が社会に悪影響を 与えるとしてアイテム取り引きを禁止する条項をオンラインゲームの約款に入れるなどの措置を行った。 ゲーム利用者と事業者の間で議論が交わされたが,結局は公正取引委員会の判断によって,約款にアイテム 取り引き禁止条項を入れることは問題ないとの判断が出された5) 。 いずれにせよ,ゲームの場以外でもコミュニティを形成したり,現実空間に存在する貨幣で仮想空間に存 在するアイテムを取り引きする,など現実空間と仮想空間の間をいわば「またぐ」事例が観察されるのが興 味深い。 5.1.3. オンラインゲームの中毒性 オンラインゲームは,深刻な社会問題になっているインターネット中毒の原因として挙げられることが多 い。実際,ゲームを数日間プレイし続けた結果,死に至った事例もしばしばに耳にする。 [表5-1]は様々 なゲームの利用者を対象に調査されたものであるが,オンラインゲームを利用する当事者もいわゆる「ハマ りやすさ」を認識していることが分かる。前述したようなシステムを備えたオンラインゲームに魅力を感じ 2) 위의 책 : pp.84-86. 3) 2000年12月26日のレート(1ウォン=0.1000円)に基づく。この章の他の部分も同様。 4) 박현주・이기영・이시은 외4인. "온라인 게임과 아이템". 서울대학교 2001년 제2학기 강의 "정보사회와 사 이버윤리" (담당 정원섭)에 있어서의 발표문, 2001. 5) 공정거래위원회, "사건번호 : 2000약제0995, 사건명 : (주)엔씨소프트의 "리니지"게임이용약관상 불공정 약관조항에 대한 건, 의결일자 : 2000/10/07 (http://ftc.go.kr/data/hwp/case/20001021_2440.hwp)", 공정거래위원 홈페이지 (http://www.ftc.go.kr) , 참조일 2002.12.28., 및 공정거래위원회, "사건번호 : 2000약제0996, 사건명 : (주)넥슨의 '바람의 나라, 어둠의 전설' 등 게임이용약 관상 불공정 약관조항에 대한 건, 의결일자 : 2000/10/07 (http://ftc.go.kr/data/hwp/case/20001021_2439.hwp)", 공 거래위원회 홈페이지 (http://www.ftc.go.kr) , 참조일 2002.12.28.

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2.6 13.2 15.8 18.4 50.0 49.3 24.3 18.9 6.1 1.4 2.7 23.2 23.2 24.1 26.8 3.2 16.9 21.0 28.1 30.8 2.0 11.1 20.6 22.2 44.1 モバイル ゲーム ビデオ ゲーム オンライン ゲーム PCゲーム アーケード ゲーム 非常に中毒になっている 多少中毒になっている 中毒になっているかも知れない 別に中毒になっていない 全く中毒になっていない 中毒性区分 出所:조동기・김병준・조회경. 연구보고 01-39 사이버문화의 특성과 사회적 영향 . 과천 : 정보통신정책연구원, 2001 : p.86. 原典:게임종합지원센터. 2001 대한민국 게임백서 , 2001.    上記資料に基づいて坂hが翻訳,および下線を付与。 [表5-1] ゲーム中毒に対する利用者の意識

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